別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
×
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綾鷹たんのついったアイコン用に描いたトビィお兄様。
トビィ来る
ピクニック・最期の晩餐的な
~ ロシファ死亡
~ 戦闘開始
~ 勇者達他到着
~130 第二章へ。
目指せ年内完結(という、意気込み)
・外伝1 ベルーガまで進めてOK
・外伝5 開始
・裏 トレベレス×アリア
よーやく今回、トビィお兄様参戦です!
やったー! やったよ、私(号泣)。
「それで、アイセルとは何処まで進んだの?」
「何処まで? 奴は奴、私は私だ。何も進んでいない、変わっていない」
「あらやだ、てっきり身体の関係があったのかと」
「あるわけないだろう」
むすっとした表情でスリザは顔を上げた、つまらなそうにティーカップの中のハーブティをスプーンでかき混ぜているホーチミンを睨みつける。
「つまんなーい、せっかくこうしてスリザと2人きりでお茶してるんだから、愉しい事聴けると思ったのに」
「結婚するまで、手は出さないのだそうだ。ふふ、思いの外奴は紳士的だろう?」
「は?」
不貞腐れ、そっぽを向いたホーチミンに軽く笑うと、何故か表情を緩めて珈琲を口にしながら頬を赤らめたスリザ。その言葉にホーチミンが怪訝な瞳を向ける。
「いい加減な奴だと思うだろ? それが意外と、心が通っていてな。父上に逢う為に作法も習いに行くそうだ、ふふ……」
「え、何、何を勝手に突然惚気始めたの? っていうか、結婚する予定なの?」
届けられたセロリのヨーグルト和えと、アボガドとグレープフルーツのブラックペッパー和えがテーブルに並べられたが、手をつけるのを忘れていた。ホーチミンの大好物なのだが、それどころではない。
うっすらと頬を染めて、瞳を伏せながら語るスリザに吐き気すら湧き上がりそうだ。
「いや、ちょっと変わりすぎじゃない? スリザ、大丈夫?」
「あれでいて、腕が男らしいんだ。結構、太くて逞しく、私をがっしりと支えてな、ふふ」
「…………。うわぁ、ちょっとウザイ」
まぁ、いいけど。……と、絶句しながらも大きく溜息を吐くと、ホーチミンは口元を押さえながらようやく好物のヨーグルトを運ぶ。酸っぱさと瑞々しい美味さで、ようやく心が冷静になれそうだった。
もぐもぐと、1人で食べ続けるホーチミンと、口内が乾いては珈琲を飲み、離し続けるスリザ。
「また香りが、男らしい。太陽の光の様にな、あったかいんだ」
「この惚気、何時まで続くわけ? あ、すいませーん、この””大葉とチーズの豚肉ロール・ブルーベリービネガーソース添え”ください」
スリザが口にすることなく、最初に注文したサラダは空になった。腹が減ったので、肉料理を注文したホーチミンなどお構いなしに、スリザはまだ話し続けている。
結局、ホーチミンが解放されることになったのは、サラダ二種に、肉料理、魚料理、スープにデザート、お代わりしたハーブティを二杯飲み干した後だった。
まだ話し足りないのか、スリザはもじもじ、と身体を小刻みに揺すっている。だが、もうホーチミンは腹が一杯だ、気分的にも、身体的にも。もう、要らない。
「じゃ、また今度ねスリザ。今日は少し手が空いたからスリザとの食事の後、アサギちゃんの様子を見に行こうと思ったの。……夕方になっちゃったけど、今から行ってくる」
「そうか、ならば私も行こうか。アサギ様はサイゴンと剣の鍛錬をしているとか?」
「えぇ、そうね。あ、ならついでに差し入れ持って行こうかしら?」
食堂の脇で購入出来る、テイクアウトの店で焼き菓子と葡萄の豆乳ビネガージュースを購入する。トレイに人数分乗せてもらった、恐らく、サイゴンにアサギ、ハイとアレクが居るであろうと踏まえて四人分である。
「ふむ、私も何か軽く貰おうか。腹が減ったな」
「それはスリザが話してばかりで珈琲しか飲んでいなかったからよ」
柚子ビネガーソースで味付けされたポテトサラダを挟んだパンを2個、購入したスリザはホーチミンの嫌味など気にせず、そのまま歩き出す。
2人が差し入れを運びながら中庭を目指すと、アサギ達が鍛錬に励んでいた。予想と違い、アイセルも居たので差し入れ数が足りない。
「はぁい、アサギちゃん! 頑張ってる?」
「ホーチミン様、スリザ様、こんにちは! とっても愉しいです」
汗を拭いながら、アサギが笑顔で応えて手を大きく振る。スリザもホーチミンもトレイを片手で持ち、軽く手を振った。
身体を動かす事が好きなアサギだ、疲労感はあるだろうが、表情は明るい。
「やはり、筋が良いです。教え甲斐がありますよ。さぁ、もう一度いきましょうか、アサギ様」
サイゴンも愉しそうだった、見ていると、数年前を思い出す。トビィを教えていた頃も、サイゴンは今と同じ様に兄のような気分で見守りながら教えていたものだ。ホーチミンは、そんなサイゴンの様子に口元に笑みを浮かべる。
好きな相手が愉しそうだと、自分も自然と笑みを浮かべてしまうものである。
「アレク様、差し入れで御座います。どうぞ」
「有難う、スリザ。アサギ、サイゴン! 差し入れだそうだ、休憩しよう」
アレクの声に、2人は動きを止めるとこちらへやってくる。アイセルの分がなかったが、スリザが購入したパンを与えた。まるで、アイセルが居る事を知っていたかのようだ。2個買ったことは、予感だったのか。
「わーい、スリザちゃんとお揃いだー」
「たわけが、早く食べろ」
言葉は悪いが、顔は全く嫌そうではない。嬉しそうに微笑んでいる、解りやすいスリザだった。
座り込んで、皆で丸くなって食べている頃。
魔界イヴァンの四方にある灯台の北側2点が、何かに気がついた。飛行している竜がこちらにやってきている、2体だ。そして、海面にも何かがいることを確認した。
旅の竜だろうか、とも思ったが、違う。飛行している竜の種類が違うのだ、他種族では旅などしている例がない。
何事かと目を凝らしていた灯台の警備兵は、竜の背に誰かが乗っていることを確認する。
「ドラゴンナイトか。……誰だ?」
「だが、ドラゴンナイトならば人間ではないだろう? 人間界にはドラゴンナイトなど存在しないと聞いている。隠密行動を受けていた者が帰還したんだろ」
「そうだよなぁ。敵じゃないよな? 知らせなくてもいいよなぁ?」
「まぁ一応……伝令を」
二つの塔の警備兵は、ほぼ同時にアレクの居城の司令塔へと伝令を発進する。
”ドラゴンナイト、戻りたり”……と。
司令塔に届けられたその言葉に、皆首を傾げた。
魔界に存在するドラゴンナイト達の状況は、把握されている。有事の際には行動力と攻撃力が高いので、直様出動させる義務があった。書き記してあるドラゴンナイトの編成を見てみるが、出かけているドラゴンナイトは一体もいない。
ただ、忘れられた存在があった。そのドラゴンナイトは魔界育ちだが魔族ではなく、人間だ。故に、何処にも所属していなかった。
1人が思い出し、声を上げようとした瞬間に灯台から新たな伝令が同時に届く。
”ドラゴンは、黒と風と把握。しかし、騎手は1人である”
魔界に現在存在するドラゴンナイトで、1人が何種ものドラゴンを抱えている者はいなかった。
”海にも1体ドラゴンが存在している模様”
ここでようやく、司令塔の全員が同時に声を発したのである。1人の人間の名を呼んだ。
美しく、恐ろしく度胸があって、怖いもの知らずな飛びぬけた人間だ。抱いた女の数は、皆知らず。歩けば魔族の女達が黄色い声を一斉に上げた、美貌の人間。後ろ盾は今は無きも、絶世の美貌と溢れる魔力で皆の羨望を受けていたマドリード。
「トビィか! トビィが戻ってきたんだ!」
司令塔から、羽根を持った魔族が転がるように飛び出した。魔王アレクに伝える為である。
そんな事とは露知らず、中庭で軽食を取り鍛錬を再開していたアサギ達。
魔王アレクの室内に駆け込んだ魔族が、行き先を慌てふためいて聞きまわっていた頃。
サイゴンが、気付いた。上空から怒涛の勢いで何かが飛んでくる事に。無論、アレクも気付いていた、瞳を細める。
魔王リュウとて、何かの気配に室内を飛び出し、中庭に向かっている。竜族のリュウだ、紛れもなく、感じたのは竜の気配だった。故郷の同胞かと思い、慌てて飛び出したのだ。
「オフィーリア、あの海岸で待て。……護衛にデズをつけようか?」
「やだなぁ、主。大丈夫だよ、1人でも戦えるよ」
「……そうか、何かあれば、全力で逃げろよ? 少し、待ってるんだぞ」
「はいはい、大丈夫大丈夫」
水面に下がったクレシダの背の上から、トビィが水中から顔を出したオフィーリアにそう告げる。軽く笑って、再びクレシダとトビィは上昇した。
「クレシダ、デズ、行くぞ」
「御意に」
「畏まりました」
その声と共に、2体の竜は速度を上げる。真正面に見える城目掛けて、突進した。トビィがそっと、右手で剣の柄に手を添える。いつでも、引き抜くことが出来るように。
「アサギは黒髪が美しい、可愛らしい女の子だ。見つけ次第、そこへ」
「人間の美しい、は私達竜には解りませんゆえ……」
「いや、飛びぬけた美しさだから、絶対解る」
「はぁ、そうですか」
困惑気味にクレシダがそう告げ、デズデモーナが苦笑する。確かに主であるトビィは一目置いているし、見た目麗しいのだとも思うが、初めて見る人間をそう選り分けられるだろうか。
2体の竜は、不安を抱かずにはいられない。
急降下した2体の竜に、トビィは身体を寄せて必死に空気抵抗から逃れた。気を抜くと、空に投げ出されそうである。
呼吸することも苦しいが、2体は何かを見つけたのだろう。瞳を細めてトビィが下を覗くと、城の中庭に影が見える。
遠すぎて、見えない。が、感じた。視力ではなく、空気の波動でトビィは感じ取ったのだ。
「見つけた、あそこだ! アサギだ!」
「流石主、良い視力をお持ちで」
淡々と告げるクレシダは、急かされて更に速度を上げる。続いてデズデモーナが大きく咆哮し、寄り添いながら加速した。
無論、その咆哮に皆が慌てて上空を見上げた。
「トビィ! 戻ったのか」
嬉しそうなサイゴンの声と、驚いて竜を見上げるアサギ。まだ、アサギの瞳にトビィは映らない。
「……ハイ様? アサギちゃんをどうやってここまで連れてきたんでしたっけ?」
異様な雰囲気に、ホーチミンが思わず杖を引き抜いて隣に居たハイに声をかける。
怪訝に、ハイは言葉を返した。
「どうやってって……。『アサギは貰っていく』と」
「許可、貰いました? 拉致してきたことになってませんよね?」
「失礼な、私は告げたぞ」
「だったら、どうしてトビィちゃんがあんな敵意むき出しで向かってくるんですかーっ!」
そうなのだ、放たれる殺意が尋常ではなかった。
「アサギ! 無事か! 遅くなった、今助ける!」
「トビィお兄様っ、と、止まってください、ちょっと、止まってっ」
トビィの絶叫と、狼狽するアサギの声。アサギにも解ったのだ、トビィが自分を救出に来たことが。ハイに攫われてから、早1ヶ月程度経過した。その間にアサギはハイの信頼しているテンザに、仲間宛の手紙を届けるようお願いしたが、それが届いていないのだろう。勘違いをしているに違いない。
でなければ、剣を引き抜くわけが無い。
「アレク様、お下がりください! トビィが誤解をしておりまして」
「あの様子だと……そうだろうな。単身でアサギを救いに来たのだろう、流石というべきか。敵に回すと彼は厄介だな」
アレクの周囲に、サイゴン、ホーチミン、スリザ、アイセルが集う。
「自分の巻いた種です、ハイ様の御身はご自分で御守りくださいませ!」
「随分だな」
叫んだホーチミンに、瞳の座ったハイがぼそっ、と返答するが間違ってはいない。事の発端は、ハイだ。
「デズデモーナ、オレがアサギを救出するまで時間稼ぎしろ」
「畏まりました、お任せを」
デズデモーナの深紅の瞳が光り、再び咆哮すると空気が震える。風圧でアサギが思わず倒れそうになったので、慌ててハイがそれを支えた。
それがトビィの瞳には、連れて行かせまいと束縛したように見えた。こめかみを引き攣らせ、唇を噛締める。
「あの幼女趣味変態魔王め……」
呟きをクレシダも聞き取ったが、突っ込まなかった。
「トビィお兄様ー! 話を聴いてください、誤解してますーっ」
「そう、そうだ、トビィ! 少し落ち着いて話を」
「トビィちゃん、貴方が激怒している理由は解るわ! でも、冷静になって、お願いよっ」
と、アサギが、サイゴンが、ホーチミンが叫ぶがトビィの耳には入らず。デズデモーナがハイ目掛けて突進した。
「ちぃ、でかい竜だな」
防護壁でも張ろうかと思ったが、それでは防ぐことが出来ないと瞬時に悟ったハイはアサギを抱き抱えて地面を転がる。2人の横を、デズデモーナの鋭い爪が地面を抉った。
「デズ! それではアサギが危ないだろう! 傷をつけたら許さん」
どうしろというのだ、とデズデモーナは初めてトビィに対して困惑した。一応頷いたが、ハイが傍らにいる以上攻撃が出来ない。
「魔王ハイ、何処までも卑怯な! アサギを人質にするとは、見下げた奴」
ギリリ、と歯軋りし、トビィは拉致があかないとクレシダの背から飛び降りる。そのまま走り出し、地面に転がったままのハイを追う。慌ててアサギを起こし、立ち上がったハイは口に入った砂を吐き出すと両手を前に突き出した。
魔法の詠唱だ、地面で頭を売ったので軽い脳震盪だったアサギだがハイの次なる行動は把握出来る。
戦わせるわけにはいかない、地面に転がっていた剣を必死に拾い上げるとアサギは向かってくるトビィに剣を構えた。
「アサギっ! ……操られているのか!? 」
「ち、違いますってばっ。トビィお兄様、話を聴いてください。と、とりあえず剣を下ろしてください」
アサギが自分に剣を向けたことが余程堪えたのだろう、トビィが一瞬、無防備になる。その隙に、とサイゴンが一気に駆け出した。地面に押さえ込み、話を聴いてもらうつもりだったのだ。しかし。
デズデモーナとクレシダがそうはさせない、主に危害を加えるならばと、サイゴンに爪を突き立てる。流石に2体の竜相手では、サイゴンも交わすことが精一杯だ。
鋭い爪は、風で刃を生み出す。爪だけに注意していては、切り刻まれる。
「全く、相変わらずの信頼関係だなっ」
応戦しているサイゴンに耐えかねて、ホーチミンも飛び出した。攻撃補助魔法の詠唱だ、若干、サイゴンの速度が上がる。が、この魔法は身体に負担がかかるので普通ならば詠唱しない。魔法が切れると、倍以上の疲労感に襲われるのだ。が、今は仕方が無い。速度を上げないと竜に身体を刻まれる。
「トビィお兄様、あの、私は無事です! 魔族の皆さんに、訓練をしてもらっているんです。魔法も、剣も。話をを、聴いてもらえませんか……?」
アサギが両手を広げて、剣を鞘に仕舞いこむ。その瞳が切実で、潤んでいた。これでは反論できない。
トビィは、軽く溜息を吐くと剣を仕舞いはしなかったが、攻撃を繰り返しているデズデモーナとクレシダをこちらに呼び寄せた。とりあえずは、話を聴く姿勢らしい。信用はまだしていないが。
助かった、とサイゴンが苦笑し、駆けつけたホーチミンに支えられてトビィに向かう。
「アサギ。……怪我は無いか?」
「全くないです、とても優遇していただいていて、自分でもちょっと謎な生活をしていました」
居心地の良い部屋に、美味しい食事、抜群の教師達に息抜きの買い物……。アサギはトビィに語り出す。
本当に、良い待遇であったことを。魔王アレクにいたっては、人間との共存を計りたいと思っていると相談されたことも。そして、その為に動いていることも。
「皆が心配していると思って、ハイ様の信頼しているテンザ様に、お手紙を渡したのです。届けて、勇者の誰かに読んで貰えたら意味が解ると思って」
地球の文字は、アサギ達勇者にしか解らない。他の者が見ても意味不明なだけだ。
「それにしても、トビィ。元気そうで何より。また腕を上げたのか?」
「サイゴン、ホーチミン、久し振りだな。アサギに危害を加えるような奴らじゃないが……こちらとしても、な?」
久々の再会である、ようやく笑みを見せたトビィに一同は胸を撫で下ろした。
「心強い者が戻られましたね、アレク様」
「あぁ、そうだな。風は上々だ」
アレクも遠くで、微笑んでいた。眩しそうにトビィを見つめ、空を仰ぐ。
怖いくらいに、良い人材が揃っていく。魔族の信頼もある人間のドラゴンナイトは、勇者アサギと親密な関係。勇者アサギは温厚で、魔族達からも愛されている。
何も、阻むものなどないだろう。
トビィは、デズデモーナにオフィーリアの傍に居る様に伝えた。万が一の時は護れるようにとの配慮である。オフィーリアも成体前で、竜の中では最も弱い。以前の様に悪しき魔族達に狙われては困るのだ。
クレシダは、トビィに付き添うことにした。特別に中庭に滞在することを許されたので、昼寝の好きなクレシダは直様ぐでー、っと転がりお構いなしにと眠り始める。
飛び続けていたので、仕方が無いといえば、仕方が無い。
周囲も騒がしくなった、竜が2体突っ込んでこれば当然だろう。
あちらこちらで、黄色い声が上がっている。トビィの姿を見つけて、女達が騒いでいるのだ。
「トビィお兄様、凄い人気なんですね……」
「大したことじゃない」
瞳を大きく瞬きしながら、その騒音に対してアサギは感嘆の溜息を漏らした。が、さらりとトビィは言い放つ。これだけの異性の声援を集めておいて、何を言うか! とサイゴンは目くじら立てるがそれもまた仕方が無い。
「アサギが無事ならそれ良い。……で? 詳しい話が聴きたいんだが」
ハイの存在は無視し、トビィは魔王アレクに向き直った。話が通じる相手だと認めたのだろう、鋭い瞳で、アレクに挑戦的に視線を投げかける。
「歓迎しよう、マドリードの育てた人間の生き残りよ」
「……その件に関しても聴きたいもんだ」
「何処まで? 奴は奴、私は私だ。何も進んでいない、変わっていない」
「あらやだ、てっきり身体の関係があったのかと」
「あるわけないだろう」
むすっとした表情でスリザは顔を上げた、つまらなそうにティーカップの中のハーブティをスプーンでかき混ぜているホーチミンを睨みつける。
「つまんなーい、せっかくこうしてスリザと2人きりでお茶してるんだから、愉しい事聴けると思ったのに」
「結婚するまで、手は出さないのだそうだ。ふふ、思いの外奴は紳士的だろう?」
「は?」
不貞腐れ、そっぽを向いたホーチミンに軽く笑うと、何故か表情を緩めて珈琲を口にしながら頬を赤らめたスリザ。その言葉にホーチミンが怪訝な瞳を向ける。
「いい加減な奴だと思うだろ? それが意外と、心が通っていてな。父上に逢う為に作法も習いに行くそうだ、ふふ……」
「え、何、何を勝手に突然惚気始めたの? っていうか、結婚する予定なの?」
届けられたセロリのヨーグルト和えと、アボガドとグレープフルーツのブラックペッパー和えがテーブルに並べられたが、手をつけるのを忘れていた。ホーチミンの大好物なのだが、それどころではない。
うっすらと頬を染めて、瞳を伏せながら語るスリザに吐き気すら湧き上がりそうだ。
「いや、ちょっと変わりすぎじゃない? スリザ、大丈夫?」
「あれでいて、腕が男らしいんだ。結構、太くて逞しく、私をがっしりと支えてな、ふふ」
「…………。うわぁ、ちょっとウザイ」
まぁ、いいけど。……と、絶句しながらも大きく溜息を吐くと、ホーチミンは口元を押さえながらようやく好物のヨーグルトを運ぶ。酸っぱさと瑞々しい美味さで、ようやく心が冷静になれそうだった。
もぐもぐと、1人で食べ続けるホーチミンと、口内が乾いては珈琲を飲み、離し続けるスリザ。
「また香りが、男らしい。太陽の光の様にな、あったかいんだ」
「この惚気、何時まで続くわけ? あ、すいませーん、この””大葉とチーズの豚肉ロール・ブルーベリービネガーソース添え”ください」
スリザが口にすることなく、最初に注文したサラダは空になった。腹が減ったので、肉料理を注文したホーチミンなどお構いなしに、スリザはまだ話し続けている。
結局、ホーチミンが解放されることになったのは、サラダ二種に、肉料理、魚料理、スープにデザート、お代わりしたハーブティを二杯飲み干した後だった。
まだ話し足りないのか、スリザはもじもじ、と身体を小刻みに揺すっている。だが、もうホーチミンは腹が一杯だ、気分的にも、身体的にも。もう、要らない。
「じゃ、また今度ねスリザ。今日は少し手が空いたからスリザとの食事の後、アサギちゃんの様子を見に行こうと思ったの。……夕方になっちゃったけど、今から行ってくる」
「そうか、ならば私も行こうか。アサギ様はサイゴンと剣の鍛錬をしているとか?」
「えぇ、そうね。あ、ならついでに差し入れ持って行こうかしら?」
食堂の脇で購入出来る、テイクアウトの店で焼き菓子と葡萄の豆乳ビネガージュースを購入する。トレイに人数分乗せてもらった、恐らく、サイゴンにアサギ、ハイとアレクが居るであろうと踏まえて四人分である。
「ふむ、私も何か軽く貰おうか。腹が減ったな」
「それはスリザが話してばかりで珈琲しか飲んでいなかったからよ」
柚子ビネガーソースで味付けされたポテトサラダを挟んだパンを2個、購入したスリザはホーチミンの嫌味など気にせず、そのまま歩き出す。
2人が差し入れを運びながら中庭を目指すと、アサギ達が鍛錬に励んでいた。予想と違い、アイセルも居たので差し入れ数が足りない。
「はぁい、アサギちゃん! 頑張ってる?」
「ホーチミン様、スリザ様、こんにちは! とっても愉しいです」
汗を拭いながら、アサギが笑顔で応えて手を大きく振る。スリザもホーチミンもトレイを片手で持ち、軽く手を振った。
身体を動かす事が好きなアサギだ、疲労感はあるだろうが、表情は明るい。
「やはり、筋が良いです。教え甲斐がありますよ。さぁ、もう一度いきましょうか、アサギ様」
サイゴンも愉しそうだった、見ていると、数年前を思い出す。トビィを教えていた頃も、サイゴンは今と同じ様に兄のような気分で見守りながら教えていたものだ。ホーチミンは、そんなサイゴンの様子に口元に笑みを浮かべる。
好きな相手が愉しそうだと、自分も自然と笑みを浮かべてしまうものである。
「アレク様、差し入れで御座います。どうぞ」
「有難う、スリザ。アサギ、サイゴン! 差し入れだそうだ、休憩しよう」
アレクの声に、2人は動きを止めるとこちらへやってくる。アイセルの分がなかったが、スリザが購入したパンを与えた。まるで、アイセルが居る事を知っていたかのようだ。2個買ったことは、予感だったのか。
「わーい、スリザちゃんとお揃いだー」
「たわけが、早く食べろ」
言葉は悪いが、顔は全く嫌そうではない。嬉しそうに微笑んでいる、解りやすいスリザだった。
座り込んで、皆で丸くなって食べている頃。
魔界イヴァンの四方にある灯台の北側2点が、何かに気がついた。飛行している竜がこちらにやってきている、2体だ。そして、海面にも何かがいることを確認した。
旅の竜だろうか、とも思ったが、違う。飛行している竜の種類が違うのだ、他種族では旅などしている例がない。
何事かと目を凝らしていた灯台の警備兵は、竜の背に誰かが乗っていることを確認する。
「ドラゴンナイトか。……誰だ?」
「だが、ドラゴンナイトならば人間ではないだろう? 人間界にはドラゴンナイトなど存在しないと聞いている。隠密行動を受けていた者が帰還したんだろ」
「そうだよなぁ。敵じゃないよな? 知らせなくてもいいよなぁ?」
「まぁ一応……伝令を」
二つの塔の警備兵は、ほぼ同時にアレクの居城の司令塔へと伝令を発進する。
”ドラゴンナイト、戻りたり”……と。
司令塔に届けられたその言葉に、皆首を傾げた。
魔界に存在するドラゴンナイト達の状況は、把握されている。有事の際には行動力と攻撃力が高いので、直様出動させる義務があった。書き記してあるドラゴンナイトの編成を見てみるが、出かけているドラゴンナイトは一体もいない。
ただ、忘れられた存在があった。そのドラゴンナイトは魔界育ちだが魔族ではなく、人間だ。故に、何処にも所属していなかった。
1人が思い出し、声を上げようとした瞬間に灯台から新たな伝令が同時に届く。
”ドラゴンは、黒と風と把握。しかし、騎手は1人である”
魔界に現在存在するドラゴンナイトで、1人が何種ものドラゴンを抱えている者はいなかった。
”海にも1体ドラゴンが存在している模様”
ここでようやく、司令塔の全員が同時に声を発したのである。1人の人間の名を呼んだ。
美しく、恐ろしく度胸があって、怖いもの知らずな飛びぬけた人間だ。抱いた女の数は、皆知らず。歩けば魔族の女達が黄色い声を一斉に上げた、美貌の人間。後ろ盾は今は無きも、絶世の美貌と溢れる魔力で皆の羨望を受けていたマドリード。
「トビィか! トビィが戻ってきたんだ!」
司令塔から、羽根を持った魔族が転がるように飛び出した。魔王アレクに伝える為である。
そんな事とは露知らず、中庭で軽食を取り鍛錬を再開していたアサギ達。
魔王アレクの室内に駆け込んだ魔族が、行き先を慌てふためいて聞きまわっていた頃。
サイゴンが、気付いた。上空から怒涛の勢いで何かが飛んでくる事に。無論、アレクも気付いていた、瞳を細める。
魔王リュウとて、何かの気配に室内を飛び出し、中庭に向かっている。竜族のリュウだ、紛れもなく、感じたのは竜の気配だった。故郷の同胞かと思い、慌てて飛び出したのだ。
「オフィーリア、あの海岸で待て。……護衛にデズをつけようか?」
「やだなぁ、主。大丈夫だよ、1人でも戦えるよ」
「……そうか、何かあれば、全力で逃げろよ? 少し、待ってるんだぞ」
「はいはい、大丈夫大丈夫」
水面に下がったクレシダの背の上から、トビィが水中から顔を出したオフィーリアにそう告げる。軽く笑って、再びクレシダとトビィは上昇した。
「クレシダ、デズ、行くぞ」
「御意に」
「畏まりました」
その声と共に、2体の竜は速度を上げる。真正面に見える城目掛けて、突進した。トビィがそっと、右手で剣の柄に手を添える。いつでも、引き抜くことが出来るように。
「アサギは黒髪が美しい、可愛らしい女の子だ。見つけ次第、そこへ」
「人間の美しい、は私達竜には解りませんゆえ……」
「いや、飛びぬけた美しさだから、絶対解る」
「はぁ、そうですか」
困惑気味にクレシダがそう告げ、デズデモーナが苦笑する。確かに主であるトビィは一目置いているし、見た目麗しいのだとも思うが、初めて見る人間をそう選り分けられるだろうか。
2体の竜は、不安を抱かずにはいられない。
急降下した2体の竜に、トビィは身体を寄せて必死に空気抵抗から逃れた。気を抜くと、空に投げ出されそうである。
呼吸することも苦しいが、2体は何かを見つけたのだろう。瞳を細めてトビィが下を覗くと、城の中庭に影が見える。
遠すぎて、見えない。が、感じた。視力ではなく、空気の波動でトビィは感じ取ったのだ。
「見つけた、あそこだ! アサギだ!」
「流石主、良い視力をお持ちで」
淡々と告げるクレシダは、急かされて更に速度を上げる。続いてデズデモーナが大きく咆哮し、寄り添いながら加速した。
無論、その咆哮に皆が慌てて上空を見上げた。
「トビィ! 戻ったのか」
嬉しそうなサイゴンの声と、驚いて竜を見上げるアサギ。まだ、アサギの瞳にトビィは映らない。
「……ハイ様? アサギちゃんをどうやってここまで連れてきたんでしたっけ?」
異様な雰囲気に、ホーチミンが思わず杖を引き抜いて隣に居たハイに声をかける。
怪訝に、ハイは言葉を返した。
「どうやってって……。『アサギは貰っていく』と」
「許可、貰いました? 拉致してきたことになってませんよね?」
「失礼な、私は告げたぞ」
「だったら、どうしてトビィちゃんがあんな敵意むき出しで向かってくるんですかーっ!」
そうなのだ、放たれる殺意が尋常ではなかった。
「アサギ! 無事か! 遅くなった、今助ける!」
「トビィお兄様っ、と、止まってください、ちょっと、止まってっ」
トビィの絶叫と、狼狽するアサギの声。アサギにも解ったのだ、トビィが自分を救出に来たことが。ハイに攫われてから、早1ヶ月程度経過した。その間にアサギはハイの信頼しているテンザに、仲間宛の手紙を届けるようお願いしたが、それが届いていないのだろう。勘違いをしているに違いない。
でなければ、剣を引き抜くわけが無い。
「アレク様、お下がりください! トビィが誤解をしておりまして」
「あの様子だと……そうだろうな。単身でアサギを救いに来たのだろう、流石というべきか。敵に回すと彼は厄介だな」
アレクの周囲に、サイゴン、ホーチミン、スリザ、アイセルが集う。
「自分の巻いた種です、ハイ様の御身はご自分で御守りくださいませ!」
「随分だな」
叫んだホーチミンに、瞳の座ったハイがぼそっ、と返答するが間違ってはいない。事の発端は、ハイだ。
「デズデモーナ、オレがアサギを救出するまで時間稼ぎしろ」
「畏まりました、お任せを」
デズデモーナの深紅の瞳が光り、再び咆哮すると空気が震える。風圧でアサギが思わず倒れそうになったので、慌ててハイがそれを支えた。
それがトビィの瞳には、連れて行かせまいと束縛したように見えた。こめかみを引き攣らせ、唇を噛締める。
「あの幼女趣味変態魔王め……」
呟きをクレシダも聞き取ったが、突っ込まなかった。
「トビィお兄様ー! 話を聴いてください、誤解してますーっ」
「そう、そうだ、トビィ! 少し落ち着いて話を」
「トビィちゃん、貴方が激怒している理由は解るわ! でも、冷静になって、お願いよっ」
と、アサギが、サイゴンが、ホーチミンが叫ぶがトビィの耳には入らず。デズデモーナがハイ目掛けて突進した。
「ちぃ、でかい竜だな」
防護壁でも張ろうかと思ったが、それでは防ぐことが出来ないと瞬時に悟ったハイはアサギを抱き抱えて地面を転がる。2人の横を、デズデモーナの鋭い爪が地面を抉った。
「デズ! それではアサギが危ないだろう! 傷をつけたら許さん」
どうしろというのだ、とデズデモーナは初めてトビィに対して困惑した。一応頷いたが、ハイが傍らにいる以上攻撃が出来ない。
「魔王ハイ、何処までも卑怯な! アサギを人質にするとは、見下げた奴」
ギリリ、と歯軋りし、トビィは拉致があかないとクレシダの背から飛び降りる。そのまま走り出し、地面に転がったままのハイを追う。慌ててアサギを起こし、立ち上がったハイは口に入った砂を吐き出すと両手を前に突き出した。
魔法の詠唱だ、地面で頭を売ったので軽い脳震盪だったアサギだがハイの次なる行動は把握出来る。
戦わせるわけにはいかない、地面に転がっていた剣を必死に拾い上げるとアサギは向かってくるトビィに剣を構えた。
「アサギっ! ……操られているのか!? 」
「ち、違いますってばっ。トビィお兄様、話を聴いてください。と、とりあえず剣を下ろしてください」
アサギが自分に剣を向けたことが余程堪えたのだろう、トビィが一瞬、無防備になる。その隙に、とサイゴンが一気に駆け出した。地面に押さえ込み、話を聴いてもらうつもりだったのだ。しかし。
デズデモーナとクレシダがそうはさせない、主に危害を加えるならばと、サイゴンに爪を突き立てる。流石に2体の竜相手では、サイゴンも交わすことが精一杯だ。
鋭い爪は、風で刃を生み出す。爪だけに注意していては、切り刻まれる。
「全く、相変わらずの信頼関係だなっ」
応戦しているサイゴンに耐えかねて、ホーチミンも飛び出した。攻撃補助魔法の詠唱だ、若干、サイゴンの速度が上がる。が、この魔法は身体に負担がかかるので普通ならば詠唱しない。魔法が切れると、倍以上の疲労感に襲われるのだ。が、今は仕方が無い。速度を上げないと竜に身体を刻まれる。
「トビィお兄様、あの、私は無事です! 魔族の皆さんに、訓練をしてもらっているんです。魔法も、剣も。話をを、聴いてもらえませんか……?」
アサギが両手を広げて、剣を鞘に仕舞いこむ。その瞳が切実で、潤んでいた。これでは反論できない。
トビィは、軽く溜息を吐くと剣を仕舞いはしなかったが、攻撃を繰り返しているデズデモーナとクレシダをこちらに呼び寄せた。とりあえずは、話を聴く姿勢らしい。信用はまだしていないが。
助かった、とサイゴンが苦笑し、駆けつけたホーチミンに支えられてトビィに向かう。
「アサギ。……怪我は無いか?」
「全くないです、とても優遇していただいていて、自分でもちょっと謎な生活をしていました」
居心地の良い部屋に、美味しい食事、抜群の教師達に息抜きの買い物……。アサギはトビィに語り出す。
本当に、良い待遇であったことを。魔王アレクにいたっては、人間との共存を計りたいと思っていると相談されたことも。そして、その為に動いていることも。
「皆が心配していると思って、ハイ様の信頼しているテンザ様に、お手紙を渡したのです。届けて、勇者の誰かに読んで貰えたら意味が解ると思って」
地球の文字は、アサギ達勇者にしか解らない。他の者が見ても意味不明なだけだ。
「それにしても、トビィ。元気そうで何より。また腕を上げたのか?」
「サイゴン、ホーチミン、久し振りだな。アサギに危害を加えるような奴らじゃないが……こちらとしても、な?」
久々の再会である、ようやく笑みを見せたトビィに一同は胸を撫で下ろした。
「心強い者が戻られましたね、アレク様」
「あぁ、そうだな。風は上々だ」
アレクも遠くで、微笑んでいた。眩しそうにトビィを見つめ、空を仰ぐ。
怖いくらいに、良い人材が揃っていく。魔族の信頼もある人間のドラゴンナイトは、勇者アサギと親密な関係。勇者アサギは温厚で、魔族達からも愛されている。
何も、阻むものなどないだろう。
トビィは、デズデモーナにオフィーリアの傍に居る様に伝えた。万が一の時は護れるようにとの配慮である。オフィーリアも成体前で、竜の中では最も弱い。以前の様に悪しき魔族達に狙われては困るのだ。
クレシダは、トビィに付き添うことにした。特別に中庭に滞在することを許されたので、昼寝の好きなクレシダは直様ぐでー、っと転がりお構いなしにと眠り始める。
飛び続けていたので、仕方が無いといえば、仕方が無い。
周囲も騒がしくなった、竜が2体突っ込んでこれば当然だろう。
あちらこちらで、黄色い声が上がっている。トビィの姿を見つけて、女達が騒いでいるのだ。
「トビィお兄様、凄い人気なんですね……」
「大したことじゃない」
瞳を大きく瞬きしながら、その騒音に対してアサギは感嘆の溜息を漏らした。が、さらりとトビィは言い放つ。これだけの異性の声援を集めておいて、何を言うか! とサイゴンは目くじら立てるがそれもまた仕方が無い。
「アサギが無事ならそれ良い。……で? 詳しい話が聴きたいんだが」
ハイの存在は無視し、トビィは魔王アレクに向き直った。話が通じる相手だと認めたのだろう、鋭い瞳で、アレクに挑戦的に視線を投げかける。
「歓迎しよう、マドリードの育てた人間の生き残りよ」
「……その件に関しても聴きたいもんだ」
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