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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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「・・・ないっ!」

トカミエルの悲鳴が早朝響き渡った。
隣の部屋で身支度をしていたトリアは、怪訝に眉を潜めるが、無視して部屋を出る。
と、同じく部屋を飛び出してきたトカミエルに出くわした。

「トリアっ、オレの指輪見なかった!? ないんだよっ」
「知らない」
「一緒に捜せっ」
「嫌だ、オレは忙しい」
「だーっ、もうっ」

そんな双子の息子達に父親が下の階から呼ぶ。
二人の会話で起床したことを知ったようだった。

「二人とも、朝食だぞー。降りてきなさい」

トカミエルは喚きながら父親の元へと駆けつける。

「父さん、指輪見なかった!?」
「見てないが・・・ないのか? きっと出てくるさ。それより、お前達に聞きたいことがあるのだが」
「何?」

苛立ちながらトカミエルは多分ないけれど、目に付く場所を一通り隈なく捜している。
降りてきたトリアを確認すると、父親はベトニーに昨日言われた通り二人に質問した。

「緑の髪と瞳の娘を知らないか? いや、何だ、ベトニー様が捜しているらしくてな」

横目で必死に家具を引っ掻き回しているトカミエルを見ていたトリア、父親の言葉を聴いた瞬間、硬直する。
反射的に口を開く。

「ベトニー? 誰だ?」
「あぁ、トリアは知らなかったな。この間引越ししてきた富豪ブルトーニュ家の若旦那だよ。昨日トカミエルを連れて食事会へ出向いたら、最後にそう聞かれてな」
「・・・何故捜している」
「さぁ、父さんも突っ込んで聞き様子がなくてなー。知ってるか?」

緑の髪と瞳の娘。
一人だけ、トリアには心当たりがあるわけだが。
知らず、右手に力が入る。
言う必要はない、トリアはそう判断した。
しかし、まさかアニスを捜しているという確証はないにしろ、理由が知りたかった。
富豪が、娘を捜している理由は何処にある?
トリアが唇を噛み締め、俯き気味に「知らない」と呟いた刹那。

「トリアの好きな子が緑の髪と瞳だよね」
「トカミエルッ!」

指輪捜しに没頭していたトカミエルが、そう言い放つ。
弾かれた様にトカミエルを睨み付けると、「ホントの事だろ」と、首を傾げていた。
背中に嫌な汗が流れる。
アニスは人間ではない。
アニスの存在を、街の人間に知られたくなかった。
先日の自分の、トカミエルへの失言を今更悔やんでも仕方がないのだが、悔やまずにはいられない。

「なんだ、トリア好きな子がいるのか?」
「らしいよ。すっごく好きみたい」

トリアの代わりにトカミエルが返事をする。
何も知らないトカミエルを恨んでも仕方がないが、喋り過ぎだ。
アニスが人間ならば、トリアとてアニスの事を話すつもりだった。
だが、違う、人間ではない。

「とりあえず、トリア。その子の事をベトニー様に話して・・・」
「断るっ」

噛み付くように叫んだトリアを、父親とトカミエルは唖然と見つめる。

「その男の目的が分からない以上、彼女の事を話すわけにはいかないっ」
「生き別れの妹捜しとか。昔の恋人捜しとか。そういうことじゃないの?」

そうかもしれないが、だとするならばアニスではない。
ならば、言う必要はない。
しかし、もし。
もしベトニーが妖精の存在を知っているとしたら?
その妖精を多額で取引して、金を稼いでいる輩だとしたら?
その可能性がある以上、アニスの存在を知られる訳にはいかない。
トリアは玄関へと突き進む。

「オレは知らない。何も話すことはないっ」

そう言い捨てて、玄関の扉を開いた。
玄関の前に、白馬に乗った黒髪の男が居た。
トリアを止める為に後を追った父親が、男を見て「ベトニー様」と頭を下げる。

「っ!?」

何故、家の前にいる。
まるで、トリアが緑の髪と瞳の娘を知っている事を分かっていたかのように、その場で馬上からトリアを見ていた。

「・・・お前が双子の片割れか」
「何の用だ」
「緑の髪と瞳の娘を知っているかどうか・・・確認しに来た」
「無駄足だな、オレは知らない」

食い入る様にベトニーを見つめるトリア。
後方で父親が狼狽しているその横を、トカミエルだけが蚊帳の外、というようにすり抜けた。

「指輪、捜してくる」

ベトニーの横を通り過ぎる瞬間、「お前は知らないのだな?」と、馬上から声がしたので、「あぁ、知らないね」と軽く笑った。
躊躇してから、喉の奥で笑うと言葉を続ける。

「トリアは知ってるみたいだけど?」
「トカミエルっ」

双子の弟の怒気を含んだ声に、立ち止まってトカミエルは軽く振り返った。

「嘘は良くないと思うよ」

トリアが、その娘の事をあまり知られたくない様子なのは、トカミエルとて分かっていた。
しかし、昨日からの胸の苛立ちが、消えることなく募って募って、弟を困らせることで発散できそうな気がして。
つい、トリアにとって不利な発言をしてしまう。
トカミエルはトリアを一瞥するとそのまま自宅を出て、友人達がいるはずの中央公園へと駆け出す。

「・・・知っているのか」
「知らない」

ベトニーの問いに、全く頷かないトリア。
父親がトリアの肩を揺さぶって説得しているが、トリアは真っ直ぐにベトニーを睨み付けたままそれ以上何も口を開かなかった。
沈黙が辺りを覆い、緊迫した空気が充満する。
その空間で、ただベトニーとトリアは一歩も引かず、その場に立ち尽くしていた。
雲から一筋の陽の光が、ベトニーに差し込み、トリアの足元の先日の雨で出来た水溜りが風で揺らぐ。

「・・・な、なんか来ちゃ不味かった、かな」

ベトニーの後ろからリュンが顔を出した。
風が、ベトニーとトリアの身体を吹き抜ける。
ベトニーは眩しそうに天から差し込む光を見つめ、次いで水溜りに映るトリアの姿を確認し、風と共に現れたリュンを見て。
口元に笑みを浮かべると、リュンに口を開く。

「お前も知っているだろう、緑の髪と瞳の娘を」
「え?」
「っ!?」

ベトニーの発言にトリアが弾かれたように足を一歩踏み出す。
そうだ、確かにリュンはアニスを知っている。
一番最初に見たのはリュンだ、その後、トリアがアニスに出会った。
驚愕の瞳で自分を見つめるトリアに、確信するベトニー。

「お前達二人が、知っているな。彼女は、何処にいる」

固唾を飲み込み、額から伝わる汗を拭う事無く、トリアは唖然と立ち尽くしたまま・・・。
この男は、何者だ・・・?
キィィィ、カトン・・・。
三人は、何処かで古びた金属が、耳障りな音を立てて動いた音を聞いた。

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