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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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うぁ、遅れてます。
130504_010830.JPG左から
ミノル ⇒ アサギ ⇒ トモハル
 

 淡いピンク色のワンピースに、白のサマーニットを被り、控え目な花のネックレスをつける。白レースのカチュームに、お気に入りのハートが揺れるリングをつけて。足元は編み上げサンダル。
 ユキは鏡の前で何度も回転をした、入念なチェックである。バッグを何点か取り出して、服に合わせる。最後の二点で迷っていたが、瞳を細めて鏡と睨み合いようやく決定した。
 
「ふふ、楽しみ」

 小さく笑う。鏡の中の自分を見つめながら、うっとりと微笑むと優雅に回転した。スカートの裾を持ち、華麗に回って会釈する。綺麗なストレートの髪をふわり、とかき上げて小首を傾げた。

「うん、可愛いわ。大丈夫」

 大きく頷くと、家を飛び出した。胸が高鳴る、待ち望んだ瞬間がやって来る現実に、顔が思わず緩んでしまう。知らず早足になり、アサギの家へと向かった。チャイムを鳴らすと出てくるアサギ、思わずその容姿を品定めする。髪に赤いリボン、黄色のふわりとしたチュニックに、アイボリーの短パン、花のコサージュがついたグラディエーターサンダル。
 生足が魅惑的であるが、ユキはほくそ笑んだ。
 確かに、可愛らしい。魅力的である、きゅ、と細い足首に美脚、眩しい太腿は素晴らしい。だが、その服装よりも男受けする服装は自分であると確信した。アサギは女同士でならば受けが良さそうだが、今日はデートだ。
 鼻の穴を膨らませて、ユキは声高らかに挨拶をする。

「おはよう、アサギちゃん! 可愛い服だね」
「おはよう、ユキ。服ね、昨日までは赤のチェックのワンピースにしていたのだけど、さっき変えてみたんだ。寒くて」

 今日は曇りだ、だが日中なら気温が上がるだろうにとユキは思ったが口にも顔にも出さずに大きく頷く。

「うん、風邪をひいたら駄目だしね。それもとても可愛いよ! さ、行こっ」

 赤チェックのワンピで来られたら、危なかった……ユキはそう思いながら心の中でガッツポーズを取ると、何も知らないアサギの手をとって歩き出す。微笑んだアサギに、釣られて微笑み返した。

「映画の時間調べたよ、丁度良さそう」
「なら、見てからご飯食べようね。ふふ、楽しみ。アサギちゃんも嬉しいでしょ、ミノル君と二日間も一緒に居られて」
「うん! ユキ、ありがとう。私、ユキが親友でホントによかった。頼りになる……優しいし可愛いし、自慢の親友だよ」
「ふふふ、私も同じ事思っていたよ。さぁ、楽しもうね!」

 真っ直ぐに見つめてくるアサギに、ユキも笑顔で返した。笑顔だった、眩しいくらいの笑顔だった。
 その笑顔の裏に秘められた思いなど、アサギは知らず。純粋に嬉しくて、照れながら手を強く握る。握り返してきたユキに、再びアサギは微笑んだ。
 待ち合わせ場所には、ケンイチが到着している。ミノルの姿はまだなかった。
 片手を上げたケンイチにユキは走り出すと、近くまで行き嬉しそうに微笑む。後ろからそんな様子を見たアサギは、くすぐったい衝動に駆られて肩を竦める。旅の間に親しくなって、付き合い始めたという二人。ユキの嬉しそうな顔を見ているのは幸せだった、異性が苦手で大人しいユキだったが、ケンイチの前では普通にいられるらしい。
 似合いの二人だ、可愛らしいケンイチとユキである。初々しい、照れているような互いの会話が見ている者を和ませる。
 アサギは、ミノルの到着を待った。二人の様に、自然に会話が出来ればと思い軽く頬を染める。
 と。

「だーっ! ついてくるなよっ」
「見るだけ、見るだけ」

 聴き慣れた声に、アサギは振り返る。心底嫌そうな表情のミノルと、あっけらかんと笑っているトモハル、二人が並んで歩いて来ていた。素っ頓狂な声を上げたのはユキである、どうしてトモハルがいるのだろうか。これではWデートにならない。

「おっはよー! 映画だって? いいね! 俺は見に来ただけだからさ、気にしないで」

 にっこりと悪びれた様子もなく微笑んだトモハルに、ユキが安堵の溜息を漏らす。アサギは軽く会釈をして手を振った。照れているとしか思えない、赤面中のミノルの隣で、飄々と口笛を吹くトモハル。
 細身で比較的背の高いトモハルは、何を着ても様になる。顔もそこそこ良かったが、旅から帰宅して更に凛々しくなった。その隣で不貞腐れているミノルは、がしがしと頭をかいている。

「行こうぜ、コイツ暇なんだよ」
「うん、暇だよー。ミノル達みたく、彼女いないから」

 あはは、と笑って手を振るトモハルに赤面したミノルは、軽く小首傾げていたアサギの肩を抱き、反転させると歩き出す。口笛を吹いたトモハルは無視し、背中を押しながらアサギを誘導するとケンイチにぎこちなく手を上げた。
 すでにアサギの肩からも背からもミノルの手は消えていたが、それでもその箇所が熱い気がして、うっすらと微笑んだアサギ。ユキはトモハルに手を振り、ミノルを軽く一瞥するとケンイチの手を取り歩き出す。
 赤面しながらも、苦笑して手を握り返したケンイチを見ながら、ミノルは大きく身体を震わせた。
 自分には無理だ、と心の中で叫ぶ。隣ではアサギがこちらを見ているようで、視線が突き刺さる。手を握って欲しいのかもしれないが、無理だった。冷汗を流しながら、ミノルが歩き出すと、釣られて歩くアサギ。
 ユキが軽く振り返り、アサギとミノルを見た。ぎこちなく、距離を置いて歩く二人に知らず笑みを浮かべてしまう。それに気がつき、唇を噛むと姿勢を正してケンイチの手を強く握った。
 精一杯のおしゃれをしてきたと思われるケンイチは、特に際立っていないが似合っている可愛らしいキャラのTシャツに、細身のパンツをはいていた。背が低いが、バランスが良いので遠くからだと背が高く見える。
 ミノルも頑張ったのだろう、帽子を被っていた。見た目は悪くないのかもしれない。だが、やはりアサギとは不釣合いである。
 初々しい可愛らしいユキとケンイチ……の、後ろを歩くチグハグなミノルとアサギ。満足そうに鼻の穴を膨らませて、ユキは笑い出したいのを必死で堪えていた。
 待ち望んだ瞬間である、周囲はどう見ているだろうか。『あら可愛らしいカップルね』『でもその後ろのカップルは変よ』……そんな会話が聞こえてくる気がして、ユキは更に気を良くする。手に力がこもり、それに気がついたケンイチが慌てて握り返す。互いに顔を見合わせて、笑い合う。ちらりと盗み見したユキは、拍車かかる興奮に呼吸が停止しそうだった。
 会話もなく歩く二人、お洒落な美少女と、がさつそうな少年。どちらのカップルが似合っているかなど、一目瞭然である。
 勝った、と思った。これでアサギの相手がトモハルならば敗北していたのだが、願った通りミノルである。優越感に浸り、ユキは意気揚々とケンイチと歩き続ける。始終、笑顔で。
 ケンイチはそんな機嫌の良いユキを見ながら、嬉しく思った。出かけられるのが嬉しいのだろうと、素直に思った。そして親友のアサギも一緒であることが愉しいのだろうと、そう思っていた。背後を気にしていた為だ。優しい子だなと思った、親友が楽しめているのか気にかけているのだろうと思っていた。
 そう思うだろう、ケンイチの中でユキはそういう少女だ。いや、ケンイチだけでなく、アサギもそう思っている。トモハルも。
 ミノルだけは興味がなかったので、そうは思っていなかった。気まずくて、無意味にポケットに手を突っ込み歩くミノルは、視線を正面に集中していた。その為様子を窺うユキに、不信感を抱いたのである。最初は、心配しているのだろうと思った。アサギとユキは親友である、それくらいは知っている。だが、ユキの笑みを浮かべる表情に違和感を感じた。
 ユキの誤算である、ミノルはそこまで大雑把でも乱雑でもない。ただ、照れ屋でぶっきらぼうなだけだ。
 ユキの笑顔が何を意味するのかは知らなかった、解るはずもなかった。だが、ミノルはこう思ったのだ。
『アイツの笑顔、俺は苦手だ。アサギと全然違う、怖い』
 故に、ケンイチが心配になっていた。自分の事は棚に上げて、嫌な予感がしてきたミノルは更に口を噤む。隣でアサギは不思議そうにそんな様子のミノルを見上げる。
 親友であるユキとアサギ。”親友”とは、一体何だろうか。アサギは知らない、まだ、知らない。ユキの押し殺している心情を知らなかった。
 キィィィ、カトン……。
 歯車が廻る、が人混みの中でその音は掻き消えた。せめてこの場にトモハルかリョウが居たならば、聴こえていたのかもしれないのだが。アサギが一瞬、空を見上げた。だが、気のせいかと再びユキとケンイチを羨ましそうに見つめる。
 その前で、アサギの羨望の眼差しを背中に痛いほど浴びながら、ユキは爆笑していた。心の中で、発狂しそうな程。
 ようやく、アサギに勝てたのだと。 
 美少女で成績優秀、家も裕福、男女共に好かれて誰からも愛される夢のような女の子。そんな彼女の親友というポジションで、羨ましがられながらも、疎まれ、比較され。何をやっても超えることはできない、唯一ピアノだけは秀でているが、それはアサギがピアノを習っていないからだ。恐らく今からでも始めたらソツなくこなしてしまうだろう。
 そして異界で勇者になった、輝かしい親友。嫉みは膨れ上がる、憎悪となってユキの心を支配する。

「本当は嫌いだったの、ずっと」
「何か言った、ユキ?」

 思わず声に出ていた、ケンイチの不思議そうな声に慌ててユキは首を横に振るとなんでもないよ、と笑う。
 笑う。心の底から笑った、愉しくて笑った。後ろにいる親友に勝てた気がして、笑った。
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