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ハイは空腹を訴え鳴いている腹を押さえつつ、瞳を閉じた。
寝ていたのか、起きていたのか。
ぐーきゅるるるるるるるる
先程から不快な音が鳴り響いている。
腹の虫である、暴走気味であった。
「いかん・・・本当に空腹で死にそうだ」
いや、死んでいるはずなんだがな。
ハイは唇を動かして音を出さずにそう呟くと、瞳を開こうとした。
不意に、日差しが陰る。
大きな雲が太陽を覆い隠したのだろう、日差しが遮断され心地よい空気に変わった。
『ぐーきゅるるるる、ですか! 可愛い音ですね!』
脳裏に浮かぶ懐かしい少女の声。
可愛らしい、産まれて初めて出来た友達の女の子。
彼女に、会いたい。
ハイはゆっくりと瞳を開いた。
そうだ、夢ならば彼女に会えるかもしれない。
会いに行こうか。
「やっぱりここに居たのか」
「・・・お久し振りでございます」
男の声がした、二人分。
誰だ、気分良く思い出に浸っていたのに邪魔をする輩は。
ハイは怪訝そうに重い身体を引き摺るようにして起き上がると、声の主を探す。
草の上を歩く二つの足音。
太陽が再び顔を出し、二人の訪問者をハイは見た。
あぁ、と口を開く、落胆気味に。
「どうせ夢ならもっとマシな人物を寄越して欲しい」
興味なさそうに再度腹の虫を庇うかのように転がるハイ。
「起きろ、説明は面倒だから一度にする。オレらと来い」
苛立ちながら一人の男が言った。
もう片方は軽く会釈をしたままだ。
それでも微動だしないハイに、いい加減男が剣を抜く。
「時間がない、とっとと目覚めろハイ・ラウ・シュリップ! 2星の暗黒神官ロリコン魔王っ!」
「ロリコン違うっ、たまたま好きになった相手が11歳だっただけだろうっ」
「それで十分だ」
「あいっかわらず気に食わない奴だな・・・ん? 老けた? トビィ」
ロリコン呼ばわりされて怒涛の勢いで起き上がり、男・・・トビィという名の男の胸座を掴みかかるハイ。
思わず顔を引き攣らせるトビィ。
しげしげとトビィを見つめ、隣に突っ立っている男・クレシダをも見つめる。
首を傾げてハイは唸り始めた、二人を見比べた結論。
「老けた?」
「・・・老けたんじゃない、最後に会った日から丸4年経過している。年齢を重ねたと言え」
「老けたんだろ。クレシダは変わってないなぁ」
「・・・クレシダ、食っていいぞコイツ」
剣の柄に手をかけつつ、トビィは静かに怒りを表しながら後方に控えているクレシダに声をかけた。
無表情で「遠慮します、主」と淡々と言い放つクレシダ。
沈黙。
「・・・手短にお話致します。『例の戦い』で亡くなられたはずの方々が一斉に蘇生されました。もちろんハイ殿もその一人です。詳しい説明がありますので、ご同行願いたいのですが」
説明する気が失せたトビィに代わり、仕方なくクレシダがハイに声をかけた。
怪訝にハイは首を振る。
「信用できない話だ」
「貴様が生き返った時点で決まりだろう。時間がないんだ、一緒に来い」
「一度死んだものは生き返らない、だからこれは私の夢なんだ」
「夢かどうか試してやろう」
頑固として蘇生した自分を認めないハイ、神官として魂は死んでから再生するまでに時間を要し、決して以前の肉体に戻るものではない、と教えられてきたのだから当然かもしれないのだが。
青筋を額に浮かべながらトビィは愛剣を引き抜いた。
愛剣・ブリュンヒルデ。
水竜の一本角より作り出した水の属性を帯びる、所謂『神器』に近い武器である。
波打つかのような長く細い、それでいて鋭利過ぎる刃の前に、幾つの魂が消えたことだろう。
太陽の光に反射され、眩く煌く。
「面倒だ、半殺しにして持っていくことにする」
「フッ、以前のように返り討ちにしてくれるわっ、さあ来い若造」
「・・・あれは貴様が卑怯な術を使ったからだろう。というか、オレ別に怪我一つ負ってないし」
呆れ返りながらトビィは右腕を大げさに回した、甦ったばかりの相手にも一応敬意を払って全力で行くつもりらしい。
対するハイは右手を前に突き出し、低く体勢を屈める。
風が一筋、二人の間を吹き抜けていった。
時間がないと思うのですが・・・無表情でそう呟いたクレシダの言葉。
クレシダにしては的を得ている言葉である、二人に届くかは別として。
ドゴォ!
ガキィ!
ドガァッ!
すぐさま開始された何やら目の前で繰り広げられている二人の攻防を、クレシダは何時ものように、顔色一つ変えず見つめていた。
勝敗は分かっている、主・トビィの勝利だろう。
実戦経験の差が、二人にはあまりに開きすぎていた。
偏狭の地に響く轟音。
ハイの真空、トビィの水氷、激突し合い近辺は酷い有様になっていく。
「主、時間がありませんが。合流を急がねばなりませんので」
元来この二人、仲が非常に悪かった。
他の人物を寄越せばよかったのだとクレシダは思ったが、口にすることはないだろう。
「主、続きは後日でお願い致します」
片方は暗黒神官で元魔王、片方は今やロイヤルドラゴンナイトの肩書きを持つ。
・・・つまり、簡単には決着がつかないのだ。
無論、優勢なのがトビィなことに変わりはないのだが、地道に回復を試みて長期戦に持ち込もうとするハイ。
「主、聞いていただきたく思います」
平素ここまで声を発することのないクレシダ、いい加減声を出すのも疲れたのか仕方なしにその場に立ち尽くすことしか出来ない。
彼なりに大声を出しているつもりなのだが、二人には全く届かない。
「主、私は疲れました」
クレシダは軽く溜息を吐くと空を見つめる。
青く澄んだ空だった、白い雲がふわりふわり、と綿菓子のように浮かんでいる。
誰か、仲裁してくれないでしょうか・・・
クレシダはそう思いながら二人を見守るより他なかった。
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