別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
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長い髪を軽く風に靡かせながら、一人の男が森の中を歩いていた。
特に用事はない、散歩である。
自分の歩調で、木々の根元から顔を出している花に目をやり。
時折頭上を駆け抜けていく鳥に口元を綻ばせ。
木々から零れ落ちる日差しを眩しそうに遮り。
肺を満たす森林の澄んだ空気を胸一杯に吸い込みながら、ゆっくりと歩いていた。
彼の名はハイ・ラウ・シュリップという。
この地で身を隠しながら住み着いている神官だ。
早五年になるであろうか?
彼は一度、命を落とし、この世から消えているはずだった。
しかし五年前のあの日、懐かしい少女の「ごめんなさい」の一言が聞こえたと感じた瞬間に。
自身が埋まっていたと思われる墓の上にて、瞳を開く。
大きく伸びをして、彼は最初に辺りを見回した。
小高い丘に、一つの墓。
周りにはマリーゴールドの花が、その墓を護るようにして植えられていた。
ハイは軽く瞳をこすると、ゆっくりと起き上がる。
生き返った、という意識はない。
何故この場にいるのかも、夢を見ているのかも、何が起こっているのかも分からなかった。
不可解な、夢。
そう思ってハイはそれを楽しむことにした。
生前神官として幼少を過ごしたこの土地を、何故か魂の記憶で見ているのだろう、と。
魂は輪廻する。
きっと魂が次の肉体に入る準備をしているのだろう、とハイは思った。
だからこれは自身の魂の記憶であるのだと、現実ではないのだと。
ハイは墓から滑る様に降りると、おぼろげな記憶を辿る。
小高い丘を降りていけば、神殿兼家があったはずだった。
無造作に歩き始める。
小鳥の囀り、眩しい日差し、風に揺れる草の音。
「リアルな夢、だな」
ハイは薄く笑うと、そのまま歩調を変えないまま進んだ。
辿り着いた先は、廃墟である。
顔を僅かに顰める。
「夢の割には・・・時間が経過したかのような・・・」
手入れされていない神殿は、草の蔦で覆われてしまっている。
顔を顰めると、ハイは仕方なしに右手を頭上に掲げ、そのまま振り下ろす。
「真空波」
風の呪文は得意だった。
代々神官を務めてきた家系に産まれ、幼いころから英才教育を施されていたわけで、回復の呪文、風を操る呪文は造作もないことだ。
蔦を呪文で薙ぎ払い、記憶を辿って建物に入る。
黄ばんだ壁、白亜の聖なる神殿とまで言われた場所がこのようなことに。
思い出は色褪せるもの、か。
自嘲気味に呟くと、廊下を進む。
奥には自室がある・・・はずだ。
ハイは黴臭い木のドアを丁重に押すと、埃に咽ながら足を部屋に踏み入れる。
変わらない、部屋だった。
生前自分が居た時のままの配置だった。
誰も部屋に入っていないのだろうか、記憶の糸を引っ張り目の前の状況と照らし合わせるが、違うところは何もない。
「ふむ・・・」
ここにいても仕方がない、この奇妙な夢から覚める方法は何なのか調べる必要がある。
ハイは踵を返した。
――――ごめんなさい――――
背後から女の声が聞こえた、ハイは瞬時に両手で印を結ぶと振り返り部屋を見つめる。
気配は、ない。
しかし、声はした。
聞き覚えのある声が。
訝しげに部屋に再度踏み込むと、机に目が留まる。
一枚の写真が飾ってあるわけだが、生前と様子が違うことに気が付いた。
埃を被っているので良く見えない、ハイは手に取ると息で埃を落とし、手で残りを振り払う。
見えるようになった写真、軽く目を開いて凝視した。
写真が、変わっている。
「・・・」
ハイは無言で写真をその場に戻すと、部屋を今度こそ後にした。
歩きながら考える。
写真が、変わった。
大事な、写真だったのに。
誰が何故、変えた?
それだけのことだが、ハイを動揺させるには十分だった。
・・・ここは何処だ? 私は一体何をしている? 何をすればここから出られる?・・・
口にしても意味のない質問を頭の中で何度も繰り返す。
急に空腹感を覚え、ハイは立ち止まった。
「空腹感・・・? どうしろと」
神殿を出て、ハイは痛すぎる日差しを浴び、途方に暮れその場に座り込んだ。
夢なら腹は減らないだろう、喉の奥で笑うと座り込んだまま倒れこむ。
眠っていたら謎が解けるだろうか。
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