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狭い路地を潜り抜けて、三人は走る。
道は未だ混乱した人々が慌てふためいており、走りにくい。
てっきり、殆どの住民が避難したのだと思っていたが、そうでもないようだった。
遠くで叫び声が上がった。
立ち止まらないように振り返ると、見れば一体のドラゴンがすでに街に侵入してきている。
「この街、自警団とかなんかないわけ!?」
「海賊用にならあった気がするけれど、ああいうのには手が出せないんじゃない?」
産まれて初めてドラゴンを直に見た三人は、思わず息を飲んだ。
話では聞いたことがあったけれど、絵でしか見た事もなく。
瞳は深紅、怒りの炎に包まれているかのようで、硬そうな鱗は山脈の剥き出しの岩のようで。
実際のところそのドラゴンは羽根を広げて全長3メートル程なのだが、ガーベラ達にはもっと巨大なものに見えた。
「・・・いくらなんでも、あんなの相手に出来ないよね」
乾いた笑い声を出してエミィがそう小声で漏らす。
三人は振り返らずに走り続け、その地下室のある家を探した。
焦りもある為、なかなか家が探せない。
ニキだけが知っているその家、ガーベラとエミィはただ見守るしかなかった。
「待って! 置いていかないでっ!」
「助けてーっ、誰かーっ!!」
同じ年頃の同姓の甲高い叫び声に、三人はその方角を見つめる。
路地の隙間から大通りが見えたのだが、少女が一人、手を伸ばして泣き喚いていた。
倒れこんで必死に助けを呼んでいる。
「待って、お願い! 友達でしょ!?」
「知らないっ!」
何処かで聞いた声だった、それもつい最近聞いている。
三人は顔を見合わせると、誰が言い出すでもなく、思わずその少女の元へと駆け出した。
・・・そこに倒れていたのは、市長の娘、グランディーナ。
細い路地を走り抜け大通りへ思わず飛び出すと、あの日、ラシェの店からグランディーナと共に出てきた少女達の姿を見つけた。
グランディーナからかなり離れた大通りを、必死で駆けている。
足を挫いたのか地面に倒れこんで必死に友人を呼ぶグランディーナを置き去りに、少女達は死に物狂いで走っているのだった。
高価そうなドレスも泥まみれ、綺麗な顔も、涙と鼻水で汚れきったグランディーナ。
「ガーベラ!」
思わず、ガーベラはグランディーナに向かって勢い良く走り出す。
ニキが止めるのも振り払い、ガーベラは一直線にグランディーナの元へ辿り着くと、泣き続けるその身体を起こし、自分の肩に腕を乗せた。
足を挫いて一緒に逃げ切れないと判断され、友人達に置いていかれたのだ、この娘は。
同情かもしれないが、目の前で人が消えるのも嫌だったし、気の毒で哀れで。
「しっかり掴まって」
「あ、あなたは・・・」
「さぁ、急いで! ここは危険だわ」
ニキとエミィも駆け寄ってきた、三人でグランディーナを支えて、必死に路地へと連れて行く。
唖然と三人を見つめながら、涙を流して嗚咽するグランディーナに、ニキが叱咤した。
「泣くな! 助かってから泣いて。泣く力があるのなら、自分で歩く努力をして!」
「ご、ごめんな、さ、ごめ、ん、なさ」
右足をどうやら挫いているらしく、思うように歩けないが、四人は必死で路地を目指した。
細い路地に入って、姿を隠して逃げ切れば・・・。
歯を食いしばり、痛みを堪えて歩くグランディーナの背を必死に抱いていたガーベラは、不意に地面が翳った事に気がついて、軽く上を見る。
喉の奥から悲鳴が出る。
ガーベラのその悲鳴に、三人も見上げ・・・絶叫した。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
真後ろに、ドラゴンが一体。
前方の宿屋の屋根にも一体。
二体のドラゴンに挟まれていた。
再び絶叫し始めるグランディーナを尻目に、ガーベラは短剣をそっと震える手で持ち直し、素早く周囲を見渡す。
この三人を突き飛ばせば、三人は路地になんとか辿り着ける。
三人は、なんとかなる。
汗が額を流れ、口内が急激に乾き、身体が音を立てて震え出す。
ドラゴン二体は、四人を静かに見つめていた。
震える足を必死で押さえつけて、息を大きく吐き、吸い込み・・・・。
「行って、三人とも!」
ガーベラは唇を強く噛み締めると、右足に重身を込めて、思い切り三人を路地の方角へと突き飛ばした。
叫び声を上げて、倒れ込む三人だったが、這ってでも路地までは行ける距離だ。
その時、一体のドラゴンが大きく啼いた。
それを合図に、もう一体が翼を大きく広げて、四人へ・・・一番手前に居たガーベラへと急降下してくる。
羽根で建物を薙ぎ倒し、鋭利な嘴を大きく開いて。
「ガーベラ!」
ニキの声もガーベラに届かず、ただ、ガーベラは。
目の前の迫り来るドラゴンに対して既に対抗する気力すらなく、固まって動けなくて、その場に立ち尽くす。
自分は孤児なので、悲しむ家族が無い。
グランディーナは市長の娘だし、ニキは大家族の長女なので仕送りの為娼婦をやっているわけで、エミィには病気の母親と、幼い弟がいる。
自分だけが、誰もいない。
犠牲、という言葉は好きではないけれども誰か一人の命で他の三人の命が救われるのなら、自分が犠牲になるべきだ、とガーベラは思ったのだった。
・・・そしてもしかしたら、娼婦の自分に疲れていたのかもしれない。
解放されたくて、自ら死を選択したのかもしれない。
不意に思った。
あぁ、あの吟遊詩人に。
もう一度、会いたかったかも。
もしくは。
一度でいいから、恋人、という存在が欲しかったかも。
でも、娼婦だから。
恋人は、無理だから。
薄らと瞳を閉じていくガーベラ、三人の声も、ドラゴンの啼き声も、耳には届かない。
まぁ、こんな人生も。
いいんじゃ、ないかし・・・ら・・・
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