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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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捨てきれない願いがあった
叶えたい願いがあった
貫きたい意志があった
護りたい人がいた

伝えたかった言葉があった
言われたかった言葉があった
私の、願いは・・・

廻れ運命の歯車
停止した時全ては崩壊へと

けれども再び始まる 

【遥か遠い過去の記憶】

「叶えたい願いは・・・叶ったよな?」

トビィはそう呟いた。
紫銀の長髪を風に靡かせ、相棒のドラゴンで空中飛行。
行き先は特に決まっていない。
空は晴天。
彼が幾度も転生を繰り返し、叶えたかった願いとは。

「よかったな、アサギ?」

地上の森林を見つめつつ、トビィは薄く笑う。
義妹の名を呟き、瞳を閉じた。
トビィの願いは『妹の幸せ』。
遥か遠い過去からの因縁。
彼はようやく・・・自分の願いを叶える事が出来た。

「伝えたかった言葉があったですよー・・・。言われてみたかった言葉があったですよー。・・・まさか叶うなんて、思ってなかったですけどね。・・・アサギの、願いは・・・」

愛しい旦那の肩に持たれながら。
アサギは小さく呟いた。
そっと瞳を閉じ、旦那の手を握る。
幾度も転生を繰り返し、彼女が叶えたかった・・・夢を見ていた願いとは。

「ありがとですよ、ギルザ」

愛しい人の、名を呼んだ。
遥か遠い過去からの因縁。
彼女はようやく・・・自分の願いを叶える事が出来た。

「アサギが結婚したって?」

2人の男が同時に言葉を漏らした。
一瞬の沈黙。
黒髪の少年は、髪を軽く掻き揚げながら、微かに泣きそうな表情を浮かべる。

「・・・もう、僕が護らなくても大丈夫だな」

黒髪の青年が、口元に笑みを浮かべ、窓辺から空を見つめる。

「私の意志は・・・貫けたのだろうか?」

2人は澄み切った空を見つめた。
この空の何処かに居るはずの。
一人の男を思い出していた。
彼は何をしているのだろう。 

「捨てきれない願いが・・・あるんだ」

森林に寝転んだまま。
一人の男が幾度も呟く。
伸び放題の髪、髭。
痩せこけた顔、身体。
焦点の合わない瞳で、ただ彼は呟き続ける。
彼は知らなかった。
捨てきれない願いは、もう叶わない事を。
だから、その場所で一人の少女の帰りを待っていた。
彼女が創った、その森林で、待っていた。

『トランシスー♪ アサギ、逢いに来たよーっ!』

元恋人の声は、もう、聞こえない。
彼は知らなかった。
こことは違う、別の世界で、彼女が結婚していることを。

幾度の転生を繰り返しただろう。
幾度同じ想いを抱いただろう。
幾度、失敗しただろう。

迎えた結末は彼女にとっては最良の。
彼らにとっては最悪の。

封印していた過去の記憶は。
今、解き明かされる。

トビィの願いは『アサギの幸せ』。
トランシスの願いは『アサギとの幸せ』。
アサギの最後の願いは『人を愛して、その人に愛されたい』。

因縁は、遥か遠い過去へと遡る。
記憶という名の本を紐解いて、中を開く。
それは。

※昔のHPに残っていたので転載中。
哀ちゃん>
これが一番最初の物語なのです。

 

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あの花畑で会えるとは思っていなかったが、それでもトリアはそこへ向かう。
再びクレシダを花畑手前で待たせると、そのまま進んだ。
雨は止み、見れば綺麗な虹が空に架かっていた。
マントを脱ぎ、水滴を払う。
プレゼントのネックレスと小さな袋に入った焼き菓子は無事なようで、安堵の溜息を漏らした。
折角のプレゼント、雨に濡れては台無しになってしまう。
丁寧に、濡れないように気を使って持ったのが幸いしたようだった。
草に弾かれた水滴の中進んでいくと、木の根元に、細い腕が見えた。
思わずトリアは笑みを零すと、ゆっくりと音を立てぬように木へと近づく。
そっと覗き込むと、寝息をたてて、アニスが横たわっていた。
雨宿りをしていたら眠ってしまったのだろうか、トリアは息を殺して近くに座り込む。
背には羽根がはえている。
やっぱり人間じゃない・・・よな。
小さくトリアは呟いたが、別にそんなことはどうでもよかった。
昨日はそこまで確認していなかったのだ。
瞳が交差して、そのまま瞳を奪われて。
朦朧とする意識の中で芽生えた感情は、なんなのか。
静かに寝息を立てているその姿が愛しくて愛しくて、そっと頬を撫でてみる。
起こすのは忍びない、トリアはただ夢中でその姿を見つめた。
羽がなければ、人間の少女と全く変わらないその容姿、トリアは躊躇いがちに頭を撫でた。

「おやすみ・・・良い夢を」

そっと。
そっとアニスの髪をかき上げ、露になった額に口付けをする。
壊れないように、傷つかないように、そっと。
トリアは買ってきたネックレスをそっとアニスのか細い首にはめる。
自分の額に巻き付けてあったお気に入りの布を取り、アニスの右の手首に緩く巻きつける。
焼き菓子の袋を、アニスの掌の中にそっと閉じ込める。

「次に会えたら、何か話そうか」

再度、優しく髪を撫でそう耳元で囁いた。
起きるのを待っているべきか迷った、待つのは一向に構わない。
寧ろ、眠っているその寝顔を見ていられるのだから退屈はしないどころか、心にじんわりと暖かさが広がる。
だが、起きて目の前の自分に驚かせてしまったら・・・、そう考えると悪い気がした。
大きな瞳を更に開いて、素っ頓狂な声を上げそうだった。
それも、見てみたい気もするのだが。
しかし、トリアは数分眺めた後、ゆっくりと重たい腰を上げる。
別に、会えなくなるわけでもない、時間はまだあるはずだ。
トリアは名残惜しそうに何度も立ち止まって振り返ってはアニスを見ていたが、後ろ髪惹かれながらクレシダに乗ると、そのまま花畑を後にした。
ネックレスを買ったのは、産まれて初めて購入する異性へのプレゼントで妥当な物だったから。
自分の布を渡したのは、お守り代わり。
焼き菓子を渡したのは、女の子が好きなものだったから。

「妖精に喜ばれるかは、些か不安だけど、な」

トリアはクレシダに揺られながら、苦笑いして呟く。
それしか、思いつかなかったのだ。
先日初めて、出会った人間でなく妖精。
何かしたいと思った感情、護らねば、と思った感情、芽生えた気持ちは。
一目惚れなのか、それとも。
愛らしいと思った、傍についていてやりたいと思った、笑顔を見たいと思った、親しくなりたいと思った、大事にしたいと思った。
・・・直感で好きだ、と感じた。
遠い遠い昔から知っていたような感覚で、懐かしいような、探していたような。
傍から見たら奇怪な行動かもしれないが、トリアはそうしなければいけない衝動に駆り立てられたのだ。
瞼を閉じれば、彼女の顔が浮かんでくる。
鮮明に見たままの映像が流れてくる。
これを、恋だと言わないのならなんだと言うのだろう。
自分でも不思議な感情だったが、不思議と嫌ではなくて、待ち望んでいた胸を熱くする想い。
森の妖精に一目惚れ。

「やれやれ・・・」

困ったように溜息を吐くが、笑みが零れる。
喜ぶ顔が、早く見たい、それだけ。
大輪に咲き誇る向日葵の様な眩しい笑顔で笑うんだろうな。

※ちょっぴり修正。

g3-1.jpgアニス。
膝の上に乗っている変な物体は、どうやら鳥が描きたかったらしいのですが、寝ながら描いたので、ぺんぎんみたくなっていました(爆笑)。
消そうと思ったのですが、せっかくなので(ぉぃ)。
時間が出来たら、りすとか描いて、色でも塗ってみるです。
そのままアサギの顔絵としても使用可能。(ぁ)
便利ですねー。
ワンピ着ているのを描こうと思ったのですが。
めんどかったので、着てない時のアニスで。
とーうっ(何)。


g3-2.jpgでもって、左がトリアで、右がトカミエル。
トビィお兄様ー、戻れるのなら顔絵として加工しておきますよー、これ(わぁ)。
一人一枚づつなんか絵を描く予定でしたが、アニス描いて脱落しました。
こうしてちまい絵で描くと、なんとなく二人も双子っぽいです。(そうか?)

さてと。
そろそろ、外伝3、もといABHORRENCEも終盤です。
(この間も言ってなかったか、私・・・)
気合を入れてBGM選び(くわっ)。



g3-3.jpgロミオ+ジュリエットの、サントラ。
ポカホンタスと迷ったのですが、こっちで。

・・・ザークス会議室の「図書館」というスレで、これを書いているわけですが。
可愛らしい、アサギが仲良くして頂いている女の子達が読んでくれているのですが。

・・・。
・・・。
・・・。

決して。
決して幸せな最後ではなくて。
むしろ、かなり悲惨ですけど、それでも。
読んでくださいますか、最後まで(卒倒)。

・・・幸せな結末にしてしまうと。
アサギが、ギルザに、会えないのー(絶叫)!!

それだけはーっ、それだけはーっ!!(落ち着け)

というわけで、頑張ろう、私、うん。

花畑に雨が降る。
数日前人間達がこの場所で思い思いに遊んでいた。
それぞれが作った花輪は、当然枯れて、その花畑に捨てられている。
花は、地面から抜けば枯れる。
しかし、アニスの頭上に乗っている、トカミエルの作った花冠だけは作り立てのままだった。
花と葉は瑞々しく艶やかにアニスの頭上を飾っている。
昨日は誕生日会で、トリア以外誰も森には来なかった。
今日は誰か来るだろうか。
誰か、というかトカミエルは来るだろうか。

「変な私」

何故トカミエルを待つのかが自分でもよく解らないが、見ていたいと思うのだ。
トカミエルの駆け回る無邪気な笑顔を、見ているのが好きなのだ。
花畑でアニスは一人、ぼーっと、突っ立ったまま微動だしない。
小雨が身体に当たって、アニスの身体を濡らした。

トリアはクレシダを連れて、街中を歩いていた。
雨なので人通りは少ないのだが、それでも住人達から「昨日はお誕生日おめでとう」、と声をかけられ、会釈して歩く。
昨日は会に遅れたので、両親に夜中まで叱られていたのだが、トリアは上の空だった。
両親からプレゼントに、トカミエルと御揃いの銀の指輪を貰い、トリアは上の空でそのまま自室へと戻った。

「・・・どうしたんだ、トリアは? トカミエル、何か知っているか?」
「知らなーい」

銀の指輪は特注品で、この世に二つだけのもの。
トカミエルは大層喜んで、深夜も指輪を眺めていたようだった。
トリアは早朝、雨の中クレシダを連れて家を出て、こうして街中を歩き回っている。
買いたい物があるのだが、見つからない。

「よぉ、トリア! お誕生日だったんだよな、おめでとう。おじさんからコイツをプレゼントだ」
「ん? ありがとう」

小さな露店の前で声をかけられ、そのまま何かが飛んでくる。
反射的にそれを受け取ると、どうやら上等な模様を施してある布だった。

「トリアはさ、額に何時も布巻いてるからな。似合うと思って」
「ありがとう。確かに、好みの柄かもな。大事に使わせていただくよ」
「へへ、そりゃぁ嬉しいね!」
「ところで。・・・女の子に何かあげられる物、売ってないか?」
「へ?」

トリアが真剣にそう聞いてきたので、店主は拍子抜けした声を出した。

「女の子ぉ!? トリアが!? こりゃ一大事だな、町中に嵐が起こるぞ! 相手は誰だ!? トリアを狙うお嬢さん方は多いからなぁ・・・」
「なんでもいいから、何か見せてくれないか」

微かに苛立ちの意味合いを含めて、トリアは眉を顰める。
へへ、悪いなぁ、と頭を掻きながら店主は黒のケースを取り出してきた。

「ほれ、女の子用のアクセサリーだ。どうだ? 気になるのはあるか?」

ケースを開くと、成る程、煌びやかなアクセサリーが所狭しと並んでいる。
大した金額ではないのだろうが、作りは粗悪でもデザインは悪くない。

「これを、一つ」

トリアは暫し眺めてから、一つのネックレスを指差した。
淡水色の石が涙型に加工してある代物だった。

「まいどあり、お代はいらねぇや。大サービス」
「いや、いい。これで足りるか?」

トリアは懐から硬貨を数枚取り出すと、ケースに投げ入れる。
苦笑いして店主はまいどありー、と再度呟いた。

「プレゼントくらい、自分の金で買うさ」

小さく笑って、トリアは再びクレシダと歩き出す。
その姿を見つめながら、店主は大きく腕組みしたまま頷いた。
相手は誰か知らんが・・・こりゃ娘どもに一波乱起こりそうだよな。
途中トリアは菓子屋に立ち寄ると、焼き菓子が入った小袋を購入した。
それを持ち、マントを羽織り直すとクレシダの背に跨る。

「雨ですまないが・・・あの花畑へ」

トリアがそう呟くと、クレシダは小さく啼いてそのまま雨を気にせず森へと向かった。

「ぎゃー、見られたー」

リス達が木の上で騒ぎまわっている最中、アニスはそっと木の葉から様子を伺っていた。
リュン、という黒髪の幼そうな男の子、そしてその隣のトリア。

「トリアって、トカミエルの双子の弟さんなんだよ」
「そんな豆知識、どうでもいいよ! っていうか、ぎゃー、見られたーっ」

騒然、リス達はアニスの言葉に耳を貸さず、ただ走り回るばかり。
やがて、二人の人間はそのまま森を去っていった。
それを見届けるとアニスはリス達をその場に残して、木からふわりと飛び降りると、一目散に人間たちが遊んでいたその場所へ走った。
オルビスが頭上に掲げていた、トカミエルが作った冠。
捨てられて地面に転がっているそれを、そっと跪いて手に取ると、自分で頭上に乗せてみる。

「どうぞ、お姫様の冠だよ」

なんとなく聞こえたトカミエルの台詞を自分で言ってみる。
アニスは嬉しそうに微笑むと、追いかけてきたリス達に振り返ると丁寧にお辞儀をした。

「似合う?」
「似合う? じゃないよーっ、何やってんのーっ! どーして大人しく出来ないのさっ」
「大丈夫よ。リュンって子に見られたけど、別に何もなかったじゃない。心配しすぎなんだよ」

冠を乗せたまま、くるくる回るアニス。
そーだ、泉で姿を映してみよう。
そう呟くと、そのまま羽根をばたつかせてそのまま泉へと急行した。

「待って、待ってよ、アニス!」

シロツメクサの花冠を頭上に乗せて、アニスはふわりふわわ、そのままそのまま奔放に空気と共に流れた。
泉で水面に姿を映し、満足そうにアニスは頷く。

「お姫様の冠を手に入れたのです」

頭上に咲き誇る、花冠。
トカミエルが作った、花冠。
・・・オルビスが置いていった、忘却の花冠。

翌日、街ではトカミエルとトリア・・・バルトラウト家の二人の息子の誕生日会が盛大に行われた。
バルトラウト家は、この街では武器屋を経営しており、二人の息子はその武器を巧みに操り剣舞も披露する事になっている。
自慢の息子達だった。
トカミエルに客の接待は任せて、主役の一人であるはずのトリアはそっと自宅の裏口から抜け出すと、一目を気にして森へ馬を急がせる。
トリアが幼い頃から育て、共に成長してきた愛馬・クレシダは、光りの加減では何処となく深い緑に見えなくもない漆黒の馬だ。
クレシダで駆け抜け森の中へと突き進む。
そう、昨日トリアとリュンが居たあの花畑へと。
どうしても、リュンの言葉が胸に何かしらの杭を刺した。
不安なのか期待なのか、それすら分からないが、リュンの見た少女に会わなければいけない気がしたのだ。

「クレシダ、ここで待て」

花畑の入り口でトリアはクレシダから下りると、静かに、なるべく足音を立てないようにして花畑の中を進む。
リュンが昨日刺した木を見上げる。
誰もいない。
いるわけ、ないよな・・・。
自嘲気味に笑うと、トリアはそれでも木を一周して眩しそうに瞳を細める。
軽い溜息を吐くと、木の根元に座り込み、もたれ掛かって瞳を閉じる。
心地よい陽の光に、夢の世界へトリアは誘われて行った。
すぐに軽い寝息が聞こえ始める。
一方アニスは、お気に入りの花冠を頭上に乗せたまま、今日も森を散歩していた。
リス達は自分が怒られるのではないかと、大人や他の動物達にアニスが人間に見られたことを言わなかったので、咎められることもなく気ままに今日も過ごしている。
ただ、いつも一緒のリス達がいなかった。
花畑付近で、アニスは珍しい動物に出くわした。
森では見たことがない生き物だった。
馬のクレシダである。
大人しく花畑の入り口の木に繋がれていた。
アニスは周りに誰も居ないことを確認すると、そのまま近寄っていく。
気配に気がつき、クレシダは顔をあげてアニスを見た。
瞳が交差する。

「綺麗な瞳。こんにちは、初めまして、アニスです。お名前は?」

ぺこり、とお辞儀をしてアニスはクレシダに手を伸ばす。
大人しく撫でられていたクレシダは、暫くしてアニスに語りかけた。

「・・・名前は、クレシダ。あそこにいる主と共に暮らしているものです」
「主? だあれ?」

クレシダは小さく鳴くと、木のほうに顔を向ける。
アニスは言われた方向へ身体を向けた。
木の根元に誰かがいる。

「あら、今日は誰も来ないと思ってた。誕生日会なんでしょ?」
「良くご存知で。主はそれを抜け出してというか、放置してこちらへ来ておりますゆえ」
「そうなの? あれは・・・誰?」
「主の名は、トリアと申しますが」
「わぁ、トリア! トカミエルの弟さんね!」
「・・・詳しいのですね。そうです」

クレシダの背を丁寧に撫でながら、アニスはじっとトリアを見た。
近寄ってみようか、どうしようか。

「クレシダは、トリアのこと、好き?」
「えぇ、とても。優しく行動的で素晴らしい人間だと思いますが」
「そっか。ありがとう」

アニスはそれだけ聞くと、決意したかのように笑顔でそっとクレシダから離れた。
ゆっくりとトリアに近づいていく。
寝息を立てているトリアに近寄ると、アニスはしげしげとしゃがみ込んで見つめた。
思えばここまで近寄って見るのは始めてだった。
成る程、トカミエルと同じくらいに端正な顔立ちをしている。
じーっと、物珍しそうにトリアを観察していたアニス、それをクレシダが遠くから見守る。
不意に、トリアは身動ぎして小さく呻いた。
驚いて思わず後ずさるアニス。
それでも動けずにその場に立ち尽くしていると、トリアは大きく腕で伸びをしながら眠たそうに気だるそうに身を起こす。

「あー・・・良く寝た」
「・・・」

瞳を軽く擦りながら、トリアは欠伸を小さくしつつ、ようやく瞳を開く。
目の前で、緑の髪の女の子がこちらを見て立っている。
女の子。

「女の子! リュンが言っていたのは君のことかっ」

急に意識が冴え渡って、勢いでトリアは立ち上がった。
びくぅ、と身体を震わせて、アニスはおどおどとトリアを見る。

「あ・・・」

何か言おうとしたが、トリアの口内は乾ききって声が出てこない。
確かに、こんな美しい女の子を見たのは初めてだった。
今まで見てきた異性が、急激に色褪せていく。
アニスは、ぺこん、とお辞儀をするとそのまま森の奥へと消えていった。

「ちょ、ま、待って」

トリアは慌てて後を追おうとしたが、足が動かなかった。
瞳を奪われ、足が竦んだのか。
こんなことは初めてだった。

「・・・やっと、見つけた。ようやく、会えた」

トリアは知らずそう呟き、こう最後に付け加える。
・・・君を、今度こそ護らなければ。
そう、付け加えた。
遠くでクレシダが小さく鳴いたのを聴くと、トリアは名残惜しそうに何度も森の奥に目をやると、動かない足を引き摺ってクレシダへと歩み寄る。
森の奥からアニスはそっとトリアとクレシダを見つめていた。

「あの人・・・私、知ってる?」

瞳が交差した瞬間に、その人が以前自分の近くに居てくれたような気がして、落ち着かない。

「・・・お兄様・・・?」

アニスは虚ろな瞳で消えていく二人を見送った。
胸騒ぎ、高鳴る鼓動、軽く震える身体。
トリアを思い出す。
あの髪、触ると本当に滑らかで、指通りが良いのだ。
あの氷のような、それでいて温かみのある瞳は優しく鋭く。
時折穏やかに微笑むその笑顔が大好きで。
大きな腕で持ち上げて、くるくると回して貰うのが好きで・・・。

「え・・・?」

知っている。
確実に知っている。
隠し切れない動揺に、アニスは居た堪れなくなって、森から駆け出して、人間の街を見渡せる位置まで全力で走る。
もしかして、私、ここへ来る前・・・。

「人間、だったの? それで彼を知っているの? どうして、どうして私あの人のこと『お兄様』って呼んだの!?」

ぺたり、とアニスは地面に座り込んだ。
力なく崩れ落ちるように、倒れ込むように。
ぎゅっ、と自分の両腕を抱いて、力を込める。
アニスは項垂れて人間の街を見た。
今頃、誕生日会が行われているのだろう。
行ってみたい、行ってみたい・・・。

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