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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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光が分かる。
瞳を閉じているはずなのに、眩しい光で全身は包まれている。
恐々とアサギは瞳を開いた。
身体を軽く動かすと、大きく左に傾き、慌てて手身近なものに捕まる。
ほっと胸を撫で下ろし、捕まっているものが大木であると認識すると、空を見上げる。

「わぁ・・・・・」

どうやら大木の枝の上にいるらしい、豊かな緑の葉が風で揺らめく。
オールド大陸デルモ、光の泉付近の大木。
アサギは枝を伝って、なんとか地上に辿り着いた。
泉まで移動し、喉を潤す。
と、揺れる泉を見つめていると、ようやく自分が布一つ身につけていないことに気が付いた。

「あら・・・どうしよう」

言葉とは裏腹に、特に慌てる様子も無く、アサギは落ちていたぼろ布を発見すると、嫌な顔一つせず、それを羽織る。
泉まで戻り、顔を洗うと、水面に映る自分に顔を顰めた。
この顔は、嫌い・・・・・。
脳裏にそんな感情が沸き起こる。
水面を叩き、波紋で自分の顔を消すが、ゆっくりと泉は静けさを取り戻し、再度アサギを映し出した。
澄んだ泉に映る自分が心底・・・嫌だ。
ぷいっと視線を逸らし、立ち上がった。
ここで気が付く。

「私はアサギ、名前はアサギ。後は・・・えっと・・・分からない・・・」

呆然と呟いた。
何をしたらいいのかも、何者なのかも、何故ここにいるのかも、分からない、思い出せない。
困惑気味に首を傾げ、唇を噛んだ。
つきん、脳に痛みが走る。
アサギは顔を顰めて、その場に蹲った。
無理に思い出そうとしたのが災いしたのだろうか? 頭痛は酷くなる一方だ。
痛みの余り、吐き気まで。

「も、もう思い出さない!」

悲鳴のように搾り出した声。
自分に言い聞かせると、アサギは荒い呼吸を繰り返した。
じゃりっ、という音に、不意に顔を上げる。
優しそうな声の主、手が差し伸べられた。

「大丈夫? 立てる?」

アサギはその手に恐る恐る捕まると、その人を見つめた。
ブロンドの長い髪が印象的な、美しいエンジェルだ。

「あ、あの」
「私はリリィ。あなたは? ・・・それにしてもそんな格好で・・・。私の服、貸してあげるね♪」

泉の近くに住むリリィと名乗る彼女は、笑顔でアサギを連れて行く。

「な、名前は・・・」

アサギ・ライフ・ディアシュ。
その言葉が浮かんだ途端、脳を殴られたような衝撃が走った。
目の前が衝撃で真っ白になる。
閃光が弾け飛び、全身を稲妻に打たれたかのように硬直させた。

「きゃああっ」

絶叫してリリィに倒れこむアサギ。
顔面蒼白で、震えるアサギを必死で抱きかかえながら、リリィは叫んだ。

「だ、誰かきてぇ!」

遠のく意識の中、アサギの唇はこう漏らした。
必死で唇を動かすアサギにリリィも聞き取ろうと懸命だ。

「名前・・・あさ、ぎ、・・える、でぃ・・・・」

「アサギ・エル・ディ・・・・アサギ・L・Dね!? しっかりしてよぉ~!」

半泣きでアサギを抱きかかえるリリィ、その暖かな腕の中でアサギは眠りに落ちていった。
思い出そうとすると、過去を考えると、頭痛が起きる。
遠のく意識で、そう思った。

数日後、アサギはビエル、という国に仕官することにした。
過去は思い出さないことにした、必ず頭痛が起こるから。
気になるけれど、仕方がない、痛みは怖い。
そしてそれより、・・・過去を知るのが怖い気がした。
夜、テントから顔を出して空を見上げると、星の一つが近づいてきて、捕まりそうな、そんなイメージが湧いた。
だから、夜も怖い。
何者かから隠れるように、そっと、生きていこう。
アサギは、毛布に包まった。

※昔のHPより転載、一部修正。
あぁそうか、来たての頃はこんな口調だった・・・。

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長い髪を軽く風に靡かせながら、一人の男が森の中を歩いていた。
特に用事はない、散歩である。
自分の歩調で、木々の根元から顔を出している花に目をやり。
時折頭上を駆け抜けていく鳥に口元を綻ばせ。
木々から零れ落ちる日差しを眩しそうに遮り。
肺を満たす森林の澄んだ空気を胸一杯に吸い込みながら、ゆっくりと歩いていた。

彼の名はハイ・ラウ・シュリップという。
この地で身を隠しながら住み着いている神官だ。
早五年になるであろうか?
彼は一度、命を落とし、この世から消えているはずだった。
しかし五年前のあの日、懐かしい少女の「ごめんなさい」の一言が聞こえたと感じた瞬間に。
自身が埋まっていたと思われる墓の上にて、瞳を開く。
大きく伸びをして、彼は最初に辺りを見回した。
小高い丘に、一つの墓。
周りにはマリーゴールドの花が、その墓を護るようにして植えられていた。
ハイは軽く瞳をこすると、ゆっくりと起き上がる。
生き返った、という意識はない。
何故この場にいるのかも、夢を見ているのかも、何が起こっているのかも分からなかった。
不可解な、夢。
そう思ってハイはそれを楽しむことにした。
生前神官として幼少を過ごしたこの土地を、何故か魂の記憶で見ているのだろう、と。
魂は輪廻する。
きっと魂が次の肉体に入る準備をしているのだろう、とハイは思った。
だからこれは自身の魂の記憶であるのだと、現実ではないのだと。
ハイは墓から滑る様に降りると、おぼろげな記憶を辿る。
小高い丘を降りていけば、神殿兼家があったはずだった。
無造作に歩き始める。
小鳥の囀り、眩しい日差し、風に揺れる草の音。

「リアルな夢、だな」

ハイは薄く笑うと、そのまま歩調を変えないまま進んだ。
辿り着いた先は、廃墟である。
顔を僅かに顰める。

「夢の割には・・・時間が経過したかのような・・・」

手入れされていない神殿は、草の蔦で覆われてしまっている。
顔を顰めると、ハイは仕方なしに右手を頭上に掲げ、そのまま振り下ろす。

「真空波」

風の呪文は得意だった。
代々神官を務めてきた家系に産まれ、幼いころから英才教育を施されていたわけで、回復の呪文、風を操る呪文は造作もないことだ。
蔦を呪文で薙ぎ払い、記憶を辿って建物に入る。
黄ばんだ壁、白亜の聖なる神殿とまで言われた場所がこのようなことに。
思い出は色褪せるもの、か。
自嘲気味に呟くと、廊下を進む。
奥には自室がある・・・はずだ。
ハイは黴臭い木のドアを丁重に押すと、埃に咽ながら足を部屋に踏み入れる。
変わらない、部屋だった。
生前自分が居た時のままの配置だった。
誰も部屋に入っていないのだろうか、記憶の糸を引っ張り目の前の状況と照らし合わせるが、違うところは何もない。

「ふむ・・・」

ここにいても仕方がない、この奇妙な夢から覚める方法は何なのか調べる必要がある。
ハイは踵を返した。

――――ごめんなさい――――

背後から女の声が聞こえた、ハイは瞬時に両手で印を結ぶと振り返り部屋を見つめる。
気配は、ない。
しかし、声はした。
聞き覚えのある声が。
訝しげに部屋に再度踏み込むと、机に目が留まる。
一枚の写真が飾ってあるわけだが、生前と様子が違うことに気が付いた。
埃を被っているので良く見えない、ハイは手に取ると息で埃を落とし、手で残りを振り払う。
見えるようになった写真、軽く目を開いて凝視した。
写真が、変わっている。

「・・・」 

ハイは無言で写真をその場に戻すと、部屋を今度こそ後にした。
歩きながら考える。
写真が、変わった。
大事な、写真だったのに。
誰が何故、変えた?
それだけのことだが、ハイを動揺させるには十分だった。
・・・ここは何処だ? 私は一体何をしている? 何をすればここから出られる?・・・
口にしても意味のない質問を頭の中で何度も繰り返す。
急に空腹感を覚え、ハイは立ち止まった。

「空腹感・・・? どうしろと」

神殿を出て、ハイは痛すぎる日差しを浴び、途方に暮れその場に座り込んだ。
夢なら腹は減らないだろう、喉の奥で笑うと座り込んだまま倒れこむ。
眠っていたら謎が解けるだろうか。

キングベッドの上に二つの影。
未だ夜は蒸し暑く、窓は全開、風を部屋に送り込む。
純白のカーテンが揺れ、月の光が微かに部屋に入り込んだ。
ベッドの上で、男が本を読んでいる。
背に柔らかで大きなクッションを置き、熱心に何かを読んでいた。
傍らには飲み物が。
どうやら中身は焼酎らしい、ベッド付近のテーブルにボトルが置いてあった。
その男の膝には、女が寝転がっている。
腰に腕を回し、男の顔をじっと見ていた。
たまに、男の手が女の髪を撫でると、女は嬉しそうに腕に力を込めて、さらに密着する。

「この角度、好きなのですー」

下から夫の顔を見上げながら、アサギはそう呟いた。
そうか? 苦笑いしながらギルザが再度頭を撫でる。
うっとりと目を細めるアサギ。

「いつも見ているだろう、いい加減飽きないか?」
「飽きませんけど」

これでもアサギなりに、ギルザの読書の邪魔をしないようにしているつもりだ。
密着していないと耐えられないので、一番居心地の良い場所を探した結果が膝の上である。
小さく欠伸をしつつ、身動ぎして体勢を整える。
ぽつり、と出た言葉。

「アサギは、贅沢者ですよね」
「ん?」

小説からギルザが目を離し、傍らに置くと、アサギの身体を軽々と持ち上げ、抱きかかえて背中を優しく擦った。

「どうした?」
「んー・・・。友達にたくさん再会できたのです。失ったモノもあるけれど。新しい友達も出来たのです、みんな凄く可愛いのです」
「良いことじゃないか」
「うん。優しい友達がたくさん居るので、楽しいのです。それからギルザがいるから」

アサギはギルザの首に腕を回し、そのまま、ぽふん、と胸に顔を埋めて瞳を閉じる。

「アサギが羨ましいのだそうです。楽しそうだから、幸せそうだから」

言ってから、軽く胸が苦しくなった。
それが何故かなんて、分かっている。
ただ、言葉に出来ない。
人は誰でも、幸せになれる権利を持っているのに。
幸せの定義が人によって違うけれど、恋をする権利はみんな持っているのに。
ただ、みんなみんな、自分のようには動くことが出来ないのだと、最近痛感した。

「人それぞれ、だから。オレがオレで、アサギがアサギであるから一緒に居るわけであって。その子にも必ず誰かが存在する。それは焦って探すものでもないだろう?」
「そうなのですけど・・・」

羨ましいと、楽しそうだと、言われるのは嬉しいのだ。
ホントの事だから。
それを言われるということは、言った相手はそうではないということで。
どうにもならないのだけれど、苦しくなる。
早く彼女を救ってあげて、と。

「ゆっくり、見守るしかないだろ。恋は焦って探すものではない、と言ったのはアサギだ」
「うん・・・」
「その子に助けを求められた時、アサギが頑張ればいいから」
「うん・・・ありが・・・と」

ギルザにしがみ付いていた腕の力が軽く抜ける。
見ればアサギは寝息を立てていた。

「あ、寝た」

ギルザは苦笑いをすると、そのままアサギをゆっくりと寝かせる。
オレも寝るか、小さく呟くと、そのまま隣に倒れこんだ。
寝転び、ギルザはアサギを軽く見る。
何かを探してアサギが寝返りを打った。
決まった位置まで身体を動かし、ギルザにしがみ付いて、小さく笑う。
眠っていても、必ず探して動き回って、しがみ付くとようやく安堵するのだ。

「おやすみ、アサギ」

笑いを堪えながらギルザは呟く。
・・・また、明日。
耳元で囁いて額に口付けを。
仲良く二人で寄り添って、決して朝まで離れないように。
月の光が微かに二人を照らす。

おやすみなさい、また明日。

住み慣れたオールド大陸に、巨大な笹の樹が出現したという知らせ。
時は夏。
アサギは嬉しそうに微笑む。
手にした短冊に、一つの願いを込めて。
静かに河畔の樹へと進む。

夜空の星座が煌めく夏。
澄み切った空気に、宝石箱をひっくり返したような星の輝き。
自宅の窓からそれを愛しい人と眺めることは、アサギの幸せな日課だった。
肩を抱かれながら、飽きる事無く夜空を見つめる。
不意に流れる星を見つけ、小さく叫んで祈り事。
そんな夜空に浮かび上がる、真っ白な星々。
天の川、ミルキーウェイ。
オールド大陸では銀の河と呼ばれるらしい。
聞いた話では、その河に阻まれて、再会できないでいる恋人達の為に、二つのアイテムを揃え、差し出すと。
その恋人達がお礼に、特別な短冊をくれるらしい。
その短冊に願い事を書いて、樹に吊るすのだ。

どうしてもその場所へ行きたかったアサギだが、どうして良いのか判らず右往左往。
アイテムなんて、何処で見つけるんだろう?
恋人達を救って、自分も願いが掛けられるなんて、素敵すぎる。
どうしても叶えたい願いがあったアサギは、日夜調べ続けた。
だが、そのアイテム達は手の届かないような存在で。
半ば諦めかけていた。
アイテムがなければ、どうにもならない・・・。

だが、部屋の片隅で溜息吐くアサギを、そっと見つめていた男性がいた。
アサギの夫・ギルザである。
アサギがそのアイテムを欲していたことに、いち早く気がついた彼は、アサギよりも先に入手先を調べ、そして手に入れていた。
溜息吐きつつ、その樹のある場所を遠望していたアサギの為に、なんとか用意したかったのであろう。
ある朝、アサギの目が覚めると。
枕元に二種のアイテムが置いてあった。
『アサギへw これで銀の河までおいで』
見慣れた筆跡の手紙、そしてアイテム。
思わずアイテムを掴み上げて、アサギは無我夢中で走る。
息を切らして、それでも笑顔で。
このアイテムを使用して、短冊に交換して貰い。
光り輝く不可思議な短冊を手にした時に、ようやくアサギは足を止めた。
深呼吸し、荒い鼓動を静めさせる。
額の汗を拭い、手にした短冊に願いを込めて。
マジックで書き綴る。
ずっと、書きたかったその願い事。
ずっと、思っていたその願い事。
流れ星にも願いを掛けたが、今一度ここでも。

『ずっとギルザさんと一緒に居られますように』

一文字一文字、丁寧に書き綴る。
満足そうに書き上げた後、アサギはゆっくりと河畔の樹へと、足を勧める。
すでに樹には、たくさんの短冊が吊るされている。
一人一人の特有の願い事が、樹を彩る。
願いが込められた短冊が、一斉に風に揺れた。
と。
見慣れた筆跡の短冊を見つける。

「あ・・・」

思わず声を発し、唖然とその短冊を見つめた。

『アサギを護る為に強くなりたい』

自分の名前が書かれた短冊、書いた主は一人しかいないだろう。
胸に熱いものが込み上げ、知らず頬を涙が伝った。
手の中の短冊を握り締め、震える指でその短冊に触れる。
涙で霞む瞳で、再度短冊を見つめる。

「これが、見せたかったんだ」

風が吹いた。
聞き間違えることのない、大好きな声が聞こえる。
笹と短冊が揺れ、心地良い音を出す。
振り返れば、愛しいギルザが微笑んで立っていた。
おいで、というようにギルザが両腕を広げた直後。
吸い込まれるようにアサギは駆け寄り、胸に飛び込んだ。

「泣き虫だなー、アサギはw」

笑いながら髪を優しく撫でるギルザの胸の中で。
握り締めて微かに形の歪んだ短冊を、アサギは見つめる。
小さく唇を動かし、音にする。

ギルザさんとずっと一緒に居られますように。
ギルザさんを癒し続けられる存在でありますように。

・・・2人の短冊を隣同士に吊るした、その真下。
ギルザの髪の色のような夜空に、儚げに瞬く星々。
心地良い気温の真夏の夜、静かに浮かび上がった三日月の光。
流れる水音、魚が跳ねる音が辺りに響き渡り。
・・・口付けを交わそう。
2人の願いが叶うように。
銀の河に想いを寄せて、寄り添ったまま。
願いを叶えて貰うのではなく、願いを叶える為に。
口付けを交わそう。
優しき月光、淡く2人を照らしたのなら。
永遠の誓いを、今ここに。
2人は、決して離れることが出来ないのだと。

「愛しています」 

※数年前、小説の間のコンテストで優勝させていただいた時のものなのです。
お気に入り♪
手直ししたかったけれど、そのまま転載ですよー。
いつから、ソレは始まったんだろう。 
そんなこと、思ったって、答えは出ているのです。
 あの時、初めてあなたを見た瞬間からソレは始まったのです。

 外は、雨。
 敗北した王宮内は、憤慨を覚える者や嘆き悲しむ者、今後はどうなるのか、と不安に怯える者など様々な心境を抱えて騒然としていました。
 当然その場に居たアサギは、慣れてしまいつつあった落城に小さく溜息、それでも元気に振舞おうとしていたのを昨日のように覚えています。
 そんな会議室で、誰かの良く通る声が聞こえました。 それは聞きなれない声、国民さんのものではありません。
 声には感情が篭っていなくて、実に事務的。

 「もうすぐ城を落とされた方が来ます」

 誰かからの依頼で、この国は落とされたのでした。 
どんな、人だろう? 優しい人がいいなぁ・・・。
 そんなことを考えながら、喧騒の会議室を見渡します。
 ・・・どんどん騒ぎは大きくなるばかり、困ってしまう。 
争いごとは、嫌なのです。

 「あのー、もうすぐこの国を落とした本当の方が到着されるみたいですし。大人しく待ちましょうですよ」 

やりきれなくて、そう叫んだ時。

 「オレですが、何か」

 背後から、初めて聞く声。
 何処か懐かしいような、待っていたような、耳に、心に響いた声。 
好きな声だ、と思いました。
 低くもなく、高くもなく、ちょっと幼ささえ感じてしまうその声。 
冷徹とか、そんな声じゃなくて・・・。
 感情は、篭っていなかったですけれど。
 何故か高鳴る胸を軽く押さえて、深呼吸して・・・振り返った先に立っていたのは。 
濃紺の夜空のような色した髪の。
 深い深い観ていると吸い込まれそうな瞳の。
 白銀の鎧を身に纏った、端正な顔立ちの人でした。
 その存在感に見惚れたアサギは、一呼吸置いて震える声で、話しかけたのです。
 湧き上がる感情を押し殺しながら、なるべく、笑顔で。
 彼の、目を見て。

 あんまり見ないで欲しい どきどきするから
 嘘。 ホントはもっと、見て欲しい

 「あ、初めましてですよー。アサギというのです」 
それが出会って初めて交わした会話で、アサギが心を奪われた瞬間でした。

 「・・・で、ちょこちょこお部屋に遊びに行っていたのですよねー」

 目の前で眠りについている夫の額に、手を乗せて。
 思わず微笑んでしまう。
 まさか、夫婦になれるとは。

 「よく、頑張りましたですよー、アサギ」 

自分を誉める。
 もそもそとシーツにもぐりこんで、そっと夫に抱きついた。
 寝ぼけながらもアサギを抱きしめ返してくれる夫の頬に口付ける。
 窓から外を見る。
 今日は七夕。
 家にある小さな笹に飾った、一枚の短冊が風で揺れた。
 願い事は毎年同じ。

 「おやすみなさい、ギルザ」

 大丈夫、来年も一緒なのですよ。

 ※小説の間より転載。
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