別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
長くなってまいりました。
おわりましたー。
久し振りにお絵かき。
所要時間、感動の7分!
もちっと真面目に描けよ私。
女の子だけはせめて可愛く描きたいプライド。
・・・うむ、失敗。
アサギとリョウ。
リョウ、あんまりこっちで描いてないので(メインなのにっ)、出したいところ。
ごふー。
三角から四角になってました、盲点。
追うべきだと、思ったミノル。
だが、足が、いや、身体が動かない。
身体中の毛穴から厭な汗が吹き出た、唇が震える。
しかし、必死にこの境遇から抜け出すためにミノルは思案した。
防御策を練っていたのだ、自分を庇護した。
『憂美がいるから、いらない。アサギは、いらない。あんな可愛くない態度の女はいらない』
ミノルは、そう結論付けた。
そう思うことで、急に楽になった。
『あの子はだぁれ? ・・・私は?』
俯いて訊いてくれたら、よかったのに。
そうしたら抱き締めてキスをして・・・ミノルは、舌打ちし壁を殴りつける。
あからさまに余所余所しいアサギの態度が、非常に気に食わないミノル。
お高く、優等生、お利巧な女。
壁を、蹴り上げた。
その苛立ちを収める為に、怒りの形相でミノルは階段を駆け下りて自転車に跨る。
憂美に、会いに行くことにしたのだ。
力任せに漕ぎ続ける、自転車で三十分もすれば、憂美の家だった。
だが、その途中のコンビニ。
憂美を見つける、数人の少女達と一緒だった。
爆笑し、声がかけづらいので更に苛立つミノルだが、自転車を降りて近寄ってみる。
「どうよ、あの女、フラれた?」
「ばっかだよねー、実君もさ。ホイホイ騙されちゃって」
「憂美の演技が上手なんだよ、女優になったら?」
更に、血の気が引いたミノル。
声がまともに耳に入らないが・・・どうやら憂美はミノルが好きではないようだった。
酷く悪口も言っていた、怒りが込み上げるを通り越して情けなかった。
騙されたことに、気付いた。
ミノルは、すでに怒りなど消沈し、家までの帰路につく。
アサギに電話をかけるべきだと、思ったが何を切り出して良いのか解らず。
ミノルは茫然自失で部屋の天井を見上げたまま、眠りにつく。
写真立てには、アサギと自分。
不釣合いな美少女と普通の、男。
何故。
あのような感情を抱いたのか、何故アサギを裏切ったのか。
もてたことで、イイ気になった自分を恥じる。
アサギという美少女、そして憂美という美少女。
二人に告白されて、有頂天になっていた。
アサギは、何を知っているのか。
どこまで、知っているのか。
アサギに訊けないから、トモハル経由で様子を窺う。
「よ、トモハル。あのさ・・・、アサギの様子、最近どうか知らね?」
「別に・・・普通じゃないかな。訊きたい事があるなら、明日訊いとくけど?」
「明日?」
「あぁ、出かけるんだ」
トモハルは二人で、とは言わなかった。
ダイキがアサギの弟をバス釣りに連れて行くので、トモハルとアサギも同行することにしたのだ、それだけだ。
しかし過敏になっているミノルは、”二人で”だと、勘違いをした。
皮肉たっぷりに、吐き捨てるように、怒気を含んで叫ぶ。
「あぁ、アサギから聴いたのか? 何、二人付き合うわけ? へー、やっぱりなぁ、優等生様様だもんなぁ! 案外・・・」
急に右頬に激痛。
トモハルが、ミノルを殴り倒していた。
重い、痛み。
「付き合うわけ無いだろ! ・・・互いに別に恋愛感情なんて持ってない、ただ、大事な仲間で友達だアサギは。
・・・付き合っている男に”彼女じゃない”とか言われて号泣してたんだ、ミノル、お前・・・何やってんだよ、見損なったぞ! プールに行く約束、お前がしたんだろ?! 炎天下でアサギは待ってたんだぞ!?」
本気の一撃だった、壁に頭部を強打して飾ってあった写真が落下した。
息を荒げて、憤慨しているトモハルを唖然とミノルは見ている。
「な、なんだよ・・・」
「白を切るなよ! お前の彼女は、アサギなのかあの、憂美って子なのか! どっちなんだっ」
「ど、どうして憂美のこと知ってるんだよ」
「・・・アサギと見てた。ミノルがその子とキスするとこ」
「あ、あぁ!? ・・・ど、どうして2人が一緒にいるんだよ!? ほらみろ、お前らだって俺に隠れてこそこそと」
「違うっ! 偶然一緒になっただけだっ」
「し、信じられないねっ、あー、あー、そーですかー、やっぱりお前ら・・・」
「いい加減にしろっ!」
トモハルの絶叫が、響き渡る。
鬼のごとき形相にさすがのミノルも、息を飲んだ。
「頼むよ・・・ミノルが誰と付き合おうと勝手だけど・・・。アサギは・・・お前と付き合ってるってあの瞬間まで思ってたんだ。残酷にも程があるだろ? お前との約束、すっぽかされて帰路の途中でお前、なんて言ってたか憶えてるか? 全部アサギ、聞いてたんだ・・・」
項垂れて、半泣きなのか震える声でトモハルは床に滑り落ちる。
「・・・謝って来いよ、しっかり、お前の彼女の事説明して、アサギを」
「え、お俺は、俺・・・」
「きっと、アサギなら赦してくれるよ。お前が誰と付き合ってても、今まで通りに接してくれるさ」
「え、いや、その・・・」
「でもさ、ミノル。あの、憂美って子。つい最近まで彼氏が居たんだ、ほら、お前も知ってる隣の学校の六年。
アサギにソイツが一目惚れして、憂美を振ったんだってさ。・・・解るか? 腹癒せに使われたんだよ、ミノル」
「・・・っ、クッソっ」
ミノルは、部屋を飛び出した。
飛び出して自転車に跨った、アサギの家までの途中のコンビニの駐車場を横切れば。
「あれ、ミノル君だぁ」
甘ったるい声がした、止まることなく、視線だけ投げかけミノルは簡易れず怒鳴る。
「うっせぇ、どブスっ! 二度と面見せんなっ」
後方で、ぎゃーぎゃーと喚き散らす数人の少女達の声が聴こえたが、ミノルは無視。
アサギの家の前に到着した、家の前では、丁度リョウが出てきたところで。
互いに軽く会釈をする、アサギの幼馴染だとは知っているがトモハルの次はコイツかと、僅かに苛立ちを感じながらミノルは家のチャイムを鳴らす。
出てきたアサギは、ぎこちないながらも笑顔。
頭部に大きなリボン、ネイビーのサマーニットにチェックが可愛らしいひらミニ。
普段通りの、アサギだ。
「おはよう・・・ミノル。あ、おはよう、じゃないね。もうお昼だね」
「お、おぅ。あ、あのさ」
「い、今ね、みーちゃんにね、この間ミノルとしてたゲームを借りたトコなの。み、みんなで遊ぶとき、私も強くなっておこうと思って・・・。み、みんな、上手そうだもんね」
「あ、いや、それでさ」
「あ、そうだ。明日ね、ダイキが弟達をバス釣りに連れてってくれるの。以前から興味があったみたいで、私もトモハルも連れて行って貰うんだよ。よかったら、ミノルも一緒に・・・。・・・あ、い、忙しいよね、ごめんね・・・」
「あ、いや、明日は別に・・・」
アサギの言葉が止まらない、アサギの声の震えは止まらないがそれでも声は止まらない。
話を切り出したくとも、ミノルは遮れなかった。
哀しそうに困惑気味に、時折目を伏せる。
「あ、今からユキとお出かけなんだよ。ケンイチも一緒なんだけど。支度、しなきゃ」
「俺、俺も行こうか? 三人だと色々と」
「だ、大丈夫! その、別に、うん、へっき。ま、またね!」
「あ、ちょっと、おい!」
「さよなら」
バタン。
ドアが閉められた。
唖然とミノルは佇んでいる、隣を誰かが通過。
リョウだ。
ちらり、とミノルを一瞥したが何を言うでもなく勝手にドアを開けて入っていく。
「な、なんだよ・・・」
あからさまな避け具合、ミノルは舌打ちした。
胸が予想以上に痛んだ、あれでは、友達とは呼べない。
来た事すら、迷惑気まわりないような。
家の中から、走り回る音がしている。
「出かけるんじゃねーのかよ・・・」
ミノルは、暫し、玄関で待っていた。
けれども、一向にアサギは出てこない。
嘘を吐かれたらしい、歯軋りしてミノルは再び自転車に跨った。
不意に、ドアが再び開く音。
リョウだろうと思って何気なく視線を送れば、アサギだった。
「っ!」
引き攣ったアサギの顔、その表情にミノルは少なからずショックだった。
まるで、物の怪でも見る様な、怪異な瞳で。
怯えた光、気まずそうに瞳を伏せたアサギ。
「よぉ」
「こ、こんにちは・・・。ジュース、買いに行こうと思って。ま、またね!」
「ケンイチとユキは? 出かけるんだよな?」
「ユキが、熱が・・・えっと、2人で行きたいって連絡があって、それで、そしたら、みーちゃんが来てくれて」
「ゲームしてんの? 俺も混ぜろよ」
「え、で、でも、そんな、それは」
「何、俺が居ちゃ拙いわけ? お前ら、付き合ってんの?」
「えぇ、違うけど、その・・・」
しどろもどろ。
瞳を合わせずに口から出任せを言っているようなアサギに、ミノルは苛立っていた。
「み、ミノルは、その、あの、可愛い子と一緒に居たほうが・・・良いと思って、その・・・」
「憂美は今関係ねぇだろ!? 俺はお前に会いに来たんだよ」
「あ、その、私は大丈夫だか、ら。気にかけてもらわなくても、へっきで・・・」
「いい加減人の話聴けよ! こっち向けって」
逃げようとしたアサギの腕を掴んだ、小さな悲鳴を上げたアサギが。
・・・憎らしかった。
頬を染めて、好きだと言ってくれたアサギが。
自分を真っ直ぐに見つめて手を握ってくれていた、アサギが。
いない。
数年前のアサギとミノル、敬遠しているアサギがそこに居て、無性に歯痒くてもどかしくてイラだって。
「謝ってんだろ!? 話聞けよ!」
謝ってはいない、謝りに来ただけだった。
「あ、謝る!? ミノルは、何も悪いことしてないから、謝るって・・・何をかな?」
「はぁ!? お前、何しらばっくれてんだ!?」
「え、だって、その、あの、ミノルは別に悪くなくて、その、よく考えたら私が勝手に勘違いして・・・」
「何をどう勘違いしたんだよっ」
力任せに腕を掴んでいた、アサギの顔が痛みで歪んだ。
だが、離さなかった。
一体アサギは何を言っているのか。
プールをすっぽかした上に、二股していたことを謝りに来たのだ、それくらいアサギとて解るはずだった。
「ち、違うの、その、ミノルは悪くないから、だから謝らないで」
「お前なぁ!? ごめんって言ってるだろ!? ドコヘだって一緒に行ってやるって言ってるだろ!?」
アサギの足が震えていた、精一杯の強がりだった。
けれども、ミノルは気付かない。
ただ、何もなかったことの様にされることが、自分の存在も消されているようで。
真っ向から否定されているようで。
アサギにしてみれば、思い出したくなかったのだ。
辛くて辛くて、忘れられない時間を呼び戻されたくなかった。
そして、自分の身勝手な行動を恥じて罪悪感に責められていたのはミノルの気持ちを無視して突き進んでいた事実に気付いてしまったから。
憂美というミノルの本当の彼女に、一緒に居たら悪い気がして早く立ち去りたかった。
必死に、必死に。
せめて良い友達で居たいと、願ったのだ。
ミノルの負担にならないように、笑顔で接して全てを悟って。
「あの、あのね、ミノル、私はっ。気にしてないし、その、傷ついてないし、全然へっきだから、あの、こうして慰めに来てもらわなくても大丈夫で、その」
ぶちん。
ミノルの中で、何かが切れた。
アサギの腕を強く振りほどいて、小さな悲鳴を上げたアサギを見下ろす。
胸が、黒く染まっていく。
傷ついていないらしい、気にもしていないらしい、所詮はその程度だったということか、と。
今の言われ方は非常に腹立たしい、慰めに来たわけじゃない、寄りを戻したかっただけだった。
「お前、人間じゃないから、人に何言われても何されても平気なんだよな? ちったぁ俺が謝ってんだから、泣くとか喜ぶとかさ、作り笑い浮かべてないで何か言えよ。ほんっと、可愛げないな、お前」
硬直した、アサギ。
「お前さ、その勝手に解釈する都合のいい頭、どーにかしたら? ほんっと、むかつくなお前っ」
急に、動きが止まったアサギは口を開くことも忘れた。
弾かれたように、ようやく真っ向からミノルを見つめる。
「優秀なー勇者様ー、人間じゃないからー、魔王も一撃ー。いっつも、誰にでも、へっらへっらへっらへっら! 作り笑いの可愛げないお人形ー、ムカツクムカツク、死ねばいいのに! 人の気もしらねぇでっ」
近づいて、肩を押す。
ぺたん、とアサギが地面に倒れ込んだ。
「いつまでも、見てんじゃねぇよ、このブスっ! お前なんか、昔から、だいっ嫌いだ。そもそもなぁ、誰のせいで勇者ごっこする破目になったと思う!? お前だよ、お前のせいだよ! 最初からお前だけでも十分だったのに、巻き込みやがってっ」
びくり、とアサギが引き攣る。
「お利口だ、優秀だと持て囃されてー、あー、そうだよ、お前は立派だよ! でも、俺はそんなお前がだいっきらい・・・」
やめて。
と、アサギが呟いた気がして、ミノルはようやく我に返る。
涙が、大粒の涙がアサギの瞳から零れていた。
「あ・・・」
また、やってしまった。
こんなこと、言いにきたのではないのに。
謝りに来たのに、何故、こんなことを。
急に、喉が渇き震える手でアサギに手を差し伸べる。
「わ、わりぃ、言い過ぎた・・・その、ごめん」
「い、いえ、へっきです・・・」
ぐ、っとアサギは言葉を飲み込んで、俯いて腕で涙を拭いている。
「ご、ごめん・・・違うんだ、お、俺はさ、アサギ」
おろおろと、ミノルは周囲を窺う。
道路に座り込んでいる、美少女。
明らかに自分が苛めている図だ、いや、そうなのだが。
「その、よ、よかった今度一緒に、ぷ、プールに」
肩を震わしながら、必死に息を飲み込んでいるアサギは、泣き喚くのを堪えているようで。
「アサギ、悪かった、違うんだ、その・・・」
好きなんだ、本当は。
仲直りしたくて、来たんだ。
一言、もう一言が言えない。
数分が、数十分にも思えた。
ゆらり、とアサギは立ち上がる。
と。
笑顔。
笑顔でアサギはミノルに応え。
「ごめんなさい」
それだけ。
それだけ言うと、必死に自分の腕に爪を立て、何かに耐えるように唇を噛締め。
逃げ隠れるように家には戻らず、走り出す。
「あ、アサギ!」
声をかけるが、当然振り向かない。
ミノルは、自転車に飛び乗った。
「ち、ちが! 違う、違う!」
自転車と脚なら、直ぐに追いつけるだろう。
・・・けれど。
「アサギ!? アサギっ」
角を曲がったアサギの姿が、忽然と消えていた。
思わず自転車を降りて、ミノルは名を呼ぶ。
「悪かった! 言い過ぎたんだ! 違うから、戻って来いよっ」
おそらく。
アサギは、本当に消えたのだろう。
瞬間移動か、宙に浮いて逃亡したのか。
「アサギ!」
・・・以前にも、以前にも。
あの表情を見た。
ミノルに、脳への衝撃が。
汚れた姫君、佇んで。
蔑まれ石を投げつけられ、流血しながら佇んで。
自分を助け、頼って来てくれた姫君を。
サ・ヨ・ウ・ナ・ラ。
儚げに、微笑んだ姫君は。
「アサギっ!」
叫んでも、叫んでも、ミノルの声はアサギには届かない。
「遅くなっちゃったね、みーちゃんジュース」
ペットボトルを四本、アサギは抱えて戻ってきた。
ゲームをしていたリョウと弟達に配ると、自分も蓋を開けて飲み出す。
コントローラを弟に投げ、リョウはアサギに近づいた。
「・・・」
ぽふ、っとクッションをアサギの頭部に。
無理するなよ、と小声で聴こえるように囁けば。
アサギは。
ずるずると蹲る。
隣に居た、リョウの膝に蹲って声を押し殺して泣いていた。
「・・・私・・・嫌われちゃう・・・」
「気にすんな、僕は・・・嫌わない」
「う、うぅっ、どぉしよぉ、私、取り返しのつかないこと、してったっ」
「したことは、仕方ない。過去には戻れない、過去に捕らわれちゃ駄目だ」
「どぉしよぉ、酷いこと、いっぱいしてた、のっ」
ぼふぼふ、とクッションの上からリョウはアサギを励ますように撫でた。
「・・・大丈夫だよ、どんなに・・・」
どんなに、アサギが嫌われても僕は必ず傍にいるから、だって友達だろ?
声には出さなかったが、そう、リョウは呟いた。
「トモハル、明日釣り俺も行くから」
「・・・あ、そ」
「何時に何処に集合だ!?」
「6時に、アサギの家」
翌朝。
ミノルもトモハルの後を追い釣りに参加した、だが。
アサギは。
真っ赤な瞳を帽子で隠すようにして、弟達の水筒を用意して。
スキニーのジーパンに、ぴたりとしたTシャツ。
「みんな、おはよう!」
「おはよ、アサギ。すらっとしてるから余計に脚が長く見えるなぁ」
「えへへ、ありがとう。今日はたくさん釣ろうね」
何事もなかったかのように、現れた。
ミノルには、軽い会釈。
リョウもやってきた、ミノルとアサギを割って入るようにぴたりと離れず。
「あ、おい・・・」
話しかけても、リョウが遮る。
目は、合わない。
アサギが避けていた。
そりゃ・・・そうだよなぁ・・・。
自嘲気味に笑って、ミノルは輪から外れる。
木陰で持ってきたジュースを飲めば、楽しそうに釣りをしている仲間達を見つめ。
疎外感。
うとうとと、ミノルは眠りにつく。
早朝だったから、眠いのだろう。
不意に、眠りから覚めて。
懐かしい香りに隣を見上げれば、アサギが立っていた。
「あ・・・」
思いもよらぬ事態に声も出ず、ミノルはアサギを凝視する。
「本当に・・・ごめんなさい・・・。あの、出来れば・・・その、少しでいいので、普通に接してくれると・・・嬉しいです。私、その、もう、その、必要以上に、近づきませんから。その、本当に、無理を言っていると・・・」
「ち、違うんだ、話を」
手を伸ばしたミノル、アサギの姿はそこにはなく。
以後。
ミノルが誤解を解くことはなく。
夢なのか、真実なのか。
アサギはその言葉通り、本当に最低限必要なこと以外ミノルに近寄らなかった。
2人は、勇者だった。
何か討伐の話がこれば、関わらざるを得ない。
その時だけ、本当にその時だけ。
アサギはミノルに話しかける、勇者として。
怯えたように、顔色を窺うように、必要以上にアサギに負担をかけて。
暫くして、アサギに恋人が出来た。
トランシスという名前の、五つ年上の男だった。
以前自分に向けられていた、頬染める笑顔が、その男に向けられた。
遠目で、見ていた。
自分だったはずなのに、と見ていた。
「ごめん・・・違うんだ・・・」
何度も呟いた、何度も懺悔した。
数ヵ月後。
泣き喚くトランシスを前に、打ちのめされたミノルは。
再び後悔した。
何故、心にもないことを2人の男は口走ったのか。
・・・それは。
それこそが。
だが、足が、いや、身体が動かない。
身体中の毛穴から厭な汗が吹き出た、唇が震える。
しかし、必死にこの境遇から抜け出すためにミノルは思案した。
防御策を練っていたのだ、自分を庇護した。
『憂美がいるから、いらない。アサギは、いらない。あんな可愛くない態度の女はいらない』
ミノルは、そう結論付けた。
そう思うことで、急に楽になった。
『あの子はだぁれ? ・・・私は?』
俯いて訊いてくれたら、よかったのに。
そうしたら抱き締めてキスをして・・・ミノルは、舌打ちし壁を殴りつける。
あからさまに余所余所しいアサギの態度が、非常に気に食わないミノル。
お高く、優等生、お利巧な女。
壁を、蹴り上げた。
その苛立ちを収める為に、怒りの形相でミノルは階段を駆け下りて自転車に跨る。
憂美に、会いに行くことにしたのだ。
力任せに漕ぎ続ける、自転車で三十分もすれば、憂美の家だった。
だが、その途中のコンビニ。
憂美を見つける、数人の少女達と一緒だった。
爆笑し、声がかけづらいので更に苛立つミノルだが、自転車を降りて近寄ってみる。
「どうよ、あの女、フラれた?」
「ばっかだよねー、実君もさ。ホイホイ騙されちゃって」
「憂美の演技が上手なんだよ、女優になったら?」
更に、血の気が引いたミノル。
声がまともに耳に入らないが・・・どうやら憂美はミノルが好きではないようだった。
酷く悪口も言っていた、怒りが込み上げるを通り越して情けなかった。
騙されたことに、気付いた。
ミノルは、すでに怒りなど消沈し、家までの帰路につく。
アサギに電話をかけるべきだと、思ったが何を切り出して良いのか解らず。
ミノルは茫然自失で部屋の天井を見上げたまま、眠りにつく。
写真立てには、アサギと自分。
不釣合いな美少女と普通の、男。
何故。
あのような感情を抱いたのか、何故アサギを裏切ったのか。
もてたことで、イイ気になった自分を恥じる。
アサギという美少女、そして憂美という美少女。
二人に告白されて、有頂天になっていた。
アサギは、何を知っているのか。
どこまで、知っているのか。
アサギに訊けないから、トモハル経由で様子を窺う。
「よ、トモハル。あのさ・・・、アサギの様子、最近どうか知らね?」
「別に・・・普通じゃないかな。訊きたい事があるなら、明日訊いとくけど?」
「明日?」
「あぁ、出かけるんだ」
トモハルは二人で、とは言わなかった。
ダイキがアサギの弟をバス釣りに連れて行くので、トモハルとアサギも同行することにしたのだ、それだけだ。
しかし過敏になっているミノルは、”二人で”だと、勘違いをした。
皮肉たっぷりに、吐き捨てるように、怒気を含んで叫ぶ。
「あぁ、アサギから聴いたのか? 何、二人付き合うわけ? へー、やっぱりなぁ、優等生様様だもんなぁ! 案外・・・」
急に右頬に激痛。
トモハルが、ミノルを殴り倒していた。
重い、痛み。
「付き合うわけ無いだろ! ・・・互いに別に恋愛感情なんて持ってない、ただ、大事な仲間で友達だアサギは。
・・・付き合っている男に”彼女じゃない”とか言われて号泣してたんだ、ミノル、お前・・・何やってんだよ、見損なったぞ! プールに行く約束、お前がしたんだろ?! 炎天下でアサギは待ってたんだぞ!?」
本気の一撃だった、壁に頭部を強打して飾ってあった写真が落下した。
息を荒げて、憤慨しているトモハルを唖然とミノルは見ている。
「な、なんだよ・・・」
「白を切るなよ! お前の彼女は、アサギなのかあの、憂美って子なのか! どっちなんだっ」
「ど、どうして憂美のこと知ってるんだよ」
「・・・アサギと見てた。ミノルがその子とキスするとこ」
「あ、あぁ!? ・・・ど、どうして2人が一緒にいるんだよ!? ほらみろ、お前らだって俺に隠れてこそこそと」
「違うっ! 偶然一緒になっただけだっ」
「し、信じられないねっ、あー、あー、そーですかー、やっぱりお前ら・・・」
「いい加減にしろっ!」
トモハルの絶叫が、響き渡る。
鬼のごとき形相にさすがのミノルも、息を飲んだ。
「頼むよ・・・ミノルが誰と付き合おうと勝手だけど・・・。アサギは・・・お前と付き合ってるってあの瞬間まで思ってたんだ。残酷にも程があるだろ? お前との約束、すっぽかされて帰路の途中でお前、なんて言ってたか憶えてるか? 全部アサギ、聞いてたんだ・・・」
項垂れて、半泣きなのか震える声でトモハルは床に滑り落ちる。
「・・・謝って来いよ、しっかり、お前の彼女の事説明して、アサギを」
「え、お俺は、俺・・・」
「きっと、アサギなら赦してくれるよ。お前が誰と付き合ってても、今まで通りに接してくれるさ」
「え、いや、その・・・」
「でもさ、ミノル。あの、憂美って子。つい最近まで彼氏が居たんだ、ほら、お前も知ってる隣の学校の六年。
アサギにソイツが一目惚れして、憂美を振ったんだってさ。・・・解るか? 腹癒せに使われたんだよ、ミノル」
「・・・っ、クッソっ」
ミノルは、部屋を飛び出した。
飛び出して自転車に跨った、アサギの家までの途中のコンビニの駐車場を横切れば。
「あれ、ミノル君だぁ」
甘ったるい声がした、止まることなく、視線だけ投げかけミノルは簡易れず怒鳴る。
「うっせぇ、どブスっ! 二度と面見せんなっ」
後方で、ぎゃーぎゃーと喚き散らす数人の少女達の声が聴こえたが、ミノルは無視。
アサギの家の前に到着した、家の前では、丁度リョウが出てきたところで。
互いに軽く会釈をする、アサギの幼馴染だとは知っているがトモハルの次はコイツかと、僅かに苛立ちを感じながらミノルは家のチャイムを鳴らす。
出てきたアサギは、ぎこちないながらも笑顔。
頭部に大きなリボン、ネイビーのサマーニットにチェックが可愛らしいひらミニ。
普段通りの、アサギだ。
「おはよう・・・ミノル。あ、おはよう、じゃないね。もうお昼だね」
「お、おぅ。あ、あのさ」
「い、今ね、みーちゃんにね、この間ミノルとしてたゲームを借りたトコなの。み、みんなで遊ぶとき、私も強くなっておこうと思って・・・。み、みんな、上手そうだもんね」
「あ、いや、それでさ」
「あ、そうだ。明日ね、ダイキが弟達をバス釣りに連れてってくれるの。以前から興味があったみたいで、私もトモハルも連れて行って貰うんだよ。よかったら、ミノルも一緒に・・・。・・・あ、い、忙しいよね、ごめんね・・・」
「あ、いや、明日は別に・・・」
アサギの言葉が止まらない、アサギの声の震えは止まらないがそれでも声は止まらない。
話を切り出したくとも、ミノルは遮れなかった。
哀しそうに困惑気味に、時折目を伏せる。
「あ、今からユキとお出かけなんだよ。ケンイチも一緒なんだけど。支度、しなきゃ」
「俺、俺も行こうか? 三人だと色々と」
「だ、大丈夫! その、別に、うん、へっき。ま、またね!」
「あ、ちょっと、おい!」
「さよなら」
バタン。
ドアが閉められた。
唖然とミノルは佇んでいる、隣を誰かが通過。
リョウだ。
ちらり、とミノルを一瞥したが何を言うでもなく勝手にドアを開けて入っていく。
「な、なんだよ・・・」
あからさまな避け具合、ミノルは舌打ちした。
胸が予想以上に痛んだ、あれでは、友達とは呼べない。
来た事すら、迷惑気まわりないような。
家の中から、走り回る音がしている。
「出かけるんじゃねーのかよ・・・」
ミノルは、暫し、玄関で待っていた。
けれども、一向にアサギは出てこない。
嘘を吐かれたらしい、歯軋りしてミノルは再び自転車に跨った。
不意に、ドアが再び開く音。
リョウだろうと思って何気なく視線を送れば、アサギだった。
「っ!」
引き攣ったアサギの顔、その表情にミノルは少なからずショックだった。
まるで、物の怪でも見る様な、怪異な瞳で。
怯えた光、気まずそうに瞳を伏せたアサギ。
「よぉ」
「こ、こんにちは・・・。ジュース、買いに行こうと思って。ま、またね!」
「ケンイチとユキは? 出かけるんだよな?」
「ユキが、熱が・・・えっと、2人で行きたいって連絡があって、それで、そしたら、みーちゃんが来てくれて」
「ゲームしてんの? 俺も混ぜろよ」
「え、で、でも、そんな、それは」
「何、俺が居ちゃ拙いわけ? お前ら、付き合ってんの?」
「えぇ、違うけど、その・・・」
しどろもどろ。
瞳を合わせずに口から出任せを言っているようなアサギに、ミノルは苛立っていた。
「み、ミノルは、その、あの、可愛い子と一緒に居たほうが・・・良いと思って、その・・・」
「憂美は今関係ねぇだろ!? 俺はお前に会いに来たんだよ」
「あ、その、私は大丈夫だか、ら。気にかけてもらわなくても、へっきで・・・」
「いい加減人の話聴けよ! こっち向けって」
逃げようとしたアサギの腕を掴んだ、小さな悲鳴を上げたアサギが。
・・・憎らしかった。
頬を染めて、好きだと言ってくれたアサギが。
自分を真っ直ぐに見つめて手を握ってくれていた、アサギが。
いない。
数年前のアサギとミノル、敬遠しているアサギがそこに居て、無性に歯痒くてもどかしくてイラだって。
「謝ってんだろ!? 話聞けよ!」
謝ってはいない、謝りに来ただけだった。
「あ、謝る!? ミノルは、何も悪いことしてないから、謝るって・・・何をかな?」
「はぁ!? お前、何しらばっくれてんだ!?」
「え、だって、その、あの、ミノルは別に悪くなくて、その、よく考えたら私が勝手に勘違いして・・・」
「何をどう勘違いしたんだよっ」
力任せに腕を掴んでいた、アサギの顔が痛みで歪んだ。
だが、離さなかった。
一体アサギは何を言っているのか。
プールをすっぽかした上に、二股していたことを謝りに来たのだ、それくらいアサギとて解るはずだった。
「ち、違うの、その、ミノルは悪くないから、だから謝らないで」
「お前なぁ!? ごめんって言ってるだろ!? ドコヘだって一緒に行ってやるって言ってるだろ!?」
アサギの足が震えていた、精一杯の強がりだった。
けれども、ミノルは気付かない。
ただ、何もなかったことの様にされることが、自分の存在も消されているようで。
真っ向から否定されているようで。
アサギにしてみれば、思い出したくなかったのだ。
辛くて辛くて、忘れられない時間を呼び戻されたくなかった。
そして、自分の身勝手な行動を恥じて罪悪感に責められていたのはミノルの気持ちを無視して突き進んでいた事実に気付いてしまったから。
憂美というミノルの本当の彼女に、一緒に居たら悪い気がして早く立ち去りたかった。
必死に、必死に。
せめて良い友達で居たいと、願ったのだ。
ミノルの負担にならないように、笑顔で接して全てを悟って。
「あの、あのね、ミノル、私はっ。気にしてないし、その、傷ついてないし、全然へっきだから、あの、こうして慰めに来てもらわなくても大丈夫で、その」
ぶちん。
ミノルの中で、何かが切れた。
アサギの腕を強く振りほどいて、小さな悲鳴を上げたアサギを見下ろす。
胸が、黒く染まっていく。
傷ついていないらしい、気にもしていないらしい、所詮はその程度だったということか、と。
今の言われ方は非常に腹立たしい、慰めに来たわけじゃない、寄りを戻したかっただけだった。
「お前、人間じゃないから、人に何言われても何されても平気なんだよな? ちったぁ俺が謝ってんだから、泣くとか喜ぶとかさ、作り笑い浮かべてないで何か言えよ。ほんっと、可愛げないな、お前」
硬直した、アサギ。
「お前さ、その勝手に解釈する都合のいい頭、どーにかしたら? ほんっと、むかつくなお前っ」
急に、動きが止まったアサギは口を開くことも忘れた。
弾かれたように、ようやく真っ向からミノルを見つめる。
「優秀なー勇者様ー、人間じゃないからー、魔王も一撃ー。いっつも、誰にでも、へっらへっらへっらへっら! 作り笑いの可愛げないお人形ー、ムカツクムカツク、死ねばいいのに! 人の気もしらねぇでっ」
近づいて、肩を押す。
ぺたん、とアサギが地面に倒れ込んだ。
「いつまでも、見てんじゃねぇよ、このブスっ! お前なんか、昔から、だいっ嫌いだ。そもそもなぁ、誰のせいで勇者ごっこする破目になったと思う!? お前だよ、お前のせいだよ! 最初からお前だけでも十分だったのに、巻き込みやがってっ」
びくり、とアサギが引き攣る。
「お利口だ、優秀だと持て囃されてー、あー、そうだよ、お前は立派だよ! でも、俺はそんなお前がだいっきらい・・・」
やめて。
と、アサギが呟いた気がして、ミノルはようやく我に返る。
涙が、大粒の涙がアサギの瞳から零れていた。
「あ・・・」
また、やってしまった。
こんなこと、言いにきたのではないのに。
謝りに来たのに、何故、こんなことを。
急に、喉が渇き震える手でアサギに手を差し伸べる。
「わ、わりぃ、言い過ぎた・・・その、ごめん」
「い、いえ、へっきです・・・」
ぐ、っとアサギは言葉を飲み込んで、俯いて腕で涙を拭いている。
「ご、ごめん・・・違うんだ、お、俺はさ、アサギ」
おろおろと、ミノルは周囲を窺う。
道路に座り込んでいる、美少女。
明らかに自分が苛めている図だ、いや、そうなのだが。
「その、よ、よかった今度一緒に、ぷ、プールに」
肩を震わしながら、必死に息を飲み込んでいるアサギは、泣き喚くのを堪えているようで。
「アサギ、悪かった、違うんだ、その・・・」
好きなんだ、本当は。
仲直りしたくて、来たんだ。
一言、もう一言が言えない。
数分が、数十分にも思えた。
ゆらり、とアサギは立ち上がる。
と。
笑顔。
笑顔でアサギはミノルに応え。
「ごめんなさい」
それだけ。
それだけ言うと、必死に自分の腕に爪を立て、何かに耐えるように唇を噛締め。
逃げ隠れるように家には戻らず、走り出す。
「あ、アサギ!」
声をかけるが、当然振り向かない。
ミノルは、自転車に飛び乗った。
「ち、ちが! 違う、違う!」
自転車と脚なら、直ぐに追いつけるだろう。
・・・けれど。
「アサギ!? アサギっ」
角を曲がったアサギの姿が、忽然と消えていた。
思わず自転車を降りて、ミノルは名を呼ぶ。
「悪かった! 言い過ぎたんだ! 違うから、戻って来いよっ」
おそらく。
アサギは、本当に消えたのだろう。
瞬間移動か、宙に浮いて逃亡したのか。
「アサギ!」
・・・以前にも、以前にも。
あの表情を見た。
ミノルに、脳への衝撃が。
汚れた姫君、佇んで。
蔑まれ石を投げつけられ、流血しながら佇んで。
自分を助け、頼って来てくれた姫君を。
サ・ヨ・ウ・ナ・ラ。
儚げに、微笑んだ姫君は。
「アサギっ!」
叫んでも、叫んでも、ミノルの声はアサギには届かない。
「遅くなっちゃったね、みーちゃんジュース」
ペットボトルを四本、アサギは抱えて戻ってきた。
ゲームをしていたリョウと弟達に配ると、自分も蓋を開けて飲み出す。
コントローラを弟に投げ、リョウはアサギに近づいた。
「・・・」
ぽふ、っとクッションをアサギの頭部に。
無理するなよ、と小声で聴こえるように囁けば。
アサギは。
ずるずると蹲る。
隣に居た、リョウの膝に蹲って声を押し殺して泣いていた。
「・・・私・・・嫌われちゃう・・・」
「気にすんな、僕は・・・嫌わない」
「う、うぅっ、どぉしよぉ、私、取り返しのつかないこと、してったっ」
「したことは、仕方ない。過去には戻れない、過去に捕らわれちゃ駄目だ」
「どぉしよぉ、酷いこと、いっぱいしてた、のっ」
ぼふぼふ、とクッションの上からリョウはアサギを励ますように撫でた。
「・・・大丈夫だよ、どんなに・・・」
どんなに、アサギが嫌われても僕は必ず傍にいるから、だって友達だろ?
声には出さなかったが、そう、リョウは呟いた。
「トモハル、明日釣り俺も行くから」
「・・・あ、そ」
「何時に何処に集合だ!?」
「6時に、アサギの家」
翌朝。
ミノルもトモハルの後を追い釣りに参加した、だが。
アサギは。
真っ赤な瞳を帽子で隠すようにして、弟達の水筒を用意して。
スキニーのジーパンに、ぴたりとしたTシャツ。
「みんな、おはよう!」
「おはよ、アサギ。すらっとしてるから余計に脚が長く見えるなぁ」
「えへへ、ありがとう。今日はたくさん釣ろうね」
何事もなかったかのように、現れた。
ミノルには、軽い会釈。
リョウもやってきた、ミノルとアサギを割って入るようにぴたりと離れず。
「あ、おい・・・」
話しかけても、リョウが遮る。
目は、合わない。
アサギが避けていた。
そりゃ・・・そうだよなぁ・・・。
自嘲気味に笑って、ミノルは輪から外れる。
木陰で持ってきたジュースを飲めば、楽しそうに釣りをしている仲間達を見つめ。
疎外感。
うとうとと、ミノルは眠りにつく。
早朝だったから、眠いのだろう。
不意に、眠りから覚めて。
懐かしい香りに隣を見上げれば、アサギが立っていた。
「あ・・・」
思いもよらぬ事態に声も出ず、ミノルはアサギを凝視する。
「本当に・・・ごめんなさい・・・。あの、出来れば・・・その、少しでいいので、普通に接してくれると・・・嬉しいです。私、その、もう、その、必要以上に、近づきませんから。その、本当に、無理を言っていると・・・」
「ち、違うんだ、話を」
手を伸ばしたミノル、アサギの姿はそこにはなく。
以後。
ミノルが誤解を解くことはなく。
夢なのか、真実なのか。
アサギはその言葉通り、本当に最低限必要なこと以外ミノルに近寄らなかった。
2人は、勇者だった。
何か討伐の話がこれば、関わらざるを得ない。
その時だけ、本当にその時だけ。
アサギはミノルに話しかける、勇者として。
怯えたように、顔色を窺うように、必要以上にアサギに負担をかけて。
暫くして、アサギに恋人が出来た。
トランシスという名前の、五つ年上の男だった。
以前自分に向けられていた、頬染める笑顔が、その男に向けられた。
遠目で、見ていた。
自分だったはずなのに、と見ていた。
「ごめん・・・違うんだ・・・」
何度も呟いた、何度も懺悔した。
数ヵ月後。
泣き喚くトランシスを前に、打ちのめされたミノルは。
再び後悔した。
何故、心にもないことを2人の男は口走ったのか。
・・・それは。
それこそが。
PR
この記事にコメントする
カレンダー
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
最新コメント
[10/05 たまこ]
[08/11 たまこ]
[08/11 たまこ]
[05/06 たまこ]
[01/24 たまこ]
[01/07 たまこ]
[12/26 たまこ]
[11/19 たまこ]
[08/18 たまこ]
[07/22 たまこ]
カテゴリー
フリーエリア
フリーエリア
リンク
最新トラックバック
プロフィール
HN:
把 多摩子
性別:
女性
ブログ内検索
カウンター