別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
×
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時間がなさ過ぎて笑えます。
うーあーーーーーーーっ!
気がついたら明日は東京です、みやちゃんは風邪気味、お会いできなさそうですが、仕方ありません。
というか、色々お歌(?か?・笑)ありがとうございました☆
ジョアンへ向かう途中の馬車。
マダーニはトモハルに専属で魔法を教え、トーマはミノルに魔法を教えていた。
思いもよらない幸運だと、マダーニは薄く微笑む。
ミノルは同年代の友人のような存在に教えられたほうが、すんなりと受け入れやすい性格のようだ。
マダーニには解らなかったが、ミノルは学校でも教師の言う事を聞かず、自宅でも親に反発。
思春期のような、抵抗感が目上の者にはあるのだった。
「こんの、出来損ない! 何度言ったら解るんだよポンコツ勇者! こうだって言ってるだろ!?」
「うっるせーな! 解りやすく教えろよ!」
・・・苦笑いしつつも、マダーニは2人のやり取りを微笑ましく見守る。
そう、一見仲が悪いようで実は良いのだった。
格段にミノルの魔力は上がった、いや、神経を集中する事に慣れた、のか。
「俺達の世界では、魔法なんて存在しないんだよね」
魔道書を片手に、トモハルが不意に口にする。
「そうなの?」
「うん。もしかしたら・・・出来る人も要るのかもしれないけれど、大概がインチキ。本物は身を潜めていると俺は思ってる」
「なのに、トモハルちゃん達は魔法が使えるようになったわね」
右手に、回復呪文の光を灯しながらトモハルが神妙に頷いた。
「うん・・・。思うんだけど、こっちの世界と俺達の世界の違いって、自分の能力を発揮できる環境か、そうではないか、だと思うんだ。こっちは知らないけど、俺達の・・・地球では、人は自分の能力の僅かしか発揮せずに人生を過ごすらしい。
開花しやすい状況にあるんじゃないかな、こっちの世界は。だから魔法が使えるって俺は考えたんだけど」
「トモハルちゃんは、難しい事を考えるのね」
「んー、この間、寝込んでたし」
恥ずかしそうに苦笑いしたトモハルの頭部を、マダーニは優しく撫でる。
アサギの次に頭の回転が速いのは、間違いなくトモハルだろう。
彼には、妙に威厳を感じる時があるが、それが勇者の片鱗なのか。
回復役が欠落しているこのパーティ、トモハルが主力となるのが無難だと判断し先日からほぼ独断で勤勉している。
時折魔物に襲われながら、時折豪雨に見舞われながら。
火炎を得意とするトーマは、無論ミノルに火炎系の魔法を伝授した為、格段にミノルは火炎系専属となっていた。
パーティ的には、剣士が一人に、魔法使いが二人、それに勇者という肩書きの少年が二人。
トーマが何処までついてくるのか不明だったが、それまでミノルにつきっきりになってもらう予定だ。
利用できるものは、何でも利用する、簡単にトーマを利用できるとは思えないがあちらもミノルに対しては乗り気な様子である。
早、数週間が経過した。
ジョアン行きの古びた看板が旅路の前に、ようやくお見えする。
皆、安堵の溜息。
真っ直ぐ進めば、ジョアン。
左へ入ればライアンの故郷でもあるジョリロシャへと、進むことが出来るらしい。
「ジョリロシャって、ライアンさんの故郷だろ? 寄りたいんじゃなくて?」
トモハルの問いに、ライアンは豪快に笑った。
「故郷と言っても、第二の、な。俺の生まれた村はジョリロシャ近辺の山中だ。魔族に滅ぼされたから、もう今は何処にもないよ」
一瞬、静まり返る一行。
初耳だった、皆口篭るより他ない。
沈黙を破ったのは、トーマだ。
「よくある話だよ。小さな村は生き残る率も確かに高いけど、暇つぶしに破滅に導かれることもある」
「うん、運が悪かったんだ。俺だけが、生き残った。おかげで、ジョリロシャに出向いて騎士になったんだがな」
「苦労人だね、ご愁傷様」
「昔のことだ、実際記憶も曖昧でね」
遠慮なく、ライアンに言葉かけるトーマはまだ幼いからなのか、気遣っても過ぎた事実は変わらないと知っているからなのか。
不意に、小雨が振り出した。
トーマが素早く馬車に熱を帯びさせる、小雨程度なら、この魔法で弾くことが出来る。
負担がかからないように、馬の上部にも張り巡らせていた、その為この旅は順調に来ていたのだ。
流石にこの魔法は、ミノルには伝授しきれていない。
雨が、魔法の熱で蒸発していく。
ほんわりと暑い馬車内で、軽くマダーニが仮眠をとる為に眠りにつく。
懸命に魔道書を読み耽っているトモハル、ミノルは干し肉を齧りながら火炎の魔法のおさらいだ。
荷物を整理していたトーマは、何故かしらトモハルを先程から気にしていた。
そわそわと、落ち着きなく身体を小刻みする。
荷物を全て床に出し、何やら片付け、再び取り出し、を繰り返し。
何度かどもりながら、舌打ちしては、右手を硬く握り締め。
「あの、さ・・・」
ようやく、トーマは声を絞り出した。
それが、自分へだと気付かず、トモハルは魔道書から目を離さない。
ミノルへの掛け声だと思っていたのだ、トーマの視線に気付かず。
「おい、トモハル。トーマが呼んでる」
「え?」
自分が呼ばれたと思い、顔を上げていたミノルはトーマの視線で相手が自分ではないことに気付いた。
きょとん、と顔を上げたトモハルに、トーマは引き攣った笑みを浮かべた。
「・・・あんたの好きな女の子って、どんな子?」
「?」
「!? なっ!?」
小声だったが、間違いなく聞き取れたトーマの声。
首を傾げたトモハルと、赤面したミノル。
ライアンまでは声が届いていないらしい、外の雨音の為だろう。
何を言い出したのかと、ミノルは急に縮こまると思わず顔を伏せる。
恋愛話は、苦手だった。
「んー、どうかな。アサギみたいな子はイイな、って思うけど。可愛いし、スタイル良いし」
「アサギ・・・」
名を呼んだトーマに、トモハルが微かに微笑みながら付け加える。
「今離れ離れになってる、女の子の勇者だよ。とても、可愛い子なんだ」
「説明しなくても、トーマはアサギを知ってんだよ」
「え? なんで?」
苛々してきたミノル。
トモハルの唇から、アサギのことが形容されるのが嫌で。
ミノルは弾かれたように表を上げると、思わず殴るような勢いで言葉を発す。
無論、意味が解らず、きょとんとするトモハル。
ミノルが何故機嫌が悪くなったのかも、トーマがアサギを知っているのかも。
「見たことはないよ、名前を知っているだけだよ」
行って天井を見上げたトーマ、「だから、なんで?」と訊くトモハルには答えず。
「・・・トモハルとアサギは仲が良いんだ」
ミノルは、大きく肩を落とすとそれだけ告げてライアンと話す為立ち上がろうとした。
こんなことが言いたいわけではない、本当のことだが言いたいことが違う。
わざと、トモハルの口から聞きたくない言葉が出るように仕向けてしまった。
「仲、いいんだ?」
意外そうにトーマは身を乗り出す、軽く頷いたトモハルだが首を傾げていた。
「可愛いよ、すっごくね。頭もいい、気配りも出来る。アイドルにでもなれる子だよ。俺とも仲がいいけど、幅広い交友関係かな、人気者だし。あんな子が彼女だったら、って思うよ」
「・・・案外、両思いなんじゃねーの」
聞きたくないのに、言いたくないのに。
ミノルはつい、口を出した。
妙に絡むミノルに、トーマは気付いたのだ。
あぁ、ミノルはアサギに想いを寄せているのだ、と。
先程からの行動は、トモハルへの嫉妬だろう。
なんとなく人間関係が読み解けてきたトーマだが、聞きたかったことは違うのだ。
「好きって、なんだろう?」
魔道書を床に置いて、足を組み腕を組み、首を傾げるトモハル。
怪訝に振り返ったミノルと、視線が交差した。
「ミノルは、誰か好きな子いる?」
「は、はぁ?! お、俺はそーいうの関係ないし! 女って好きじゃねーし!」
突如振られて慌てふためくミノルだが、さほど興味なさそうにトモハルはすぐに横を向く。
一人だけ裏返った声で弁解していた事実に、ミノルは赤面し頭をかいてその場に座り込んだ。
しかし、意外だった。
トモハルが、そんなことを聞いてくるなんて。
「アサギは・・・確かに可愛いよ、すっごく、可愛くて魅力的だ。でも」
思わず、ミノルが口内に溜まった唾を音を立てて飲み込む。
「でも、好きか、と問われると俺はアサギが好きなのかな・・・」
「は、はぁ!?」
「価値観とか似てるし、一緒に居ると安らぐし、性格も合うけどさ。けど、好きなのかって問われると答えられなくなったんだ」
「ふ、深く考えすぎじゃねーのか、お前・・・」
二人のやり取りを観ていたトーマ、挑むような目つきで、トモハルを観ていた。
トモハルの、向こう側を観ていた。
・・・潮時だ、思わず小さくそう呟いてしまう。
「だからさ、トーマ。好きな子って、どんな子、って訊かれても・・・今答えられないかも」
「それは、つまり今好きな子がいないって事でいいの? 好きが解らない?」
「どうだろう・・・」
黙ってしまったトモハル、右往左往ミノルは二人を交互に見ていた。
ミノルは、アサギが好きだった。
トモハルも、好きだと思っていた。
けれど、何故、言わないのか。
解らないって、何だ。
「じゃあ、聞きなおすけど、どんな子が好き?」
「・・・どんな子って・・・可愛い子、かな」
「じゃあ、アサギじゃねーかよ」
自分でアサギは可愛いと、断言したことに気付いていないミノルだが、トモハルは上の空だった。
「アサギは、可愛いよ。でも、俺・・・好きなの・・・かな・・・。ミノルはアサギとどうしたいわけ? 付き合って何したいと思う?」
「俺は・・・手を繋いでぶらぶらしたりとか、一緒にゲームしてぇけど。料理も上手いって聞いたから手料理作ってもらったりとか、さ・・・って、な、何言わせんだーっ!?」
素直に、口にしてから青褪めて告白まがいの事をした事実に狼狽するミノルだったがトモハルはやはり聞いていない。
「俺の・・・好きな・・・子?」
トーマの額が、ぴくり、と引き攣る。
虚ろに、囁いたトモハルの様子を見つめながらトーマは一人そっと荷物を手探りで探す。
「俺の、好きな子は・・・まだ・・・いない・・・よ・・・」
凝視していたら、トモハルは薄く微笑んでそう答えを出す。
それが、答えか。
トーマは大きく溜息を吐いた、見当違いだった気もするが、あながち外れていなくもない。
「ただ」
「?」
急に、トモハルの口調が変わった、どこか懐かしそうに愛おしそうに優しそうな笑みを絶やさず。
「ふわふわの、髪で。気紛れな仔猫みたいな大きな瞳で魅惑的な華奢な身体で、お姫様みたいな女の子。
ただただ、その子がその子らしくいる為に、傍にいたくて護りたい・・・って。
お、俺、何言ってるんだろ」
乾いた声で笑ったトモハルだったが、今の言葉を聞きたかったのだ。
「まぁ、誉めすぎだけど」
小さくそう呟いたトーマ、瞳を軽く閉じ、息を吐く。
瞬きを、三回ほど。
「僕、次の分かれ道でバイバイするね」
唐突に、そう告げる。
すっとんきょうな声を出したミノルとトモハルに、マダーニがゆっくりと目を醒ましていた。
「目的の場所が違うんだ、僕はジョリロシャに行くよ。残念だけど、さ」
荷物を片付ける、もうすぐ分岐点だった。
「そ、そっか・・・寂しくなるな」
ミノルの多少落胆気味の声、トーマはからかうように笑う。
「頑張りなよ、レベルは上がったはずだよ。何しろ僕直々に教えたんだから、あ、これ・・・」
トーマは徐にミノルに何かを手渡した、掌サイズの珠だった、さほど重くはない。
綺麗な紅、高価な宝石にも見えるのだが。
不思議そうに眺めていたミノル、マダーニの傍に近寄りながらミノルに声をかける。
「それはさ、簡易な魔法球だよ。僕の火炎の魔法が閉じ込めてある。威力的には中の上、ミノル君の発動魔法よりは威力が上だ。危機を感じたら使いなよね」
「すっげー・・・!」
「一度きりだから、ここぞって時にね」
マダーニにも、トーマは手渡した。
「非力なおねーさんには、これを。接近戦になると危ないからさ、一度きりだけど武器に豪腕の加護が付加できる。大男でも投げ飛ばすことが出来るから、敵に攻撃を当てられればこちらの勝ち」
葉に包まれている、粘着力ある白い液体だった。
香りは、ない。
これを手に塗って使うらしい、初めて見る代物に目を白黒させるマダーニ。
「馬車のおにーさんには、これね」
これも、葉に包まれている粘着力のある液体だった、色は深紅だったが。
「武器に塗ると、火炎の属性になるよ。火炎に弱い敵が出たときに使うと良いよ」
忝い、とライアンは丁重にそれを受け取った。
確かに魔法が有利なことも多々ある、これは嬉しい代物だ。
最後にトーマはトモハルに向き直った、微笑んでいるトモハルに、トーマは無表情で杖を手渡す。
「・・・回復の杖だよ、一度僕使ったから残る回数はあと四回。神経を集中して使うことで人を結界に入れて治癒出来るんだ。威力はトモハル次第、詠唱なしでも治癒出来るから危機的状況に陥った時用にね」
「助かるなぁ、魔王戦には欠かせない回復アイテムだ」
嬉しそうに受け取ったトモハル、さり気無く、トモハルの手に触れる。
ピイン・・・
眉を顰めたトモハルとトーマ、静電気が走った。
「・・・じゃ。そろそろ行くよ」
「・・・そっか」
「バイバイ。”またね”」
心痛な面持ちのミノル達は裏腹に、飄々とした様子で止まった馬車から下りたトーマ。
看板の前に立った、向かう先はジョリロシャだが、実際別にどうでもいい地区だった。
本音はこのままジョアンへ行きたいが、”潮時”なのだ。
「ありがとな、色々」
「ん、気にしないでよ。まぁ、また何処かで会えるからさ。数年先くらいに」
「・・・言ってなかったけど、俺達この世界の住人じゃないんだ。だから、会えな」
「会えるよ、数年後に」
ミノルの言葉を上から被せる、断言したトーマ。
魔王を倒す旅が数年立っても終わっていない、ということか。
「敵かもしれないけど」
言ったトーマ、苦笑いして本気に取らないミノルだが、トモハルは神妙にトーマを見ている。
「あんたの仔猫は手強いよ、すぐに爪をたてて牙を剥くよ。可愛いとは思うけど、僕は好きじゃないなぁ」
「え」
「じゃ! 無事、魔王を討伐できることを願って」
トーマは笑いながら、それだけ告げると早々に宙に浮かぶ。
まるで、数週間前会った時の様に、不意に忽然と。
闇夜の月ではなく、眩しく痛い陽射しの太陽に照らされて。
雨は止んでいた、天候が変わりやすい地区なのか晴れ渡った空。
別れの挨拶もままならず、トーマは消える。
馬車から慌てて降りた四人を残して、トーマは掻き消えた。
「俺の・・・仔猫???」
謎めいた言葉を残されて、トモハルは首を傾げる他ならない。
「ほんっと、謎な子よね・・・」
「・・・でも、悪い奴じゃねーよ」
落胆気味のミノルの肩に思わず手を添えたマダーニ、急かすように馬車に乗せる。
感傷に浸っている場合ではない、ジョアンは目と鼻の先である。
その日の夜半、四人は久し振りに街に辿り着いた。
ジョアンである。
そこから、アサギの武器であるセントラヴァーズが奉納されているピョートルまでは山を越えれば良いだけだ。
久方ぶりの客人に、丁重に質素ながらも丁寧な宿に案内されベッドで眠る。
直様眠りについたミノルと、寝付けないトモハル。
「俺の・・・仔猫・・・」
うつらうつらと、現実と夢の狭間で。
トモハルは夢を観ていた、想い描いていた。
それにしては、妙に生々しく。
黒髪の美少女が、泣いている。
大きな瞳に華奢な手足、か細い腰だが豊かで柔らかそうな、胸。
ベッドの上で、泣いている。
うつ伏せで、枕に顔を突っ伏して。
短いスカートから覗く太腿が眩しくて刺激的で、トモハルは思わず赤面して視線を反らしていた。
泣いている少女に耐えられず、躊躇いがちにトモハルはそっと手を伸ばし、少女の髪を撫でる。
「・・・」
「・・・」
少女が徐々に泣き止んだ、こちらを向いて視線が交差し思わずトモハルは後ずさる。
なんて、綺麗な女の子だろう。
胸が、弾け飛ぶように苦しく。
全身の血が沸騰するように、熱く。
息をすることもままならず、ただ、少女と視線を交わした。
薄ピンクの唇が半開きに、大きく開いた衣服から零れる程の乳房。
扇情的で思わず、喉を鳴らす。
「あい、してるよ・・・」
マ。
「ま・・・?」
思わず、トモハルはベッドから飛び起きた。
「ま、って何ー!?」
絶叫。
「愛してるって、何だー!?」
咆哮。
「何事だ、トモハル!? 敵の襲来か!?」
剣を持ち、同じく飛び起きたライアンと、不機嫌そうにベッドの中で寝返りをうつミノル。
眠りを妨げられて、不機嫌そのものだった。
「今の女の子、誰だよっ!?」
混乱するトモハル、隣室からマダーニも駆けつける。
が、トモハルのただの寝ぼけである。
再び静寂の夜が訪れるわけだが、トモハルだけはやはり寝付けない。
「可愛い子・・・だったな・・・」
夢だ。
記憶は曖昧で、顔もそこまで覚えていない。
けれど、再びトモハルが眠りにつけばまた、その少女の隣にいた。
そっと、頬に触れてみれば、くすぐったそうに彼女は笑う。
無邪気な、子猫の様に。
「ミラボーの追っ手はまだ来ないかな? 退屈凌ぎに僕が一層しておきたいけど」
ジョアンの片隅、木の幹から宿屋を見ているトーマ。
月が美しい、目を細めて仰ぐ。
「マビルとの、過去からの縁。もの好きな男もいるんだね・・・」
縁の途中で、黒い靄がトーマには見えた。
あれが何を指すのか、トーマには解らない。
先見の能力を持っているのは、アイセルだけではなかったのだ。
誰にも告げなかったがトーマとて、アイセルより鮮明に未来が時折、読める。
「姉さん・・・アサギ姉さん・・・。僕が必ず、傍に居るよ・・・」
来る未来、一部の破片がトーマには見えていた。
血塗れのトモハルは、囚われの身。
ミノルとマビルは、トーマの敵だ。
「現・魔王など、意味を成さない。取るに足らない駒、なんだ。僕”達”の邪魔をしないでよ・・・」
勇者の武器・セントラヴァーズ。
それ手にし、アサギに譲渡すれば、世界が変わるだろう。
―――それまでは、僕がこっそり護衛して、あげるから。―――
マダーニはトモハルに専属で魔法を教え、トーマはミノルに魔法を教えていた。
思いもよらない幸運だと、マダーニは薄く微笑む。
ミノルは同年代の友人のような存在に教えられたほうが、すんなりと受け入れやすい性格のようだ。
マダーニには解らなかったが、ミノルは学校でも教師の言う事を聞かず、自宅でも親に反発。
思春期のような、抵抗感が目上の者にはあるのだった。
「こんの、出来損ない! 何度言ったら解るんだよポンコツ勇者! こうだって言ってるだろ!?」
「うっるせーな! 解りやすく教えろよ!」
・・・苦笑いしつつも、マダーニは2人のやり取りを微笑ましく見守る。
そう、一見仲が悪いようで実は良いのだった。
格段にミノルの魔力は上がった、いや、神経を集中する事に慣れた、のか。
「俺達の世界では、魔法なんて存在しないんだよね」
魔道書を片手に、トモハルが不意に口にする。
「そうなの?」
「うん。もしかしたら・・・出来る人も要るのかもしれないけれど、大概がインチキ。本物は身を潜めていると俺は思ってる」
「なのに、トモハルちゃん達は魔法が使えるようになったわね」
右手に、回復呪文の光を灯しながらトモハルが神妙に頷いた。
「うん・・・。思うんだけど、こっちの世界と俺達の世界の違いって、自分の能力を発揮できる環境か、そうではないか、だと思うんだ。こっちは知らないけど、俺達の・・・地球では、人は自分の能力の僅かしか発揮せずに人生を過ごすらしい。
開花しやすい状況にあるんじゃないかな、こっちの世界は。だから魔法が使えるって俺は考えたんだけど」
「トモハルちゃんは、難しい事を考えるのね」
「んー、この間、寝込んでたし」
恥ずかしそうに苦笑いしたトモハルの頭部を、マダーニは優しく撫でる。
アサギの次に頭の回転が速いのは、間違いなくトモハルだろう。
彼には、妙に威厳を感じる時があるが、それが勇者の片鱗なのか。
回復役が欠落しているこのパーティ、トモハルが主力となるのが無難だと判断し先日からほぼ独断で勤勉している。
時折魔物に襲われながら、時折豪雨に見舞われながら。
火炎を得意とするトーマは、無論ミノルに火炎系の魔法を伝授した為、格段にミノルは火炎系専属となっていた。
パーティ的には、剣士が一人に、魔法使いが二人、それに勇者という肩書きの少年が二人。
トーマが何処までついてくるのか不明だったが、それまでミノルにつきっきりになってもらう予定だ。
利用できるものは、何でも利用する、簡単にトーマを利用できるとは思えないがあちらもミノルに対しては乗り気な様子である。
早、数週間が経過した。
ジョアン行きの古びた看板が旅路の前に、ようやくお見えする。
皆、安堵の溜息。
真っ直ぐ進めば、ジョアン。
左へ入ればライアンの故郷でもあるジョリロシャへと、進むことが出来るらしい。
「ジョリロシャって、ライアンさんの故郷だろ? 寄りたいんじゃなくて?」
トモハルの問いに、ライアンは豪快に笑った。
「故郷と言っても、第二の、な。俺の生まれた村はジョリロシャ近辺の山中だ。魔族に滅ぼされたから、もう今は何処にもないよ」
一瞬、静まり返る一行。
初耳だった、皆口篭るより他ない。
沈黙を破ったのは、トーマだ。
「よくある話だよ。小さな村は生き残る率も確かに高いけど、暇つぶしに破滅に導かれることもある」
「うん、運が悪かったんだ。俺だけが、生き残った。おかげで、ジョリロシャに出向いて騎士になったんだがな」
「苦労人だね、ご愁傷様」
「昔のことだ、実際記憶も曖昧でね」
遠慮なく、ライアンに言葉かけるトーマはまだ幼いからなのか、気遣っても過ぎた事実は変わらないと知っているからなのか。
不意に、小雨が振り出した。
トーマが素早く馬車に熱を帯びさせる、小雨程度なら、この魔法で弾くことが出来る。
負担がかからないように、馬の上部にも張り巡らせていた、その為この旅は順調に来ていたのだ。
流石にこの魔法は、ミノルには伝授しきれていない。
雨が、魔法の熱で蒸発していく。
ほんわりと暑い馬車内で、軽くマダーニが仮眠をとる為に眠りにつく。
懸命に魔道書を読み耽っているトモハル、ミノルは干し肉を齧りながら火炎の魔法のおさらいだ。
荷物を整理していたトーマは、何故かしらトモハルを先程から気にしていた。
そわそわと、落ち着きなく身体を小刻みする。
荷物を全て床に出し、何やら片付け、再び取り出し、を繰り返し。
何度かどもりながら、舌打ちしては、右手を硬く握り締め。
「あの、さ・・・」
ようやく、トーマは声を絞り出した。
それが、自分へだと気付かず、トモハルは魔道書から目を離さない。
ミノルへの掛け声だと思っていたのだ、トーマの視線に気付かず。
「おい、トモハル。トーマが呼んでる」
「え?」
自分が呼ばれたと思い、顔を上げていたミノルはトーマの視線で相手が自分ではないことに気付いた。
きょとん、と顔を上げたトモハルに、トーマは引き攣った笑みを浮かべた。
「・・・あんたの好きな女の子って、どんな子?」
「?」
「!? なっ!?」
小声だったが、間違いなく聞き取れたトーマの声。
首を傾げたトモハルと、赤面したミノル。
ライアンまでは声が届いていないらしい、外の雨音の為だろう。
何を言い出したのかと、ミノルは急に縮こまると思わず顔を伏せる。
恋愛話は、苦手だった。
「んー、どうかな。アサギみたいな子はイイな、って思うけど。可愛いし、スタイル良いし」
「アサギ・・・」
名を呼んだトーマに、トモハルが微かに微笑みながら付け加える。
「今離れ離れになってる、女の子の勇者だよ。とても、可愛い子なんだ」
「説明しなくても、トーマはアサギを知ってんだよ」
「え? なんで?」
苛々してきたミノル。
トモハルの唇から、アサギのことが形容されるのが嫌で。
ミノルは弾かれたように表を上げると、思わず殴るような勢いで言葉を発す。
無論、意味が解らず、きょとんとするトモハル。
ミノルが何故機嫌が悪くなったのかも、トーマがアサギを知っているのかも。
「見たことはないよ、名前を知っているだけだよ」
行って天井を見上げたトーマ、「だから、なんで?」と訊くトモハルには答えず。
「・・・トモハルとアサギは仲が良いんだ」
ミノルは、大きく肩を落とすとそれだけ告げてライアンと話す為立ち上がろうとした。
こんなことが言いたいわけではない、本当のことだが言いたいことが違う。
わざと、トモハルの口から聞きたくない言葉が出るように仕向けてしまった。
「仲、いいんだ?」
意外そうにトーマは身を乗り出す、軽く頷いたトモハルだが首を傾げていた。
「可愛いよ、すっごくね。頭もいい、気配りも出来る。アイドルにでもなれる子だよ。俺とも仲がいいけど、幅広い交友関係かな、人気者だし。あんな子が彼女だったら、って思うよ」
「・・・案外、両思いなんじゃねーの」
聞きたくないのに、言いたくないのに。
ミノルはつい、口を出した。
妙に絡むミノルに、トーマは気付いたのだ。
あぁ、ミノルはアサギに想いを寄せているのだ、と。
先程からの行動は、トモハルへの嫉妬だろう。
なんとなく人間関係が読み解けてきたトーマだが、聞きたかったことは違うのだ。
「好きって、なんだろう?」
魔道書を床に置いて、足を組み腕を組み、首を傾げるトモハル。
怪訝に振り返ったミノルと、視線が交差した。
「ミノルは、誰か好きな子いる?」
「は、はぁ?! お、俺はそーいうの関係ないし! 女って好きじゃねーし!」
突如振られて慌てふためくミノルだが、さほど興味なさそうにトモハルはすぐに横を向く。
一人だけ裏返った声で弁解していた事実に、ミノルは赤面し頭をかいてその場に座り込んだ。
しかし、意外だった。
トモハルが、そんなことを聞いてくるなんて。
「アサギは・・・確かに可愛いよ、すっごく、可愛くて魅力的だ。でも」
思わず、ミノルが口内に溜まった唾を音を立てて飲み込む。
「でも、好きか、と問われると俺はアサギが好きなのかな・・・」
「は、はぁ!?」
「価値観とか似てるし、一緒に居ると安らぐし、性格も合うけどさ。けど、好きなのかって問われると答えられなくなったんだ」
「ふ、深く考えすぎじゃねーのか、お前・・・」
二人のやり取りを観ていたトーマ、挑むような目つきで、トモハルを観ていた。
トモハルの、向こう側を観ていた。
・・・潮時だ、思わず小さくそう呟いてしまう。
「だからさ、トーマ。好きな子って、どんな子、って訊かれても・・・今答えられないかも」
「それは、つまり今好きな子がいないって事でいいの? 好きが解らない?」
「どうだろう・・・」
黙ってしまったトモハル、右往左往ミノルは二人を交互に見ていた。
ミノルは、アサギが好きだった。
トモハルも、好きだと思っていた。
けれど、何故、言わないのか。
解らないって、何だ。
「じゃあ、聞きなおすけど、どんな子が好き?」
「・・・どんな子って・・・可愛い子、かな」
「じゃあ、アサギじゃねーかよ」
自分でアサギは可愛いと、断言したことに気付いていないミノルだが、トモハルは上の空だった。
「アサギは、可愛いよ。でも、俺・・・好きなの・・・かな・・・。ミノルはアサギとどうしたいわけ? 付き合って何したいと思う?」
「俺は・・・手を繋いでぶらぶらしたりとか、一緒にゲームしてぇけど。料理も上手いって聞いたから手料理作ってもらったりとか、さ・・・って、な、何言わせんだーっ!?」
素直に、口にしてから青褪めて告白まがいの事をした事実に狼狽するミノルだったがトモハルはやはり聞いていない。
「俺の・・・好きな・・・子?」
トーマの額が、ぴくり、と引き攣る。
虚ろに、囁いたトモハルの様子を見つめながらトーマは一人そっと荷物を手探りで探す。
「俺の、好きな子は・・・まだ・・・いない・・・よ・・・」
凝視していたら、トモハルは薄く微笑んでそう答えを出す。
それが、答えか。
トーマは大きく溜息を吐いた、見当違いだった気もするが、あながち外れていなくもない。
「ただ」
「?」
急に、トモハルの口調が変わった、どこか懐かしそうに愛おしそうに優しそうな笑みを絶やさず。
「ふわふわの、髪で。気紛れな仔猫みたいな大きな瞳で魅惑的な華奢な身体で、お姫様みたいな女の子。
ただただ、その子がその子らしくいる為に、傍にいたくて護りたい・・・って。
お、俺、何言ってるんだろ」
乾いた声で笑ったトモハルだったが、今の言葉を聞きたかったのだ。
「まぁ、誉めすぎだけど」
小さくそう呟いたトーマ、瞳を軽く閉じ、息を吐く。
瞬きを、三回ほど。
「僕、次の分かれ道でバイバイするね」
唐突に、そう告げる。
すっとんきょうな声を出したミノルとトモハルに、マダーニがゆっくりと目を醒ましていた。
「目的の場所が違うんだ、僕はジョリロシャに行くよ。残念だけど、さ」
荷物を片付ける、もうすぐ分岐点だった。
「そ、そっか・・・寂しくなるな」
ミノルの多少落胆気味の声、トーマはからかうように笑う。
「頑張りなよ、レベルは上がったはずだよ。何しろ僕直々に教えたんだから、あ、これ・・・」
トーマは徐にミノルに何かを手渡した、掌サイズの珠だった、さほど重くはない。
綺麗な紅、高価な宝石にも見えるのだが。
不思議そうに眺めていたミノル、マダーニの傍に近寄りながらミノルに声をかける。
「それはさ、簡易な魔法球だよ。僕の火炎の魔法が閉じ込めてある。威力的には中の上、ミノル君の発動魔法よりは威力が上だ。危機を感じたら使いなよね」
「すっげー・・・!」
「一度きりだから、ここぞって時にね」
マダーニにも、トーマは手渡した。
「非力なおねーさんには、これを。接近戦になると危ないからさ、一度きりだけど武器に豪腕の加護が付加できる。大男でも投げ飛ばすことが出来るから、敵に攻撃を当てられればこちらの勝ち」
葉に包まれている、粘着力ある白い液体だった。
香りは、ない。
これを手に塗って使うらしい、初めて見る代物に目を白黒させるマダーニ。
「馬車のおにーさんには、これね」
これも、葉に包まれている粘着力のある液体だった、色は深紅だったが。
「武器に塗ると、火炎の属性になるよ。火炎に弱い敵が出たときに使うと良いよ」
忝い、とライアンは丁重にそれを受け取った。
確かに魔法が有利なことも多々ある、これは嬉しい代物だ。
最後にトーマはトモハルに向き直った、微笑んでいるトモハルに、トーマは無表情で杖を手渡す。
「・・・回復の杖だよ、一度僕使ったから残る回数はあと四回。神経を集中して使うことで人を結界に入れて治癒出来るんだ。威力はトモハル次第、詠唱なしでも治癒出来るから危機的状況に陥った時用にね」
「助かるなぁ、魔王戦には欠かせない回復アイテムだ」
嬉しそうに受け取ったトモハル、さり気無く、トモハルの手に触れる。
ピイン・・・
眉を顰めたトモハルとトーマ、静電気が走った。
「・・・じゃ。そろそろ行くよ」
「・・・そっか」
「バイバイ。”またね”」
心痛な面持ちのミノル達は裏腹に、飄々とした様子で止まった馬車から下りたトーマ。
看板の前に立った、向かう先はジョリロシャだが、実際別にどうでもいい地区だった。
本音はこのままジョアンへ行きたいが、”潮時”なのだ。
「ありがとな、色々」
「ん、気にしないでよ。まぁ、また何処かで会えるからさ。数年先くらいに」
「・・・言ってなかったけど、俺達この世界の住人じゃないんだ。だから、会えな」
「会えるよ、数年後に」
ミノルの言葉を上から被せる、断言したトーマ。
魔王を倒す旅が数年立っても終わっていない、ということか。
「敵かもしれないけど」
言ったトーマ、苦笑いして本気に取らないミノルだが、トモハルは神妙にトーマを見ている。
「あんたの仔猫は手強いよ、すぐに爪をたてて牙を剥くよ。可愛いとは思うけど、僕は好きじゃないなぁ」
「え」
「じゃ! 無事、魔王を討伐できることを願って」
トーマは笑いながら、それだけ告げると早々に宙に浮かぶ。
まるで、数週間前会った時の様に、不意に忽然と。
闇夜の月ではなく、眩しく痛い陽射しの太陽に照らされて。
雨は止んでいた、天候が変わりやすい地区なのか晴れ渡った空。
別れの挨拶もままならず、トーマは消える。
馬車から慌てて降りた四人を残して、トーマは掻き消えた。
「俺の・・・仔猫???」
謎めいた言葉を残されて、トモハルは首を傾げる他ならない。
「ほんっと、謎な子よね・・・」
「・・・でも、悪い奴じゃねーよ」
落胆気味のミノルの肩に思わず手を添えたマダーニ、急かすように馬車に乗せる。
感傷に浸っている場合ではない、ジョアンは目と鼻の先である。
その日の夜半、四人は久し振りに街に辿り着いた。
ジョアンである。
そこから、アサギの武器であるセントラヴァーズが奉納されているピョートルまでは山を越えれば良いだけだ。
久方ぶりの客人に、丁重に質素ながらも丁寧な宿に案内されベッドで眠る。
直様眠りについたミノルと、寝付けないトモハル。
「俺の・・・仔猫・・・」
うつらうつらと、現実と夢の狭間で。
トモハルは夢を観ていた、想い描いていた。
それにしては、妙に生々しく。
黒髪の美少女が、泣いている。
大きな瞳に華奢な手足、か細い腰だが豊かで柔らかそうな、胸。
ベッドの上で、泣いている。
うつ伏せで、枕に顔を突っ伏して。
短いスカートから覗く太腿が眩しくて刺激的で、トモハルは思わず赤面して視線を反らしていた。
泣いている少女に耐えられず、躊躇いがちにトモハルはそっと手を伸ばし、少女の髪を撫でる。
「・・・」
「・・・」
少女が徐々に泣き止んだ、こちらを向いて視線が交差し思わずトモハルは後ずさる。
なんて、綺麗な女の子だろう。
胸が、弾け飛ぶように苦しく。
全身の血が沸騰するように、熱く。
息をすることもままならず、ただ、少女と視線を交わした。
薄ピンクの唇が半開きに、大きく開いた衣服から零れる程の乳房。
扇情的で思わず、喉を鳴らす。
「あい、してるよ・・・」
マ。
「ま・・・?」
思わず、トモハルはベッドから飛び起きた。
「ま、って何ー!?」
絶叫。
「愛してるって、何だー!?」
咆哮。
「何事だ、トモハル!? 敵の襲来か!?」
剣を持ち、同じく飛び起きたライアンと、不機嫌そうにベッドの中で寝返りをうつミノル。
眠りを妨げられて、不機嫌そのものだった。
「今の女の子、誰だよっ!?」
混乱するトモハル、隣室からマダーニも駆けつける。
が、トモハルのただの寝ぼけである。
再び静寂の夜が訪れるわけだが、トモハルだけはやはり寝付けない。
「可愛い子・・・だったな・・・」
夢だ。
記憶は曖昧で、顔もそこまで覚えていない。
けれど、再びトモハルが眠りにつけばまた、その少女の隣にいた。
そっと、頬に触れてみれば、くすぐったそうに彼女は笑う。
無邪気な、子猫の様に。
「ミラボーの追っ手はまだ来ないかな? 退屈凌ぎに僕が一層しておきたいけど」
ジョアンの片隅、木の幹から宿屋を見ているトーマ。
月が美しい、目を細めて仰ぐ。
「マビルとの、過去からの縁。もの好きな男もいるんだね・・・」
縁の途中で、黒い靄がトーマには見えた。
あれが何を指すのか、トーマには解らない。
先見の能力を持っているのは、アイセルだけではなかったのだ。
誰にも告げなかったがトーマとて、アイセルより鮮明に未来が時折、読める。
「姉さん・・・アサギ姉さん・・・。僕が必ず、傍に居るよ・・・」
来る未来、一部の破片がトーマには見えていた。
血塗れのトモハルは、囚われの身。
ミノルとマビルは、トーマの敵だ。
「現・魔王など、意味を成さない。取るに足らない駒、なんだ。僕”達”の邪魔をしないでよ・・・」
勇者の武器・セントラヴァーズ。
それ手にし、アサギに譲渡すれば、世界が変わるだろう。
―――それまでは、僕がこっそり護衛して、あげるから。―――
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