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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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きたきたきたきたきたきたきた。予定より進まなかったけど(><)

 翌朝、部屋から出てきたトリプトルは、仲睦まじく談笑しているアースとベシュタを目にした。舌打ちして再び部屋へ戻る、見たくなかった。
 揃いの腕輪をしている二人、急接近した二人。
 相手は光の精霊で、年齢も身長も地位も自分より上の男だった。主星からの依頼でやってきた、自分の存在を脅かす存在。神以下、高等な精霊達からの信頼も厚いと思われる男にどう立ち向かえば良いのだろう。
 知識豊富な男に、すっかりアースは懐いてしまった。腕の団栗の腕輪がその証拠だ、トリプトルはアースから揃いのものなど貰っていない。草木染なら受け取ったが、あれは皆にも渡している。ベシュタだけ、特別扱いだ。
 自分の非を正しに来たベシュタ、アースならば自分を信じ庇い、常に味方でいてくれると、そう思っていた。親しくするなど、想像もしていなかったことだった。
 トリプトルは唇を噛み締め、何度も怒りに打ち震えながら昨夜破壊したベッドを再び殴りつける。粉々に砕けて、原型を留めなくなるまで、打ち砕いた。
「裏切り者……裏切り者……」
 トリプトルの心を、今までに感じたことがない憎悪が蓋い尽くしていく。
聖なる炎に、黒い物体を投げ入れた。明るく照らし続けていた火は、黒い物体を焦がすたびに変色し、やがて漆黒の炎と変化してしまった。周囲を照らすのは、澱んだ光。一度汚れれば、浄化に時間がかかる。 
トリプトルは心に宿っていた恋愛感情が汚れていく事実を解っていても、それを止める方法を知らなかった。アースに自分の想いを伝え、聴いてもらえば……。
ベシュタと行動するアースを見ていることが辛い、オレと一緒にいて欲しい、出来れば他の誰とも仲良くしないで欲しい。ベシュタのことを嫌って欲しい、突っ撥ねて欲しい、「トリプトル以外は必要ない」と皆の前で言い放って欲しい。
好きになって欲しい、もっとオレの事を考えて欲しい、想って欲しい、一緒にいたいと願って欲しい、愛して欲しい、離れると辛いから永遠に居たいと離れたくないと、そう言って手を伸ばして欲しい。出来れば、惑星育成など破棄してこのまま二人で静かに暮らしたいと、その唇で告げて欲しい。
「オレは好きだよ、アースの事を考えているよ、想っているよ、一緒にいたいよ、愛しているよ、離れると辛いから永遠に居たいよ、一時も離れたくないから伸ばした手を掴んで引き寄せて抱き締めて、この腕の中に隠してしまうよ。惑星なんてどうでもいいじゃないか、二人で暮らせばよかっただけだ、ベシュタが現れるその前に。アースがオレと居たいと思ってくれていたのなら、何故あの時言ってくれなかった。薄桃色の濡れる唇、オレが口付けていたあの柔らかくて甘い唇、その唇で全てを捨ててオレを選ぶと、そう一言呟いてくれたら!」
 聴きたい、アースの声でそう聴いてみたい! 言って欲しい、どうしても言って欲しい!
 トリプトルは、血走った瞳で部屋から出た。アースとベシュタを引き離し、この腕に再び抱きながらどちらがアースに選ばれているのかはっきりさせたかった。玉砕覚悟だった。
 部屋を出て、二人を捜す。既にいなくなっていた為、階段を駆け下り家から飛び出す。
 ……聴こえたのは、アースの声だった。
「私は、この惑星スクルドを完成させなければなりません。その為に頑張ってきたのですから、全力を注ぎます。ベシュタ様、どうかお力添えを宜しくお願い致します。どうか、どうか」
 後姿の二人が数歩前に立っていた、どうやらその場所から惑星スクルドを見渡しているらしい。土、火、水、風の精霊四人が創り上げてきた惑星、加わった光の精霊の加護も得た、豊穣なる大地の惑星。
「安心しなさい、アース。何度も言っているだろう、私は君を“裏切らない”」
 ベシュタが、軽く振り返ると立ち尽くしていたトリプトルを見つめて嘲笑した。瞳を細めて、口元を歪めて、笑いを堪えながら笑って告げた。
 “裏切らない”明らかに、トリプトルに宛てた言葉だった。
 聴いたアースは安心したのか、肩を抱いてきたベシュタに身体を預ける。
 トリプトルの呼吸が止まる、小さく息を吸い込み、ヒュ、と妙な音が口から出た。
 深緑のベシュタの髪と、若緑のアースの髪。寄り添う二人、優秀な二人。
 震える脚で、トリプトルは家へと戻り、部屋に入っていく。目の前には、粉砕したベッド、ドアを閉めるとずるずるともたれたまま座り込み、虚無の瞳で宙を見つめる。半開きの唇から唾液が零れ、そこから乾いた声が出た。唾液を飲み込むことを忘れていた為、声を発しようとするたびに溺れたようにむせ返る。身体が痙攣する、焦点の合わない瞳で何かを探す、だらりと垂れた腕、時折震える脚、トリプトルは感情のコントロールが全く出来なくなっていた。
 脳裏に焼きついて離れない先程の言葉と映像が、心を支配する。
 アースは惑星を完成させたいのだから、それを破棄してまで自分を選ぶ気など全くない。最初から、自分は唯の協力者の一人だった。
 協力出来ず、アースに惚けていた自分を嫌悪し、新たにやってきた自分と似た能力を持ち、その全てを上回るベシュタに協力を申し出た。
 自然な事だ、アースの欲するものが能力の高い育成者だった。それだけのことだ。
 アースが言うわけがない、惑星を破棄して恋に生きるなどと言うわけがない。
 美しい土の精霊は、その魅惑を持って育成者を翻弄させ良い様にこき使うだけ。
 不要になれば代わりがいるから、問題はない。とってかえるだけのことだ。
 憎らしい憎らしい、失敗してしまえば良いのに!
 壊れてしまえ壊れてしまえ、こんな穢れた惑星など!
 返して欲しい返して欲しい、今までの時間を、無駄に費やした時間を!
 忘れさせて欲しい忘れさせて欲しい、抱いてしまった愛情を!
 苦しい苦しい、どうしたら助かる。
 納得できない納得できない、どうしてオレがこんな目に合った!
 裏切り者裏切り者、あの時の口付けは何だった!
 浅はかだった浅はかだった、所詮あれはただの欲の塊、醜い女!
 胸が焼け爛れた焼け爛れた、治す術を知らない!
 痛い痛い苦しい苦しい死にたい死にたい死にたくない死にたくない苛々する苛々する貶めたい貶めたい不幸になれ不幸になれ壊れてしまえ壊れてしまえ死んでしまえ死んでしまえ滅んでしまえ滅んでしまえ消えてしまえ消えてしまえ。
「痛い、苦しい、死にたくない、苛々する、陥れたい、不幸になれ、壊れろよ、死ねよ、滅べよ、消えろよ、鬱陶しい」
 トリプトルが、虚ろな瞳で天井を仰いだ。にんまりと、口元に笑みを浮かべる。引き攣った笑いを、楽しそうに発した。
「許さない許さない、裏切り者裏切り者、どうしてオレだけがこんな目に! ……こんな惑星滅べばいい、滅ぼしてやる」
 急に立ち上がったトリプトルの脳は妙に清清しく、明確に物事を判断出来た。自分が為すべきことが解ったからだ、心も晴れ晴れしている。
 深紅の聖なる炎は、漆黒へと堕ちた。けれどもそれに抗うことなく自然に受け入れたならば、しっくりと心に収まる。疑問など抱かず、過去を切り離し、炎はその闇を抱いたまま喉の奥で笑った。
 心が軽くなった、安らいだ、暖かなものに包まれた、平穏を感じた、全ての嫉妬と憎悪から解放された。
 部屋から出たところで、リュミに遭遇する。雰囲気が変わったトリプトルに不安を感じ、肌がぴりりと警戒した。鳥肌立つ肌を押さえながら、訝しげにリュミは話しかける。
「トリプトル? ……よかったら、剣の稽古してくれないかな」
「ごめんな、リュミ。急ぎの用事があるから、また今度」
 白々しいほどの爽やかな笑顔に、リュミが数歩後退する。人の笑顔でここまで嫌悪感を抱いたのは、初めてだった。行かせてはならない気がした、思わず腕を掴んで止める。が、掴んだ瞬間、高温がリュミの掌を襲う。小さく悲鳴を上げてその腕から手を離し、驚愕の瞳で掌を見つめる。まるで暖炉の中にあった石を触れたときのような熱と痛みを感じたが、掌は何も痕がなかった。だが、確実に痛みを受けていた。
 呆然と掌を見つめていたリュミに、再び笑いかけたトリプトルは去っていく。
 行き先は、主星アイブライト。……神の住まう場所。
 それでもまだ、トリプトルの心に僅かに何かが揺らめいていた。漆黒の炎の中で懸命に抗い続ける深紅の炎が、小さな蝋燭の火程度だが、生きていた。
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