別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
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美少女アサギが飛び去った後、ガーベラはニキとエミィに支えられて立ち上がった。だが、視線は消えたアサギの空の先から離すことが出来ない。腕を、伸ばしてみた。手のひらが、宙を掴む。
何故か、彼女が気になって仕方がなかった。やがて人々がざわめきながら忙しなく動き始めても、まるで魔法によって石化したように、ガーベラは動かなかった。
ニキとエミィは困り果て、仕方なく周囲の手伝いを始めた。ガーベラを置いて、娼館に戻るわけには行かない。
最も、戻ったところで崩壊しているのがオチだろうが。今晩は皆で焚き火でもして、夜空の下で眠りにつくしかないだろう。それはそれで面白いと、ニキは小さく笑った。
子供の頃は風が吹き抜ける家に住んでいた、今でも家族はそこにいる。抵抗はない。育ちの良い娼婦などいるものか、皆何かしらの苦労を抱えて館にやって来た。
ニキはガーベラを見やる、彼女はなんの不自由もせず育ってきた、稀な娼婦だ。確かに、捨て子だった。だが、寒い夜空の下で息絶えることもなく、暖かな部屋で育てられ、衣食住に困ったことも一度もない。
何も知らない、籠の中の鳥。そうかもしれないが、美貌も合わせて妬まれても良い存在ではある。
けれども、ガーベラのことをとやかく言う娼婦仲間はいなかった。何故だろう。
ニキとて、最初はとっつきにくい美人かと思っていたが、不思議と時間がかからず打ち解けた。
どんな場所にいても、その本人にしか分からない気苦労はあるものだ……。
時折、空虚な瞳で宙を見つめているガーベラは何を思っているのだろう。
高級な衣服が汚れるのも構わず、ニキとエミィは懸命に救護活動を率先して手伝った。若くて美しい娘らに、最初は戸惑う街の人々だったが、働きぶりに感心する。
娼婦、というだけで敬遠していた者も考えを改めざるを得なかった。
暫くして、上空を一体の緑のドラゴンが飛んでいった。反対方向から、先程まで街を荒らしていたワイバーン達もやってきたが、何をするでもなく大人しく戻って行く。
次いで、あの、黒いドラゴンがやってきた。ようやくそこでガーベラが頭上を仰ぐ。緑と黒のドラゴンは、暫し空中で漂っていたが、直様何処かへと消えて行った。
空に消えたドラゴンをガーベラは暫し見ていた、ぼんやりと、見ていた。邪魔だと露骨に言われたが、それでも見ていた。
あの子は、先程危険な目にあったから放心状態で……とニキとエミィがフォローする。
渋々納得した街の人に胸を撫で下ろしたが、確かにガーベラの態度が妙だ。2人の友人は、顔を合わせて不安そうに見つめる。
やがて遅れて、国から騎士団が派遣された。街の人々は待ち望んでいた到着に、歓喜の悲鳴を上げる。
騎士団は事情を熟知している様子で、街の復興に全力を注ぐ為に近隣の村から働き手も連れてきた。
高い賃金が宛がわれ、街の復興に皆が尽くし、人々が溢れかえったおかげで飲食店や宿屋、夜の店も大繁盛した。
当然、ガーベラの在席する娼館も仕事で疲れた騎士達の相手で皆が悲鳴を上げる忙しさだ。
金は動く、働き手がないとくすぶっていた貧困民も、同じ様に給料を支払い皆雇い入れてくれた。
時の王は、話が解る方だと皆が噂した。魔王が居なくなり、それでも不穏な気配に何処かしら余所余所しく働いていた人間達だが、ここへ来て活気が出たようだ。
指揮していたのは、国から派遣されたという高名な賢者アーサーで、思いの外若く見た目麗しいその男に、街の女達は熱っぽい視線を送る。だが、彼は見向きもしない。
高潔な賢者様だから、と皆が諦める中で噂好きの女達が広めた事は。
『賢者アーサー様には想い人がいる、だから他の女には見向きもしない』
という、事実である。
そして、この街の復興に全面的に協力をし、最初に指示を出したのは国王でも、この賢者アーサーでもないことも水面下で広まっていた。
では、誰なのか。
あの、美少女アサギであるのだが、それは殆んどが知らぬ事実であり、ガーベラも知らなかった。
ただ、時の王よりも先を見通す力があり、そして間違ってない適切な判断が出来た人物に皆は感謝した。
街の復興は当面終わらない。
娼館には、二日後グランディーナがやって来た。気難しそうな顔をしているが、ガーベラを捜して歩き、見つけ出すと踏ん反り返ってお礼を告げたのである。
「その、あの時は……あ、有難う。助けてくれて、有難う。なのに、酷いこと、前に言って……ごめんなさい」
「気にしないで、貴女もお嬢様なのにこんなところまで1人で来るなんて度胸があるのね。見直したわ」
会話は短かったが、まさか礼を言われるとは思わなかった。思わず口元が緩んだガーベラに、グランディーナが哀しそうに微笑む。何か呟いたが、聞き直してもグランディーナは首を横に振ると、そのまま立ち去る。
彼女はこう言ったのだ、「昔からの友達は、見捨てて逃げたのに。貴女達は助けてくれた。そんな友達が、私も欲しいな」。
グランディーナには、ガーベラ達の輪の中に入りたくとも入れない。散々見下したくせに、今更ムシが良すぎると思った。自分が許せなかったので、言葉を飲み込んで立ち去った。
立ち去ったグランディーナの背を、ガーベラは不思議そうに見つめる。
時間に追われる仕事ながらも皆がやる気に満ち溢れ、充実した毎日を送っていた港街カーツに暫くしてドラゴンが舞い降りた。
その姿に人々は悲鳴を上げて恐れ戦いたが、まだ滞在していたアーサーは笑顔でその竜達を出迎えた。見知った顔だったからだ。賢者アーサーの対応により、その竜の背に乗る人が以前街を救った者だと知ると皆来訪者を歓迎した。
竜がやって来た事は、ガーベラ達娼婦も気づいていた。
だが、市長達が対応するだけであって、自分達は特に関わることもないだろう……そう思っていた。
ある意味雲の上の話である。
ところが。
黄色い声が最初に聴こえた、徐々に悲鳴に近いその声は大きくなり、ガーベラが窓から顔を出す。
瞳を細めれば、すぐに原因は解った。娼館立ち並ぶ街路地に、美形な男が3人来たからだ。長身な美丈夫達である、滅多にお目にかかれないような。女達が色めき立っても仕方がない、とガーベラは思った。
ただ、そのうち2人の頭部には角が2本生えている。あの時、助けてくれた男の1人だろうと思った。
特に中央に居る紫銀の髪の男が、飛び抜けている。美しい顔立ちだが女っぽいわけではない、男の色香が漂うがまだ若いだろう。凡人には出せない雰囲気を醸し出している。
だが、ガーベラはその傍らの美少女に釘付けになった。
あの、少女だった。数日前、街にやってきたワイバーンから護ってくれたあの”アサギ”という少女が歩いている。
ガーベラにはその一行の関係が見て取れた。紫銀の髪の男は、アサギを溺愛している。話しながら向かってきているが、
柔らかな表情を見れば誰だって一目瞭然だ。
後方で控えているように歩いている2人の男は、周囲に気を配っているようだった。
「ガーベラ、見て! 上等の男よ! あんな美形見たことがないっ、お金はあるかしら、是非とも今晩のお客に」
「無理よ、エミィ。……あの男達は娼婦を必要としないわ」
「やってみなきゃ解らないでしょっ! 客を呼び込んでこそ、娼婦なんだからっ! 客引き客引きっ」
エミィ他、仲間の娼婦達は鼻息荒く館を飛び出す、苦笑したガーベラは肩を竦めた。確かに夜の相手にはもってこいだろうが、あの美少女が傍らにいる時点で、呼び込みなど不可能だ。
狙うならば、居ない時にしなければ。
群がる女達から、小柄なアサギを護り進む男達。不機嫌そのもののように、美形男達の顔があからさまに歪んでいく。
ガーベラは再び苦笑した、あれでは客引きどころではない。大失態だ。
ゆっくりと立ち上がると、ガーベラも階段を下り、館の玄関から顔を出す。
と、アサギと視線が交差した。
「あ、居ました! こんにちは!」
アサギが大きくお辞儀をしたので、ガーベラは瞳を丸くする。まさか、自分を探していたのだろうか?
軽く狼狽したガーベラの許へとやってきたアサギは、眩しいくらいの笑顔で見つめてくる。
「早々に立ち去ってしまったので、ご確認が出来なくて。あの、お怪我はありませんでしたか? 来るのが遅くなってしまってごめんなさい」
「あら、大丈夫よ。ドコも怪我などしていないわ」
「そうですか、ならよかったです。……ちょっと、心配していたので」
「心配?」
翳った表情のアサギに、ガーベラは何故か背筋が凍った。
美しい、少女。まだ10代前半だろう、子供だと言っても過言ではないが妙に色香がある。ただ、見た目以前に彼女を取り巻く”空気”が妙なのだ。ガーベラは魔力などなく、魔法など全く使えないが、何故かしらアサギの周囲に何かが張り巡らされている気がして仕方がなかった。そして深い緑の大きな瞳で見つめられると、心の奥底を見られているようで怖くも感じた。
「とても、綺麗な方ですけど。……何処か、死を覚悟されていたみたいで。何か、あったのかと」
「……そう。でも、見当違いよ。私はこの場所で素敵な仲間達と共に過ごしているの」
「そうですか、失礼なことを言ってしまってごめんなさい。なら、良いのです」
にこ、っと笑ったアサギに思わず微笑み返すガーベラだが、身体が小刻みに震えた。間違ってなどいない、確かに死を覚悟した。死んでも良いと思った。
自分よりも酷い状況に置かれている人など、大勢居るはずなのに、この場所から消えてしまいたいと思った。命への冒涜だ、その時点で自分が生きる価値などないのかもしれない。
「アサギ。用は済んだか? 他の地区も回らないと」
「トビィお兄様、見てください。この方とても綺麗なのです。……あ、お名前は?」
紫銀の男の名はトビィ、というのか。ガーベラは何気なく彼に視線を送ると、一瞬瞳が交差した。
なるほど、美しい。そして同じ様な匂いを感じた、似たもの同士かもしれないと悟った。
「ガーベラ、というの。貴女はアサギね? 助けてくれて有難う。小さいのにとても勇敢なのね」
「一応、勇者なので。そろそろ、行きますね。また、来ます」
何気なく呟いた単語に、違和感を感じたガーベラは思わず聴き直した。
「勇者?」
「はい、一応。この惑星の勇者ではないのですけど、勇者です。……見えませんよね」
「勇者だったの……てっきり魔法使いのお嬢さんかと」
苦笑したアサギは、手を大きく振ってトビィと手を繋ぎ去っていく。
不思議な美少女だと思いながら、身体が震える。何かが変わってしまう気がして、大きく息を飲み込んだ。
言い知れぬ不安が、身体中を駆け巡る。彼女の存在が怖いわけではない、寧ろ出会えて光栄だと。けれども、この血のざわめきが不気味だ。身の毛がよだつ、とはこのことか。初めての感覚だった、今も足が震えている。
唇を噛締め、気丈に正面を見やれば娼婦仲間達が2人の男を取り囲んだままだった。女達に問答無用で胸を押付けられ、苦しそうにもがいている姿が見ていて気の毒だ。
アサギから視線を逸らしたら、少し気分が楽になった。思わず深く息を吐く。
神など信じていないが、神の前で殺人を犯し責められるように見下ろされているような感覚だった。
自分が、酷く下卑た存在に感じられた。彼女が美しすぎるせいだろうか、自分を恥じているのだろうか。汚れない、清らか過ぎる乙女の前では、自分を蔑むしかないからか。彼女を羨んでいるのか……ガーベラに渦巻く感情が、何か解らない。
「クレシダ、デズ! 油を売っている場合じゃないだろう、早く来い」
「御意に」
「に、人間の雌は苦手だ……」
見るも無残に衣服がずり下ろされていた2人の男は、辛うじて女達から抜け出すと怯えた瞳で娼婦達を見やる。
免疫がないのだろうか、すっかり萎縮してしまったようだった。
だが、次の瞬間である。2人の男の身体は瞬時に巨大化し、ドラゴンの姿に変貌していた。
悲鳴が上がるどころか、静まり返る。皆が唖然と見つめる中で、優雅に飛び立ったドラゴンはアサギとトビィを背に乗せていた。
黒いドラゴンにはアサギが、緑のドラゴンにはトビィが。
「だから、角があったのね」
呟いたガーベラは、呆けている女達の反応が気になったので視線を送ると。
「た、ただの人間の男には、飽き飽きしていたところよっ、竜上等!」
「美形だしねぇ、ドラゴンでもイイわよねぇ」
「ドラゴンのアソコも、人間と一緒? 人間と一緒? おっきい? おっきい? 体力は凄そう」
どうやら、娼婦達のほうが一枚上手だったようだ。ガーベラはくすり、と笑みを漏らす。
そうだ、居心地の良いこの場所があるではないか。
素晴らしい、”マリーゴールド”という名の娼館があるではないか。
「何もなき宇宙の果て 何かを思い起こさせる
向こうで何かが叫ぶ 悲しみの旋律を奏でる
夢の中に落ちていく 光る湖畔闇に見つける
緑の杭に繋がれた私 現実を覆い隠したまま
薄闇押し寄せ 霧が心覆い 全て消えた
目覚めの時に 心晴れ渡り 現実を知る
そこに待つのは 生か死か」
深夜に1人、今日も繁盛している娼館の中で歌った。客が疲れて眠ってしまったので、窓際に立って歌った。
何故か、彼女が気になって仕方がなかった。やがて人々がざわめきながら忙しなく動き始めても、まるで魔法によって石化したように、ガーベラは動かなかった。
ニキとエミィは困り果て、仕方なく周囲の手伝いを始めた。ガーベラを置いて、娼館に戻るわけには行かない。
最も、戻ったところで崩壊しているのがオチだろうが。今晩は皆で焚き火でもして、夜空の下で眠りにつくしかないだろう。それはそれで面白いと、ニキは小さく笑った。
子供の頃は風が吹き抜ける家に住んでいた、今でも家族はそこにいる。抵抗はない。育ちの良い娼婦などいるものか、皆何かしらの苦労を抱えて館にやって来た。
ニキはガーベラを見やる、彼女はなんの不自由もせず育ってきた、稀な娼婦だ。確かに、捨て子だった。だが、寒い夜空の下で息絶えることもなく、暖かな部屋で育てられ、衣食住に困ったことも一度もない。
何も知らない、籠の中の鳥。そうかもしれないが、美貌も合わせて妬まれても良い存在ではある。
けれども、ガーベラのことをとやかく言う娼婦仲間はいなかった。何故だろう。
ニキとて、最初はとっつきにくい美人かと思っていたが、不思議と時間がかからず打ち解けた。
どんな場所にいても、その本人にしか分からない気苦労はあるものだ……。
時折、空虚な瞳で宙を見つめているガーベラは何を思っているのだろう。
高級な衣服が汚れるのも構わず、ニキとエミィは懸命に救護活動を率先して手伝った。若くて美しい娘らに、最初は戸惑う街の人々だったが、働きぶりに感心する。
娼婦、というだけで敬遠していた者も考えを改めざるを得なかった。
暫くして、上空を一体の緑のドラゴンが飛んでいった。反対方向から、先程まで街を荒らしていたワイバーン達もやってきたが、何をするでもなく大人しく戻って行く。
次いで、あの、黒いドラゴンがやってきた。ようやくそこでガーベラが頭上を仰ぐ。緑と黒のドラゴンは、暫し空中で漂っていたが、直様何処かへと消えて行った。
空に消えたドラゴンをガーベラは暫し見ていた、ぼんやりと、見ていた。邪魔だと露骨に言われたが、それでも見ていた。
あの子は、先程危険な目にあったから放心状態で……とニキとエミィがフォローする。
渋々納得した街の人に胸を撫で下ろしたが、確かにガーベラの態度が妙だ。2人の友人は、顔を合わせて不安そうに見つめる。
やがて遅れて、国から騎士団が派遣された。街の人々は待ち望んでいた到着に、歓喜の悲鳴を上げる。
騎士団は事情を熟知している様子で、街の復興に全力を注ぐ為に近隣の村から働き手も連れてきた。
高い賃金が宛がわれ、街の復興に皆が尽くし、人々が溢れかえったおかげで飲食店や宿屋、夜の店も大繁盛した。
当然、ガーベラの在席する娼館も仕事で疲れた騎士達の相手で皆が悲鳴を上げる忙しさだ。
金は動く、働き手がないとくすぶっていた貧困民も、同じ様に給料を支払い皆雇い入れてくれた。
時の王は、話が解る方だと皆が噂した。魔王が居なくなり、それでも不穏な気配に何処かしら余所余所しく働いていた人間達だが、ここへ来て活気が出たようだ。
指揮していたのは、国から派遣されたという高名な賢者アーサーで、思いの外若く見た目麗しいその男に、街の女達は熱っぽい視線を送る。だが、彼は見向きもしない。
高潔な賢者様だから、と皆が諦める中で噂好きの女達が広めた事は。
『賢者アーサー様には想い人がいる、だから他の女には見向きもしない』
という、事実である。
そして、この街の復興に全面的に協力をし、最初に指示を出したのは国王でも、この賢者アーサーでもないことも水面下で広まっていた。
では、誰なのか。
あの、美少女アサギであるのだが、それは殆んどが知らぬ事実であり、ガーベラも知らなかった。
ただ、時の王よりも先を見通す力があり、そして間違ってない適切な判断が出来た人物に皆は感謝した。
街の復興は当面終わらない。
娼館には、二日後グランディーナがやって来た。気難しそうな顔をしているが、ガーベラを捜して歩き、見つけ出すと踏ん反り返ってお礼を告げたのである。
「その、あの時は……あ、有難う。助けてくれて、有難う。なのに、酷いこと、前に言って……ごめんなさい」
「気にしないで、貴女もお嬢様なのにこんなところまで1人で来るなんて度胸があるのね。見直したわ」
会話は短かったが、まさか礼を言われるとは思わなかった。思わず口元が緩んだガーベラに、グランディーナが哀しそうに微笑む。何か呟いたが、聞き直してもグランディーナは首を横に振ると、そのまま立ち去る。
彼女はこう言ったのだ、「昔からの友達は、見捨てて逃げたのに。貴女達は助けてくれた。そんな友達が、私も欲しいな」。
グランディーナには、ガーベラ達の輪の中に入りたくとも入れない。散々見下したくせに、今更ムシが良すぎると思った。自分が許せなかったので、言葉を飲み込んで立ち去った。
立ち去ったグランディーナの背を、ガーベラは不思議そうに見つめる。
時間に追われる仕事ながらも皆がやる気に満ち溢れ、充実した毎日を送っていた港街カーツに暫くしてドラゴンが舞い降りた。
その姿に人々は悲鳴を上げて恐れ戦いたが、まだ滞在していたアーサーは笑顔でその竜達を出迎えた。見知った顔だったからだ。賢者アーサーの対応により、その竜の背に乗る人が以前街を救った者だと知ると皆来訪者を歓迎した。
竜がやって来た事は、ガーベラ達娼婦も気づいていた。
だが、市長達が対応するだけであって、自分達は特に関わることもないだろう……そう思っていた。
ある意味雲の上の話である。
ところが。
黄色い声が最初に聴こえた、徐々に悲鳴に近いその声は大きくなり、ガーベラが窓から顔を出す。
瞳を細めれば、すぐに原因は解った。娼館立ち並ぶ街路地に、美形な男が3人来たからだ。長身な美丈夫達である、滅多にお目にかかれないような。女達が色めき立っても仕方がない、とガーベラは思った。
ただ、そのうち2人の頭部には角が2本生えている。あの時、助けてくれた男の1人だろうと思った。
特に中央に居る紫銀の髪の男が、飛び抜けている。美しい顔立ちだが女っぽいわけではない、男の色香が漂うがまだ若いだろう。凡人には出せない雰囲気を醸し出している。
だが、ガーベラはその傍らの美少女に釘付けになった。
あの、少女だった。数日前、街にやってきたワイバーンから護ってくれたあの”アサギ”という少女が歩いている。
ガーベラにはその一行の関係が見て取れた。紫銀の髪の男は、アサギを溺愛している。話しながら向かってきているが、
柔らかな表情を見れば誰だって一目瞭然だ。
後方で控えているように歩いている2人の男は、周囲に気を配っているようだった。
「ガーベラ、見て! 上等の男よ! あんな美形見たことがないっ、お金はあるかしら、是非とも今晩のお客に」
「無理よ、エミィ。……あの男達は娼婦を必要としないわ」
「やってみなきゃ解らないでしょっ! 客を呼び込んでこそ、娼婦なんだからっ! 客引き客引きっ」
エミィ他、仲間の娼婦達は鼻息荒く館を飛び出す、苦笑したガーベラは肩を竦めた。確かに夜の相手にはもってこいだろうが、あの美少女が傍らにいる時点で、呼び込みなど不可能だ。
狙うならば、居ない時にしなければ。
群がる女達から、小柄なアサギを護り進む男達。不機嫌そのもののように、美形男達の顔があからさまに歪んでいく。
ガーベラは再び苦笑した、あれでは客引きどころではない。大失態だ。
ゆっくりと立ち上がると、ガーベラも階段を下り、館の玄関から顔を出す。
と、アサギと視線が交差した。
「あ、居ました! こんにちは!」
アサギが大きくお辞儀をしたので、ガーベラは瞳を丸くする。まさか、自分を探していたのだろうか?
軽く狼狽したガーベラの許へとやってきたアサギは、眩しいくらいの笑顔で見つめてくる。
「早々に立ち去ってしまったので、ご確認が出来なくて。あの、お怪我はありませんでしたか? 来るのが遅くなってしまってごめんなさい」
「あら、大丈夫よ。ドコも怪我などしていないわ」
「そうですか、ならよかったです。……ちょっと、心配していたので」
「心配?」
翳った表情のアサギに、ガーベラは何故か背筋が凍った。
美しい、少女。まだ10代前半だろう、子供だと言っても過言ではないが妙に色香がある。ただ、見た目以前に彼女を取り巻く”空気”が妙なのだ。ガーベラは魔力などなく、魔法など全く使えないが、何故かしらアサギの周囲に何かが張り巡らされている気がして仕方がなかった。そして深い緑の大きな瞳で見つめられると、心の奥底を見られているようで怖くも感じた。
「とても、綺麗な方ですけど。……何処か、死を覚悟されていたみたいで。何か、あったのかと」
「……そう。でも、見当違いよ。私はこの場所で素敵な仲間達と共に過ごしているの」
「そうですか、失礼なことを言ってしまってごめんなさい。なら、良いのです」
にこ、っと笑ったアサギに思わず微笑み返すガーベラだが、身体が小刻みに震えた。間違ってなどいない、確かに死を覚悟した。死んでも良いと思った。
自分よりも酷い状況に置かれている人など、大勢居るはずなのに、この場所から消えてしまいたいと思った。命への冒涜だ、その時点で自分が生きる価値などないのかもしれない。
「アサギ。用は済んだか? 他の地区も回らないと」
「トビィお兄様、見てください。この方とても綺麗なのです。……あ、お名前は?」
紫銀の男の名はトビィ、というのか。ガーベラは何気なく彼に視線を送ると、一瞬瞳が交差した。
なるほど、美しい。そして同じ様な匂いを感じた、似たもの同士かもしれないと悟った。
「ガーベラ、というの。貴女はアサギね? 助けてくれて有難う。小さいのにとても勇敢なのね」
「一応、勇者なので。そろそろ、行きますね。また、来ます」
何気なく呟いた単語に、違和感を感じたガーベラは思わず聴き直した。
「勇者?」
「はい、一応。この惑星の勇者ではないのですけど、勇者です。……見えませんよね」
「勇者だったの……てっきり魔法使いのお嬢さんかと」
苦笑したアサギは、手を大きく振ってトビィと手を繋ぎ去っていく。
不思議な美少女だと思いながら、身体が震える。何かが変わってしまう気がして、大きく息を飲み込んだ。
言い知れぬ不安が、身体中を駆け巡る。彼女の存在が怖いわけではない、寧ろ出会えて光栄だと。けれども、この血のざわめきが不気味だ。身の毛がよだつ、とはこのことか。初めての感覚だった、今も足が震えている。
唇を噛締め、気丈に正面を見やれば娼婦仲間達が2人の男を取り囲んだままだった。女達に問答無用で胸を押付けられ、苦しそうにもがいている姿が見ていて気の毒だ。
アサギから視線を逸らしたら、少し気分が楽になった。思わず深く息を吐く。
神など信じていないが、神の前で殺人を犯し責められるように見下ろされているような感覚だった。
自分が、酷く下卑た存在に感じられた。彼女が美しすぎるせいだろうか、自分を恥じているのだろうか。汚れない、清らか過ぎる乙女の前では、自分を蔑むしかないからか。彼女を羨んでいるのか……ガーベラに渦巻く感情が、何か解らない。
「クレシダ、デズ! 油を売っている場合じゃないだろう、早く来い」
「御意に」
「に、人間の雌は苦手だ……」
見るも無残に衣服がずり下ろされていた2人の男は、辛うじて女達から抜け出すと怯えた瞳で娼婦達を見やる。
免疫がないのだろうか、すっかり萎縮してしまったようだった。
だが、次の瞬間である。2人の男の身体は瞬時に巨大化し、ドラゴンの姿に変貌していた。
悲鳴が上がるどころか、静まり返る。皆が唖然と見つめる中で、優雅に飛び立ったドラゴンはアサギとトビィを背に乗せていた。
黒いドラゴンにはアサギが、緑のドラゴンにはトビィが。
「だから、角があったのね」
呟いたガーベラは、呆けている女達の反応が気になったので視線を送ると。
「た、ただの人間の男には、飽き飽きしていたところよっ、竜上等!」
「美形だしねぇ、ドラゴンでもイイわよねぇ」
「ドラゴンのアソコも、人間と一緒? 人間と一緒? おっきい? おっきい? 体力は凄そう」
どうやら、娼婦達のほうが一枚上手だったようだ。ガーベラはくすり、と笑みを漏らす。
そうだ、居心地の良いこの場所があるではないか。
素晴らしい、”マリーゴールド”という名の娼館があるではないか。
「何もなき宇宙の果て 何かを思い起こさせる
向こうで何かが叫ぶ 悲しみの旋律を奏でる
夢の中に落ちていく 光る湖畔闇に見つける
緑の杭に繋がれた私 現実を覆い隠したまま
薄闇押し寄せ 霧が心覆い 全て消えた
目覚めの時に 心晴れ渡り 現実を知る
そこに待つのは 生か死か」
深夜に1人、今日も繁盛している娼館の中で歌った。客が疲れて眠ってしまったので、窓際に立って歌った。
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