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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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ねむい。

 トビィと共にナスタチュームの許へと向かったアサギは、小島に降り立った。デズデモーナとクレシダの背から降りた二人は、集まってきた魔族達に囲まれつつ歩く。直様着陸に気付いたオークスが出迎えてくれたのだが、アサギを見て目を丸くした。

「……こんなに早く再会出来るとは思いませんでした、アサギ様ようこそ」
「お久しぶりです、オークス様!」

 アサギとオークスは、以前ジェノヴァで会っている。あの時は魔族の少女ラキが共にいた、二人の魔族が飛んで去る光景を羨ましく眺めていた。今は、アサギも空中飛行が可能になってしまったが。
 アサギの変化している髪色に軽く瞳を細めて、オークスは物言いたそうに唇を開く。首を傾げたアサギに苦笑すると、左腕を伸ばしナスタチュームの屋敷へと促した。

「クレロから返事だ、読んではいないが共闘したいという点は書かれている筈」
「そうですか、よいお返事をありがとうございます。ナスタチューム様も喜ばれるでしょう」

 トビィから差し出された書面を、丁重に懐に仕舞ったオークスは胸を撫で下ろす。断る理由もないだろうが、こうしてアサギに出会えた事も“予定通り”だった。
 まずはナスタチュームにアサギを見て貰う、見て判断して貰う。

「トビィ殿、アサギ様には何処まで話を? 私達の意図は話されましたか?」

控え目な口調で、さり気無く訊いたオークスだが、トビィは憮然と首を横に振った。アサギに魔王に即位して欲しいなど、言える筈がない。伝えていない、と呟くがその声は当然アサギが聴いている。トビィのマントを軽く引っ張り、唇を尖らせていた。

「後で話す、今はナスタチュームに会おう」
「はい、解りました」

 渋々頷いたアサギの頭を軽く撫でたトビィだが、脳内に響いた声に突然二人は仰け反る。

『アサギ、トビィ! 聴こえるか、緊急事態だ! 即刻戻ってくれ、いや、向かってくれ』

 切羽詰ったクレロの声に、眉を潜めたトビィが返答する。

「何事だ、オレ達は忙しい」
『調査に向かった勇者達が緊急信号を出している、今私も状況確認をしているところなのだが……非常に不味い、魔物に襲われている』

 軽く額を押さ、肩を大袈裟に竦めたトビィの隣でアサギが硬直する。

「勇者だろ? 切り抜けられるだろ?」
『得たい知れない敵だ、劣勢であることに違いはない。向かってくれ』
「……解った」

 話を聴いていたアサギが緊張した面持ちでトビィを見上げる、二人は静かに頷いた。クレロの声は聴くことが出来なかったが、トビィの会話文で予期せぬ事態が起こっている事を把握したオークスは二人に深く頭を下げていた。

「行ってください、こちらはまた次回で」
「悪いな、勇者が危機らしい。……笑い話だが」

 二人がクレシダ、デズデモーナの許へと戻るその姿を観ていたオークスは残念そうに溜息を吐く。が、受け取った書面だけでも早くナスタチュームに見せようと踵を返す。と、必死の形相で駆けて来たサーラとラキに気付き、足を止めた。
 アサギとトビィ、二人を見に来たのだと思っていた。ラキは好奇心だろう、しかしサーラの様子がおかしい。親友であるサーラが、取り乱した様子で腕を伸ばしている。

「アンリ! アンリ! アンリ!」

 何処かで聞いた名前だった、死に物狂いで叫んでいるサーラの様子に、ラキも狼狽している。飛び立った二体の竜を追いかけて、地面を大きく蹴り飛び上がるサーラを慌ててオークスが止めた。前に飛び出し、身体を押さえつける。

「アンリ! アンリ!」
「落ち着けサーラ、どうしたんだ!?」
「アンリだ、アンリだった!」

 アンリ。オークスが記憶の糸を辿る、辿り着いた人物はサーラ過去に滞在していた人間の城に住まいし王女だ。魔族の奇襲を受けて滅んだ、皆に愛されていて王女。

「間違えるはずがない、彼女はアンリだ!」
「……まさか」

 去っていく竜と、その背に乗る人間二人。直様オークスの脳内で糸が結びつく、サーラが想いを寄せいていたという人間の王女。護りきれず死んでしまった、人間の娘。

「……サーラ、彼女はアサギ様だ。人間の勇者、ナスタチューム様が時期魔王に即位するよう願い出る予定の娘で、破壊の姫君になる可能性を秘めている」
「アンリだ! アンリは死に際に『勇者になりたい』と願っていた! だから勇者になって戻ってきた! 間違いない、アンリ、私だ、サーラだよ!」

 サーラの胸元のネックレスに隠されていた、亡国の姫君アンリの肖像と勇者アサギは瓜二つ。緑の髪が美しく、微笑している麗しの姫君。
 オークスは必死に親友の身体を押さえながら、眩暈に襲われていた。

「アサギ様……貴女は一体何者ですか。貴女、勇者? いえ、人間ではないですよね? どうも最初にお会いした時から違和感が」

 呆然と言葉を漏らしたオークスの下で、不安そうにラキが二人を見つめていた。その足元で、小さな草花が風もないのに揺れていた。

 勇者達が策略にはまり窮地に陥り、それをトビィとアサギが救出に向かう。その状況を把握すべく、邪教の本拠地シポラからクレロが目を放した瞬間を待っていた人物がいた。

「やれやれ、監視というのは実に居心地が悪い」

 シポラにて邪教の教祖を務める双子の弟イエン・アイ、そして弟イエン・タイ。二人の魔族は掌を合わせ、神の視線を探っていた。それが消えたので同時に唇の端に笑みを浮かべる、直様行動に移すことにした。
 監視を外させる為には、神が気がかりになる事件を他で起こせばよいだけの話だった、こちらが手薄になることなど手に取るように解った。
 トビィに監視をさせていた時期は平穏を装った、何も行動せずただ不気味に沈黙する。その間に水面下で用意をしていた、準備が整えばトビィの前に姿を現し興味を持たせる。監視がトビィから神に変わった時点で、二人は本当に監視を受けているかを探っていた。神の波動を手繰り寄せ、それを確認すると監視の時間を把握する。常に把握されていると知った二人は、行動を起こす時期を待っていた。

「さぁ急ごうか。足止めの村に集中している際に」
「あの程度では直様収束するだろう、早く理想の世界を創り上げる為に」

 二人は、大きく頷くと壁に描かれている女神に跪く。

「破壊の姫君よ、どうか導いてください。この何処もかしこも穢れきった世界を無に帰し、今一度皆が真の幸福を手に入れられる世界を産んでください」
「偉大なる宇宙の母、生も死も全てを司る破壊の姫君よ。この堕落した世界を正せるのは美しき貴女様のみ、どうか、一刻も早くお戻りください」

 二人は床に愛しそうに口付けると、再び女神を見上げる。

「神の恐れるべき能力の一つは、世界の把握。球体に映し出せば、監視が可能となる。何様のつもりだろうか、ただの天界に住まう種族に変わりないというのに」

 忌々しそうに呟くと、アイは立ち上がり部屋を出て行く。教徒達が出入り出来ない部屋なので、他には誰もいない。静まり返った部屋に、二人の足音が響く。

「魔王アレクが死に絶え、魔族達は混乱の渦の中。何かきっかけを放り込むだけで、統治されていない集団は自身の本能に従うだろう。どう動こうとも関係ない、ただ、動乱が欲しいだけ」

 硝子などない、ただの窓辺に脚をかけ、そのまま飛び出したアイとタイは翼を広げた。普段は見られないその翼、飛行する際でも基本は使用しない。だが、久し振りに広げてみたくなった。
 純白の翼が優雅に舞う、二人はその翼を広げながら、二手に分かれた。塔の頂上に待機していたサンダーバードの前で腕を振ったアイは、そのまま飛び去っていく。指示を受けたサンダーバードも大きく羽を広げ、二人とは違う方角へと飛び去って行った。
 羽ばたく音を聞きながら、忌々しそうに舌打ちしたアイは、自身の羽を見つめた。

「天界人と魔族の末裔。天界を追われて地上に堕ちた天界人が、高い場所から全てを見下していた日を渇望し、地べたに這い蹲って全てを恨みながら生きてきた。人間という非力な存在には勇者がいる、エルフとて王族が存在し、魔族という忌み嫌われた種族にも魔王がいる、高慢な天界人には人間も魔族すらも恐れさせる神という存在がいる。
 ならば、地に堕ちた天界人は誰がいるのか。誰に救いを求めれば良いのか。仲間を欲し、魔族に身体を売り、必死に生きてきた者を救ってくれる者は誰なのか」

 イエン・アイ、タイの親が天界人、というわけではない。先祖が天界人で、魔族と交わり産まれた異端の種族の末裔で、血は魔族が濃い状態にあるだろうが、何故か羽のみは天界人そのものだった。嫌悪する羽を魔族と天界人の混血は必死に隠し、意志で出現させることが出来るようになった。
 神の能力を知っていたのは、堕ちた先祖の天界人が子に伝えていた為だ、それが代々親から子へと渡されてきた。

「我らの神は、破壊の姫君。彼女だけが救ってくれる、この破滅的な世界を一瞬にして無に帰してくれる」

 破壊の姫君、という単語も天界人であった者が伝え、受け継がれてきた。一体どのような階級の天界人だったのか、その堕ちた者は自身について口にしなかったので解らない。だが、神に近く仕えていた者だったのではないかと推測は出来た。 
 神の能力、神が恐れる破壊の姫君、何度も何度も我が子に教えて、天界人はこの世を去った。親からの言葉は、代々受け継がれながら付属して恨み言も膨らんでいく。

「破壊の姫君は、最も麗しき容姿を持つ。同時に、何者からも慕われるべき存在である」

 何者からも慕われる存在、そんな存在居やしないとタイとアイは親から聞かされて嘲笑していた。だが、偶像であろうとも何処にも身を置けないはみ出た者達には必要だった。
 破壊の姫君という救済の女神を掲げて、邪教を作った。世界を混乱に陥れられれば、報復になるとそれでよかった。しかし、堕ちた天界人が伝えたその極秘事項が嘘ではないと心の何処かで信じていた。
 邪教の教祖となり、人間達に慕われたが気分などよくない、ただ重荷が圧し掛かるだけだった。情が移った、種族は違い虫けら同然だと思っていた人間達だったが、話を聴くうちに境遇が同じだと絆される。教徒の拠り所が破壊の姫君という偶像よりも、身近な二人に向けられ、いよいよ二人も何か縋るものが欲しくなった。

「破壊の姫君は、眠っている。呼び起こさなければ、彼女は降臨しない。世界の浄化は起こらぬまま、一部の者達が幸福であり続ける不平等な世界のままになってしまう」

 勇者が異世界から来た、と知った。教徒を増やすついでで観に行った二人は、そこで肌で感じ取ったのだ。
 異質な勇者を、勇者と呼ばれつつも、勇者には見えない者を。それは、天界人の血が混じっていた為なのかもしれない。見た目も申し分ない娘だった、誰からも好かれているその勇者、確証などなかったが破壊と姫君とするならば彼女であって欲しいと切望した。

「破壊の姫君を呼び起こす為には」

 アイは呟き、一つの塔へと舞い降りる。全ての叡智を持って、破壊の姫君を降臨させてみせると、唇を動かした。
 その頃タイも山脈に降り立ち、唇の端を上げて嗤う。堕ちた天界人の末裔、魔族の性奴隷として生き長らえ、忌み嫌われた存在。両親が死に、残された双子は寂しさから互いを求めて禁断の恋に堕ちた。何もかもが許されないらしいこの世界など、不要だった。

「全てから信頼され、勇者として皆を護るべき存在から我らと同じ立ち位置に引き摺り下ろさねばならないのですよね。不審がられ、恐れられ、拒絶される存在へと」
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