別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
×
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無理やり集結させた前回、急げアサギ。
真似っこ企画⑦くらい。
小林先生の画風でDES
ロマサガ2のヘクターで、トビィ
色塗りは割愛、無理ですあの色彩は。
これで鉛筆約10分。
細かすぎて不器用な私では形をとるだけで、手一杯。
ロマサガ2アプリ、ソフバン(というかやふー)出来ないんだよ記念。
・・・早くなんとかして、スクエニ。
仕方がないのでロマサガ1をグレイで始めました。
私のガラハドー!!!
※違う
とりあえず、小林先生の色塗りはどう見ても無理です。
新しいロックブーケの画像がきれい過ぎて腰が抜けた今日この頃。
もう、大好きですわー。
おまけで自分絵ロックブーケ。
ロマサガ2で一番良く描くのは多分彼女です。
めっちゃ好きでした、ノエルも。
鉛筆二分絵。
描きやすい描き易い。
色塗りしてみたいなぁ、というか放置しているぴくしぶをなんとかせねば・・・。
これに真面目に色塗ったらこれを初投稿にしよう・・・。
※いつになることやら。
小説を書きながら、絵を描ける人になりたいです(無理です)。
手が四本あれば可能だと思うの・・・!(えぇ)
最近また絵を描きたい症候群でして、人物よりも背景を。
うん。
1月23日。
いい加減ペイントツールの使い方をちゃんを覚えたい。
写真と自分の描いた絵を組み合わせるやり方を(なんという初歩的な)!
でも、実家に帰らないとスキャナとかペンタブとかないしなぁ・・・、このマウス(がちゃぴん)壊れているしなぁ・・・。
げふげふん。
実はこの話、もう書き終えていたんですがPCがフリーズして消えているんです。
ので、書く気が起きないのです。
でも、まっていてくださる人がいる限り頑張るのです。
えいえいーおーーーーーーぉ。
あ、後数日でw-inds.の新曲発売だわ(嬉)。
「大丈夫かアサギ? 疲れてはいないか?」
昨晩の宴会の後、部屋に戻ってシャワーを浴びる。
眠りについたのは午前四時ごろだった、アサギはふらつきながらハイに抱かれて部屋に戻っていた。
現在午前11時、陽が高く昇り熱い日光が降り注いでいる。
「あ、はい大丈夫です」
起き上がって体操していたアサギ、振り返って嬉しそうに微笑んだ。
「今日はハイキングへ行く。疲れていないな、本当に?」
多少控え目に行ったハイ、自分は全く疲労感がないがアサギはまだ幼い、あのような時間に起きていてはいけないと思うハイは心配そうに再度尋ねた。
魔族達にアサギの存在が知られた以上、あまり外出しないほうが良いのだろうがどうしてもハイにはアサギに見せておきたい場所がある。
ハイ自信が付き添っているのだから、間違いは起こらないとは思うが・・・。
目を離さなければ、何も問題はないだろう。
「大丈夫ですってば、ほら、こんなに元気です」
言いながらアサギは笑顔で元気良く体操中である、身体を伸ばしてすらりとした手足を強調。
それが些か、扇情的に見えたハイは思わず顔を赤らめた。
ここはハイの部屋なので、アサギは自分の部屋へと移動した。
自分でシャワーを浴びたが、誰が寝間着に着替えさせてくれたのだろうか。
ホーチミンかスリザであると、願いたい。
アサギは顔を洗い髪を整え、動き易そうな衣服と靴を出してきた。
チューブトップにデニムのような素材のボレロと短パンである、それにブーツ。
着替えれば既に身支度したハイが、部屋の外で待っていた。
朝食はミルクと、スイカのみ。
十分だった、夜更けまで皆で騒いで食事をしていたのだから。
多少胃もたれしているが、新鮮なミルクで活力が出た。
お弁当を作って貰ったので、それは昼食に。
可愛らしい籠を受け取ったわけだが何が入っているのかは開けるまでのお楽しみ、である。
アレクの城から徒歩で片道二時間、遠いが風景が美しいので気にならないという。
一体どんな場所に案内されるのか、アサギは期待に胸を膨らませていた。
ハイとアサギは大理石で出来た廊下を真っ直ぐに進み、中心にある階段を下りていく。
正面を突き進めば無論玄関に辿り着くのだが逸れて、幅の狭くなった廊下を進んでいった。
暫くすると聴こえてくるのは鳥の囀り、草と花、土の香り。
庭園でもあるのだろう、アサギは歩いてきた道を思い返す。
精神的に余裕が出てきたので今は城内の把握に必死だ、正直一人きりでは自分の部屋にすら戻ることが出来ない広大さ。
今は昼間なので城内も明るく、道は無論装飾品もじっくりと見ることが出来るわけである。
それはアサギが憧れていた異国の城そのもので、例えば旅行会社に度々出向いてパンフレットだけ貰ってきていたドイツやフランスの城のような。
神聖城クリストバルにあったような、厳粛かつ神秘的な雰囲気というよりも明るく解放感溢れる中に、優雅な雰囲気を持ち合わせているような感じだ。
弾む心と共に周囲を見渡し続けるアサギ、銅で植物の蔦を模してある門を潜れば中庭だった。
中央にちょっとした噴水が設置してあり、周囲には花壇まで。
そこでハイはアサギを待たせて一人、アレクの部屋へと出向く。
アレクに、「リュウを引き止めておいてくれ」と伝言に言ったのだ。
ちなみに、何故アサギを同伴しなかったかというと推測にしか過ぎないのだが『アレク様もリュウ様も一緒に行きませんか?』とアサギならば言い出しそうだったからだ。
寒気。
99%の確率でそれが現実になると思ったハイは、要因のアサギを中庭に置いて行く事にしたのである。
もし、四人で出かけることにでもなればムードも何もあったものではない。
ハイ的にそれは避けるべき緊急事態、己の欲望最優先。
しかし、ハイは些か不安だった。
リュウは、昨夜本日ハイとアサギが出かけることを知ったはずなのだが、朝から姿を見せていない。
確実に邪魔をしてきても良いと思うのだが、静か過ぎて不気味なことこの上ない。
が、好都合だと思い込んだハイ、おそらく二日酔いで寝込んでいるのだろうと解釈。
そんなわけない、リュウは酒を飲んでいなかったのだ。
浮かれすぎて深く考えこまなかったハイは、この後致命的な出来事に遭遇するわけだ。
ともかく、アサギを振り返るハイ。
この中庭は高等魔族しか立ち入り禁止地区である、それこそ、アレクに信頼されているような。
なので、一人きりにしても大丈夫だろうとは思って居たがやはり不安。
アレクの部屋の廊下からも姿の確認は出来るので、そこまで危惧しなくてもよいがやはり不安。
過保護万歳、である。
いざとなれば、城を破壊してでもアサギを救う自信のハイだった。
ちらちらとハイがアサギを見ながら、名残惜しそうに歩く中、アサギは噴水の中に手を浸している。
反射する水面、穏やかに微笑むアサギ、暫し足を止めて見つめるハイ。
・・・何時まで経ってもアレクの部屋に到着しない、話が進まない。
冷たくて気持ちの良い水温、アサギは水鏡を覗き込みながら上機嫌である。
ふと、水面に何かが映ったので思わず眩しそうに上空を見上げれば。
「やぁ! お姫様今日は何処へお出かけなんだい?」
元気なおどけ様子の声が振ってくる、時間差で二階のバルコニーから何かが降ってきた。
光の加減で顔は見えなかったが、声で誰だか解っていた。
するり、と舞うように下りてきて着地した人物に、思わず拍手。
「おはようございます、アイセル様」
華麗に跪いたまま、アイセルは満面の笑みでアサギに手を差し出した。
そう、アイセルだ。
アサギの姿が見えたので、思わず下りてきてしまったのである。
それにしても昨夜最も飲酒していたアイセルだが、酒豪らしく二日酔いなどという言葉とは無縁らしい。
「ハイ様とお出かけでしたね、姫様。楽しそうで何よりです、ははは」
「一緒に行きますか? お弁当も作って貰ったんです、中身は確認していませんけどほら、こんなに大きいから沢山あると思って」
籠を掲げて、嬉しそうに微笑むアサギに思わず釣られて微笑むアイセル。
ハイの予感は的中。
正直、ついて行きたかったアイセルだったが瞬間悪寒が走った。
なんとも言いがたい陰鬱な空気が背中から忍び寄り、後頭部に圧し掛かる。
アサギには全く悪気はないだろうがこれは警告だ、ハイからの警告なのだ。
付き添いでもしたら、翌日には死体になっているような気がしたアイセルは思わず我武者羅に首を横に振る。
くわばらくわばら、虫の知らせ。
昨晩のハイは気さくなただの魔王・・・気さくな魔王という表現もどうだが、全く争いごととは無縁なような。
が、思い出してみれば記憶はまだ新しく、ハイと言えば冷徹、残虐非道な暗黒魔王ハイ様。
”暗黒魔王ハイ様”が声高らかにアイセルに忍び寄る情景を瞬時に想像した、身震いし冷汗が額から流れ落ちる。
「い、いや、ざ、残念だけど遠慮するよ・・・仕事があるんだこれでも」
そうですか、と残念そうに瞳を伏せたアサギには申し訳ないが自分の命が優先だ。
沈黙。
アイセルがココへきたのは別に偶然ではない、朝から探していた。
正直ハイが居ては不都合だった、一人になる隙を探していた。
そんな好機など滅多に訪れないのは百も承知だが、こうして今二人きり。
唾を、大きく飲み込むアイセル。
言うべきか、まだ、待つべきか。
目の前の少女は、あまりにも非力だ。
とても、運命の少女には見えないが内に秘める最強の”魅力”こそが捜し求めていた人物。
度胸を決めろ、頑張れアイセル!
再度、大きく喉を動かして固唾を飲み込みアイセルは口を開きかけた。
「・・・アサギ”様”、お話がありまして」
「待たせたな、アサギ!」
ドゴン!
全速力で走ってきたハイは、アイセルを左に蹴飛ばしアサギの正面に立った。
「ごふぅ」
「アイセル様!?」
ずしゃぁ、と地面に壮大に叩きつけられたアイセル、知らなかった暗黒神官魔王ハイは腕力もあったらしい。
悲鳴を上げたアサギと、突っ伏したアイセルを気にも留めずハイは上機嫌で笑う。
「よーし、さぁ歩こうか。アレクには許可を貰ってきたぞ」
「いえ、あの、アイセル様が倒れてらっしゃるんですけど・・・」
「疲れたらいつでも言うが良い、負ぶってやるからな」
「あ、あの、ですからアイセル様が」
「あぁ、その籠は私が預かろう。重たかろう?」
「あの、ハイ様・・・」
なんというハイのスルーぶり、アイセルは突っ伏していたが起き上がれなかった。
というのもハイから出される怪訝で陰鬱なオーラを直に受けているからだった、圧力で立ち上がれないのだ。
冷汗を流しつつ、引き攣った笑みを浮かべるしかない。
アサギには大方笑み満開なのだろうが、なんという器用さだろう左側からは凍結の空気を放っている。
恐るべき魔王様。
こうなれば、一気に逃亡が利巧だ。
気にかけてくれるアサギには申し訳ないが、これ以上心配されると余計にハイの機嫌を損ねそうである。
深呼吸。
畏怖の念を抱きつつ、アイセルは一気に腕に力を篭めると地面を全力で押し返して跳ね上がる。
「おはよーございまーす、ハイ様! いよぉっ、今日も男前素敵ぃ! じゃあ、さよーならぁぁぁぁぁっ」
海老が水上に打ち出されたかのごとく、跳ね上がって後方にかさかさと逃亡。
猛スピードだ、追って鉄槌を食らわそうかと右拳に魔力を秘め始めたハイだが大袈裟に舌打ち。
「ちっ、逃げ足の速いこそ泥め・・・」
悔しそうに睨みつけているハイ、不安そうに消えたアイセルを見つめていたアサギ。
「あの、ハイ様。嬉しいのはともかく人にぶつかったら謝らないといけないと思うのです」
「うんうん、うんうん。そうだな、アサギの言う通りだな、アイセルには悪い事をしたな。今度会ったら謝ろう」
一度ぶん殴ってから。
と、心の中で付け加えてハイはにっこり、とアサギの右手をとる。
ある意味恐ろしいままの魔王感情の落差が激しすぎる。
「じゃあ、行きましょうハイ様!」
小首傾げて手を引いて走り出したアサギに、瞬時にハイの脳裏からアイセルの罪は掻き消えた。
なんという単純っぷり、それが2星の魔王ハイ様。
「あぁ、良いよ良いよ。二人で行こうな二人で」
上機嫌なハイである、一時的かもしれないが、アイセルへの憎しみ綺麗さっぱり消去。
アレクとの話を終えてアサギを見下ろせば、何処かで見たような黄緑の髪がアサギににじり寄っていた先程の光景を思い出すと腸が煮えくり返る。
怒涛の勢いで駆け抜けてきたわけだ、何を自分を差し置いて二人きりで語っていたのか気になるが。
その頃アイセルは荒い呼吸で命からがら逃げてきたわけで、冷たい廊下の壁にもたれつつ、深い溜息を吐く。
「ぞっこんにも程があるでしょ、ハイ様・・・」
想像以上にアサギに近寄る事は難しいらしい、命が幾つあっても足りない。
ぞわわ、とアイセルの脳裏に迫り来る魔王ハイが再現された。
だが、待ち侘びたアサギが来たのだ。
話をしなければならない、アレクも動くだろうがアイセルには”マビルを紹介する”という使命がある。
多々諸々。
機会を待ち、出かけた二人の後を追うなんてことはせずにアイセルは立ち上がると首を鳴らして歩いていった。
「今日はもう、寝ようかなぁ」
疲労感、120%。
出掛けた二人は、何処までも続いているような道をひたすら歩いている。
城を出てから暫く、青々とした山が見える小道を歩いていた。
緩い坂道になっている道、登りきれば森の小道へと誘われ。
小鳥の囀り、陽の光、まるで御伽話のよう。
思わず、眠り姫を連想させる。
森の中、木々と花々、そして森の動物達に護られながらずっと”その日”が来るまで待ち続けている可憐で綺麗なお姫様。
王子は、導かれるがまま森の小道を進むだろう、そうこんな木漏れ日が優しい森の中を姫の元へと。
「綺麗・・・」
アサギは心酔し、うっとりと溜息を吐く。
思わず伸ばした両手、その掌にも一筋の光が降りてきていた。
それを捕まえるようにして、手を動かしてみる。
何度か繰り返し、アサギは小走りになりながら進んでいった。
柔らかな表情でそんな様子のアサギを見つめながら、ハイも小走りになった。
苔に覆われた石の道、大きく聳え立つ木々、僅かな光でも煌びやかに咲き誇る地面の花たち。
不意に姿を見せる艶やかな蝶、謡うように囀る鳥達の心地良い合唱。
瞳を周囲の風景に奪われながら、約二時間半。
ハイの目的地に到着である、唖然とアサギは立ち尽くしたまま息を飲み込んだ。
楽園、と言っても過言ではない風景だ。
小道の終点は、故意に作られたかのような場所。
アサギの背ほどの高さから落ちる細くて小さな滝が、浅く広く広がる泉を造っていた。
ここから先は地層が若干高くなるらしい、なんとも言いがたい神秘的な水音が周囲の大木に反響する。
その滝に差し込む、一筋の光が泉で泳いでいた魚の姿を映し出した。
驚くほど澄み切っている泉、思わずアサギはしゃがみ込むと手を伸ばしてしまう。
冷たいが、思わず顔を綻ばせる。
滝の下へと駆け寄り、滑り落ちる水を両手で丁寧にすくうと口へと運ぶ。
喉を軽やかに流れていく水、大地の味がした。
全身を駆け巡る衝撃、思わず身震い。
目頭が熱くなる、命の源、生命の糧。
大地に包まれて一体になったような、感覚だった。
木で覆われた空を見上げてみれば、葉を掻い潜って一羽の純白の鳥がやってきた。
躊躇することなく旋回した鳥、アサギの肩に止まると頬に擦り寄る。
水面では魚達がアサギの足元に集まり、紫色の蝶達がアサギの髪に止まる。
滝から掬い取った水滴を指先に、鳥の嘴に近づければおいしそうにそれを飲む。
嬉しくて、アサギはそのままくるくると廻る。
言葉を失ったハイは、暫し呆然としていた。
溶け込みすぎていた、アサギ。
あぁもすんなりと森の守護者達に受け入れられるとは、思いもしなかった。
昔から知っていたように、、寧ろ、待ち侘びていたように。
森全体がアサギを歓迎しているようで、ハイは眩暈を起こす。
これが、勇者の魅力?
神々しく、絶対領域の女神のような目の前のアサギに敬いたくなる。
大木の根がまるで自然に出来たベンチのように、ハイはふらつきながらそこに腰掛けると無邪気なアサギの様子を飽きもせずに見ていた。
微笑を絶やすことなく、眩しい目の前の娘を一心不乱に。
連れてきて正解だったようだ、とハイは安堵の溜息を漏らした。
大きな瞳がくるくる良く動いて、光り輝く。
しなやかな手足が、舞の様にも思えてくる。
柔らかで弾んだ声が、木霊する。
瞬きするのも正直惜しい、ある意味これは芸術作品だ、切り取って絵画にしたいくらい。
「!?」
光が、アサギの全身に降り注いだ瞬間。
ハイの瞳にアサギの姿が変化して見えた、瞳が周囲の木々に同化する様な豊かな緑色に、髪が若々しく瑞々しい若葉のような緑色に。
森の妖精、大地の女神。
深い川底、光を受けて輝き放つ緑の水。
アサギの表情とて、何か違って見えて仕方がない。
平常と変わらないはずだ、見て来た笑顔、自分に斬りかかってきた時の気丈な強さ、瞳を潤ませ唇を噛締めていたあの時・・・いや違う。
もっと、もっと。
「な・・・」
幼いアサギが、自分よりも年上の女性に見えるような圧倒的な抱擁感。
全てを委ねてしまいたくなる、安らぎと多少の後ろめたさと。
硬直したようなハイを正気に戻したのは、アサギの身体がぐらりと揺れ、泉に倒れ込んだ音だった。
「あ、アサギ!?」
水滴を髪に、手足に舞わせて濡れた衣服で。
アサギはくすくすと愉快そうに笑うと、泉の中に「ごめんね」と話しかけた。
魚に謝ったらしい、飛び立っていった鳥にも、離れた蝶にも同様に謝る。
立ち上がり、舌を出して濡れた上着を脱ぎつつハイに視線を投げかけたアサギ。
「濡れてしまいました・・・、ごめんなさい」
なんという色香。
初々しさの残る女の色気、水も滴るイイ美少女。
知らずハイは喉を大きく鳴らした、息が止まるほどに。
呆気にとられていたハイだが、頭を振って滴を飛ばすアサギに大股で近寄ると細い腕を掴んでくるり、と。
怪我がないかみたらしい、安堵で胸を撫で下ろす。
「苔が柔らかいです、絨毯みたい! だから大丈夫です。お日様の光に当てたら服も乾くかな? 寒くはないんですけど」
脱いだ上着を手頃な木の枝に引っ掛けたアサギ、ハイに振り返ると微笑。
なんという扇情的な。
露出された肌の健康的な色、柔らかで艶やかな肌は滴が魅惑的に乗ったままだ。
滴が真珠にも見える、海から出でた人魚姫の如く。
露出された肌、チューブトップなので無論鎖骨も肩もへそというか腰も露出。
なんというけしからん光景。
しっとりと軽く髪、肌に浮かぶ水滴、まるでシャワー後のような。
大きな瞳が、ふ、と伏せ目がちになれば淫蕩な空気が流れたようで。
ごっふ!
思わず口元というか鼻を押さえるハイは、熟れたトマトの様に真っ赤である。
いかん、いかん、鼻血が出そうだ!
思わず空を仰いで後頭部をトントン、と。
異様なハイの行動に、アサギは首を傾げて籠を手にするとハイに近づいて引っ張った。
先程ハイが座っていた木の根のベンチである、並んで仲良く座り込むとアサギは籠をあけた。
歩き回って飛びまわって、おなかが空いたらしい。
中を見て、アサギは歓喜の声を上げた。
可愛らしい中身だった、まるで遠足時に母が作ってくれたような。
りんごウサギも、たこさんウインナーまで入っているではないか。
ふわふわオムレツに、鳥のから揚げに、サンドイッチ・・・。
母親を思い出し、アサギは籠を思わず抱き締める。
急に、会いたくなった。
家族に会いたくなったのだ、こんな会わないことは初めてである。
「? どうしたアサギ? 嫌いなものがあるのか?」
不安になり、アサギの肩に腕を回すと覗き込むハイ。
首をゆっくりと横に振ると、多少の涙目の鼻声で、ぽすん、と広いアサギの胸にもたれかかる。
そっと、躊躇いがちだが。
「ハイ様って、お父さんみたい。・・・ちょっと違うかな、なんだろな」
お父さん。
勇者アサギの一言、魔王ハイ・ラゥ・シュリップにクリティカル!
吐血しかかったハイだが、蘇生の呪文がかかっていたらしく辛うじて命は取り止めた。
・・・父親か、まぁ、歳が離れているし当然かもな・・・
項垂れたハイだが、慕われていることに変わりはないだろう。
嫌わないでいてくれるのならば、それで良い。
いきなり攫ってきたのだが、普通に会話し笑って、言葉を理解してくれる。
これ以上のことはないだろう、それ以上を望んだら幸福が壊れそうだ。
「そなたが、傍にいてくれるのならば。・・・それで十分だ」
言い聞かせるように、ハイは呟く。
その呟きが、はっきりとアサギの耳に届いた。
アサギがハイを見上げれば、ハイがアサギを見下ろし。
風が森を吹き抜ける、純白の鳥が何羽も透き通った木々の上空の青空に舞った。
滝の飛沫の音が、何重にも響きわたるように鳴り響くように。
「ハイ様?」
アサギの唇、ほんのりと染まる桃色の熟す前の甘い果実のような。
ハイの姿を映す大きな瞳は、純粋で美しくハイしか当然映しておらず。
アサギの抱き締めていた籠が、ハイによって地面に下ろされた。
「アサギ」
ハイの全身が、アサギを欲する、アサギしか見えていない。
はっきりとしたハイの声に、アサギは返事をしようとしたのだが、開きかけた唇を硬く閉ざした。
そう、ようやく雰囲気が違うハイに気がついたのである。
乙女の本能。
「アサギ、アサギ、アサギ!」
大きなハイの声、驚いたアサギは身体を一瞬引き攣らせ微かに抵抗するように離れようとした。
が、アサギの抵抗など全くの無意味。
自分の両腕にアサギを抱え込み抱き寄せると、ハイは再び名を呼んだ。
アサギ、と甘い声で憂いを含んで。
何事かと見上げたアサギの顔に、ハイは徐々に顔を近づける。
その頃。
「クレシダ! 速度を上げろっ」
「何事ですか主」
「デズも、オフィも! 急ぐぞ!」
「何事ですか!?」
「アサギの貞操の危機だっ、嫌な予感がするっ」
「・・・は?」
トビィが大空を舞いながら、憤怒して相棒の竜を攻め立てていた。
「・・・あのロリコン大馬鹿変態魔王が、何かやらかしている気がするっ」
恐るべき、トビィの直感。
昨晩の宴会の後、部屋に戻ってシャワーを浴びる。
眠りについたのは午前四時ごろだった、アサギはふらつきながらハイに抱かれて部屋に戻っていた。
現在午前11時、陽が高く昇り熱い日光が降り注いでいる。
「あ、はい大丈夫です」
起き上がって体操していたアサギ、振り返って嬉しそうに微笑んだ。
「今日はハイキングへ行く。疲れていないな、本当に?」
多少控え目に行ったハイ、自分は全く疲労感がないがアサギはまだ幼い、あのような時間に起きていてはいけないと思うハイは心配そうに再度尋ねた。
魔族達にアサギの存在が知られた以上、あまり外出しないほうが良いのだろうがどうしてもハイにはアサギに見せておきたい場所がある。
ハイ自信が付き添っているのだから、間違いは起こらないとは思うが・・・。
目を離さなければ、何も問題はないだろう。
「大丈夫ですってば、ほら、こんなに元気です」
言いながらアサギは笑顔で元気良く体操中である、身体を伸ばしてすらりとした手足を強調。
それが些か、扇情的に見えたハイは思わず顔を赤らめた。
ここはハイの部屋なので、アサギは自分の部屋へと移動した。
自分でシャワーを浴びたが、誰が寝間着に着替えさせてくれたのだろうか。
ホーチミンかスリザであると、願いたい。
アサギは顔を洗い髪を整え、動き易そうな衣服と靴を出してきた。
チューブトップにデニムのような素材のボレロと短パンである、それにブーツ。
着替えれば既に身支度したハイが、部屋の外で待っていた。
朝食はミルクと、スイカのみ。
十分だった、夜更けまで皆で騒いで食事をしていたのだから。
多少胃もたれしているが、新鮮なミルクで活力が出た。
お弁当を作って貰ったので、それは昼食に。
可愛らしい籠を受け取ったわけだが何が入っているのかは開けるまでのお楽しみ、である。
アレクの城から徒歩で片道二時間、遠いが風景が美しいので気にならないという。
一体どんな場所に案内されるのか、アサギは期待に胸を膨らませていた。
ハイとアサギは大理石で出来た廊下を真っ直ぐに進み、中心にある階段を下りていく。
正面を突き進めば無論玄関に辿り着くのだが逸れて、幅の狭くなった廊下を進んでいった。
暫くすると聴こえてくるのは鳥の囀り、草と花、土の香り。
庭園でもあるのだろう、アサギは歩いてきた道を思い返す。
精神的に余裕が出てきたので今は城内の把握に必死だ、正直一人きりでは自分の部屋にすら戻ることが出来ない広大さ。
今は昼間なので城内も明るく、道は無論装飾品もじっくりと見ることが出来るわけである。
それはアサギが憧れていた異国の城そのもので、例えば旅行会社に度々出向いてパンフレットだけ貰ってきていたドイツやフランスの城のような。
神聖城クリストバルにあったような、厳粛かつ神秘的な雰囲気というよりも明るく解放感溢れる中に、優雅な雰囲気を持ち合わせているような感じだ。
弾む心と共に周囲を見渡し続けるアサギ、銅で植物の蔦を模してある門を潜れば中庭だった。
中央にちょっとした噴水が設置してあり、周囲には花壇まで。
そこでハイはアサギを待たせて一人、アレクの部屋へと出向く。
アレクに、「リュウを引き止めておいてくれ」と伝言に言ったのだ。
ちなみに、何故アサギを同伴しなかったかというと推測にしか過ぎないのだが『アレク様もリュウ様も一緒に行きませんか?』とアサギならば言い出しそうだったからだ。
寒気。
99%の確率でそれが現実になると思ったハイは、要因のアサギを中庭に置いて行く事にしたのである。
もし、四人で出かけることにでもなればムードも何もあったものではない。
ハイ的にそれは避けるべき緊急事態、己の欲望最優先。
しかし、ハイは些か不安だった。
リュウは、昨夜本日ハイとアサギが出かけることを知ったはずなのだが、朝から姿を見せていない。
確実に邪魔をしてきても良いと思うのだが、静か過ぎて不気味なことこの上ない。
が、好都合だと思い込んだハイ、おそらく二日酔いで寝込んでいるのだろうと解釈。
そんなわけない、リュウは酒を飲んでいなかったのだ。
浮かれすぎて深く考えこまなかったハイは、この後致命的な出来事に遭遇するわけだ。
ともかく、アサギを振り返るハイ。
この中庭は高等魔族しか立ち入り禁止地区である、それこそ、アレクに信頼されているような。
なので、一人きりにしても大丈夫だろうとは思って居たがやはり不安。
アレクの部屋の廊下からも姿の確認は出来るので、そこまで危惧しなくてもよいがやはり不安。
過保護万歳、である。
いざとなれば、城を破壊してでもアサギを救う自信のハイだった。
ちらちらとハイがアサギを見ながら、名残惜しそうに歩く中、アサギは噴水の中に手を浸している。
反射する水面、穏やかに微笑むアサギ、暫し足を止めて見つめるハイ。
・・・何時まで経ってもアレクの部屋に到着しない、話が進まない。
冷たくて気持ちの良い水温、アサギは水鏡を覗き込みながら上機嫌である。
ふと、水面に何かが映ったので思わず眩しそうに上空を見上げれば。
「やぁ! お姫様今日は何処へお出かけなんだい?」
元気なおどけ様子の声が振ってくる、時間差で二階のバルコニーから何かが降ってきた。
光の加減で顔は見えなかったが、声で誰だか解っていた。
するり、と舞うように下りてきて着地した人物に、思わず拍手。
「おはようございます、アイセル様」
華麗に跪いたまま、アイセルは満面の笑みでアサギに手を差し出した。
そう、アイセルだ。
アサギの姿が見えたので、思わず下りてきてしまったのである。
それにしても昨夜最も飲酒していたアイセルだが、酒豪らしく二日酔いなどという言葉とは無縁らしい。
「ハイ様とお出かけでしたね、姫様。楽しそうで何よりです、ははは」
「一緒に行きますか? お弁当も作って貰ったんです、中身は確認していませんけどほら、こんなに大きいから沢山あると思って」
籠を掲げて、嬉しそうに微笑むアサギに思わず釣られて微笑むアイセル。
ハイの予感は的中。
正直、ついて行きたかったアイセルだったが瞬間悪寒が走った。
なんとも言いがたい陰鬱な空気が背中から忍び寄り、後頭部に圧し掛かる。
アサギには全く悪気はないだろうがこれは警告だ、ハイからの警告なのだ。
付き添いでもしたら、翌日には死体になっているような気がしたアイセルは思わず我武者羅に首を横に振る。
くわばらくわばら、虫の知らせ。
昨晩のハイは気さくなただの魔王・・・気さくな魔王という表現もどうだが、全く争いごととは無縁なような。
が、思い出してみれば記憶はまだ新しく、ハイと言えば冷徹、残虐非道な暗黒魔王ハイ様。
”暗黒魔王ハイ様”が声高らかにアイセルに忍び寄る情景を瞬時に想像した、身震いし冷汗が額から流れ落ちる。
「い、いや、ざ、残念だけど遠慮するよ・・・仕事があるんだこれでも」
そうですか、と残念そうに瞳を伏せたアサギには申し訳ないが自分の命が優先だ。
沈黙。
アイセルがココへきたのは別に偶然ではない、朝から探していた。
正直ハイが居ては不都合だった、一人になる隙を探していた。
そんな好機など滅多に訪れないのは百も承知だが、こうして今二人きり。
唾を、大きく飲み込むアイセル。
言うべきか、まだ、待つべきか。
目の前の少女は、あまりにも非力だ。
とても、運命の少女には見えないが内に秘める最強の”魅力”こそが捜し求めていた人物。
度胸を決めろ、頑張れアイセル!
再度、大きく喉を動かして固唾を飲み込みアイセルは口を開きかけた。
「・・・アサギ”様”、お話がありまして」
「待たせたな、アサギ!」
ドゴン!
全速力で走ってきたハイは、アイセルを左に蹴飛ばしアサギの正面に立った。
「ごふぅ」
「アイセル様!?」
ずしゃぁ、と地面に壮大に叩きつけられたアイセル、知らなかった暗黒神官魔王ハイは腕力もあったらしい。
悲鳴を上げたアサギと、突っ伏したアイセルを気にも留めずハイは上機嫌で笑う。
「よーし、さぁ歩こうか。アレクには許可を貰ってきたぞ」
「いえ、あの、アイセル様が倒れてらっしゃるんですけど・・・」
「疲れたらいつでも言うが良い、負ぶってやるからな」
「あ、あの、ですからアイセル様が」
「あぁ、その籠は私が預かろう。重たかろう?」
「あの、ハイ様・・・」
なんというハイのスルーぶり、アイセルは突っ伏していたが起き上がれなかった。
というのもハイから出される怪訝で陰鬱なオーラを直に受けているからだった、圧力で立ち上がれないのだ。
冷汗を流しつつ、引き攣った笑みを浮かべるしかない。
アサギには大方笑み満開なのだろうが、なんという器用さだろう左側からは凍結の空気を放っている。
恐るべき魔王様。
こうなれば、一気に逃亡が利巧だ。
気にかけてくれるアサギには申し訳ないが、これ以上心配されると余計にハイの機嫌を損ねそうである。
深呼吸。
畏怖の念を抱きつつ、アイセルは一気に腕に力を篭めると地面を全力で押し返して跳ね上がる。
「おはよーございまーす、ハイ様! いよぉっ、今日も男前素敵ぃ! じゃあ、さよーならぁぁぁぁぁっ」
海老が水上に打ち出されたかのごとく、跳ね上がって後方にかさかさと逃亡。
猛スピードだ、追って鉄槌を食らわそうかと右拳に魔力を秘め始めたハイだが大袈裟に舌打ち。
「ちっ、逃げ足の速いこそ泥め・・・」
悔しそうに睨みつけているハイ、不安そうに消えたアイセルを見つめていたアサギ。
「あの、ハイ様。嬉しいのはともかく人にぶつかったら謝らないといけないと思うのです」
「うんうん、うんうん。そうだな、アサギの言う通りだな、アイセルには悪い事をしたな。今度会ったら謝ろう」
一度ぶん殴ってから。
と、心の中で付け加えてハイはにっこり、とアサギの右手をとる。
ある意味恐ろしいままの魔王感情の落差が激しすぎる。
「じゃあ、行きましょうハイ様!」
小首傾げて手を引いて走り出したアサギに、瞬時にハイの脳裏からアイセルの罪は掻き消えた。
なんという単純っぷり、それが2星の魔王ハイ様。
「あぁ、良いよ良いよ。二人で行こうな二人で」
上機嫌なハイである、一時的かもしれないが、アイセルへの憎しみ綺麗さっぱり消去。
アレクとの話を終えてアサギを見下ろせば、何処かで見たような黄緑の髪がアサギににじり寄っていた先程の光景を思い出すと腸が煮えくり返る。
怒涛の勢いで駆け抜けてきたわけだ、何を自分を差し置いて二人きりで語っていたのか気になるが。
その頃アイセルは荒い呼吸で命からがら逃げてきたわけで、冷たい廊下の壁にもたれつつ、深い溜息を吐く。
「ぞっこんにも程があるでしょ、ハイ様・・・」
想像以上にアサギに近寄る事は難しいらしい、命が幾つあっても足りない。
ぞわわ、とアイセルの脳裏に迫り来る魔王ハイが再現された。
だが、待ち侘びたアサギが来たのだ。
話をしなければならない、アレクも動くだろうがアイセルには”マビルを紹介する”という使命がある。
多々諸々。
機会を待ち、出かけた二人の後を追うなんてことはせずにアイセルは立ち上がると首を鳴らして歩いていった。
「今日はもう、寝ようかなぁ」
疲労感、120%。
出掛けた二人は、何処までも続いているような道をひたすら歩いている。
城を出てから暫く、青々とした山が見える小道を歩いていた。
緩い坂道になっている道、登りきれば森の小道へと誘われ。
小鳥の囀り、陽の光、まるで御伽話のよう。
思わず、眠り姫を連想させる。
森の中、木々と花々、そして森の動物達に護られながらずっと”その日”が来るまで待ち続けている可憐で綺麗なお姫様。
王子は、導かれるがまま森の小道を進むだろう、そうこんな木漏れ日が優しい森の中を姫の元へと。
「綺麗・・・」
アサギは心酔し、うっとりと溜息を吐く。
思わず伸ばした両手、その掌にも一筋の光が降りてきていた。
それを捕まえるようにして、手を動かしてみる。
何度か繰り返し、アサギは小走りになりながら進んでいった。
柔らかな表情でそんな様子のアサギを見つめながら、ハイも小走りになった。
苔に覆われた石の道、大きく聳え立つ木々、僅かな光でも煌びやかに咲き誇る地面の花たち。
不意に姿を見せる艶やかな蝶、謡うように囀る鳥達の心地良い合唱。
瞳を周囲の風景に奪われながら、約二時間半。
ハイの目的地に到着である、唖然とアサギは立ち尽くしたまま息を飲み込んだ。
楽園、と言っても過言ではない風景だ。
小道の終点は、故意に作られたかのような場所。
アサギの背ほどの高さから落ちる細くて小さな滝が、浅く広く広がる泉を造っていた。
ここから先は地層が若干高くなるらしい、なんとも言いがたい神秘的な水音が周囲の大木に反響する。
その滝に差し込む、一筋の光が泉で泳いでいた魚の姿を映し出した。
驚くほど澄み切っている泉、思わずアサギはしゃがみ込むと手を伸ばしてしまう。
冷たいが、思わず顔を綻ばせる。
滝の下へと駆け寄り、滑り落ちる水を両手で丁寧にすくうと口へと運ぶ。
喉を軽やかに流れていく水、大地の味がした。
全身を駆け巡る衝撃、思わず身震い。
目頭が熱くなる、命の源、生命の糧。
大地に包まれて一体になったような、感覚だった。
木で覆われた空を見上げてみれば、葉を掻い潜って一羽の純白の鳥がやってきた。
躊躇することなく旋回した鳥、アサギの肩に止まると頬に擦り寄る。
水面では魚達がアサギの足元に集まり、紫色の蝶達がアサギの髪に止まる。
滝から掬い取った水滴を指先に、鳥の嘴に近づければおいしそうにそれを飲む。
嬉しくて、アサギはそのままくるくると廻る。
言葉を失ったハイは、暫し呆然としていた。
溶け込みすぎていた、アサギ。
あぁもすんなりと森の守護者達に受け入れられるとは、思いもしなかった。
昔から知っていたように、、寧ろ、待ち侘びていたように。
森全体がアサギを歓迎しているようで、ハイは眩暈を起こす。
これが、勇者の魅力?
神々しく、絶対領域の女神のような目の前のアサギに敬いたくなる。
大木の根がまるで自然に出来たベンチのように、ハイはふらつきながらそこに腰掛けると無邪気なアサギの様子を飽きもせずに見ていた。
微笑を絶やすことなく、眩しい目の前の娘を一心不乱に。
連れてきて正解だったようだ、とハイは安堵の溜息を漏らした。
大きな瞳がくるくる良く動いて、光り輝く。
しなやかな手足が、舞の様にも思えてくる。
柔らかで弾んだ声が、木霊する。
瞬きするのも正直惜しい、ある意味これは芸術作品だ、切り取って絵画にしたいくらい。
「!?」
光が、アサギの全身に降り注いだ瞬間。
ハイの瞳にアサギの姿が変化して見えた、瞳が周囲の木々に同化する様な豊かな緑色に、髪が若々しく瑞々しい若葉のような緑色に。
森の妖精、大地の女神。
深い川底、光を受けて輝き放つ緑の水。
アサギの表情とて、何か違って見えて仕方がない。
平常と変わらないはずだ、見て来た笑顔、自分に斬りかかってきた時の気丈な強さ、瞳を潤ませ唇を噛締めていたあの時・・・いや違う。
もっと、もっと。
「な・・・」
幼いアサギが、自分よりも年上の女性に見えるような圧倒的な抱擁感。
全てを委ねてしまいたくなる、安らぎと多少の後ろめたさと。
硬直したようなハイを正気に戻したのは、アサギの身体がぐらりと揺れ、泉に倒れ込んだ音だった。
「あ、アサギ!?」
水滴を髪に、手足に舞わせて濡れた衣服で。
アサギはくすくすと愉快そうに笑うと、泉の中に「ごめんね」と話しかけた。
魚に謝ったらしい、飛び立っていった鳥にも、離れた蝶にも同様に謝る。
立ち上がり、舌を出して濡れた上着を脱ぎつつハイに視線を投げかけたアサギ。
「濡れてしまいました・・・、ごめんなさい」
なんという色香。
初々しさの残る女の色気、水も滴るイイ美少女。
知らずハイは喉を大きく鳴らした、息が止まるほどに。
呆気にとられていたハイだが、頭を振って滴を飛ばすアサギに大股で近寄ると細い腕を掴んでくるり、と。
怪我がないかみたらしい、安堵で胸を撫で下ろす。
「苔が柔らかいです、絨毯みたい! だから大丈夫です。お日様の光に当てたら服も乾くかな? 寒くはないんですけど」
脱いだ上着を手頃な木の枝に引っ掛けたアサギ、ハイに振り返ると微笑。
なんという扇情的な。
露出された肌の健康的な色、柔らかで艶やかな肌は滴が魅惑的に乗ったままだ。
滴が真珠にも見える、海から出でた人魚姫の如く。
露出された肌、チューブトップなので無論鎖骨も肩もへそというか腰も露出。
なんというけしからん光景。
しっとりと軽く髪、肌に浮かぶ水滴、まるでシャワー後のような。
大きな瞳が、ふ、と伏せ目がちになれば淫蕩な空気が流れたようで。
ごっふ!
思わず口元というか鼻を押さえるハイは、熟れたトマトの様に真っ赤である。
いかん、いかん、鼻血が出そうだ!
思わず空を仰いで後頭部をトントン、と。
異様なハイの行動に、アサギは首を傾げて籠を手にするとハイに近づいて引っ張った。
先程ハイが座っていた木の根のベンチである、並んで仲良く座り込むとアサギは籠をあけた。
歩き回って飛びまわって、おなかが空いたらしい。
中を見て、アサギは歓喜の声を上げた。
可愛らしい中身だった、まるで遠足時に母が作ってくれたような。
りんごウサギも、たこさんウインナーまで入っているではないか。
ふわふわオムレツに、鳥のから揚げに、サンドイッチ・・・。
母親を思い出し、アサギは籠を思わず抱き締める。
急に、会いたくなった。
家族に会いたくなったのだ、こんな会わないことは初めてである。
「? どうしたアサギ? 嫌いなものがあるのか?」
不安になり、アサギの肩に腕を回すと覗き込むハイ。
首をゆっくりと横に振ると、多少の涙目の鼻声で、ぽすん、と広いアサギの胸にもたれかかる。
そっと、躊躇いがちだが。
「ハイ様って、お父さんみたい。・・・ちょっと違うかな、なんだろな」
お父さん。
勇者アサギの一言、魔王ハイ・ラゥ・シュリップにクリティカル!
吐血しかかったハイだが、蘇生の呪文がかかっていたらしく辛うじて命は取り止めた。
・・・父親か、まぁ、歳が離れているし当然かもな・・・
項垂れたハイだが、慕われていることに変わりはないだろう。
嫌わないでいてくれるのならば、それで良い。
いきなり攫ってきたのだが、普通に会話し笑って、言葉を理解してくれる。
これ以上のことはないだろう、それ以上を望んだら幸福が壊れそうだ。
「そなたが、傍にいてくれるのならば。・・・それで十分だ」
言い聞かせるように、ハイは呟く。
その呟きが、はっきりとアサギの耳に届いた。
アサギがハイを見上げれば、ハイがアサギを見下ろし。
風が森を吹き抜ける、純白の鳥が何羽も透き通った木々の上空の青空に舞った。
滝の飛沫の音が、何重にも響きわたるように鳴り響くように。
「ハイ様?」
アサギの唇、ほんのりと染まる桃色の熟す前の甘い果実のような。
ハイの姿を映す大きな瞳は、純粋で美しくハイしか当然映しておらず。
アサギの抱き締めていた籠が、ハイによって地面に下ろされた。
「アサギ」
ハイの全身が、アサギを欲する、アサギしか見えていない。
はっきりとしたハイの声に、アサギは返事をしようとしたのだが、開きかけた唇を硬く閉ざした。
そう、ようやく雰囲気が違うハイに気がついたのである。
乙女の本能。
「アサギ、アサギ、アサギ!」
大きなハイの声、驚いたアサギは身体を一瞬引き攣らせ微かに抵抗するように離れようとした。
が、アサギの抵抗など全くの無意味。
自分の両腕にアサギを抱え込み抱き寄せると、ハイは再び名を呼んだ。
アサギ、と甘い声で憂いを含んで。
何事かと見上げたアサギの顔に、ハイは徐々に顔を近づける。
その頃。
「クレシダ! 速度を上げろっ」
「何事ですか主」
「デズも、オフィも! 急ぐぞ!」
「何事ですか!?」
「アサギの貞操の危機だっ、嫌な予感がするっ」
「・・・は?」
トビィが大空を舞いながら、憤怒して相棒の竜を攻め立てていた。
「・・・あのロリコン大馬鹿変態魔王が、何かやらかしている気がするっ」
恐るべき、トビィの直感。
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