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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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最終回。

 疲れきった表情でアリンは窓から外を見つめる、人に囲まれ朝から晩まで気が休まらない。ぼんやりとしていると、トロンの声が聴こえた。頭を軽く撫でられる。

「大丈夫か? 顔色が良くないな」
「少し、疲れました。私に姫君という大役など無理だったのです」

 軽い溜息を吐いたトロンは、アリンの頬に触れ優しく撫でた。
 アリンの瞳に光が戻ってから二ヵ月後、王宮から遣いがやって来た。国王に跡継ぎがいないことは知っていたのだが、姫が行方不明になっているとは初めて聴いた。瞳が不自由な緑の髪の娘で、産まれて直ぐに何者かに誘拐されてしまった……とのことだ。アリンがその姫である確証など全くないのだが、美しさに惹かれてなのか断固として譲らなかった王の遣い達。
 結局折れて、王宮へと出向くことになったのだがその時の条件としてトロンと義父も共に行くこととした。渋った遣いの者達だったが、そればかりはアリンも引かない。
 結局、トロンと義父と共に王宮へと引っ越した。姫として招かれ、不慣れな対応に戸惑いながら窮屈な生活を強いられた。美しい洋服に美味しい食事など、アリンには不要だった。街の片隅での質素な生活が懐かしく、泣きたくなるのを堪えながらそれでもトロンに支えられて必死に教育を受ける。文字の読み書きも習ったのだが、驚くほど学習能力が高く、教えたものは何でもこなすアリンに皆溜息を漏らす。
 父であるらしい国王にも謁見した、涙を流しながら抱き締めてきた王に困惑しながらも、このまま姫として生活することを誓う。裕福な暮らしに慣れたのではない、ただやりたいことが見つからなかったので自分を必要としている国王の傍に居ようと思った。それだけだ。
 何よりこの場所ならば、トラリオンに出会うこともないだろう。
 王宮へ来て、様々な異性を見たのだがトラリオンを彷彿とさせる人はいなかった。髪と瞳の色はトロンが似ているが、そういうわけではない。あの声が好きだった、多少強引で意地悪そうなあの声が。最初は声しか知らなかった、やがてシダと嘘をついて会ってくれたトラリオンの髪や頬に触れて、感触を知った。さらさらと流れる短髪、柔らかな頬と、熱い胸板、脈打つ首筋。
 時折、トラリオンが、いや、シダが呼ぶ声が聴こえた気がしてアリンは唇を噛む。シダと共に居られて、本当に愉しかった、幸せだった。しかし、シダはいない。

「最初から私の瞳が見えていたら。トラリオンは一緒に遊んでくれたのでしょうか、シダの様に振舞って……くれませんよね」

 鏡に映る姿を観ながら、瞳を忌々しく見つめた。見えてよかったのか、悪かったのか。嘘でもよかったからトラリオンの傍に居たかった……考えるたびに苦笑してアリンは腕に爪を立てる。
 忘れなくても良いだろうが、思い出すと胸が痛い。あの日観たトラリオンの自分を蔑む視線が、身体中に突き刺さる。
 とても、自分に愛を囁いてくれていたシダと同一人物とは思えなかった。だが、この王宮へ来て人間は嘘をつくものだと知った。お世辞を並べ立てて、媚び諂う者達もいるのだと知った。
 本心で対等に会話してくれる人など、トロンと義父のみだった。見ているうちに、やはりトラリオンもシダを演じていただけなのだと、理解し始めた。心の何処かで、信じていた。シダという人物は、確かにそこに存在したのだと。
 自分を愛していると言ってくれた恋人は、間違いなく居たのだと。
 だが、王宮で思考が麻痺してしまった。どれが真実で嘘なのか、判別が出来なくなってきた。人は、偽ることが出来る。目的の為にならば、他人を騙す。
 
「トラリオンは。賭けをしていたのでしょうか、いつ、正体が気付かれるかとか。それとも、知らずに貴方に溺れる私を皆で嗤って見る事が愉しかったのでしょうか。……私は」

 思い出す度に身体が震える、暖かなトラリオンの体温と、心地よい香りに泣きたくなる。
 一人、自室に籠もって窓際で溜息を吐き続けたアリンに、懐かしい香りが漂ってきた。思わず顔を上げる、ふと、窓を覗き込んだ。

「アリン!」

 唖然と、声の主を見た。トラリオンだった、窓から入ってきてアリンの口を塞ぐと大きく息をしながら片手で汗を拭う。状況が飲み込めず、脳内で光が反射した。

「会えてよかった……。どうしても、伝えたいことがあって。悲鳴を上げずに、聴いて欲しい」

 ゆっくりと、口から手が外される。半開きのアリンの唇にそっと指を這わせて、トラリオンはそのまま腰に手を回すと思い切り抱き締めた。硬直したアリンの身体を、痛いほどに強く抱き締める。時折その身体が軽く仰け反り、唇から吐息が零れた。苦しいのか、それとも心地良いのか。

「会いたかった、捜してたんだ。姿が見えなくなって気が狂いそうだった、どうか、真実を聴いて欲しい」

 震えているトラリオンの身体、懐かしいシダの香り。森の中で抱き締められた、あの時と全く同じだった。心地良い温度、痛いくらいの力強さ、知らずアリンの瞳から涙が零れた。思わず、腕を背に回しそうになった。が、慌てて引っ込める。
 嘘なのか、真実なのか。わざわざここまで来て嘘をつく必要などあるだろうか? ないとは思うが真意が判らない。

「愛してる、最初に見たときからずっと、気になって、気になって、焦がれて焦がれて、それで」

 嘘、と唇を開きかけたが、足音に我に返った。トラリオンの腕の中で振り返り、目を見開く。数人の男達だった、顔を布で隠しているので誰かは解らない。
 意外そうに口笛を鳴らした一人の男が、すらりと腰から剣を引き抜いた。反射的にトラリオンがアリンを背に隠して前に立つ。

「運がいいな、殺人犯が居合わせるなんて」

 アリンは意味が解らなかった、だがトラリオンは理解した。この者達はアリンを暗殺に来た者達で、その犯人に偶然居合わせた自分が罪を着せられるのだろうと。瞳しか見えないが、皆澱んだ瞳をしている。

「見つかった姫様が邪魔、ってこと」

 トラリオンの指摘に、見事だとばかりに嗤った男達は、それならば話は早いと二人ににじり寄る。

「この国に姫が産まれた際に、誘拐し森へ捨てた。国王は体が悪く、二度と子を成せないだろう」
「つまり、王位を狙う誰かの仕業だと。姫が生きていて見つかって……夢が崩れ去ったから再び殺すことにしたって?」

 その台詞に素直に頷いた男達は、剣を振り被る。舌打ちしたトラリオンは必死に突破口探した、が、こちらは丸腰だ。思わずアリンの手を握る、まだ、想いを明確に伝えていないがこの状況ではどうにもならない。
 アリンはここで殺され、その犯人に仕立て上げられて自分は生き地獄を味わうのだろう。それでも、最期に会えてよかったとトラリオンは思った。

「シダはオレ。オレもシダ。……シダの想いはオレの想い」

 そう呟き、軽くアリンを見つめる。と、大きく口を開いたアリンが悲鳴を上げた。

「曲者ですっ、誰か、誰かーっ!」

 腹から声を出した、出しながらトラリオンの衣服を思い切り掴んで後ろへ下がらせると自分が前に進み出る。

「行ってください、トラリオン」

 突き飛ばす、必死にトラリオンを逃がそうと窓へと誘導した。窓からやって来たのだから、戻ることも出来るだろう……。
 人払いはしてあったが、想像以上の大声に焦った男の一人が剣を振り下ろす。逃げもせず、ただそれを見据えて受け入れたアリンの身体から、血飛沫が舞った。唖然と、それをトラリオンが見つめる。肩から剣は力任せに胸辺りまで振り下ろされた、絶叫してアリンの身体を引き寄せたトラリオンは、ただ叫びながら虚ろな瞳で宙を観ている瞳を覗き込む。

「も、こ……で」
「しっかりしろ! アリン、アリン!?」

 夢を観た。
 血は繋がっていないが、大切な義父と兄であるトロンと暮らしていたアリンは、ある日街で一人の少年に出会う。トラリオン、と名乗った彼は最初こそ苛めてきたものの、世話を焼いてくれて必ず傍にいてくれた。ぶっきらぼうだが、優しい人だった。
 彼に惹かれたアリンは、目が見えればと思った。そうしたら迷惑をかけることがないのに、と思った。
 やがて治療薬が見つかり、それを服用したアリンの瞳に光が戻る。
 特に大したことはない、ただ、街の片隅で視力が回復したアリンは、いつしかトラリオンと婚約し、幸せな家庭を築いていた。

 そんな、夢を観た。他愛のない、それでいて酷く幸せな夢だった。薄れ逝く意識の中で、鬼のような形相で駆け込んできたトロンが、暗殺者達を一掃していた。トロンと共に、二人の男性も応戦していた、初めて見る顔だったが何処かで観たような二人だった。

「もし、言葉が唇から零れなければ。瞳に光があればと口にしなければ、シダは今でも隣に居てくれましたか」 

 最期にアリンはそう呟いた、泣きながら自分を覗き込んでいるトラリオンが目の前にいることなど、知らず。そのまま息を引き取った。腕に抱かれて、温もりだけはなんとなく感じながら。微かに、微笑んで。

『あるところに、盲目の美しい娘がおりました。特に不自由なく義父と義兄を暮らしておりましたが、街に出たときに苛めにあってしまいました。毛色が違う人種は、矢面に立たされてしまいます。それでも、本当は娘の美しさに見惚れた少年達が照れ隠しで苛めていただけでした。
 やがて、その中の一人が自分を偽って娘と接触しました。森の中で愛を育む二人でしたが、娘は彼を知った時から”盲目であること”を恥じ、光を欲しました。
 薬を手にし、瞳に光が戻った時、知ってはならなかった事実を知りそれを呪った娘は。運命に翻弄されて剣の前に倒れました』

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