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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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えーっと。

今年が終わるまであと二ヶ月、か。
毎週本編を更新しないと全く間に合わないね!(どかーん)

それか、年末の休みに入ったら毎日更新するとかね★(ぼこーん)

 馬車から降りたアロスを待っていたのは、上品な佇まいの女性達だ。皆、笑顔を浮かべてアロスに一礼する。
 ただ、作り物のような義務的な笑顔だ。アロスは直ぐにその表情に疑問を持った。だが、言葉を発する事が出来ないので自分も同じ様に礼をする。
 傍らにやってきた男が、しゃがみこんでアロスと視線を合わせると語り出す。約二ヶ月共に旅してきたあの下賤な男達とは違い、その場にいる者達は一定の教養を受けている者達である。

「アロス様、こちらの女達は船旅の最中、及び目的地まで世話係としてお仕えさせて頂く女達です。皆、貴族の娘達でしたのである程度の作法は心得ております」

 アロスよりも年上のその女性達。”貴族の娘達でした”と、過去形ということは現在は違うということだ。アロスは、首を小さく傾げた。では、今はなんなのだろう。
 誘われて、アロスは暖かな船室の一等級の部屋へ案内された。思わず瞳を丸くする、口を開けて小走りに室内に飛び込んだ。ソファの上に1つ、大きなクマのぬいぐるみが置いてあるのだが、しげしげとそれを見つめる。恐る恐る両手で持ち上げた、アロスの背丈の半分程度のそのぬいぐるみの重さを知っている。

「アロス様に用意されたものだそうですよ、とても可愛らしいですね」

 同じだった、アロスが父に買って貰ったぬいぐるみと同じ物だった。屋敷にいた頃は、寝るときも一緒だったクマである。新品なので、自分の物ではなかった。顔も若干違うが手作りなので同じであるはずがない、それでも作り手は同じ筈だ。そのクマのぬいぐるみには、背中にタグが入っている。アロスはそれを指先で摘み、見つめた。
 老舗のクマのぬいぐるみのみを販売する、店のタグがついている。
 間違いなく、アロスを知っている人物が用意したのだろう。アロスは唇を噛締めると、力一杯ぬいぐるみを抱き締めていた。
 二ヶ月前、父と訪れた先で誘拐されてからアロスは浅い眠りを繰り返していた。目の前で見知った顔が殺害された、低く、しわがれた下卑た男達の笑い声を聞き続けていた。
 だが、何故か酷く恐れる事はなかった。それは、オルトールが居たからだ。特に会話をしたわけではないが、彼は安心できる人物だと直様アロスは悟っていた。それこそ、紳士的な男であると。
 確かに、アロスは無事に1つの旅を終えた。だが、アロスを護っていたオルトールは去った。
 次は、どうなるのだろう。

「アロス様、ほら、絵本ですよ」
「こちらはどうですか? 街で人気の香ですわ、ほら、なんて素敵な花の香り!」

 貴族だった女性達が、こぞってアロスに群がる。甘い菓子に引き寄せられる蟻の如く、何かおこぼれを期待するかのように作られた笑顔で気を惹こうと皆必死だった。

「アロス様、到着しても私達が気に入ったのならば一緒にお連れ下さいね」

 そんなことを口々に皆呟く。アロスは、ぬいぐるみを抱き締めながら静かに、息を吐いた。大きく、吸い込んだ。一旦止めて、再びゆっくりと吐き出す。
 そうして、唇を噛締めてから女性達の瞳を真正面から見つめた。
……泣いてる……?
 アロスの唇が、そう動く。女性達はにこやかに、麗しい笑顔を振りまいた。流行の化粧は厚めだった、見れば似合っていない。衣服も一見高級な布地に見えて、薄汚れたものだった。
 この女達、確かに貴族だったが両親を流行り病で失ったり、農民達の反乱で潰されたりした、身分ありながらも奴隷に落ちた女達だった。売り飛ばされ、泣く泣く皆身体を売ったり、必死に命だけは繋いできた。
 今回、以前華やかな暮らしをしていて話も合うだろうとアロスの為に集められた。もし、この正真正銘の貴族の娘であるアロスと親しくなっておけば、恩を売っておけば。以前の地獄のような生活から抜け出し、女官であったとしても煌びやかな屋敷で働く事が出来るのではないか……そう考えている。
 だが、女達とてアロスが闇市で競売にかけられることなど、知らなかった。
『高名な貴族の娘の世話係募集』
 としか、聴いていない。故に、アロスが売られた先での扱いなどこの場に居る女達は知る良しもない。
 皆必死だ。もう、身体中から異臭のする男達の相手など、したくなかった。寒い薄布を纏い、夜の街で客引きをするのもうんざりだ。以前自分の居た屋敷で働いていた庭師から、笑いながら指を指される苦渋など要らない。
 少しでも、以前の生活へ。
 両親さえ事故で亡くさなければこんなことにはならなかったのに。税を上げて金をせしめなければ農民達の怒りを買うこともなかったのに。不作の歳に神への生贄として高貴な血を、と言われて逃げ出さなければこんなことにはならなかったのに。
 羨ましい、美しい貴族の娘。あぁ、この子になれなくとも、この子の傍で甘い汁を吸いたい。
 アロスは、自分に媚びてくる女達に哀しそうに瞳を伏せる。それでも、彼女達は泣いていた。泣いていることが解ったので、アロスは自分に出来ることをしようと思った。以前の生活など知らないが、共に居て、共に遊ぶ事なら出来た。
 その一方で、何故自分が攫われたのか、誰が攫ったのかを考え込んだ。
 そして、どうなるのかをも、考えた。
 アロスの持っていたクマのぬいぐるみを知っている人物など、限られてくる。数えて一握りだ。
 ただ、何故かしらそこまで怖くはなかった。この先に何が待っているのか解らないが、時折、胸が震えた。
 行かなければならないと、何処かで声がするのだ。

 船は出港し、アロスは日々をその船の一室で過ごした。部屋の外に出ることは許されず、馬車と同じ様に窮屈でしかない。まだ、馬車のほうが愉しかった、この部屋には窓がないので景色が見えない。
 何度も絵本を読み、女達と菓子を食べ、眠くなったら眠る。ドレスを何度着替えても、宝石を何度見つめても、香水を何度振りまいても、何れは飽きる。女達が大きな欠伸をしながら丸くなり眠ると、決まってアロスは彼女達の頭を撫でた。
 酷く、可哀想に思えて撫でた。そうすると、女達は何故か涙を流すのだ。
 頭を撫でながら、アロスは絵本を開いた。もう、何度か読み直しているので暗記してしまった。
全ては大地に還りたもう 

悠久なる水の流れを受け止めて
荘厳なる風の音色を響かせて
永久なる光の波を浴びながら
情熱の火で命を呼び起こす

耳を澄まして大地に寄り添う
「ここにいるよ」と声をかければ
応えるは大地の産声

手折られ傷つき倒れても
芽吹く命は耐えることなく
大地の真下で懸命に耐え
凍土 嵐風 刺光 爆熱
何が来ても只管耐え忍ぶ

瞳を閉じて大地に寄り添う
「ここにいるよ」と声をかければ
応えるは大地の咆哮

全ては大地に還りたもう
「私はここにいます」と声をかけた
出ておいで、怖がらずに出ておいで
最初で最後の楽園を

応えるは大地の叫び』

 意味は解らなかったが、妙に言葉が馴染んだのでアロスはその言葉を通りに口を動かす。声は出ないが、船の中でアロスはその絵本を握りしめて、何度も読んだ。

 二週間かけて、船が港に到着した。
 新しい土地の香りなど、アロスには体感する余裕もなく。慌しく馬車に乗せられ、そのまま何処かへか運ばれていく。
 港町から、二日程度にある商業盛んな街・カルヴェー。無論アロスはそのような街は知らなかったが、馬車の小窓からこっそり外を覗けば、まるで祭りの様に人々が行き交っている。非常に華やかな街だった、活気に満ち溢れている。
 暫くして、馬車が停車する。男が数人馬車に乗り込んできたかと思えば、担がれてそのまま室内に運ばれた。
 高級宿の一角に、VIP専用の入口があった。そこに停車する馬車は一般市民から見れば雲の上の者達の所有物である。人々は、また金持ちがやってきた、と口々に囁いた。
 何ども最近同じ様な光景を見ている人々は、大きなパーティでもあるのだろうと思っていた。
 厨房の勝手口にも、慌しく何台もの馬車が停車している。多くの食材を運び込んでいるのだろう、と。
 アロスが通された室内は、やはり上等な一室である。ただ、深紅の壁に、家具は漆黒で目に痛い。置かれている家具の素材などは、普段良いものを見ているアロスから見ても、一級品だった。ソツがない。
 だが、趣味が良くない。
 アロスは直様、湯浴みが整ったと衣服を脱がされ身体を洗われた。良い香りのする石鹸で丁寧に洗われ、ふわふわの布で身体を拭かれ、仕上げにジャスミンの香を足首に首筋、手首に少量。
 衣服はレースをふんだんにあしらった純白のドレスだった、その美しい形にアロスは思わず瞳を開く。
 一見、花嫁衣裳にも見えるがそんなこと、アロスは知らなかった。
 準備が整い、室内で出された茶を飲んでいたアロスと女達だが、突如入ってきた男達に思わず悲鳴を上げる。
 皆、仮面をしていた。仮装パーティさながらの派手な仮面やら、何の変哲もない漆黒の仮面、様々である。
 無言でアロスを持ち上げると、そのまま何事もなかったかのように部屋から連れ出した。
 女達も不安そうについていく、ここが何かなどまだ知らない。
 やがて、人々の喧騒が聴こえてきた。盛り上がっているようだった、笑い声が甲高い。
 質素な何もない部屋に、ぽつんと置き去りにされたアロスと女達は、その薄すぎる壁から聞こえる異様な盛り上がりの声に違和感を感じた。不安がって知らず皆が寄り添う。

 アロス達の居る部屋の直ぐ隣、大広間では前日から宿が壊れるのではないかというくらいの大騒ぎだ。
 大きな1つのステージ台に注目しながら、ワインを啜る男。テーブルに並べられる高級食材を片っ端から食べ続けている、男。大きなセンスを仰いで、踏ん反り返っている女。部屋の隅で、男女が何人か乱交を始めている。
 皆、仮面をつけており誰かがわからない。だからこそ、全裸になって歩き回っても、酒を浴びるように呑んでも、痴態を見られようがお構いなしだ。
 背格好と、髪の色に声色で大体誰かは検討が着くのだろうが、散策するのはヤボである。それがこの場に居る者達の暗黙の了解だった。その場に居る者が誰であろうが、関係ない。本能の赴くままに行動する……その為に皆参加している。

「では、作品番号三十七番! 遠く海を渡った黄金の土地に住まう種族の秘法・黄金塊の落札者様はこちらの方に決まりました~!」

 ステージ台では、1人の仮面女が満足そうに立っていた。傍らに、重そうな黄金の塊を携えている。今し方、この女が大金で競り落としたのだ。ふくよかな肉体と、金髪から皆ある程度”某国の女王”だと気付いていたが、拍手で喝采する。

「今回も特に目新しいものはないな、つまらん」
「ですが、そろそろ出るはずですよ? 今回の目玉が」
「目玉?」

 ワインを片隅で呑んでいた男が、傍らでそう呟いた男に聞き返していた。周囲の醜態など気にせず、ワインと一つまみのチーズで、ちびちび今回の競売を観ていた。
 年に2回開催される闇市競売。数年前から開催され、退屈な貴族や王族の遊び場になっていた。売られている物は、珍しい金品から、動物、それに美しい人間、醜い人間。競り落としたら、どう扱っても構わない。それこそ、人間ならば殺そうが自由だ。
 参加費用も高額だが、飛び交う金など目が飛び出る。
 ただこの場に居座って、何も購入せずに去るもの達も少なくはない。
 見ているのが、滑稽で愉快だから、という理由で訪れている者達もいるわけだ。
 
「えぇ、噂ですが、海の向こうの貴族の娘が出るそうです」
「ほぉ?」

 気の抜けた返事をした男は、肩を竦めた。大したことはないだろう、だからどうしたとばかりに。

「それが、絶世の美少女だそうで。彼女を競り落とせば、それこそ今晩はお楽しみが」
「お盛んなことで」

 女など、掃いて捨てるほどいる。わざわざ大金を積んで買うものではない。男は床に唾を吐き、ワインを飲み干した。

「皆様方、今回の競売最終商品に御座います! さぁさ御覧あれ、世にも美しいまるで妖精の映し鏡! 大きな深い緑の瞳に貴方を映してみませんか? 若葉を連想させる柔らかで艶やかな髪に、指を通してみませんか? まだ男など知らない正真正銘の生娘、清らかな乙女をその手で穢してみませんかー!
 商品番号・三十八番。生きるお人形アロスちゃんです! ……あ、お1つご忠告をば。声は出ません」




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