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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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不穏な空気が少し、晴れた。
取り残された人間の少年達は、互いに顔を見合わせトカミエルを最終的に視線を投げかける。
多勢で攻撃をするのは、男より女の方だ。
やりすぎじゃないか、とアニスを気の毒に思っていた少年も居たほどだったが、見ていただけで仲裁に入ることはなかった。
典型的な『いじめ』である。
潜めき合いながら、少年達はぐったりと今にも崩れ落ちそうな目の前の哀れな妖精を見た。
そんな中、ゆっくり、一歩、また一歩、トカミエルは涙を零し続けるアニスに近寄った。
しゃがみ込んで、トカミエルはそっとアニスの頬に手を伸ばすと、その涙を拭う。
恐怖で、痛みで感覚が麻痺していたアニスだったが、トカミエルを見つめ微かに笑みを零した。
目の前に、待ちわびた人間。
先程の痛みが消えていく。
叩かれた頬、引っ張られた髪と羽、そして囲まれる恐怖、罵声を浴びせられる際の憎悪に満ちた表情、身体と心に冷たく突き刺さった破片が、ゆっくりと抜け落ちていった。

「指輪、拾ってくれたんだよね」

その言葉に、アニスは弾かれたように大きく頷いた。
トカミエルが手を伸ばし、アニスを優しく抱き起こす。
解かって貰えた、トカミエルは、自分を解かってくれた!
アニスはそっと、トカミエルの指へと戻った輝く指輪を、躊躇いがちに優しく撫でる。
愛しそうに微笑みながら、満足そうに頷いてトカミエルに健気に笑った。
それを見て、トカミエルはアニスが人間の言葉を理解していることに気づく。

「・・・ありがとう」

トカミエルは耳元で小声で囁くと、躊躇う事無く一気に引き寄せてアニスを腕で包み込んだ。
驚いて身体を仰け反らせたアニスだったが、顔を赤らめて、トカミエルを見上げる。
腕の中で、満身創痍でそれでも嬉しそうにゆっくりと微笑んだアニス。
解かって、貰えた、トカミエルは、解かってくれた、お礼を言われた。
穏やかに、至福の笑みを浮かべるアニスに、トカミエルの胸が高鳴る。
トカミエルは、腕の中のアニスをそっと、抱き締める。
震えているのは、アニスか、トカミエルか。
早なるこの胸の鼓動はどちらのものか。
徐々に、強く、体温を感じて、お互いの存在を確認するかのように、きつく、硬く寄り添う。

「えーと、トカミエル?」

少年の一人が、遠慮がちにトカミエルに声をかけた。
二人の表情が、再会出来た恋人達のように恍惚めいていたものだから、声をかけるのを躊躇っていたのだ。

「何?」
「その妖精、どうするの?」
「家に持って帰る。オレが飼う」

その場にいた全員が一斉に素っ頓狂な声を上げて、近寄る。
口々に諦めろ、無理だ、何考えてる、否定した。

「気に入った、人間の言葉は解かるみたいだし。大人しいし、可愛いし。何が何でも持って帰って、部屋で飼う」

アニスの髪を撫でながら、トカミエルは子供のように手に入れた新しい玩具で遊ぶかのように、楽しそうに語る。

「どうやって!? オルビス達が大人呼びに行ったじゃないか、無理だよ」
「飼うには大きすぎるよ、人間の女の子と大差ないよ」

トカミエルの腕の中のアニスをしげしげと見つめる少年達。
良く見れば、少女達に引っ張られた衣服は所々破れ、アニスの肌を露出させている。
初々しい、少女の艶めく肌。
少年達は顔を赤らめると思わず気まずそうに視線を逸らした。

「か、可愛いけど、人間じゃないだろ」
「この子を隠しておいて、逃げられたと説明して。後でこっそり取りに戻って、部屋に連れ帰る。マントを羽織らせて羽を隠す」
「いやー・・・ちょっと落ち着けよ」

アニスに触れようと手を伸ばした少年の一人を、トカミエルは触るなっ、と威嚇し、手を払い除ける。
再度静まり返る少年達。
知らずトカミエルの腕の力が強まり、アニスは軽く苦しそうに身じろいだ。
 
「な、何だよ。そんなに怒らなくてもいいだろ。それに妖精、苦しそうだ」
「煩い、これはオレのだ! 勝手に触るな、見るなっ」
「トカミエル、落ち着けって」

・・・何がどうしたというのだろう。
明らかにトカミエルの様子が妙なことに少年達は気がついた。
誰からも見えないように、必死でアニスを覆い隠し、少年達から後退して行く。
敵意を剥き出しにし、仲間である友人達を威嚇しながら、トカミエルは強過ぎる程にアニスを抱き締める。
潰れてしまう位に、強く。

「これはオレのだっ! 絶対にオレのだっ! 誰も触るな、誰も見るな、オレからこれを持って行くなっ」
「わ、わかったよ、トカミエルの妖精だよ。だから落ち着けよ、見ないよ、触らないよ」

トカミエルの瞳が、尋常ではないことに、狂気に駆られた血走った瞳であることに、少年達は気がついた。
森中の木々が、大きく揺れる。
雲間から光が差し込み、パラパラと音を立てて小雨が降り、風が吹き抜けていく。

「狼さんー、熊さんー! 起きて起きて、アニスがアニスが人間に虐められてるよ! 助けてっ」

眠りに就いていた夜の動物達を叩き起こすリス。
老樹の元に集まった小動物たちは、互いに顔を見合わせると一斉に駆け出していった。
泣き喚く椋鳥を叱咤して、皆で一丸となって。

「僕のせいだ! アニスに酷いこと言ったから、アニスは一人で人間に会いにいっちゃったんだよ! どうしよう、どうしよう、アニス死んじゃうよ!」
「助けに行くんだ、まだ、間に合う! アニスは許してくれるから、助けに行こう!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

ウサギがリスが、アライグマがキツネがタヌキが。
鷹が鷲が山鳩が啄木鳥が椋鳥が。
一斉に飛び出していく、大事な妖精のアニスを助ける為だけに。
狼が熊が、猪が目覚め、高らかに咆哮した。
アニスが居なかったので、探しに出掛けた小鹿が見た光景は、人間の少女達に取り囲まれて怯えていたアニス。
慌てて森の奥へと戻って、応援を呼びに来たのだった。
森中の動物達が一丸となって、花畑へと向かう最中、老樹は一人静かに静かに、それを見つめる。

「・・・」

物言わずして、動物達を見つめていた。
あぁ、また、同じだ、と。
花畑の方向で光が、水が、風が揺らいだのを感じ、老樹は微かに未来を望む。
だが、それよりも、強く巨大な波動・老樹には見える。
森の、全ての命を育む地が苦しんでいるのは、灼熱の業火を間近に感じているから。
老樹は、儚く笑う。
寿命は迫ってきていた、最期の、最期の力を掻き集めて、信頼できる者へと託さねば。
身体から、静かに湧き上がる青白い発光体は、か細くゆっくりと天へと昇る。

「あの子を、救いなされ。光と水と風の加護を受けし者」

人間の街へ、街の片隅へ、片隅に居る、三人へ。
老樹は懐かしい故郷を、懐かしい情景を、眼に焼きつかせた人物達を思い描いた。
黒に近い深緑の髪の冷徹な瞳の奥底に隠す、孤独と絶望の中誰よりも癒しを求めた光を。
紫銀の髪の頑固なまでに想いを貫き通す、唯一人の為だけに産まれ生き、護り抜くことを決意した水を。
黒髪の幼さの残る、誰よりも彼女を理解し共に笑い悲しみ泣き、時折叱咤することが出来る風を。
発光体は、消え入りそうなまま、ゆっくりゆっくり天へと昇る。

少年の一人が、足に痛みを感じ、悲鳴を上げた。
気づけば、周りは小動物達に囲まれ、奇声を上げながら鋭利な歯で噛み付こうとしているではないか。
赤く光る無数の瞳に、身体は小さくとも数の多さで威圧感を与える。

「う、うわぁっ!」

一匹のウサギが少年の手に高々とジャンプして歯を突き立てる。

「アニス、逃げて! 飛ぶんだアニス!」

小動物達が口々にアニスの名を呼んだ。
呼吸出来ないほど押し潰されていたアニス、苦し紛れに身じろぐ度に、声が聞こえる。
動物達の声が聞こえる、逃げろ、逃げろ、と。
微かに呼吸をしながら、朦朧とする意識の中、トカミエルを見つめる。
自分を決して離さないトカミエル、あのオルビスのように、こうして身体を寄り添っているけれど。

「なんだ、コイツら」

トカミエルは忌々しそうに舌打ちすると、手頃な石を拾い上げ素早く石を投げつける。
グシャリ。
何かが、柔らかな何かが潰れた音。
片方の腕がはずされ、アニスは必死でトカミエルの腕の中から、今の状態を見る為に瞳を外へと移した。

「え?」

目の前で、リスが。
常に一緒に居たリスが、投げつけられた石に激突して、跳ね飛ばされて地面に落下していた。
ウサギが。
耳を掴まれ振り回され、遠くへ遠くへ、投げ飛ばされた。
アライグマが。
人間の手にしていたナイフで耳を、尻尾を、背中を切りつけられ、倒れ込んだ。
気がつけば、花畑は血塗られた場景へと変貌している。
無数の小さな動物達の死骸、まだ息のある者もいるが、人間達に無残にも足で踏み潰されていく。

「や・・・やめてぇ!!」

無我夢中でアニスはトカミエルの腕から抜け出そうともがいた。

「アニス、飛ぶんだ! アニス!」
「トカミエル、やめて、やめさせて! 私の大事な友達なの、みんな友達なの! お願い、酷いことしないで!」
「アニス、人間に声は届かないからっ! 早く逃げて!」

トカミエルの足元までなんとか必死で駆け抜けてきたリスは、軽やかにアニスの身体をよじ登り、耳元でそう叫んだ。

「アニスっ! はや」

リスと目が合った瞬間、目の前からリスの姿が掻き消えた。
トカミエルの右手がリスを叩いたのだ。
地面に打ち付けられ、身体を必死で起こそうとするリスを、容赦なくトカミエルは踏み潰す。
小さな断末魔が、胸を引き裂く声となってアニスを襲う。

「トカミエル、トカミエル! お願い、やめて!」

止めなければ、双方を止めなければ!
アニスは強く抱き締められた腕の中で、身体を揺さぶり、トカミエルをこちらに向かせようと、注意を引こうともがく。
ゆっくり、静かに、トカミエルは腕の中のアニスを愛しそうに見つめると、何か叫んでいるらしいその唇に、指を這わせ、無邪気に笑った。

「何言っているのか、分からないよ」

顎を軽く持ち上げてそのまま、アニスの唇を自身の唇で塞いだ。
何度も何度も、強く激しく、夢中で貪る様に、口付けを。
―――可愛い愛しい小鳥を手に入れた、腕という名の篭に閉じ込めた

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