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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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完結。の、筈。(吐血)

書きたいもの

アイセル×スリザ
ロシファの両親

うん、時間がない(吐血)。

101010_135750.jpg10月10日。
DS版、戦国LOVERSやってます。
小十郎を全攻略するまでは・・・!(おぃ)
あと家康。

アプリは今日で恐らく家康完結編が極楽なので、オールOK!(落着)。
これ、限定版なのでおまけでトランプとか色々ついてきたんですが、トランプ、あのー、光秀の絵柄がヤバすぎて使えない・・・。
何故あれを選んだんだ、エミックっ。

17禁だと昨夜知りました、わぁい。
褌バージョンにして(せっかくなので)愉しんでます、直江のお尻が・・・。
どうなんだ、これは。

話数クリアしていかないと、小十郎と成実の伊達の双璧番外編が購入できないんですぜ。
景勝いないけど、ガンバリマスです。

小十郎ーっ。

城内の清掃、じゃが芋の皮むき、食器洗い・・・が主な仕事だった。
本来ならば、姫とは接する事もない筈だった。
与えられた部屋は数人で使う部屋で、全員が寝そべれば窮屈な。
それでも、同じ年頃の少女達と接する機会がなかったアイラはそれだけで楽しかった。
時折、ミノリとトモハラがやってきて話をしてくれた。
トモハラが人気があるようで、アイラに羨望の眼差しを注ぐ少女たちも居た。
が、トモハラはマローに心酔している。
僅かながらの給料は、全て老夫婦に預けた、特にアイラには買うものがなかったのだ。
寝床に食事、最低限の物は揃っている。

「マロー姫は、とっても可愛いんだ。今日は、階段の下からお姿を拝見したよ」
「だからとてもご機嫌なんだね、トモハラ」

今日も今日とて、トモハラは律儀に報告に来ている。
庭で草むしりをしていたアイラのもとへ来たのだ、今は休憩中らしい。

「このお城は色んなものがたくさんあるの。昨日私も掃除に入ったお部屋で変わったものを見つけてね」
「へぇ?」

身振り手振りでその見つけた品を説明してくれるが解らない、トモハラはそれでもアイラの一生懸命な説明を聞いていた。

「音が出るの、こんな感じの」

それは、オルゴールの箱だったのだが無論アイラもトモハラも知らない。
突如、アイラは歌い出す。
オルゴールの音の通りに、歌詞などないが高らかに青空の下で。
響く声色、風に乗って。

「・・・? 何の音?」

自室で寛いでいたマローは、その声を聴いた。
身を乗り出せば、窓の外、庭で誰かが歌っている。

「あれ、誰? 何してる子?」
「ただの小間使いで御座います・・・が・・・」
「綺麗な声! あたしの子守唄係りに任命してあげるから、連れてきてよ」
「・・・」

ただの小間使い、どこの馬の骨ともわからぬ小娘。
姫の目に入れても良いものかと女官はうろたえた、だが確かに声だけなら一級品だ。
女官は、相談した。

「歌声が綺麗な小間使い?」
「はい、クーリヤ様。マロー姫様が目に止めておられます、調べたところ、城下町から最近やってきた娘です」
「・・・一度、会ってみましょう」

元女王の親友にして宰相であるクーリヤに相談した女官達、肩の荷を下ろして安堵の溜息を吐いた。
数日後、突如呼び出されたアイラは恐縮気味に平伏したまま豪華な一室の床に居た。
何やら失敗でもしたのかと、首を切られるのかと不安に駆られながら。
頭上では皆が語っている、何を話しているのかは見当すらつかないのだが。

「・・・まさか・・・姉姫様?」
「確認取りましたが、間違いないそうです。元騎士団長の許で育てられておりました」
「では・・・本当に血の繋がりある・・・」

震えるアイラに、そっと手が差し伸べられた。

「マロー姫様が、あなたを所望しておられます。身なりを綺麗にし、お仕えなさい」
「え? でも、私は・・・」

言うが早いか、湯船へと案内された。
姫である。
正真正銘、アイラはこの城の姫だった。
丁重に振舞われ、綺麗に身なりを整え、過度ではないドレスを着せられ。
混乱するアイラはそのままマローの部屋へと通される、その途中、ミノリもトモハラを唖然とアイラを見ていた。

お姫様。

ようやく、街の友人達が言っていたことが解ったのだ、マローに確かに似ている。
どこか遠くへ行ってしまうようなアイラに、ミノリは恐怖を覚えただ、俯くばかりだった。

「あなたが、この間庭で歌ってた人!? ねぇ、歌ってみてよ」
「え、えっと」
「アイラ、マロー姫様はあなたの歌声を気に入られたのです。歌ってください」

眩い黒髪の姫君、愛くるしい無邪気な笑顔、眩さに眩暈を覚えたアイラは戸惑いがちに口を開く。
右手を、優雅に振りながら。

「愛しき地に残し私の片割れ 眩く輝く地上の星
今こうして巡り会うは 恋焦がれた知らず胸のうちの懇願
願いは空に還る 愛しい片割れあなたを想い
あなたがただ幸せであればと祈りながら ドコまでもいつまでも
麗しい黒き宝珠は ドコにいても光り輝き
全ての世界を照らすだろう 私の声など掻き消すように
空にあれ 地上にあれ 愛しい愛しい私の片割れ」

マローが、アイラを見れば。
アイラが、マローを見れば。
知らず、何故か胸に熱いものが込上げる。
そっと、アイラはマローの髪に触れた。
城内で産まれた双子の姫君、互いに知らぬままこうして再会を。
魂は、その体内を廻る血はそれでも互いを”知っていた”。

「不思議ね、あなた。昔から一緒に居たみたいだわ」
「マロー姫様・・・」

それから、2人は本当の姉妹の様に急速に仲良くなっていた。
ドコへ行くにも一緒で、特にマローがアイラを好いて片時も離れたくないようだ。
親友であるような、そんな関係。
雲の上の存在になってしまったかのようなアイラだったが、時折暇を見つけてはトモハラとミノリのもとへ駆け寄り普段どおりに会話する。
恐縮して反発するようにミノリは上手く振舞えなかったが、トモハラは変わらず接した。

「ねぇ、アイラ。あなたがたまに遊びにいっている小汚い男は何?」
「小汚くないですよ、マロー姫様。トモハラとミノリと言って、私がここへ来る切っ掛けになったお友達なのです」
「そうなの? ・・・じゃあ、私も挨拶しておくべきかしら?」

アイラは、思わず歓喜の声を上げた、トモハラが歓ぶだろう間近でマローを見ることが出来れば。
その日、マローとアイラは連れ立って剣の訓練を受けている様子を見に行った。
姫様が来るような場所ではないと追い払われたが、権限で無理やりマローは押し通る。
慌てたのはトモハラだ、何故こんな場所に姫が来ているのか。
慌てふためき、剣を落としてしまったトモハラ、アイラが無邪気に小さく手を振っている。

「あんたがアイラの友達の人? ・・・アイラを連れてきてくれてありがと」
「い、いえ・・・」
「・・・」
「・・・」

沈黙。
トモハラは声など発する事が出来ず、ただ目を合わせることも恐れ多いと言わんばかりに地面に額をこすりつけている。
つまらなさそうに、マローは落胆気味に踵を返した。

「アイラ、この人何が面白いの?」
「楽しい人ですよ、色んな遊びを知っていて街では人気者でした」
「ふーん・・・」

縮こまって震えているトモハラが、なんともみすぼらしく見える。
マローは興味なさそうに踵を返した、だが。

「あの、あの!」

搾り出したトモハラの声、振り返ったマローが見たものは。

「こんなにお近くで拝見出来て、声まで・・・聞かせていただけるとは思っていなかったものですから、とても・・・感激しました。あなた様は何時見てもお美しく、尊いお方です」

ようやく顔を上げて、泥に塗れながらも微笑んだトモハラの笑顔だった。
真っ直ぐな眼差し、優しい瞳、偽りなき言葉。

「・・・っ」

何故か赤面したマローは、そのまま走り去るように振り返ると駆け出す。
だが、その背にトモハラは。

「お、お慕いしております! あなたの笑顔を見られることが本望、今日は・・・ありがとうございました!」

声をかけた。
マローは、一瞬身体を引き攣らせたがそのまま全速力で駆け出してしまった。
慌ててアイラが後を追う、トモハラは眩しそうに、笑みを浮かべたままマローを見つめていた。
それからというもの、マローは気になったのでトモハラを探した。
時折、姿を垣間見た。
確かに、優秀というか真面目な騎士らしい。
こっそりと様子を窺うようにマローはトモハラを探る、だが、見てしまったのだ。

「あのぉ、これ、よかったら」
「ありがとうございます」
「これも、よかったらぁ、どうぞ」
「あ、すいません、いつも」

女官から何やら毎回差し入れを貰っているらしい、マローはそれが気に入らなかった。
知らなかったのだが、トモハラは人気のある騎士だったのだ。
真面目で容姿も上々、何より笑顔が素朴で可愛いとの定評。
そんな日は仏頂面でマローは不貞腐れたまま、部屋から出てこない。
首を傾げて、アイラはマローの傍にいた。
何を語るでもなく、傍にいた。
何故自分がこんなに苛立つのか、マローには解らない。

暫くして、各国の王子たちが求婚に来ることになった。
姫は12歳、まだ早いのでは、との声もあったが止める事など出来ずに数人の王子達が滞在することになった。
王子達は、挙って宝石を用意しマローの気を引こうと必死である。
近隣諸国に風の噂は当然流れていたのだ、類稀なる美姫を一目見ようと、いや、手中にすべく各々に策略を携えて。
姫の気を惹くべく、最新の技術を、最大の贅沢を、甘い言葉を。
送り届けられる品々で城の一室は埋め尽くされ、求婚の手紙で一室は溢れかえり、迎賓館は満室である。
どの王子が最もマローに相応しいのか、皆値踏みするように婿候補を見やる。
が、当のマローは面白がって品々を見ているだけで肝心の王子には興味を示さなかった。
示したとしても、気紛れな姫は翌日には違う王子を名指しする。
迎賓館は慌しい、人の出入りは頻繁で激しくこの為だけに女官達の数は二倍に膨れ上がった。
しかし、目まぐるしく騒がしい中で、それでも全く部屋を手放さない王子達が存在する。
強力な後ろ盾を持つ四カ国の王子達は、他の王子たちを押し退け滞在許可を得ていた。
自ら率先して動くことはなく、マローを注意深く観察し対応を思案しているようだった。
光の加護を受けるファンアイク帝国の若き第一皇子、ベルガー・オルトリンデ。
水の加護を受けるブリューゲル国の第一王子、トライ・ウィーン。

火の加護を受けるネーデルラント国の第一王子、トレベレス・ウィーン。
風の加護を受けるラスカサス国の第四皇子、リュイ・ガレン。
容姿、国の持つ魅力、年齢、人物像、この四カ国が秀でており当然この中からマローの夫は選ばれるのだとだれもが暗黙の了解をしていた。
天秤にかけ、誰が、いやどの国が最も自国に繁栄を齎すのかを吟味する。

「年齢からいけば、風のリュイ様でしょうか。同い年に御座います」
「ですが、あの国は立地がよろしく有りませんわ」

漆黒の瞳と髪の幼さが残る、まだ可愛らしい皇子だが器量が最も兄弟で良く、目が離せない天真爛漫ぶりの皇子だ。
性格の評判も良いのだが、国が山岳地帯に位置する為自国と比較するとどうしても作物の条件で劣る。

「最もお美しいならば水のトライ様でしょうか。彼の魅力に捕らわれている女官が続出しております」
「えぇ、マロー様の美貌に最も釣り合うお方ですが・・・やはり土地柄が」

紫銀の眩い長髪を後ろで一つに束ねており、瞳を合わせると嬌声を上げたくなるような鋭く艶やかな瞳の、美貌の王子だ。
身長も高く非常に整った身体に引き締まった筋肉、男性として魅力も高いのだが、雄大な大河に挟まれた土地で増水による災害が不安である。

「領土は全く申し分なく、わたくし自身がお慕いするのは光のベルガー様ですわ」
「・・・いえ、貴女の好みは宜しくてよ。申し分ない領土に我国に匹敵する豊かな資源を所持してらっしゃいますが年齢が些かマロー様に釣り合わないかと」

深緑の艶やかな短髪に、凍りつくほど美しい漆黒の瞳。
冷淡で虚無の瞳は畏怖の念を抱きつつも、惹かれてしまう美貌の皇子だった。
マローとは一回り以上年齢が離れている、浮名も流れておりある意味危険な皇子である。

「となると、火の王子トレベレス様が」
「今年17歳のトレベレス様、12歳のマロー様とは釣り合いますし領土的にも問題なく宜しいかと」

紫銀の眩い短髪に、悪気のない率直な性格ゆえか瞳は常に煌き何かを追い求め、痛めつけられても近寄りたい娘が後を絶たない王子だ。
ただ、女遊びが酷いとの事。
誰かを探すように浮名を流す、というか手当たり次第というか来るもの拒まずというか。

「まぁ、男性は少々遊びが激しいほうが魅力は高う御座いますし。・・・マロー姫を娶った先は困りますけれど」

どうやら、トレベレスで意見は一致したようだった。
早速翌日から2人を引き合わせる計画が開始されるのだが、当の本人達が乗り気ではない。
快晴、庭に盛大に広げられた食事会。
トレベレスだけでは不審がられるのでベルガー、トライ、リュイも招かれている。
そこで、四人は始めてマローの隣に立つアイラを見た。

「・・・姫は2人でしたか?」

ぼそ、っとトレベレスがベルガーに小声で問えばベルガーは怪訝に返答。

「一人の筈だが」
「では黒髪の美姫の隣に立つ緑の髪の美姫は、どちら様で?」
「知らぬ」

マローに上の空、アイラに興味津々の四人と同様にマローも上の空。
というのも、久し振りに見たトモハラが俯いたままだったからだ。
心配になった、が、何故小汚い騎士を心配しなければいけないのかと、自己嫌悪。
葛藤を繰り返していたので、四人の王子達など視野に入らない。
チラチラ、と食事の合間にトモハラの様子を窺う、体調でも悪いのだろうか?
マローは足元が痒くなった、苛々してもどかしくて、唇を噛締め、ガタン、と音を立てて立ち上がる。
唖然とする皆の中、無造作にテーブルの食べかけのパンを手にすると、仏頂面で大地を蹴るようにトモハラに近づいた。

「ちょっと、お前」

一斉にマローの視線の先に皆の視線が注がれる、そこには怒気を含んだマローの声に驚いたのではなく、自分の目下にマローが居た事に対し飛び上がる勢いで息を飲んだトモハラが居た。
誰? と顰めく一部の者に混じってアイラが首を軽く傾げ。
トモハラは慌てて、他の騎士共々跪いた。
何故姫がここに!?
混乱し、ガチガチに身体も脳も固まってしまったトモハラは自分に声がかかっていることは、理解出来たが返答が出来なかった。

「ちょっと、お前って言ってるじゃない」

声のトーンが高い、機嫌が悪そうだった。
何故か怒っているらしいマローに、汗を吹き出しながらトモハラは恐る恐る声を絞り出す。

「は、はい。何でしょうか」
「この美しく華やかな日に、お前の態度は失礼よ。お腹が減っているの? 気分でも悪いの? これでもお食べっ!」

べし。

パンを投げつけるマロー。
ぽこん、とトモハラの頭部にパンが当たり、平伏していた地面にパンが転がった。
・・・意味が解らない。
唖然とトモハラは思わずマローを見上げた、何故か勝ち誇ったような表情で腕組して仁王立ちしているマローと目が合う。

「・・・いえ、空腹なわけではないのですが」

引き攣った表情で応えたトモハラ、転がったパンをとりあえず戴かなければ失礼なのかと一応丁重に手繰り寄せて恭しく頭を垂れる。

「そうなの? じゃあ何よ」

肩を竦めてマローは問う、2人の間に会話が始まったが狼狽したのは家臣達だ。
あの騎士は何者なのかと喧騒、魅力的な王子達を差し置いて姫が興味を示したのはただの騎士だったのだ。

「・・・それ、は・・・」
「・・・あんなくっらーい雰囲気で立たれたら、こちらの気分が悪くなるの。・・・笑いなさいよ」

軽く頬を膨らませ、足を踏み鳴らすマロー。
しどろもどろ返答する煮え切らないトモハラの態度が余計腹に来たらしい、トモハラの甲を踏みつけていた。
悲鳴に近い声を上げたのはトモハラではなく、ミノリだった、隣に居たのだ。
画面蒼白で家臣達は右往左往、王子達に引き攣った笑顔を見せてマローの姿を隠すようにおべっかを使い始める。
カタン、とアイラは静かに立ち上がった。
瞳を瞬きし、2人を見つめている。

「マロー・・・」
「アイラ、マロー姫様を連れ戻してらっしゃいな。王子様方に失礼極まりなく・・・」
「待って下さい! もう少しだけ、様子を見させてください」

耳打ちしてきた一人の女官に、弾かれたようにアイラは振り返った。
アイラは気付いたのだ、マローがトモハラに好意を僅かに抱いている事を。
トモハラの気持ちなど、とうに知っているアイラは二人を庇う為にこのまま会話を続けさせる為に、必死に頭を回転させる。
震える身体で、大きく息を飲み込み、眉を潜めて小声で会話している四人の王子達に近づいた。

「あ、あの、初めてお目にかかります。マロー姫様の付き人をさせていただいておりますアイラと申します。
ひ、姫様は、えと、えーっと、その、あ、あの、あれなのです」

しどろもどろ語り出すアイラ、上手く言葉が見つからないのでもじもじと小さな身体を震わしながらそれでも場を凌ごうと必死だ。
マローが何を考えているのか解らないが、流石にアイラにも人前で人様の手を踏みつける行為は・・・焦らざるを得ない。
なるべく腕を広げマローを皆から見えないように隠す様に立っている、が言葉が出てこない。
フォローのしようが、ない。
赤面し、地面を見つめたまま口篭っていたアイラに、トライが軽く吹き出す。
小さく笑いながら徐に立ち上がると、そのままアイラに近づいたトライは。

「・・・解りました、ともかく貴女の自己紹介を伺いたいのですが? 姫君はお一人だと聞いていますが・・・」
「わ、私はマロー姫様の付き人に御座います。姫などではありません、アイラ、と申します」

慌てて地面に平伏そうとしたアイラの右腕を掴んだトライは、そのまま身体を軽く持ち上げると地面に立たせた。
軽くしゃがみ、アイラに視線を合わせると微笑み髪を撫でる。
こんな綺麗な男の人は見たことがない、アイラは思わず頬を赤く染めて視線を反らそうとしたがトライの絡まる視線がそうはさせない。
瞳を反らす事など、出来ない。

「女性は誰でも姫君であるもの。・・・では、アイラ、よければ話し相手になっていただきたいが。マロー姫が戻られるまでで構わないよ」
「お、恐れ多い事で御座います。わ、私では・・・」

王子と何を話せば良いのか、アイラには検討もつかず。
困り果てて周囲を見渡したがクーリヤが軽く頷いていた、助け舟は来ないらしい、自分で切り抜けろ、ということか。
責任重大である、意を決しアイラは息を大きく飲み込む瞳を硬く閉じる。
震える声で、瞳を開きながら控え目に。

「で、では。う、詩でも・・・。そ、それくらいしか出来ません。私はマロー姫様に詩を見込まれてお傍に置いていただいてますから」
「それは楽しみだ、肩の力を抜いて、いつも通り謡うと良い」

そっとトライは肩に手を置くと滑らせるようにアイラの腕を優しく撫で、恭しく右手を拝借、甲に不意に口づける。
悪びれない様子でにっこり、と笑ったトライに釣られてアイラも笑ってしまった。
ガタン、物音に振り返ったトライは怪訝にこちらを睨みつけているトレベレスと視線が交差。
が、何も言わずただトレベレスはトライを憎々しげに見つめているだけだった。
不安そうにトレベレスを見たアイラは、困惑気味に会釈をするとそのままそっとトライから数歩後退。
背筋をしゃんと伸ばし、大きく息を腹で吸い込む。
右手を空に掲げる、左手をやんわりと動かしながらリズムを取った。
思わず、椅子から立ち上がったベルガーとリュイ、食い入るように見つめているトレベレスと咄嗟に腕を伸ばしかけたトライと。

「遠き記憶の彼方 緑生い茂るイノチの住処
住人は心優しき獣たち そして異質な妖精と
溢れ返る光の中 霧舞う朝も 柔らかな日差しの昼も 煌く夜空に浮かぶ月
全ては大いなる地の恩恵 舞って踊るイノチの調べ

異国から来たり 麗しの民
人の子は森にはなきモノを作り出す 生み出す
自然から離れなくとも 奪いて創る創造の民
自然の恩恵を壊さず住まうは 森の民
人の子を忌み嫌い 人の子に歩み寄る異質な妖精を叱咤した

けれどもやがて、妖精は
一人の人の子に恋をした
彼の全てが眩くて 愛おしく狂おしく
妖精は歓喜の舞を舞い踊りて 歌いたもう

人の子に近づこうと 妖精は
懸命に真似をした 見よう見真似で真似をした
共に生きども カタチは違えり
カタチ違えど 本質は同じなり

人の子よ 森の子よ
どうかどうか 歌を聞き入れたもう
争わず共存を願いたもう 全ての心に慈愛を持ちたまえ
疑心にならず 憎悪を抱かず 常に愛情を持ちたもう
 
さすれば道は 開けるだろう
どうかどうか 聞き入れたまえ
愛しい愛しい 我が子らよ
全てのイノチにそなたの愛を

さすれば双方命落とさず 平穏な未来が約束されり
森の会いませり 愛しい愛しいあなたに会いませり」

アイラの声は、遠く遠く何処までも。
風の乗って何処までも、流れた。
全てを包み込みながら、鳥や小動物すらも和ませて。
一瞬静まり返ったその場だったが、慌てふためいて会釈をしたアイラに、思わずトライが躊躇せずに腕を伸ばして抱き締めた。
驚いて身を捩ったアイラだが、トライは耳元でこう囁いたのである。

「見つけた・・・」

弾かれたように見上げたアイラ、声が優しすぎて、思わず双方笑みを零す。
後方から、拍手喝采。

「うむ、良い声だ。そうだな、暫し我らにもその歌声をもっと披露していただきたい」

ベルガーが、内心トライに対して嫉妬心を憶えながらも薄く笑みを浮かべる。

「トライ、初対面の女性に失礼だろう、いい加減離せ。歌姫の歌が始まらない」

ぶっきらぼうに告げた、トレベレスだがその瞳にはアイラが映り。

「うん、流石マロー姫の寵愛を受ける歌姫様だね! もう一度聞かせてください」

リュイが、満面の笑顔で嬉しそうにはしゃいだ。
ほっと胸を撫で下ろし、アイラはトライに支えられて歌を謡うべく大きく息を吸う。
ふと、空が。
妙に上空だけ風が吹き荒れているような気がして、一瞬声を止めた。

「・・・?」

晴天だが、雲の流れが速すぎる。
訝しげに目を凝らしてみるが、特に何もなく。
アイラはそのまま、歌を紡ぐ。

その頃。

「クレシダ、デズデモーナ。下がっていてください、森に結界を張ります」
「畏まりました」

城近辺の森にて、アサギ達は防御壁を施していた。
空を仰ぐ、眉を潜める。

「・・・邪魔はさせないのです、私達三人がいるのだから」

そっと、木の葉に触れれば、大樹たちが一斉にざわめいた。
元気付けるように、勇気付けるように。

「やはり、主かギルザ殿がいたほうがよかったのではないかと」

ぼそり、と呟いたクレシダの脚をデズデモーナが踏みつけ、武器を装着する。
何かが、来る気配などとうに解っていた。
無論だ、勝手に過去を捻じ曲げに来たのだから正そうとされるのは、当然である。
だが、過去こそが”捻じ曲げ創られたモノ”なのだから・・・。
アイラに、歌を謡わせる。
重要な事だった、アイラは過去を詩にしている。
微かに憶えているらしい、過去の記憶を歌にして揺さ振り起こす。
気付かなければ、ならない。
先に気付けば”こちらの勝ち”だ。

「全てを知り、糧を失くした場合。・・・過去と同じ様には出来ないのですよ?」

アサギの声と共に、クレシダとデズデモーナが互いに構える。
何処かで、何かが軋む音が聞こえた。

アイラの詩を聴きながら、トモハラは平伏したままだった。
マローが何を言いたいのかさっぱり検討もつかずに、ただ、恐れ多くて姿を拝見する事も出来ず。
目の前のパンをどうすれば良いのか、食べれば良いのか?
沈黙していると、何やら呟いているマローの声が。

「・・・あのときは、嬉しそうに、笑ってたっ」

あの時?

「も、もういいっ、あたし、帰るっ! アイラ、帰ろうっ」

謡っていたアイラの腕を引っ張り、マローは走り出した。
何がしたかったのかって、恐らく話がしたかった。
そして、笑った顔がみたかった、それだけだ。
引っ張られ、軽く王子達に会釈をするとアイラは気遣うようにマローに寄り添う。
唖然と、立ち去った二人の少女達の後姿を見つめる皆。
顔面蒼白で、女官達が二人を追いかけ、王子達に弁解を始め。

「マロー姫、あなた、ひょっとして・・・」
「なにっ、何よアイラっ」
「・・・パンをあげても、トモハラを喜ばせること、出来ないのですよ?」
「・・・だって、この間は笑ってた・・・」

アイラは気付いた、マローの一連の行動を。
恐らく、以前トモハラが女官達から差し入れの菓子を貰っていた時に笑顔だったから。
同じ様にすれば、笑顔をみられると思ったのだろう。
だが、あんなふうに投げつけてはいけない、あれでは蔑んでいるだけだ。

「アイツ・・・なんか今日元気がなかったから・・・」
「それは、マロー姫の縁談に出席していて悲しいからでしょう?」
「へ?」
「トモハラは・・・マロー姫に好意を寄せているので、哀しくて元気がないのです」
「そ、そうなの?」
「トモハラの笑顔がみたいのなら、簡単ですよ。このまま、ちょっと寄り道しましょうか」

トモハラがマローを慕っていることなど、アイラは百も承知。
マローも、トモハラが気にかかっていることを知り、思わず笑みが零れる。
強引に嫌がるマローを引き摺りながら、アイラは以前頻繁に出入りしていた厨房へと辿り着いた。

「あ、あたし、別にアイツの笑顔見なくてもいいからっ」
「まぁまぁ、そう言わずに・・・」

驚く厨房の料理人たち、頼み込んで使わせてもらうのだ。
姫を無理やり連れてきたら、無論誰しも驚愕するだろう。
慌てて敬礼する中で、渋々マローはエプロンを着用する。

「クッキーを焼きましょう」
「はぁ?」

軽い足取りで材料を用意するアイラを、黙ってみているマロー。
流されて、二人で料理をする破目に。

「コツさえ掴めばというか、分量さえ間違えなければ大丈夫です」
「はぁ・・・」

家庭料理など、アイラにとっては容易いものだった。
老夫婦の家では物心ついた時から料理を習い、自身で料理を振舞っていたのだから。
アイラがマローに手ほどきする様を、料理人たちが朗らかに二人を見守る。
焼きあがったクッキーを思わずマローはつまみ食いだ、形の良いものだけを選りすぐって布で包みながらこっそり食べている。
・・・結構量が減った、どうやらマローは腹を空かせていたらしい。
美味しかったせいもあるのだが、それでもトモハラの分は何とか残った。
もう少し材料を増やせばよかったと、アイラは一人苦笑いである。
後で、ミノリにも届けようとアイラはひっそりと三枚、クッキーを忍ばせた。
二人は連れ立って、トモハラを探しに出かける。
後片付けは料理人がやっておいてくれるらしい、有り難いことである。
壮大に散らかしたマロー、厨房はある意味惨劇だ。
粉が床に舞い散っているが・・・仕方あるまい。

「マロー姫様、トモハラに、ちゃーんと、”手渡し”ですよ。”手渡し”! 間違っても、床に捨てないでくださいね」
「わ、わかってるってば!」

渋々、クッキーが包まれた布を胸に大事そうに抱きながら、マローは躊躇しながらも廊下を進む。

「あそこを曲がれば、トモハラ達が勤務している場所です。いってらっしゃいませ」
「・・・アイラは? 来ないの?」
「私は、お片づけを・・・」
「え」
「では、行ってらっしゃいませ、マロー姫様。くれぐれも”手渡し”ですよ?」
「ええ」

狼狽するマローを他所に、本当にアイラは満面の笑みを浮かべてスキップしながら引き返す。
腕を伸ばしたマローだが、気付かないとばかり、するり、と。

「う・そぉ・・・」

その場に卒倒しそうなマロー、消えていったアイラを唖然と見送るしか出来なかった。
立ち尽くすマロー。
その場でクッキーを全て平らげようかと、思って包みを開いてみる。
良い香りだ、思わずマローは喉を鳴らした。
よほど、初めて作ったクッキーが美味しかったらしい。
味付けはアイラのものだ、素朴な味わいがマローの身体に染みたらしい。
じぃ、っとクッキーを見つめて、数分。

「何をなさっているのですか、マロー姫様・・・」

心臓が飛び出る勢いでマローは振り返った、聞き覚えのある声だった。

「べ、べつ、別にっ」

トモハラだ、二人に沈黙が訪れる。
偶然、通りかかったらしく跪いている。

「夜更けです、お部屋にお戻りください。・・・というか、お一人ですか?」

跪いて淡々と語るトモハラ、マローは忌々しそうに足を踏み鳴らし、トモハラの髪とクッキーを交互に見やる。

「アイラに置いていかれたのよ」
「お部屋まで、俺でよかったらお供しますが・・・」
「冗談でしょっ、他の人を呼んで頂戴」
「と、言われると思いました。今、上司を呼んでまいりますからお待ちいただけますか?」

口走ってから、マローは顔を顰めた。
これを渡せる絶好の機会だったのに、自ら破棄してしまった。
立ち上がり、部屋へと戻るトモハラを思わず呼び止める。

「こ、こら! ま、待ちなさいっ。ふ、不服だけど、アンタでいーわ、あたし、早くお部屋に戻りたいのっ。ご、護衛しなさいっ」
「・・・畏まりました」

頭を恭しく垂れ、トモハラはマローの前に立つとそのまま、ゆっくりと歩き出す。
別に王宮内なのでそこまで危険はないだろうが、万が一だ。
左利きなので直様を剣を抜けるように、右手で蝋燭を持つ。
開いた左手は、マローを庇うようにそっと、躊躇いながらも背中に回す。
触れないけれど。
10cm程身体から離して、マローを促すようにして歩いた。

「・・・」
「・・・」

そっと、マローはトモハラを見上げる。
蝋燭の炎に照らされて、妙に大人びた横顔だった。

「・・・」
「・・・」

早く渡さないと、人に出くわす。
誰かに会えば、余計恥ずかしい。

「ね、ねぇ」
「あ、はい」

突如、マローが立ち止まったのでトモハラの左手がマローの背に触れた。

「あ、も、申し訳御座いません」

慌てて手を引っ込めたトモハラだが、赤面すると何故か嬉しそうに左手をそっと眺めた。

「あ、あの」
「あ、はい」
「こ」
「こ?」
「れ」
「れ??」

腕の中のクッキーを渡すだけだが、マローは震える手を止められず。
動かす事すら出来ず、口すらまともに動かず。

「マロー姫様?」
「・・・」

言葉を失ったマローを、不思議そうにトモハラは見つめたまま。

「寒いですか? ドレス、薄布ですから」
「寒くは、ないけど・・・」
「足が疲れましたか?」
「疲れたような、疲れてないような・・・」

ふと、トモハラは大事そうにマローが抱えたままの布に視線を落とす。

こ・れ。
これ。

軽く納得したようにトモハラは頷くと、そっと左手を差し出す。

「あぁ、そのお荷物が重いのですね。俺が持ちますよ」
「ち、ちが」

慌ててマローは布を隠した、重くはない、重い気はするが。
首をぶんぶんと横に振って、必死にマローはクッキーが潰れないように護りながら隠すが。

「・・・歩けますか? 俺が嫌なら代わりの者を・・・」
「そ、そうじゃなく、て・・・」

消え入りそうな声で、必死にマローは身を震わす。
不思議そうに見ているトモハラ、マローは唇を噛締め微かに涙を浮かべる。
言葉が出てこないなんて、初めてだった。
もどかしい、もどかしい、何て感情。

「こ、これ、つくった、から、あげ、る・・・」
「え?」

ガタガタと聞こえるほど、歯を鳴らして。
脚を震わして、手を震わせて、声を震わせて、俯いたまま。
マローは懸命に勇気を振り絞った、何故、下級の者にクッキーを手渡すだけでここまで緊張せねばならないのか、マローには解らない。
けれども、心臓などとうに破裂しそうだ。
トモハラは差し出されたそれを、恭しく、そっと手を伸ばし。
互いの指先が触れたため驚いてマローは手を引っ込めた、布が、クッキーが落下する。
小さく叫んだマローだが、間一髪でトモハラはそれを受け取った。
ほぅ、っと二人の溜息が、静まっている廊下に響く。
床に置いた蝋燭に、そっとそれを照らし、丁重に布を開けていくトモハラ。
居た堪れなくなって、マローはずりずりと壁伝いに後退。

「え、焼き菓子?」

中身を確認したトモハラから、逃げるようにマローは急に走り出した。
笑顔を見たいはずで作ったが、これ以上この場に留まれない。
踵を返し、ドレスを翻して一目散に蜘蛛の子が散るが如く、猛ダッシュだ。
が、明かりがない廊下、トモハラの蝋燭の火では遠くまで照らすことが出来ない。

「キャ」
「あ、危ない!」

コツン、と段になっていた廊下の石にピンヒールが当たった、バランスを崩し倒れ掛かるマロー。
形振り構わずトモハラは腕を伸ばし、地面を蹴ると跳躍する。
ガン、と鈍い音。
マローの腰に手を伸ばして抱き抱えて身体を反転させたまでは良かったが壁で頭部を殴打した。
無論、トモハラが。
マローの頭部はしっかりとトモハラの左手で護られている、無事だ。

「っ、てー・・・」

右手で頭部を擦りながら、顔を顰めているトモハラを、心配そうにマローは上から覗き込んだ。

「い、痛いの?」
「だ、大丈夫・・・です、マロー姫様は、お怪我は?」

引き攣った笑顔を浮かべたトモハラ、マローを不安にさせないようにか上半身を起こした。

「へいき」
「よかった、です」

廊下の、小窓。
先程まで雲に覆われていた月が、顔を覗かせた。
月の光が差し込めば、僅かに汗を浮かべているトモハラを照らす。
妙に綺麗だ、と。
顰めた眉が、艶かしいと。
恥ずかしそうに顔を背けたマローは気付いた、やたらと身体が密着している事に。
当然だ、トモハラの膝の上に乗っている状態である。
混乱しかけたマローだが、それでも。
そっと、下から覗き込むように、ぎこちなく首を動かす。
月の光が、微かに顔を赤らめているマローを照らした。
二人の心臓の音が、合わさる。
速い、互いの鼓動。
そっと、トモハラの左手の甲がマローの右頬を優しく撫でた。
一瞬身体が硬直したが、ゆっくりと軽く瞳を閉じたマローは身を任せる。

「・・・愛して、います」

搾り出したようなトモハラの声に、我に返ってマローは大きな瞳を開いた。
真正面に、トモハラの顔。
驚いて身体を縮こめれば、右腕で引き寄せられ身動きが取れない。
離しなさい、と言おうと口を開きかけたが、けれど。

「愛して、います・・・」

真剣なトモハラの声と、その表情。
思わず、マローは唇を閉じて、そっと瞳を閉じていた。
右頬に触れていたトモハラの左手、丁重にモノを扱うように優しく優しくマローを包む。
愛しています、愛しています、愛しています。
一言告げては、口付けて。
何度も何度も、口付けて。
慌ててマローを救出したので、蝋燭が倒れて床に転がっていたが燃えるものはなかったので床で幻想的に小さく燃えている。
ジジジ、と燃える音を聴きながら、夢中でトモハラは口付けた。
ぎこちない二人だが、懸命に想いを伝えようとした。

「今宵だけで、構いません。どうか、今宵、俺と共に」

と、口付けの合間に言われたが、思考回路がまとまらないマローは意味を考える前に頷いた。
そっとマローを抱き抱えたトモハラは、丁重に床のクッキーを拾い上げ、倒れていた蝋燭を持ち上げると足で垂れた蝋を引き伸ばし火を消し止める。

「この焼き菓子は・・・」
「あ、あたしがアンタの為に作ってあげたのよっ、も、文句あるの!?」

もしかしたらそうなのかもしれない、と薄い期待を抱いていたトモハラは、歓喜で叫びそうになったが、必死に堪える。
誰かに見つかりでもしたら、大参事だ。
一般の騎士が、姫君を抱いていたら大事も何も。

「食べても、いいですか?」
「あ、アンタにあげたんだから、食べなきゃ意味ないでしょ!?」

顰めきあう二人、トモハラは自身の部屋に脚を進める。
一人部屋なわけがない、四人部屋だが偶然の幸いでこの時間は皆何処かしら配置に就いている筈である。
トモハラも、今宵は城門に立つ筈だったのだが急遽何故か当番が交代になったので暇になった。

「綺麗ではないですが、申し訳ありません」

苦笑いしながら、トモハラは起用にドアを開くとその中に消えていく。

「・・・トモハルもあれくらい度胸があったらよかったのですけれど・・・。壁で頭を強打したら良いのでしょうかー?」
「そうしたら時間もかからなかったのですけれどね」

ひょこり、と廊下の壁の隙間から二人を見ていたアサギとデズデモーナ、クレシダは深い溜息を吐く。
ひゅるるん、とアサギの右手に今宵の騎士の配置図、どうやら書き換えたのは案の定アサギだったらしい。
月を見上げる、眉を顰めてアサギはそっと自身の武器を呼び寄せた。

「おいで、セントラヴァーズ」

カキン、と金属の音。
短剣を腰に差すと周囲を見渡し、香りを捕らえる。

「デズデモーナ、クレシダ。あなた方二人は姿を見られてもその頭部の角さえ見られなければ、へっきです。城内を、探索してきますので、森に潜んでいてくださいですよ」
「・・・大丈夫ですか?」
「アサギの場合は、アイラに成りすませば済む事なので何処かで衣装を調達するのです。・・・城内から、良くない気配がするのです、行って来るですよ」
「解りました、無茶されないように」

というか、ここにいる時点で無茶だが致し方ない。
デズデモーナとクレシダは深く頭を垂れると、静かにその場を離れる。
小さく手を振って見送ったアサギは、トン、と壁を蹴るとふわりと宙に浮かびながら侵入できそうな場所を探す。
・・・声が聴こえる。

「アイラってば、貧困民の分際で王子様方に取り入って!」
「着飾れば、マロー様に似てなくもないのよね」
「成り代わる気じゃないの!?」
「悪戯してやりましょうか、気に食わないわっ」

そっと、顔を覗かせてみれば、同僚の女官達だ。
と言っても、今はアイラはマローの付き人であり女官達とは眠る部屋も違う。

「・・・大変・・・とり付かれてる」

蝋燭の炎が、怪しく蠢いていた。
女官達の下卑た笑い声が、低く小さく部屋に響いている。
唇を噛締めると、アサギは再び壁を蹴り上げ、一回転。
小剣を取り出して、宙を切り裂いた。
部屋の天井、女官達を見下ろしながら瞳を細める。
空間移動で、城内に侵入したのだ、ドアを探している暇などなかった。
見えた、女官達の後方に漆黒の靄。

「出ておいで、フィリコ!」

鋭く叫んだ、女官達が驚愕の瞳で真上に視線を移した瞬間、アサギは地面に下りると二つの武器で女官達を狙う。
後方の、靄を。
眩い光が、靄を消滅させる様に切り裂いて消し去る。

「疑心難儀や嫉妬に捕らわれては、付込まれるのです・・・。城内を、結界で固めないと・・・」

武器を仕舞い、アイラは適当に壁にかかっていた女官のエプロンを着用するとそのまま静かに城内の廊下に躍り出ていた。
今夜中に全てを浄化し、結界を張り巡らせる。
廊下を走りながら、城内の見取り図を脳裏に描いた。
”過去に住んでいた”場所だ、解っている筈である。

「アイラ? どうした慌てて」
「トビィお兄様っ」

最初に向かったのは中央の広間である、あそこから順に部屋を廻っていこうと思ったのだが、人に遭遇した。
紫銀の髪を靡かせて、困惑気味に苦笑いを浮かべている相手。

「オレはトビィじゃないが・・・アイラには兄さんがいるのか」
「し、失礼しました、トライ様」

トライだ、名前を間違えた唐突過ぎて。
恭しく会釈をすると、大きく深呼吸。
アイラに成り切らねばならない、顔を上げて小さく微笑む。

「トビィお兄様は血が繋がってはいませんが、とても大事な人なのです」
「そうなのか・・・羨ましいな、余程親しいのだろう。名を呼んだとき、アイラの瞳が嬉しそうだった」

というか、トビィはトライなのだが。
残念そうに、寂しそうに笑ったトライに、アサギは軽く引き攣った笑みを浮かべる。

「こんな夜更けにどうした? 部屋まで送ろうか」
「あ、いえ。明日の準備をしているのです、おやすみなさいませ」

急がねばならない、相手は出来ない。

「手伝おう、何処へ行く? 一人では危ないと思うのだが、二人なら手早く済むだろう。終わったらオレの部屋で歌でも・・・」
「そ、そんな王子様に手伝いなどとっ! し、失礼致しますっ」

逃げるように、逃亡。
頭をかきながら、大きく溜息を吐いたトライは肩を竦める。

「やれやれ、振られた、か」

兄ではないから、遠慮が要らないトライだが、あっさりと交わされた。
気が抜けて、トライは庭へと脚を運ぶ事に。

洗濯したてのシーツを引っ張り出し、丁寧に自分の普段使っているベッドに敷いたトモハラ。
男ばかりの部屋は、トモハラはともかく散らかり放題だ。

「申し訳ないです」
「いいけど、別に」

何がいいのか、意味が解らない。
言ってからマローは急に足が竦む、ついてきたのはいいが、というか連れてこられたのはいいが、どうしてこうなったのか。
嬉しそうにその場を片付けているトモハラを見ていると、少しマローも落ち着いてきたが。
クッキーを渡すだけで、この状況は何なのか。

「俺、ホットミルク作ってきますから。お待ちください」
「あ、あんまりあたしを一人にしないでよね」
「はい、急ぎます」

マローを一人残し、トモハラは勢い良く部屋を飛び出したが、全速力で駆け抜け、得意のホットミルクを作って戻ってきた。
息を切らせて、それでもカップの中のホットミルクは無事に。
蜂蜜をたっぷりと入れて、少量のブランデー。
丁重に差し出すと、少し離れた隣に座るトモハラ。
こくん、と飲んだマローに胸を撫で下ろすと、そっと布を開いて焼き菓子を眺める。

「いただきます」
「・・・どーぞ」

一つ、口へと運ぶ。
ほろほろ、と口の中で溶け出すクッキー。
甘さ控え目なれど、程好い甘さで何枚でも食べられそうだった。
二つ、三つ、口へ運ぶ。

「こんなにも美味しいもの、初めてです」
「そ、そぉ? よ、よかったわね」

嬉しかったが、つん、とそっぽを向いてマローはホットミルクを照れ隠しに飲み干していた。

「マロー様は・・・食べましたか?」
「え? あたし?」

食べた、半分以上。
つまみ食いはしていたが、咳を一つ。

「食べるわけないでしょ、い、一応あんたに作ったのだから」
「美味しいですよ、・・・一緒に食べますか?」

残りの枚数は少ない、マローは小さく頷いた。
マロー自身も気に入っているらしい、少し小腹も空いたのだろう。
トモハラは一枚摘むと、そっとマローの口元へ。

「・・・」
「どうぞ」

言葉を詰まらせたマローだが、鼻に甘い香り。
渋々小さく口を開くとぱくり、とトモハルの手の中の焼き菓子に食いつく。
と。
指先で口に押し込もうとしていたマローだが、トモハラが。
唇から飛び出していた焼き菓子を、咥えていた。

「っ」

驚いて、口を開きかけたが両腕で抱き寄せられて身動きとれず。
カリ、と菓子が割れる音。
マローの唇から零れそうになった菓子の破片は、器用にトモハラの舌でマローの口内へと戻される。

「二人で食べたほうが・・・美味しいです、ね」
「・・・」

赤面しながらぎこちなく微笑んだトモハラ、マローは身体を硬直させると思わず熱く火照った頬を両手で覆い隠す。

「あと一枚、あるんですけど・・・。一緒に、食べますか?」

指の合間から、菓子を見つめるマローだが知らず、頷いていた。
トモハラは、菓子の端を咥える。
そっと、マローの顔に近づく。
これは、自分で口を開いて食べろ、ということだろうか。
マローは不服そうに唇を尖らせたが、徐々に、トモハラに近づくと小さく、口を開ける。
カツン。
控え目に菓子に齧りついたマローに満足そうに微笑んだトモハラは、再び優しく引き寄せるとそのまま。
二人で最後の菓子を食べた。
マローはただ、端っこを咥えているだけで、ただ、トモハラが菓子を齧りながら近づいてくるのを待つだけで。
身動きせずに、ただ、大人しくしている。
それしか、出来なくて、それでも早く来て欲しくて。
そのまま、口付けを。
唇同士が触れて、中央の菓子をトモハラがマローに押し込めば、そのまま口付けだ。
皺にならないように置かれたマローのドレス、寒がらないようにしっかりと身体で包み込んだトモハラは。
夜明けが来るまで、そのまま。
髪を撫でながら、トモハラは愛しそうにマローを抱き締めていた。
今宵だけで、構いません。
今宵だけでも、俺と。
眠っているマローの寝顔を見ながら、幸せそうに微笑むトモハラ。

「起きて下さいー、時間がないのですーっ」

突如、飛び起きる。
アイラが、部屋に入ってきて慌しく動き回っていた。

「ア、アイラ?」
「姫様がいないと、一大事なのですよ。さ、早くドレスを着せますから」
「え、あぁ・・・」

どうしてここにいるって解ったんだろう、というか、鍵をどうやって開けたんだろう。
昨夜確かにトモハラは部屋の鍵をかけた、筈なのだが・・・。
寝ぼけ眼のだるそうなマローを懸命に抱き抱えて、アイラの振りしたアサギはドレスを着せる。
ちなみに、本物のアイラは未だに熟睡中だった。
アサギが呪文で眠りに就かせている、マローを皆の目に触れる前に自室へ戻しておかねば後々面倒だ。
手際よくドレスを着せるアイラ、寝起きの頭では上手く働かないトモハラだが全裸だったので慌てて衣服を手にする。
赤面しつつ、頭をかきながらトモハラが立ち上がると気にも留めずアサギは二人に用意してきた茶を出した。
特に何も入っていない、普通のハーブティである、ミント。
香りが目を醒まさせる、一息つくトモハラはまだ寝ぼけているマローの頬をそっと撫でて髪に口付けを。
横目で見ながら微笑むアサギは窓から外の光を窺う、陽が昇り始めている。

「では、マローは貰っていきますね」
「あ、あぁ・・・。マロー姫、あの」

そっと手を伸ばしかけたトモハラ、だが、悲痛そうにその手は引っ込められた。
今宵だけ、と自分で言ったではないか。
もう、終わったのだ。
自嘲気味に微笑んだトモハラに眉を潜めるアサギ、本当にどの時代でも”そっくり”である。

「ん、またね、トモハラ」

けれど。
アサギに抱えられて、ふにゃ、とマローは沈んだトモハラに手を伸ばした。
寝ぼけていたので素直に言葉が出たらしい、反射的に腕を伸ばしてアサギから取り返すようにマローを抱き締めたトモハラ。

「時間が、ないのですよ」

と、言いながらもアサギは嬉しそうに二人を見つめる。

「・・・大丈夫、アサギが必ず護ってみせます。邪魔はさせないのです」

小さく零し、ぎゅ、と慣れない衣服の裾を握る。
間違っている、”邪魔さえ入らなければ”この二人はこの時点で共に寄り添えたのに。
外部からの影響で、それが余儀なくされただなんて、理不尽だ。

「だから、外部を排除するのです」

静かに窓から外を見下ろした、懐かしい風景だ。

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