[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
花畑に雨が降る。
数日前人間達がこの場所で思い思いに遊んでいた。
それぞれが作った花輪は、当然枯れて、その花畑に捨てられている。
花は、地面から抜けば枯れる。
しかし、アニスの頭上に乗っている、トカミエルの作った花冠だけは作り立てのままだった。
花と葉は瑞々しく艶やかにアニスの頭上を飾っている。
昨日は誕生日会で、トリア以外誰も森には来なかった。
今日は誰か来るだろうか。
誰か、というかトカミエルは来るだろうか。
「変な私」
何故トカミエルを待つのかが自分でもよく解らないが、見ていたいと思うのだ。
トカミエルの駆け回る無邪気な笑顔を、見ているのが好きなのだ。
花畑でアニスは一人、ぼーっと、突っ立ったまま微動だしない。
小雨が身体に当たって、アニスの身体を濡らした。
トリアはクレシダを連れて、街中を歩いていた。
雨なので人通りは少ないのだが、それでも住人達から「昨日はお誕生日おめでとう」、と声をかけられ、会釈して歩く。
昨日は会に遅れたので、両親に夜中まで叱られていたのだが、トリアは上の空だった。
両親からプレゼントに、トカミエルと御揃いの銀の指輪を貰い、トリアは上の空でそのまま自室へと戻った。
「・・・どうしたんだ、トリアは? トカミエル、何か知っているか?」
「知らなーい」
銀の指輪は特注品で、この世に二つだけのもの。
トカミエルは大層喜んで、深夜も指輪を眺めていたようだった。
トリアは早朝、雨の中クレシダを連れて家を出て、こうして街中を歩き回っている。
買いたい物があるのだが、見つからない。
「よぉ、トリア! お誕生日だったんだよな、おめでとう。おじさんからコイツをプレゼントだ」
「ん? ありがとう」
小さな露店の前で声をかけられ、そのまま何かが飛んでくる。
反射的にそれを受け取ると、どうやら上等な模様を施してある布だった。
「トリアはさ、額に何時も布巻いてるからな。似合うと思って」
「ありがとう。確かに、好みの柄かもな。大事に使わせていただくよ」
「へへ、そりゃぁ嬉しいね!」
「ところで。・・・女の子に何かあげられる物、売ってないか?」
「へ?」
トリアが真剣にそう聞いてきたので、店主は拍子抜けした声を出した。
「女の子ぉ!? トリアが!? こりゃ一大事だな、町中に嵐が起こるぞ! 相手は誰だ!? トリアを狙うお嬢さん方は多いからなぁ・・・」
「なんでもいいから、何か見せてくれないか」
微かに苛立ちの意味合いを含めて、トリアは眉を顰める。
へへ、悪いなぁ、と頭を掻きながら店主は黒のケースを取り出してきた。
「ほれ、女の子用のアクセサリーだ。どうだ? 気になるのはあるか?」
ケースを開くと、成る程、煌びやかなアクセサリーが所狭しと並んでいる。
大した金額ではないのだろうが、作りは粗悪でもデザインは悪くない。
「これを、一つ」
トリアは暫し眺めてから、一つのネックレスを指差した。
淡水色の石が涙型に加工してある代物だった。
「まいどあり、お代はいらねぇや。大サービス」
「いや、いい。これで足りるか?」
トリアは懐から硬貨を数枚取り出すと、ケースに投げ入れる。
苦笑いして店主はまいどありー、と再度呟いた。
「プレゼントくらい、自分の金で買うさ」
小さく笑って、トリアは再びクレシダと歩き出す。
その姿を見つめながら、店主は大きく腕組みしたまま頷いた。
相手は誰か知らんが・・・こりゃ娘どもに一波乱起こりそうだよな。
途中トリアは菓子屋に立ち寄ると、焼き菓子が入った小袋を購入した。
それを持ち、マントを羽織り直すとクレシダの背に跨る。
「雨ですまないが・・・あの花畑へ」
トリアがそう呟くと、クレシダは小さく啼いてそのまま雨を気にせず森へと向かった。
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |