別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
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よいしょー。
静まり返った会場内で、ただ、二人は抱き合う。トシェリーは微かに震えながら、アロスの髪を撫でた。
彼の唇が、何か告げているが声は聞き取れない。何を、言ったのだろう。誰にも、聴こえなかった。
ようやく我に返った司会者が、控え目に、一歩進み出る。
「あ、あのー」
『お知り合いですか?』 思わずそう声をかけたくなったが、それは禁句だ。この闇市競売に参加する者達の素性は、決して詮索してはならない。
喉を大きく鳴らして唾を飲み込み、司会者が笑いながら拍手をする。途端に会場からもまばらに拍手が上がった。
「で、では。三十八番お人形アロスちゃんは30000にて落札されました~! 皆様、次回またお会い致しましょう」
それでも、二人はただ抱き合った。何処かで囁かれる、「茶番だったのではないか」と。
アルゴンキンにアロスを欲しいと所望したが、追い返されたため誘拐し、茶番劇を繰り広げたのではないかと。
でなければ、何故二人は求め合うように惹かれ合ったのか。顔見知りであったのではないか。
誰の目から見ても、二人は惹かれ合っていた。アロスの安堵したような表情を見れば、誰でもそう思える。
けれども、二人は初対面だ。それは、間違いない。
……”過去”に、何度も愛し合った仲ではあったが。
そんな二人に軽く視線を流し、闇市競売の会場からは人々が立ち去る。
出入り口付近の花瓶が割られ、絨毯が水浸しになっていた。皆、仮面の下で眉を潜めた。何枚も高価な布が敷かれて、普通に歩く事はできたがこのような事態は初めてだ。
床にも、花瓶の破片が散乱している。関係者が片付けてはいるのだが、被害は大きい。
美しい花が、無残に転がっていた。
従者を殴りつけている男が1人。顔は腫れ上がり、歯は欠け、眼球も飛び出している。口からは血を流し、もう、何も話す事が出来なかった。
闇市競売から、ほど近い高級宿の一角である。
最上階の高額な一室に宿泊していたラングは、従者を殴り続けていた。もはや、従者は虫の息だった。
血走った瞳で、ラングは殴り続けている。骨が折れる音が部屋に響いている。床に、鮮血が夥しく飛び散っている。
「いったい、幾らの金を注ぎ込んだと思っておるんだあぁあ! えぇ!? えぇ!? 落札出来ぬとは、どういうことだぁぁぁぁぁぁぁっ!」
大声は、下の階の宿泊客にも届いた。何を言っているのかまでは聴こえなかったが、人々は不気味に思い、宿の支配人に文句を次々に告げる。
支配人達は冷汗を流しながら、必死にそれらを宥めていた。
宿泊しているのは、貴族のラング。宿に到着した時はそれは上機嫌で、宿泊代以上に従業員に気前良く金を振りまいていた。必要以上に、ワインも発注してくれた。上客である。
無下には出来ない、苦情が出ているなどと言えるはずもない。
しかし、確かにあまりに酷すぎる怒鳴り声である。支配人は項垂れて部屋へ向かうしかなかった、足は重い。
部屋には、骨が砕ける音が止まることなく響いている。拳で殴ることに疲れたので、大理石で出来ていた置物を使って従者を殴りつけていた。脳みそが、散乱していた。従者の頭部は、割れてしまっていたのだ。それでも、ラングは暴行を止めない。もう、従者は死んでいるというのに。
「アロスが手に入らなかっただと!? 誰が落札したのだ!? あんなに大金を使って、数年前から準備を整えておいて、失敗しただと!? 許されるわけがないだろうが! あの娘の身体を今日こそ引き裂き、甘美な肌に舌を這わせ、可愛い奴隷人形にする計画が台無しではないかっ!」
ラングが、アロスを見たのは数年前だった。12歳になったアロスを連れて、国王主催の食事会に出向いていたアルゴンキンは、自慢の娘だと朗らかに笑っていた。その場に、ラングも居たのだ。
高名な貴族であるアルゴンキンを、鼻で笑っていたラングだが、アロスを見た瞬間に態度を翻すことになった。
歴史ある、由緒正しい貴族であるアルゴンキンは正義の塊のような男で、金はあるのに質素な生活をし、下々の者の生活を良くすべく日々力を注いでいた人物である。
ラングは馬鹿にしていた、阿呆な男も居たものだと影で笑っていた。贅沢こそ、至福。下々の者など掃いて捨てるほどいるのだから、命を救う必要はないと無下に扱った。
けれども、その娘アロスの美しさに一瞬にして虜になったラングは、事あるごとにアルゴンキンの真似をしたのだ。
貧しい人々を集め、食事を施した。職がなく、餓えに苦しむ男達に庭の整備を任した。
そうして、ラングの噂を聞きつけた貧困民達が押し寄せると、アルゴンキンが興味を示したのだ。
自分と同じ働きをしている貴族がいる、会ってみたいと思い、アルゴンキンからラングに接触した。
必死に自分を偽り、アルゴンキンを持て成し、理想を語り合うラングは滑稽である。
優雅にお辞儀をし微笑むアロスを見たいが為に、事あるごとにアルゴンキンを訪ね、招いた。
美しい、娘。
一目見れば魅了され、その身体を欲してしまう清純ながら淫靡な娘。
喉を鳴らし、何度もアロスを視姦した。懐いてもらおうと、贈り物も届けた。
自分の身なりは質素だが、娘が可愛いのでアロスには高価な衣服を身につけさせていたアルゴンキンである。ラングの贈るドレスには非常に喜んでいた。流行のぬいるぐみも、アロスに贈った。
アロスは大層嬉しそうに抱き抱えて、ラングに感謝を述べた。
よもや、疚しい瞳で見られているとは知らない、純朴な父娘は、ラングに感謝した。
アロスを嫁に欲しいなどと言えば、亀裂が走る。年齢が違いすぎるのだ、ラングとアルゴンキンがほぼ同年齢である。
それ以前に、アロスを嫁にしたいわけではなかった、ラングはただアロスを陵辱したいだけだった。
嫁にしてしまえば、アルゴンキンにも度々会ってしまうだろう。
それでは駄目なのだ、地下の拷問部屋に閉じ込めて、散々いたぶり調教し、屈服させたいというラングの願望が叶えられない。
最初は、誘拐するつもりだった。
何度か試みたのだが、アルゴンキンの屋敷は腕の立つ者が多々居り、失敗に終わった。
道中にも雇った山賊に襲わせたが、皆惨敗だった。
やがて、ラングは闇市競売に依頼することを思いついたのだ。
闇市競売は、ラングも何度か足を運んでいた。が、まさか競売品を金を積めば用意してくれることまでは知らなかった。
依頼をすれば、確実に盗難する。が、競売に出品するのでそこで競り落とさねばならないという条件がつくが、ラングが金を注ぎ込みアロス誘拐に奔放しても失敗したので、それなら確実に手に入れられる方法をとったのだ。
闇市を主催する側に、依頼金の提示をした。
誘拐が成功した時点で金の支払いが発生し、それまではラングはただ見ていれば良いとのことだった。
つまり、主催者側が誘拐に失敗したとしても、ラングは全く被害を受けないのである。
余程の自信があるのだろう、金額のやり取りは何度かしたのだが、その際もラングは金を使っていない。
ただ、計画通り”アロスを誘拐した時点”で、ラングは10000という大金を支払わなければならなかった。
アルゴンキンが屋敷を訪れた時、ラング側の警備兵達は、寄せ集めの何も知らない貧困層の者達だ。
計画的である、最初から彼らは死ぬ為にラングに雇われた。知らずに。
貧困層は、雇用してもらえ、金も気前良く払ってくれるラングに感謝していたが、ラングにとって彼らは捨て駒だった。金で命を買われたのだ。
トリフという腕の立つ小姓が問題視されたが、主催者側が起こした自然災害に見立てた問題でこの日は同行しなかった。
大雨で氾濫した川により、甚大な被害を受けた人々が困ってアルゴンキンに相談をしたことが発端だが、先導したのは主催者である。
確実に依頼を遂行する為に、主催者側は細かな計画を練っているのだ。
トリフがアロスの傍におらず、アルゴンキンの兵は腕が立てども、ラングが配置した兵は素人。そこへ、頭の切れるオルトールという名の暗殺者と、殺人には慣れているならず者が襲い掛かった。
上手くアルゴンキンを油断させ、アロスと引き離したのだ。
アルゴンキンも葬っても良かったのだが、恩を売っておこうと必死にアロスを捜す”フリ”をした。
それに、アロスが手に入った場合、地下で幽閉されているその上の部屋にアルゴンキンを招き入れることになるので、想像すると愉快だったのだ。
離れ離れになった父娘、笑いが込み上げた。
主催者が上手くアロスを誘拐し、金を支払ったラングは鼻の穴を膨らませていた。
金を余分に支払い、アロスの道中にかかる費用を負担した。可哀想なアロスに、せめてもの餞だ。
だから、昔自分が贈ったぬいぐるみも渡すように取り計らったのである。
アルゴンキンからは信頼されたまま、アロスが手に入る。
無事にアロスは闇市競売の会場に到着し、あとは落札すれば済むだけの話だった。
だが、依頼したとしても競り落とさねばならない。
賄賂はきかない、ラングが確実に競り落とすことが出来るという保障は、主催者はしていなかった。
それは、重々ラングにも説明がしてあったのだ。
ラングにとっての誤算は、あの闇市競売の場に意外な人物が居たことである。
紫銀の髪。
まだ、若いであろうその男。
見れば、大概居合わせた者達は知っていた。
ブルーケレンの若き国王・トシェリーであると。
元々は小さな国家だったが、先代の王が野心家で戦争を繰り返し国を大きくした。
トシェリーはその息子だ、親譲りの残忍な野心で強引に同盟国を増やし、のし上がってきた国の王である。
若いからと皆小馬鹿にしていたのだが、無邪気に見える笑顔の瞳が妙に恐ろしく、対峙したものは畏怖の念を抱く。
背筋を伝う汗は、トシェリーの異様な雰囲気を察知してのものだろう。
歳にしてまだ二十歳そこらだが、”悪魔に魅入られた男”だと噂されていた。
まさか、高額をアロスに注ぎ込んでくる者がいるとは思わなかった。
いや、アロスを見れば参戦してくる者はいるだろうとラングとて思ってはいたが、あそこまで金額が競りあがるとは思ってなかったのだ。
アロス誘拐を主催者に依頼し、アロスの道中にも金を湯水の様に使ったラングは、トシェリーの金額以上を直様出すことが出来なかったのである。
ラングは、半ば狂いながら吼えた。
室内の家具を、破壊して廻った。金をドブに捨てただけだった、アロスは手に入らなかった。
どうすれば良い、あの落札者からアロスを奪うにはどうすれば良い。
また、主催者に誘拐を依頼すべきなのか、そして競売にまた出すべきなのか。
ふと、ラングは部屋の中央で立ち止まった。
ゆっくりと、口元に笑みを浮かべ、笑い出す。腹の底から笑い出す。
突如聴こえ始めた笑い声に、宿の支配人は身の毛がよだつ。
もはや、室内には狂人がいるとしか思えなかった。
「ふは、ふはははは! そうだ、闇市競売を明るみに出してやろう! 知ったことではない、アルゴンキンに話し、違法な競売が行われていると行政に触れ込み、壊滅させてしまえばいい! そうしてアロスをアルゴンキンの許に返せばよいのだ! アルゴンキンは敬意を払うだろう、アロスも……」
「それは取引違反になる」
ラングの顔が、歪んだ。
ごとん、と音が響く。床に、ラングの頭部が転がっていた。
「契約内容を破棄した場合、抹殺。……主催者側は、依頼を必ず遂行する。競売に出すところまでは責任を持つが、後は知らない。競り落とせなかった場合の保証は、ない。万が一、この件を何者かに漏らした場合即抹殺……。聴いていただろう? それを了承し、取引に及んだのだろう? 愚行だったな」
天井から、1つの影がラングの背後に回り剣で無造作に首を斬り落としていた。
皮肉にも、それはオルトールであった。
アロスを誘拐する任務を受け、大金を貰い適当に暮らしていたのだが、次の依頼を受けてみればラングの監視であった。妙な動きをする場合、抹殺せよと命を受けていた。
ラングの顔は、困惑気味で、血走った瞳で宙を見ている。
オルトールは小さく溜息を吐くと、呟いた。「あの娘は、どうなるんだろうな」と。
こんな変態外道親父に手篭めにされなくてよかったのか、それとも。
オルトールは、再び姿を消した。
そうして支配人が部屋に入ってきたとき、全身が潰れている従者と、首が転がっているラングの死体、充満する血の匂いでその宿は悲鳴に包まれた。
後に、ラングが何者かに殺害されたのは、アルゴンキンの娘アロスについての手がかりを掴み、暗殺されたのだと噂された。
名誉の死だと、囁かれた。
アルゴンキンも、涙を流しラングを弔った。
まさか、元凶がラングであるとも知らず。
彼の唇が、何か告げているが声は聞き取れない。何を、言ったのだろう。誰にも、聴こえなかった。
ようやく我に返った司会者が、控え目に、一歩進み出る。
「あ、あのー」
『お知り合いですか?』 思わずそう声をかけたくなったが、それは禁句だ。この闇市競売に参加する者達の素性は、決して詮索してはならない。
喉を大きく鳴らして唾を飲み込み、司会者が笑いながら拍手をする。途端に会場からもまばらに拍手が上がった。
「で、では。三十八番お人形アロスちゃんは30000にて落札されました~! 皆様、次回またお会い致しましょう」
それでも、二人はただ抱き合った。何処かで囁かれる、「茶番だったのではないか」と。
アルゴンキンにアロスを欲しいと所望したが、追い返されたため誘拐し、茶番劇を繰り広げたのではないかと。
でなければ、何故二人は求め合うように惹かれ合ったのか。顔見知りであったのではないか。
誰の目から見ても、二人は惹かれ合っていた。アロスの安堵したような表情を見れば、誰でもそう思える。
けれども、二人は初対面だ。それは、間違いない。
……”過去”に、何度も愛し合った仲ではあったが。
そんな二人に軽く視線を流し、闇市競売の会場からは人々が立ち去る。
出入り口付近の花瓶が割られ、絨毯が水浸しになっていた。皆、仮面の下で眉を潜めた。何枚も高価な布が敷かれて、普通に歩く事はできたがこのような事態は初めてだ。
床にも、花瓶の破片が散乱している。関係者が片付けてはいるのだが、被害は大きい。
美しい花が、無残に転がっていた。
従者を殴りつけている男が1人。顔は腫れ上がり、歯は欠け、眼球も飛び出している。口からは血を流し、もう、何も話す事が出来なかった。
闇市競売から、ほど近い高級宿の一角である。
最上階の高額な一室に宿泊していたラングは、従者を殴り続けていた。もはや、従者は虫の息だった。
血走った瞳で、ラングは殴り続けている。骨が折れる音が部屋に響いている。床に、鮮血が夥しく飛び散っている。
「いったい、幾らの金を注ぎ込んだと思っておるんだあぁあ! えぇ!? えぇ!? 落札出来ぬとは、どういうことだぁぁぁぁぁぁぁっ!」
大声は、下の階の宿泊客にも届いた。何を言っているのかまでは聴こえなかったが、人々は不気味に思い、宿の支配人に文句を次々に告げる。
支配人達は冷汗を流しながら、必死にそれらを宥めていた。
宿泊しているのは、貴族のラング。宿に到着した時はそれは上機嫌で、宿泊代以上に従業員に気前良く金を振りまいていた。必要以上に、ワインも発注してくれた。上客である。
無下には出来ない、苦情が出ているなどと言えるはずもない。
しかし、確かにあまりに酷すぎる怒鳴り声である。支配人は項垂れて部屋へ向かうしかなかった、足は重い。
部屋には、骨が砕ける音が止まることなく響いている。拳で殴ることに疲れたので、大理石で出来ていた置物を使って従者を殴りつけていた。脳みそが、散乱していた。従者の頭部は、割れてしまっていたのだ。それでも、ラングは暴行を止めない。もう、従者は死んでいるというのに。
「アロスが手に入らなかっただと!? 誰が落札したのだ!? あんなに大金を使って、数年前から準備を整えておいて、失敗しただと!? 許されるわけがないだろうが! あの娘の身体を今日こそ引き裂き、甘美な肌に舌を這わせ、可愛い奴隷人形にする計画が台無しではないかっ!」
ラングが、アロスを見たのは数年前だった。12歳になったアロスを連れて、国王主催の食事会に出向いていたアルゴンキンは、自慢の娘だと朗らかに笑っていた。その場に、ラングも居たのだ。
高名な貴族であるアルゴンキンを、鼻で笑っていたラングだが、アロスを見た瞬間に態度を翻すことになった。
歴史ある、由緒正しい貴族であるアルゴンキンは正義の塊のような男で、金はあるのに質素な生活をし、下々の者の生活を良くすべく日々力を注いでいた人物である。
ラングは馬鹿にしていた、阿呆な男も居たものだと影で笑っていた。贅沢こそ、至福。下々の者など掃いて捨てるほどいるのだから、命を救う必要はないと無下に扱った。
けれども、その娘アロスの美しさに一瞬にして虜になったラングは、事あるごとにアルゴンキンの真似をしたのだ。
貧しい人々を集め、食事を施した。職がなく、餓えに苦しむ男達に庭の整備を任した。
そうして、ラングの噂を聞きつけた貧困民達が押し寄せると、アルゴンキンが興味を示したのだ。
自分と同じ働きをしている貴族がいる、会ってみたいと思い、アルゴンキンからラングに接触した。
必死に自分を偽り、アルゴンキンを持て成し、理想を語り合うラングは滑稽である。
優雅にお辞儀をし微笑むアロスを見たいが為に、事あるごとにアルゴンキンを訪ね、招いた。
美しい、娘。
一目見れば魅了され、その身体を欲してしまう清純ながら淫靡な娘。
喉を鳴らし、何度もアロスを視姦した。懐いてもらおうと、贈り物も届けた。
自分の身なりは質素だが、娘が可愛いのでアロスには高価な衣服を身につけさせていたアルゴンキンである。ラングの贈るドレスには非常に喜んでいた。流行のぬいるぐみも、アロスに贈った。
アロスは大層嬉しそうに抱き抱えて、ラングに感謝を述べた。
よもや、疚しい瞳で見られているとは知らない、純朴な父娘は、ラングに感謝した。
アロスを嫁に欲しいなどと言えば、亀裂が走る。年齢が違いすぎるのだ、ラングとアルゴンキンがほぼ同年齢である。
それ以前に、アロスを嫁にしたいわけではなかった、ラングはただアロスを陵辱したいだけだった。
嫁にしてしまえば、アルゴンキンにも度々会ってしまうだろう。
それでは駄目なのだ、地下の拷問部屋に閉じ込めて、散々いたぶり調教し、屈服させたいというラングの願望が叶えられない。
最初は、誘拐するつもりだった。
何度か試みたのだが、アルゴンキンの屋敷は腕の立つ者が多々居り、失敗に終わった。
道中にも雇った山賊に襲わせたが、皆惨敗だった。
やがて、ラングは闇市競売に依頼することを思いついたのだ。
闇市競売は、ラングも何度か足を運んでいた。が、まさか競売品を金を積めば用意してくれることまでは知らなかった。
依頼をすれば、確実に盗難する。が、競売に出品するのでそこで競り落とさねばならないという条件がつくが、ラングが金を注ぎ込みアロス誘拐に奔放しても失敗したので、それなら確実に手に入れられる方法をとったのだ。
闇市を主催する側に、依頼金の提示をした。
誘拐が成功した時点で金の支払いが発生し、それまではラングはただ見ていれば良いとのことだった。
つまり、主催者側が誘拐に失敗したとしても、ラングは全く被害を受けないのである。
余程の自信があるのだろう、金額のやり取りは何度かしたのだが、その際もラングは金を使っていない。
ただ、計画通り”アロスを誘拐した時点”で、ラングは10000という大金を支払わなければならなかった。
アルゴンキンが屋敷を訪れた時、ラング側の警備兵達は、寄せ集めの何も知らない貧困層の者達だ。
計画的である、最初から彼らは死ぬ為にラングに雇われた。知らずに。
貧困層は、雇用してもらえ、金も気前良く払ってくれるラングに感謝していたが、ラングにとって彼らは捨て駒だった。金で命を買われたのだ。
トリフという腕の立つ小姓が問題視されたが、主催者側が起こした自然災害に見立てた問題でこの日は同行しなかった。
大雨で氾濫した川により、甚大な被害を受けた人々が困ってアルゴンキンに相談をしたことが発端だが、先導したのは主催者である。
確実に依頼を遂行する為に、主催者側は細かな計画を練っているのだ。
トリフがアロスの傍におらず、アルゴンキンの兵は腕が立てども、ラングが配置した兵は素人。そこへ、頭の切れるオルトールという名の暗殺者と、殺人には慣れているならず者が襲い掛かった。
上手くアルゴンキンを油断させ、アロスと引き離したのだ。
アルゴンキンも葬っても良かったのだが、恩を売っておこうと必死にアロスを捜す”フリ”をした。
それに、アロスが手に入った場合、地下で幽閉されているその上の部屋にアルゴンキンを招き入れることになるので、想像すると愉快だったのだ。
離れ離れになった父娘、笑いが込み上げた。
主催者が上手くアロスを誘拐し、金を支払ったラングは鼻の穴を膨らませていた。
金を余分に支払い、アロスの道中にかかる費用を負担した。可哀想なアロスに、せめてもの餞だ。
だから、昔自分が贈ったぬいぐるみも渡すように取り計らったのである。
アルゴンキンからは信頼されたまま、アロスが手に入る。
無事にアロスは闇市競売の会場に到着し、あとは落札すれば済むだけの話だった。
だが、依頼したとしても競り落とさねばならない。
賄賂はきかない、ラングが確実に競り落とすことが出来るという保障は、主催者はしていなかった。
それは、重々ラングにも説明がしてあったのだ。
ラングにとっての誤算は、あの闇市競売の場に意外な人物が居たことである。
紫銀の髪。
まだ、若いであろうその男。
見れば、大概居合わせた者達は知っていた。
ブルーケレンの若き国王・トシェリーであると。
元々は小さな国家だったが、先代の王が野心家で戦争を繰り返し国を大きくした。
トシェリーはその息子だ、親譲りの残忍な野心で強引に同盟国を増やし、のし上がってきた国の王である。
若いからと皆小馬鹿にしていたのだが、無邪気に見える笑顔の瞳が妙に恐ろしく、対峙したものは畏怖の念を抱く。
背筋を伝う汗は、トシェリーの異様な雰囲気を察知してのものだろう。
歳にしてまだ二十歳そこらだが、”悪魔に魅入られた男”だと噂されていた。
まさか、高額をアロスに注ぎ込んでくる者がいるとは思わなかった。
いや、アロスを見れば参戦してくる者はいるだろうとラングとて思ってはいたが、あそこまで金額が競りあがるとは思ってなかったのだ。
アロス誘拐を主催者に依頼し、アロスの道中にも金を湯水の様に使ったラングは、トシェリーの金額以上を直様出すことが出来なかったのである。
ラングは、半ば狂いながら吼えた。
室内の家具を、破壊して廻った。金をドブに捨てただけだった、アロスは手に入らなかった。
どうすれば良い、あの落札者からアロスを奪うにはどうすれば良い。
また、主催者に誘拐を依頼すべきなのか、そして競売にまた出すべきなのか。
ふと、ラングは部屋の中央で立ち止まった。
ゆっくりと、口元に笑みを浮かべ、笑い出す。腹の底から笑い出す。
突如聴こえ始めた笑い声に、宿の支配人は身の毛がよだつ。
もはや、室内には狂人がいるとしか思えなかった。
「ふは、ふはははは! そうだ、闇市競売を明るみに出してやろう! 知ったことではない、アルゴンキンに話し、違法な競売が行われていると行政に触れ込み、壊滅させてしまえばいい! そうしてアロスをアルゴンキンの許に返せばよいのだ! アルゴンキンは敬意を払うだろう、アロスも……」
「それは取引違反になる」
ラングの顔が、歪んだ。
ごとん、と音が響く。床に、ラングの頭部が転がっていた。
「契約内容を破棄した場合、抹殺。……主催者側は、依頼を必ず遂行する。競売に出すところまでは責任を持つが、後は知らない。競り落とせなかった場合の保証は、ない。万が一、この件を何者かに漏らした場合即抹殺……。聴いていただろう? それを了承し、取引に及んだのだろう? 愚行だったな」
天井から、1つの影がラングの背後に回り剣で無造作に首を斬り落としていた。
皮肉にも、それはオルトールであった。
アロスを誘拐する任務を受け、大金を貰い適当に暮らしていたのだが、次の依頼を受けてみればラングの監視であった。妙な動きをする場合、抹殺せよと命を受けていた。
ラングの顔は、困惑気味で、血走った瞳で宙を見ている。
オルトールは小さく溜息を吐くと、呟いた。「あの娘は、どうなるんだろうな」と。
こんな変態外道親父に手篭めにされなくてよかったのか、それとも。
オルトールは、再び姿を消した。
そうして支配人が部屋に入ってきたとき、全身が潰れている従者と、首が転がっているラングの死体、充満する血の匂いでその宿は悲鳴に包まれた。
後に、ラングが何者かに殺害されたのは、アルゴンキンの娘アロスについての手がかりを掴み、暗殺されたのだと噂された。
名誉の死だと、囁かれた。
アルゴンキンも、涙を流しラングを弔った。
まさか、元凶がラングであるとも知らず。
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