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あの花畑で会えるとは思っていなかったが、それでもトリアはそこへ向かう。
再びクレシダを花畑手前で待たせると、そのまま進んだ。
雨は止み、見れば綺麗な虹が空に架かっていた。
マントを脱ぎ、水滴を払う。
プレゼントのネックレスと小さな袋に入った焼き菓子は無事なようで、安堵の溜息を漏らした。
折角のプレゼント、雨に濡れては台無しになってしまう。
丁寧に、濡れないように気を使って持ったのが幸いしたようだった。
草に弾かれた水滴の中進んでいくと、木の根元に、細い腕が見えた。
思わずトリアは笑みを零すと、ゆっくりと音を立てぬように木へと近づく。
そっと覗き込むと、寝息をたてて、アニスが横たわっていた。
雨宿りをしていたら眠ってしまったのだろうか、トリアは息を殺して近くに座り込む。
背には羽根がはえている。
やっぱり人間じゃない・・・よな。
小さくトリアは呟いたが、別にそんなことはどうでもよかった。
昨日はそこまで確認していなかったのだ。
瞳が交差して、そのまま瞳を奪われて。
朦朧とする意識の中で芽生えた感情は、なんなのか。
静かに寝息を立てているその姿が愛しくて愛しくて、そっと頬を撫でてみる。
起こすのは忍びない、トリアはただ夢中でその姿を見つめた。
羽がなければ、人間の少女と全く変わらないその容姿、トリアは躊躇いがちに頭を撫でた。
「おやすみ・・・良い夢を」
そっと。
そっとアニスの髪をかき上げ、露になった額に口付けをする。
壊れないように、傷つかないように、そっと。
トリアは買ってきたネックレスをそっとアニスのか細い首にはめる。
自分の額に巻き付けてあったお気に入りの布を取り、アニスの右の手首に緩く巻きつける。
焼き菓子の袋を、アニスの掌の中にそっと閉じ込める。
「次に会えたら、何か話そうか」
再度、優しく髪を撫でそう耳元で囁いた。
起きるのを待っているべきか迷った、待つのは一向に構わない。
寧ろ、眠っているその寝顔を見ていられるのだから退屈はしないどころか、心にじんわりと暖かさが広がる。
だが、起きて目の前の自分に驚かせてしまったら・・・、そう考えると悪い気がした。
大きな瞳を更に開いて、素っ頓狂な声を上げそうだった。
それも、見てみたい気もするのだが。
しかし、トリアは数分眺めた後、ゆっくりと重たい腰を上げる。
別に、会えなくなるわけでもない、時間はまだあるはずだ。
トリアは名残惜しそうに何度も立ち止まって振り返ってはアニスを見ていたが、後ろ髪惹かれながらクレシダに乗ると、そのまま花畑を後にした。
ネックレスを買ったのは、産まれて初めて購入する異性へのプレゼントで妥当な物だったから。
自分の布を渡したのは、お守り代わり。
焼き菓子を渡したのは、女の子が好きなものだったから。
「妖精に喜ばれるかは、些か不安だけど、な」
トリアはクレシダに揺られながら、苦笑いして呟く。
それしか、思いつかなかったのだ。
先日初めて、出会った人間でなく妖精。
何かしたいと思った感情、護らねば、と思った感情、芽生えた気持ちは。
一目惚れなのか、それとも。
愛らしいと思った、傍についていてやりたいと思った、笑顔を見たいと思った、親しくなりたいと思った、大事にしたいと思った。
・・・直感で好きだ、と感じた。
遠い遠い昔から知っていたような感覚で、懐かしいような、探していたような。
傍から見たら奇怪な行動かもしれないが、トリアはそうしなければいけない衝動に駆り立てられたのだ。
瞼を閉じれば、彼女の顔が浮かんでくる。
鮮明に見たままの映像が流れてくる。
これを、恋だと言わないのならなんだと言うのだろう。
自分でも不思議な感情だったが、不思議と嫌ではなくて、待ち望んでいた胸を熱くする想い。
森の妖精に一目惚れ。
「やれやれ・・・」
困ったように溜息を吐くが、笑みが零れる。
喜ぶ顔が、早く見たい、それだけ。
大輪に咲き誇る向日葵の様な眩しい笑顔で笑うんだろうな。
※ちょっぴり修正。
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