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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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マビル
トビィ+ナスタチューム
⇒ アサギ+ミノル



 神の指令を受け天界から飛び立った仲間達、報告を受けながら神クレロは破壊の姫君を崇める邪教徒の本拠地シポラを睨みつける。

「私は、彼女を護らねばならない」

 小さく呟き、一心不乱に見つめているその後方で、マグワートとソレルが静かに目配せした。クレロが勇者アサギを異常なまでに気遣っていることなど、皆気付いている。最初は自分の惑星の勇者だから、という理由だと思っていた。ただの贔屓だと。けれどもそれでは勇者トモハルが不憫だ、同じ惑星の勇者であるのに。別に理由があるのは確かだが、詳細は誰も聴いていない。
 ただ、”破壊の姫君に成り得る可能性がある”とは聴いた。それで警戒していると言われれば納得が出来るが、どうにも腑に落ちない。それだけではない何かを隠しているとしか、思えなかった。
 神が知りえている情報を隠す……それは、下々の者にとっては余計な疑心を膨れ上がらせるだけだ。クレロに忠告すべきだと、マグワートは思った。しかし。
 勇者アサギ。勇者の中で一際目立つ有能な美少女、魔王ですら虜にする美貌の持ち主。まさか、神すらも魅了し手中に収めたというのだろうか。
 マグワートは喉の奥で笑った、ならばクレロを監視せねばならない。神といえでも、もとはただの天界人。前神に回復能力の高さと、人柄を見込まれて神に即位した男だ。
 もし、魔王も神も手中に収めてしまうのならば危険人物はアサギになる。あながち破壊の姫君、であると言えなくもない。意図せずとも周囲を巻き込み”世界を崩壊に導く”のであれば納得が出来る。
 マグワートとて、人間界の世界について学んだ。一人の寵姫に溺れ、国を破滅へ追い込んだ王が少ないわけではない。天界人と人間の差は背の羽ではなく、欲の自制力だとマグワートは心得ている。しかし、結局男女の区別は人間と同じだ。欲の為に身体を重ねる天界人はいないが、もし惑わす能力を持つ者が現れたらならばそれは崩壊するのではないか。
 実際、勇者アサギと擦れ違う度に嬉しそうに会釈する天界人も少なくはない。笑顔で挨拶をするので釣られているのだと思っていたが、そうではなかった。勇者とはいえ、人間に警戒することなく接するものはともかく、敬意を表している者も出てきていた。見る度に背筋が凍る。しかもそれが、男だけではないというのが問題だ。マグワート自身も何故かアサギに関しては冷たくあしらう事が出来ず、思わず笑みを浮かべてしまう。警戒せねばならない筈なのに、どうしても出来ない。
 自分なりの憶測をまとめ、相方のソレルにそろそろ話すべきだと思ったマグワートは静かに監視を続けるクレロの背中を盗み見て決意した。

 クレロの指示通り、不服ながらも以前会ったことがある魔族サーラを探すトビィ。指示された場所へ出向く、位置的には神聖城クリストバルの南西だ。海に浮かぶ島を目指す、飛行出来ない水竜オフィーリアはクリストバル近海で待たせ、念の為護衛にデズデモーナを残し、トビィはクレシダと共に向かう。

「そういえば、魔界イヴァンで城が崩壊する直前に魔王アレクがナスタチュームがどうの、と話していた」

 トビィは瞳を細め海上に瞳を走らせる、アレクの言葉を思い出した。『アサギの御身が最優先だ。アレクセイへ一旦逃げ込む、こっちだ! ナスタチュームもこちらへ来る筈だ』『従兄弟だ、アサギ。ゆっくり紹介したかったが時間がない、ともかく』
 アレクセイ、が目指す魔族達が住んでいるらしい島の名前で、そこを治めている人物が魔王アレクの従兄弟であるナスタチューム。そこに魔族サーラが身を置いているということは解った。

「魔界イヴァン以外に魔族達が住まう場所があったことが、オレには驚きなんだが」

 黙ってクレシダは聴いている、こういう場合デズデモーナだと直様相槌をするか意見してくる。が、無言で聞き続けるのがクレシダだ、意見を問わない限り特に言葉を発する事はない。一人で考え込みたい時は、非常に有り難いことだ。

「主、あれでは?」

 クレシダの声と動いた首にトビィもそちらの方角を見つめる、島が見えてきた。

「位置的には一致だな、攻撃されても困るが」

 急降下し、島に近づくクレシダと念の為武器を構えるトビィ。島から特に攻撃の気配はなく、周囲を二度旋回したが何事もなかった。下りられる場所を探していると、人影がやって来る。深紅の長い髪は見間違えることはない、魔族のサーラだろう。

「こんにちは、トビィさん。歓迎致しますどうぞ、こちらへ」
「……久し振り、案内助かる」

 指し示された方向へとクレシダは舞い降りた、やって来た竜に魔族達が興味本位で集まってくる。その背から降りてきた人間のトビィを見て、感嘆の溜息を漏らす者もいた。見世物のようでなんとなく不愉快だったトビィは眉間に皺を寄せるが、サーラに深く会釈され小さく溜息を漏らす。解らないでもない、竜に人間などこの場に来ることなどないから物珍しいのだろう。

「お聞きしたい事があります、ナスタチューム様のもとへご案内致します」
「クレシダ、行って来る。水飲みたいか?」
「……そうですね、水を戴きたいと思います」

 丸くなり、休む体勢になっていたクレシダに声をかけ、トビィはサーラに目配せした。頷いたサーラは近くにいた魔族に指示を出す、水は届けられるだろう。
 友好的だとは思うが、念の為警戒するようにクレシダに伝えたかったがすでに瞳を閉じ眠りに入っている様子だった。よくもこの見知らぬ土地で眠ることが出来るなと苦笑し、肩を竦めて歩き出す。幼い魔族達が歓声を上げてクレシダに駆け寄っていた。

「今日は黒竜と水竜は一緒ではないのですか?」
「置いてきた、そう長くなることもないだろうと」
「本日は誰の指示で……いえ、一人しかいませんかね。トビィさん自ら此処へ足を運んでくださったとは考え難い、神からの指示、ですね」
「御名答、不本意だ」
「でしょうね、けれど適任者がトビィさんしかいないのですよ。人間からも、神からも、そして魔族からも信頼され一目置かれている存在など」
「そりゃお褒めの言葉どうも」

 前を歩くサーラについていくトビィは、顔を動かさず周囲の様子を窺った。何のことはない、普通の島だ。何かに備えて要塞を作っているわけではない、自給自足なのだろう農業に勤しんでいる魔族の姿しか見ていない。広場では子供達が笑いながら遊んでいる、長閑過ぎる光景だった。武器の精製に励むだの、訓練の指導だのそんな空気は微塵も漂っていなかった。

「基本的にここの魔族は争いごとが嫌いでして、とはいえ、腑抜けているわけではないのですよ」
「だろうな、あんたがその筆頭だろ」

 しれっ、と言い放ったトビィに苦笑したサーラ。目的の場所に到着すると、ナスタチュームとオークスが立ち上がって笑みを浮かべている。
 ナスタチュームの住まい、玄関先の小さなスペースに簡易な木陰が作ってあった。木々を縄で結び、布を張っただけのもの、木陰となった地面には小さなテーブルと布が敷いてある。

「ようこそ、ドラゴンナイト・トビィ。お座りください。私はナスタチューム、アレクから貴方の事も聴いていました」
「……そりゃどーも」

 嬉しくなさそうに眉を顰め、トビィは腰を下ろす。三人も腰を下ろし、サーラがテーブルの茶を差し出した。硝子の大きな器にミントの葉と氷が浮かぶ、そこからコップにスープでも注ぐかのようにして中の液体を入れた。勧められてその香りを楽しみ、トビィは口元へと運ぶ。紅茶だった、非常に良い香りがしている。

「洒落ているな、アサギが喜びそうだ」

 思わず漏らしたトビィ、ナスタチュームが唇を軽く噛んだ。

「トビィ殿、何点か質問しても良いでしょうか?」
「どうぞ、こちらも聴きたいことがある」

 喉を紅茶で潤してから、ナスタチュームは口を開いた。

「まず。魔界イヴァンで何がありましたか? アレクは……」
「簡潔に説明すると、魔王ミラボーは以前からこの惑星も手中にしたかったようで。アレクの恋人ロシファを喰らい、力を増幅させて魔界イヴァンを混沌に叩き落した。アレクはその際に命を落とした、看取ったのは魔王ハイだ。オレと親しかった魔族達も何人か犠牲になったが、辛うじて魔王ミラボーを倒したところで、神に天界に連れて行かれたので、今の魔界の現状はオレも知らない」

 オークスが口を開く。

「現在、魔界イヴァンでは復興が始まっております。生きながらえた魔族達が懸命に、ですが、やはり大惨事の前に魔界を飛び出してしまった魔族達も少なくはなく。人手不足が深刻な問題です。また、先導者がおりません、本来ならばアレク様の従兄弟であるナスタチューム様が仮といえども魔王に即位せねばならないのですが。象徴として、誰かを魔王にせねば皆も安心しないでしょうね」
「アレクの恋人、ロシファも遠くなりますが王家の血筋を引いておりました。アレクと子を成せば心強かったのですが、今となっては」

 意外なナスタチュームの発言にトビィは軽く目を開いた、ロシファが魔族との混血だとは聴いたことがあったが、まさか王族の魔族だったとは。

「ロシファの父は、アレクの叔父です。アレクが知っていたのかどうかは知りません、私も特に話しませんでしたし。まぁ、それはともかく。私の存在はすでに忘れられています、今更出て行ったところで誰も納得しないでしょう。余程トビィ殿が魔王として即位したほうが皆の信頼を得られそうです」
「無茶苦茶だな」
「それが現実です、魔王アレクの後継者が存在しないのが現在の魔界なのです。このままでは統率されない魔族により、目に余る行為が出始めるでしょうね。ここにいる魔族は争いを好まない者達です、ですが、イヴァンの魔族達は五分五分ですから。アレクが統治していたからこそ、特に大きな争いは起きませんでした。統率者は必須です」

 適任者が存在しない、このままではその立ち位置を巡り争いが起こるだろうとナスタチュームは指摘する。

「ので。現魔族達が知っており、かつ信頼し、ある程度の力を持つ者が必要なのです。アレクと親しかった人物ならば尚良いでしょう……該当者は、トビィ殿かもしくは勇者アサギ。魔族ではありませんが、皆が納得出来るのはあなた方です」

 思わずトビィは咳込んだ、まさか勇者アサギの名が飛び出すとは。そんなに魔族は人材不足なのか。だが確かに、スリザにアイセル、ホーチミンにサイゴンなど側近が死んでしまった。有能なアレクの部下など他に知らない。

「時にトビィ殿。破壊の姫君をご存知ですか?」

 混乱していたトビィに、畳み掛けるようにナスタチュームが話しかけた。一瞬硬直したトビィに小さく頷くと、返事を待たず続ける。

「数年前から各地に広まった邪教です。教祖は魔族ですね、崇める破壊の姫君とは類稀なる美しさを持つ、世界を一瞬にして葬り去れる能力を持つ者……」
「知っている、つい最近まで本拠地であるらしいシポラの監視に当たっていた」
「彼らが本格的に動き出したのは、勇者が異界から来た頃からです。ご存知でしたか? それまではただ、教徒を増やすのみでした」

 トビィが眉を潜める、気にせずナスタチュームは続けた。オークスが軽くナスタチュームを見る。

「アイセルをご存知ですね、彼の本当の職業は聞いていますか? 彼は予言家の末裔、代々魔族が繁栄するように占いで極秘に未来を指し示してきたのです。故に、アレクの側近として常に傍におりました。その予言家が最期に予言した未来こそ、時期魔王について。言葉を出したのはアイセルではありません、彼の親ですね。その予言を鵜呑みにするなれば、魔王に即位しなければならないのはトビィ殿ではなく、勇者アサギになります」
「……なんだって?」

 流石にアサギが関わってきては顔色を変えずにいられない、トビィは声を荒げた。

「一度、勇者アサギにお会いしたいのですが、機会を作っていただけませんか? 私からの話は以上になります。魔族達が落ち着いて暮らすことが出来る世の中を作るのがアレクの使命でした、従兄弟として自分が代わりに出来れば良いのですが、私では無理なのです。ならば魔王候補の傍で手伝うことが使命。……予言家が弾き出したその未来の魔王の件、今にして思えばアレクが志し半ばにして”いなくなる”からだったのでしょう。私達はてっきり、ロシファと婚約するので引退する為かと思っておりました。違ったのです、ここまではもしかしたらすでに運命という不可解なものに導かれてしまったのかもしれませんね」

 ナスタチュームを再度オークスは見つめる、視線には気付いていたが、顔を動かさずにトビィを見続けた。困惑気味に紅茶を飲むトビィは、暫し沈黙する。

「人間の勇者なのに、魔族を統治するのか?」

 絞り出した、それが精一杯だ。

「可笑しな話ですが、もしそうなれば……上手く行けば魔族と人間が共存できるきっかけに成り得るとは思います。上手く行けば、ですよ。仮に人間側が裏切り行為だと囃し立てたらそれまでです、ですがそうならない為にあなた方仲間がいるのではないかと仮定しました。仲間の中には、各国に顔が利くディアス市長の娘がいますね?」
「……都合が良すぎるな」
「えぇ、同感です。上手く行けばそれこそ夢にまで見た平穏な時代が来るでしょう、ですがあまりに出来すぎています。アレクすら信頼していた勇者アサギ、私もこの目で見てみたい。見て、それが確信かどうかを知りたいのです。何も彼女に魔界の全てを一存するわけではありません、一時だけでも皆の意欲の象徴になって戴きたいのです。予言は”次期魔王について”、期間に関しては言われておりませんから」

 空になったトビィのコップにサーラが紅茶を追加した、カラン、と氷同士がぶつかる音が妙に響く。

「アサギをつれてくることは特に問題ではないだろうが、魔王に即位となると、な。……一応こちらの意図を話しておくと、オレは神にここへ出向き、魔界イヴァンで何があったのか話すように言われた。そして”強力な仲間になる”だの、”仲間は多い方が良い”だの。まるで先に何かとの戦いが待っているような、それを知り得ているかのような口調だった。それが腑に落ちない」
「神が何か情報を得ているにも関わらず、情報提示していないと。ならばトビィ殿、ご足労ですが神には『信頼し、連携をとりたいと思います。しかし包み隠さず互いに知りえている情報を共有できる場合に限ります』とお伝えください。今、紙に書きますから」

 ナスタチュームは立ち上がると、室内へと入っていった。オークスが一礼しその後を追う。サーラは暢気に紅茶を啜りながら、瞳を閉じたままだった。疲れたようにトビィは首を鳴らすと、再び紅茶を空にする。

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