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白い衣装に身を包んだ少女は、儚げに笑う。
鈴の音のような声、澄んだその瞳にハイは思わず言葉を失う。
暫しの沈黙。
「私は・・・ハイ。哀、と言ったな? そなたどうしてこの場所に?」
「わたくしにも・・・わからないのです。愛しい愛しい山脈の麓で眠っていたはずなのですけれど・・・。ここは山脈ではありませんね」
静かに瞳を伏せ、そう呟いた。
軽い溜息の後、哀は舌を少し出して、照れたようにハイに語りかける。
「あのっ。・・・起こして頂けると助かるのです。・・・身体が、動かなくて」
「あ、あぁ。今」
ハイはおずおずと哀の首に左手を滑り込ませ、そのままゆっくりと優しく抱き起こした。
軽い、な・・・。
ハイは長い髪を手で整える哀を見つめ、少し不安げに見る。
ふぅ、と安堵の溜息を吐くと、哀は首を動かし、辺りの様子を見つめた。
「綺麗な、森」
「そなた、これからどうする? 迷い子ならば、私の所へ。食べ物と寝床くらいなら用意できるのだが」
哀はハイの言葉を聴きながらも、目は森林に降り注ぐ陽の光を見つめており、そちらに夢中のようだ。
困ったようにハイはゆっくりと立ち上がる。
不思議な、娘だな・・・。
陽の光から、足元に咲く花へと視線を移し、次は遠くの木々に移し。
ゆっくりと、ゆっくりと、まるでこれらの声を聴くかのように笑みを絶やすことなく見つめる。
「どなたか、みえますね」
「ん?」
不意に哀が呟く。
呟いて、ゆっくりと立ち上がるとある一点を見つめた。
ハイが来た方角である。
ハイも、何者かの気配に気がつき、思わず哀の前に歩み出て、足をゆっくりと前後に開き、両手を胸の前で交差させた。
相手がわからないので、戦闘態勢に入っておく。
数分後、見慣れた姿が二つハイの視界に飛び込んできた。
拍子抜けして思わず構えを解く。
二人の名を呼ぼうとしたが、それは哀の驚愕の声にかき消された。
小さくも、良く通ったその声は、確実に正確な名前を口にしたのだ。
「トビィ様、クレシダ様っ!」
「なっ!? 知っているのか!?」
哀の顔を見下ろし、その表情が驚きと、微かな喜びであることに気がついた。
二人の知り合いだったのか・・・。
ハイは何者か分からなかったこの娘の身を案じていたが、そっと胸を撫で下ろした。
そう、トビィとクレシダが森の中から姿を現す。
あちらもハイの傍らに控える哀の姿に気がついたのか、途中から駆けてきた。
息を切らし、ハイを押しのけてトビィは哀の肩を掴んだ。
「か・・・哀だよな!? どうしてここに」
「お久しゅうございます、哀殿。驚きました。目を疑いましたが・・・ご本人ですね」
慌てるトビィと、自身のペースを崩さないクレシダ。
哀は深く会釈をすると、首を軽く傾げた。
「それが・・・わたくしにも分からなくて。眠っていたはずなのです、山脈の麓で。あ、お元気そうで何よりなのです、トビィ様、クレシダ様」
トビィは、思わず哀を軽く抱きしめると、その頭を優しく撫でた。
・・・久し振りの再会だった。
しかも、以前とは全く別の場所、もとい、次元で。
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