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「いってらっしゃい、ギルザ」
最愛の旦那の頬に口づけをし、笑顔で見送る平素と変わらない朝。
ただ、何かしら胸騒ぎがする。
昨夜の夢は何か怖いものだった・・・?
アサギは首をかしげながらキッチンへと足を進めた。
さぁ、早く洗って洗濯して掃除をして、お出かけしよう。
鼻歌とともに軽快に動く。
今日の夕飯は何にしようか? 誰に会いに行こうか?
シャボンの香りに包まれながら、軽く笑う。
不意に、背筋に冷たい空気が流れ込んできた。
ゾクゥ、と鳥肌が立ち、足が震える。
「何!?」
小さく叫ぶと振り返り、泡の付いた包丁を右手に構えた。
静かないつもの城の一室である。
特に物音もしなし、人の気配もない。
それでもアサギは軽く息を呑むと、包丁を流しに戻し、手の泡を洗い流す。
エプロンをはずすと自室へ戻り、自分の武器を手に取った。
『ヨウコソ、歓迎スルゼ』
脳裏に響く、聞きなれない男の声。
「誰!?」
小さく叫びながら、表情険しくし、振り返る。
「っ・・・!?」
自室であったはずの場所は、漆黒の異空間へと変わっていた。
瞬時のうちに時空移動でもしたのだろう、アサギは唇を噛み締めると武器を持つ手に力を込める。
何も見えない闇の中、息を潜めて相手を窺うより他ない。
『マァソンナニ慌テンナ。ドコニモ行カネェシ、行ケヤシネェカラヨ』
攻撃の先手を取ろうとしたのが読まれたのか、姿無き相手はそう嘲笑うように言う。
耳障りな甲高い声。
「行けないかどうかは、アサギが決めることであって、あなたが決めることではありませんから」
おいで、セントラヴァーズ。小さく呟くと右手に持っていた自身の愛武器を変化させた。
普段は腕輪に碧い石が装飾されているただのアクセサリーなのだが、呼ぶと同時に武器へと変貌するのだ。
馴染みのよい、通常の片手剣が現れる。
アサギはその武器の重さに軽く安堵の溜息を吐いた。
『オォ、コワイコワイ。ブッソウナモノ持チ出シテキタヨ!』
ゲタゲタ笑う姿無き相手に、眉を顰める。
死ぬわけには、行きませんから。小さく呟くと、軽く呼吸を整えた。
しばしの静寂、その静けさが妙に不気味だ。
数分後、沈黙は破られ、物音しない空間に、急に声が響く。
―――己の内にある、もっとも滾る欲望は?
「・・・旦那様と永遠に一緒に居たい、です」
構えを解かないまま、アサギは答える。
注意深く回りに目をやり、神経を研ぎ澄ませながら。
―――追い求める懐かしき光景は?
「山脈で過ごした最初の国の仲間達の笑顔」
―――最後に手紙を送るならばその相手は?
「旦那様・・・ギルザに」
―――最後に口にしたい食事は?
「そうですね・・・美味しいお水、でしょうか?」
―――10Gを乗せた秤の、片側に乗せるものは?
「小さな小さな小石を。小石と言うより、砂、かもしれませんが」
―――命が尽きるその瞬間、目にする光景は?
「ギルザの無事な姿。彼が無事ならば」
再度沈黙。
見ると足元に道が出来ている。
どうやらその先には扉があるようだった。
ぼんやりと鈍く光るそれに向かって歩くしかないらしい。
アサギは通常の足取りでそのまま進んだ。
先程の質問に何の意図があるかは、とりあえず考えないまま・・・。
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