別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
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年内に、本編と、1以外の外伝を終わらせるとか無理(おぃ)!
名前を呼んでください、私の名前を呼んでください。
貴方の声が聴きたいです、その熱い声で耳元で囁いてください。
私の、名前を。
けれども私の想いは口にしてはいけないの、伝えてはいけないの。
伝えたら破滅が押し寄せてくるの、みんな消えてしまうの。
だから、声は。
声は、出す事ができないの。
貴方の声は、聴いていたい……。
ずっと、ずっと、聴いていたい……。
***
雪が止むことなく降り続けている、雪かきを何度してもまた直ぐに整備された道とて、純白で埋め尽くされた。
「今年はよう降るなぁ」
悴む手を擦りながら、身体を震わせて懸命に作業する男達。黒の衣服に耳を包んでいるが、それすらも白く染まっている。温かそうな兎の毛で作られた帽子とて、雪で重くなった。時折雪をはたかないと、首が凝る。
巨大な屋敷前の道路を、もう何時間と雪かきしている。
そろそろ屋敷から来客が出てくる頃合だった、馬車が通りやすいようにと整備していた。
暫くして、一台の豪華な馬車がやってくる。頑丈な門を開き、馬車を通した。
華美ではないが、使われている素材は一級品である。物静かで謙虚な男を見事に表している馬車だと、男達は思った。
男達はこの屋敷に雇われた、ただの雑用係だった。制服を一式支給してもらえるという好条件ゆえに、志願するものは多い。豪商、というと守銭奴で、他人に金は出したがらないと思っていたがこの屋敷の男は違っていた。
身分の低い者にすら、気前良く施しをしている。
一文無しで、見た目下卑な輩でも、誠意を見せればその男は雇ってくれるのだ。貧困層には大変有り難い男だった、ゆえに、皆に慕われていた。
類は友を呼ぶのか、本日訪れていた客もその類であった。
男達にはどちらが上なのか理解すら出来ない雲の上の話だが、実際は客の方が雇い主の豪商より数段上の格式高い貴族である。
貧困の問題に真っ向から取り組む姿勢から、身分問わず人気がある絵に描いたような男だった。
古くから続く名家であるが、医療の整備を唱え続け、貴族でありながら最低限の生活をしているその男。
アルゴンキン=イグザム。
イグザム家といえば、余程の貧困民でない限りは知り得ている貴族である。
貴族達の裕福で贅沢華美な暮らしに鋭く切りつけ、煙たがられていることは確かだった。が、下々の者達からは莫大な信頼を得ている。
出てきたアルゴンキンの馬車に敬礼し、雇われ男達は精一杯の敬意を払った。自分達を救ってくれる、それこそ神よりも神に近い男達である。敬わないわけにはいかない。
門を閉めようとすると、暴走気味の馬車が館から向かってきていた。何事かと皆思わず緊張する。
馬車から身を乗り出し、止めろ止めろと叫んでいる男の声が聴こえた。
アルゴンキンの馬車を停止させろ、という意味合いだろうか。男達は慌てて馬車の扉を乱雑に叩く。
「どうかしたかね」
アルゴンキンが顔を出した、従者達が下りてくる。と、問われても何か解らない男達は気まずそうに顔を見合わせると、こちらへ向かってきている一台の馬車に視線を送った。
「申し訳御座いません、アルゴンキン様。主人が渡し忘れた物があると。ご足労をおかけ致しますが、今一度館に戻っていただけませんでしょうか?」
「ふむ、そこまで急ぎなのかね?」
やってきた馬車から降りてきた、恰幅の良い中年の男はアルゴンキンとて度々目にしていた。
「アロス様にと、主人が購入したドレスと。アルゴンキン様に見ていただきたい最新の薬品があるそうで……。
アルゴンキン様の馬車では、小回りがききません。こちらに乗っていただければお手間も取らせないかと」
「アロスに、かね。ふむぅ、薬品も気にはなるな。……アロスや、少しだけ良い子にしておくのだよ」
心痛そうに必死に説明する男に、アルゴンキンは低く唸ると傍らの娘の頭を撫でる。
言われたアロスは、にっこりと微笑むと大きく頷いた。
豊かな新緑色の柔らかく艶やかな髪に、温かみのある光を帯びた大きな瞳。軽く頬を桃色に染めて、熟れたさくらんぼの様な唇を持ち。
まるで少女達の夢物語、御伽噺の中のお姫様のような容姿。その愛くるしい顔立ちは、見る者全てを魅了してしまうと言っても過言ではなかった。
アルゴンキンの愛娘、アロス。最愛の妻が命と引き換えに産み落とした、たった一人の娘だった。
アルゴンキンは馬車を手早く降りると、1人の従者を連れて馬車を乗り換える。腰を深く折り、丁重にアルゴンキンを誘った男は再度申し訳なさそうに馬車に残されたアロスに深く礼をした。
アロスが小さく手を振る、アルゴンキンが笑って、手を振り返した。
父と娘、馬車が離れる。
やがて馬車が館へと戻っていくと、万が一に備えてアルゴンキンの馬車も一旦、館の敷地内に戻す事にした。
アルゴンキンが連れてきていた、精鋭の衛兵が5人。門の衛兵は6人、それに雪かき作業にあたっていた男達が総勢10名。治安は良い場所である、強盗の襲撃などは受ける筈もなかったがそれでも万が一だった。
馬車の中で、アロスは小さく微笑んだまま窓から雪を見ていた。
と。
何か妙な音が聴こえたと、アロスが窓に身を近づけた時である。
馬車が大きく揺れた、驚いて倒れ込んだアロスを慌てて側近の衛兵が助け起こす。
何事かと、窓に目をやった瞬間に飛び込んできた光景は、白ではなく赤だった。
唖然と、その美しい朱色を見つめる。馬車は、揺れ続けていた。
「奇襲だと!? 馬鹿な」
馴染みの衛兵の声が聴こえた、アロスは1人の衛兵に護られながら状況の理解が出来ずただ、狼狽する。
外から、男達の悲鳴とくぐもった呻き声が聴こえていた。
やがて、アロスの目の前で衛兵がゆっくりと崩れ落ちる。
「あぁ、居た居た。さぁさ、お譲ちゃん。行きますよ」
衛兵を足蹴にして現れた漆黒の装束に身を包んだ男達は、瞳しか見えない。
布で全てを覆い隠している、異様な男達の集団だった。
アロスは恐怖で硬直した、見れば、自分のドレスに衛兵の鮮血が飛び散っている。
血の香りが馬車内に充満し、アロスは思わず吐き気を覚えていた。
軽々とアロスを抱えた黒装束の男達は、そのまま馬車内に松明を落として立ち去る。みすぼらしい馬車が近くに用意されていたので、アロスを放り投げるとその馬車はそのまま、走り去った。
アルゴンキンが戻ってきた頃には、燃え盛る馬車と転がる死体。近くの住民が必死に消火活動にあたっているところだった、半乱狂で愛しい娘を捜したが当然アロスの姿は何処にもなかった。
「どういうことだ! 何があったのだ! 包囲網を張れ、一匹たりとも逃がすな!」
悲報を聞きつけ、館から主人が出てくる。青褪めた中年のあの男と共にやってきた、鬼のような形相の館の主人、ラング。周囲に怒鳴り散らしていた、警備は万全な筈なのにと頭を掻き毟りながら。
アルゴンキンを一目見るなり、地面に這い蹲ってラングは謝罪する。涙を流しながら申し訳ない、申し訳ないと何度も連呼した。
謝罪の言葉よりも、今はアロスの安否である。馬車を鎮火させれば、アロスの焼死体など出てこなかったので拉致された可能性が高いという結論に到った。
身代金目的の誘拐なのかと、アルゴンキンとラングは唇を噛む。
「こういう時に……トリフが居てくれたら」
項垂れるアルゴンキンに代わり、必死にラングが指示を出した。この地域ならラングが熟知している、警備の手を素早く着手出来た。ネズミ一匹とて逃がしたりはしない、ラングは爪を噛みながら館を徘徊する。
けれども、アロスの行方は数日経過しても解らなかった。
貴方の声が聴きたいです、その熱い声で耳元で囁いてください。
私の、名前を。
けれども私の想いは口にしてはいけないの、伝えてはいけないの。
伝えたら破滅が押し寄せてくるの、みんな消えてしまうの。
だから、声は。
声は、出す事ができないの。
貴方の声は、聴いていたい……。
ずっと、ずっと、聴いていたい……。
***
雪が止むことなく降り続けている、雪かきを何度してもまた直ぐに整備された道とて、純白で埋め尽くされた。
「今年はよう降るなぁ」
悴む手を擦りながら、身体を震わせて懸命に作業する男達。黒の衣服に耳を包んでいるが、それすらも白く染まっている。温かそうな兎の毛で作られた帽子とて、雪で重くなった。時折雪をはたかないと、首が凝る。
巨大な屋敷前の道路を、もう何時間と雪かきしている。
そろそろ屋敷から来客が出てくる頃合だった、馬車が通りやすいようにと整備していた。
暫くして、一台の豪華な馬車がやってくる。頑丈な門を開き、馬車を通した。
華美ではないが、使われている素材は一級品である。物静かで謙虚な男を見事に表している馬車だと、男達は思った。
男達はこの屋敷に雇われた、ただの雑用係だった。制服を一式支給してもらえるという好条件ゆえに、志願するものは多い。豪商、というと守銭奴で、他人に金は出したがらないと思っていたがこの屋敷の男は違っていた。
身分の低い者にすら、気前良く施しをしている。
一文無しで、見た目下卑な輩でも、誠意を見せればその男は雇ってくれるのだ。貧困層には大変有り難い男だった、ゆえに、皆に慕われていた。
類は友を呼ぶのか、本日訪れていた客もその類であった。
男達にはどちらが上なのか理解すら出来ない雲の上の話だが、実際は客の方が雇い主の豪商より数段上の格式高い貴族である。
貧困の問題に真っ向から取り組む姿勢から、身分問わず人気がある絵に描いたような男だった。
古くから続く名家であるが、医療の整備を唱え続け、貴族でありながら最低限の生活をしているその男。
アルゴンキン=イグザム。
イグザム家といえば、余程の貧困民でない限りは知り得ている貴族である。
貴族達の裕福で贅沢華美な暮らしに鋭く切りつけ、煙たがられていることは確かだった。が、下々の者達からは莫大な信頼を得ている。
出てきたアルゴンキンの馬車に敬礼し、雇われ男達は精一杯の敬意を払った。自分達を救ってくれる、それこそ神よりも神に近い男達である。敬わないわけにはいかない。
門を閉めようとすると、暴走気味の馬車が館から向かってきていた。何事かと皆思わず緊張する。
馬車から身を乗り出し、止めろ止めろと叫んでいる男の声が聴こえた。
アルゴンキンの馬車を停止させろ、という意味合いだろうか。男達は慌てて馬車の扉を乱雑に叩く。
「どうかしたかね」
アルゴンキンが顔を出した、従者達が下りてくる。と、問われても何か解らない男達は気まずそうに顔を見合わせると、こちらへ向かってきている一台の馬車に視線を送った。
「申し訳御座いません、アルゴンキン様。主人が渡し忘れた物があると。ご足労をおかけ致しますが、今一度館に戻っていただけませんでしょうか?」
「ふむ、そこまで急ぎなのかね?」
やってきた馬車から降りてきた、恰幅の良い中年の男はアルゴンキンとて度々目にしていた。
「アロス様にと、主人が購入したドレスと。アルゴンキン様に見ていただきたい最新の薬品があるそうで……。
アルゴンキン様の馬車では、小回りがききません。こちらに乗っていただければお手間も取らせないかと」
「アロスに、かね。ふむぅ、薬品も気にはなるな。……アロスや、少しだけ良い子にしておくのだよ」
心痛そうに必死に説明する男に、アルゴンキンは低く唸ると傍らの娘の頭を撫でる。
言われたアロスは、にっこりと微笑むと大きく頷いた。
豊かな新緑色の柔らかく艶やかな髪に、温かみのある光を帯びた大きな瞳。軽く頬を桃色に染めて、熟れたさくらんぼの様な唇を持ち。
まるで少女達の夢物語、御伽噺の中のお姫様のような容姿。その愛くるしい顔立ちは、見る者全てを魅了してしまうと言っても過言ではなかった。
アルゴンキンの愛娘、アロス。最愛の妻が命と引き換えに産み落とした、たった一人の娘だった。
アルゴンキンは馬車を手早く降りると、1人の従者を連れて馬車を乗り換える。腰を深く折り、丁重にアルゴンキンを誘った男は再度申し訳なさそうに馬車に残されたアロスに深く礼をした。
アロスが小さく手を振る、アルゴンキンが笑って、手を振り返した。
父と娘、馬車が離れる。
やがて馬車が館へと戻っていくと、万が一に備えてアルゴンキンの馬車も一旦、館の敷地内に戻す事にした。
アルゴンキンが連れてきていた、精鋭の衛兵が5人。門の衛兵は6人、それに雪かき作業にあたっていた男達が総勢10名。治安は良い場所である、強盗の襲撃などは受ける筈もなかったがそれでも万が一だった。
馬車の中で、アロスは小さく微笑んだまま窓から雪を見ていた。
と。
何か妙な音が聴こえたと、アロスが窓に身を近づけた時である。
馬車が大きく揺れた、驚いて倒れ込んだアロスを慌てて側近の衛兵が助け起こす。
何事かと、窓に目をやった瞬間に飛び込んできた光景は、白ではなく赤だった。
唖然と、その美しい朱色を見つめる。馬車は、揺れ続けていた。
「奇襲だと!? 馬鹿な」
馴染みの衛兵の声が聴こえた、アロスは1人の衛兵に護られながら状況の理解が出来ずただ、狼狽する。
外から、男達の悲鳴とくぐもった呻き声が聴こえていた。
やがて、アロスの目の前で衛兵がゆっくりと崩れ落ちる。
「あぁ、居た居た。さぁさ、お譲ちゃん。行きますよ」
衛兵を足蹴にして現れた漆黒の装束に身を包んだ男達は、瞳しか見えない。
布で全てを覆い隠している、異様な男達の集団だった。
アロスは恐怖で硬直した、見れば、自分のドレスに衛兵の鮮血が飛び散っている。
血の香りが馬車内に充満し、アロスは思わず吐き気を覚えていた。
軽々とアロスを抱えた黒装束の男達は、そのまま馬車内に松明を落として立ち去る。みすぼらしい馬車が近くに用意されていたので、アロスを放り投げるとその馬車はそのまま、走り去った。
アルゴンキンが戻ってきた頃には、燃え盛る馬車と転がる死体。近くの住民が必死に消火活動にあたっているところだった、半乱狂で愛しい娘を捜したが当然アロスの姿は何処にもなかった。
「どういうことだ! 何があったのだ! 包囲網を張れ、一匹たりとも逃がすな!」
悲報を聞きつけ、館から主人が出てくる。青褪めた中年のあの男と共にやってきた、鬼のような形相の館の主人、ラング。周囲に怒鳴り散らしていた、警備は万全な筈なのにと頭を掻き毟りながら。
アルゴンキンを一目見るなり、地面に這い蹲ってラングは謝罪する。涙を流しながら申し訳ない、申し訳ないと何度も連呼した。
謝罪の言葉よりも、今はアロスの安否である。馬車を鎮火させれば、アロスの焼死体など出てこなかったので拉致された可能性が高いという結論に到った。
身代金目的の誘拐なのかと、アルゴンキンとラングは唇を噛む。
「こういう時に……トリフが居てくれたら」
項垂れるアルゴンキンに代わり、必死にラングが指示を出した。この地域ならラングが熟知している、警備の手を素早く着手出来た。ネズミ一匹とて逃がしたりはしない、ラングは爪を噛みながら館を徘徊する。
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