忍者ブログ
別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
[765]  [762]  [763]  [761]  [759]  [756]  [757]  [746]  [758]  [753]  [754
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


すっかり忘れてたーので。
もう、今年になって四ヶ月経過。

ミノル×アサギ×トモハル。

綾鷹たんへ。

本編第三章(だよね?)←おぃ。

ちなみに場所はトモハルとマビルがよくうろついている例の場所です(どこだ)。
最初に出会ったバショだったりとか、色々と。

月が丘、というそうです。
っていうか、一応モデルは某県の星が丘テラス。
あれですね、あなざーすとーりーでの、ミノルの台詞がこっちに繁栄されてます。

「好きな女に簡単に好きなんて言えないんだよ!」

簡単に好きだと言うミノルは、それは、本心ではないんだぜぃ。

トモハルの、マビルとアサギの態度の違いをわかっていただけると嬉しいな、という。

ヒャダイン様にひっくり返ったり(色々と)、何故今年の夏、名古屋のw-inds.は平日なんだとか、Leadは?とか、そんな夜でした。
今日は掃除を一生懸命していたら一日が終わってました、ベランダのハーブの手入れが・・・。
中途半端ー。
困った、なう。なうなぅなぅ。


炎天下。
蝉が元気に鳴いているが、彼らはいつ、寿命尽きるのだろう。
それまで、精一杯鳴き続けるのだろう。
命の期間が短い短い、蝉。
けれども、その期間全力で啼き続け、人間に”夏”を感じさせてくれる。
聴きながら額にじんわりと汗が浮かび上がってきたので、ハンドタオルで押さえた。
木陰に居るとはいえ、当然暑い。
現在気温は何度なのか、アスファルトからも独特の匂いが立ち昇っている。
右手の腕時計を覗き込んだ、予定の時間を一時間半経過。
現在、11:30。
はしゃぐ声が幾度となく通り過ぎていく、今からプールに入る人々だ。
遠くでは、涼しげな水の音と人々の賑わう声が聴こえてきている。
アサギは、困惑気味に電話ボックスへと向かった。
押しなれない番号を、覚束無い指で押し受話器を握り締める。

『はい、門脇です』
「あ、あの、田上です。ミノル君は居ますか?」
『あら、アサギちゃん? ミノルなら出掛けてるわよ』
「そ、そうですか、ありがとうございました」

上ずった声で、ミノルの母親と会話。
ミノルは、不在らしい。
地面を見つめながら、電話ボックスを力なく押して外に出た。
木陰に移動し、花壇に座り込む。
溜息。
力なく、アサギは俯いたまま動かない。
何か、ミノルにあったのだろうか。
二時間の遅刻は、流石に只事ではない。
じわりと身体中に浮かぶ汗、今頃は二人でプールに入っている予定だった。
お腹を軽く押さえる、そうなのだ、当然昼が近いのだった。
13時まで、待ってみよう。
アサギはそう心の中で誓うと、ぎゅっと水着の入ったバッグを握り締めていた。
記憶が朦朧とする中、ふらつく足取りで立ち上がる。
時計は、13:15分をまわった。
アナログ時計の数字はハート型、見間違いではなく13:15。
アサギは仕方なく、人々の楽しそうな声を背にプールを後にする。
楽しみにしていた、プールだった。
ミノルが誘ってくれたプールだった、二人だけのプールだった。
おそらく、初デートだった・・・筈だ。
バッグの中には昨夜作った、ミノル向けのスパイシークッキーが入っている。
切なそうに、再びバッグを強く抱き締めて再び溜息。
ともかく、水分を普及したいと思ったアサギは近くの自販機でジュースを購入。
一気に飲み干すと帰宅しようと足を進める、がせっかく外に出たのだ。
気分転換に雑貨屋でも覗こうか、と足の方向を予定と違う方向へ進める。
向かう先は、人で賑わう月が丘。
この時期ならアイスを売る屋台もあり、大きなデパートからこじんまりとした店まで一気に揃う人気のスポットである。
直様美味しそうな香りが、腹を刺激する。
メロンパンの移動カーだ、アサギもそれを食べる事にした。
小さ目を購入し熱々の出来立てを頬張りながら、ぶらつく。
食べ終えれば、喉の渇きを満たすためにフレッシュフルーツの移動カーにてマンゴージュースを購入。
淡い水色の小さな白いリボンがついたワンピースを靡かせながら、歩くアサギを行き交う人々が振り返って見た。
目立ちすぎる。
が、本人は気にならないというか気にも留めずに歩き続けた。
憂いを含んだ表情が、更に魅力を引き立たせていた。
声をかけようかと相談している男達も、少なくはない。
様々な屋台や移動カーが並ぶ通りには、簡素なテーブルと椅子が設置されており皆そこで昼食をとっている。
ふと。
見慣れた後姿に気がつき、アサギは足を止めた。
手にしていたジュースを無意識に力強く握る、驚きで。

「アサギ?」

声をかけられても、急に振り返ることはなく。
暫し立ち尽くしていたが肩を叩かれたので、ようやく振り返った。

「トモハル」
「一人? 買い物?」

トモハルだ。
手にトモハルお気に入りのスポーツブランドのショップバッグ、どうやらトモハルも買い物していたらしい。
アサギの視線に気付き、軽く笑ってバッグを持ち上げる。

「スニーカー、買いに来たんだ。アサギは?」
「・・・ぶらぶら、かな」

アサギは、微笑んだ。
空になったジュースを、くしゃ、と掴みながら笑った。
自然に笑ったつもりだったのだが、不自然だったらしい。
いや。
トモハルが気付いてしまったのだ、異変に。
二人の間に、沈黙。
気まずくてアサギが近くのゴミ箱に移動し、空になったカップを捨てに行く。
と、トモハルもついてきた。
眉を潜めて、アサギは唇を噛締めたが。

「昼、食べた? 一緒に何か食べる?」
「さっき、メロンパン食べたから」
「そっか、俺まだだからさ、一緒に付き合ってくれない?」

にっこり、とトモハルが笑う。
アサギは、断ろうとしたのだが先手を打たれた。
言葉を言わせないように、なのかトモハルの切り返しは速い。
瞳を伏せて、アサギが困惑気味に視線をトモハルから逸らせば。

「・・・」

ミノルだ。
間違いなく、ミノルがそこにいるのだが。
声をかけたくとも、アサギにはかけられない。
アサギの視線を追って、トモハルがそちらを見つめる。
息を飲んで、唖然と二人、同じ方向を凝視。
ミノルの隣に、誰かがいる。
誰かは知らないが、親密そうだった。
少女だった。
昼食を食べているようだ、サンドイッチらしい。
それに、クレープだろうか。
ポテトもある、ジュースはLLサイズを二人で一つだろうか、ストローが見えた。

「・・・」

アサギもトモハルも、少女が誰なのか検討もつかない。
少女の横顔は、見えるのだが知らない。
トモハルは我に返るとようやく、アサギを見る。
アサギは。
硬直したままだった、泣くも喚くも怒るもせず。
ただ、見ている。
急に、少女の視線がアサギとトモハルを捕らえた気がして。
周囲はざわつくのに、ミノルの声は鮮明に。
少女の声も、鮮明に。
きつめの瞳が印象的な、大人びた少女だ。
ゆる巻きヘアに、ピンクのぼんぼんがついたニット帽をかぶり、エメラルド色したパーカーを羽織った健康的な少女。
キャミソールは胸元が広めで発育良く、下手をするとアサギ以上の谷間かもしれない。
大人っぽい子。
アサギはそう印象を受けた、自分の着ているワンピースが酷く子供っぽく見えた。
突如、胸の鼓動が早鳴る。
急に押し潰されそうな圧迫を感じ、アサギは顔を顰めた。
と、少女がこちらを見た気がした。
そして、笑った感覚になった。
気のせいかもしれない、が、トモハルが顔を顰める。
そう、確かにその少女は笑ったのだ。
くすくす、とアサギを捕らえて笑ったのだ。
アサギの後方から見ていたトモハル、思わず嫌悪感。

「キス、する?」

少女の声。
アサギが弾かれたように一歩後退、危うくトモハルと接触しそうになるがトモハルも一歩後退。
何を言っているのか解らなくて、アサギは思わず自分の腕を掴む。
震える身体を、押さえる為に無意識にとった行動だった。
祈る気持ちで、トモハルは思わずミノルを見た。
あれは、誰だ。
ミノルに限ってそんなことはないだろうが、何故、ミノルは二人きりであの少女と共に居るのだろう。
親密な事くらいは、判る。
問題は”何故それがアサギではないか”、だ。
アサギという恋人が居るにもかかわらず、休日に何故別の少女と?
トモハルは混乱した、しかし当事者のアサギの心痛さなど計り知れず、アサギの揺れる髪を見つめる。

「実君、好き」

そこだけ、異空間のようだった。
見知らぬ少女の声が、アサギとトモハルの耳に届いた。
聴きたくもないのに、耳元で叫ばれているように鮮明に届いてしまう。
少女が笑ってそう言って、ミノルの口元についていた何かの食べカスを、指でとってから嘗めて悪戯っぽく笑う。
赤面したトモハル、羞恥心からではないそんな行動を許してしまうミノルに腹が立ったのだ。
親密な、どうみても行為のある二人の関係。

「実君、私の事好き?」

瞬きしながら近寄っていく少女、思わず歯軋りしたトモハル。
ワザとらしい・・・! ざわり、と背筋が蠢く。
あれは、素ではない演技だ。
騙されるなミノル、と心の中で叫び続けるトモハルだが。
呆気なく、拍子抜けするほどにミノルはだらしなく笑みを浮かべながら返答したのだ。

「あぁ、好きだよ」
「実君、すっごく可愛い彼女いるよね。私、彼女になれないよね」
「あぁ、なんだ、知ってたのか。でも、それ誤解。アイツ、彼女じゃないから、問題ない」
「そうなの? あの子だよ、この辺りで皆男の子虜にしちゃう、あの子だよ?」
「可愛いからっていい気になってるけど、俺は憂美のほうが好きだし、可愛いと思う」


グシャリ。
トモハルの掴んでいた、ショップ袋が音を立てて捻り潰される。
何を言ってるんだ、あの馬鹿な幼馴染は。
危うく突き進んでミノルの頭を殴りつける勢いで、トモハルは呼吸を荒くしながら必死に震える身体を押し殺す。
何故ならば、アサギが。
アサギは。
表情は見えないが、微動だしていなかった。
怒っているのか、泣いているのか分からない。
判らなくとも、心が悲鳴を上げていることくらいは、判るがトモハルには何をして良いのか分からず。

「じゃあ、私実君の彼女だー」
「あぁ、カレカノ」
「ね、キスしよっか」


瞳を閉じているのかもしれない、耳を塞ぎたくて立ち尽くしているのかもしれない。
弾かれたように、トモハルはショップ袋を地面に落とした。
トサ、と音がしたが雑踏の中。
ミノルは、気がつかない。
こちらになど、気付くわけがない。
嬉しそうに、そっと互いの顔を傾けながら。
憂美、と呼ばれていた少女がアサギとトモハルを見て笑いながら。
唇が近づくのを、トモハルは見ていた、見ていたくなくて、顔を背けたが腕は正常に動いていた。
アサギの瞳を覆い隠すように、背後からそっと腕を伸ばして抱え込む。
決して身体には触れることなく、ただ、視界を腕で覆い隠す、掌で隠し通す。
声は、聴こえてしまうだろう。
が、せめて目の前の光景からは逃がしてあげたかったのだ。
抱き込まなかったのは、自分はアサギの恋人ではないから。
まして、想い人でもないから。
一時噂にもなった二人だ、目立つ二人、美少年と美少女。
仲も悪くはない傍から見ても見栄え良く、絵になる二人。
けれども、”可愛い”と”好き”は違うのだ。
いくら美少女でも、見ていて楽しくても心が求めるものは違う。
それは、恋ではなく。
気の合う二人、対の勇者、優秀な生徒、同星の勇者・・・信頼する”仲間”。
つ、と。
アサギの瞳から大粒の涙が零れ落ちていたのだが、トモハルは何も言わず。
ただ。
人混みの中で背後から目隠しをし続ける、それしか思いつかなくて。
何分、そうしていたのだろう。
通り過ぎる人々がこちらを見ていても、気にしない。
ひたすらトモハルは、そのまま微動だしなかった。
やがてミノルと憂美は、立ち上がって何処かへと。
ゴミを道路に落としても、拾うことなく分別もせずにゴミ箱に面倒そうに押し込んで。
顔を顰めるトモハル、おそらく少女のほうがゴミに対して無頓着だろう。
皆で出かけて面倒でもアサギに言われて、ミノルは今までは分別していた。

「知ってた、アサギ?」

自分でも驚くほどの優しい声で、落ち着き払った声でトモハルはようやく呟く。

「俺の手、けっこう大きいだろ?」

微かに、指を動かして隙間を空ける。
前方に、ゆっくりとミノル達がいないことを確認させているのだ。

「・・・うん。おっきいね」

そ、と冷え切ったアサギの指先がトモハルの掌に触れる。
被いを外すようにゆっくりと、下げていくがアサギは振り返らない。
下げていくと、無意識にかアサギは右手を素早く動かした、涙を拭いたのだろう。
数分の、間。
鼻をすする音がしていたが、急にアサギはトモハルの腕を大きく開いて囲いから飛び出すと気まずそうに一瞬だけ振り返る。
泣きはらした瞳が、トモハルの脳を強打した。
僅かな瞬間だけだが、酷く痛々しく、見ていられないほど弱々しく。
魔王を倒した、勇者様とは思えない。
そうだ、目の前の彼女は勇者ではなく普通の少女だ。

「ちゃんと、ご飯食べるんだよ? 私はちょっとここまで来たから良く行く服屋さんに・・・」
「あぁ、前言ってた安く服が買える店? 参考程度に俺も行こうかな」
「・・・と、思ったけどあんまりお金ないから帰ろうかな」
「そうか、じゃあね」
「うん、またね」

ぺこり、とアサギはお辞儀をすると早足で人ゴミの中へと消えていく。
溜息一つ、トモハルは地面の袋を拾い上げるとそのまま・・・追いかけた。
一定の距離を置いて、二人は歩き続ける。
アサギも後方のトモハルに気がついたが、怪訝に眉を顰めて振り返ることなく歩いた。
一人になりたい気分なのに、何故ついてくるのか。
落胆している姿を見られたくないというプライドもあるのだろうが、多少混乱している頭は整理が出来ずに何をして良いのかアサギには判らない。
失恋した、ということは判る。
別に好かれていなかったことなど、数年前から知っていた。
勢いで告白したら、何故か受理された。
受理されたのは、空いていたから、だろうと今になってようやくアサギは気付いた・・・基。
”考え付いた”。

「私・・・いい気になってなんか・・・」

いないよ、と唇を動かす。

「私・・・彼女じゃないのも・・・」

知ってたよ、と唇を動かす。
そう、ミノルに「好きだ」と言われた記憶は一度もなかった。
先程、憂美に『好きだよ』と言っていたミノルを思い出す。
人は、好きではないものを好きだと言う時、僅かに拒むだろう、躊躇するだろう。
すんなりと、自然に告げていたミノル。
それが、答えなのだろう。

「・・・とても・・・綺麗な・・・子だったな・・・。大人っぽい・・・子だったな・・・」

右肩のバッグが、重い。
水着と、タオルが二枚に日焼け止めとお財布にクッキー。
そう重いはずはないが、異様に重く感じられる。
期待と興奮が詰め込まれていた、朝までの荷物が、非常に重圧だった。
早く家に帰ろうと思ったが、方向は逆だった。
普段、ユキとはしゃいで覗くお気に入りのお店も、今は興味が湧かない。
約束したのはミノルなのに、何をしているのか、など気にならない。
約束をしても、忘れられてしまうほど自分は軽い存在なのだと解釈。
それは確かに、好きな彼女とどうでもいい自分とでは、雲泥の差をミノルがつけても仕方がないだろう。

「知ってた、判ってた、はず・・・なのにな・・・」

嫌われていた事など、とうに、理解していた筈なのに。
何故、自分は告白して、傍にいてもらったのだろうと後悔。
知らず足が速まる、足がもつれて転びそうになり、情けなくて涙がじんわりと瞳に浮かんだ。
後方から聞こえる、トモハルの足音が微妙にイラつく。
ふい、っと横にそれて歩くが案の定トモハルはついてくる。
ビルの隙間を、歩いていくと・・・何処に出るのだったか。
行き止まりではないことだけは思い出せたが、上手く脳が回転してくれない。
思い出すのは、先程の美少女。
先程の美少女と、ミノル。

『お高くしてるとこ、優等生ぶってること、自分が正しいと思ってること。誰にでも好かれてると思っているとこ、などなど』
『嫌いなもんは、嫌い。大嫌い。俺は田上浅葱が大嫌い』


あれは、いつだったか。
去年だった、トモハルを尋ねて行ったらミノルが自分の事を嫌いだと、はっきりと叫んでいたのを偶然聴いてしまった。

「お高くなんか、してないよ・・・。優等生なんかじゃ、ないよ・・・。正しいなんて、思ってないよ・・・。誰にでも好かれてるなんて・・・思ってないし、ない、し・・・」

歩きながら、大粒の涙が零れて零れて必死で手で拭う。
そっと、バッグからハンドタオルを取り出して汗を拭くような素振りで涙を拭いた。
誰にでも好かれてるなんて思っていたら、もっとミノルに積極的に話しかけてたんだよ。

「ミノルが、私の事を嫌いなの、知ってたもん」

言葉にしたら、涙が更に溢れて溢れて嗚咽が漏れる。
当時の状況が甦る、足が震えて、それでも精一杯トモハルに会いに行った。
あの場で逃げたら、トモハルも周囲の皆も困っただろうから、必死に歩いた。
笑顔で、聴かなかった振りをした。
あの時、初恋は終わったのだと思ったがそれでも何故かミノルを目で追った。
そして、一緒に勇者になった。
勇者になって魔王を倒して、地球へ帰る前に感極まってミノルに告白したのはつい最近のこと。
唐突でミノルは、面食らって間違って頷いてしまったのだろう。
いや。

「・・・頷いてなんか、なかった・・・よね・・・そういえば」

あの時の必死だった自分が、都合良く解釈していた事にアサギは今”気がついた”。
砂塗れ、血塗れ、魔物の体液、視界もおぼろげでなにより異常な興奮状態にあったあの日。
ミノルは、引き攣った笑みを浮かべていたことを”思い出した”。
嘲笑、『コイツ、何言ってんの?』と、蔑んだ瞳で自分を見ていたミノルが、頷くわけなどなかったのに。
何故、自分はミノルが”頷いた”と、思い込んでいたのか。

キィィィ、カトン・・・。

音が、聞こえる。
だが、アサギは気にも留めなかった。
聴覚など、現在意味を成さない。
耳は雑音が常に纏わりついている、何処へ向かっているのかすら解らないので周囲の音など気にならない。
視覚さえあやふやだ、信号があったなら、道路を横断しなければならなかったのなら、アサギは下手すると車に撥ねられていたかもしれない。
幸い、ここは車両は入って来られないので安心だ。
眩暈がしてアサギは思わず壁にもたれかかりそうになる、足がふらつく。

「少し、休んだら?」

慌てて駆け寄ってきたトモハルによって、アサギの身体は支えられた。
放っておいて、そう言いたくて唇を動かしたが口内が乾き切っていて声が出てこない。
アサギの胸に、黒い影が落ちる。
駄目だ、トモハルが・・・邪魔だ。
放っておいてくれても、自分は平気だし、そのほうが気も楽なのに。
物言いたげにトモハルを見上げようとしたのだが、俯いていた為か太陽の光が痛いくらいに眩しくて思わず瞳を瞑る。
トモハルに引き摺られるようにして、木陰のベンチに座らされたアサギ。
隣にトモハルが座り、額に冷たいペットボトルが押し当てられる。

「・・・おうち、帰らないの?」

ようやく声を絞り出したアサギ、トモハルは軽く笑って返答しなかった。
何をしているのだろう、トモハルは。
きっと慰めようとしてくれているのだろうとは思ったが、放置されたほうがアサギは楽なのだ。
何も言わないトモハルに、無性に腹が立ってきたようなアサギ。
胸の中が真っ黒で、何も悪くないトモハルに八つ当たりをしてしまいそうな自分がいて、そこにも更に嫌悪感。
混沌の渦に巻き込まれたアサギは必死に歯を食いしばった、震える拳を握り締めた。

「腹減ったなー」

唐突に、トモハル。
怪訝に見上げたアサギ、放っておいて食べに行けばいいのに、と恨めしそうに睨みつける。
すると、ようやく二人の視線が交差した、気まずそうに慌てて視線を逸らすアサギだが。

「腹減ったなー、何か食べるものないかなー」

この付近はランニングコースで店はない、食べ物など売っていない。
観れば解るのに何をトモハルが言っているのか、アサギは解らなかった。
腹を擦りながら、トモハルは力なく肩を落とし情けない声を出す。

「アサギ。食べ物、持ってない?」
「え?」

下から覗き込まれた、予期せぬ振られ方に狼狽し言葉に詰まる。
が、トモハルは笑顔でアサギのバッグをそっと取ったのだ。

「なんか、良い匂いがするんだよねー」
「え、あ・・・」

匂いなど、するわけがないが確かに食べ物は入っている。

「これ、食べてもいい?」
「え、う、うん・・・」

ハート柄の紙袋を、トモハルは取り出して無邪気に微笑んだ。
思わず頷いたアサギ、後悔もしたが、コレで良いのだと思い直す。
ミノルに作った、クッキーだ。
昨日購入に走った、可愛らしいハート柄の紙袋とお揃いのシール。
昨夜ミノルを想い賢明に作った、甘さ控え目のクッキー。
それは、楽しい時間だった。
その時の自分は、笑みが零れて頬を染めて、幸せ一杯だった。

「いただきまーす」

トモハルは紙袋を開けて、一枚、クッキーを取り出すと口に投げこんだ。
歯で割られる音が、妙に響く。
二枚、三枚、四枚・・・。
ハート型のクッキーが、次々にトモハルの口に放り込まれていくのをアサギはじっと見ていた。
最後の一枚が口に投げ込まれ、何度か噛んでいたのだが音を立ててクッキーを飲み込んだトモハル。
先程のペットボトルの蓋を開けて、一気に飲み干すとアサギに軽く微笑んだ。

「手作りだね、これ」
「う、うん」
「あんまり、俺の好きな味じゃなかったな」

なら、食べなきゃよかったのに。
近くに池があるから鯉にでもあげられたのに・・・と、ムッとしてトモハルを睨みつけるアサギだが。
空を仰いで、虚しそうに笑ったトモハルは。

「まぁ、当然だよね。これ、アサギが一生懸命誰かを想って作ったんだから。俺の口に合うわけがないんだよね。
・・・勿体無いね、食べなかった奴は。アサギの想いがたーくさん詰まってたのに」

ごちそうさま。
告げてトモハルは、そっと指についていた粉を払う。
紙袋を丁寧にたたむと、背もたれに腕をかけて空を仰いだ。
暫し二人とも、そのまま。
トモハルは通り行く人々を軽く見つめながら、空を仰いでいる。
アサギは。

ぽた。

スカートに、涙を零した。

ぽたた。
大粒の涙が、零れる。
嗚咽が、漏れるが止められない。
必死に堪え、スカートを握り締めるがそれでも涙は止まらない。

「一人で部屋で泣くより、広いところで泣いたほうが後で楽だよ。引き摺らなくて済むから。・・・どっちかっていうと俺も一人で居たい派だからさ」

ぼそ、とトモハル。
言われてアサギは微かに頷いた、確かにそのほうが楽かもしれない。
晴天の公園、隣にトモハル。
アサギは泣いた、通り行く人々が自分を見ていたようだがそれでも声を張り上げて泣いた。
タオルで口元を押さえて、身体を震わせて、体温が上がるのを感じながら泣いた。

「ごめ、ごめん、ねっ、トモハ、ル!」
「何が」

聞き取り難いが、確かにアサギはトモハルの名を呼んだ。
肩を竦めて、トモハルはぎこちなく微笑む。

「ごめ、ごめ、ごめん、ねっ」
「対の勇者だろ、俺達。・・・大事な、友達だよ」
「あり、ありが、とっ」

トモハルは、そっとアサギの肩を叩いた。
アサギが泣き止むまで、その手を動かさなかった。
肩越しに伝わる、トモハルの手の暖かさがアサギを安堵させる。
早く泣き止まないとトモハルに悪い、と思ったがなかなか涙は止まらない。

「たくさん泣く分、好きだったってことだよ」

囁くように隣で呟くトモハル、更にアサギはしゃっくりを上げる。
ようやくアサギが涙を流しきった頃、夕方になっていた。
池の水面に赤い光、落ちていく太陽、切ない夕暮れ時。
ぼんやりと、アサギは太陽を見つめていた。
涙でまだ滲むが、すっきりした気分でも有る。

「行こうか、アサギ。おうちの人が心配するよ」
「うん・・・ありがと」

立ち上がったトモハルは大きく伸びをする、アサギはぎこちなく笑うとそっと立ち上がった。
穏やかな笑みを浮かべて、困惑気味に顔を赤らめているアサギの目はウサギの瞳の様に赤い。

「本当に・・・ありがとう」
「一人で、抱え込まないように。俺達、仲間だろ?」

眩しい笑顔を見せたトモハル、おずおず、とアサギは頷いてようやく笑みを零す。
ぎこちなくもあったが、それでも笑顔に変わりはない。
二人は、帰宅した。
会話はないが、それでもアサギは安心出来た。
トモハルは丁寧にアサギを自宅まで送り届ける、その様子を近所の亮が見ていたのだが二人は気付かず。
亮も、様子を察知し声をかけることをしなかった。
ミノルではなくて、トモハルが隣に。
泣きはらしたアサギの瞳を見れば、なんとなくだが予測がついたのだ。
亮は、そっと家に戻ると部屋のベッドに寝転んでいた。
ミノルと喧嘩したのか、それとも・・・別れたのか。

その夜、トモハルは自室でサッカーボールの手入れをしていたのだが窓を叩く音に怪訝に顔を上げる。
身を乗り出してミノルが上機嫌で手を振っていたのだ、思わず歯軋りしたトモハル。
昼には怒りがそこまで湧き上がらなかったのだが、アサギの気持ちを汲み取ると非常に腹立たしく。
何を気安く話しかけてきているのかと、怒鳴りたくなるが不機嫌そうに窓を開けた。

「よ! 邪魔するな」
「・・・何だよ、いきなり」

隣同士の二人の家と部屋、窓からひょい、とミノルは乗り込んできた。

「別に、遊びに来ただけだけど?」
「俺、忙しいんだけど観ての通り」
「ボール磨いてるだけじゃねーか」

機嫌が良いので何事もおどけたように返事を返すミノルが、更に苛立たしく思える。
勝手にベッドに腰掛けて寝転んだミノルを、トモハルは放置した。
口を開けば怒鳴り散らかしそうだと思った為だ、懸命に沸き上がる怒りを堪えているのに。

「なぁ、トモハルってキスしたことあるか?」

思わず手を止めたトモハル、唇を噛締めトモハルはミノルを挑むような視線で見つめるがミノルは天井を見ていた。
横顔からも解るとおり、締まりのない口元。

「あるわけないだろ・・・俺、”彼女”いないから」

故意に単語を強調する、ボールを磨く手に、知らず力が籠もる。

「あ、そうだよな、だよなー」

自慢したいのだろう、ということはトモハルにも解った。
だから、切り替えしたのだ。

「アサギとキスしたわけ? で、上機嫌なわけだ?」

そんな筈はないと解ってはいる、が、あえてこう言ってみた。

「え、いや・・・」

案の定、口篭ったミノル。
流石にアサギではない少女とキスをした、とは言えないらしい。
それもそうだろう、ミノルとアサギは付き合っている。
仲間内なら、誰でも知っていることだ。

「よくアサギに、キスさせてもらえたよな」

はっきりしないミノルにボールを磨く手を止めず、怒気を含んだ口調で吐き捨てるように告げたトモハル。
不思議そうにミノルはトモハルを見た、引き攣った笑みを浮かべて首を竦める。

「何怒ってんの、お前。俺が先にキスしたのが屈辱的とか?」
「俺は別に怒ってない、俺は確かにまだキスしたことがないけど屈辱感なんて感じない」
「言う割りに、気にしてねーか、お前? 優等生のモテモテトモハル君、お隣のミノル君にキス体験を先に越されて劣等感中ー、みたいな」

ダン!

トモハルが、床を拳で殴りつけた。
怒りを露にした表情でミノルを見上げると、小刻みに身体を震わす。

「俺には”彼女”がいないんだ、キスしてなくて当然だろ!?」
「そりゃ・・・そうだけど」

ミノルは、昼間の一部始終を見られていたことを知らない。
一体トモハルの機嫌を、何が悪くしているのか検討もつかなかった。
気まずそうに空気の淀む中、すごすごとミノルは窓から部屋に戻る。
トモハルは、何も語らなかった。
怒涛の勢いでミノルを問いただそうかともしたが、トモハルはしなかった。
暫くして、ミノルの部屋から話し声が聞こえてきた。
電話をしているようだ、弾む声の相手は昼間の少女だろう。
舌打ちし、トモハルは壁にボールを投げつけていた。
歯痒い。
全部ぶちまけてしまいたい。
何が、どうなっているのかが知りたい。
だが、ミノルは・・・自分の幼馴染で親友だと思っている男はそんな二股するような卑怯な男ではないとトモハルは信じていた。
信じていたから、二股ではないと、何かの行き違いでアサギとは別れていたのだと・・・思いたかった。
だが、もしそうならミノルは先程自分に告げたはずだ。
『俺の今の彼女はアサギではない』
・・・と。

「何・・・やってんだよミノルッ!」

キィィィ、カトン・・・。

何かが、音を立てた気がした。

数日後。
トモハルはケンイチとダイキ、それにユキとアサギを誘ってプールへ行こうとした。
無論アサギ以外は大賛成で行く事にしたのだが、やはりアサギは先日を思い出すためか辞退。
ユキにのみ状況を話し、アサギと一緒に涙を零してくれたユキにも申し訳ないと頭を下げて丁重に断った。

「ごめんね、トモハル。折角・・・誘ってくれたのに」
『いや、ごめん。俺こそ・・・そうだよな、プールに行きたいわけじゃないよな』

アサギは、ミノルとプールに行きたかった。
プールに行けなかったから、の埋め合わせはトモハル達では出来ない。
結局四人はプールに出かけるらしい、アサギは一人家を出てぼぉ、っと自転車で何処かへ行こうとしたのだが。

「よ!」
「ミノル」

自転車を庭から出したところで、ミノルに遭遇した。

「どっか行くのか? 新しいゲーム買ったからうちで一緒にやらねぇ?」
「え? ゲーム?」
「そ。トモハル達連絡つかねぇし」

混乱する中、アサギは必死で脳を回転させる。
つまり、彼女とは会えない日なのでトモハルと遊ぼうとおもったが留守・・・そうだろう、プールに行っている筈だ。
暇だから最終的にアサギに回ってきた、というところだろう。
アサギは、ぎこちなく微笑み震える手で自転車を推し進める。

「えと・・・用事があって・・・」
「一人でかよ? 一人ならたいしたことねぇだろ、来いよ」
「で、でも、その」

用事など確かにない、だが、彼女が居るミノルと二人で居てもいいものなのかがアサギには解らなかった。
そして何よりどう接していいのかが、全くアサギには解らなかった。
しかし、ミノルは怒気を含んだ声で荒立てる。
アサギは、怯えた様子で静かに、引き摺られるように頷いた。

「後ろ、ついて来いよな」

二人は自転車でミノルの家を目指す、アサギは途中のミラーに映った自分を見て顔を顰めた。
胸元と裾にレースをあしらった黒のコンビネゾン、後ろの腰には大きなリボンがついている。
もう少し、大人っぽい服装にしておけばよかった、と後悔したのだ。
非常に似合っていた、子供っぽくなど見えないのだが今のアサギにはレースやリボンが酷く幼稚に見えるのだ。
自分を恥じるように顔を伏せて、力なくアサギはミノルの後を追った。
何故か声がワントーン高く興奮しているミノル、家には誰もいないと説明されてますます強張るアサギ。
ミノルにしては珍しく、コップとジュースを持ってきてくれて二階のミノルの部屋でゲームを開始。
説明を受けるが、気が気ではない。
上の空で、何度やってもミノルに当然勝てない。

「ミノルに、ゲームじゃ勝てないよ・・・。上手だもん」

空気が重苦しく、アサギはぎこちなく笑う。
どう接すれば良いのか分からない、簡単に勝てるからつまらなくてミノルの機嫌を損ねていないか不安なアサギ。
隣のトモハルの部屋を無意識に覗き込んでいた、早く帰宅しないだろうかと、視線を送っている。

「こうすんだよ、こう」
「え?」

急に隣のアサギを引き寄せて、背後から抱える形でコントローラーを二人で握る。
硬直。

「こう、こうすると早く動くから・・・」

アサギの顔を愉快そうに覗きこんだミノルとは裏腹に、アサギは強張った表情で唇を噛締めている。

「返事は? 解ったのか? 本腰入れてプレイしてくれねーと、俺がつまんねーんだけど。アサギなら上手く出来るだろもっと」
「う、うん、が、頑張るね・・・」

身動ぎし、ミノルから離れたアサギは再びぎこちなく笑った。
その顔が、僅かに青褪めていた。
ミノルは、あからさまに顔を顰めていた。
二人は再びゲームを開始する、口数少なく。
ふと、ミノルはアサギの横顔を見つめていた。
ドクン、と先程の熱っぽいアサギの体温を思い出し身体の芯が熱くなるのを感じた。
綺麗な横顔、何故か憂いを帯びたアサギの顔、唇が妙に気になってミノルは喉を鳴らす。
そう、トモハルに言ってしまったのでアサギとキスをするつもりだった。
キスなど、もう慣れていると思っていた、
毎日憂美のキスをしていた、仕方だってもう解る。
無論、軽いキスだが顔の近づけ方や、どう引き寄せるのか、など・・・慣れた筈だった。
が、実際目の前にアサギがいると、ミノルは何故か緊張する。
おまけに今日のアサギは、いつものような明るい笑顔がなく妙に元気がない。

「あ、勝てた」

はにかんで、アサギがミノルへと首を動かしたその時。

「ミノル・・・?」

何故かミノルが異様に顔を近づけていたことに気付いたアサギは、驚いて一歩後退するように床を腕で押し座ったまま移動。
だが、そっとミノルは近寄ってくる。
思わずアサギは、そのまま逃げるように身体を引き摺った。
鋭い視線と、何故か荒いミノルの呼吸。
速まる胸の鼓動、震える身体。
アサギの腕が、何かに引っかかった。
床に転がっていたミノルの鞄だ、バランスを崩して床に倒れ込むアサギ。

「きゃ」
「あぶねぇ!」

倒れ込んだアサギの上に、助けようとしたのだろうがミノルが覆い被さってくる。
身体が密着した、赤面し慌てて離れるミノルと、下で蹲り震えるアサギ。

「い、痛くなかったか? 俺の部屋の床、絨毯とかないからさ、痛いだろ」
「だ、大丈夫」

ぎこちなく笑い、胸を撫で下ろしてアサギは起き上がろうとした。
だが。
一旦は離れた筈のミノルが再び近寄ってきたのだ、挑むような視線で再び上に。
思わず瞳を閉じて、身体を縮こませるアサギは、震えている。

「アサギ」

ミノルが名を呼ぶ、荒い呼吸がアサギの顔の直ぐ傍に。
ふ、っとアサギの耳を何かが掠った、思わず声が。

「ひゃん」
「っ、へ、変な声出すなよっ!」

慌てふためいたミノルの声、恐る恐る瞳を開けると、ミノルが手を伸ばしている。

「ほら、早く起き上がれよ」

その手を、アサギはじっと見たのだが摑まっていいのか困惑する。
妙にミノルが優しい気がして、怖い。
アサギは、手には摑まらず自力で起き上がった。
それが、ミノルには腹立たしい出来事、当然だ。
恥ずかしかったがしてみたかったので、ミノルなりに勇気を振り絞った。
それを跳ね除けられたのだ、可愛らしく摑まってくれるものだと思って居た。
というよりも、『憂美なら、そうしてくれたはずだ』と思ってしまった。
だが、アサギはアサギであまりミノルに接触しては彼女に悪いのでは、と思っていたのである。
自分の立場を弁えるべきだと、そう考えた。
そもそも、二人きりでこうして遊んでいてよいものなのか同かもアサギには解らなかった。
少なくとも、アサギはミノルが好きだった、あの少女になんだか後ろめたい気がするのだ。
ミノルの舌打ちが聴こえる、爪を噛んでいた。
気まずい空気が流れ、アサギは我慢の限界で立ち上がろうとする。

「あ、あの、やっぱり私行くトコがあるから・・・」
「待てよ」

右手を、強引に掴んでミノルは乱暴にアサギを壁に押し付けていた。
ドン、と勢い良く押し付けられれば当然頭部を壁に打つ。
軽く呻いてアサギは痛そうに瞳を硬く閉じたのだが、ミノルの唇が間近に迫っていたため反射的に首を大きく横に曲げていた。
キスをしようとしていることが、なんとなくアサギにも本能で解ったのだ。
身体を引き攣らせ、必死に首を曲げて逃げようと。
知らず、涙が零れていた。
哀しいのか悔しいのか、感情すら何か解らず。
何故ミノルがキスしようとしているのかが、全く理解できずにアサギは泣いた。
怖いのか恥ずかしいのか、流れる涙の意味も理解できなくて。
それでも、ミノルはしつこく迫る。
だからアサギは必死で身動ぎした、キスはしてはいけない、何故ならばミノルのキスの相手は自分ではないから。
ミノルの舌打ち、強引に顔を近づけるミノルに溜まらずアサギは叫ぶ。

「私、キスは彼氏としたいから、出来ないっ」

懸命にミノルの胸を押し戻すように、抵抗を試みる。
だがその様子が逆にミノルを燃え上がらせた、嫌がる相手を押し付けたい男の本能、そしてアサギの言葉に逆上。
自分は彼氏だ、彼氏なのだからキスしていいはずなのだと・・・思わずミノルはアサギの胸倉を掴み顎を持ち上げて噛み付くようにキスをしようとした。
キスの意味など、そこにはなかった。
好きだから、ミノルはキスをしようとした。
何度も他の女で練習したから、上手く出来るはずだと・・・思って居た。
気紛れと優越感で、他の少女と付き合ってみたが、本命はこちらのアサギだ。
久し振りに会えば妙に余所余所しくつまらなさそうな態度に、憤慨したミノル。
キスをしなければ、男がすたると思った。
キスをして黙らせようと、大人しくさせ様と思った。
12歳でも、男だ。
誰に教えられるでもなく、太古からの男の本質が蠢く。

「私、彼女じゃないって言ってたっ! ミノルそう言ってたっ!
私は、最初のキスは彼氏とするって決めてるもん、絶対絶対、彼氏とするんだもん」


アサギの悲鳴に近い絶叫で、ミノルは我に返ったのだ。
泣きながら抵抗し、その鳴声さえもミノルの”オス”の部分を刺激したが正気を取り戻した。
胸元を掴んだ為、アサギの着衣は乱れボタンが一つ無くなっている、それすらも扇情的。
だが、ミノルにはそこまで非常になりきれなかったのだ、残虐性よりも喪失感が勝った。
アサギの涙でミノルの心臓が締め付けられる、間違った事をしたのだと急に顔が青褪めた。

「私、あの子みたいに可愛くないもん!」

力が緩めば当然アサギは一目散に逃げる様に立ち上がり、言葉を投げ捨てる。
一瞬理解が出来なかったミノル、考え、慌てて口元を押さえた。
あの子。
彼女じゃない。
思い当たる節が、当然ある。
逃げたアサギを追いかけようとしたミノルだが、足が竦んで動けない。

キィィィ、カトン・・・
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
トモハルー
待ってました
が、体位が気になって(台なし
綾鷹 2010/05/11(Tue)20:01:24 編集
体位!!!(爆笑)
だ、台無しっ(卒倒)
折角描いたのに!
イラストも今描いてるのにっ!!!(笑)

ちなみにそっちのイラストもあるんですが、掲載の仕方がわかりません。
誰かあのHPの使い方を教えてください(がたがた)。
・・・みやちゃんなら、解りそうだ、小説に挿絵ついてたーっ♪
まこ 2010/05/11(Tue)23:36:03 編集
楽しみに待つ<イラスト
無理しない様になー
早く仕事やめろよー
綾鷹 2010/05/13(Thu)18:20:57 編集
すらんぷ???
うむ、元来上手くないけど、更に下手な感じに仕上がったので、掲載保留中なのですじゃ(がくり)。
急いでたくさん描きすぎて、手が疲れたんだろうか・・・。

シバラクオマチクダサイ。

↑で、思い出したんですが、ベルーガの表示を直したいんです。
なおらなーい(吐血)。
まこ 2010/05/16(Sun)23:40:30 編集
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新コメント
[10/05 たまこ]
[08/11 たまこ]
[08/11 たまこ]
[05/06 たまこ]
[01/24 たまこ]
[01/07 たまこ]
[12/26 たまこ]
[11/19 たまこ]
[08/18 たまこ]
[07/22 たまこ]
フリーエリア
フリーエリア
最新トラックバック
プロフィール
HN:
把 多摩子
性別:
女性
ブログ内検索
カウンター
Copyright © あさぎるざ All Rights Reserved.
Designed by north sound
Powered by Ninja Blog

忍者ブログ [PR]