別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
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無論火を使わない動物達が焼き菓子など食べたこともあるわけがなく。
人間が作ったものとは思いも付かなかったので、森にはない植物だと思ったようだ。
その甘さに感動して騒ぎ立てるリス達に、空から鳥達と、先程様子を伺っていた鷹も傍に寄ってきた。
皆で突いて焼き菓子を口にし、個々に歓喜の声を上げる。
その騒ぎの中、リスの一匹がアニスの口に焼き菓子を放り込んだ。
口の中でほろり、と崩れて、甘味が広がる。
「おいしー・・・」
ようやく目が覚めたのか、アニスは目を輝かせて残り少なくなった焼き菓子を見た。
食べたいけど、周りの動物達も食べたい。
さぁどうやって残りを分けようか。
「・・・危害を加えるつもりなら、攻撃しようと思ったのだが、そういった気配はしなかったので、つい接近を許してしまった」
腕を組んで少し離れた木の枝から鷹が申し訳なさそうに語りかける。
が、別に謝ることは何も無いのだ、美味しいお菓子を貰えて皆喜んでいるのだから。
アニスは笑って大丈夫だよ、と手を伸ばした。
「トリアはね、優しい人間だから大丈夫だよ。人間って怖いものじゃないよ? こっちへ来て一緒に食べよ」
「アニス、アニス、これまた食べたい!」
「もっと欲しい、もっと欲しい!」
「トリア良い人間だね! だね!」
細かく砕いて、みんなで食べる。
これが人間の食べ物なんだ、小さくアニスは呟くとじっと焼き菓子を見つめた。
トカミエルと一緒に食べたい、そう思ってしまう。
食べていると、みんなが笑顔になれる素敵な食べ物。
何処に行けばこれは手に入るのか。
人間のことが知りたい、もっと知りたい。
そしたらトカミエルに近づける? トカミエルのこと、知ることが出来る?
「あれ? アニスの首に何かついてるよー?」
お腹を適度に満腹にしたリスが身体をよじ登って、銀の鎖を噛んで引っ張る。
キラキラ光るネックレス、鷹が口を開いた。
「それもあの人間が置いていったよ」
石を摘んでアニスはじっとそれを見つめた。
綺麗な色の石は、何処となくトリアを連想させる代物である。
だが、アニスには何故トリアが自分に焼き菓子を、この石を、そして身につけていた布を渡したのかがさっぱり分からない。
それでも、嬉しかった。
「私もみんなに木の実を拾って届けたりするものね。・・・大事な友達には、何かあげるよね。トリア、私のこと友達だと思ってくれたのか、な・・・?」
「そうだといいね、そうだといいね!」
「トリアなら大歓迎だよ!」
友達。
念願の人間の友達。
アニスはそれが嬉しくて、大事そうに首にぶら下がっている石を太陽の光に透かして見つめた。
相手はトリアだ。
トカミエルの双子の弟だ。
もしかしたら、もうすぐトカミエルに会える・・・?
アニスはそんな気がして仕方が無かった。
そう思うだけで胸が締め付けられて苦しいが、それだけではない。
宙に足がついていなくて、ふわふわと舞う綿毛のように軽やかで。
笑みが零れて仕方が無くて、じっとしていられない。
トカミエルに、会いたい。
あの強い眼差しで見つめて欲しい。
あの綺麗な声で名前を呼んで欲しい。
そして一緒に遊んで欲しい。
川で水遊びして、原っぱでおっかけっこして、木に登って・・・花畑で冠を作って欲しい。
アニスの頭上にある、トカミエルが作った花冠は、数日前の物だった。
しかし、何故かしら作りたての生き生きとした冠である。
花畑に捨てられた他の腕輪は萎れて枯れているのに、アニスの頭上のものだけは何ら変化も無く。
そのままの美しさと瑞々しさを保っていた。
それから数日間、あの木の下にはトリアが毎日アニスに、と何かを運んできている。
たまたまアニスがその時間帯に不在の為会うことは出来なかったが、トリアは街でアニスに似合いそうな物を見つけてはクレシダと共に届けに来ていた。
二日目は鉢植えの花を。
三日目にも花を。
四日目はオカリナを。
五日目には再び花を、六日目にも花を。
街で買った花もあれば、トリアが来る途中で摘み取った花もあった。
オカリナが何か検討も付かなかったが、試行錯誤の末、唇をつけて吹くと音が鳴ることが判明した。
あまりにも綺麗な音なので、夢中でアニスは吹き鳴らす。
当然楽譜も何も知らないが、音を聞いてると心が安らいだ。
貰った花達はアニスの傍らで、枯れることなく咲き続ける。
「トリアって・・・アニスのことがきっと好きなんだよね」
オカリナを練習するアニスに隠れて、そう会話するアライグマとウサギ。
悪い人間ではなさそうだが、トリアがアニスを連れて行ってしまう気がして、正直怖い。
このまま仲良くなってしまえば、二人が巡り合ってしまったら。
アニスは着いていってしまうだろう。
それがアニスの幸せなのか、分からない。
月を仰いで、動物達は悲しそうに小さくか細く、消え入りそうな声で鳴いた。
「トリア、お前さ最近何処にいるわけ?」
今日もアニスの元へと行こうとしていたトリアは、自室から出たところでトカミエルに呼び止められた。
怪訝そうに振り返ると、一言。
「別に。関係ないだろ」
「関係なくないんだよ。お前がいないと、ミーアが煩いんだ。何処にいるー、何処にいるーて」
心底嫌そうにトカミエルは肩を竦める。
ミーア、と聞いてトリアも不機嫌そうに唇を噛んだ。
「オレ、ミーア苦手なんだよな。トリア、来て相手しろよ」
「断る。オレもあの女苦手だ」
褐色の肌に、薄紫の長い髪、ミーアという少女はトリアを一目見るなり気に入って、やたらと執拗に付回している。
容姿は美しい、の部類に入るのだろうが何しろ性格が陰湿だ。
トリアが他の少女と話していただけで、後日その少女が怪我をする、等あからさまな嫌がらせをしている。
深い溜息を大げさに吐いて、トカミエルは壁にもたれ掛った。
「で。何してるわけ? 街中でトリアが買い物してる姿が目撃されてるんだけど」
「・・・好きな子が、出来た」
双子の弟が、軽く俯いて微笑みながらそう言ったのを聞いた瞬間、大きく目を見開いてトカミエルは小さくえ、と声を漏らした。
常に一緒に居た弟が初めて見せた、見ているこちらまで心が温かくなるような、笑顔。
感情をあまり表に出さなかったトリアなだけに、トカミエルは動揺を隠し切れない。
「新緑の髪に、深い緑の瞳、凄く可愛らしい子で」
「・・・」
「あの子の傍に、居たいんだ。護ってあげたいんだ。居ると分かるだけでココロが安らぐんだ」
「・・・」
愛しそうに、目の前にその少女がいるかのように、宙を優しく抱きしめるトリア。
笑い飛ばそうと思った。
何一人で盛り上がってんの? ロマンチストだったんだ、意外と。
そう言って、からかってやろうとした。
でも、声が出なかった。
本当に大事そうに一言一言を少女を思い出して愛でる様に言うものだから、真剣すぎて、言えなかった。
余程好きなんだな、それだけは分かった。
分かった瞬間に・・・何故か苛立った。
「緑の髪に瞳? そんな子居たっけ?」
トカミエルが不意に口にした素朴な疑問に答えるわけもなく、トリアはそのまま家を出ていく。
窓からクレシダに乗って出かける様子を見つめ、トカミエルは何故か唇を噛み締める。
おかしい。
行かせたく無い。
無性に腹が立つ。
何故腹が立つ? 弟が幸せそうだから?
わけも分からず、それが更に苛立って唇を血がうっすら滲むほど噛み締める。
何故、何故。
・・・緑の髪と瞳の少女。
トリアの口からその言葉が漏れた瞬間に、湧き上がったこの感情。
気持ち悪い、苛々する。
トカミエルは、気分転換に街へと出かけることにし、マントを羽織る。
「あぁ、トカミエル。トリアは何処だ?」
「出かけたよ、父さん」
「またか・・・仕方ない、トカミエルだけで構わないから付き合いなさい」
出かけようとした瞬間に、玄関から入ってきた父親に行く手を阻まれる。
あまり気分の良くないトカミエルは、不機嫌そうに眉にしわを寄せた。
「そんな顔をするな。美味い物が食べられるぞ。この間富豪が引っ越してきただろう。そこの若旦那さんが、食事会を開いてくれるのだよ」
「うっわー、窮屈そう」
「我慢しなさい。さ、行くぞ」
「えーっ」
無理やりトカミエルを引き摺りながら、父親は豪快に笑った。
有無を言わさず、連行する父親。
畜生、トリア逃げやがって。
ぶつぶつと小声で不満をぶちまけていたトカミエルに失笑し、富豪・ブルトーニュの自宅へと向かう。
用意された広大な土地に時間をかけて建てられた屋敷は、門を潜り抜けて手入れされた庭を通らないと辿り着けない。
庭ではすでに立食パーティが始まっており、トカミエルの友人達の姿も中にあった。
立食なら、予想していたよりも気楽に出来る為、トカミエルは安堵の溜息を漏らす。
不満を漏らしていたトカミエルであったが、料理を腹一杯まで食べると、次第に苛立ちが消えていく。
あぁ、お腹が空いていたから無性にイラついていたんだ。
トカミエルは勝手にそう納得した。
そうだ、でなければあんなに苛立つ気持ちになるのか分からない。
「終わったら森へ遊びに行こうよ」
子供達はこっそりと計画を立てながら、ひたすら口に物を運ぶ。
不意にトカミエルは視線を感じ、手を休める。
あまり良い感じではないその視線に、注意深く、伺いながら相手を探す。
武器屋の息子である為幼い頃から、武術も嗜んで来た。
それゆえ武術も得意な部類に入るので、そ知らぬ素振りでゆっくりと庭を歩く。
・・・見つけた。
黒髪、短髪、自分より一回りほど年上の男が、こちらを見ている。
立ち止まり、睨み付ける様に男を見上げた。
男は屋敷に近いバルコニーから、手すりに持たれて庭を見つめている。
ということは、屋敷の者だろう。
トカミエルの視線の先に気がついたのか、近くに居た父親がそっと小声で男の名を呼んだ。
「あの方が富豪ブルトーニュ家のベトニー様だ。お若いのにかなりのやり手でな」
「すっげぇ悪人面」
「これ、トカミエル!」
「父さんごめん、オレあいつと多分馬が合わない」
白いロングコートをはためかせながら、無機質に細く鋭い視線でこちらを見ているその男。
一体オレが何をしたって言うんだ。
先程消えたはずの苛立ちが蘇って来る。
トカミエルは忌々しそうにベトニーを見上げると、精一杯睨み付け、踵を返した。
この美味しかった料理も、ベトニーが用意したと分かったら、不味くなった。
ほいほい父親についてきた先程までの自分に、嫌気が差す。
「今日は変な日だなぁ」
水のグラスを強引に給仕から奪い取ると、一気に喉を潤す。
トリアといい、ベトニーといい。
別に何もしてきていないのだが、どうにも二人に腹が立つ。
右手の親指の爪を噛みながら、トカミエルは友人達とその場を立ち去り、森へと向かった。
「あれが、自慢のご子息か」
近寄ってきたトカミエルの父親を一瞥し、ベトニーは声をかける。
息子の失態を詫びに来たのだろう、二人が親子だということが簡単に分かった。
軽く憎悪の混じった視線で睨み付けてきた若い男・トカミエルに、別に興味は持っていない。
捜し者をしているので今回このような場を設けたわけだが。
「ろくに挨拶も出来ず、申し訳有りません。もう一人双子の弟がおりますが、今日は何処かへ出かけておりまして・・・」
「別に男に興味は無い。が・・・二人に聞いておいて貰いたいのだが」
「はぁ、何をでしょうか?」
「緑の髪と瞳の娘を知らないか、と」
「はぁ・・・」
「風の噂では貴殿のご子息達がこの町の若者の中心、と。彼らなら同じ年頃の娘をほぼ全員知っているのではないか?」
「それは確かに。最初からこの街におりましたし」
「早いうちに返答を頂きたい」
「分かりました、今夜にでも聞いておきましょう。あの・・・その娘は何を?」
問いを投げかけてから、口を滑らせた、と後悔した。
それ以上ベトニーは何も言葉を発することなく、屋敷の中へと消えていく。
聞かれたくなかった質問だったようだ。
若き富豪も、結局女が欲しい、ただの男か。
※彼氏の仕事が終わらなくて待ちぼうけ中(ほろり)。早く温泉温泉ー!!
人間が作ったものとは思いも付かなかったので、森にはない植物だと思ったようだ。
その甘さに感動して騒ぎ立てるリス達に、空から鳥達と、先程様子を伺っていた鷹も傍に寄ってきた。
皆で突いて焼き菓子を口にし、個々に歓喜の声を上げる。
その騒ぎの中、リスの一匹がアニスの口に焼き菓子を放り込んだ。
口の中でほろり、と崩れて、甘味が広がる。
「おいしー・・・」
ようやく目が覚めたのか、アニスは目を輝かせて残り少なくなった焼き菓子を見た。
食べたいけど、周りの動物達も食べたい。
さぁどうやって残りを分けようか。
「・・・危害を加えるつもりなら、攻撃しようと思ったのだが、そういった気配はしなかったので、つい接近を許してしまった」
腕を組んで少し離れた木の枝から鷹が申し訳なさそうに語りかける。
が、別に謝ることは何も無いのだ、美味しいお菓子を貰えて皆喜んでいるのだから。
アニスは笑って大丈夫だよ、と手を伸ばした。
「トリアはね、優しい人間だから大丈夫だよ。人間って怖いものじゃないよ? こっちへ来て一緒に食べよ」
「アニス、アニス、これまた食べたい!」
「もっと欲しい、もっと欲しい!」
「トリア良い人間だね! だね!」
細かく砕いて、みんなで食べる。
これが人間の食べ物なんだ、小さくアニスは呟くとじっと焼き菓子を見つめた。
トカミエルと一緒に食べたい、そう思ってしまう。
食べていると、みんなが笑顔になれる素敵な食べ物。
何処に行けばこれは手に入るのか。
人間のことが知りたい、もっと知りたい。
そしたらトカミエルに近づける? トカミエルのこと、知ることが出来る?
「あれ? アニスの首に何かついてるよー?」
お腹を適度に満腹にしたリスが身体をよじ登って、銀の鎖を噛んで引っ張る。
キラキラ光るネックレス、鷹が口を開いた。
「それもあの人間が置いていったよ」
石を摘んでアニスはじっとそれを見つめた。
綺麗な色の石は、何処となくトリアを連想させる代物である。
だが、アニスには何故トリアが自分に焼き菓子を、この石を、そして身につけていた布を渡したのかがさっぱり分からない。
それでも、嬉しかった。
「私もみんなに木の実を拾って届けたりするものね。・・・大事な友達には、何かあげるよね。トリア、私のこと友達だと思ってくれたのか、な・・・?」
「そうだといいね、そうだといいね!」
「トリアなら大歓迎だよ!」
友達。
念願の人間の友達。
アニスはそれが嬉しくて、大事そうに首にぶら下がっている石を太陽の光に透かして見つめた。
相手はトリアだ。
トカミエルの双子の弟だ。
もしかしたら、もうすぐトカミエルに会える・・・?
アニスはそんな気がして仕方が無かった。
そう思うだけで胸が締め付けられて苦しいが、それだけではない。
宙に足がついていなくて、ふわふわと舞う綿毛のように軽やかで。
笑みが零れて仕方が無くて、じっとしていられない。
トカミエルに、会いたい。
あの強い眼差しで見つめて欲しい。
あの綺麗な声で名前を呼んで欲しい。
そして一緒に遊んで欲しい。
川で水遊びして、原っぱでおっかけっこして、木に登って・・・花畑で冠を作って欲しい。
アニスの頭上にある、トカミエルが作った花冠は、数日前の物だった。
しかし、何故かしら作りたての生き生きとした冠である。
花畑に捨てられた他の腕輪は萎れて枯れているのに、アニスの頭上のものだけは何ら変化も無く。
そのままの美しさと瑞々しさを保っていた。
それから数日間、あの木の下にはトリアが毎日アニスに、と何かを運んできている。
たまたまアニスがその時間帯に不在の為会うことは出来なかったが、トリアは街でアニスに似合いそうな物を見つけてはクレシダと共に届けに来ていた。
二日目は鉢植えの花を。
三日目にも花を。
四日目はオカリナを。
五日目には再び花を、六日目にも花を。
街で買った花もあれば、トリアが来る途中で摘み取った花もあった。
オカリナが何か検討も付かなかったが、試行錯誤の末、唇をつけて吹くと音が鳴ることが判明した。
あまりにも綺麗な音なので、夢中でアニスは吹き鳴らす。
当然楽譜も何も知らないが、音を聞いてると心が安らいだ。
貰った花達はアニスの傍らで、枯れることなく咲き続ける。
「トリアって・・・アニスのことがきっと好きなんだよね」
オカリナを練習するアニスに隠れて、そう会話するアライグマとウサギ。
悪い人間ではなさそうだが、トリアがアニスを連れて行ってしまう気がして、正直怖い。
このまま仲良くなってしまえば、二人が巡り合ってしまったら。
アニスは着いていってしまうだろう。
それがアニスの幸せなのか、分からない。
月を仰いで、動物達は悲しそうに小さくか細く、消え入りそうな声で鳴いた。
「トリア、お前さ最近何処にいるわけ?」
今日もアニスの元へと行こうとしていたトリアは、自室から出たところでトカミエルに呼び止められた。
怪訝そうに振り返ると、一言。
「別に。関係ないだろ」
「関係なくないんだよ。お前がいないと、ミーアが煩いんだ。何処にいるー、何処にいるーて」
心底嫌そうにトカミエルは肩を竦める。
ミーア、と聞いてトリアも不機嫌そうに唇を噛んだ。
「オレ、ミーア苦手なんだよな。トリア、来て相手しろよ」
「断る。オレもあの女苦手だ」
褐色の肌に、薄紫の長い髪、ミーアという少女はトリアを一目見るなり気に入って、やたらと執拗に付回している。
容姿は美しい、の部類に入るのだろうが何しろ性格が陰湿だ。
トリアが他の少女と話していただけで、後日その少女が怪我をする、等あからさまな嫌がらせをしている。
深い溜息を大げさに吐いて、トカミエルは壁にもたれ掛った。
「で。何してるわけ? 街中でトリアが買い物してる姿が目撃されてるんだけど」
「・・・好きな子が、出来た」
双子の弟が、軽く俯いて微笑みながらそう言ったのを聞いた瞬間、大きく目を見開いてトカミエルは小さくえ、と声を漏らした。
常に一緒に居た弟が初めて見せた、見ているこちらまで心が温かくなるような、笑顔。
感情をあまり表に出さなかったトリアなだけに、トカミエルは動揺を隠し切れない。
「新緑の髪に、深い緑の瞳、凄く可愛らしい子で」
「・・・」
「あの子の傍に、居たいんだ。護ってあげたいんだ。居ると分かるだけでココロが安らぐんだ」
「・・・」
愛しそうに、目の前にその少女がいるかのように、宙を優しく抱きしめるトリア。
笑い飛ばそうと思った。
何一人で盛り上がってんの? ロマンチストだったんだ、意外と。
そう言って、からかってやろうとした。
でも、声が出なかった。
本当に大事そうに一言一言を少女を思い出して愛でる様に言うものだから、真剣すぎて、言えなかった。
余程好きなんだな、それだけは分かった。
分かった瞬間に・・・何故か苛立った。
「緑の髪に瞳? そんな子居たっけ?」
トカミエルが不意に口にした素朴な疑問に答えるわけもなく、トリアはそのまま家を出ていく。
窓からクレシダに乗って出かける様子を見つめ、トカミエルは何故か唇を噛み締める。
おかしい。
行かせたく無い。
無性に腹が立つ。
何故腹が立つ? 弟が幸せそうだから?
わけも分からず、それが更に苛立って唇を血がうっすら滲むほど噛み締める。
何故、何故。
・・・緑の髪と瞳の少女。
トリアの口からその言葉が漏れた瞬間に、湧き上がったこの感情。
気持ち悪い、苛々する。
トカミエルは、気分転換に街へと出かけることにし、マントを羽織る。
「あぁ、トカミエル。トリアは何処だ?」
「出かけたよ、父さん」
「またか・・・仕方ない、トカミエルだけで構わないから付き合いなさい」
出かけようとした瞬間に、玄関から入ってきた父親に行く手を阻まれる。
あまり気分の良くないトカミエルは、不機嫌そうに眉にしわを寄せた。
「そんな顔をするな。美味い物が食べられるぞ。この間富豪が引っ越してきただろう。そこの若旦那さんが、食事会を開いてくれるのだよ」
「うっわー、窮屈そう」
「我慢しなさい。さ、行くぞ」
「えーっ」
無理やりトカミエルを引き摺りながら、父親は豪快に笑った。
有無を言わさず、連行する父親。
畜生、トリア逃げやがって。
ぶつぶつと小声で不満をぶちまけていたトカミエルに失笑し、富豪・ブルトーニュの自宅へと向かう。
用意された広大な土地に時間をかけて建てられた屋敷は、門を潜り抜けて手入れされた庭を通らないと辿り着けない。
庭ではすでに立食パーティが始まっており、トカミエルの友人達の姿も中にあった。
立食なら、予想していたよりも気楽に出来る為、トカミエルは安堵の溜息を漏らす。
不満を漏らしていたトカミエルであったが、料理を腹一杯まで食べると、次第に苛立ちが消えていく。
あぁ、お腹が空いていたから無性にイラついていたんだ。
トカミエルは勝手にそう納得した。
そうだ、でなければあんなに苛立つ気持ちになるのか分からない。
「終わったら森へ遊びに行こうよ」
子供達はこっそりと計画を立てながら、ひたすら口に物を運ぶ。
不意にトカミエルは視線を感じ、手を休める。
あまり良い感じではないその視線に、注意深く、伺いながら相手を探す。
武器屋の息子である為幼い頃から、武術も嗜んで来た。
それゆえ武術も得意な部類に入るので、そ知らぬ素振りでゆっくりと庭を歩く。
・・・見つけた。
黒髪、短髪、自分より一回りほど年上の男が、こちらを見ている。
立ち止まり、睨み付ける様に男を見上げた。
男は屋敷に近いバルコニーから、手すりに持たれて庭を見つめている。
ということは、屋敷の者だろう。
トカミエルの視線の先に気がついたのか、近くに居た父親がそっと小声で男の名を呼んだ。
「あの方が富豪ブルトーニュ家のベトニー様だ。お若いのにかなりのやり手でな」
「すっげぇ悪人面」
「これ、トカミエル!」
「父さんごめん、オレあいつと多分馬が合わない」
白いロングコートをはためかせながら、無機質に細く鋭い視線でこちらを見ているその男。
一体オレが何をしたって言うんだ。
先程消えたはずの苛立ちが蘇って来る。
トカミエルは忌々しそうにベトニーを見上げると、精一杯睨み付け、踵を返した。
この美味しかった料理も、ベトニーが用意したと分かったら、不味くなった。
ほいほい父親についてきた先程までの自分に、嫌気が差す。
「今日は変な日だなぁ」
水のグラスを強引に給仕から奪い取ると、一気に喉を潤す。
トリアといい、ベトニーといい。
別に何もしてきていないのだが、どうにも二人に腹が立つ。
右手の親指の爪を噛みながら、トカミエルは友人達とその場を立ち去り、森へと向かった。
「あれが、自慢のご子息か」
近寄ってきたトカミエルの父親を一瞥し、ベトニーは声をかける。
息子の失態を詫びに来たのだろう、二人が親子だということが簡単に分かった。
軽く憎悪の混じった視線で睨み付けてきた若い男・トカミエルに、別に興味は持っていない。
捜し者をしているので今回このような場を設けたわけだが。
「ろくに挨拶も出来ず、申し訳有りません。もう一人双子の弟がおりますが、今日は何処かへ出かけておりまして・・・」
「別に男に興味は無い。が・・・二人に聞いておいて貰いたいのだが」
「はぁ、何をでしょうか?」
「緑の髪と瞳の娘を知らないか、と」
「はぁ・・・」
「風の噂では貴殿のご子息達がこの町の若者の中心、と。彼らなら同じ年頃の娘をほぼ全員知っているのではないか?」
「それは確かに。最初からこの街におりましたし」
「早いうちに返答を頂きたい」
「分かりました、今夜にでも聞いておきましょう。あの・・・その娘は何を?」
問いを投げかけてから、口を滑らせた、と後悔した。
それ以上ベトニーは何も言葉を発することなく、屋敷の中へと消えていく。
聞かれたくなかった質問だったようだ。
若き富豪も、結局女が欲しい、ただの男か。
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