忍者ブログ
別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
[945]  [944]  [943]  [941]  [931]  [942]  [940]  [939]  [938]  [937]  [936
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ひいいいいいいいいい追いつかない




 全速力のサンダーバードと同等の速度で追って来るアサギに、不安定な箇所など見当たらない。体勢を崩しそうにもない、完全に意のままで浮いている。
 舌打ちしたタイは、我武者羅に火炎の魔法を連打する。当然アサギに痛手を負わせることなど出来ない、だが。
 我に返ったアサギが唇を噛み締めると、躊躇することなくタイから離れる。一か八かだったが、引き攣った笑みを浮かべたタイは全速で逃げ戻った。
 タイの放った火炎の魔法が、森の木々を燃やし火災を起こしていたのだ。この不測の事態を見過ごして立ち去る事など、アサギには出来ない。瞳を閉じると神経を集中させる。

「悠久なる流れは大地と共に、雫の欠片は大いなる大海へと全てを巻き込み流れ込む。生命溢れる海原より来たれ!」

 両手を掲げ、詠唱を終えると一気に腕を振り下ろした。頭上に出現していた水が森へと投下された、水蒸気を上げながら鎮火していく。一度の詠唱ではまだ火が完全に消されていない、アサギは森へと飛び込み水の魔法での相殺を試みた。木々の間を抜け、火を感知し魔法を放つ。
――熱いよ、アサギ様――
 声が聴こえた、焦燥感に駆られながらも懸命にアサギは消火活動に専念する。鎮火しかけたところで、気配に気づき上空へと舞い戻る。

「アサギ!」
「トビィお兄様!」

 クレシダ、デズデモーナと共に駆けつけてきたのはトビィだ。緑の髪のアサギを見て一瞬瞳を軽く開いたが、思わず口元に笑みを浮かべる。
 自分が”初めて”出遭った時と同じ、アサギの髪と瞳の色だった。こちらのほうが、トビィにとっては自然なのだ。驚く事もない、”これが真実だ”とすんなり受け入れる。宙に浮いているアサギにも、大して驚く事はなかった、以前も見たことがある気がした。

「森に火が。消し終えたとは思うのですが……」
「火は、身を潜めて生き残っているだろう。見た目では解らなくとも、内側から蝕んで人目を欺き、急に牙を向く。……オフィがいたら水は任せられるが、参ったな。クレシダの風では煽るだけで逆効果だ」

 魔法など扱えないトビィは、申し訳なさそうに瞳を伏せた。しかし、ふと背負っている剣に気付く。水竜の角から創られた、唯一無二の剣ブリュンヒルデ。水属性の剣で間違いはないのだから、何か出来ないものかと思案する。
 宙に浮かんでいたアサギだったが、デズデモーナが自分に乗るようにと、首を垂れたので会釈をしてその背に跨る。思案しているトビィから離れ、ゆっくりと上空を旋回しつつ森の様子を見つめた。
 もう一度詠唱し、水を燃えていた箇所にかける。木の内部で燻っている火種がないか、瞳を閉じて熱を探った。特に、見つからない。

「アサギ、単独行動は危険だ。誰かが来てからにしてくれないか、心配だ」
「勇者ですから、これでも」
「勇者だからといって、単独行動推奨だということはないだろう? 約束してくれ、一人では決して動かないと」
「……解りました、以後気をつけます」

 しょんぼりと項垂れているアサギに苦笑し、二人は竜の上から森の様子を探る。万が一の為だが、火は鎮火したようだった。安堵し、緊張の糸を解いたアサギはようやく肩の力を抜く。
 ただ、問題は。アサギの髪が緑色のままだった、ということだ。
 自分では気付いていなかった、クレロに呼ばれて天界に戻り、廊下に設置されていた全身鏡でようやく気付く。大きな瞳を何度も瞬きさせ、指で数本摘んだ。
 様子に気がついたトビィが肩に手を置く、狼狽しているアサギの耳元で「大丈夫だ」とだけ告げると、そっと肩を抱いて歩き出す。物言いたげなアサギだが、そのままクレロの元へと連れて行った。
 擦れ違う天界人がアサギの髪を見つめた、目立つだろう、黒髪ではなかったのだから。
 クレロとて息を飲んだ、俯きがちに前に進み出たアサギに、その場が静まり返る。トビィだけが、不服そうにこの現状を見つめる。トビィにとってはアサギのこの髪こそが”普通”だ。

「あ、あの、クレロ様。えーっと、報告させていただくと、魔族がいました」
「あ、ああ、そうだな。頼む、詳しく教えてくれ」

 髪の事ではなく、先程の状況を話し出したアサギに、一瞬たじろいだクレロ。報告を先にしてくれたことはありがたいが、髪を不安がっていると思ったので意外だった。

「お前は何をやっていたんだ、アサギを見守っていなかったのか? 大事な勇者だろ、危機を感じたら直様応援を寄越すぐらいしろよ」
「口を慎みなさい、ドラゴンナイト・トビィ!」

 呆れた声でクレロを非難したトビィに、声を荒げるソレルだが、クレロが制した。トビィに深く腰を折って謝罪し、アサギに向き直り同じ様に謝罪する。

「すまない、私の落ち度だ。てっきり勇者ミノルと共にいるとばかり……言い訳になってしまうが、私はシポラを監視したままだった」
「ミノル? ミノルがいるのか?」

 怪訝にトビィがアサギを覗き込むが、アサギは慌てて首を横に振る。話を逸らすために、状況を話し出す。ミノルに迷惑をかけたくなかった。

「村近くの洞窟ですが、人一人が通れる程度の穴しかありませんでした。進んでいくと森の中でした、そこで魔族に出会いました。薄桃色の綺麗な髪で、結構かっこいい感じの人です。身長も高くて杖で攻撃してきました、途中で光る大きな鳥に乗って逃げて行ってしまって……ごめんなさい、捕まえることが出来なくて」
「アサギは、森に放たれた火の鎮火にあたっていた。間違った判断だと非難は出来ない」
 
 申し訳なさそうに謝罪したアサギを、トビィが擁護する。周囲を睨みつけ、逃亡させてしまったことに言及する者がいるならば斬りかかる勢いだ。皆、数歩後退する。
 静かに聞いていたクレロが、ようやく長い沈黙を得て口を開く。

「薄桃色の髪。……トビィが見た魔族と同じと見て良いのだろうか? 過去を見比べてみよう、同一人物であるならば、シポラを監視していた私の目を掻い潜ってあの場へ魔族が行った、ということになる」
「転送陣の使い手が存在すれば可能だろ、そんなこと。つまり、監視の意味などない」

 淡々と言い放つトビィに、神を侮辱されたと天界人は各々攻撃態勢をとった。だが、それもクレロが制す。渋々武器を下ろす天界人を、トビィは鼻で笑った。

「アサギ、トビィ。今から過去を映す、同一人物か確認しよう。次の策を練らねば」
「だから、一気に本拠地に攻めたほうが早いだろ。グズグズしていると、同じようなことが起こる」
「今回の目的を調べたい、何をしたかったのか。アサギの通った洞窟の大きさでは、村を襲撃した魔物など通過出来ない。そこも知りたいのだ」
「……悠長な事を言っていると犠牲者が出るのがオチだと思うが?」

 トビィとクレロが睨み合い、下でアサギが狼狽える。周囲の天界人達も、言葉を発することなく見守っていた。その間も、アサギの髪は緑のまま。ふわりと揺れる。
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新コメント
[10/05 たまこ]
[08/11 たまこ]
[08/11 たまこ]
[05/06 たまこ]
[01/24 たまこ]
[01/07 たまこ]
[12/26 たまこ]
[11/19 たまこ]
[08/18 たまこ]
[07/22 たまこ]
フリーエリア
フリーエリア
最新トラックバック
プロフィール
HN:
把 多摩子
性別:
女性
ブログ内検索
カウンター
Copyright © あさぎるざ All Rights Reserved.
Designed by north sound
Powered by Ninja Blog

忍者ブログ [PR]