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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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98308e82.jpegあれです。

ついったの説明だと、

1人の男がほんにゃらはんにゃら


とかなってますが、1人の男はまだ出てきておりません。

20121009に描いたガーベラ。
ちょっと、とある方に挿し絵を描いていただくことになったので、その説明用に(滝汗)。

※雑すぎる。

 ある日の事だった。
 誰が、こんな展開を予測していただろう。誰か、などと言っても誰も居ない。
 ログがガーベラに逢いに来ていることなど、ガーベラ以外知らない筈だった。仲間の娼婦達とて、そこらの男と並べたら誰か区別がつかない平凡なログのことなど、憶えていない。
 ガーベラは友達と街へ出た。夕陽が落ちる、直前である。
 偶然にも3人が暇を持て余し、万が一新しい客がやってきたとしても他にも手持ちぶたさな娼婦が数人居たので、出掛けた。直ぐにでも闇に覆い尽くされる時刻である、夕陽の美しさに心を奪われている暇はない。
 何を買いに来たかと言えば、エミィがボタンが欲しいと言い出した為である。昨夜のお客が無理に衣服を引っ張ったので、ボタンが取れてしまったらしい。おまけに運悪く、それは転がって、部屋の隅、罅が入っていた箇所に入り込んでしまったのだ。もう、取り出すことが出来ない。
 その為である。1つだけボタンを購入しても意味がないので、その服についているボタンを全て取り替える。
 衣服に合い、個数も9個以上のボタンを探すには時間が少なすぎるのではないかとガーベラは思ったが、気に入っている服らしく、エミィは必死だ。
 娼館へ来る前に母親と弟が必死に金を集めて買ってくれた、思い出の衣服だという。
 勿体無くて最初は着られなかった、だが、着ていると家族を思い出し、心が軽くなると。
 高い物ではない、そして流行のものですらない。だが、エミィはこれがあるから頑張れるのだと笑った。
 ガーベラには理解が出来なかった、ガーベラは家族を知らない。寧ろ、娼婦達全員が家族である。 
 だから、家族であるようなエミィが喜ぶのならと、ボタンを捜した。
 手分けして捜そうという話になり、ガーベラとエミィ、ニキは一斉に散った。娼婦達は衣服やシーツ、カーテンが解れれば自分達で直す。だから、手芸屋の位置とて知っている。
 中央公園の日時計が、5時を指したら集合し、そこから情報を交換して最終的に良さそうなボタンを買いに行く……。
 ガーベラは、西の地区へ来た。こういうことはニキが最も秀でているだろうと、ガーベラは思ったがエミィの衣服を思い出し、似合うボタンを捜す。
 ニキは3人の中で最もセンスが良い、花を生けるにしても、破れた箇所に布を宛がうにしても、以前からそのような柄だったように細工してしまうのだ。自分で衣服も作ることが出来る。
凄い才能だと、ガーベラは隣で見つめながら感嘆したものだった。ひょっとしたら、娼婦ではなく、こういった仕事に就いたら良いのではないかとも、何度も思った。
 だが、口になどしない。成功すれば良いのだが、失敗する確率のほうが多いだろう。ニキは家族を養わねばならないのだった。

「そうなると、私は本当に気楽よね」

 誰かの為に必死で働かなくても良いのだから、ただ、そこに居れば良いだけなのだから。暖かな住居に煌びやかなドレスは手に入る。気の合う仲間達ともやっていける……。ふと、ルクルーゼが脳裏を過ぎったが、忘れた。
 唄など、なんの為にもならない。お金など、貰えない。腹の足しにはならない。けれども、歌ってしまうのは。

「唄うと……楽なのよね」

 店を出た、今の店には何もない。ニキの衣服に釣り合う、可愛らしいボタンがなかった。
 ガーベラは、そのまま次の店に向かった。次の店は今の店よりもこじんまりとしているが、営業しているのが老夫婦である。掘り出し物がありそうで、期待していた。
 と、突然ガーベラは背中に激痛を感じ、そのまま前に倒れ込む。冷たい石畳に、顔をぶつけた。
 低く呻いて、腕に力を入れて上半身を起こす。

「泥棒猫! 泥棒猫! 泥棒猫! ……どうして、くれるのよぉーっ!」

 再び、石畳に顔が押付けられた。聞き覚えのない女の声だ、蹴られたり、殴られたりしていることは解るのだが、初めての経験でどうしたら良いのか解らない。

「この……寝取る事しか脳のない泥棒猫なんかにっ!」

 呆然としながら、痛みに耐えてガーベラは声の主を振り返った。
 泣いている、女が立っていた。激痛が残り、一瞬は誰か解らなかったが、見覚えがある。
 女が泥棒猫を連呼しているうちに、誰だか解ってきた。
 見たことがあるはずだ、ログの花嫁である。一度しか見たことがないが、あんな強烈に惚気ていた2人を忘れるはずがない。茶色の髪は二つに結って、まだ幼ささえ残っている。そばかすも、初々しい。
 まさか、ログの娼館通いが彼女に露見したのだろうか? しかし、ログとガーベラが身体を合わせたことなど一度たりともない、神に誓ってない。誤解をしているのだと、ガーベラは思った。
 誤解されても仕方がないだろう、娼婦に会いに夜通う男がいれば、やることなど1つだ。
 憤慨している彼女をなんとか落ち着かせて、話を聴いてもらわねばとガーベラは思った。痛む身体を必死に起こし、ヒリヒリと痛む頬にショールをあてる。

「汚らわしい女なんかに! 見た目ばっか、綺麗でっ! なのに、なのにっ! う、うわぁぁぁぁん!」

 号泣した彼女は、再びガーベラに殴りかかってきた。女の力とはいえ、本気である。ガーベラは反撃できずにただ、必死に両腕で頭を庇い、地面に突っ伏した。
 周囲には何事かと人が集まってきた。ガーベラの素性を知っている者が何人かいたので、顰めき合っている。

「ほら、あれ、海に近い娼館の!」
「あぁ、いつもお高く歩いてる娼婦か」
「可哀想にねぇ、あの子。彼氏を寝取られたんだろうねぇ」

 悪いのは、ガーベラだった。誰も、ログの婚約者を止める者など、いなかった。
 絶望した、娼婦に良い印象など人々が持っているわけではないだろうが、それでもこの暴力を誰も止めないだなんて。

「な、何してるんだカルヴェネ!? や、やめないか!」

 聴きなれた声が、朦朧としているガーベラの耳に入ってくる。ログの声だった。誰かが呼んできてくれたのか、通りかかったのか。身体を抱き起こされ、抱き締められた。
 震える声のログは、泣いているようだ。だが、カルヴェネと呼ばれた婚約者も泣き喚いている。
 そして、誰しもがカルヴェネの味方だった。婚約者よりも、娼婦を救出したログに非難を浴びせている。

「ガーベラさん、大丈夫!? あ、あぁ、こんなに傷だらけで」
「ログ、いいから。早く彼女の元へ。……平気よ、私は娼婦。夜ならともかく、まだ早い時間には出てきてはいけないの」
「無理だよ、早く手当てを」
「ログ、お願いだから」

 これ以上、貴方が悪者にならなくても良いのに。私もこれ以上、惨めにされたくないのに。
 ログが、カルヴェネを押さえ込んでいたらば、ガーベラは直様1人で影に戻った。夜の女は夕陽を浴びてはいけない、何が起こるか解らないから。娼婦とて苦労はあるが、楽に金を稼いでいると思っている人間のほうが多いのだ。
 嫉妬と憎悪の対象になる。特に同姓からはそうだった。

「ログ、どぉしてよ! どぉして、その女を選んだのよ!」

 カルヴェネの悲痛な叫びは、修羅場の女が出す金きり声。その凄まじい甲高い声に、人々は一瞬たじろぐ。人間の声ではなく、何か獣のようだった。

「ごめんよ、カルヴェネ。君の事は愛していた、でも、けれど」
「何よ、この、下劣野郎! 最低だわ、私の時間を返してよ、返してよーっ!」

 どういうことだろう、ガーベラは2人の会話を聴きながら青褪めていた。無論、周囲の人々もひそやかにカルヴェネを指差して同情の目を向けている。

「僕は、ガーベラさんを愛している。……ガーベラさん、2人で暮らさないか。もう、娼婦をする必要はないんだよ」
「……え? 何を、言っているの。ログ……?」

 ガーベラが、引き攣った笑みを浮かべる。理解できずに、笑うしかなかった。顔が自然と、笑みを浮かべたのだ。
 ログは、なんと言った? 愛していると言ったのだ、ガーベラを。
 目の前にいる婚約者ではなく、娼婦のガーベラを愛していると言ったのだ。
 やがて、遅かったのでニキとエミィもやってきた。捜していたら騒ぎに出くわしたのだ。

「最初はね、酷く哀しそうな美しい人だな、って。けれど、会っているうちに思ったんだ。……僕が、ガーベラさんを笑わせてあげたい、って。カルヴェネよりも、ガーベラさんが気になった。だから、実は……何度か娼館の前をうろついていたんだ、姿でも見ることが出来ればいいな、って……」
「い、意味が解らないわ、ログ。冷静になって。貴方、カルヴェネさんのことを愛しているって。あんなに私に惚気ていたでしょう?」
「うん、けれど、どんどん、ガーベラさんが愛しくなった。話をすると、ガーベラさんが微笑んでくれるから、だから話をしてたんだ」
「落ち着いて。何か勘違いをしているのよ、ログ。まだ、間に合うわ。早く彼女の元へ」
「僕が愛しているのは、ガーベラさんだよ」

 カルヴェネの絶叫が響き渡る。大の男たちが数人で押さえ込んでいるが、彼女は殺してやる、殺してやると連呼し、血走った目で2人を凝視した。
 目の前のログは、そんな彼女などお構いなしに何処か遠くを見ているような瞳で、ガーベラを見つめている。始終笑みを浮かべて。

「もう娼婦なんて辞めようよ、ガーベラさん。僕と一緒に暮らせばいい。あ、家族に紹介するよ」
「ログ、ログ? 私、娼婦を辞めたいなんて言ってないわ?」
「大丈夫、僕にはわかったんだよ。ガーベラさんは娼婦なんかやめて、僕と暮らすんだ。嬉しいだろう、聞き入ってくれていた話が、現実になる。僕は、一生ガーベラさんを大事にするよ」

 ログを、怖いと思った。あの、惚気話の純朴な青年は何処へ行ったのか。最愛の彼女を止めず、どこか凶器染みた声で語る彼は、狂っているとしか思えない。
 2人を嫉む、嫉妬の魔女に呪いをかけられたとしか、思えない。
 何故、どうして。
 確かに、二人の関係は羨ましかった。聴いていて、憧れた。

「……でも、あれは、ログとカルヴェネさんの物語よ。私と貴方とでは到底無理な話だわ」
「そんなことはないよ、だから」
「少なくとも私が、こんな公衆の面前で暴行を受ける破目になり、その原因を作った男と共になるわけないでしょう。確かに貴方の話はとても興味深かったわ、私とは未知の世界だもの。でも、それももう終わりね。これ以上、ログは話が出来ない。だって、話を自ら終わらせてしまったんだもの。私を愉しませてくれていたログは、もう何処にもいないのよ?」

 唇を噛締め、ガーベラはログの手をはたくと立ち上がる。静まり返った周囲に一瞥し、まだ吼えているカルヴェナに、哀しそうな瞳を贈った。唖然と自分を見上げていたログに、冷酷な瞳を投げかける。

「なんて、つまらない男。けれど、今まで愉しい物語を聞かせてくれたのだもの……お礼をしなくては」

 懐から、金貨を二枚、取り出した。それとはめていた真珠の指輪、紅玉の腕輪をログに投げ捨てる。

「ありがとう、ログ。お話をしてくれて、退屈しのぎをしてくれて。さようなら」

 痛む身体に、唇を噛締める。けれど、毅然とした態度でガーベラはそのまま優雅に、振舞った。しゃんと背筋を正し、エミィとニキが待っている方角へと歩き出す。
 堂々と、正面を向いて。下は、向かない。
 それが、娼婦として生きてきた自分が振舞えることだと思った。
 ここで、無残にログを斬り捨てれば、ログに皆が同情するだろう。あの娼婦に騙されていたのだと説得してくれるだろう。そうしたら、ログとカルヴェネは元の鞘に戻るかもしれない。
 ガーベラは、そんな無茶な期待をしていた。だから、必死に歩いた。身体の痛みは涙を誘う、だが、ここで泣いてはいけないのだ。あくまでも、自分は悪女であるのだから。
 善人である、何も知らない青年を巧みに呼び寄せ、翻弄した、悪い娼婦なのだから。

 どう娼館に戻ったのか記憶がないが、ボタンは後日、エミィが1人で購入してきた。
 その日はガーベラの傷を見て、娼婦達が悲鳴をあげ、皆で薬草やらで手当てをしてくれた。
 腕や足、背中が腫れて青あざになっていたし、顔の擦り傷の事もあって完治するまでガーベラは休業である。
 憤慨した館の主人は、ログとカルヴェネに対して訴訟を起こすと言い出したが、ガーベラが止めた。
 これ以上騒ぎを大きくしたら、こちらのマイナスになる、となんとか言い包めた。
 あの一件以来、ガーベラを望む男達が増えていた。見ていた男達が気が強いガーベラの鼻をあかしたくなったのだと、思われる。もしくは、惚れさせてみたいと闘争心に火がついたのか。
 呆れ返って、ガーベラは深い溜息を吐いた。
 やがて、ログとカルヴェネのその後を聞いた。直接聞かされたわけではない、傷の原因を知った娼婦達は、ガーベラの耳には入れない様にと影で話していたのだが、聴こえてしまったのである。
 カルヴェネは居辛くなって、家族で引越しを決めたのだそうだ。ので、もうここにはいない。
 ログは、カルヴェネの両親に責め立てられ、婚約破棄をどうしてくれると散々家族揃って罵詈雑言を浴びせられ、逃げるように街を出たらしい。
 結局、あの幸せそうな2人はもう、何処にもいないのだ。
 ガーベラのせいではないと、みんなが口々に言う。だが、原因を作ったのはガーベラだ。
 ログが通った事は、ガーベラの知ったことではない。だが、もし、ガーベラという娼婦が居なかったら。
 あの2人は幸せな結婚をしていただろうに……。

「それは違うよ、ガーベラ。もし、結婚出来たとしても、きっとどこかで亀裂が走る。先延ばしになっただけだ。本当に真実の恋人達が結婚したらば、何が起ころうとも離れないもんだよ。……まぁ、そんな2人になれるかなんて補償はないけれど。そういう、強い絆で結ばれて何があっても離れない恋人同士の事を、運命の恋人と呼ぶんだって。
 誰しもが、そういう相手がいる。けれども、逢えるかどうかは解らない……会えたのならば、何があって、離れる事はない……。
 だから、ガーベラ。もう、自分を責める事はしないで。お願い」

 ニキが、そう言った。普段通り、微笑んで皆との会話に混ざっていた筈だが、ニキには見抜かれたのだ。
 ニキだだけではなかった、エミィも、他の娼婦たちも気がついていた。
 ガーベラがただの美しく、狡猾で冷徹な娼婦だったならば……男を金とみなし、他の娼婦達をただの敵だとみなしていたら。誰も心配していない。
 仲間達を大事にし、気遣っていたガーベラだからこそ、皆心配し、励ましてくれた。

「運命の……恋人? そう、そんな2人がいるのならば私は見てみたい」
「そうだよ、ガーベラ。だから、あのログとカルヴェネは運命の恋人同士ではなかった。何れ、壊れる運命だった」
 
 ニキの作り話だと。気持ちを軽減する為のものだと。
 優しい仲間の娼婦達、ガーベラは涙を流す。居場所はここだ、居場所はここにしかない。
 私はきっと、この仲間達に身の危険が及んだら護ろう。私を救ってくれた彼女達を、護りたい。
 けれど、もし。
 
「運命の恋人。私にもいるのかしら?」

 自嘲気味にそう言って、静かにガーベラは笑った。いなくてもいい、逢えなくても良い。けれども、一度見てみたい。その、運命の恋人達を。何があっても、壊れない強い絆で結ばれた”羨ましい存在”を。

 ドラゴンの啼き声が、急に耳に届く。ニキとエミィの自分の名を呼ぶ声が、聴こえてきた。

「え……生きているの?」
「大丈夫です、安心してください。来るのが遅くなってごめんなさい」

 息をした、大きく息をした。どっと、汗が吹き出た。鋭く吼えているドラゴンの声に、悲鳴を上げてようやくガーベラは我に返る。走馬灯を見ていたのだろうか、死んではいなかったが。全くの無傷だが。
 目の前に、少女が立っていた。顔は見えないが、小柄な少女だ。スズを転がしたような、綺麗な声をしている。高いが、妙に柔らかく、唄でも奏でている楽器のような声だ。

「デズデモーナ、会話出来ますか?」
「やってみます」

 不意に目を動かせば、この少女の隣に長髪の男が立っている。これまた顔は見えないが、漆黒の髪は女でもそうはいないほど、美しい。気になったのは頭部に角が二本ある点だろうか、重低音の声だが、怖くはない。
 ドラゴンは5匹いる、囲まれているのだが、少女は全く動じていなかった。
 
「……殺気だっておりますので、会話不能です。いかが致しますか」
「デズデモーナ、ちょっと待ってね。私が会話してみます。……こんにちは、初めましてワイバーンさん達。私はアサギといいます。お聞きしたい事があるので、教えてください」

 ドラゴンではなく、ワイバーンであるらしい。そんな種類の事はどうでもいいのだが、目の前の少女は大きく両手を広げて何やら本気でワイバーンと話し始めた。唖然と、ガーベラは彼女を見上げる。

「大変! そうだったんだ、解りました。私が取り返すのでワイバーンさん達は上空へお願いします。大丈夫です、多分私が探したほうが安全だと思います。……よかった、解ってくれましたか! ありがとうございます!
 デズデモーナ、解りました。飛べますか? この方達、探し物をしているそうです。それを追って来たのだそうです」

 茶番なのか、なんなのか。本当に会話したとでもいうのか。だが、ワイバーン達は啼いていない。じっと、アサギという少女を見ている。
 ようやく、アサギが振り返った。

「えーっと……あ、その方。このワイバーンさん達は、ピンクの丸っこい……このくらいの球を捜しているそうです。それ、卵だそうで。貴女からその卵の香りがすると。ご存じないですか?」

 若葉色した柔らかな緑の髪、大きな深緑の瞳は星が宿っているかのよう。
 すらりとした手足、腰、だが柔らかそうな胸と尻、絵に描いたような身体を持った、美少女である。
 初めて、ここまで美しい少女を見たとガーベラも娼婦達も、唖然とした。
 化粧などしていない、素の美しさだ。アサギは胸の前で、直径10cm程度の丸を指で作っている。小首傾げて、グランディーナに話しかけた。
 狼狽するグランディーナだが、混乱しながらも、アサギに微笑まれ叫んだのだ。

「ま、まさかお父様がこの間旅の商人から買った珍しい宝石のこと!?」
「それですね、それをこのワイバーンさん達に返します。ご案内をお願いしたいのですけど」
「あれ、卵なの!?」
「だそうです。煙で眠らされて、気がついたら大事育てていた卵のうち、1つがなくなっていたそうです。ずっと、追っていたそうです」

 信じてよい話なのか。突拍子もないことを言い出した目の前の美少女だが、ワイバーン達が何も攻撃してこないことをみると、本当なのだろうか。

「た、確かに最初に狙われたのはガーベラじゃなくてグランディーナ」

 ニキが、皆の迷いを振り払うかのようにそう呟く。
 一斉にワイバーン達が羽根を広げて上昇した。それが合図の様に、突如黒髪のあの青年の身体が変化する。
 それに、娼婦とグランディーナは悲鳴を上げた。目の前に、あのワイバーンより一回りも大きな黒いドラゴンがいるではないか。腰が抜けてその場に座り込むが、アサギだけがにこやかに微笑んでそのドラゴンに手を伸ばしている。

「いきましょう、デズデモーナ。えっと、グランディーナさん、ですか。この子の背に乗ってください。大丈夫、落ちません」
「の、のののののの乗るの!?」
「はい」

 アサギは歩き出すと、座り込んでいたグランディーナの腕を引っ張り、無理やり抱き抱える。そのまま、姿勢を低くしたドラゴンの背に自分からのぼり、グランディーナを上から引っ張り上げる。

「いきましょう、デズデモーナ」
「御意に、アサギ様」
「ひぃ、喋ったっ」

 目を回し、ついに気を失ったグランディーナを乗せて、ドラゴンは静かに浮遊する。
 上空から、アサギの声が聴こえた。

「もう大丈夫ですから! 安心して、怪我の手当てを」

 明るい声に、ガーベラも、ニキも、エミィも。そして顔を出し始めた逃げ遅れた人々も、唖然とアサギを見上げる。

「な、なんなの、あの子……。すっごく可愛い子だけど……」

 絞り出したエミィの声に、その場の全員が同意する。
 
 キィィィィ、カトン……。

 ガーベラは不意に、何かの音を聴いた。アサギと名乗った、少女が頭から離れられず、ニキとエミィに起こされても、まだ彼女がいた方角を見ていた。

 そして、ガーベラの向かうべき扉が、開く。
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