別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
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ふぅ。
会場が静まり返った。何処かで「アルゴンキンの」と、誰かが小声で呟く。密やかな声が、広がる。
この場に居るのは高名な貴族達、それに王族。アルゴンキンが娘を誘拐され捜していることなど、殆んどの者が知っていた。1つ返事で「こちらも捜しますから」と、直接アルゴンキンと約束した貴族も居た。
数名、アルゴンキンと先日逢った者もいる。が、眉1つ動かさなかった。
「あぁ、道理で見つからないわけだ。二度と逢う事もないだろうよ」
だれかが、無感情な声でそう呟く。ここに出品されている以上、アルゴンキンの手元には戻らないだろう。
正義の味方など、この場に存在しない。居るのはただ、私利私欲に走っている金持ちのみだ。
誰も、アルゴンキンに今日の事を話さないだろう。話せばそこから足がつく、この闇市競売が明るみになる。
そんな年に2度の、ささやかな優越と快楽の場を、誰が手放すだろうか。
ざわめく会場で、マスカットを口にしていた男が顔を軽く上げる。新しいワインを催促し、呑みながら傍らの瑞々しいマスカットを何度も口に咥えた。
焦らすように、なかなかその妖精のような娘は出てこない。
「トシェリー様、そろそろ馬車の準備をなさいますか」
耳元で、名前を囁かれた。他の者には聞こえないようにという配下の配慮である。その名を聞かれれば、何処の誰かくらい、この場に居るものならば解るだろう。最も、仮面をつけていても見える紫銀の髪だけで、憶測はつくだろうが。
「そうしてくれ、オレはその大層な肩書きの娘を見てから行こう」
「畏まりました、今晩は何を召し上がりますか」
「そうだな……考えておく、マスカットは用意してくれよ」
「心得ております」
何度も、マスカットを摘んだ。確かに、トシェリーはマスカットが好物だ。が、手が伸びる回数が何時もよりも早い。それは、自身も気付いていた。何故か、食べてしまう。この会場に到着してから、すでに3房食べていた。
喉の渇きは、ワインで潤す。が、それでは駄目だった。マスカットの甘味が、麻薬の様に浸透して手放せない。
「御仁よ、気分でも悪いので? 身体が震えておられますぞ。呑みすぎでは?」
中年の男が話しかけてきた、が、トシェリーは薄く笑うと首を横に振った。
呑みすぎてはいない、だが確かに、動悸が激しい気がする。落ち着かないのも、確かだった。
苛立って、トシェリーは軽く足を鳴らす。会場は、未だに出てこない目玉商品に対して不服の声を漏らしていた。
「皆様、申し訳御座いません。さぁさ、神がこの世に遣わした、穢れ無き天使に御座います!」
皆の視線が、一点に集中した。静かに、歩いてきた娘に注がれた。
あちらこちらで、感嘆の溜息が漏れる。そして、爆発音の様に金額が飛び交う。
「1000!」
「3000だ!」
「なんの、5000!」
男達の声が飛び交う、稀に女の声も聴こえた。同性愛者なのだろう。
純白の、レースを存分に纏ったドレスで出てきた、緑の髪の娘。
育ちの良さそうな控え目な動きと、大きな瞳が酷く怯えて宙を彷徨う。震えながら、ドレスの裾を掴んで立った。
「ほぉお、確かに可愛らしい、お人形のようですなぁ。いやはや、あれに何をしても良いともなれば……くくく」
中年男が隣で卑しく笑う、その声を聴きながらトシェリーは再びマスカットを口に咥えた。
釣りあがっていく金額を、静かに聴きながらマスカットを食べ続ける。房を持ち上げて、口に咥えてもぎ取り、潰して食べた。皮を吐き出し、じっとアロスを見つめる。
「8000! いや、9000だ!」
今回の競売で、最も高額な商品であることは誰の目に見ても明らかである。
まだ、競り合いは止まらなかった。が、金額が上がるにつれて声もまばらになっていく。容易く出せるものではない、特に今回既に何かを落札している者にとっては厳しい。
「11000!」
何処かで、勝ち誇ったような声がした。静まり返る会場に、司会者も満足そうに頷いている。
その金額があれば、どれだけの土地と屋敷が入るだろう。皆の感覚がずれているのかもしれない。
「12000」
鋭く叫ぶ声が上がる、会場が熱気で溢れ返った。参加していない者も、何処まで値が上がるのか楽しみで仕方が無いのだろう。野次が飛び交う、もっと出せと、罵声が飛ぶ。
これは主催者側もほくそ笑んだ、こうして異常な空間の中で煽られれば、金銭感覚の概念が崩壊する。
「13500!」
「いや、14000で!」
トシェリーは、まだ、アロスを見つめていた。声が出ない、と言っていたが耳は聴こえるのだろう。泣きそうな瞳で、狼狽しながら会場を見渡している。過度な怯えは、加虐心を増幅させる。
「18000」
途端に、値が上がった。誰かが一度拍手をすれば、一斉にそれが広まる。何を褒め称えているのか知らないが、皆満足そうだった。他人が高額を支払う事は、見ていて愉しいのだろう。
トシェリーは静かに立ち上がった、マスカットの房を1つ持って静かに歩き出す。房にはマスカットが一粒、ついていた。
「もう、居られませんかー? ……いらっしゃらないようですね、それでは、妖精のような愛らしいアロスちゃんを落札したのは……」
「30000。決まりだな、オレが貰おう」
司会の言葉を遮り、トシェリーが勝手にステージ台に上がってきた。目の前に立った男の仮面は燃えるような深紅のマスクをしている、アロスは一歩後ずさった。けれど。
「おいで、アロス。何も怖がる事はない、今日からオレが君の飼い主。さぁ、帰ろうか」
声を聞いた瞬間、アロスの身体が反応した。仮面の奥に見える瞳が、何故か懐かしく感じられた。
伸ばされた手に、そっと摑まる。反射的に足を踏み出し、トシェリーの懐に飛び込むように地面を蹴った。
「いい子だ、アロス」
唖然と会場内の視線が、寄り添う二人を見つめた。アロスの髪を撫でながら、優しく抱き締めるトシェリーの姿はそれこそ慈愛に満ちていて。
ここが、闇市競売だと皆一瞬、忘れたのだ。
トシェリーの腕の中で、アロスが嬉しそうに微笑んだ。
待ち焦がれていたかのように、ここへ来れば逢える事を知っていたかのように。
それこそ、引き裂かれた恋人同士が出会えたように。
この場に居るのは高名な貴族達、それに王族。アルゴンキンが娘を誘拐され捜していることなど、殆んどの者が知っていた。1つ返事で「こちらも捜しますから」と、直接アルゴンキンと約束した貴族も居た。
数名、アルゴンキンと先日逢った者もいる。が、眉1つ動かさなかった。
「あぁ、道理で見つからないわけだ。二度と逢う事もないだろうよ」
だれかが、無感情な声でそう呟く。ここに出品されている以上、アルゴンキンの手元には戻らないだろう。
正義の味方など、この場に存在しない。居るのはただ、私利私欲に走っている金持ちのみだ。
誰も、アルゴンキンに今日の事を話さないだろう。話せばそこから足がつく、この闇市競売が明るみになる。
そんな年に2度の、ささやかな優越と快楽の場を、誰が手放すだろうか。
ざわめく会場で、マスカットを口にしていた男が顔を軽く上げる。新しいワインを催促し、呑みながら傍らの瑞々しいマスカットを何度も口に咥えた。
焦らすように、なかなかその妖精のような娘は出てこない。
「トシェリー様、そろそろ馬車の準備をなさいますか」
耳元で、名前を囁かれた。他の者には聞こえないようにという配下の配慮である。その名を聞かれれば、何処の誰かくらい、この場に居るものならば解るだろう。最も、仮面をつけていても見える紫銀の髪だけで、憶測はつくだろうが。
「そうしてくれ、オレはその大層な肩書きの娘を見てから行こう」
「畏まりました、今晩は何を召し上がりますか」
「そうだな……考えておく、マスカットは用意してくれよ」
「心得ております」
何度も、マスカットを摘んだ。確かに、トシェリーはマスカットが好物だ。が、手が伸びる回数が何時もよりも早い。それは、自身も気付いていた。何故か、食べてしまう。この会場に到着してから、すでに3房食べていた。
喉の渇きは、ワインで潤す。が、それでは駄目だった。マスカットの甘味が、麻薬の様に浸透して手放せない。
「御仁よ、気分でも悪いので? 身体が震えておられますぞ。呑みすぎでは?」
中年の男が話しかけてきた、が、トシェリーは薄く笑うと首を横に振った。
呑みすぎてはいない、だが確かに、動悸が激しい気がする。落ち着かないのも、確かだった。
苛立って、トシェリーは軽く足を鳴らす。会場は、未だに出てこない目玉商品に対して不服の声を漏らしていた。
「皆様、申し訳御座いません。さぁさ、神がこの世に遣わした、穢れ無き天使に御座います!」
皆の視線が、一点に集中した。静かに、歩いてきた娘に注がれた。
あちらこちらで、感嘆の溜息が漏れる。そして、爆発音の様に金額が飛び交う。
「1000!」
「3000だ!」
「なんの、5000!」
男達の声が飛び交う、稀に女の声も聴こえた。同性愛者なのだろう。
純白の、レースを存分に纏ったドレスで出てきた、緑の髪の娘。
育ちの良さそうな控え目な動きと、大きな瞳が酷く怯えて宙を彷徨う。震えながら、ドレスの裾を掴んで立った。
「ほぉお、確かに可愛らしい、お人形のようですなぁ。いやはや、あれに何をしても良いともなれば……くくく」
中年男が隣で卑しく笑う、その声を聴きながらトシェリーは再びマスカットを口に咥えた。
釣りあがっていく金額を、静かに聴きながらマスカットを食べ続ける。房を持ち上げて、口に咥えてもぎ取り、潰して食べた。皮を吐き出し、じっとアロスを見つめる。
「8000! いや、9000だ!」
今回の競売で、最も高額な商品であることは誰の目に見ても明らかである。
まだ、競り合いは止まらなかった。が、金額が上がるにつれて声もまばらになっていく。容易く出せるものではない、特に今回既に何かを落札している者にとっては厳しい。
「11000!」
何処かで、勝ち誇ったような声がした。静まり返る会場に、司会者も満足そうに頷いている。
その金額があれば、どれだけの土地と屋敷が入るだろう。皆の感覚がずれているのかもしれない。
「12000」
鋭く叫ぶ声が上がる、会場が熱気で溢れ返った。参加していない者も、何処まで値が上がるのか楽しみで仕方が無いのだろう。野次が飛び交う、もっと出せと、罵声が飛ぶ。
これは主催者側もほくそ笑んだ、こうして異常な空間の中で煽られれば、金銭感覚の概念が崩壊する。
「13500!」
「いや、14000で!」
トシェリーは、まだ、アロスを見つめていた。声が出ない、と言っていたが耳は聴こえるのだろう。泣きそうな瞳で、狼狽しながら会場を見渡している。過度な怯えは、加虐心を増幅させる。
「18000」
途端に、値が上がった。誰かが一度拍手をすれば、一斉にそれが広まる。何を褒め称えているのか知らないが、皆満足そうだった。他人が高額を支払う事は、見ていて愉しいのだろう。
トシェリーは静かに立ち上がった、マスカットの房を1つ持って静かに歩き出す。房にはマスカットが一粒、ついていた。
「もう、居られませんかー? ……いらっしゃらないようですね、それでは、妖精のような愛らしいアロスちゃんを落札したのは……」
「30000。決まりだな、オレが貰おう」
司会の言葉を遮り、トシェリーが勝手にステージ台に上がってきた。目の前に立った男の仮面は燃えるような深紅のマスクをしている、アロスは一歩後ずさった。けれど。
「おいで、アロス。何も怖がる事はない、今日からオレが君の飼い主。さぁ、帰ろうか」
声を聞いた瞬間、アロスの身体が反応した。仮面の奥に見える瞳が、何故か懐かしく感じられた。
伸ばされた手に、そっと摑まる。反射的に足を踏み出し、トシェリーの懐に飛び込むように地面を蹴った。
「いい子だ、アロス」
唖然と会場内の視線が、寄り添う二人を見つめた。アロスの髪を撫でながら、優しく抱き締めるトシェリーの姿はそれこそ慈愛に満ちていて。
ここが、闇市競売だと皆一瞬、忘れたのだ。
トシェリーの腕の中で、アロスが嬉しそうに微笑んだ。
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