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やってる時間など、存在するわけも無いのにっ。
ムスメ育成? 調合? RPGって未だに謎ですが、がんばろーっと。
主人公の男の子が可愛いです♪
アマゾンから、明日届くんですよー。わくわく。
そういうわけで、今のBGMはアルトネリコ。の、ラプランカ。
アサギ編へ届かなかったので、引き続きトモハル&ミノル&ライアン&マダーニ+トーマ。
81がアサギ・・・の筈・・・。
<a href=http://pet.karepet.jp/index.php?op=regist_invite_input&invu=4763594724c39aab699025><img src=http://img2.karepet.jp/dimg/haruhomebava.jpg alt=かれぺっと></a>
↑ かれぺっと、始めました。
アサギとトランシス。
・・・トランシスが、キモっ!(笑)。
無料なのでよかったら初めてみてくださいなー。
みやちゃんもいます(笑)。
耳を劈く不気味なトロルの重低音の唸り声、思わずトモハルは一瞬足を止めてしまった。
だが、”一瞬”だ、唇を噛締め、剣を握る左手に力を込め直し再び走り出す。
右手に神経を集中させる、熱く感じる指先は詠唱の証。
短期戦でいかねばならないことは解っている、いかに最初の攻撃で敵を弱らせられるかが鍵だろう、しかし大技では自分に疲労感が生まれてしまう。
適度に削れ、盲増しにもなりそうな術で怯ませてから剣で斬りかかる・・・それがベストだとトモハルは判断した。
「巡る鼓動、照らす紅き火、闇夜を切り裂き、灼熱の炎を絶える事無くッ」
ドン、ドン!
連打で炎の玉をトロル目掛けて投げつけた、確かに意表をついた攻撃だ。
顔面と、腹部を狙いながら一気に斬りかかるトモハル。
「隙を与えるな! 休む暇なく攻撃を繰り出せトモハル! マダーニ、援護を!」
両手を振り上げ力任せに振り回してくる一体のトロルを前にして、ライアンは剣を引き抜き両手でしっくりとくる愛用の剣を握り締めた。
久々の大物だ、久々と言ってもこんなレベルの魔物に遭遇した経験など、ただの一度きり。
背筋を伝う汗は、武者震いゆえの汗だろう。
決して恐怖ではない・・・と、言い聞かせる。
トモハルとマダーニも心配だ、だが自分の防御のみで手一杯だろう。
ここで倒れては水の泡、トモハルという勇者が消える。
ミノルという勇者は、どうなるか。
他の勇者や仲間達と合流できない、まして、勇者アサギは・・・?
ジャリ、足元の砂が乾いた音を立てた、ライアンは吼えるように雄叫びを上げるとそのままトロルの攻撃を受け止めるべく剣を横に構える。
ミノルは、人間である・・・と思われる少年を見上げていた。
人間か? 宙に浮いているところを見ると物の怪なのか?
同年代の男だということも解ったのだが・・・敵か味方か、判別が出来ない。
冷汗が流れ落ちていく、馬が小さく啼いた事がミノルにとっては救いだった。
自分の傍にいる、命あるモノ。
それが馬であれ心強く感じてしまうのは、目の前の少年に畏怖の念を抱いているからである。
そして、先程から肌に突き刺さるような圧迫感は、この少年の何を意味するのか。
喉を鳴らして大きく息を飲みこむミノル、その音が響きすぎて少年にも伝わったのだろう含み笑いがもれた。
すぃ、と移動しミノルの眼下に降り立った少年、愉快そうに笑っている。
背後にトロルがいるにもかかわらず、笑えるというのはどういうことなのだろう。
逃げられる自信があるのか、それとも勝てる自信があるのか、それともトロルの味方なのか。
「いやだなぁ、そんなに緊張しないでよ。汚れた小動物君。もっと愉快に、人生を楽しく謳歌しないと?」
馬車に乗り込んできた少年もとい、トーマは小さく叫び馬車内で後ずさったミノルに再び嘲笑う。
剣の束に手を伸ばし、ガタガタと歯で音を立てるほど恐怖感に押し潰されているミノル。
トーマは肩を竦めた。
ふぃ、と何かをミノルに突き出したトーマ、ミノルの剣は宙に放り出されていた。
乾いた音を立てて剣が馬車内に、無造作に転がっている。
「そんな物騒なので僕をどうしようっていうの」
皮肉っぽくトーマは、蔑むようにミノルに近づいていくと頭上から言葉を投げかける。
転がっていた剣を手にし、両手で一瞥していたが興味が無かったらしく再び転がす。
「安っぽい剣だね、まぁ、身分相応かな?」
思わずかっとなったミノル、うるせぇ! と叫ぶと立ち上がり右腕を繰り出した、しかし。
難なくそれを受け止めたトーマは、急な動きに驚いた馬を嗜める為「どうどう! ・・・イイ子だね、うん、何も無いよ大丈夫・・・」ミノルではなく、馬に声をかける。
力を注ぎ込み続けるミノルだが、トーマは微動だせず。
ミノルよりも腕はか細い筈だった、わざとらしく大きな溜息を吐いたトーマは急にふい、と横に身体をずらす。
勢い余ってミノルが前につんのめるのをしらけて見つつ、どか、っとトーマは馬車内で座り込んだ。
寛いでいるようで背中の荷物を下ろし、肩を回しながら何かを探す。
忌々しげに睨み付けていたミノルを気にせず、トーマは「食べる?」とそれを差し出した。
鼻に近づけられ、ビクッ、と身体を大きく震わせたミノルだが、とても良い香りがした。
食べ物の匂い、熱々の揚げ物。
「毒じゃない、これ、僕の夕食。魚のフライ、買い立てなんだよね~」
嬉しそうにミノルに見せ付けながら、トーマは豪快にかじりつくと満面の笑みで低く唸った。
唖然とミノルは腕に力を籠めて立ち上がると、胡坐をかいているトーマの真正面に座る。
くす、と笑ったトーマ、どうやら恐怖心がミノルから消えたことが面白かったらしい。
トーマを凝視しているミノル、どうやら疑心は消えないが敵ではないと判断したらしい。
「ここのフライさ、カリッと上手に揚がってるんだー、前に食べてからはまってんの。塩加減も僕好みで最高」
旨そうに齧り付く無邪気な笑顔は、子供らしい。
近くで見て、やはり再確認したことは”アサギに何故か似ている気がする”ということ。
特に今の幸せそうに食事している姿は、アサギによく似ている。
アサギは、食事をありがたそうに、美味しそうに笑顔で食べるのだ。
それこそ、気分良く見ていられるように。
こちらまで、胸がほんわりとしてくるくらいに。
トーマは、徐に顔を上げミノルを見た、挑戦的になのか油で濡れた唇をそっと舌で嘗め上げる。
思わず、背筋がゾクリ、となったミノルは慌てて視線を逸らすと俯いた。
冷淡さ、胸が熱くなるような婀娜っぽさ。
何考えてるんだ、男だぞ!?
・・・と思ったのだが、アサギに似ているのなら仕方が無いか、とも思いなおしたミノル。
だが、前言撤回。
「そんなに見つめないでくれない? 僕はそんな趣味ないんだ、君ホモ?」
「っ!? ばっか、俺は健全だ! んなわけねぇだろっ」
青褪めミノルは自然に自分の腕を抱き締めていた、興味があるといわれたら悲鳴を上げざるを得なかった。
だが、トーマは怪訝にその台詞を照れ隠し的にとってしまったのだろう、身を反らして警戒する。
「むきになるのが怪しいね・・・。人の趣味にとやかく言うつもりはないけどさ、僕はお断りだよ、そもそも僕は面食いなんだ。
・・・あ、そんなことより、君の仲間、いいの? 死んじゃうけど」
「え?」
ゾワゾワ、と憤怒と羞恥心がさざめきあう中で、忘れてはいけなかったのは今が戦闘中だということだ。
トーマの表情はよく変わる、感情を露にしているのか、作為なのか。
無言のミノル、現実に引き戻され再び恐怖で震え出した。
トーマは食事を素早く済ませる、油で塗れた手をマントで拭きながら急に苦笑い。
今のはアイセルに叱咤されそうだ、だがもう遅かった。
水筒から水を取り出し一気に乾いた喉を潤すと、改めてミノルに向き直る。
狼狽するミノル、小さく溜息を吐きトーマは馬車から身を乗り出し瞳を細めていた。
独り言、を大きく言ったのはワザとだ。
「あぁ、やっばいなぁ・・・。あぁ、力量が全く足りてないね。そもそも、こんな小動物ボウヤを連れて旅しているのがイケナイね・・・」
「誰がボウヤだ!」
掴みかかってきたミノルに、満足そうに何故かトーマは薄っすらと微笑む。
ようやく挑発が効いて来たな、という満足感だった。
片手でなんなくそれを払い、一瞥して続ける。
含み笑いしつつ、意地悪く語り続けた。
からかうことに、倦まずたゆまず・・・である。
「だってホントのことじゃん? 新品の服、武器防具、いかにも新米旅人。おまけに腰が抜けて戦闘している仲間を無視している臆病者、役立たず」
う、喉に言葉を詰まらせ反撃する隙を失ったミノル。
・・・言い返すことなど、出来ない。
本当の事だ、図星である。
これで反論できれば、大物である。
笑いに肩を振るわせつつもトーマは、こほん、と咳一つ滑る様に言葉を吐き出す。
上調子ではない、トーマのほうが立場的にも性格的にも無論余裕があった、状況を手中に収めているのだから当然か。
何より、トーマは自分に絶対の自信を持っている。
魔界で産まれ、育てられた人間。
魔力の数値は桁外れ、師匠はアイセルとマビル。
数個の禁呪をすでに所持し使いこなしているからこそ・・・魔界を出たばかりのトーマがここにいた。
乗船する直前だった、街で買い物していたトーマはふいに、ある一つの転送陣を思い出したのだ。
誰も赴かないであろう場所、切り立った崖の脇に作っておいた子供サイズの転送陣。
アレを使えば、簡単に目的の場所に移動できる。
・・・破壊され、されていなければ。
だが、余程の事がない限りあの場所に人が立ち入る事はない。
そのような場所を狙って作った、魔法で掻き消すように作為的に幻覚操作もしてある。
一か八か。
絶対の自信を捨てきらないトーマだからこそ、出来た。
そう、完璧に陣は残っておりこうして魔界・イヴァンから転送成功したトーマ。
念入りに陣の結界も施し、ふいに奇怪な物の怪に眉を潜め、向かった先。
ミノルが、いた。
トロルの気配を見抜き、誰かが”放った”ものだと確信したトーマは興味が出たのである。
『誰が、トロルを差し向けられるような逸材なのか?』
見たところ、平凡な普通の旅人達だった。
何故、追われるのか?
トーマの興味を掻き立てたのである。
「・・・でもさ」
トーマはようやく声を発する、おどけさは消え、戦闘が繰り広げられているであろう場所を見つめる。
顔を上げたミノル、満足そうにトーマはそれを確認すると、再び視線を移した。
「はっきり言って、分が悪すぎる。トロルだ、初心者が戦える相手じゃないし、確かに生息区域ではあるけれどにしたって、中央とは離れてる。まして、一直線に向かってきてるのが気になるんだよな」
何が言いたいのか、次の言葉をミノルは何故か確信していた。
「何かが起きて、トロルを刺激した・・・は、可能性的に薄い。だから」
トーマはミノルの目の前に指を一本突き出した、何故か威圧感を感じ顔を顰めて後ずさるミノル。
「まさかとは思うけど、見当もつかないけど、かなり高等な魔族に付けねらわれてたりする?」
その言葉に、思わずミノルは返答した。
魔王もそれに含まれる? と。
顔を引き攣らせ、言葉を詰まらせたトーマ。
「魔王? 魔王・・・ね。超・高等。でもさ、なんで君みたいな一般市民と魔王が結びつくわけ?」
むっとしてミノルはトーマを睨みつける、唇を尖らせ反論を。
「さっきから侮りやがって・・・勇者なんだよ、俺」
失笑。
爆発的に笑い転げ出したトーマ、むっつりと膨れているミノルが馬鹿馬鹿しく。
腹をたてるミノルの気持ちは解るが、信憑性が全く無いのも確かだった。
「むかつくんだよ・・・お前」
凄みを利かせるように、上級生に喧嘩を売られた時に使う目つきで脅すようにトーマを睨むが。
だが、そんなミノルの目つきなどトーマはには全く、効果が無い。
逆効果なのだ、呆れ返っている。
「ゆうしゃぁ? 馬鹿いうなよ、勇者はアサギって言う女の子なんだ。君とアサギじゃ、雲泥の差。っていうか、一般人が勇者に憧れて語る気持ちは汲み取ってあげるけど・・・こんなときまで強がらなくても」
言ってから、トーマは口元を押さえた。
顔を顰め、舌打ちする。
調子に乗りすぎたのだ、アサギ、という単語を出してはいけない気がした。
トーマが初めて見せた、失態。
そしてミノルが反応したのは”アサギ”という単語だった、思わず身を乗り出して瞳を開く。
自分が知らない男が、アサギを知っている。
トビィと、同じ。
なぜだ、何故、トビィもこの目の前の少年もアサギを知っている・・・?
「アサギ? アサギって言ったのか? どうして知ってるんだ?」
驚いたのはトーマも同じだ、驚愕の眼でミノルを見返すと唖然と口を開く。
まだ、人間は知らない筈だ。
それとも、大々的に勇者が告知されているのか?
「一般市民が・・・何故・・・」
あくまでも、一般市民を強調するトーマ。
ミノルは苛立ちを抑え切れずにいる、大声を張り上げ身を乗り出していた。
「だから、一般市民じゃないって言ってるだろ! 俺も勇者、アサギも勇者。アサギはクレオの、俺はネロ・・・
1星の。まだ他にもいる、そこで一人、戦ってるのもクレオの勇者だ。
・・・いや、それはおいといて、どうして、どうしてお前アサギを知ってるんだ?」
ミノルの発言にトーマは頭を抱えた、深い溜息と困惑の色合いが見て取れる瞳、独り言をブツブツと。
せかすミノルを尻目に、ひたすら狼狽し続け何やら爪を噛み始め。
「勇者って、そんなにいたのか・・・。信じられない。・・・だけど」
ミノルを一瞥し、トーマは立ち上がった。
そのマントをミノルが思わず掴む、上から睨み付けたトーマは払い除けるとゆっくりと馬車から降りていった。
思わず後を追いかけたミノル、馬車から飛び出す。
振り返り、行くよ、と一言言い放ったトーマは背を向けた。
「い、行くってドコに!? 」
慌てながらも、硬く剣を握り締め馬車を飛び降りたミノル、少年は不敵に微笑んでいた。
「君の仲間を、助けに行くけど? どうする? 勿論、行くよね? 君はそんなに意気地なし?
これから先、アサギを・・・もう一人の勇者を救いに行くつもりで動いているのであれば・・・僕と一緒においでよ。
まぁ、無理強いはしないけど」
「アサギを・・・助けに?」
思わず息を飲んだ。
助けに。
・・・アサギが攫われた事まで、知っているというのか。
トーマの言葉を繰り返すと、ミノルは月を見上げる。
明るい光が、トーマの全貌を映し出していた。
月光に照らされ、威圧感に包まれた不可思議なその姿を。
「アサギは今、魔界イヴァンに居る。間違いない情報だ、信じなくてもいいけど。
そしてトロルが出てきたのは・・・刺客だね、君達が勇者一行様ならトロルをコマに使うだろう。
指揮してるのは・・・ミラボー辺りかな?」
ミノルの心の内を見抜いていたかのような発言、息を大きく飲み込み、身体を震わせる。
「魔王ミラボー・・・。3星の? 違うね、2星のハイって奴だ」
「違う、ハイ様じゃない。間違いなく」
ミノルの問いにそっけなく、間入れずして返答したトーマだが、気まずそうに再び舌打ちした。
そう、人間ならば、疑問符をつけたくなる言葉を、トーマは発したのだ。
無論、ミノルとてそうだった。
不快感に襲われ、聞き返してしまう。
「様・・・? ハイ”様”?」
そう、そこだった。
人間の少年が2星魔王の存在を知っているだけも驚きなのだが、敬称をつけていた。
トーマは、直様自分を取り戻したようでただ、言い放つ。
トーマは、英知があるしい。
話を、逸らした。
分が悪すぎるのも確かなのだが、あちらも非常に危険な状態だ。
「戦うつもりは? ヤバいんだけど、あちらさん方」
「あるっ」
話題をすっかり変えられているにも関わらず、重要な事でもあるのだがミノルは頭を切り替えた。
意気込み、唇を硬く結んだミノル。
いい顔だ・・・トーマが喉の奥で笑い、ミノルの手を握る。
単純な奴、でも気に入った。 ・・・ぼそ、っと小声で呟くと左手を振り上げたトーマ。
と、身体が急に宙に浮いたミノル、こんな感覚は初めてだった。
身体がいきなり、下がったかと思えば、引っ張られ浮いていた。
「う、うわぁ」
宙に1メートル程浮かんだと思ったら、そのまま真っ直ぐに猛スピードで飛行が始まる。
オープンカーが宙に浮き、時速100キロで走ったらば・・・これくらいか? いや、空気抵抗するものが、ない。
呼吸が出来ない、瞳を辛うじてこじ開け、剣を握り締め。
トーマは苦悶の表情のミノルを気遣うことなく、そのままスピードに乗った。
何故ならば、状況が非常に拙いのだ。
荒地の中を、ただ一点目掛けて跳ぶトーマ。
月下の下で、ようやく影が見え始めたその頃。
砂塵が舞い上がり、三人の姿を消し去るように覆い隠している。
「あぁ、やってるやってる・・・。準備はいいかな? 勇者君」
言うが早いか、トーマは返事も待たずにミノルの手をいきなり離した。
「うっそ、マジ!?」
情けない声を出すミノル、ある意味当然と言えば当然か。
無茶苦茶だ、顔が瞬時に青褪めた。
しかし、その狼狽する瞳に目前の光景が鮮明に映し出される。
トロルに吹き飛ばされ、岩に強打され顔を大きく歪めているトモハルの姿だった。
ミノルの脳裏に、焼き付けられた。
マダーニがトモハルの名を叫んでいる、だが、トモハルは微動だしない。
激しく叩きつけられたのだ、無意識の内にミノルは剣を握り直しそのまま鞘から抜き放つ。
月光に刃が反射して一線の光を造り出すと、ミノルは吼えるように腹の底から声を出す。
「ミノルちゃん!?」
マダーニの驚愕の声がミノルの耳にも僅かに届いた、だがそちらを見ている余裕などない。
ミノルの声が響き渡る、風に乗って気合でトロルの背に剣を突き立てたミノル。
見事だった、深々と突き刺さり鈍い肉が潰れた音と確かな手応え。
躊躇わず剣はそのままに、地面に降り立つとミノルはトロルから離れ荒い呼吸で睨みつけていた。
鋼鉄とまではいかないが、なかなかに硬い皮膚のトロルだが鍛錬を積んでいる戦士であるならばともかく、今のミノルにはそこまでの力量は無論なかった。
剣とて、名剣でもなく市販品で粗悪なものだ。
だが、風に乗ったスピードで力を増したミノルと、自分の全体重の重みも合わさり通常以上の力が出たのである。
足元ふらつき、バランスを崩しながら辛うじて立っているミノル、全身が震えているのは武者震いなのか成功に感情が昂ぶっているのか。
駆け寄ってきたマダーニに支えられ、大きく息を吐き捨てたミノルはトロルを睨み付けたままだ。
トロルの巨体が、背に剣を突き立てたまま地が揺れるような呻き声で立ち尽くしたまま、我武者羅に大木のような両腕を振り回している。
「トモハルを・・・頼む」
額の汗を無造作に拭い、重々しい口調でそうはっきりとマダーニに告げたミノル。
思わず今までとは違うミノルの雰囲気に、固唾を飲んだマダーニ。
一皮向けたのか、今の一度の成功で自信がついたのか。
友人が傷つけられ、怒りがミノルを突き動かしているのか。
変わった、いや、”復活した”もしくは、”目覚めた”・・・か。
子供ではない、背筋にぞくりと何かを感じマダーニは震える。
勇者。
間違うことなき、勇者の波動。
一人、劣等感に苛まれ、やる気もなく、常に外を見ていた少年。
今や、力強い横顔がとても逞しく感じられる。
「ミノル、これを持ちなさい。トモハルは任せて」
思わず、マダーニも口調を変えずに、いられなかった。
そっと差し出したのは、毒に浸した小剣である。
受け取ったミノルに微かに微笑み、マダーニは直様トモハルのもとへと駆け出した。
ギュ、と剣の束を握り締めミノルは足を踏み出した、迷いも躊躇もない、何故だろう力が湧いて来る。
越冬した小さな命の芽、春になり逞しく土を持ち上げて息吹くような。
トーマの言葉、アサギが無事であると知ったその事実がミノルを突き動かす。
目の前で倒れたトモハルの姿が、ミノルを奮い立たせる。
心内では正直、アサギはもう駄目なのだろうと、どうしたらいいのか解らず勇者として頑張っても骨折り損な気がしていた。
しかし、生きていると知り、居場所も知った、それが嘘でも幻でもないと解った。
アサギに似ているから、自分のやる気を引き出してくれた、気が合いそうだった。
少年の存在がミノルを変える、信じる力が糧となる。
敵かもしれない、だが今は信頼できる相手だと、実感できる。
真正面に対峙したトロルを睨み付けた、非常に大きな相手だ声とて恐怖感を駆り立たせる。
だが、人間だ自分は人間だ、恐怖を感じないわけがない。
恐怖を感じても、立ち向かえる”勇気”が重要だ。
右手で剣を握り締める、左手をゆっくりと動かしながら詠唱を開始する。
左手から、陽炎が昇り始めた。
「あれはっ」
「ミノルの奴・・・ちゃっかり練習してたんだ」
マダーニに抱き抱えられ、起き上がったトモハルが満足そうに笑っていた。
凛々しい姿を目に焼きつけ、そのまま安心したように気を失う。
清清しいまでの笑顔だった、隣の幼馴染、親友の凛々しい姿、自分の好騎手。
トモハルの体温を感じながら、薬草で手当てをしつつ鳥肌がたつ。
それは小気味良い感覚、恐ろしいまでの将来性をこの2人の勇者に感じ、マダーニは微笑した。
「なるほど・・・アサギちゃんがミノルちゃんを好きな理由がなんとなく判った気がする」
鋭い瞳、凛々しい面持ち、恐るべき集中力、土壇場で男を上げる少年。
左手から立ち昇る熱を帯びた発動前の魔力が、髪を吹流し身体をもふらつかせていた。
呪文の大きさに、身体がついていかないのである。
トロルの巨体を前に、熱い左手を差し出した。
今しかないと思った、絶妙のタイミングだった。
「巡る鼓動、照らす紅き火、闇夜を切り裂き、灼熱の炎を絶える事無く。我の敵は目の前に、奈落の業火を呼び起こせ!」
完璧だ!
ミノルがニッ、と満足げに微笑み拳を叩き込むようにトロルの臀部に呪文を放つ。
成功魔法、確信できた威力。
その場を離れ、直撃した火炎珠を喰らい燃え盛っているトロルを見つめる。
焦げる匂い、鼻が捥げそうになり口元を手で覆うがしっかりと視線はトロルに合わせたまま。
堪らない匂いだ、しかし攻撃を喰らわない範囲で小剣をトロル目掛けて斬り付け始める。
浅い傷でも、小さな傷でも、致命傷となる毒が全身を廻るだろう。
背の剣と、臀部の火傷の痛みで暴れるトロルだが慎重に動きを見ていれば攻撃を喰らわずに済みそうだった。
毒がまわってきたのか、数分後地面をのた打ち回り始めたトロル。
もう、大丈夫だろうか?
距離をとり、吹き出す手の汗をマントで拭う。
顔色悪く真っ赤に裂けた口からは泡を吹き出し、黒焦げた肉体を掻き毟っている様子に思わずミノルは息を大きく飲み込んで後ずさった。
「ライアンは?」
そう、ライアンがいない。
周囲を見渡せば、微笑んで佇んでいたトーマと視線が交差した。
す、と音もなくトーマはミノルの真正面に移動している。
「ありがとう、助かった」
もはや、少年には何も驚かない。
何者なのかは知らないが、悪い奴ではないから、と。
だからミノルは素直に礼をした。
に、と口元の端を上げて笑ったトーマ。
「まぁ、上出来。懐に入ればこっちのものなんだけど、腕が厄介で難しい。強力な呪文が使えれば魔法対抗が弱いから楽な種族だよ。円熟者でも同じことするかな、今みたく」
「ふむふむ、そうか」
素直に深く頷くミノル、軽く笑いかけると少年は足元に転がっているトロルを冷めた瞳で見つめた。
「不様だね・・・見てな」
「え」
きょとん、としたミノルにトーマは大きく右手で宙に円を描く、その腕をまっすくにトロルへと向けた。
「膨大なる光を体内に留めることなく、耐え切れず弾けよ。肉片に帰せば未来は白紙へと、光弾内部爆破」
トーマが無造作に繰り出したその呪文は、魔導書にも載っていなかったものである。
いくら勉強をサボっていたとはいえ、一通り目を通していた。
トーマの掌に光が集まる、人間の大人の頭部くらいに球体になった時だった、不敵に笑みを浮かべたままそれをトロルへと放つ。
ゆっくりと吸い込まれるようにトロルの体内に入っていった球体、ミノルの手を掴み突如トーマは空中に飛躍する。
「な、なんだぁ!?」
ミノルが下を見るのと、トロルが爆発したのは、ほぼ同時だった。
広野に寝そべっていたトロルの巨体は、一気に跡形もなく吹き飛んだ。
テレビのニュースで観た事がある、地雷が良い例だろうか。
あの肉片が粉々に飛び散り、四方へと。
無論緑色のへどろのような血液も、同時に霧吹きの水の様に散布され。
思わずミノルは口元を押さえた、胃液が溢れ出る、吐き気に襲われても仕方がない光景だ。
眩暈を覚える不気味な臭い、空中にまで漂い始める。
トーマは嗚咽するミノルの様子を見て密かに溜息を吐いた、自分は慣れてはいるがこの程度でのこの状態では先が思いやられる。
しかし、今はそっとしておくことにした。
トーマとて、一番最初にこの禁呪の威力を目の当たりにした際は引いたものだった。
一気に跡形もなく灼熱の業火で焼き尽くすよりも、粉々の破片として遺すほうが残虐である。
原型すらないとはいえ、カタチは残っているのだから。
・・・勇者ならば、この程度の光景に目を背けるな・・・
今後、これ以上の惨劇が待ち受けているであろうから。
この禁呪、おそらく現時点で使える術者はトーマを含めているかいないか、だ。
強力かつ、残虐で確実なる禁呪。
実はこの禁呪、完成しているとは言い難かった。
もしかしたら、光球を弾き返してくる強者とて存在するだろう。
何時の日か、来るべき時に備えて完全なものにする必要がある。
何人たりともこの禁呪に屈するしかない、完璧なものを繰り出す必要がある。
トーマは、ミノルをマダーニの元へと送り届けると遠方を見ながらぽつり、と呟く。
「ドコに行くんだ?」
やや戸惑いつつ、むせ返りながらミノルは応える。
「ピョートル。ピョートルに行くんだ」
ふらつきながらも笑ったミノル、トーマはあどけなく微笑むと遥か地平線を指す。
「あっちだね、至急この場を離れたほうがいい、トロルの死臭によって多くの魔物が集まってくるだろうし、刺客ならば探りを入れてくるかもしれない。こんなところで往生を遂げたくないだろ?」
「でも、もう一人仲間が!」
「うん、知ってる。今から僕が助けてくるから、後で合流しなよ」
トモハルを抱き抱えながら、訝しがりつつマダーニはトーマとミノルを見比べた。
この、少年は何者か。
あの禁呪の威力、マダーニとて見ていた。
あんなもの、そこらの人間が操る事ができるものではない。
ミノルを奮い立たせたのは彼で間違いないのだが、親しくなったみたいだが、敵ではないのか? 信用して良いのか?
「敵じゃないよ、味方でもないと思うけど」
トーマがマダーニに微笑みかけ、無邪気に笑う。
不意に視線が交差したが、背筋が凍りつく事もなくマダーニはトーマを見つめ返した。
・・・この子も、心が読めるの・・・?
眉を潜めたマダーニ、喉の奥でトーマは笑う、肯定するかのように。
「綺麗なお姉さんは好きだよ。名前は教えないで置くけど今は助けてあげるね。でも、もしかしたら今後は敵になるかも。
全ては、”あのお方”次第、あのお方に反するならば僕は容赦なく敵となる、崇高で高貴な麗しきあのお方、あのお方の為だけに僕は存在するんだ」
「あなたも、不思議な事を言うのね? 最近は予言めいたことを言う人が多いの。・・・もう少しヒントが欲しいものだわ」
溜息交じりのマダーニにトーマは軽く瞳を見開いた、が鼻で笑うとミノルに向き直る。
「何時か判るよ、必ず。君も考えといて、僕と敵対してもいいように頑張りなよ? 勇者なんだろ、鋭意努力しな」
「”あのお方”って・・・ハイのこと?」
その名を口にしたミノル、驚愕の眼でマダーニは直様トーマを見つめ直した、が意外そうに首を傾げている。
「違う違う、なんだ、憶えてたんだ魔王の話。ハイ様じゃないよ、確かに君達の知り合いだとは思うけど。・・・ヒントはね」
そう言ってトーマは月を仰いだ、月から放たれる不思議で神秘的な光に包まれて悠然と宙に浮かんでいった。
麗しい、人。
人間だろうが、桁外れの美貌に思わずミノルもマダーニも息を飲んで見守る。
透き通った水のような、それより深い深い水底に潜む冷水のような、そんな声と幻想的な光景。
「・・・やめとこ。もう一人の人、助けに行かなきゃ。とりあえずね、でも折角出遭ったんだから教えて欲しい事、僕の独断で返答するけど? 何か知りたい事ある?」
ミノルはマダーニにゆべてを委ねることにし、視線を送った。
軽く頷きマダーニは唇を舌で湿らせ、湧き出た汗を拭いつつ。
「何でも良いわけ?」
「僕が答えられる範囲ならば、ね」
意を決し、最も聴きたかったことをマダーニは問う。
「アサギちゃんの居場所。・・・教えて」
その名を聞いたとき、トーマの表情が揺らいだのをマダーニは見逃さなかった。
聴きたかった、待ち望んでいたとでもいうように、うっとりと微笑んだのだ。
けれども、追求はしなかった、言葉を飲み込みマダーニは返答を待つ。
「魔界イヴァン。その中央、魔王アレク様の城内に大切に囲われているよ。命に別状なんてあるわけがない、勇者でありながら最高のもてなしを受けている筈だよ。敵の本拠地でね」
「本当のことなの?」
「信じる信じないは別だけど、嘘は僕は言わないんだ」
「ありがとう、無事ならいいのアサギちゃんが」
安堵した様子でマダーニはトーマを見つめる、不可解で掴めない人物だが確かに嘘は言ってなさそうだ。
信用してもらえた嬉しさからか、恥ずかしそうにトーマは小声でありがとう、と呟き月へ帰る様にふい、っとその場を離れていく。
2人はトモハルを背負って馬車へと急いだ、寝かせて傷の手当を再開する。
運悪く、現時点で回復の呪文を扱える人物が・・・いない。
マダーニとて簡易な初歩中の初歩のものしか扱えないのだ、トモハルの体力に任せるしかなさそうだった。
毒小剣をマダーニに返却し、ミノルは予備の剣を受け取りそれを装備する。
ミノルの使っていた剣は、トロルと共に大破しているだろう。
致命傷は外れているトモハル、ただ、打撲が痛々しい。
「アサギ・・・無事だってさ。よかったな」
ミノルは、トモハルにそう零した。
僅かにトモハルが笑った気がした、「知ってるよ」とでも言わんばかりに。
その頃トーマはもう一つの巨体に遭遇していた、先程の戦場よりも離れた場所、地には無数の激戦の爪痕。
口笛を吹き、愉快そうにトロルを見れば一つの小さな影が飛び交っていた。
ライアンだ。
呼吸の乱れは限界だった、気力のみで持ちこたえている状態。
頭部から流れ出る血液が視界を奪う、身体は痛みで痺れを通り越して動かなくなってきた。
「こりゃ・・・ヤバイかもな」
ライアンはさも面白い、というように唇の端を上げて笑った。
「だが、諦めたらオレらしくもない、な」
戦い抜いて戦い抜いて、決して諦めずに最後まで希望を捨てずに。
諦めれば、全てが終わる、諦めなければ奇跡の逆転が起きるかもしれない。
と、月から天の使いが現れた。
トロルの向こうの月から、人影が現れたのだ。
漆黒の髪を靡かせながら、麗しき少年が目前に。
「うわ、えぐやられ方したねぇ、僕に任せてよ」
鈴を転がしたような声、聞き覚えのある声だったが意識が朦朧とするライアンには誰に似ているのか判別できない。
するり、とトロルとライアンの間に割って入ってきたトーマは滑り落ちた布の様に艶やかで。
詠唱の声が辺りに響いた、至近距離で凄まじい破壊力のある呪文を繰り出したトーマ。
「巡る鼓動、照らす紅き火、闇夜を切り裂き、灼熱の炎を絶える事無く。我の敵は目の前に、奈落の業火を呼び起こせ!全てを灰に、跡形もなく燃え尽くせっ!」
熱さが空気を伝わってライアンにも襲い掛かった、瞳を細め顔を覆い隠す。
「ちっ、至近距離過ぎたかな・・・」
舌打ちし、トーマはライアンを掴んで後方に飛ぶと、トロルの死期をじっと見つめる。
最強クラスの火炎の呪文、マダーニが見ていたら唸り声を上げそうだった。
だが、ライアンにはトーマの魔力がどこまで底知れず恐ろしいか解っていない。
灰だけになったトロルの亡骸、トーマはようやくライアンに微笑みかける。
「無事? ・・・みたいだね」
「あぁ、ありがとう、天の遣いかい?」
「ぷ! そりゃいいやぁ!」
トーマは腹を抱えて笑い出すと涙を拭きながら、きょっとん、としているライアンに視線を送った。
「そんな面白い事言ったかなー?」
「言った言った! 僕、普通の人間だよ。あぁそれより、お仲間が待ってるよ。・・・合流するの時間かかりそうだから僕が連れて行ってあげるね」
立っているのすらやっとなライアンをここに放り出して行くのも、気が引けた。
天然なライアン、雰囲気が温和なのも手伝って手を差し伸べたくなった。
「かたじけないな、何から何まで」
「いいよ、気にしないで」
言うなり、トーマはライアンの腕をがっしりと掴むとそのまま宙に浮かぶ。
「あぁ! これは凄い!」
自分が宙に浮かんでいる状態に大興奮のライアンだ、秀でたトーマの能力などお構いなしに。
愉快そうにトーマは笑うと、そのまま飛ぶ。
このまま戻れば、再びミノル達に遭う訳だが・・・仕方がない。
馬車もこちらを目指しているようで、どうも慣れないながらにマダーニが手綱を握っているようだった。
「おーい! マダーニ! オレだ、オレ!」
トーマの腕で暴れて自己主張するライアン、バランスを崩したトーマは急遽降下した。
「あんた・・・子供じゃないんだから・・・」
呆れた顔つきでライアンを睨むトーマ、豪快に笑っているライアンを見ていると不思議と自分もおかしな気分になってきた。
馬上からマダーニが意地悪く顔を出すと、白々しくトーマに話しかける。
「あらあら、また遭ったわねボーヤ? 貴方は今、敵なのかしら?」
む、っとした顔つきでトーマはそっぽを向くと気が変わったんだ、と言葉を吐き出す。
馬車に転がり込んだライアン、心配そうに看病に入るマダーニ、トモハルの傍らについているミノル、眠っているトモハル・・・。
トーマは控え目に馬車から覗き込むと四人に声をかけた、自分でも不思議だったが。
「よかったらさ、僕も乗っけてくんない?」
思いもよらないトーマの言葉、一瞬唖然としたマダーニだがにんまりすると近寄って頭を撫でまくる。
「いいわよー、空いてるしこの馬車っ」
「・・・何、馬車賃として色々教えろって?」
「やだぁ、そんなコト言ってないけど、そうね、ボーヤは頭の回転が速いわねぇ♪」
おっほっほ! 自分の豊満な胸にむぎゅ、っとトーマの顔を押し付けて高笑いだ。
羨ましそうに見つめたミノルと、微かなヤキモチなのかむっすりとしたライアン。
「マビルと同じくらいかな・・・いや、でも、あっちのほうが・・・」
ぶつぶつ、と何かトーマが呟いていた。
「おい、とにかく急ごうぜ」
我に返り、初めて自分から行動したミノル。
ライアンに薬草を手渡しながら、マダーニを見た。
そうだ、今馬車を操る事が出来るのはマダーニのみだ。
が、マダーニの隣でミノルは付き添う。
そう、覚える気なのである。
ようやく、ミノルが動き出したのだ、勇者の一人がまた一つ輝きを増した。
頼もしく満足そうにマダーニはそっとミノルの頬に口付けを、驚いて飛びのいたミノルに爆笑する。
顔を真っ赤にし、声も出せないミノルだった。
「あら、ミノルちゃん達の星では挨拶代わりにこういうことしないの?」
「すすすすすするわけねーだろ!?」
「あら、残念ね。てっきりアサギちゃんともこういうことしてる仲だと思ってた」
「だだだだだだだあーれが!?!?!?」
そんなコト出来る仲ではないとマダーニとて知っている、がからかいついでに言ってみた。
旅は楽しくなくてはいけない、気休めも重要だ。
自分とアサギを想像したのか縮こまって、項垂れているミノルがなんとも可愛らしい。
「アサギちゃんに可哀想な事したわねぇ・・・」
「は?」
ガン、と手綱を引きマダーニは馬車を発進させる。
大きく身体が揺れ、ライアンの悲鳴と共に馬車は発進した。
「ミノルちゃん、今は休んでて。後程たーっぷり馬車の指導をするから、それまでは休息よ」
「・・・わかった、ありがと」
馬車の中に引っ込んだミノルは、寛いでいたトーマと視線が交差する。
「・・・で、お前も行くんだ」
「えーっと、ミノル君? だっけ? よろしく」
照れ気味に握手を求めたトーマ、ミノルも唇の端に笑みを浮かべて握手を交わす。
その、温もりがトーマの心をほんの少し溶かしたことを、ミノルは知らない。
トーマは荷袋の中から薬草を取り出し並べていく、アイセルに用意してもらったものだ。
「えーっと、ミソハギは止血と消化不良・・・だったような・・・。あげる」
ライアンとトモハル用らしい、と言ってもミノルにはやり方が解らないのでトーマが渋々治療に当たる。
「お前、すげぇんだから回復魔法も使えるんじゃねーの?」
「使えないこともないけど、普段は使わないから苦手なんだよ。僕強いから回復とか必要ないんだ」
「・・・お前、ある意味すげぇな」
ライアンの傷口に薬草を、ゆっくりと寝かせ、水を飲ませる。
同様にトモハルもトーマが治療にあたるのだが・・・一瞬びくり、と身体を引き攣らせた。
「どした?」
「こ、こいつっ!!」
「トモハルって言うんだけど?」
「・・・じょ、女難の相が!!!」
「は?」
血相変えて、今まで余裕のあったトーマが震える手でトモハルを見つめている。
「・・・趣味悪っ」
「・・・は?」
唖然とトーマを見つめているミノル、トーマは数分後我に返ると滝の様に流れている汗を拭う。
「ごめん、取り乱した。あまりに奇怪なっていうか、特異な運命の持ち主だったもんだから・・・」
「確かにコイツ、変だけど。・・・何、占いかなんか?」
「・・・この人にさ、『・・・よろしく』って言っといて」
「はぁ・・・」
以後、黙々と作業に入るトーマ、何のかんの言いながら律儀だ。
夜が明ける頃、トーマは睡眠に入る。
ライアンがトーマの魔法も手伝ってほぼ完治したのマダーニと交代し、代わりにマダーニも眠りについた。
ミノルは半睡眠を繰り返していたので、ライアンの隣でうとうとと馬車の動きを見ている。
トモハルは、動かない。
―――トモハル。あと少しだけ、眠って。起きたら、あなたは・・・―――
「アサギ?」
眠りの中、アサギの声を聴いた気がした。
トーマが繋ぐ、トモハルとアサギと。
・・・マビルを。
「伝えるの、忘れてた。僕。・・・トーマっていうんだ。トーマ・ルッカ・シィーザ」
ぼそり、とミノルに告げた後、トーマは照れ臭そうに笑っていた。
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