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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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リュミ

トロイは未だに主星から戻らない、トリプトルもまた、消えた。
 リュミは焦燥感に駆られて、アースの姿を捜す。今は皆で共に居なければならない時期だと悟った、このまま離れ離れになってしまっては非常に拙い事態が起こると、直感した。
 アースとベシュタは何処かで今日も惑星を調査しているに違いない、それは分かるのだが、何処にいるかまでは把握出来ていない。
 だが、ベシュタは直様見つかった。一頻り外を見回っていたが、気になって拠点に戻ってきたら、優雅に紅茶を飲んでいる。一人きりだ、アースはいない。
 警戒しつつ近寄ったリュミは、躊躇いがちに声をかける。気付いている筈だが、ベシュタは何も反応しない。
「あの、アース知りませんか」
「アースなら先程、河を観に行った。水の精霊が不在なので心配らしい、彼こそ何処へ? 見たところ火の精霊も不在なようだが、育成放棄と見なして報告して良いのかな、風の精霊よ」
「……名前で呼んでいただけませんか、僕はリュミ、トロイとトリプトルは気になる事があって主星へ出向いています。育成放棄ではありません、寧ろ育成に重要な事です」

 嫌悪感を露にして、声を低く、挑むような目つきでベシュタを見据えたリュミ。鼻で笑うと、ベシュタはゆっくりと立ち上がった。一歩後ずさったリュミに近づくと、口角を上げて首を傾げる。

「ふむ、勘違いをしている様だが。大方私の身元でも調べに行ったのだろう? 本当に私が君達の協力者であるのか、否か。君も疑っているのであれば、主星へ出向くと良い。あぁ、心配はいらないよ、育成放棄などと報告はしない。アース一人でも、君達の不在時賄えるだろう。それくらいは掌握済みだ。この惑星は安定している、もう精霊はおろか人間も住んで問題ない状態にある」
「ですから、その状況下で何故貴方が派遣されてきたのか、それが知りたいのです」
「だから、主星へ行けば良い。全ての答えはそこにある」

 余裕の笑みでそれだけ告げると、ベシュタは去っていった。拠点から出て行く後姿に知らず爪を噛み、睨みつけていたリュミだがどうすべきか行動に移せずにいる。
 本音は主星へ行き、トロイと合流したい。しかし、ベシュタが不穏な動きをしないか見張るべきだとも思っている。どうするべきなのか。
 葛藤し、右往左往歩き回り、時折頭を掻きながらリュミは決断した。
 やはり、アースの傍にいようと。ベシュタから目を離してはいけないと、直感に頼ることにしたのだ。
 拠点を飛び出し、アースを捜す。一刻も早く、姿を瞳に捕らえないと不安で仕方がない。
 そんな姿を物陰から満足そうにベシュタは見つめていた、足元には横たわるアース。静かに寝息を立てている、当然だ、薬で眠っているのだから。数時間前に紅茶に混ぜておいた、熟睡している。
 リュミが暫く戻ってこないだろうことを想定し、ベシュタは軽々と横たわるアースを抱き上げると部屋へと運ぶ。アースの使用していたベッドに寝かせると、頬を擦った。そろそろ効能が切れる頃だ、微かに動く瞼がその証拠だろう。
 ベッドの脇に腰掛けて見つめていると、アースは何度か瞬きを繰り返し、瞳を開く。困惑気味に周囲を見渡してから、頬を染めて起き上がった。

「あ、あの。私は?」
「眠っていたので、運んでおいた。疲れているのだろう、このまま眠ったらどうだろうか」
「いえ、そういうわけには。……申し訳ありません、失態を。紅茶、淹れましょうか?」
「動けるのか? 少し休めば良いのに。だが、戴こうか、アースの淹れ方は上手い」

 これ幸いとばかりにアースはベッドを降りると逃げるように部屋を出て、紅茶を作りに行く。後姿を目で追って、ベシュタは溜息を吐いた。
 処女は面倒だ、雰囲気を望み甘い言葉を欲するから。
 ベシュタはこれから始まることに、頭を悩ませていた。正直、気が乗らない。だが、命令は絶対であり遂行しなければ自分の身が危うくなる。処女を抱く、ただそれだけのことだが、何故こうも気乗りしないのだろう。
 ベシュタは重たい腰を上げると、部屋を出てアースの後を追った。忙しなく動いているアースから視線を逸らしつつ、手身近な椅子に腰掛ける。
 目の前で標的のアースはこれから始まることなど全く警戒しておらず、ただ普段通りに紅茶を煎れていた。女神からの指示により、今晩決行することになっている。機会を逃してはならない。
 慣れた手付きで紅茶を煎れ、ふわりと部屋に広がった香りに一瞬心を持っていかれた。慌てて額を押さえ、唇を噛んだベシュタは瞳を閉じる。
 何故、罪悪感があるのだろう。
 心に引っかかっているもの、どうしてもそれが拭い去れない。ただ処女を奪うだけ、適当に甘い言葉を囁いて誘惑し、一夜を共にするだけ。それだけで自分には将来を約束された地位が手に入る、簡単な仕事だ。
 だが、どうしても。
「ベシュタ様、紅茶が入りました」
「あぁ、ありがとう」
 火の精霊トリプトルが怒りに身を任せて主星アイブライトへ出向いている、水の精霊トロイもまた、アイブライトへ。二人の足止めは、女神が手を伸ばしている為抜かりがない。
 この惑星に残っている風の精霊リュミは、調査の為拠点としているこの家から出払っていた。
 今しかない、今ならばこの娘を陵辱できる……ベシュタは意を決したように浅く腰掛けていた椅子から立ち上がると、紅茶を運んできたアースに微笑んだ。
 出来るはずだ、出来るはずだ。心の中で言い聞かせた。
 そっとアースの手に触れながら、盆に乗っているカップを手に取り、ゆっくりと紅茶を啜る。
「美味い、紅茶を煎れることが益々上手くなった。アースは優秀だ」
「いえ、ベシュタ様が色々教えてくださったから」
 やんわりと微笑んだアースは、自分も紅茶を口に含んだ。水滴が付着しているふっくらとした唇を、挑むように見つめているベシュタの視線など、アースは全く気付いていない。
 改めて目の前のアースをまじまじと見つめたベシュタは、軽く溜息を吐いた。顔立ちはまだ幼い、温和そうな表情はベシュタの好みではなかった。華奢な腕と脚、腰、もう少しふくよかな女が好みだと苦笑する。
 長い睫、大きな瞳、可愛らしい顔立ちなのは理解出来るが、だからどうしたというのだろうか。
 視線が交差し、不思議そうに微笑んだアースから、ベシュタは思わず視線を外す。外して舌打ちした、何故か顔が熱かった。
「見惚れたわけがない、馬鹿な」
 小さく呟き、冷静を装う為に深呼吸を繰り返す。
 罪悪感……このアースには、想い人がいる。想いを踏みにじって自分が抱いてしまって、良いものなのだろうか。同情してしまった自分に驚いているのだが、それ以上に別の感情が浮上していることをまだ認めたくはなかった。
 落ち着け、と言い聞かせる。これは命令だ、と何度も言い聞かせた。
 ぶつぶつと呟き続けるベシュタに、そっとアースが近寄ると首を傾げて覗き込む。驚いて顔を赤らめたベシュタは、身体を逸らした。
「大丈夫ですか? お疲れなのでは」
「平気だ。だが……そうだな、早目に眠るとしよう」
「はい、おやすみなさいませ」
 心配そうな表情が、ほっと安堵の溜息と共に笑顔になった。キリリ、と胸が痛んだが、踵を返しドアへ向かったアースの華奢な身体をそのまま抱きこむ。驚いて小さく叫んだアースの口を手で塞ぎ、耳元で囁いた。
「愛している、アース」
 アースは瞳を数回瞬きする、そっと口元の手が外され、背後から優しく抱きかかえられる。ベシュタの身体にすっぽりと覆い隠され、頬に優しく口付けを受けた。
「本来、このような感情は抱いてはならない。しかし、私にはどうしても抑えることが出来なかった。あまりに魅力的過ぎる土の精霊、逢ってはならぬとなんども私の脳内で警告音が鳴り響いていたのだが、無理だった。君に協力する振りをして、君と共に歩き、語らい、触れあい、名前を呼び合うことが私の幸せに何時しかなっていた。
 愛している」
 そっと指を絡め、愛おしそうにゆっくりと動かす。甘い吐息を吹きかける、これまで幾多の女を手中に収めてきたのだから、同じ様に囁けば良い筈だと思っていた。
 女は戸惑いつつも、嬉しそうに瞳を伏せた。
 女は頬を赤く染めて、自ら身体を寄せて指を口へ運んだ。
 女は拒みつつも、すぐさま足を開いた。
 女は。
「……あの」
 アースが、困惑気味に振り返る。大きな瞳に自身が映り、ベシュタは躊躇した。穢れなく真っ直ぐな瞳、色恋ごとの熱に浮かされていないアースの普段の瞳。それだけでもベシュタに衝撃を与えるのは十分だった、しかし。
「無知で申し訳ありません、”アイシテイル”って何ですか?」
 面食らった、まさかその単語を知らない者がいようとは。百戦錬磨のベシュタ予測が出来ず、硬直する。
 惑星を想像し、新たな領土を創り拡大する能力を所持している土の精霊。卑しき身分ながらも、特異な能力を所持し、女神に疎まれている娘。愛している、その単語を知らないなどとは有り得ないのではないだろうか。
 親に言われていないのか、幼子時代に言われるものではないだろうか。しかし、アースは両親から良く思われていないと確かに報告書に記載があった。そうなると言われていないだろう、しかし。
 土の精霊は、純潔が必須である。『愛しているとはいえ、異性と身体を重ねてはならない』と、一族で教えるものではないのだろうか。
 ベシュタは口ごもり、じっと見つめてくるアースに何も言えなかった。
 本来ならば、土の精霊は両親が愛する我が子にその旨を伝えるものである。ベシュタの解釈は何も間違ってはいない。しかし、アースは両親からそのことについて全く聞いていなかった。色恋事に関心をもたれては困るから、と教えていなかったことが仇になってしまった。
「……その人のことを、とても大事に想い、常にその人のことを考え、その人が笑顔で、幸せであれば良いと想い願うこと。それが”愛している”という感情だ」
 ようやくベシュタは声を搾り出した、よく口にする言葉だが、そんな感情は持ち合わせたことがない。それでもおそらくはそういう意味合いなので、アースに伝える。間違ってはいない筈だ、自分とは無縁の感情なだけでと言い聞かせた。
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