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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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よいしょー




  トビィは薄く微笑み、報告を聞いていた。
『ディアスに金髪碧眼の容姿端麗な歌姫が現れた』
 該当者は一人きり、ガーベラのことだろう。惑星クレオで吟遊詩人といえば、大体は男だった。女というだけで人目を惹くには十分だったのだが、見目麗しく、声が透き通る高音で視覚、聴力共に忘れられないという。また、詞も聴き慣れない雰囲気を醸し出しており、何もかもが興味を誘うのだ。
 トビィは、アサギを連れて物陰からガーベラの様子を見ることにした。
 日中は公園で、日が暮れると酒場で歌うというガーベラに合わせて、昼に向かう。二人が到着した時には、すでに公園には人が集まっていた。毎日詠っているというのに、集客できるというのは大したものである。こっそりと大木の陰に隠れて、屋台が出ていたので菓子を購入して食べながら聴くことにした。便乗しようと、公園には多々屋台が出始めていたのだ。

「ほら、菓子を買ってきた。甘い香りがするだろ? アーモンドを炒って、砂糖をまぶしてある。お食べ」
「トビィお兄様、いただきます! とても香ばしいですね」

 アサギは買ってきて貰った菓子を口に含み、直様笑みを零す。トビィも一撮み、口に放り込んだ。カリッと音が響き渡る、互いに顔を見合わせて微笑む。
 そうこうしているうちに、歓声が上がった、口笛も鳴った。
 大木から覗くと、ガーベラが歩いてきたところだ。衣装は華美なものではなく、漆黒のシンプルなロングワンピースだ、暖かそうなショールを羽織っている。堂々と真正面を向き、軽く笑みを浮かべて歩いてくると、樹の前に立ち深く首を垂れた。美しい姿勢だ、育ちの良い娘だと噂されていることも頷けるとトビィは思った。
 顔を上げたガーベラは、ゆっくりと唇を開く。

「浅葱色した綺麗な花が咲き誇る
 不思議な色合い 幻想の扉
 触れたくとも触れられない 魅惑的な異界の花
 触れた者には幸福有りと 広がる噂に皆奔放する
 けれども花は見つからない たった一輪の花を探し
 人々は滑稽に駆け巡った

 焦がれて欲する私の楽園
 浅葱色した花と共に その花の隣に芽吹きましょう
 そこで咲きましょう 永遠に咲き誇りましょう
 勇気を下さい そこで咲き誇れる勇気を下さい
 摑めない空虚な花ではなく 誰からも触れられる花を目指しましょう

 所詮は御伽噺 手にした者など一人もおらず」

 ”アサギ”二人は顔を見合わせた、アサギと聴こえたのは間違いではない。故意に入れたのか語呂が良くて入れたのか、ガーベラの唇からその単語が漏れた。
 アサギは、自分の名が詩に入っており無邪気に喜んでいる。しかし、トビィは些か不服そうに瞳を細めてガーベラを見つめた。故意に入れたとしたならば、不愉快極まりない内容にしか聴こえない。
 人に囲まれているガーベラを残し、挨拶したいと言ったアサギを説き伏せてトビィはそのまま踵を返した。ガーベラの詩は、数曲続く様子だったが評判さえ解ればよかった。
 娼婦ガーベラは、惑星を移動し歌姫となる為に順調に歩み始めたようだ。歌声に心酔しているアサギの髪を撫でながら軽く溜息を吐いたトビィは、何か心に引っかかるものを感じつつも特に先程の詩について、ガーベラに訊ねる事はなかった。

 キィィィ、カトン。

「あのね、トランシス。今日は綺麗な詩を聴きに行かない? こっそりと」
「こっそりと詩を? どういうこと?」

 勇者アサギの恋人は、五つ年上のトランシス、という。紫銀の髪が目を惹く、目元が幼いが整った顔立ちをしている。惑星マクディの出身で、二人は神であるクレロに間柄を良く思われておらず、十日に一度のみ会うことが出来る仲だった。
 アサギは、トランシスにガーベラの話をした。特に詩に興味がないトランシスだったが、アサギが嬉しそうに話すので首を縦に振り、二人で聴きに行く事にしたのだ。こっそり、とアサギが言ったのはガーベラ自身が納得するまでは公に観に行かないほうがよい、とトビィに言われていたからである。確かに、勇者アサギという惑星クレロで有名な人物と親しいと発覚すれば、ガーベラの能力など二の次で注目を浴びてしまうだろう。それは避けねばならない。
 
「おっさん、ワインくれ。そのマスカットの上等なやつ」

 公園に出向き、増え続けている屋台でトランシスは最も高級なワインを一杯、購入した。そして二人で焼き菓子も購入し、大木の陰でガーベラを見守る。

「雪が降る 降って積もって凍えてしまった
 強かに雪は降り積もった 儚げに見えて牙を剥いた
 温かさで解ける雪 空から舞い降りる小さきもの

 けれども地面に降り積もった雪は 狡猾で
 緑の息吹を覆い隠す その純白で覆い隠す
 息が出来ぬようにと覆い被さり 緑の息吹を凍えさせる
 美しき白 けれども何れは泥に塗れて見苦しく

 雪が降る 降って積もって凍えた緑
 雪が解けるのを待ち侘びた 息を吹き返すために待ち侘びた
 暖かな太陽が降りそそぐのを 待ち侘びた
 凍えながらも 待ち侘びた」

 歌声に拍手をする周囲の人間を見ながら、トランシスは軽く溜息を吐く。下を見れば、アサギも嬉しそうにはしゃいで手を叩いていた。
 声は確かに聴きやすいけど、だからなんだ? ……トランシスはそう唇を動かすと、笑みを浮かべて佇んでいるガーベラを見つめる。アサギに聴いた、歳は同じだった。自分よりも年上の雰囲気を持っている女だな、と率直な意見を出したトランシスは興味なさそうに頭をかき、欠伸をする。
 トランシスは、アサギ以外に興味を持たない。これで詠っているのがアサギであったならば、大袈裟なほど褒め称え、拍手を降り注いだだろうに。
 ふと。
 トランシスとガーベラ、二人の視線が交差した。
 綺麗かもしれない、詩が上手いのかもしれない、けれどもどうでもいい。
 トビィに似ているけど、少し幼くて危うい感じのする男が立っている。
 二人は、互いにそんなことを思って数秒見つめ合った。

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