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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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トランシスが出てこない



 過去を映し出す球体の部屋へ向かう途中、経緯をクレロが簡潔にアサギに伝えた。アサギとミノルに調査を依頼してから、直様トビィに交信を試み居場所を伝えた。魔王アレクの従兄弟ナスタチュームから書面を受け取ったとほぼ同時に交信があったので、思い切り書面を握り潰しクレシダの許へと駆け出したトビィを、魔族達が不安そうに見つめる。同伴すべきか、とオークスが問いかけたが返事する時間も惜しかった為、転寝をしていたクレシダを叩き起こし直様飛び立った。
 ゆえに、ナスタチュームからの書面は今、クレロに手渡される。

「ところで、ミノルは何処へ行った。何をやっているアイツは」
「トビィお兄様、そのナスタチューム様の事、お話してくださいっ」

 話を逸らそうと、アサギが話題を振る。怪訝に思いつつもトビィはアサギの肩を抱いたまま、話し始めた。前方では書面をクレロが読みながら歩いている。

「……雰囲気的にはアレクに似ていたな、周囲の時間速度が遅そうな感じだった。アサギに会いたがっていたよ」
「私も是非、お会いしてみたいです!」

 クレロが受け取った書面にも同様の事が書いてある、破壊の姫君の件で話がしたい、勇者アサギに会いたい、と。
 クレロは眉間に皺を寄せ、一瞬瞳を閉じたが直ぐに開き細めで何処か遠くを見つめる。「仲間は、多いに越した事はない」小さく呟くと、皺になっている書面を大事そうに伸ばし、懐に仕舞いこむ。
 そうこうしている間に球体の前に到着した、クレロが囁くと球体が過去を映し出す。
 まずは、トビィの過去からだ。シポラ上空で待機中に遭遇した魔族イエン・タイが映し出される、見た瞬間にアサギが声を荒げて球体に駆け寄った。

「この人です、この人! 同じ人です!」

 やはりそうか、とトビィが小さく舌打ちし、この時に追撃していたら村襲撃はなかったのではないかと、クレロを睨みつける。クレロは静かに、タイを見つめたままだ。

「しかし、同一人物となると……やはりシポラには転送陣が設置されているということか」

 トビィがタイに遭遇し、天界へデズデモーナが通達をした。その後、監視をクレロが行っており、トビィはナスタチュームに会う為にその場を立ち去った。監視していたクレロは、シポラから飛び出る影を一度たりとも見ていない。しかし村が襲撃されその先にタイが待ち構えていたということは、瞬時に移動可能な手段があるということになる。
 シポラから今回襲撃のあった村までは、トビィがシポラからナスタチュームの住まうアレクセイ島へ行く距離とほぼ同等である。トビィの移動手段と同じ様に大型の飛行系を使うか、余程魔力に長けている魔族でその身一つで飛び立ったか、しかし、シポラは静まり返ったままだった。となると、やはり転送陣の存在で間違いない。

「厄介だな、何処にでも行ける状態になってないか?」

 転送陣の設置は古来より点在している為、調べるには神クレロでも相当な時間を要す。それだけではなく高等な能力者であるならば、簡易に設置が可能だ。
 転送陣は何処へでも勝手に飛べるわけではない、行き先が明確になっていることと、先に転送陣が既に設置されている事が条件である。もし、事前に全世界中にイエン・タイが転送陣を設置して回っており、シポラから簡単に移動できるようになっているならば捕らえることは困難だ。

「転送陣の破壊が当面の目的か、まぁ破壊したところでせっせと新たなものを造られては意味がないが」
「だが破壊されている転送陣とは知らずにそこへ行こうとした場合は、失敗に終わり生命の危機に曝される。やってみる価値はあるだろう。まずは先程の位置へライアン達を派遣し、徹底的に探索してもらおうか」
「気が狂いそうな作業になりそうだな……今回は破壊できても、新たな転送陣を探す手段を何か見つけないと鼬ごっこだな?」

 肩を竦めたトビィに、クレロが苦笑する。「すまない、知恵を搾り出すよ」と申し訳なさそうに告げたが、転送陣を発見する手段などクレロは知らなかった。おまけに、発見した転送陣全てがイエン・タイのものとは限らない。人間が使用しているものだった場合、知らずに使ってしまった者を消してしまう可能性もある。
 アサギは、球体に映っている自分の緑の髪を見つめて話を聞いていた。

「でも、何をやっていたのでしょうか。転送陣を使ってまで、何故あそこに。何か理由があるのですよね」
「うむ、そうだな。全ての事柄には意味がある……至急調査せねばな」

 口を挟んだアサギに、クレロは優しく告げると直様新たな指示を皆に出した。

「万が一のことがある、私は今後もシポラを監視しよう。
 トビィ、君は私が返事を書くので再びナスタチュームの許へ出向き、書面を渡して来てもらえないだろうか。『こちらも会いたい、共闘しよう』という内容で書き綴る。その後は最も機動力に優れ、戦闘能力の高い君に調査の指揮をとってもらう。
 ライアン達が戻り次第、二手に分かれてもらい片方は今回騒動のあった村へ。もう一方は別の場所へ出向いてもらおうと思う。
 勇者達も、時間がある時には来て欲しい。単独行動はせずに、必ず数人で下界へ降り立ち調査してもらおう。
 可能であるならば、幻獣星王子スタインにも協力を申し込むとしよう。
 また、ナスタチューム達も協力してくれるに違いない」

 アサギが深く頷き、トビィがそっぽを向いたまま腕を組む。クレロがシポラを監視しつつ書面を書き綴り終わるまで、二人は天界の中庭にて花に囲まれ茶を啜ることにした。
 小さく欠伸をしたアサギに、トビィが気付くと優しく微笑む。そろそろ眠くなる頃だろう、もう夜更けだ。出された食事を摂りながら、うつらうつらと揺れるアサギ。

「もうお帰り、アサギ。また明日相談しよう。明日学校とやらはあるのか? 休みの日もあると聞いたが」
「明日は土曜日なので学校はお休みです、あの、一緒にナスタチューム様の許へ行きたいのですが、良いですか?」
「あぁ、大歓迎だ。アサギの好きそうな洒落た飲み物が出てきたぞ、楽しみにしておくがいい。用事が終わったら、調査しつつ村や街に立ち寄って旨いものでも食べようか」
「……楽しそうです!」

 クレロから書面が届く前に、アサギは地球に帰ることにした。トビィに手を振って、地球へ戻ろうとした時だ。ソレルがトビィを捜しに来たので、渋々連れて行かれる。アサギもそれを促した為、見送られることなく戻ろうとした。しかし。
 髪が緑のままだ、家に帰ったら驚かれるだろう。祖父母に到っては気絶しないか不安になった、アサギは困惑しつつ帰宅を躊躇いその場に踏み止まる。髪の件だけでもクレロに聞けないか、戻ろうとした時だった。
 遠くから話し声が聴こえた、声のトーンからして楽しそうではない。気になったので、様子を見に行ったアサギは、廊下の角から様子を窺う。
 天界人が、数名集まっていた。

「あの竜、どうにかならないのか。恐ろしい。子供達が見て泣き喚く」
「我が物顔で留まられてもねぇ……けれど、トビィ殿の機動力は竜達が」

 どうも原因はトビィの竜達のようだ、アサギはそっとその場を離れると先程乗ってきたクレシダとデズデモーナがいる場所へと駆け足で向かう。
 天界にいるだけで、城の中にいるわけではない。空に浮かぶこの場所の、端に身を寄せているだけなのだが邪険に扱われていた。
 息を切らせて向かうと、二体の竜が瞳を閉じている。

「デズデモーナ、クレシダ、こんばんは」

 声に気がつき、デズデモーナがすぐに反応して首を上げる。会釈をし、数回瞬きするとゆっくりと起き上がる。

「お出掛けされますか、アサギ様。主は?」
「あ、いいえ、私は今から地球に帰るところなのですけど……デズデモーナ、クレシダ? 身体が大きいからここでみんなに怖がられているの?」

 気にしない、というようにクレシダは微動だしなかったが、デズデモーナは首を少し下げた。確かに扱いは不当だと思っていた。とって食う気は全くない、傷を負わせることもないのだが、未だに武器を構えられてしまうのも事実である。

「気になさることはありませんよ、アサギ様。所詮我らは竜、得体の知れない者を人間であれども、天界人であれども……怖がる事は普通でしょう」

 言うデズデモーナに、アサギは首を傾げて歩み寄る。そっと、強固なデズデモーナの黒い皮膚に触れ、身体をそのままもたれさせた。驚いて身動ぎしたデズデモーナだったが、動いてはいけないと思い、必死にそのまま耐える。アサギが触れている箇所が、妙に温かく、いや、熱く感じた。胸の鼓動が速くなることを、止められなかった。

「こんなに優しいのに。どうして怖がるのかな」
「見た目ですよ、アサギ様。……良いのです、我ら竜はどのみち人間や天界人に媚びて生きていくわけではありません。主と貴女様が我らを必要としてくれるだけで、良いのです。御気遣いには感謝いたしますが、そう悩まずとも」

 竜である自分を怖がることなく接してくれるアサギにいつしか癒されていたデズデモーナは、照れながらもアサギにそう返答した。自分に触れようとする人間など、トビィだけだと思っていた。何より接する事もないだろうと思っていた。意外とこれが心地良く、トビィとはまた違った感情をデズデモーナは抱き始める。
 最初は、信頼している主・トビィの愛する美少女だった。しかし、トビィや他の人間、魔族に接していた時と同じ様に、自分達に話しかけ、笑ってくれるアサギが気になる存在になっている。想うと、心臓が苦しくなる気がした。
 自分に触れることが出来る人間が、二人もいたとは。まさか心を許してしまうとは。

「……でも、不便でしょう? この姿だと、トビィお兄様が街へ行く時にはついていけないもの」

 竜が街に降り立ったら、甚大な損害が発生する。その為、街から離れた場所に着陸する必要がある。また、人々を不用意に怯えさせない用配慮もせねばならない。大抵の人間は、竜を敵と見なす。

「まぁ、確かにそれはありますね」
「待っていて、なんとかしてみせるから!」
「いえ、大丈夫でございますよ。そこまで気遣って戴かなくとも……」

 笑顔を浮かべたアサギに、控え目にそう告げたデズデモーナをクレシダが横目で見つめている。やがてアサギは二体に挨拶をすると、戻っていった。残された二体は戻ってきた静けさに再び瞳を閉じる、トビィが戻ってくるまで眠りに入った。
 アサギは思案したまま、クレロの許へと急ぐ。髪の件と、他に聞きたいことが出来たからだ。丁度その頃、地球へ戻るに戻れなくなっていたミノルが、走り去るアサギの姿を目撃する。
 アサギと別れた後、二人の天界人に無言で見つめられ狼狽したミノルは、クレロの許へ行こうとした。「アサギが一人で行ってしまった」と、伝える為に。しかし、拒否されたことがどうしても引っかかる。クレロに告げたとして、送られるのは自分一人だろう。アサギにまた跳ね除けられそうで、どうすべきか迷いながら天界を彷徨っていたミノルは、庭の片隅の花壇に腰掛け、呆けていた。時間が刻一刻と過ぎる、アサギが危険な目に合っているかもしれないのに、何故自分はクレロに伝えに行く事が出来ないのだろうか。「アサギなら、大丈夫だろうから。一人でも」ぼそ、とそう呟く。
 そういうことだ、意地になっているのか、本心なのか自分でも解らないがそう思ってしまっている。クレロに告げるほうがアサギの負担になるのではないか、とも思えた。逃げなのかもしれない、自分を正当化しているだけなのかもしれない。
 ようやく重たい腰を上げ、地球へ帰ろうとした矢先、アサギを見た。「あぁやっぱり、無事だった。もう、終わったんだ」眺めながら驚くほど何の感情も抱かずにそう思ったミノルは、頭をかきながら地球へと戻ることにする。親は不在なので、特に心配されていないだろうが、空腹の為コンビニへ行きたくなった。
 走り去ったアサギの後姿をぼんやりと見つめ、美しい緑の髪が揺れて。

「……え、緑!? なんで緑!?」

 我に返った、一瞬納得していた自分に違和感を感じつつ、目を何度も擦ってアサギを見つめる。遠くなったアサギの髪色は、若緑色だ。
 クレロの許へ戻ったアサギは、丁度書面をトビィが受け取っている場面に遭遇する。トビィの用事も終わったのだ、良い時に来た、と微笑む。
 まだ滞在していたアサギの姿に軽く驚いたトビィだが、嬉しかった。

「どうしたアサギ、まだ帰っていなかったのか。なんなら帰らずにこのまま一緒に」
「早く帰りなさいアサギ、家の人が心配するよ」

 トビィの言葉を、クレロが上から被せる。冷淡な視線を投げかけたトビィに気付かぬ振りして、クレロはアサギに近づくと困ったように微笑んだ。

「クレロ様、髪の色どうにかなりませんか? 突然緑色になってしまって。このまま地球へ戻ったら、みんながびっくりしてしまいます……」

 成程。クレロとトビィが納得してそう呟き、軽く思案する。

「ふむ、よろしい。私が幻覚の魔法を使っておこう。地球の者達には、髪の色が黒く見えるはずだ、以前の様に。それなら問題なかろう?」


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