別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
×
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時間が無くて全く更新が出来ず(吐血)
今年が終わるまで、あと4ヶ月・・・。
やばいよ!
第一章終わらないよ!!!
お盆に2話は更新する計算だったのに、全く出来ませんでした・・・。
おまけにけおしいけなかったよ(卒倒)!!!
ギルザ用のあれとかそれとかがお蔵入りになったよ!
イラストは、アラタカンガタリの門脇さんちの将人くん。
16巻のサイン色紙応募用に葉書に描いたやつです。
今年が終わるまで、あと4ヶ月・・・。
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おまけにけおしいけなかったよ(卒倒)!!!
ギルザ用のあれとかそれとかがお蔵入りになったよ!
イラストは、アラタカンガタリの門脇さんちの将人くん。
16巻のサイン色紙応募用に葉書に描いたやつです。
喚きながらリュミが駆け寄ってきた、皆、きょとんとして振り返るが頬を膨らまし、憤慨しているリュミ。
「ひっどいよ! 何やってんの。食べ物探してきたのに」
「クラッカーか、良いじゃないか。熱々のスープと戴こう。完璧な食事だな」
アースがゆっくりと、鍋を掻き混ぜている。リュミが次はきょとん、として何度も瞬きを繰り返す番である。
「アース、料理出来たの?」
「うん。私、子供の頃から自分の食事は自分で作ることのほうが多かったし……。お母さんが作ってくれることもあったけど、居ない時は作ってたよ。スープしか作ることが出来ないけど」
「あー……」
確かに、そうだろうなとリュミは顔を顰める。アースの両親は、アースに対して非常に冷たい。ただ、自分達の地位を上げるためのモノとしか見ていないようだった。それならそれで、もっと鎌ってやれば良いと思うのだが、何故か近寄るのすら嫌悪感を抱くように、距離を置いていたように思える。
実の、我が子だろうに。
リュミも座り込み、スープが出来上がるのを待った。ことこと、と中で野菜達が動く音と、漂う香りが空腹を刺激する。
「まだー?」
トリプトルが頭をかきながら、仏頂面でアースを見ると申し訳なさそうにアースが項垂れる。
「も、もう少し待って下さいね。ほ、本当は何日も煮込んだほうが美味しいのですが……」
「そんなに待てないけど?」
「お前、子供じゃないんだから食事くらい待て。……アース、トリプトルは気にしなくて良いから自分の好きな様に作るんだ」
つまらなさそうに、トリプトルが地面に転がる。「出来たら起こして」と呟いて瞳を閉じた。空腹に耐えかねて仮眠するらしい。苦笑し、トロイが狼狽しているアースの髪を撫でた。
「気にするな、我儘なんだよコイツ。子供みたいだろ」
「誰が我儘で、子供だよ」
寝転がりながら、トリプトルがそう叫んだ。リュミが吹き出し、トロイが大袈裟に溜息を吐くと、アースも微笑する。
舌打ちし、トリプトルは忌々しそうに寝返りを打った。
暫し、トリプトルを除いて三人で会話が始まった。他愛のない世間話だ、主にリュミとトロイが剣術について語り合っている。早速、夜が明けたら修行してもらえる事になり、リュミは大声で感謝の気持ちを語った。
嬉しそうなリュミに、アースも笑みを零す。この四人ならば、愉しく過ごす事ができそうだと胸を撫で下ろした。
不安が消えていく、大事な友達のリュミ、頼り甲斐のありそうなトロイ、そして気になってしかがたがないトリプトル。
アースはちらり、と寝転がっているトリプトルの背中を見て、嬉しそうに微笑んだ。
可愛らしい、と思った。不貞腐れている姿に、胸がきゅん、となる。こんな感情は初めてなので、アースはどう表現してよいのか解らなかった。
やがて、スープが出来上がった。トロイがトリプトルを揺すり、起こすと飛び起きて手を差し出す。
「おい、順番があるだろう」
「腹減ったんだよ」
眉を潜めるトロイを無視し、空腹を訴えるトリプトルにアースは小さく笑った。二人のやり取りが面白くて笑った。ゆっくりと、器に盛り付けるとそれを差し出す。
と、互いの瞳が交差した。思わずアースは瞳を逸らし、何故か紅潮した顔を見られないようにと横を向く。
上ずった声で、震えながら呟いた。
「不味いと思いますっ、お口に合わなかったら、す、すぐに吐き出してくださいっ。その、人様に食べさせるのは初めてで、い、いつもは自分しか食べていなかったもので、感想とか、その、貰った事がなくって」
器が震えている、怯えているのだろうかとトリプトルは舌打ちした。確かに、態度が悪いので恐怖感を抱いているのかもしれない。優秀なお嬢様なのだろうから、粗野な男とは関わった事がないのだろうなと思った。
それとも、人見知りするのだろうか。いや、それにしてはトロイとは妙に馴染んでいる気がする。
むしゃくしゃして、乱暴にトリプトルは器を受け取った。器のスープが多少零れ、アースの掌にかかる。
「ぁつ」
「大丈夫か、アース! トリプトル、気をつけろ。……あぁ、少し赤くなっているな」
手を引っ込めたアースだが、飛んで来たトロイが優しく壊れ物の様に扱いながらそっと握る。スープが飛んだ箇所を、舌で嘗め上げた。
「ひゃ、ひゃぁっ」
「あぁ、すまない。つい、癖で」
驚いて声を上げたアースに、悪びれた様子もなくしれっ、と言い放ったトロイ。「何が癖だ! どんな癖だよ」と悪態つきながら、面白くなさそうにトリプトルは器に口をつける。
横目で見れば、アースは顔を紅潮させて、俯いていた。男とは過剰に触れ合ったことなどないのだろう、免疫がないに違いない。トロイは瞳を細めて、愛おしそうにその様子を見つめていた。
苛々する。自分が何かすればするほど、トロイとアースは親密になる。あれでは、アースがトロイに落ちるのも時間の問題だと思った。
昔から、トロイの周囲には女が居た、声をかけなくとも寄って来る。トリプトルとて異性の気を惹くには十分だったが、やはり共に行動しているとトロイが目立つものだった。
幸いなのか、トロイとトリプトルで付き合う異性のタイプが違っていた事だけが今まで衝突を免れていたのだが。
まさか、ココへ来て被るとは思わなかった。
トロイの好みは年配の女だった、後腐れがなくて楽だからだと以前答えた。下手に恋に憧れる女を彼女にすると、面倒らしい。女に縛られたくないのだと、言っていた。だから、特定の彼女などは作らなかったし、不特定多数と遊んでいた。そういう場合、男になれた女のほうが割り切ってくれて良いのだとか。
反面、トリプトルはごくごく普通の、同じ年代の異性と付き合ってきた。普通といっても、容姿可愛らしい女ばかりだったが。
「本気、って事かよ」
小さく呟き、スープを啜る。目の前では、リュミがじと目で2人を見ながら、スープを代わりに注いでいる。
口に入った瞬間に、トリプトルの瞳が見開いた。一口、飲んで、一気に最後まで飲み干す。
「お、お代わり! お代わり! リュミ、それ寄越せ!」
リュミが注ぎ、口にしようとしていた器を強引に奪い取るとトリプトルは再び豪快に飲み干した。
呆気にとられて、3人はトリプトルを見つめる。視線などお構いなしに、再びトリプトルは器にスープを注いでいる。
器から現れたトリプトルの顔が、無邪気に笑っていた。何度、飲み干したのか。
「待てトリプトル! 勝手に飲むなよ、なくなるだろうが」
「決めた、これ、全部オレが飲む」
「馬鹿いうな、寄越せ!」
慌ててトロイが鍋を奪った、必死にスープの取り合いをする二人に、唖然としていたアース。
「あ、あの、トリプトルさん。その、美味しかったですか?」
「美味しいに決まってるだろ!? だから全部飲むっ」
声をかければ、弾んだ返答が戻ってきた。思わずアースはぱぁ、と顔を輝かせ恥ずかしそうに俯いた。
胸の前で手を組み、力を篭める。嬉しくて、嬉しくて、楽しい。
トリプトルが、楽しそうに笑ってくれた。あの笑顔が、堪らなく心に痺れた。甘い甘い、感情を呼び起こす。
その様子を、リュミが眉を潜めて見ていることなど知らず。けれども、リュミはアースを見て、トリプトルを見て、困惑気味に笑うと頭をかく。「失恋かも」と、呟きながら。
結局スープの殆んどはトリプトルが飲んでしまった。また作るから、と喧嘩寸前のトロイとトリプトルを懸命に引き剥がし夜が明ける。結局一睡もしなかった。
流石に眠いので、四人は欠伸をすると腹も満たされたことだし、とようやく眠りについた。
次に顔を合わせることになったのは、夕方である。
最初に起きたのはアースで、紙にスクルドの現状を書き出そうとしていた。
惑星は球体だ。とりあえず、中心を現在地として、何かできれば、都度記載することにする。
昼過ぎには行動し、自分の脚で歩き回って状況を把握した。とりあえず、近隣に川が1本あることは昨夜の時点で解っている。そして、地面には草が小さいながらも生えているが、見た限りでは樹木がない。
生命がここで活動するには、草木がなければならない。川とて、まだ細く頼りない。
授業で習った、大地に潤いがなければ、命を紡ぐ作物が育たないと。そして作物は風によって種を飛ばし、増えていく。あとは、暖かな空気で作物は生長し、動物達が生まれる。
土の精霊と共に、火、水、風の精霊が協力するにはこういった意味があった。
アースが戻ってくると、トロイが起きていた。彼は主星に必要な物品を送ってもらうように要請し、届いたそれらを振り分けていた。
「お帰り、アース。見回りか? 危険な事はないだろうが、誰かを共につけると良い。一人では無理だから」
「おはようございます、トロイ様。目が早く醒めてしまって、起こすのは申し訳なくて」
珈琲を入れてくれたので、有り難くアースはそれを受け取る。食事も届いていたので、簡易に二人でそれを食べた。
食べながら、トロイが顔を顰める。
「不味いな。アースのスープが飲みたい」
「不味くはないですけど……飲みたいと言って下さるのなら、また作りますからね」
「あぁ、頼む。本当に美味しかった、あんなスープ、そこらでは飲めないぞ?」
「ふふ、嬉しいです。今日は何を作ろうかな……」
スープ会話をしながら、アースは見てきたことをトロイに語った。
「トロイ様、川の水を増幅することが出来ますか? 最初にしっかりと、水の配分をしたほうが良いと思って」
「やってみよう、アースの頼みだからな。そうそう、主星から低空飛行用の実機を届けさせた。これで探索しようじゃないか。あと、ここはあくまで拠点だ。惑星の大きさを把握し、点々と小さな小屋を作りたいと思う」
「そうですね、すぐにここへ戻れないこともあるでしょうから」
「それで、アースはどんな惑星を望んでいるんだ? 何か目標は?」
「目標といいますか……以前、人間のお友達と約束したんです。早めに私の星に移住したいから、って言われて頑張るね。って。だから、その子達をここへ呼び寄せることが目標でしょうか」
「人間の友達とは珍しいな? 直接話したのか」
トロイは驚いた、人間の存在は知っているが、習った事は『格下の生物』『進化した動物』程度である。
会話が通じるとは思わなかったのだ。
「植物も、動物も会話出来ますけど、私……。人間の子達も、同じ様に話しますよ?」
「植物、動物と会話出来るのはアースだからだ。他の精霊は無理だ。土の精霊だけの特権の筈だが……。人間は違うものなのか」
「リュミも会話してましたし、姿だって私達と同じ感じでしたよ?」
「知らなかった! ソーヴィニヨンという惑星を知っているか? あそこには、巨大な猫が主に住んでいて衣服を身に纏い、キセルも吸うんだぞ?」
「まぁ、それは知りませんでした! もふもふしてて、可愛いですね」
「オレは怖かったがな……。あの惑星では人間がペットだったな」
「色々あるんですね」
弾んだ会話をしていると、ようやくリュミとトリプトルが起きて来る。気付いて頭を下げたアースと、珈琲を淹れる為立ち上がったトロイ。
実はトリプトルは先程から起きていたのだが、部屋のドアを開けて楽しそうな二人に入り込めず、ずっとドアの前で立っていた。ようやく間の抜けた欠伸と共にリュミが起きて来たので、一緒に出てきただけである。
二人の醸し出す雰囲気は、まるで数日前に出会ったとは思えない、親密さがある。ぎりり、と唇を噛んだ。
胸が、じりじりと焼ける音がする。同じタイミングで出逢った筈なのに、この差はなんだろう。
「遅かったな二人とも、珈琲でいいだろ?」
「蜂蜜大目でお願い、僕苦いの駄目」
リュミが駆けて来てアースの隣に座ると面倒そうに、大きな欠伸をしながらトリプトルはトロイの隣に着席した。
主星から届いていたパンを手短に二人に配ると、食べるように促す。
「本格的に今日から惑星の下調べを開始する、あれに乗って探索だ」
トロイの指した方角には、純白の乗り物が一機、置いてあった。見慣れないものに、アースが瞳を数回瞬きする。興奮気味に騒ぐリュミと、あぁ、と軽く頷いたトリプトル。
「あの、あれって……なんですか?」
「アースは知らないのか。……そうか、土の精霊族は無縁かもしれないな。太陽光で浮遊する乗り物だよ」
「乗り物? 動物ですか?」
「いや、生きていない。機械、と言えばいいのかな」
形的には鳥のようだと、アースは思った。早々に食べ終えたトリプトルとリュミのカップをアースが素早く洗うと、その乗り物に皆で近づく。
「主星で充電は完璧にしてもらっている筈だから、丸一日くらいは飛行できるだろ。食料は用意したから、早速出かけるか」
純白の、艶やかな機体。細長く、羽根が左右対照で一対。小柄だが一応四人乗りらしい。機体に『4』と書いてあった。
操縦はトロイが担当した、トリプトルも操作可能らしいが、まだ眠いと首を横に振る。
トリプトルとアースが先に乗り込んだ、冷たい機体を物珍しそうに触りながら、アースは狭い席に座る。左右には小窓がついていた。二層式になっているので、二人が乗り込むとトロイがボタンで操作し、しきりを作る。その上にリュミとトロイが乗り込む仕組みである。
「す、凄いものですね……」
「こんなの、最近は当然だろ。遅れてるんだな土の精霊は」
「ご、ごめんなさい」
密室に気まずい空気が流れた、失敗した、とトリプトルは思った。縦並びに座っているので、トリプトルからはアースの髪しか見えない。華奢な身体は背もたれに隠れてしまっている。足は適度に伸ばす事が出来るが何分狭い、楽しく会話など出来たものではない。
沈黙が流れた。絶えかねて、トリプトルが瞳を閉じ、ぶっきらぼうに言葉を投げかける。
「オレ、寝てるから。一人で見といて、独り言とか気にしないし」
「あ、はい。おやすみなさい」
やはり、怯えている様子のアースに、それしか思いつかなかった。どのみち、トロイのように会話も弾まないだろうと腕を組んで眠りに入る。眠くはなかったが。
どうするだろうかとそっと瞳を開いてみると、物珍しそうにアースは小窓から外を見ている。
見たところで、まだ何もないだろうに……。と、トリプトルは再び瞳を閉じた。
「あ、あの。寝ていますか、トリプトルさん」
数分後、突然話しかけられた。起きていたが、会話が続かないだろうし、上手く語る自信もなかったので返答しない。寝たふりを決め込む。わざとらしく、寝息も立てた。
「き、昨日、美味しいって言ってもらえて、その、凄く嬉しかったです。あ、あまり誉められたことないので、すごく、嬉しかったです……。また、作るので、飲んでください、ね」
驚いて、流石に反射的に飛び起きた。
びっくりしたのは、アースだ。寝ていると思っていたのに、動いたから。慌てふためく。
「お、起こしちゃいましたか!? すい、すいません」
「あー、い、今起きた。よ、呼ばれたような気がして」
「そ、そうですか。えっと、えーっと、あ、あの、どんな惑星にしたら良いかご相談しようかなと思って、お、起きていらっしゃったら」
無理な言い訳に、思わずトリプトルはくすり、と笑う。不思議そうに「え?」と聞き返したアースに「なんでもない」とだけ言うと、トリプトルは照れ気味にこう答えた。
「楽しい惑星で良いんじゃないか?」
「そ、そうですよね、楽しいのが一番ですよね! ……具体的には?」
「そうだなー、切り立った崖から飛び降りて、川に着水しそうになるとびよ~ん、って跳ねる遊具とかさ。森の中をロープ1つで疾走できる遊具とかさ」
「…………」
アースが期待していた返答とは違った、が、小窓から若干見えたトリプトルが、嬉しそうに笑いながら語っていたのでそれでよかった。スリリングな言葉を紡ぐトリプトルが、可愛らしく思えた。
「自分の知らないことが一杯体験できて、勉強になります」
「真面目だなぁ、アースは」
語りながら、少し打ち解ける事が出来たかなとトリプトルも上機嫌だった。
機体が、揺れる。どうやら着陸したらしい。
しきりが開き、光が差し込んできた。手が伸ばされ、それに摑まるとアースをトロイが引っ張り上げる。
「窮屈だったろう? すまない。次は上に乗ると良い」
「いえ、楽しかったです」
自分で上がってきたトリプトルは、楽しそうに語る二人を見て、再び気落ちした。仲良さそうに寄り添っているからだ。
手を取り合って、微笑している。非常に様になる二人である。
唾を吐き捨てると、トリプトルは大袈裟に地面に飛び降りた。
「で? 何すんの、トロイ隊長」
「アースと話していたんだがな、拠点以外に休憩所を作ろうと思う。上空から見ていた限りでは、この川が一番広くなっていたからな、まず1つはここだ。この惑星の大きさが解らないから、あとは一周してみて決めたいと思う。
予測すると、大体一周できるのはこの機体全速力で……1日くらいか」
「1日、ねぇ。結構小さいな」
「そんなことはないだろう、主星が大きすぎるだけだ。近隣の惑星はそれより小さい」
この機体の速度が解らないアースには、自分の惑星の規模が予想すら出来なかった。
「しかし、どうやって休憩所作る? 木もないだろ?」
「積んできた」
トロイが機体を操作すると、下側から収納棚が出てきて何やら転がってくる。
「あぁ、移動式テントか」
「じゃ、早速組み立てよう」
アースはそれも、知らなかった。今まで様々な本を読んできたと思っていたが間違いだったようだ。自分の知識のなさに恥じる。それは仕方がないことだった、両親から贈られてきた本は、ほとんど土の精霊たるものの教訓や、歴史、惑星の正しい育成方法のみである。最近の物資について教わった事はない。
植物についてならばアースは長けているが、今はそんなもの必要ではなかった。
中心に二本の柱を置き、それを支柱として骨組みとする。そこから梁を何本も放射線状に張り巡らせて、動物の皮を垂らすのだ。油が塗ってあるので、雨も凌ぐ事が出来る。
大きさは直径4メートル程度、円形である。入口は一箇所だ、中央に焚き火をするスペースを造った。
雨風を凌げるので、そこで仮眠をとることも出来る。十分な休憩所である。
不慣れなアースも手伝い、ようやく完成したテントに入り込む。
適当に床に布を引くと、疲れたので皆寝転がった。
「というような休憩所を何個か作りたい。作りながら様子を見る」
「肉体労働ー」
リュミが項垂れるが、それでも楽しかった。初めて自分で作ったテント内で、ごろごろと転がる。
「今日はここで休憩?」
トリプトルが持ってきていた干し肉を齧りながらそう問うと、トロイが思案顔で腕を組んでいる。
「最初から飛ばしてもいけないからな、そうするか。川の調査もしたいし」
言うなり、アースが鍋を用意する。早速スープを作るらしい。自分に出来ることは、食事を作ることだけだ。
無言でトリプトルが、火をつけた。嬉しそうにアースが笑うと、照れたように鼻を鳴らす。
食事が出来るまで、トロイとトリプトルは川を見に行った。疲れたリュミは爆睡している。
「水質は完璧だな、美味いし。川の先がどなっているのか見たかったが……」
「これさ、拠点と同じ川?」
「そうだ、湖になっているのか、海になっているのか。明日はこの先へ行く」
トロイが先導してくれて本当によかったと、トリプトルは思った。流石自慢の親友だと。強くて、頼りがいがあり、悔しいが見た目も申し分ない。
沈黙しているトリプトルを不思議そうに見たトロイだが、ズボンの裾を捲り上げ川に入ると瞳を閉じた。
両手を突き出し、そっと水中に入れる。と、水中から光が溢れる。水が、溢れる。
水の精霊の魔力だ、この惑星に力を与えているのだろう。川は、急に水嵩を増す。じわりじわりと川幅を広げる。
「アースに、水の力が必要だと頼まれたからな、行く先でこうしていくつもりだ」
「へぇ」
オレの出番は、まだだろうか。零したトリプトルは少し忌々しそうに満足そうに微笑しているトロイを、ぼんやりと見た。
こうして四人は暫く惑星の把握に奮闘した。結果、解った事は現在川は五本存在するという事。内、二本は湖に注がれ三本は海に流れ出ている。大陸は1つだった、全て繋がっている。大きな山が五箇所あるので、アースはまず山を育てる事にした。山に木々があれば、雨を貯水できる。地中に張った根が、水を含む。
四人で山を回り、トロイが川に力を注ぎ、アースが山に木々を生やし、リュミが育った木々や草の種を風で飛ばす。そうしてトリプトルが火の力で空気を温め、植物の成長を早めていた。
移動式のテントは全部で惑星に四箇所、拠点は拠点として、一箇所は余裕が出来たので木々で小屋を作った。
最後に完成した森林の中に建てられた物で、仮眠用に二人寝たら狭いベッドと、物書き用の椅子と机が設置された。
四人は、拠点で過ごしながら地図に情報を書き込み、時には単独で行動することも増えてきた。
この山に風が足りないとなれば、リュミが単独で向かう。アース以外の誰もが、機体を操縦できるようになっていた。
「アース! ジェラール山の麓の植物が様子が変だったよ! 水は循環してて完璧なんだけど……どういったらいいのかな、弱々しくて」
戻ってきたリュミが不安そうにそう告げると、アースが立ち上がる。必要なのは水でも風でもない、この場合火だ。
アースは、そっとトリプトルの様子を窺うと、むっとした感じで立ち上がっている。
「協力するから不安そうな顔するな」
「す、すいません」
トロイに髪を撫でられ、アースはトリプトルと共に機体に乗り込んだ。二人で出かけるのは初めてだ。
「ひっどいよ! 何やってんの。食べ物探してきたのに」
「クラッカーか、良いじゃないか。熱々のスープと戴こう。完璧な食事だな」
アースがゆっくりと、鍋を掻き混ぜている。リュミが次はきょとん、として何度も瞬きを繰り返す番である。
「アース、料理出来たの?」
「うん。私、子供の頃から自分の食事は自分で作ることのほうが多かったし……。お母さんが作ってくれることもあったけど、居ない時は作ってたよ。スープしか作ることが出来ないけど」
「あー……」
確かに、そうだろうなとリュミは顔を顰める。アースの両親は、アースに対して非常に冷たい。ただ、自分達の地位を上げるためのモノとしか見ていないようだった。それならそれで、もっと鎌ってやれば良いと思うのだが、何故か近寄るのすら嫌悪感を抱くように、距離を置いていたように思える。
実の、我が子だろうに。
リュミも座り込み、スープが出来上がるのを待った。ことこと、と中で野菜達が動く音と、漂う香りが空腹を刺激する。
「まだー?」
トリプトルが頭をかきながら、仏頂面でアースを見ると申し訳なさそうにアースが項垂れる。
「も、もう少し待って下さいね。ほ、本当は何日も煮込んだほうが美味しいのですが……」
「そんなに待てないけど?」
「お前、子供じゃないんだから食事くらい待て。……アース、トリプトルは気にしなくて良いから自分の好きな様に作るんだ」
つまらなさそうに、トリプトルが地面に転がる。「出来たら起こして」と呟いて瞳を閉じた。空腹に耐えかねて仮眠するらしい。苦笑し、トロイが狼狽しているアースの髪を撫でた。
「気にするな、我儘なんだよコイツ。子供みたいだろ」
「誰が我儘で、子供だよ」
寝転がりながら、トリプトルがそう叫んだ。リュミが吹き出し、トロイが大袈裟に溜息を吐くと、アースも微笑する。
舌打ちし、トリプトルは忌々しそうに寝返りを打った。
暫し、トリプトルを除いて三人で会話が始まった。他愛のない世間話だ、主にリュミとトロイが剣術について語り合っている。早速、夜が明けたら修行してもらえる事になり、リュミは大声で感謝の気持ちを語った。
嬉しそうなリュミに、アースも笑みを零す。この四人ならば、愉しく過ごす事ができそうだと胸を撫で下ろした。
不安が消えていく、大事な友達のリュミ、頼り甲斐のありそうなトロイ、そして気になってしかがたがないトリプトル。
アースはちらり、と寝転がっているトリプトルの背中を見て、嬉しそうに微笑んだ。
可愛らしい、と思った。不貞腐れている姿に、胸がきゅん、となる。こんな感情は初めてなので、アースはどう表現してよいのか解らなかった。
やがて、スープが出来上がった。トロイがトリプトルを揺すり、起こすと飛び起きて手を差し出す。
「おい、順番があるだろう」
「腹減ったんだよ」
眉を潜めるトロイを無視し、空腹を訴えるトリプトルにアースは小さく笑った。二人のやり取りが面白くて笑った。ゆっくりと、器に盛り付けるとそれを差し出す。
と、互いの瞳が交差した。思わずアースは瞳を逸らし、何故か紅潮した顔を見られないようにと横を向く。
上ずった声で、震えながら呟いた。
「不味いと思いますっ、お口に合わなかったら、す、すぐに吐き出してくださいっ。その、人様に食べさせるのは初めてで、い、いつもは自分しか食べていなかったもので、感想とか、その、貰った事がなくって」
器が震えている、怯えているのだろうかとトリプトルは舌打ちした。確かに、態度が悪いので恐怖感を抱いているのかもしれない。優秀なお嬢様なのだろうから、粗野な男とは関わった事がないのだろうなと思った。
それとも、人見知りするのだろうか。いや、それにしてはトロイとは妙に馴染んでいる気がする。
むしゃくしゃして、乱暴にトリプトルは器を受け取った。器のスープが多少零れ、アースの掌にかかる。
「ぁつ」
「大丈夫か、アース! トリプトル、気をつけろ。……あぁ、少し赤くなっているな」
手を引っ込めたアースだが、飛んで来たトロイが優しく壊れ物の様に扱いながらそっと握る。スープが飛んだ箇所を、舌で嘗め上げた。
「ひゃ、ひゃぁっ」
「あぁ、すまない。つい、癖で」
驚いて声を上げたアースに、悪びれた様子もなくしれっ、と言い放ったトロイ。「何が癖だ! どんな癖だよ」と悪態つきながら、面白くなさそうにトリプトルは器に口をつける。
横目で見れば、アースは顔を紅潮させて、俯いていた。男とは過剰に触れ合ったことなどないのだろう、免疫がないに違いない。トロイは瞳を細めて、愛おしそうにその様子を見つめていた。
苛々する。自分が何かすればするほど、トロイとアースは親密になる。あれでは、アースがトロイに落ちるのも時間の問題だと思った。
昔から、トロイの周囲には女が居た、声をかけなくとも寄って来る。トリプトルとて異性の気を惹くには十分だったが、やはり共に行動しているとトロイが目立つものだった。
幸いなのか、トロイとトリプトルで付き合う異性のタイプが違っていた事だけが今まで衝突を免れていたのだが。
まさか、ココへ来て被るとは思わなかった。
トロイの好みは年配の女だった、後腐れがなくて楽だからだと以前答えた。下手に恋に憧れる女を彼女にすると、面倒らしい。女に縛られたくないのだと、言っていた。だから、特定の彼女などは作らなかったし、不特定多数と遊んでいた。そういう場合、男になれた女のほうが割り切ってくれて良いのだとか。
反面、トリプトルはごくごく普通の、同じ年代の異性と付き合ってきた。普通といっても、容姿可愛らしい女ばかりだったが。
「本気、って事かよ」
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口に入った瞬間に、トリプトルの瞳が見開いた。一口、飲んで、一気に最後まで飲み干す。
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リュミが注ぎ、口にしようとしていた器を強引に奪い取るとトリプトルは再び豪快に飲み干した。
呆気にとられて、3人はトリプトルを見つめる。視線などお構いなしに、再びトリプトルは器にスープを注いでいる。
器から現れたトリプトルの顔が、無邪気に笑っていた。何度、飲み干したのか。
「待てトリプトル! 勝手に飲むなよ、なくなるだろうが」
「決めた、これ、全部オレが飲む」
「馬鹿いうな、寄越せ!」
慌ててトロイが鍋を奪った、必死にスープの取り合いをする二人に、唖然としていたアース。
「あ、あの、トリプトルさん。その、美味しかったですか?」
「美味しいに決まってるだろ!? だから全部飲むっ」
声をかければ、弾んだ返答が戻ってきた。思わずアースはぱぁ、と顔を輝かせ恥ずかしそうに俯いた。
胸の前で手を組み、力を篭める。嬉しくて、嬉しくて、楽しい。
トリプトルが、楽しそうに笑ってくれた。あの笑顔が、堪らなく心に痺れた。甘い甘い、感情を呼び起こす。
その様子を、リュミが眉を潜めて見ていることなど知らず。けれども、リュミはアースを見て、トリプトルを見て、困惑気味に笑うと頭をかく。「失恋かも」と、呟きながら。
結局スープの殆んどはトリプトルが飲んでしまった。また作るから、と喧嘩寸前のトロイとトリプトルを懸命に引き剥がし夜が明ける。結局一睡もしなかった。
流石に眠いので、四人は欠伸をすると腹も満たされたことだし、とようやく眠りについた。
次に顔を合わせることになったのは、夕方である。
最初に起きたのはアースで、紙にスクルドの現状を書き出そうとしていた。
惑星は球体だ。とりあえず、中心を現在地として、何かできれば、都度記載することにする。
昼過ぎには行動し、自分の脚で歩き回って状況を把握した。とりあえず、近隣に川が1本あることは昨夜の時点で解っている。そして、地面には草が小さいながらも生えているが、見た限りでは樹木がない。
生命がここで活動するには、草木がなければならない。川とて、まだ細く頼りない。
授業で習った、大地に潤いがなければ、命を紡ぐ作物が育たないと。そして作物は風によって種を飛ばし、増えていく。あとは、暖かな空気で作物は生長し、動物達が生まれる。
土の精霊と共に、火、水、風の精霊が協力するにはこういった意味があった。
アースが戻ってくると、トロイが起きていた。彼は主星に必要な物品を送ってもらうように要請し、届いたそれらを振り分けていた。
「お帰り、アース。見回りか? 危険な事はないだろうが、誰かを共につけると良い。一人では無理だから」
「おはようございます、トロイ様。目が早く醒めてしまって、起こすのは申し訳なくて」
珈琲を入れてくれたので、有り難くアースはそれを受け取る。食事も届いていたので、簡易に二人でそれを食べた。
食べながら、トロイが顔を顰める。
「不味いな。アースのスープが飲みたい」
「不味くはないですけど……飲みたいと言って下さるのなら、また作りますからね」
「あぁ、頼む。本当に美味しかった、あんなスープ、そこらでは飲めないぞ?」
「ふふ、嬉しいです。今日は何を作ろうかな……」
スープ会話をしながら、アースは見てきたことをトロイに語った。
「トロイ様、川の水を増幅することが出来ますか? 最初にしっかりと、水の配分をしたほうが良いと思って」
「やってみよう、アースの頼みだからな。そうそう、主星から低空飛行用の実機を届けさせた。これで探索しようじゃないか。あと、ここはあくまで拠点だ。惑星の大きさを把握し、点々と小さな小屋を作りたいと思う」
「そうですね、すぐにここへ戻れないこともあるでしょうから」
「それで、アースはどんな惑星を望んでいるんだ? 何か目標は?」
「目標といいますか……以前、人間のお友達と約束したんです。早めに私の星に移住したいから、って言われて頑張るね。って。だから、その子達をここへ呼び寄せることが目標でしょうか」
「人間の友達とは珍しいな? 直接話したのか」
トロイは驚いた、人間の存在は知っているが、習った事は『格下の生物』『進化した動物』程度である。
会話が通じるとは思わなかったのだ。
「植物も、動物も会話出来ますけど、私……。人間の子達も、同じ様に話しますよ?」
「植物、動物と会話出来るのはアースだからだ。他の精霊は無理だ。土の精霊だけの特権の筈だが……。人間は違うものなのか」
「リュミも会話してましたし、姿だって私達と同じ感じでしたよ?」
「知らなかった! ソーヴィニヨンという惑星を知っているか? あそこには、巨大な猫が主に住んでいて衣服を身に纏い、キセルも吸うんだぞ?」
「まぁ、それは知りませんでした! もふもふしてて、可愛いですね」
「オレは怖かったがな……。あの惑星では人間がペットだったな」
「色々あるんですね」
弾んだ会話をしていると、ようやくリュミとトリプトルが起きて来る。気付いて頭を下げたアースと、珈琲を淹れる為立ち上がったトロイ。
実はトリプトルは先程から起きていたのだが、部屋のドアを開けて楽しそうな二人に入り込めず、ずっとドアの前で立っていた。ようやく間の抜けた欠伸と共にリュミが起きて来たので、一緒に出てきただけである。
二人の醸し出す雰囲気は、まるで数日前に出会ったとは思えない、親密さがある。ぎりり、と唇を噛んだ。
胸が、じりじりと焼ける音がする。同じタイミングで出逢った筈なのに、この差はなんだろう。
「遅かったな二人とも、珈琲でいいだろ?」
「蜂蜜大目でお願い、僕苦いの駄目」
リュミが駆けて来てアースの隣に座ると面倒そうに、大きな欠伸をしながらトリプトルはトロイの隣に着席した。
主星から届いていたパンを手短に二人に配ると、食べるように促す。
「本格的に今日から惑星の下調べを開始する、あれに乗って探索だ」
トロイの指した方角には、純白の乗り物が一機、置いてあった。見慣れないものに、アースが瞳を数回瞬きする。興奮気味に騒ぐリュミと、あぁ、と軽く頷いたトリプトル。
「あの、あれって……なんですか?」
「アースは知らないのか。……そうか、土の精霊族は無縁かもしれないな。太陽光で浮遊する乗り物だよ」
「乗り物? 動物ですか?」
「いや、生きていない。機械、と言えばいいのかな」
形的には鳥のようだと、アースは思った。早々に食べ終えたトリプトルとリュミのカップをアースが素早く洗うと、その乗り物に皆で近づく。
「主星で充電は完璧にしてもらっている筈だから、丸一日くらいは飛行できるだろ。食料は用意したから、早速出かけるか」
純白の、艶やかな機体。細長く、羽根が左右対照で一対。小柄だが一応四人乗りらしい。機体に『4』と書いてあった。
操縦はトロイが担当した、トリプトルも操作可能らしいが、まだ眠いと首を横に振る。
トリプトルとアースが先に乗り込んだ、冷たい機体を物珍しそうに触りながら、アースは狭い席に座る。左右には小窓がついていた。二層式になっているので、二人が乗り込むとトロイがボタンで操作し、しきりを作る。その上にリュミとトロイが乗り込む仕組みである。
「す、凄いものですね……」
「こんなの、最近は当然だろ。遅れてるんだな土の精霊は」
「ご、ごめんなさい」
密室に気まずい空気が流れた、失敗した、とトリプトルは思った。縦並びに座っているので、トリプトルからはアースの髪しか見えない。華奢な身体は背もたれに隠れてしまっている。足は適度に伸ばす事が出来るが何分狭い、楽しく会話など出来たものではない。
沈黙が流れた。絶えかねて、トリプトルが瞳を閉じ、ぶっきらぼうに言葉を投げかける。
「オレ、寝てるから。一人で見といて、独り言とか気にしないし」
「あ、はい。おやすみなさい」
やはり、怯えている様子のアースに、それしか思いつかなかった。どのみち、トロイのように会話も弾まないだろうと腕を組んで眠りに入る。眠くはなかったが。
どうするだろうかとそっと瞳を開いてみると、物珍しそうにアースは小窓から外を見ている。
見たところで、まだ何もないだろうに……。と、トリプトルは再び瞳を閉じた。
「あ、あの。寝ていますか、トリプトルさん」
数分後、突然話しかけられた。起きていたが、会話が続かないだろうし、上手く語る自信もなかったので返答しない。寝たふりを決め込む。わざとらしく、寝息も立てた。
「き、昨日、美味しいって言ってもらえて、その、凄く嬉しかったです。あ、あまり誉められたことないので、すごく、嬉しかったです……。また、作るので、飲んでください、ね」
驚いて、流石に反射的に飛び起きた。
びっくりしたのは、アースだ。寝ていると思っていたのに、動いたから。慌てふためく。
「お、起こしちゃいましたか!? すい、すいません」
「あー、い、今起きた。よ、呼ばれたような気がして」
「そ、そうですか。えっと、えーっと、あ、あの、どんな惑星にしたら良いかご相談しようかなと思って、お、起きていらっしゃったら」
無理な言い訳に、思わずトリプトルはくすり、と笑う。不思議そうに「え?」と聞き返したアースに「なんでもない」とだけ言うと、トリプトルは照れ気味にこう答えた。
「楽しい惑星で良いんじゃないか?」
「そ、そうですよね、楽しいのが一番ですよね! ……具体的には?」
「そうだなー、切り立った崖から飛び降りて、川に着水しそうになるとびよ~ん、って跳ねる遊具とかさ。森の中をロープ1つで疾走できる遊具とかさ」
「…………」
アースが期待していた返答とは違った、が、小窓から若干見えたトリプトルが、嬉しそうに笑いながら語っていたのでそれでよかった。スリリングな言葉を紡ぐトリプトルが、可愛らしく思えた。
「自分の知らないことが一杯体験できて、勉強になります」
「真面目だなぁ、アースは」
語りながら、少し打ち解ける事が出来たかなとトリプトルも上機嫌だった。
機体が、揺れる。どうやら着陸したらしい。
しきりが開き、光が差し込んできた。手が伸ばされ、それに摑まるとアースをトロイが引っ張り上げる。
「窮屈だったろう? すまない。次は上に乗ると良い」
「いえ、楽しかったです」
自分で上がってきたトリプトルは、楽しそうに語る二人を見て、再び気落ちした。仲良さそうに寄り添っているからだ。
手を取り合って、微笑している。非常に様になる二人である。
唾を吐き捨てると、トリプトルは大袈裟に地面に飛び降りた。
「で? 何すんの、トロイ隊長」
「アースと話していたんだがな、拠点以外に休憩所を作ろうと思う。上空から見ていた限りでは、この川が一番広くなっていたからな、まず1つはここだ。この惑星の大きさが解らないから、あとは一周してみて決めたいと思う。
予測すると、大体一周できるのはこの機体全速力で……1日くらいか」
「1日、ねぇ。結構小さいな」
「そんなことはないだろう、主星が大きすぎるだけだ。近隣の惑星はそれより小さい」
この機体の速度が解らないアースには、自分の惑星の規模が予想すら出来なかった。
「しかし、どうやって休憩所作る? 木もないだろ?」
「積んできた」
トロイが機体を操作すると、下側から収納棚が出てきて何やら転がってくる。
「あぁ、移動式テントか」
「じゃ、早速組み立てよう」
アースはそれも、知らなかった。今まで様々な本を読んできたと思っていたが間違いだったようだ。自分の知識のなさに恥じる。それは仕方がないことだった、両親から贈られてきた本は、ほとんど土の精霊たるものの教訓や、歴史、惑星の正しい育成方法のみである。最近の物資について教わった事はない。
植物についてならばアースは長けているが、今はそんなもの必要ではなかった。
中心に二本の柱を置き、それを支柱として骨組みとする。そこから梁を何本も放射線状に張り巡らせて、動物の皮を垂らすのだ。油が塗ってあるので、雨も凌ぐ事が出来る。
大きさは直径4メートル程度、円形である。入口は一箇所だ、中央に焚き火をするスペースを造った。
雨風を凌げるので、そこで仮眠をとることも出来る。十分な休憩所である。
不慣れなアースも手伝い、ようやく完成したテントに入り込む。
適当に床に布を引くと、疲れたので皆寝転がった。
「というような休憩所を何個か作りたい。作りながら様子を見る」
「肉体労働ー」
リュミが項垂れるが、それでも楽しかった。初めて自分で作ったテント内で、ごろごろと転がる。
「今日はここで休憩?」
トリプトルが持ってきていた干し肉を齧りながらそう問うと、トロイが思案顔で腕を組んでいる。
「最初から飛ばしてもいけないからな、そうするか。川の調査もしたいし」
言うなり、アースが鍋を用意する。早速スープを作るらしい。自分に出来ることは、食事を作ることだけだ。
無言でトリプトルが、火をつけた。嬉しそうにアースが笑うと、照れたように鼻を鳴らす。
食事が出来るまで、トロイとトリプトルは川を見に行った。疲れたリュミは爆睡している。
「水質は完璧だな、美味いし。川の先がどなっているのか見たかったが……」
「これさ、拠点と同じ川?」
「そうだ、湖になっているのか、海になっているのか。明日はこの先へ行く」
トロイが先導してくれて本当によかったと、トリプトルは思った。流石自慢の親友だと。強くて、頼りがいがあり、悔しいが見た目も申し分ない。
沈黙しているトリプトルを不思議そうに見たトロイだが、ズボンの裾を捲り上げ川に入ると瞳を閉じた。
両手を突き出し、そっと水中に入れる。と、水中から光が溢れる。水が、溢れる。
水の精霊の魔力だ、この惑星に力を与えているのだろう。川は、急に水嵩を増す。じわりじわりと川幅を広げる。
「アースに、水の力が必要だと頼まれたからな、行く先でこうしていくつもりだ」
「へぇ」
オレの出番は、まだだろうか。零したトリプトルは少し忌々しそうに満足そうに微笑しているトロイを、ぼんやりと見た。
こうして四人は暫く惑星の把握に奮闘した。結果、解った事は現在川は五本存在するという事。内、二本は湖に注がれ三本は海に流れ出ている。大陸は1つだった、全て繋がっている。大きな山が五箇所あるので、アースはまず山を育てる事にした。山に木々があれば、雨を貯水できる。地中に張った根が、水を含む。
四人で山を回り、トロイが川に力を注ぎ、アースが山に木々を生やし、リュミが育った木々や草の種を風で飛ばす。そうしてトリプトルが火の力で空気を温め、植物の成長を早めていた。
移動式のテントは全部で惑星に四箇所、拠点は拠点として、一箇所は余裕が出来たので木々で小屋を作った。
最後に完成した森林の中に建てられた物で、仮眠用に二人寝たら狭いベッドと、物書き用の椅子と机が設置された。
四人は、拠点で過ごしながら地図に情報を書き込み、時には単独で行動することも増えてきた。
この山に風が足りないとなれば、リュミが単独で向かう。アース以外の誰もが、機体を操縦できるようになっていた。
「アース! ジェラール山の麓の植物が様子が変だったよ! 水は循環してて完璧なんだけど……どういったらいいのかな、弱々しくて」
戻ってきたリュミが不安そうにそう告げると、アースが立ち上がる。必要なのは水でも風でもない、この場合火だ。
アースは、そっとトリプトルの様子を窺うと、むっとした感じで立ち上がっている。
「協力するから不安そうな顔するな」
「す、すいません」
トロイに髪を撫でられ、アースはトリプトルと共に機体に乗り込んだ。二人で出かけるのは初めてだ。
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