別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
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完結間近、予定は今月中です。
貰った小瓶の形を探るように、掌に神経を集中させる。本物だろうか、そんな薬がこの世に存在するのだろうか。
戻ってきたトロンに口を開きかけ、言葉を飲み込んだ。
「どうした?」
「い、いえ。何も」
言う事が出来なかった、知らず顔が強張ってしまう。告げれば、この薬を飲むことが出来なくなるだろう。用心深いトロンのことだ、自分を心配してこの薬が安全なものかどうか判断するまで、飲ませないに違いない。飲みたいという欲求が、小瓶に触れていると溢れてくる。
アリンは、人を疑う事を知らない。平気で騙す人間を知らない。
薬はほぼ間違いなく本物だろうが、そうであるならばそれ相応の金銭を支払わなければならないのではないのか。
そこが気がかりだった。貰ってしまって本当によかったのだろうか、と唇を噛む。
これを飲めば、視界に光が映る。今まで見えなかった何かが、全て映る。
シダと共に何処へでも行く事が出来る、トリプトルにも邪険に扱われることもないだろう。トロンも喜んでくれるに違いない、誰にも迷惑をかけないだろう。
トロンと供に菓子を食べながら、口内に広がる甘い味を舌で転がす。
手を繋いで帰宅し、普段通りに夕飯の支度を手伝いながら、アリンはこっそり部屋に置いてきた小瓶の事を考えていた。飲むべきか、飲まないべきか。食事しながら談笑し、それでも意識は小瓶に向かう。
ようやく一人きりになり、自室に戻ってドアを閉めると軽く溜息を吐いた。瞳を閉じる、深呼吸をして位置を覚えているテーブルへと足を進める。テーブルの上に手を伸ばし、ゆっくりと動かせば指が何かに触れた。そっと掌で包み込み持ち上げると、形を確認する。蓋を取る。瓶を逆さまにして、片方の掌で中身を受け取った。
掌の中には、球体が二つ。直径5㎜程度だ、アリンは迷わずそれを口へ運んだ。放り投げて、唾液を口内に溜め込むと飲み込む。喉に違和感を感じ、慌ててアリンは喉を手で押さえた。咳込む。
消えない違和感に焦燥感に駆られ、部屋を飛び出した。壁に手をついて進み、体が覚えている廊下を進む。水がめから、水をすくって夢中で飲み込んだ。ようやく喉の違和感が消えた気がした。
荒い呼吸でアリンは口元を拭い、微かに震える身体をそっと抱き締めた。腕を強く握る、爪を立てる。震える足で自室へ戻ると、ベッドに倒れこみそのまま瞳を閉じる。
身体が、重かった。だるかった、動くことが出来なかった。うつ伏せになったまま、アリンは眠りに落ちて行く。
翌朝、鳥の鳴き声で目が覚めたアリンは、そっと瞳を開いた。眩い光が眼球に降り注ぐ、小さく悲鳴を上げて瞳を閉じた。
思わず、シーツを掴む。恐る恐る、再び瞳を開く。目の前に、何かが見えた。
「え?」
手を動かすと、目の前のものが動く。意識して指を動かすと、目の前のものが動く。
「……手」
指をゆっくりと、折り曲げた。目の前のものが、折れ曲がっていく。何度もそれを眺めていた。
上半身を起こし、周囲に瞳を走らせる。手を伸ばして触れて感触を確認しながら、それが何かを確かめた。
「見え……てる。見えてる!」
テーブルに触れながらそう叫んだアリンは、無我夢中でドアを開いた。視力に頼らず、感覚で進む。廊下を走り、そこでようやくアリンは見た。
「えっと、トロンお兄様?」
「おはようアリン。どうした、慌てて?」
「トロン、お兄様ですね?」
「ん?」
近寄ってきたトロンが、首を傾げアリンの頬に触れる。思わずその手に触れたアリンは、興奮して声を発した。
「あの、あの! 目が見えるようになったのです! 見えます、トロンお兄様が見えます!」
「なんだって?」
瞳を丸くしたトロンと、笑い出すアリン。時間をかけて事情を説明すると、案の定トロンは顔を顰めた。
「結果的に良かったが、心配だからオレに相談して欲しかった」
「ごめんなさい……でも、見えるようになったから! トロンお兄様、色々教えてくださいな!」
すっかり瞳に映るものに夢中になったアリンは、トロンの苦言をものともせず、衣服を引っ張り様々なものに興味を示した。1つ1つ説明し、駆け回るアリンを見てようやくトロンも微笑する。副作用が出ないかが心配だった、盲目が治る治療薬など、聴いたことがなかったからだ。トロンとて何もしなかったわけではない、街で薬師を訪ね歩きアリンの話をしていたのだ。
が、皆口を揃えて『盲目を治す薬はない』と。
控え目に微笑んでいた気がするアリンだが、今はどうだろうか。心の底から笑っているようで、瞳から光が零れ落ちているようで。杞憂かと、トロンは髪をかき上げる。アリンは一層美しくなった、振り返って見つめ返す瞳が、いじらしい。
「これで、シダと一緒に遊べる」
アリンは、小さく呟いた。喜んでもらえるだろうと、思っていた。早く街へ行きたかったので、トロンを急かす。苦笑しながらも早目に支度し、二人は街を目指した。森の木々や、顔を見せる鳥を眺めながらアリンは上気した頬のまま歩き続ける。
心が躍った。視界に飛び込む全てのものが美しく感じられた、愛おしく感じられた。眩い世界は、想像以上だった。
青い空に浮かぶ、白い雲。その色彩が心を揺さ振る。森の木々のどれとして同じ色ではない、風に揺れている緑色した葉達は見ていて飽きなかった。鮮やかな色で造られているこの世界が、愛おしい。
公園に到着し、手を振ってトロンと別れると早速売り込みを開始する。いつもはただ、静かに買い手を待つだけだったが瞳が見えるので、薬草を売ることにも積極的になれた。直ぐ様完売し、意気揚々とベンチに腰掛けて一息つく。
シダを待っていた。瞳が見えるので、いつもの場所まで先に行こうかとも思ったが待っていた。
と、突然背中を突き飛ばされ、ベンチから地面に倒れこみ悲鳴を上げる。
後方から下卑た笑い声が聴こえた、呻きながらゆっくりと腕に力を入れて上半身を起こすと恐る恐る振り返る。
そこに立っていたのは、トロンと似たような髪色の少年だ。何人かいたのだが、中央に立っていたその人物こそが、トラリオンであると直ぐに気がつく。
綺麗な人だ、と思った。歪んだ顔して自分を見ているのだが、整った顔立ちだと思った。
しかし、その美しい顔が歪んでいる。腹を抱えて笑っている。笑うにも種類があるだろう、嫌な感じに笑うトリプトルに肩を竦めるしかない。怖いと思ってしまった、その表情で今まで見下ろされていたのかと思うと身体が震える。
トラリオンを筆頭に、少年達は指差して笑っていた。悪意を感じるその声と笑みが怖くて、アリンは知らず後退する。まだ自分を見て笑い転げている少年達に、唇を噛んだ。身体が自然と震えてしまう、手を伸ばされると小さく悲鳴を上げて後ずさる。
「シダ。……助けて」
小さく呟いたアリンは、夢中で立ち上がると感覚を頼りに走り出す。行き先は森だ、一先ずあそこでシダを待とうと思ったのだ。この場に居たくなかった、見えなかったから今までいられたが、あんな悪意に満ち溢れた表情など知らない。
シダに会いたかった、彼ならば優しく抱き締めて思い描いている通りの笑顔を向けてくれるに違いない。……そう願って、必死に走る。従兄弟のトラリオンが怖い、などと告げたらシダは怒るだろうか?
二人の森、常にここで座って語り合っている場所。アリンは息を切らせてその場に立ち尽くしていた。早くシダに来て欲しいと願って。
戻ってきたトロンに口を開きかけ、言葉を飲み込んだ。
「どうした?」
「い、いえ。何も」
言う事が出来なかった、知らず顔が強張ってしまう。告げれば、この薬を飲むことが出来なくなるだろう。用心深いトロンのことだ、自分を心配してこの薬が安全なものかどうか判断するまで、飲ませないに違いない。飲みたいという欲求が、小瓶に触れていると溢れてくる。
アリンは、人を疑う事を知らない。平気で騙す人間を知らない。
薬はほぼ間違いなく本物だろうが、そうであるならばそれ相応の金銭を支払わなければならないのではないのか。
そこが気がかりだった。貰ってしまって本当によかったのだろうか、と唇を噛む。
これを飲めば、視界に光が映る。今まで見えなかった何かが、全て映る。
シダと共に何処へでも行く事が出来る、トリプトルにも邪険に扱われることもないだろう。トロンも喜んでくれるに違いない、誰にも迷惑をかけないだろう。
トロンと供に菓子を食べながら、口内に広がる甘い味を舌で転がす。
手を繋いで帰宅し、普段通りに夕飯の支度を手伝いながら、アリンはこっそり部屋に置いてきた小瓶の事を考えていた。飲むべきか、飲まないべきか。食事しながら談笑し、それでも意識は小瓶に向かう。
ようやく一人きりになり、自室に戻ってドアを閉めると軽く溜息を吐いた。瞳を閉じる、深呼吸をして位置を覚えているテーブルへと足を進める。テーブルの上に手を伸ばし、ゆっくりと動かせば指が何かに触れた。そっと掌で包み込み持ち上げると、形を確認する。蓋を取る。瓶を逆さまにして、片方の掌で中身を受け取った。
掌の中には、球体が二つ。直径5㎜程度だ、アリンは迷わずそれを口へ運んだ。放り投げて、唾液を口内に溜め込むと飲み込む。喉に違和感を感じ、慌ててアリンは喉を手で押さえた。咳込む。
消えない違和感に焦燥感に駆られ、部屋を飛び出した。壁に手をついて進み、体が覚えている廊下を進む。水がめから、水をすくって夢中で飲み込んだ。ようやく喉の違和感が消えた気がした。
荒い呼吸でアリンは口元を拭い、微かに震える身体をそっと抱き締めた。腕を強く握る、爪を立てる。震える足で自室へ戻ると、ベッドに倒れこみそのまま瞳を閉じる。
身体が、重かった。だるかった、動くことが出来なかった。うつ伏せになったまま、アリンは眠りに落ちて行く。
翌朝、鳥の鳴き声で目が覚めたアリンは、そっと瞳を開いた。眩い光が眼球に降り注ぐ、小さく悲鳴を上げて瞳を閉じた。
思わず、シーツを掴む。恐る恐る、再び瞳を開く。目の前に、何かが見えた。
「え?」
手を動かすと、目の前のものが動く。意識して指を動かすと、目の前のものが動く。
「……手」
指をゆっくりと、折り曲げた。目の前のものが、折れ曲がっていく。何度もそれを眺めていた。
上半身を起こし、周囲に瞳を走らせる。手を伸ばして触れて感触を確認しながら、それが何かを確かめた。
「見え……てる。見えてる!」
テーブルに触れながらそう叫んだアリンは、無我夢中でドアを開いた。視力に頼らず、感覚で進む。廊下を走り、そこでようやくアリンは見た。
「えっと、トロンお兄様?」
「おはようアリン。どうした、慌てて?」
「トロン、お兄様ですね?」
「ん?」
近寄ってきたトロンが、首を傾げアリンの頬に触れる。思わずその手に触れたアリンは、興奮して声を発した。
「あの、あの! 目が見えるようになったのです! 見えます、トロンお兄様が見えます!」
「なんだって?」
瞳を丸くしたトロンと、笑い出すアリン。時間をかけて事情を説明すると、案の定トロンは顔を顰めた。
「結果的に良かったが、心配だからオレに相談して欲しかった」
「ごめんなさい……でも、見えるようになったから! トロンお兄様、色々教えてくださいな!」
すっかり瞳に映るものに夢中になったアリンは、トロンの苦言をものともせず、衣服を引っ張り様々なものに興味を示した。1つ1つ説明し、駆け回るアリンを見てようやくトロンも微笑する。副作用が出ないかが心配だった、盲目が治る治療薬など、聴いたことがなかったからだ。トロンとて何もしなかったわけではない、街で薬師を訪ね歩きアリンの話をしていたのだ。
が、皆口を揃えて『盲目を治す薬はない』と。
控え目に微笑んでいた気がするアリンだが、今はどうだろうか。心の底から笑っているようで、瞳から光が零れ落ちているようで。杞憂かと、トロンは髪をかき上げる。アリンは一層美しくなった、振り返って見つめ返す瞳が、いじらしい。
「これで、シダと一緒に遊べる」
アリンは、小さく呟いた。喜んでもらえるだろうと、思っていた。早く街へ行きたかったので、トロンを急かす。苦笑しながらも早目に支度し、二人は街を目指した。森の木々や、顔を見せる鳥を眺めながらアリンは上気した頬のまま歩き続ける。
心が躍った。視界に飛び込む全てのものが美しく感じられた、愛おしく感じられた。眩い世界は、想像以上だった。
青い空に浮かぶ、白い雲。その色彩が心を揺さ振る。森の木々のどれとして同じ色ではない、風に揺れている緑色した葉達は見ていて飽きなかった。鮮やかな色で造られているこの世界が、愛おしい。
公園に到着し、手を振ってトロンと別れると早速売り込みを開始する。いつもはただ、静かに買い手を待つだけだったが瞳が見えるので、薬草を売ることにも積極的になれた。直ぐ様完売し、意気揚々とベンチに腰掛けて一息つく。
シダを待っていた。瞳が見えるので、いつもの場所まで先に行こうかとも思ったが待っていた。
と、突然背中を突き飛ばされ、ベンチから地面に倒れこみ悲鳴を上げる。
後方から下卑た笑い声が聴こえた、呻きながらゆっくりと腕に力を入れて上半身を起こすと恐る恐る振り返る。
そこに立っていたのは、トロンと似たような髪色の少年だ。何人かいたのだが、中央に立っていたその人物こそが、トラリオンであると直ぐに気がつく。
綺麗な人だ、と思った。歪んだ顔して自分を見ているのだが、整った顔立ちだと思った。
しかし、その美しい顔が歪んでいる。腹を抱えて笑っている。笑うにも種類があるだろう、嫌な感じに笑うトリプトルに肩を竦めるしかない。怖いと思ってしまった、その表情で今まで見下ろされていたのかと思うと身体が震える。
トラリオンを筆頭に、少年達は指差して笑っていた。悪意を感じるその声と笑みが怖くて、アリンは知らず後退する。まだ自分を見て笑い転げている少年達に、唇を噛んだ。身体が自然と震えてしまう、手を伸ばされると小さく悲鳴を上げて後ずさる。
「シダ。……助けて」
小さく呟いたアリンは、夢中で立ち上がると感覚を頼りに走り出す。行き先は森だ、一先ずあそこでシダを待とうと思ったのだ。この場に居たくなかった、見えなかったから今までいられたが、あんな悪意に満ち溢れた表情など知らない。
シダに会いたかった、彼ならば優しく抱き締めて思い描いている通りの笑顔を向けてくれるに違いない。……そう願って、必死に走る。従兄弟のトラリオンが怖い、などと告げたらシダは怒るだろうか?
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