別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
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トロイとリュミに見送られ、アースとトリプトルはジェラール山を目指す。
ジェラール山、という名は、リュミがつけた。大きな山が5つ存在していたので、それぞれが命名したのである。アースだけが2つ、名付けた。他にも小さな山は幾つか存在したのだが、他は後回しだ。
2人で出向くことが初めてだったので、互いに緊張感が隠せないでいる。リュミやトロイとは2人とも打ち解け、気軽に話しかけているのだが。
互いが意識し合っているので当然と言えば当然だった、だが、未だに遠慮がちに話しかけてくるアースにトリプトルは苛立ちを感じている。確かに、思い返せばアースに歩み寄った記憶が……ない。スープを作って貰った時には礼を言った気がするが、もっと誉めてやればよかったのかと悔やんだ。
あの後もアースは皆にスープを振舞っていたが、トロイがべた誉めしているのでトリプトルは最初の一度しか、「美味い」と感想を伝えていないのだ。常に2人のどちらかがアースに寄り添っているので、近寄れないということもある。
それに、2人と居る時のアースは肩の力を抜いて愉しそうだった。強張った表情で、様子を窺いながら訊いてくるとは全く違う。見ていて、それがトリプトルは不愉快だ。違いが明確に分かれ過ぎている。
アースが悪いのか、自分が悪いのか。
本当は、歩み寄りたいのに。トロイやリュミに向ける笑顔で、話しかけてきて欲しいのに。
無論、アースとてトリプトルを嫌悪しているわけでは全くない。寧ろ、最も近づきたい人物だ。
だが、トリプトルを前にすると上手く言葉が出てこなかった。多少は慣れて来たが、本来、アースは友達がいなかった。稀に、接し方が解らなくなるのだ。
リュミは気の知れた友人で、トロイは頼るべき……強いて言うなれば兄のような存在である。家族、というものに縁が薄いアースだが、兄がいたとすればトロイのような人であって欲しいと思っていた。
2人は、率先してアースに話しかける。話題を振ってくれるので、返答がし易いのだ。
だが、トリプトルは余程のことがない限り話しかけてきてくれないのだ。そもそも、惑星育成の顔合わせの時点で最悪だった。乗り気ではないトリプトルに無理強いは出来ないと、アースは申し訳ない気持ちで一杯である。
親友のトロイが居たから、来てくれたものだと思っていた。
自分は土の一族の厄介者だ、何処かで噂を聞いていたのかもしれない。何より、束縛されて知りもしない土の精霊に協力することは、普通に考えて面倒かつ迷惑な話でしかないだろう。
本当は、一番話しかけてきて欲しいのに。話しかけたいのに。どうしても、アースは踏み出せないでいた。
自分から何かして、嫌われてしまってはいけないからだ。
惑星の育成に障害が出る、というよりも、アース自身がトリプトルに嫌われでもしたら堪えられない。
それこそ、育成どころではなくなってしまう。それが、アースには解っていた。
互いに、遠慮しあってぎこちない関係になってしまっているのだ。
「大丈夫かなぁ、あの2人」
ぼそ、っとリュミが呟く。トロイとリュミは2人を見送った後剣の稽古をしていた。リュミの願いで、手が空いた時にトロイは剣術を教えている。非常に厳しいが丁寧な教え方で、リュミは目を張るほどに上達していた。
次の武術大会には参加出来るだろうと、トロイは見ている。
稽古の合間に珈琲で休憩をしているのだが、不安そうに漏らしたリュミにトロイが顔を上げた。
珈琲片手に惑星の現状を書きとめてある資料を読み返していたのだが、怪訝に眉を潜めた。
「あの2人? 何か問題でも?」
「ううん、問題っていうかさ、あんまり……まだ親密じゃないよね。っていうか、打ち解けてないよね」
なんとなく、両思いっぽいけど。……と唇を動かしたがトロイには伝わらなかったようだ。
アースを友人の域を超えた想いで見つめていたリュミには、解っている。アースの視線の先にはトリプトル。上手く話しかけられていないが、必ず見つめている。
会話出来ようものならば、頬を赤く染めて幸せそうに俯いて笑みを浮かべる……そんな様子をもう何度か見ている。
「まぁ、トリプトルは口が悪いから。育ちの良いお嬢様には、少し抵抗があるかもな」
「いや、アースは育ちは別に良くないよ……。ただ、家庭に問題があるだけで、一般的な家柄だよ」
「そうなのか、てっきり名家の娘かと」
「あー、やっぱりねぇ。淑やかだし、立ち振る舞いが上品だからそう見えるかもしれないけど。アースの家は土の精霊の中でもかなり位の低い一族だよ、どうでもいいけど」
「知らなかったな。両親と仲が良くないようだったから、家庭の事に関しては踏み込まなかった。……しかし、オレの受けた授業によれば、強大で優秀な土の精霊は名家の者であると」
「うん、今までの過去の統計はそうみたいだね。僕もそう習った。けど、アースは違うんだ。本当に特殊なんだよ。だから、両親に愛されていないのかもしれないね」
「……突然変異の神の申し子か」
「と、突然変異って言い方はちょっと、あれだけど。でも、言い得て妙だなぁ」
深く思案しているトロイに、リュミは苦笑する。トロイもまた、アースを見つめていることはリュミも知っていた。
4人の中で女が1人、ならば確かに集中してしまうだろう。だが、アースの場合は4人でいようが関係ない気がする。
秀でた美貌と、物腰柔らかな声、それだけで大概の男は目を奪われる。
歳を重ねるごとに、アースは艶めいた表情も出すようになっていた。本人にそのような気はないだろうが、伏目がちだと妙に、胸がざわつくのだ。
それはおそらく、トリプトルと出会ってから加速した。熱っぽい瞳で、トリプトルを見つめるアースは非常に艶めかしい。
トリプトルを想う気持ちが、彼女の女の部分を余計に引き出したのだろう。
「まぁ、トリプトルは心配するな。口は悪いが、本人は悪い奴じゃない。親友のオレが保障する」
いや、別の心配をしているんだけど。とリュミは内心思ったが、口には出さなかった。
リュミのいう別の心配とは、2人の想いが同じであると解った時、どうなるかということだ。
誤って一線を越えてしまうのではないかと、思えた。魅惑的なアースに想いを告げられたら、トリプトルとて理性が崩壊するのではないか……。
純潔が、土の精霊の絶対条件だ。性交をした時点で、その土の精霊の力は消え失せる。
まだ未発達なこの惑星スクルドは、そのアースの力の消失に耐えられずに死滅するだろう。
アースがそれを解っていないとも思わないし、トリプトルもそこまで浅はかではない……筈だが、リュミは杞憂だ。
トリプトルは、アースの想いに気付いていないのだろうか。
あれだけ四六時中アースを気にして寄り添っていたら、誰を見ているのか知ってしまう気がするのに。……知りたくもないのに。
けれど、トロイは気付いていなかった。
アースがトリプトルを気にかけていることは知っていたのだが、恋愛感情ではないと思っていた。
最初に見た、武術大会でアースは”優勝者である自分に”微笑んだと思い込んでいる。
トロイにとって、あの日のアースの笑みは優勝した際の勲章以上のものだった。
何度もあの美しい土の精霊を思い浮かべて、思わず口元に笑みを浮かべる夜を過ごしただろう。
映える見事な緑の髪を求めて、トロイは必死に学園を探し回った。が、規模が大きすぎて見つからなかった。
この惑星育成は、トロイにとっては最良のものだったのだ。
自分に親しげに話しかけてくれるアースが愛おしく、行動の1つ1つが新鮮だ。打算していないアースの振る舞いが初々しく、今までトロイが相手にしてきた女とは違う。
アースの笑顔が見たかった、だからトロイは常に傍に寄り添っていた。頼れる自分に、アースはそのうち恋愛感情を抱くだろうと、色恋事において無敗のトロイは過信したのだ。
直ぐ傍に、すでに心を掴んでいる親友が居たのに。
アースとトリプトルは沈黙したままジェラール山へと急いでいた、気まずい雰囲気が流れているのは互いに解るが声が出ない。
「あの」
「あのさ」
同時に声を発し、再び黙る。
「あ、あの、どうかしましたか」
「アースも言いかけたろ、なんだよ」
「あ、私は後で言うのでトリプトルさん、どうぞ」
「……じゃあ1つ。敬語、止めてくれないか?」
「あ、はい。解りました、気をつけます」
「いや、解ってないだろ。既に敬語だよ……」
「あ、ごめんなさい、気をつけます」
「いや、だから……もういい。で、アースは何が言いたかったんだ?」
「あ、ええとですね、何が起きたのかな、って思いまして」
「そんなの、行って見てみないと解らないだろ」
「そ、そうですよね。ご、ごめんなさい」
わざとらしく、トリプトルが大きく溜息を吐いた。それを聴き、アースは身を小さくする。余計なことを言ってしまったと、目の前のトリプトルの背中に小さく頭を下げて謝罪をした。
運転が出来ないアースなので、無論操作しているのはトリプトルだ。アースは後方座席で、身を再び縮める。機嫌を悪くしているとしか思えないトリプトルの邪魔にならないよう、瞳を閉じて大人しくしていようと決め込んだ。
沈黙のまま、ジェラール山の麓についた2人は様子を窺う。確かに、ようやく大地に根付いた植物達の勢いが衰えているようだ。地中の水分が不足しているわけではない、アースは地面に手をつけると原因を探る。
トリプトルは右手を翳して周辺の空気を暖めた、それくらいしかすることがない。
戸惑っているアースに、トリプトルが不審に声をかける。
「なぁ、原因は?」
「そ、それが……」
アースは言うなり地面に寝転がって仰向けになる、唖然と見ているトリプトルを尻目に、そのままゆっくりと瞳を閉じた。
大の字で寝転がる、腹部で深呼吸をしながらアースはそのままだった。
「……寂しかっただけだそうです」
「は?」
胡坐をかいて座り込んでいたトリプトルは、急に発したアースの声に、気の抜けた声を出した。
そっと横を向いて、苦笑するアースは同じ事を言う。
「あまり見回りに来てくれないから、寂しかったそうです。それで、元気がなかったみたいで。なので、すぐに治ると思います」
「なんて面倒な」
トリプトルは立ち上がると、アースの傍らに立った。
「で? もう帰っていいわけ?」
「いえ、数日はここに私、滞在します。トリプトルさんは、お帰りください。お手数をおかけして、ごめんなさい」
頭をがむしゃらにかいて、トリプトルは一旦機体へと足を向けた。だが、直ぐに戻ってくるとアースの隣に座る。
不思議そうに見上げてくるアースに、トリプトルは気まずそうに呟いた。
「ここに、居る。帰ってもロクな飯ないし、置いて帰ったらトロイに激怒されそうだし」
「……ありがとう、ございます。でも」
「腹減ったなー、何か食べたいなー」
トリプトルが、ようやくアースに笑う。手を伸ばし、寝そべったままのアースの腕を掴むと強引に起き上がらせた。
「腹、減った」
「わかり……ました。スープ、作ります」
思わずそう告げたアースに、トリプトルはくしゃりと嬉しそうに笑う。アースもそれを見て、釣られて微笑んだ。
「敬語、嫌いなんだ。”さん”づけもしないで欲しい」
「がんばり、ま……がんばる、ね?」
片言の言葉で、不安そうにそう言って見上げたアースに思わずトリプトルは吹き出す。
可愛らしい、と思ったので抱き締めたくなった。無防備なこの美しい少女を、思いきり正面から抱き締めて温もりを確かめたかった。けれども、赤面しながら横を向くと咳を1つし立ち上がる。
「行こう、アース。休憩所があるだろ、あそこで休もう」
「あ、はい」
腕を捕まれたままだったので、じっとその箇所をアースは見つめる。そこだけが、熱い。妙に、熱い。
腕から、何かが流れ込んでくるような気がして思わずアースは脱力してしまう。
がくり、と膝が揺れて前に倒れこみそうになった。慌ててそれをトリプトルが抱きとめる。
「大丈夫か? 気をつけろよ、辛い時は言えばいいんだ」
「は、はい。ありがとうございます」
「……また敬語」
「ぁう。む、難しいのです」
トリプトルの腕の中で、助けられたアースは困惑して苦笑した。やはり、気を抜くと敬語になってしまう。
呆れて溜息を吐いたトリプトルだが、ふと、自分がアースを抱き締めている状況にようやく気がついた。
倒れそうになったから、助けただけだが抱き締めていることに変わりはない。
柔らかなアースの身体、香りとてふんわりと、甘くも爽やかだ。
思わず喉を鳴らすが、トリプトルは唇を噛締めるとそのまま手を離す。
「行こう」
「あ、はい」
歩き出したトリプトルの後にアースは続いた。大きな背中を見つめ、先程まで触れられていた箇所をぎゅっと自分の腕で掴み、赤面して駆けて行く。
熱い、熱い、身体が熱い。
熱いのは、トリプトルが火の精霊だからなのだろうか? 頭が、ぼぉっとした。
抱き起こされた瞬間に、目の前で火花が飛び散った気がした。
心地良くも、歯痒い、待ち望んでいた温かさ。
アースは、前を行くトリプトルの手をじっと見つめる。自分の手よりも大きくて、温かい手だった。
また、触ってくれるだろうか……。アースはそう思って、大股のトリプトルに追いつくと隣で歩き出す。
多少、息が上がっていた。
『よかったねぇ、アース様。よかったねぇ、一緒に居られて』
『ふふふ、なんだかとっても嬉しそうだね。嬉しいね、嬉しいね!』
大地に芽吹いた草が、そう囁き合っていた。
ジェラール山、という名は、リュミがつけた。大きな山が5つ存在していたので、それぞれが命名したのである。アースだけが2つ、名付けた。他にも小さな山は幾つか存在したのだが、他は後回しだ。
2人で出向くことが初めてだったので、互いに緊張感が隠せないでいる。リュミやトロイとは2人とも打ち解け、気軽に話しかけているのだが。
互いが意識し合っているので当然と言えば当然だった、だが、未だに遠慮がちに話しかけてくるアースにトリプトルは苛立ちを感じている。確かに、思い返せばアースに歩み寄った記憶が……ない。スープを作って貰った時には礼を言った気がするが、もっと誉めてやればよかったのかと悔やんだ。
あの後もアースは皆にスープを振舞っていたが、トロイがべた誉めしているのでトリプトルは最初の一度しか、「美味い」と感想を伝えていないのだ。常に2人のどちらかがアースに寄り添っているので、近寄れないということもある。
それに、2人と居る時のアースは肩の力を抜いて愉しそうだった。強張った表情で、様子を窺いながら訊いてくるとは全く違う。見ていて、それがトリプトルは不愉快だ。違いが明確に分かれ過ぎている。
アースが悪いのか、自分が悪いのか。
本当は、歩み寄りたいのに。トロイやリュミに向ける笑顔で、話しかけてきて欲しいのに。
無論、アースとてトリプトルを嫌悪しているわけでは全くない。寧ろ、最も近づきたい人物だ。
だが、トリプトルを前にすると上手く言葉が出てこなかった。多少は慣れて来たが、本来、アースは友達がいなかった。稀に、接し方が解らなくなるのだ。
リュミは気の知れた友人で、トロイは頼るべき……強いて言うなれば兄のような存在である。家族、というものに縁が薄いアースだが、兄がいたとすればトロイのような人であって欲しいと思っていた。
2人は、率先してアースに話しかける。話題を振ってくれるので、返答がし易いのだ。
だが、トリプトルは余程のことがない限り話しかけてきてくれないのだ。そもそも、惑星育成の顔合わせの時点で最悪だった。乗り気ではないトリプトルに無理強いは出来ないと、アースは申し訳ない気持ちで一杯である。
親友のトロイが居たから、来てくれたものだと思っていた。
自分は土の一族の厄介者だ、何処かで噂を聞いていたのかもしれない。何より、束縛されて知りもしない土の精霊に協力することは、普通に考えて面倒かつ迷惑な話でしかないだろう。
本当は、一番話しかけてきて欲しいのに。話しかけたいのに。どうしても、アースは踏み出せないでいた。
自分から何かして、嫌われてしまってはいけないからだ。
惑星の育成に障害が出る、というよりも、アース自身がトリプトルに嫌われでもしたら堪えられない。
それこそ、育成どころではなくなってしまう。それが、アースには解っていた。
互いに、遠慮しあってぎこちない関係になってしまっているのだ。
「大丈夫かなぁ、あの2人」
ぼそ、っとリュミが呟く。トロイとリュミは2人を見送った後剣の稽古をしていた。リュミの願いで、手が空いた時にトロイは剣術を教えている。非常に厳しいが丁寧な教え方で、リュミは目を張るほどに上達していた。
次の武術大会には参加出来るだろうと、トロイは見ている。
稽古の合間に珈琲で休憩をしているのだが、不安そうに漏らしたリュミにトロイが顔を上げた。
珈琲片手に惑星の現状を書きとめてある資料を読み返していたのだが、怪訝に眉を潜めた。
「あの2人? 何か問題でも?」
「ううん、問題っていうかさ、あんまり……まだ親密じゃないよね。っていうか、打ち解けてないよね」
なんとなく、両思いっぽいけど。……と唇を動かしたがトロイには伝わらなかったようだ。
アースを友人の域を超えた想いで見つめていたリュミには、解っている。アースの視線の先にはトリプトル。上手く話しかけられていないが、必ず見つめている。
会話出来ようものならば、頬を赤く染めて幸せそうに俯いて笑みを浮かべる……そんな様子をもう何度か見ている。
「まぁ、トリプトルは口が悪いから。育ちの良いお嬢様には、少し抵抗があるかもな」
「いや、アースは育ちは別に良くないよ……。ただ、家庭に問題があるだけで、一般的な家柄だよ」
「そうなのか、てっきり名家の娘かと」
「あー、やっぱりねぇ。淑やかだし、立ち振る舞いが上品だからそう見えるかもしれないけど。アースの家は土の精霊の中でもかなり位の低い一族だよ、どうでもいいけど」
「知らなかったな。両親と仲が良くないようだったから、家庭の事に関しては踏み込まなかった。……しかし、オレの受けた授業によれば、強大で優秀な土の精霊は名家の者であると」
「うん、今までの過去の統計はそうみたいだね。僕もそう習った。けど、アースは違うんだ。本当に特殊なんだよ。だから、両親に愛されていないのかもしれないね」
「……突然変異の神の申し子か」
「と、突然変異って言い方はちょっと、あれだけど。でも、言い得て妙だなぁ」
深く思案しているトロイに、リュミは苦笑する。トロイもまた、アースを見つめていることはリュミも知っていた。
4人の中で女が1人、ならば確かに集中してしまうだろう。だが、アースの場合は4人でいようが関係ない気がする。
秀でた美貌と、物腰柔らかな声、それだけで大概の男は目を奪われる。
歳を重ねるごとに、アースは艶めいた表情も出すようになっていた。本人にそのような気はないだろうが、伏目がちだと妙に、胸がざわつくのだ。
それはおそらく、トリプトルと出会ってから加速した。熱っぽい瞳で、トリプトルを見つめるアースは非常に艶めかしい。
トリプトルを想う気持ちが、彼女の女の部分を余計に引き出したのだろう。
「まぁ、トリプトルは心配するな。口は悪いが、本人は悪い奴じゃない。親友のオレが保障する」
いや、別の心配をしているんだけど。とリュミは内心思ったが、口には出さなかった。
リュミのいう別の心配とは、2人の想いが同じであると解った時、どうなるかということだ。
誤って一線を越えてしまうのではないかと、思えた。魅惑的なアースに想いを告げられたら、トリプトルとて理性が崩壊するのではないか……。
純潔が、土の精霊の絶対条件だ。性交をした時点で、その土の精霊の力は消え失せる。
まだ未発達なこの惑星スクルドは、そのアースの力の消失に耐えられずに死滅するだろう。
アースがそれを解っていないとも思わないし、トリプトルもそこまで浅はかではない……筈だが、リュミは杞憂だ。
トリプトルは、アースの想いに気付いていないのだろうか。
あれだけ四六時中アースを気にして寄り添っていたら、誰を見ているのか知ってしまう気がするのに。……知りたくもないのに。
けれど、トロイは気付いていなかった。
アースがトリプトルを気にかけていることは知っていたのだが、恋愛感情ではないと思っていた。
最初に見た、武術大会でアースは”優勝者である自分に”微笑んだと思い込んでいる。
トロイにとって、あの日のアースの笑みは優勝した際の勲章以上のものだった。
何度もあの美しい土の精霊を思い浮かべて、思わず口元に笑みを浮かべる夜を過ごしただろう。
映える見事な緑の髪を求めて、トロイは必死に学園を探し回った。が、規模が大きすぎて見つからなかった。
この惑星育成は、トロイにとっては最良のものだったのだ。
自分に親しげに話しかけてくれるアースが愛おしく、行動の1つ1つが新鮮だ。打算していないアースの振る舞いが初々しく、今までトロイが相手にしてきた女とは違う。
アースの笑顔が見たかった、だからトロイは常に傍に寄り添っていた。頼れる自分に、アースはそのうち恋愛感情を抱くだろうと、色恋事において無敗のトロイは過信したのだ。
直ぐ傍に、すでに心を掴んでいる親友が居たのに。
アースとトリプトルは沈黙したままジェラール山へと急いでいた、気まずい雰囲気が流れているのは互いに解るが声が出ない。
「あの」
「あのさ」
同時に声を発し、再び黙る。
「あ、あの、どうかしましたか」
「アースも言いかけたろ、なんだよ」
「あ、私は後で言うのでトリプトルさん、どうぞ」
「……じゃあ1つ。敬語、止めてくれないか?」
「あ、はい。解りました、気をつけます」
「いや、解ってないだろ。既に敬語だよ……」
「あ、ごめんなさい、気をつけます」
「いや、だから……もういい。で、アースは何が言いたかったんだ?」
「あ、ええとですね、何が起きたのかな、って思いまして」
「そんなの、行って見てみないと解らないだろ」
「そ、そうですよね。ご、ごめんなさい」
わざとらしく、トリプトルが大きく溜息を吐いた。それを聴き、アースは身を小さくする。余計なことを言ってしまったと、目の前のトリプトルの背中に小さく頭を下げて謝罪をした。
運転が出来ないアースなので、無論操作しているのはトリプトルだ。アースは後方座席で、身を再び縮める。機嫌を悪くしているとしか思えないトリプトルの邪魔にならないよう、瞳を閉じて大人しくしていようと決め込んだ。
沈黙のまま、ジェラール山の麓についた2人は様子を窺う。確かに、ようやく大地に根付いた植物達の勢いが衰えているようだ。地中の水分が不足しているわけではない、アースは地面に手をつけると原因を探る。
トリプトルは右手を翳して周辺の空気を暖めた、それくらいしかすることがない。
戸惑っているアースに、トリプトルが不審に声をかける。
「なぁ、原因は?」
「そ、それが……」
アースは言うなり地面に寝転がって仰向けになる、唖然と見ているトリプトルを尻目に、そのままゆっくりと瞳を閉じた。
大の字で寝転がる、腹部で深呼吸をしながらアースはそのままだった。
「……寂しかっただけだそうです」
「は?」
胡坐をかいて座り込んでいたトリプトルは、急に発したアースの声に、気の抜けた声を出した。
そっと横を向いて、苦笑するアースは同じ事を言う。
「あまり見回りに来てくれないから、寂しかったそうです。それで、元気がなかったみたいで。なので、すぐに治ると思います」
「なんて面倒な」
トリプトルは立ち上がると、アースの傍らに立った。
「で? もう帰っていいわけ?」
「いえ、数日はここに私、滞在します。トリプトルさんは、お帰りください。お手数をおかけして、ごめんなさい」
頭をがむしゃらにかいて、トリプトルは一旦機体へと足を向けた。だが、直ぐに戻ってくるとアースの隣に座る。
不思議そうに見上げてくるアースに、トリプトルは気まずそうに呟いた。
「ここに、居る。帰ってもロクな飯ないし、置いて帰ったらトロイに激怒されそうだし」
「……ありがとう、ございます。でも」
「腹減ったなー、何か食べたいなー」
トリプトルが、ようやくアースに笑う。手を伸ばし、寝そべったままのアースの腕を掴むと強引に起き上がらせた。
「腹、減った」
「わかり……ました。スープ、作ります」
思わずそう告げたアースに、トリプトルはくしゃりと嬉しそうに笑う。アースもそれを見て、釣られて微笑んだ。
「敬語、嫌いなんだ。”さん”づけもしないで欲しい」
「がんばり、ま……がんばる、ね?」
片言の言葉で、不安そうにそう言って見上げたアースに思わずトリプトルは吹き出す。
可愛らしい、と思ったので抱き締めたくなった。無防備なこの美しい少女を、思いきり正面から抱き締めて温もりを確かめたかった。けれども、赤面しながら横を向くと咳を1つし立ち上がる。
「行こう、アース。休憩所があるだろ、あそこで休もう」
「あ、はい」
腕を捕まれたままだったので、じっとその箇所をアースは見つめる。そこだけが、熱い。妙に、熱い。
腕から、何かが流れ込んでくるような気がして思わずアースは脱力してしまう。
がくり、と膝が揺れて前に倒れこみそうになった。慌ててそれをトリプトルが抱きとめる。
「大丈夫か? 気をつけろよ、辛い時は言えばいいんだ」
「は、はい。ありがとうございます」
「……また敬語」
「ぁう。む、難しいのです」
トリプトルの腕の中で、助けられたアースは困惑して苦笑した。やはり、気を抜くと敬語になってしまう。
呆れて溜息を吐いたトリプトルだが、ふと、自分がアースを抱き締めている状況にようやく気がついた。
倒れそうになったから、助けただけだが抱き締めていることに変わりはない。
柔らかなアースの身体、香りとてふんわりと、甘くも爽やかだ。
思わず喉を鳴らすが、トリプトルは唇を噛締めるとそのまま手を離す。
「行こう」
「あ、はい」
歩き出したトリプトルの後にアースは続いた。大きな背中を見つめ、先程まで触れられていた箇所をぎゅっと自分の腕で掴み、赤面して駆けて行く。
熱い、熱い、身体が熱い。
熱いのは、トリプトルが火の精霊だからなのだろうか? 頭が、ぼぉっとした。
抱き起こされた瞬間に、目の前で火花が飛び散った気がした。
心地良くも、歯痒い、待ち望んでいた温かさ。
アースは、前を行くトリプトルの手をじっと見つめる。自分の手よりも大きくて、温かい手だった。
また、触ってくれるだろうか……。アースはそう思って、大股のトリプトルに追いつくと隣で歩き出す。
多少、息が上がっていた。
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