別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
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トビィ+ナスタチューム
アサギ+ミノル
マビル
アサギ+ミノル
マビル
室内に入り、慣れ親しんだ古めかしい木製の机に向かうと紙にペンを走らせたナスタチューム。後方から入ってきたオークスが控え目に発言した、明るい室内に声が響く。小声だが妙に透き通っていた。
「ナスタチューム様。彼……トビィ殿には破壊の姫君について話しても良いのでは? このままではこちらが隠蔽したことになってしまいます」
「いえ、今彼に伝えるのは得策ではないと思いました。神と対話し、神が信頼出来るのならば”神に”話します。意見が同じであるならば、トビィ殿に伝えるかどうかを神と相談しましょう。神が現在”トビィ殿に何かを隠している”可能性があります、ならばその意図を知りたい。不確かな情報を与え、彼を混乱させるのも気の毒です」
「ですが、彼は真実を知りたがるでしょう」
「……時が、来たら。全てが照らされます。まだ、その時ではありません。そもそも、勇者アサギが何者なのかが判明していないのです。魔王に一時即位する者なのか、破壊の姫君になる者なのか。敵なのか味方なのか、私が見極めましょう。……ですがアレクが信頼していたのです、味方でしょうね」
「私は一度お会いしましたが、不思議な方でした。勇者というよりは……こう、何といいますか、もっと別の何かに思えたのは事実です」
丁重に文字を紙に走らせ、一角獣の角で作ったナスタチュームの印を押す。インクが乾くのを待ってから、きっちりと紙を折り畳む。
「ともかく、まずは勇者アサギを。神が阻むかもしれませんが、私達は彼女に会わねばなりません」
ナスタチュームは静かにそう呟くと立ち上がり、トビィの元へと向かった。
地球の日本ではこの日、金曜日だった。ユキは習い事のピアノだったが、トモハル達は時間に余裕があったのでクレロに交信を試みる。天界を見学したい、と申し出ると難なく受理されたのでトモハル、ダイキ、ミノル、ケンイチは天界に来ていた。
クレロから全く音沙汰がなかったので痺れを切らしたのが本音なのだが、天界人に庭園を案内してもらったり、世界の出来事を記した書庫を覗いたりと非常に愉しい時間を過ごす。歓声を上げ、宙に浮いているらしい天界の内部を散策した。ここへ来たのは三度目なのだが、こうしてじっくり余裕を持って歩くのは初めてだ。羽のある天界人を不思議そうに眺め、物質が特定出来ない壁に触れてみる。
気軽な気持ちで来ていたのだが、こういう時くらいしか持てないからと、各々武器は所持していた。流石に地球では振り回せない勇者の剣、皆それを持っているとやはり興奮してくる。
しかし、トモハルは塾でケンイチは飲食店を経営している家の手伝い、ダイキは習い事の剣道へ行かねばならない時間になる。慌てて帰宅した三人を、ミノルは手を振って見送った。共に帰宅してもよかったのだが、勧められた茶菓子が非常に美味しかった為、一人でそれを食べる事にしたのだ。甘いものは苦手だったが、柔らかく軽い食感のシフォンケーキのようなそれはそこまで甘くない。出された茶が少し苦味があって、一緒に食べると丁度良い加減だ。
一人夢中で食べていたミノルの存在など知らず、アサギはその日もハイの墓参りに行く為天界に来ていた。この場所を経由せねばならないので、仕方がない。手には庭に咲いていた花を持っている。切花ではなく、植え替える為に掘り起こして鉢に入れて持って来た。マジョラム、白い花が可愛らしい、肉料理に使われるハーブである。
偶然だが、ハイの誕生花だ。
ハイの墓の近くにそれを植え、手を合わせ瞳を閉じれば涙が溢れ出す。数分、アサギはその場でただ耐えていた。後悔の念に押し潰されそうになる、何故、もっと早くに会いに行かなかったのか。その言葉が圧し掛かってくるのだ。
項垂れて天界に帰宅したアサギを、クレロが呼び止めた。毎日ハイの墓参りに通っていると耳にしたのだ、放ってはおけない。苦笑しながらアサギの肩に手を置くと、泣いていたであろう赤い瞳に心痛する。
「アサギ、ハイはもうあの場所にはいない。神である私が言うのもなんだが、魂というのは輪廻する。アサギが強く思っていることはハイとて、光栄だろう。だが、この世に留めてしまい、輪廻を妨げる可能性もある。そして自分を責め過ぎた、それではハイも心配するよ」
「……輪廻。引き止める……それは、避けなくては駄目ですよね」
ぽつり、と呟いたアサギに大きく頷いたクレロは、アサギの髪を撫でると背中を抱いて茶を勧める為に歩き出す。察したマグワートが、精神安定の効果のある茶を煎れる様に指示を近くの天界人に伝えた。
「私は共にいられないが、マグワートと茶でも飲んでいきなさい。落ち着いたら地球へお帰り」
アサギを落ち着ける場所へと誘導したクレロだが、五人も入れば窮屈な小部屋の茶室には、先客がいた。ミノルである、まだケーキを食べていたのだ。
アサギとミノル、唖然として見つめ合ったが慌てて視線を同時に逸らした。二人の件を知らないクレロは、アサギを席へと促す。
気まずそうに引き攣った笑みを浮かべたアサギと、その表情に一瞬イラつき舌打ちしたミノル。クレロが去り、二人きりになった小部屋には沈黙が訪れた。椅子に座ることなく、立っているアサギにミノルも声をかけられず、残りのケーキを食べつくすしかない。
ようやくマグワートが茶を運んできたので、二人は同時に安堵の溜息を吐いた。不思議そうに首を傾げるマグワートは、ミノルにも新しく茶を差し出す。三人になったので、ようやくアサギもぎこちなく席についた。静かに、湯気立つ茶を啜る。林檎のような香りが広がる茶を、ミノルも口にする。
「ごっそーさん。んじゃ俺、帰る」
三人いるとはいえ、その空気に耐えられなかったミノルは茶を一気に飲み干すと立ち上がった。アサギが小さく会釈をし、マグワートが何も知らず微笑む。部屋を出ようとしたミノルだが、聴こえてきた足音に立ち止まった。布で隔たれただけのその部屋に、勢い良く飛び込んできたのはソレルだ。その剣幕にマグワートが顔を顰めて立ち上がる、普段おっとりとしたソレルの様子が異常なので、何かあったことは明白である。
「勇者アサギ様、勇者ミノル様! 緊急事態です、至急洞窟の調査に出向いて戴きたいのです」
「は?」
「え?」
マグワートがソレルに駆け寄る、それを横目で見ながら呆けている二人の勇者に手短に説明をした。
「他の皆様方は、別場所に出向いておられます。至急誰かに応援を頼みますが、早急に動く事が出来るのは貴方達しかおりません。武器はお持ちですか? ……大丈夫ですね」
ミノルの背のエリシオンを見つめ、ソレルは頷く。アサギも手首にセントラヴァーズを填めていた、二人が所持していることを確認し安堵の笑みを溢す。
「さぁ、こちらへ!」
状況把握の為、マグワートが先に出て行く。手を伸ばされ、ソレルが出て行き、ミノルが困惑気味にアサギを見つめた。緊急事態だ、共に戦うしかない。
気まずいが、協力し合えば前の様に普通に会話出来るかもしれないとミノルは期待をした。恋人には戻れないだろうが、見えない壁を少しでも削れるかと思った。
しかし。
「ミノル、あの、私、一人で大丈夫です」
アサギが振り返り、薄く笑いそう呟いた。拍子抜けして言葉に詰まったミノルに、アサギは畳み掛けるように早口で捲くし立てる。
「えっと、私実は仲良くなった天界人様がいて。一緒に……稽古していたのです。その方達と行くから、大丈夫ですよ。ミノルも忙しいだろうし、大丈夫です。地球に先に戻っていてください」
拒絶された。
おいで、セントラヴァーズ。そう呟いたアサギは細身の剣を取り出し、再びミノルに微笑む。その光景が、妙に腹立たしく思えた。知り合いの勇者より、アサギは天界人を選んだ。それは、天界人を信頼しているからだろうか、ミノルよりも役に立つと判断したのだろうか。それとも、どうしても共に居たくないのだろうか。
理由はどうであれ、皮肉めいて引き攣った笑みを浮かべることしか出来なかったミノルは、拳を強く握り締め唇を噛む。若干震える声で、アサギを睨みつけた。
「そうかよ、お前強いもんな。俺がいなくても平気だもんな。……じゃ、俺帰るから後は宜しくな」
「……はい」
ソレルの後を追ったアサギを、ミノルは見つめる。苛立ちながら髪を掻き毟り、それでも今別れ際にアサギが妙に哀しそうに微笑んだ気がして、気になって追いかけた。
振り返ったソレルは、勇者二人がついて来ていたので先を急ぐ。転移の間へ向かう途中で、クレロとマグワートが会話していた。気がつき手を軽く上げるクレロに、ソレルが立ち止まり一礼する。
「状況は?」
「村が襲われていたが、洞窟に魔物は戻っていった。誰かを向かわせるから深追いはせずに、村に危害が加えられない様、監視して欲しい。ソレル、勇者達を案内したらすぐにこちらへ戻ってくれ」
クレロはシポラの監視を続けねばならない、この場を離れられない。仲間達には現在交信中だが、直様戻る事が出来るのは恐らくトビィだろう。ソレルに促され、転移の間へとアサギは急いだ。
久しぶりに武器を構える、ざわりと鳥肌が立つ。
転移の水鏡が設置されている扉には、常に警備の天界人が左右に二人配置されている。軽く会釈をし、アサギは開かれた扉の前で大きく息を吸い込んだ。
「アサギ様、ミノル様、無理なさらずに。水鏡に飛び込めば、そこが魔物の巣窟入り口ですから」
自分しかいないと思っていたが、呼ばれた名前にアサギは驚いて振り返った。俯き加減で後方に立っていたミノルに言葉を失う、身体が硬直する。不思議そうに首を傾げたソレルは深く一礼をすると、クレロの許へと戻っていった。
ゆっくりとアサギに歩み寄るミノル、天界人は正面を向いたままで二人の様子は気にしていない。半開きの扉の中にアサギ、外側にミノル。
「……ありがとう、ミノル。応援がすぐに来てくれるから大丈夫です」
言うなり、アサギは内側から扉を閉めた。ミノルが手を伸ばしかけたのだが、勢いよく音を立てて拒絶した。閉めて唇を噛むとアサギは迷うことなく水鏡に飛び込む、瞳を閉じる。
「ミノルは。勇者になりたくなかったのだから、もう、巻き込んではいけない」
『いつまでも、見てんじゃねぇよ、このブスっ! お前なんか、昔から、だいっ嫌いだ。そもそもなぁ、誰のせいで勇者ごっこする破目になったと思う!? お前だよ、お前のせいだよ! 最初からお前だけで十分だったのに、巻き込みやがってっ』
聴こえたのはミノルに罵倒されたあの声だ、キリリ、と胸が痛む。瞳を閉じると激怒しているミノルが見えた。
ツキン、と頭痛に襲われる。『あぁ、まんまと、呪いの姫君に俺達騎士は騙されたんだ! 誘惑されて、その代償がこれだよ! あー、ばっかみてぇ!』声が聴こえた。
「大丈夫、です。私、一人で出来ますから」
アサギは自分に言い聞かせるように声を出した、何も迷うことはない。
「ミノルを、巻き込まない。彼にこれ以上武器を振るわせてはならない、それが私に出来る事。大事な……学校のお友達だもの」
土の上に立つ。ふわりとワンピースの裾が揺れた、純白のそれが妙に眩しい。俯いていたアサギは正面を見つめる、崖にぽっかり口を開けた洞窟の中は暗闇に覆われて中が見えない。後方には人々の悲鳴、ちらりと見れば煙が上がっている。森に囲まれた小さな村に奇襲をかけた魔物達、目的は何か。
村に行き、怪我人の手当にあたるべきなのか。回復魔法なら扱える。
それとも、この場で待機し出てきた魔物と戦うべきなのか。
いや、それとも。
「私、勇者なの。勇者に……なったのだから」
アサギは、洞窟の中に入っていった。
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