[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
緑の娘は願い事を間違えた。
当初の願いは『あの人と一緒に二人で幸せになるの』だった。
ところが耐え切れなくなった心が悲鳴を上げて、願い事を変えてしまったのだ。
変えた願いは成就された・・・と、緑の娘は思っている。
今でも、成就されたと、思っている。
『あなたが幸せなら、それでいいよ』
・
・
・
舌打ちして、女は畳に転がる。
この間買ってきた大量の好きなブランドの衣服が散乱し、雑誌が開かれたままソファに置かれ、明らかに片付けられていないその部屋。
再度舌打ちして、お気に入りのフレバーティを飲み干す為に、起き上がった。
「・・・何やってる」
声がした。
聞き慣れた声だった。
何か言おうと思ったが言葉が出てこない。
視線が宙を泳いで、ふと目に留まったのは。
この間買って、何時、誰と出掛けるときに着ようか、わくわくしながら魅入っていた衣服達。
おかしい、色褪せて見える。
今の私にこれらの服が似合うのだろーか・・・喉の奥で笑う。
「だから、何をやっている」
再度の問いに。
本当に何をやっているのだろう、と女は思った。
もしかして、ひょっとして、一番の問題は。
「緑の髪の娘は願い事を間違えたんだよ。変えなければ幸せになれたのに」
ぼそ、と呟いた。
あぁ、そうだ。
今分かった、もしかして、私が一番恐れていたのは。
「私も願い事を間違えたのかな。『二人で一緒に幸せになる』って言っていたのに。さっき、思って口にした。『あなたが幸せになれるのなら、私は必死で想いを殺す。大好きなあなたが苦しまない方法がそれならば、私は耐えるよ』・・・ねぇ。もしかして。このまま行くと、私は」
「お前はアサギじゃない。お前の彼氏はトランシスでもない」
「でも、何故か怖いくらいに恐ろしいくらいに一緒なの、出てくる言葉が二人とも一緒なんだけど、これはなんで?」
「似ているだけで、同じなだけで、違うから。重ねて不吉な未来へ持っていくな」
「一緒なんだってば!」
「目を覚ませって言ってるの!!」
親友の大声が聞こえたので、女はケータイを手から滑り落とす。
「アサギが失敗した理由を知っているのなら、変えればいいじゃん。同じことをしなきゃいい、思わなきゃいい。もっかい言うよ、『あんたはアサギじゃないし、彼氏はトランシスじゃない。だから、二人はあんな風に壊れない』。しっかりしなよ、何やってんの」
ずっと、ずっと、怖かったのは。
気がつけば緑の髪の娘と同じような台詞を恋人に言う自分と。
緑の髪の娘が愛していた男と同じような台詞を言う恋人が。
あんなふうに、小説の話なくせに、あんなふうになったらどうしようかと。
わけのわからない不安を芽生えさせてしまった、自分の心。
同じにしてはいけない、小説と同じにしてはいけない、あれは私が考えた話だ。
冗談じゃない。
「目が覚めた、多分」
「覚め切ってないだろうけど。今は寝たほうがいいよ。無理するな」
「らじゃ」
・・・。
私が、しっかりしなければ。
願い事をもう一度。
だから、みんな。
どうか、私があまりにも死にそうに見えたら。
蹴り飛ばすくらいのつもりで、近寄って欲しいのです。
目を覚まさなきゃ、また・・・。
「おのれー、このままだとまた体重が減る」
「ヤバイから、とりあえず、1:00までには寝なさい」
現在、0:12。
よし、お風呂に入ろう。
おやすみなさい。
神社へ行こう、行った神社へ行こう。
私は緑の髪の娘ではないので、願い事を変えない、絶対に、変えない。
※意味不明
20080122
「アニスー、起きてーっ」
頭の上に感覚。
アニスは重たい瞼を嫌々ながらに開き、そっと自分の頭上に手を伸ばした。
暖かなそれは、リスである。
「こんなところで寝ないでよ、木の上にしてよ! 危ないよ」
「危ないっていうか、なんだか変わったものが置いてあるよ」
「鷹さんが見てたって。トリアって人が置いていったんだって」
未だはっきりしない脳、アニスはうとうとと首を前後に軽く振りながら、小さく欠伸をする。
視界に入ったのは、トリアが置いていったお菓子である。
そして自分の右手首に何か布が巻いてあることに気がついた。
その模様を何処かで見た気がしたので、アニスは寝ぼけ眼で考えていた。
「・・・あぁ、わかったトリアだ」
「だからさっきからそう言ってるじゃないかっ」
苛立つリスは、アニスから焼き菓子入りの袋を奪うように転がす。
「これ、何だと思う? 良い匂いがするんだけど」
「ねー、良い匂いだよねー」
「見たこと無いけど、木の実かな? 食べられる?」
焼き菓子を知らないリス達は、興味有り気にその美味しそうな匂いのする物に釘付けのようだ。
きっと、大丈夫。
リス達はまだ意識の戻らないアニスを尻目に、袋を歯で強引に破ると焼き菓子に噛り付いた。
「! おいしいっ! 何これ!」
「わぁ、あっまーい♪ おいし、おいしっ」
「森にもこれが生る木があればいいのに」
小麦粉にバター、はちみつ、玉子、砂糖・・・それらを混ぜ合わせて釜で焼いたものだった。
※眠いのでだうん(ばたり)
狭い路地を潜り抜けて、三人は走る。
道は未だ混乱した人々が慌てふためいており、走りにくい。
てっきり、殆どの住民が避難したのだと思っていたが、そうでもないようだった。
遠くで叫び声が上がった。
立ち止まらないように振り返ると、見れば一体のドラゴンがすでに街に侵入してきている。
「この街、自警団とかなんかないわけ!?」
「海賊用にならあった気がするけれど、ああいうのには手が出せないんじゃない?」
産まれて初めてドラゴンを直に見た三人は、思わず息を飲んだ。
話では聞いたことがあったけれど、絵でしか見た事もなく。
瞳は深紅、怒りの炎に包まれているかのようで、硬そうな鱗は山脈の剥き出しの岩のようで。
実際のところそのドラゴンは羽根を広げて全長3メートル程なのだが、ガーベラ達にはもっと巨大なものに見えた。
「・・・いくらなんでも、あんなの相手に出来ないよね」
乾いた笑い声を出してエミィがそう小声で漏らす。
三人は振り返らずに走り続け、その地下室のある家を探した。
焦りもある為、なかなか家が探せない。
ニキだけが知っているその家、ガーベラとエミィはただ見守るしかなかった。
「待って! 置いていかないでっ!」
「助けてーっ、誰かーっ!!」
同じ年頃の同姓の甲高い叫び声に、三人はその方角を見つめる。
路地の隙間から大通りが見えたのだが、少女が一人、手を伸ばして泣き喚いていた。
倒れこんで必死に助けを呼んでいる。
「待って、お願い! 友達でしょ!?」
「知らないっ!」
何処かで聞いた声だった、それもつい最近聞いている。
三人は顔を見合わせると、誰が言い出すでもなく、思わずその少女の元へと駆け出した。
・・・そこに倒れていたのは、市長の娘、グランディーナ。
細い路地を走り抜け大通りへ思わず飛び出すと、あの日、ラシェの店からグランディーナと共に出てきた少女達の姿を見つけた。
グランディーナからかなり離れた大通りを、必死で駆けている。
足を挫いたのか地面に倒れこんで必死に友人を呼ぶグランディーナを置き去りに、少女達は死に物狂いで走っているのだった。
高価そうなドレスも泥まみれ、綺麗な顔も、涙と鼻水で汚れきったグランディーナ。
「ガーベラ!」
思わず、ガーベラはグランディーナに向かって勢い良く走り出す。
ニキが止めるのも振り払い、ガーベラは一直線にグランディーナの元へ辿り着くと、泣き続けるその身体を起こし、自分の肩に腕を乗せた。
足を挫いて一緒に逃げ切れないと判断され、友人達に置いていかれたのだ、この娘は。
同情かもしれないが、目の前で人が消えるのも嫌だったし、気の毒で哀れで。
「しっかり掴まって」
「あ、あなたは・・・」
「さぁ、急いで! ここは危険だわ」
ニキとエミィも駆け寄ってきた、三人でグランディーナを支えて、必死に路地へと連れて行く。
唖然と三人を見つめながら、涙を流して嗚咽するグランディーナに、ニキが叱咤した。
「泣くな! 助かってから泣いて。泣く力があるのなら、自分で歩く努力をして!」
「ご、ごめんな、さ、ごめ、ん、なさ」
右足をどうやら挫いているらしく、思うように歩けないが、四人は必死で路地を目指した。
細い路地に入って、姿を隠して逃げ切れば・・・。
歯を食いしばり、痛みを堪えて歩くグランディーナの背を必死に抱いていたガーベラは、不意に地面が翳った事に気がついて、軽く上を見る。
喉の奥から悲鳴が出る。
ガーベラのその悲鳴に、三人も見上げ・・・絶叫した。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
真後ろに、ドラゴンが一体。
前方の宿屋の屋根にも一体。
二体のドラゴンに挟まれていた。
再び絶叫し始めるグランディーナを尻目に、ガーベラは短剣をそっと震える手で持ち直し、素早く周囲を見渡す。
この三人を突き飛ばせば、三人は路地になんとか辿り着ける。
三人は、なんとかなる。
汗が額を流れ、口内が急激に乾き、身体が音を立てて震え出す。
ドラゴン二体は、四人を静かに見つめていた。
震える足を必死で押さえつけて、息を大きく吐き、吸い込み・・・・。
「行って、三人とも!」
ガーベラは唇を強く噛み締めると、右足に重身を込めて、思い切り三人を路地の方角へと突き飛ばした。
叫び声を上げて、倒れ込む三人だったが、這ってでも路地までは行ける距離だ。
その時、一体のドラゴンが大きく啼いた。
それを合図に、もう一体が翼を大きく広げて、四人へ・・・一番手前に居たガーベラへと急降下してくる。
羽根で建物を薙ぎ倒し、鋭利な嘴を大きく開いて。
「ガーベラ!」
ニキの声もガーベラに届かず、ただ、ガーベラは。
目の前の迫り来るドラゴンに対して既に対抗する気力すらなく、固まって動けなくて、その場に立ち尽くす。
自分は孤児なので、悲しむ家族が無い。
グランディーナは市長の娘だし、ニキは大家族の長女なので仕送りの為娼婦をやっているわけで、エミィには病気の母親と、幼い弟がいる。
自分だけが、誰もいない。
犠牲、という言葉は好きではないけれども誰か一人の命で他の三人の命が救われるのなら、自分が犠牲になるべきだ、とガーベラは思ったのだった。
・・・そしてもしかしたら、娼婦の自分に疲れていたのかもしれない。
解放されたくて、自ら死を選択したのかもしれない。
不意に思った。
あぁ、あの吟遊詩人に。
もう一度、会いたかったかも。
もしくは。
一度でいいから、恋人、という存在が欲しかったかも。
でも、娼婦だから。
恋人は、無理だから。
薄らと瞳を閉じていくガーベラ、三人の声も、ドラゴンの啼き声も、耳には届かない。
まぁ、こんな人生も。
いいんじゃ、ないかし・・・ら・・・
→NEXT
12月、クリスマス、お金がない。
「きゃー」
城の中でアサギは小さな悲鳴を上げた。
見ないようにしていたカレンダー、見たら12月。
最愛の旦那様に買うプレゼントのお金がない。
早く資金調達しないと大変な事になる。
アサギは意を決して木で造った看板を手に取ると、一目散に城を飛び出した。
そう、買いたい物がある。
見つけてしまったのだ、欲しいものを。
金額500万、非常に高額である。
だが、旦那様に誂えた様に似合う代物だったので、絶対にそれを買うと決めたのだ。
立て札を二つ、用意した。
絵師の間と小説の間に、立て札を立てた。
「身売り中。そちらの言い値で何か書き・描きます」
そんな立て札。
目標金額300万、そうすればあの楯が買えるのだ。
ダンボール箱を置いて、立て札の隣に座ってみる。
ダンボール箱の上には紙とペン。
人々が行き買う中で、非常に浮いた場所である。
「誰か・・・来てくれるといいのですけど」
アサギは小さく呟くと、そわそわと辺りを見回した。
視線が合う度に、人々は慌てて遠巻きに去っていく。
不意に物陰から誰かに見られている気がしたが・・・気のせいだったかもしれない。
その場に居辛くてアサギは溜息吐きつつ立ち上がると、立て札をそのままに遊びに行くことにした。
誰か、依頼をしてくれると、いい、な・・・。
しょぼりんと項垂れながら、ゆっくり歩いていく。
数十分後。
その小説の間の立て札の前に一人の青年が立っていた。
通りすがりで歩みを止めて、じっとそれを見つめるようだ。
褐色、と呼ぶには薄いが、その肌の色から闇エルフを連想させた。
藍色のマントについたフードで表情を覆い隠すようにしているのだが、時折口元が覗く。
瞳は見えない。
青年は何か思案していたようだが、やがて立て札に書かれたアサギの自宅へと、足を進めた。
やがて青年はとある城の前に辿り着いた。
旦那様とアサギが二人で暮らすその城の呼び鈴を鳴らしてみるが、中から返答は無い。
「ふむ・・・手紙を、残していきましょうか」
小さな声、しかし明確な発音と、耳に心地よい実に澄んだ男の声だった。
男は懐から紙とペンを取り出すと、手短に用件を書き記す。
男らしくも、見やすい字である。
青年はそれを城のポストに入れると、小さく礼をしてその場から立ち去った。
それから数時間して、アサギは自宅の城へと戻る。
そういえば依頼はどうなったのだろう? 後で見に行ってみよう・・・。
怖いような、行きたくないような、でも行かないとプレゼントが買えない。
城のポストを何気なく開けると、そこには一通の手紙が入っていた。
アサギは特に何も思わずに自然とそれに手を伸ばし、紙を開いて文面を読む。
「・・・きゃー!!!」
感動と興奮と、驚愕の入り混じった叫び声。
依頼者様からの手紙である。
庭の木に止まっていた鳥が驚いて遠くへ飛び去っていった。
庭に居たドラゴンのクレシダが微かに首を動かし、アサギを見つめる。
手紙には、小説の依頼と、金額300万の文字が。
300万。
プレゼントの楯を購入できる金額だった。
依頼者の名前をアサギは涙目で見つめ、思わず嬉しくて紙をぎゅっと抱きしめる。
会話したことは無い相手だ。
しかし、一方的に名前を知っている相手でもあった。
小さく飛び跳ねているアサギに、後ろから声がかかった。
「アサギ? 何やってるんだ?」
「きゃー、ギルザっ」
肩を叩かれ、アサギは思わず手に持っていた手紙をポケットに隠した。
何時の間に帰宅したのか、ギルザが真後ろに立って首を傾げている。
あれだけ騒いでいれば当然か。
アサギの額に冷や汗が流れた、これを見られてしまったら、プレゼントを買うことがばれてしまう。
小さく悲鳴を上げて、慌てふためきながらアサギは首を横に振る。
「ち、違うのです。手紙ではないのです。これは夕飯の買い出しのメモなのです。決して依頼の手紙では」
「・・・はぁ・・・」
「と、というわけでアサギはちょっと急いで夕飯の支度をするのですっ!!」
逃げるようにして城の扉を勢い良く開くと、アサギはそのまま城の中へと消えて行った。
扉が音を立てて閉まるのを確認すると、先程から小刻みに身体を震わせていたギルザの唇から、笑い声が漏れる。
「・・・ぶ、あはははっ!」
腹を抱えて大声で笑い出した。
知ってるんだけどね、全部。
小さく呟いて、笑い続けるギルザ。
まぁ、今は知らないフリをしておこうか。
軽く頭をかきながら、一呼吸して自分も扉を開くと城の中へと入っていく。
そんな一部始終をクレシダは見終わると、また瞳を閉じて眠りについた。
翌日。
依頼者の元に紙とペンを持って、アサギはクレシダに乗り向かった。
青年の自宅の扉を開く。
「あ、あの、アサギですー。ご依頼、本当にありがとうございましたっ。早速ですけど・・・」
「いらっしゃいませ、よくお越しくださいましたね。宜しくお願いします」
丁寧な口調と仕草、目の前の青年は微かに笑みを浮かべてアサギを招き入れた。
ただ、何処と無くその青年は寂しそうな雰囲気で。
・・・儚い深夜の空に浮かぶ三日月のようで。
けれども鋭く光を放ち、存在感のあるその『月』は。
細く細く闇夜に溶けてしまいそうだけれども、光だけは眩いその月のような青年は。
「ええと。あ、アサギと同い年なんですねー」
「そうみたいですね」
薄く微笑む青年。
アサギは軽く瞳を閉じると小さく息を吸い込んだ。
・・・どうか。
どうか青年の・・・。
※ご依頼、ありがとうございますです。
そんな感じで精一杯書かせていただきますです(ぺこり)♪
白い衣装に身を包んだ少女は、儚げに笑う。
鈴の音のような声、澄んだその瞳にハイは思わず言葉を失う。
暫しの沈黙。
「私は・・・ハイ。哀、と言ったな? そなたどうしてこの場所に?」
「わたくしにも・・・わからないのです。愛しい愛しい山脈の麓で眠っていたはずなのですけれど・・・。ここは山脈ではありませんね」
静かに瞳を伏せ、そう呟いた。
軽い溜息の後、哀は舌を少し出して、照れたようにハイに語りかける。
「あのっ。・・・起こして頂けると助かるのです。・・・身体が、動かなくて」
「あ、あぁ。今」
ハイはおずおずと哀の首に左手を滑り込ませ、そのままゆっくりと優しく抱き起こした。
軽い、な・・・。
ハイは長い髪を手で整える哀を見つめ、少し不安げに見る。
ふぅ、と安堵の溜息を吐くと、哀は首を動かし、辺りの様子を見つめた。
「綺麗な、森」
「そなた、これからどうする? 迷い子ならば、私の所へ。食べ物と寝床くらいなら用意できるのだが」
哀はハイの言葉を聴きながらも、目は森林に降り注ぐ陽の光を見つめており、そちらに夢中のようだ。
困ったようにハイはゆっくりと立ち上がる。
不思議な、娘だな・・・。
陽の光から、足元に咲く花へと視線を移し、次は遠くの木々に移し。
ゆっくりと、ゆっくりと、まるでこれらの声を聴くかのように笑みを絶やすことなく見つめる。
「どなたか、みえますね」
「ん?」
不意に哀が呟く。
呟いて、ゆっくりと立ち上がるとある一点を見つめた。
ハイが来た方角である。
ハイも、何者かの気配に気がつき、思わず哀の前に歩み出て、足をゆっくりと前後に開き、両手を胸の前で交差させた。
相手がわからないので、戦闘態勢に入っておく。
数分後、見慣れた姿が二つハイの視界に飛び込んできた。
拍子抜けして思わず構えを解く。
二人の名を呼ぼうとしたが、それは哀の驚愕の声にかき消された。
小さくも、良く通ったその声は、確実に正確な名前を口にしたのだ。
「トビィ様、クレシダ様っ!」
「なっ!? 知っているのか!?」
哀の顔を見下ろし、その表情が驚きと、微かな喜びであることに気がついた。
二人の知り合いだったのか・・・。
ハイは何者か分からなかったこの娘の身を案じていたが、そっと胸を撫で下ろした。
そう、トビィとクレシダが森の中から姿を現す。
あちらもハイの傍らに控える哀の姿に気がついたのか、途中から駆けてきた。
息を切らし、ハイを押しのけてトビィは哀の肩を掴んだ。
「か・・・哀だよな!? どうしてここに」
「お久しゅうございます、哀殿。驚きました。目を疑いましたが・・・ご本人ですね」
慌てるトビィと、自身のペースを崩さないクレシダ。
哀は深く会釈をすると、首を軽く傾げた。
「それが・・・わたくしにも分からなくて。眠っていたはずなのです、山脈の麓で。あ、お元気そうで何よりなのです、トビィ様、クレシダ様」
トビィは、思わず哀を軽く抱きしめると、その頭を優しく撫でた。
・・・久し振りの再会だった。
しかも、以前とは全く別の場所、もとい、次元で。
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |