別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
×
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何もなき宇宙の果て 何かを思い起こさせる
向こうで何かが叫ぶ 悲しみの旋律を奏でる
夢の中に落ちていく 光る湖畔闇に見つける
緑の杭に繋がれた私 現実を覆い隠したまま
薄闇押し寄せ 霧が心覆い 全て消えた
目覚めの時に 心晴れ渡り 現実を知る
そこに待つのは 生か死か
ただ、ひたすらに。
言葉を吐き捨てたくて、それが出来ないから代わりにハープをかき鳴らした。
喉が切れるまで、歌い続けた。
意味もなく、大声で叫ぶように歌った。
咳き込んで、血の味が口内に一杯広がっていく。
顔を顰め、ぜひぜひ、と喉がしわがれた音を出す。
それでも。
真冬の海に向かって、泣きながら音をがむしゃらに出し続ける。
「よさないか。お前の声は、そんなことで潰してはいけない」
硬直。
振り返るまでもなく、知人の声だった。
荒い呼吸で、皮肉めいた声で、引き攣りながら。
「放っておいて。みんなの大事なお姫様を壊した私には、こうでもしてないと意識が保てないのだから」
再び、声を張り上げたが、口を手で塞がれた。
必死に剥がそうとハープを投げ捨て暴れたが、この男に敵うわけもない。
「落ち着け。お前がこうでは、・・・哀しむ。壊したと罪の意識があるのならば、その声を大事にしろ」
上空で、男の相棒の竜が物悲しく、啼いていた。
※画像は発見された過去の産物(おぃ)。10年前のものです。
結構お気に入りでした、私的には頑張ったんです。
色合いは、
アサギ⇒そのまま
トランシス⇒火なので赤
トビィ⇒水なので水色
ベルーガ⇒光なので黄色
リョウ⇒風なので緑
と、なってます。
向こうで何かが叫ぶ 悲しみの旋律を奏でる
夢の中に落ちていく 光る湖畔闇に見つける
緑の杭に繋がれた私 現実を覆い隠したまま
薄闇押し寄せ 霧が心覆い 全て消えた
目覚めの時に 心晴れ渡り 現実を知る
そこに待つのは 生か死か
ただ、ひたすらに。
言葉を吐き捨てたくて、それが出来ないから代わりにハープをかき鳴らした。
喉が切れるまで、歌い続けた。
意味もなく、大声で叫ぶように歌った。
咳き込んで、血の味が口内に一杯広がっていく。
顔を顰め、ぜひぜひ、と喉がしわがれた音を出す。
それでも。
真冬の海に向かって、泣きながら音をがむしゃらに出し続ける。
「よさないか。お前の声は、そんなことで潰してはいけない」
硬直。
振り返るまでもなく、知人の声だった。
荒い呼吸で、皮肉めいた声で、引き攣りながら。
「放っておいて。みんなの大事なお姫様を壊した私には、こうでもしてないと意識が保てないのだから」
再び、声を張り上げたが、口を手で塞がれた。
必死に剥がそうとハープを投げ捨て暴れたが、この男に敵うわけもない。
「落ち着け。お前がこうでは、・・・哀しむ。壊したと罪の意識があるのならば、その声を大事にしろ」
上空で、男の相棒の竜が物悲しく、啼いていた。
※画像は発見された過去の産物(おぃ)。10年前のものです。
結構お気に入りでした、私的には頑張ったんです。
色合いは、
アサギ⇒そのまま
トランシス⇒火なので赤
トビィ⇒水なので水色
ベルーガ⇒光なので黄色
リョウ⇒風なので緑
と、なってます。
ゆめ
宇宙の果ては ”マリーゴールド” なんとなく、思い出したの
あぁ、そっか、叫んだのは 泣いても仕方ないでしょう
夢になんて、堕ちていかない 光も、闇もない場所で
そこから出てはいけないのに、それでも出たいと渇望を 知っていたはずなのに、私は考えなかった
もし悲しみの色を例えるなら”灰色” 周囲は何も見えなくて、迷子 足元が崩れて何もなくなって一人きり
目が覚めたの 思い出したの 全部判ったの、判っていたの
そこに待っていたもの? 生でも死でもなく。
目の前に、好きな人がいました。
心配そうに覗き込んでくれているような気がしたので、私は。
いつもみたいに、前にみたいに嬉しくて微笑んで、そっと腕を伸ばして首にまわして。
ぎゅ、って。
ぎゅ、って。
ぎゅって、して。
なまえ、なまえ、なま、え・・・を・・・。
「あ・・・」
急に、体温が低下して、口内が一気に乾燥して。
思い出しました。
あれは、夢でした。
私が思い描いていた、とても幸せな夢でした。
可愛い小さなおうちで、二人で暮らす夢を見ていました。
見ては、いけないのに。
「ごめ、な、さ・・・」
目の前に、その人は居ました。
物凄く、怒っています。
怒ってる。
急に、手が伸びてきたから、私は叫び声を上げて、逃げようとしました。
後ろは泉だったから、バランスを崩して水の中に沈んで。
冷たいのだろうけど、別に感覚なんてないから、冬でも大丈夫。
だって、私、人間じゃないし。
深くないけど、浅くもない。
私は、一気に泉に落ちて、とりあえず逃げようとしてた。
けど。
「ゴボっ」
頭を、手で押さえつけられたから、上に上がれない。
息が、出来ない。
うっすらと瞳を空ければ水面上で愉快そうに笑っている、あの人が見えた。
・・・怒ってる。
私が、約束を破ったから、とても、あの人は怒ってます。
『もう。二度とあなたの前に私が現れなかったら、あなたは。
・・・これ以上、私を嫌わないでいてくれますか?
好きになってくださいなんて、言いません。これ以上、嫌いにならないで下さるのならば、とても、嬉しいです』
必死で、水中でもがいて。
もう、一ヶ月以上前になるのかな、その人に言った私の言葉。
思い出して、涙が込み上げて。
首を、絞められながら、夢中で手を振り回したら、ふと水中は。
団栗の大木の根がびっしりと浸かっていたから、迷路みたいに入り組んでいたので。
私、そこへ逃げました。
押さえつけていた手を振り払って、逃げました。
懸命に脚をばたつかせて、泳いで木の根に潜りこんで、顔をちょこっと出したら、そこは。
不思議な空間。
団栗の木の根に囲まれて、音が反響する不思議な空間。
なんて、神秘的。
「騒がせて、ごめんなさい。・・・すぐに、ここを発ちますから」
私の声が、反響して、苦笑い。
早く、逃げよう。
また、何処かへ隠れなくちゃ。
眠っていて、目が覚めて、思い出した。
明確に、思い出した。
星の並び、あれが、”あの時と”同じならば私は還る事が出来る。
だから、それまで何処かに身を潜めていなければいけません。
二月下旬の、泉の水温は人間にはとても冷たいもので多分凍死してしまうけれど。
私は人間ではないから体温を維持出来る・・・というか、体温自体存在しないから、生きていられる。
生きていられる、というよりも、・・・死なないし、生きない存在。
覚えてる、分かった、私。
ピチャン。
水滴が、目の前に落下して、綺麗な波紋を描いてた。
水を、両手ですくって口に含んだ。
・・・冷たい?
美味しい?
判らない。
味が、判らない。
判らなくて、当然だから、仕方ない。
思い出したのなら、実行しなければ。
私は、水の中を泳いで、泳いで、空気の振動のないほうへと。
神経を研ぎ澄まして、無音の方角へ。
木の根を潜って、地上に出たらお月様が綺麗に光ってた。
ボロボロの牢人の服を絞って、地面に足を。
さわさわ、風が吹いたから思わず見上げた。
何処へ行こう、イノチが極力少ない場所へ行かなければ。
南極とか、北極とか、その辺りが無難だと思うから。
私は、足を踏み出した。
「見つけた」
声が、したの。
声がしたから、振り向こうとしたら目の前が真っ暗になって、土の匂い。
どうやら地面に叩きつけられて、何かで押さえつけられたみたいで。
必死にもがいた、必死に抵抗した。
けれど。
「みんなが、待ってる。・・・今度こそ、逃がしはしないさ。
早く、死んでくれ」
声が、したのです。
土が口内に入って、じゃり、って。
頭を押さえつけられて、凄い力で、けれども、諦めるわけにはいかないから。
私は。
首を絞められても。
必死で。
逃げることだけ考えた。
落ち着こう、逃げる機会はまだあるはずだから。
みんなの元へと連れて行く中で、その人が、私を見て豪快に吹き出した。
「髪、切ったんだ?」
「・・・」
「ますます醜くなったな、お前」
「・・・」
爆笑しているその人に、何故か、胸が痛くなった。
多分、この人にとって、私の髪型などどうでもいいのだろうけれど、それでも。
私の髪は、変な色。
変な髪なら短いほうがいいでしょう。
いっそのこと、全部切り落としたほうが良いのでしょうか。
そっと、前髪を摘んで見た、・・・やっぱり変な色。
私は、また。
殴られたり、焼かれたり、四肢を斬り落とされたりするのでしょうか。
別に、痛くないから大丈夫。
常に何故かヒーリングがかかっている変な身体だから、死なない。
死ねない。
人間じゃないから。
どうやって、逃げよう。
逃げて、時を待たないと。
今度こそ、失敗しない。
思い出したもの、還る方法。
私は、天を見上げた。
世界中の宝石を夜空に散りばめても、足りないくらいに澄んだ空に浮かぶ、宇宙の星達、そして月。
早く、還らなきゃ。
私が本来居るべき場所は、ここではなくて。
あそこ。
規律が乱れたから、廃除するように自然の摂理が動き出す。
”私”という、不要な存在を弾き出す為に、全ては廻る。
廻れ、運命の歯車。
もう少し、もう少し、きっと、あと、数年後に。
私は、還るから、だから。
そっと。
その人の後姿を見つめてみました。
綺麗な紫銀の髪が、夜風になびいて。
・・・ごめんなさい。
私は、目を瞑りました。
この人を、見てはいけないのでした。
この人に、迷惑をかけて、かけて、かけ続けて。
それも、もうすぐ終われるのです。
自分の人生を、何度も、何度も・・・。
八回も”私に”滅茶苦茶にされた、この人は。
私を転生しても許すことはないでしょう。
だから、せめて、これ以上嫌われないようにしたかったのに。
恋人は元気ですか、と聞こうと思ったけれど。
余計なことだと、殴られそうだったのでやめました。
私が関わると、災いが起こってしまうのです。
愛する恋人を護ることは、この人にとっても、世の男性にとっても同じ事で。
・・・ガーベラは、今とても幸せだから。
・・・話を聴きたくても、止めておきました。
何処に居ても、何をしても、失敗しか引き起こさない私。
それは。
私が、この星の住人でも、あの星の住人でもないからで。
・・・思い出したのに。
戻るに戻られないだなんて。
どうしよう。
「少しは、笑えよ」
連れ戻されて、元の部屋に押し込められました。
毎日、毎日、この人は。
私が逃げ出さないように見張っているので、上手く逃げられません。
逃げたら、追って来て、髪を引っ張って連れ戻されます。
でも、逃げなきゃ。
私を監視しているこの人は。
・・・常人では計り知れないほどの恨みを、私に抱いています。
当然です、知ってます、判ってます。
私、私はね、ホントはね。
この外見が、気に障るのならば人型でなど、ありたくない。
ただただ、あなたの傍に居られるのであれば、例えば。
空を自由に舞う鳥になれたら、よかったのに。
そうしたらあなたの家の近くで私は、鳴く事もなく。
木に止まって時折、恋人と語っているあなたを見るでしょう。
日陰に咲く花になれたら、よかったのに。
そうしたらあなたの家の壁の隅で私は、静かに。
時折聴こえるあなたの声や、足音に耳を傾けるでしょう。
カタチのない空気になれたら、よかったのに。
そうしたらあなたの周囲でくるくる、と。
あなたの頬を撫でたり、・・・。
駄目でした。
この存在自体が疎ましいのに、カタチが変わっても私は私でしかありえないのに。
そんなこと、出来る筈もない。
蹲って、うとうと。
偽者の息を吐いて、吸って。
・・・ここは、何処かな。
真っ暗な、真っ暗な、場所。
何も見えないけど、別に怖くない。
『お前の望みは、何だ?』
誰かの声が聴こえたから、見えないけど首を動かしたら。
隣にフードを被った人が立っていたから、思わずお辞儀。
ふと、足元に。
あの人が、笑って立っていました。
なんだか雲の上から、あの人を見ているみたいな感覚。
『あの男の隣に立ちたいのであれば、それ相応の・・・』
フードの人が、呟きかけたので、私は小さく笑って。
「・・・流れるような、ふわふわの綺麗な金の髪。瞳は艶めく紫色で、宝石みたいに光って。思わず触れたくなるような唇は、大人っぽい深紅。お人形みたいな整った顔立ち、誰もが羨むような女性らしい身体で。みんなを魅了する美しい女の人。とても可愛らしくて、華奢で、歌声は鈴の音を転がしたかのよう。思わず護ってあげたくなるような、あの人に相応しい、花のような女性」
私は、そんな人を知っている。
そして、そんな人があの人の隣に居るべきはずだったことも、知っている。
『それは、お前ではないよ。別の人物だよ』
下を、覗き込んだ。
あの人の隣に、私の大事な綺麗な友達・・・いえ、綺麗な女性が、立っていたから。
二人は幸せそうに、手を繋いで肩を並べて歩いていたから。
だから、私は不思議と笑顔になったのです。
「とても、お似合いだと思いません?」
『お似合いだね』
「私は、とても、嬉しいです」
『お前の望み、それでよいな? 変更は?』
「いいえ、これが私の望みです。あの人が、幸せなら私も幸せで。あの人が幸せだと、彼女も幸せで。全てが、上手くいくのです」
『・・・そうか』
私は、そのフードの人と微かに頷いて、幸せそうな恋人達を見下ろしていました。
「運命の恋人同士、だそうです。本来、邪魔されないはずなのですが、私のせいで随分と長い間邪魔が」
『・・・』
「いいな」
『お前の望みは、もう変更出来ないよ。いいな、と言っても、もう』
「いえいえ、私には、イノチがないので。運命の恋人、というのは存在しませんから」
『・・・』
少しだけ、見ていてもいいでしょうか。
あぁして、手を繋いで歩くのです。
女の子が危なくないように、女のを護るようにして、歩いてくれます。
互いが互いに、優しくて。
もちろん、喧嘩もするけれど。
でも、すぐに元通り。
好きな人に、酷い事なんて出来ません。
酷い事を言ってしまったら、すぐ謝ります。
大丈夫、仲の良い二人はすぐに元通り。
『還ろうか、お前が望むのであれば』
「? あなた、だぁれ?」
『私は』
誰だろう、知っている気がする。
フードが、突風ではずれて、顔が見えた。
私は。
―――・・・もし。記憶が戻った仲間が揃ったのなら、会話しても可能だ―――
―――わかりました、ありがとうございます―――
薄っすらと消え行く意識の中で、みんなの声を聴いていた。
忘れちゃいけない、声がたくさんしているけれど。
・・・忘れなきゃ。
真相。
「ベルーガ様、アサギちゃんの知り合いと名乗る男達が来ておりますが。・・・いかがされますか?」
外を見下ろしていたベルーガは、その声に返答する間もなく無意識に机の引き出しから何かを取り出していた。
それを右手で触りながら、窓から空を見上げている。
空は灰色、分厚い雲が空にひしめき命の成長を妨げて数日。
太陽の光などわずかばかり、至る所で被害が出始めていた。
「ベルーガ様、ご返答を」
「・・・通せ」
ぽつり、と呟いたベルーガは家臣が自室から出て行ったことを確認した後、取り出した物を掌に乗せて見つめる。
ペンダント。
左右が開けられるペンダントだ。
もう、何度も見慣れたものでこうして開けば・・・。
紫銀の髪の男が、そこに居た。
おそらく、ベルーガの意図が外れていなければ今にこの男がそこから顔を出すだろう。
「ベルーガ様、連れて参りました」
窓に映る、家臣とその後ろの男達。
案の定、このペンダントの男が立っている。
名前は知っている、”トランシス”。
以前、アサギがうわ言で呟いていた。
静まり返る室内、家臣もで入口であるドアの前で佇んでいる。
口を開いたのは、トランシス、という男ではなく冷静沈着そうな鋭い眼光の男だ。
「アサギは何処だ。街で貴様が匿った上何処かへ放ったと聞いたが?」
「ほぅ、そのような噂が流れているのか・・・心外だ」
ゆっくりと、ベルーガは振り返る。
敵意を剥き出しにしているトランシスの前に、ひっそりと立っているのが今語り出した男。
「違います、それは誤解なのです」
「下がれ」
堪りかねてか、割って入った家臣を怪訝に睨みつけたベルーガだが、家臣はそのまま続けた。
「いえ、黙っているわけには。
・・・あの日、アサギちゃんはベルーガ様を護る為に自ら処刑台へと昇りました。類稀な能力を公の場で発揮せざるを得なかったアサギちゃんは、直様悪魔の申し子、魔女の降臨と下げずまれたのです。・・・全ては、第二皇子ベルーガ様を陥れんとする、第三皇子側の策略です」
「まだ、確証がない」
「策略により、ベルーガ様はその地を離れておりました、アサギちゃんを救えるものが傍に降りませんでした。抵抗すればベルーガ様の立場を危うくすると判断したアサギちゃんは、自ら火炙りの刑を受け入れたのです。
ですが、彼女は処刑の最中に自分を以前救ってくれた街人を死の淵から救い、そのまま天へと昇るように掻き消えました。その場に居た者は恐怖に恐れおののくか、神々しさに平伏すかのどちらかで。
・・・それ以後、彼女の姿を誰も見ていません。ので、今居場所を知る者は誰一人としておりません」
大人しく聴いていたトビィが、再度口を開く。
「そちら側の主張はそれだけか、貴様らの立場はどうでも良いが、アサギの居場所を知らないのなら・・・無駄足だったな」
「ベルーガ様はあの日以来、アサギちゃんを捜索する手を休めておりません、が、見つかりません」
「・・・おしゃべりが過ぎるぞ、少し黙れ」
ベルーガがようやく前に進み出る、睨みを利かせているトビィに軽く首を傾げた。
「この者が言ったとおりだ、私はアサギの居場所を知らない」
「街の噂では、貴様アサギを手ひどく扱ったらしいな?」
「”噂”であろう? 私があのムスメをどう扱おうと・・・貴殿には関係ないことでは? あれはそもそも、金で引き取られたムスメだ」
「アサギは、オレの義妹だ」
「ほぉ? 兄が居たのか? ・・・しかし、アレは自分は天涯孤独の独り身だと言っていた。どちらが本当のことを言っているのだろうな?」
一発触発、トビィとベルーガの周囲に張り詰めた空気が漂う。
「・・・この三方を客室へ。喉が渇いた、茶でも出してくれ」
「いや、その必要はない。ここを出る」
踵を返しかけたトビィを、家臣が引きとめた。
「あの、アサギちゃんが何者なのかは知りませんが・・・。あの子は何れ、ベルーガ様の妃となるお方です。見つけ出すのは構いませんが連れて行かれませんよう」
「何だと!?」
弾かれたようにトビィが、リョウがベルーガを見つめる、トランシスが、ようやく口を開いた。
「アサギは・・・オレのだっ! 」
つかつかとベルーガの前に進むとトビィを押し退けて、胸倉を掴む。
愉快そうにベルーガは口の端をあげて笑った、憎々しげにトランシスを見つめる。
「オレの? お前は誰だ?」
「トランシス・ライフ・ディアシュ! アサギの恋人だ」
瞳を細めたベルーガは次の瞬間爆笑する、声高らかに。
「ははは、そうか・・・。全く面白い客人だ、アサギは産まれてこの方『自分に恋人など出来た事がない』と言っていたがな? 偽の兄に恋人か、後ろの少年は友達、と言ったところか?」
トランシスの手をはたき、身なりを整えたベルーガはそっと手の内のペンダントを胸に仕舞いこむ。
おそらく、嘘を言っていたのは”誰でもない”。
この三人の男達が言っている事も本当で、アサギが言っていた事も”彼女にとっては本当”の事だったのだろう。
「3人とも、アサギの客だった・・・といった感じか? 卑屈ではいたがなかなかの身体だった、さぞかし有名な売女だったのだろうな? 佼女といえばそうだった、幼かったが・・・」
トビィの声と共にトランシスが剣を引き抜いていた、憤慨した様子でベルーガの首に剣を突きつけている。
わざと、ベルーガは挑発した。
知っていた、このトランシスという男がアサギの恋人だった事も知っていた。
だから、言ってみた。
非常に気に食わない男であると思ったから、思っていたから自分の存在をあえて植えつけた。
「お、おまえぇぇぇぇぇっ!」
「自分の女を抱いて、何が悪い。・・・アレは、私が貰う。妻にするかどうかは今後決めるが」
「アサギはっ。アサギはオレのっ」
「お前か、変な癖をアサギに与えていたのは? 全く苦労した、が、今では私好みに、私に合わせて腰を振るように・・・」
ガギィィィン・・・。
トランシスの剣を、ベルーガの槍が弾く。
思いの外の強い攻撃だった、ベルーガの両手が麻痺する。
「殺す、お前、絶対殺すっ!」
「・・・ふん、浅はかな愚か者めが」
リョウが、トビィが止めに入るがトランシスは喰いつく様にベルーガに執拗に剣を振り回している。
冷ややかな視線をトランシスに投げかけ、ベルーガは怒気を含んだ口調で叫ぶように放つ。
「自我を崩壊するほど執着していた女を、手放したお前が悪いんだろう!? 手放されていたあの酷く惨めなムスメを私が拾い上げた、それだけだ。他人を殺すほどの激情に駆られるのであれば、 最初から籠にでも閉じ込めておくんだったな」
吼えるトランシスだが、トビィは唇を噛締める。
反論できない、ベルーガの言う通りだった。
「お前に・・・何がわかるっ」
「知らん。私が今見たばかりの貴様の事を知るはずもないだろう」
槍の構えを解く。
静かにベルーガは髪をかき上げると、再び窓へと視線を移した。
「・・・アサギは。お前の事などとうに忘れているようだったがな? 探されても迷惑だろう、それでも行くと言うのならご自由に。アサギが私を選ぶか、お前を選ぶか。それだけだ」
ドアを突き破る勢いで、トランシスが飛び出した。
「・・・青いな・・・あれでは、アサギを任せられん」
部屋には、トビィとリョウが残っている。
いつしか運ばれてきた紅茶、外は吹雪いていた。
「お前達は行かないのか?」
紅茶を啜りながら視線を合わせず、ベルーガは問う。
「・・・アサギを救えるのは、悔しいがトランシスだけだ」
「ほぅ? あの男より、よほどお前達のほうが人間的に良く見えるが」
「・・・それでもアサギが最も欲するのがあの男なんだから、仕方がない」
「・・・」
紅茶を啜り始めたトビィと、リョウ。
「部屋を。滞在すると良い、アサギの”兄”と”友人”なのであろう? 無下には出来ん」
通り過ぎ部屋から出ようとしたベルーガ、トビィがぼそり、と呟いた。
「何故、ワザとトランシスを激怒させた?」
「気付いていたのか? だが、嘘は告げていない、あれは真実だ」
カップをテーブルに叩き付けたトビィ、怒りで身体が震えているが必死で堪えている。
「・・・アサギが何者でも構わない、伴侶にしたいのは真。数奇な運命を背負っている事も判っている」
「ふん・・・」
「一つ尋ねよう。どうしてあそこまでアサギは劣等感を抱いている? 先程の青二歳の仕業か?」
「・・・」
リョウが口を噤んだ、トビィを見上げている。
トビィは僅かに肩を震わせ、落胆したように肩の荷を下ろすと小さく、本当に小さく溜息を吐く。
「・・・アサギは」
必死に凍て付く寒さの中、トランシスは駆け巡った。
この、惑星のどこかにアサギはいる。
傷ついて、泣きつかれて、遠くへは行っていないだろう。
「誰か! 誰か教えてくれ! アサギを知らないか!? アサギに会いたいんだ!」
誰も、応じない。
けれども、不意に。
トランシスは宙に浮きながら、ある一つの山岳が目に留まる。
何故か、雪に埋もれながらも一箇所だけ緑の木が点在している山があった。
迷わずトランシスはそこを目指していた、アサギが居る場所ならば草木の命が溢れ出ていても不思議ではない。
その山に下りようとした途端、突風が吹き荒れる。
思わずバランスを崩し、落下した。
枯れ果てた木々の枝を破壊し、行き降り積もる地面に。
「お、教えてくれ! アサギは!? アサギは何処に!?」
叫んでいた。
この山全ての生き物に叫んでいた。
見れば、前方から雪崩が。
まるで行く手を阻むかのような自然の猛威、確信したのだここにアサギがいると。
「アサギ! オレだ! 迎えに来たよ!」
―――大変です! 人間が来ました!―――
―――殺しましょう! アサギ様が連れて行かれちゃう!―――
―――死を! 死を! 制裁を! ―――
木々がざわめく、冬眠していた動物達が地中で吼えた。
上へ、上へと歩くトランシスの足元をすくおうと、木の根が足首を掴むように絡まり。
氷点下の雪の中へ顔を埋めさせ窒息させようと。
けれども、トランシスは諦めなかった。
ゆっくりとだが前へと、進んでいたのだ。
―――通しておあげ。制裁を決めるのは我らではないよ・・・―――
一際高い、老人の声だった。
途端、雪が止み、視界が晴れる。
大木の麓、泉に右手を浸してアサギは眠っていた。
微かに眉を潜めているが、息をしている。
思わずトランシスの瞳から涙が零れ落ちる、震える身体、口元に笑み。
「アサギ!」
駆け寄り、思わず抱き締めた。
頬ずりしながら、髪に口付けを零し、懸命に抱き締める。
身体は氷の様に冷たく、それでも、生きている。
温めるように必死でトランシスはアサギを覆い隠した、薄布しか纏っていないアサギは生きているだけで奇跡だ。
・・・”人間であるならば”。
宇宙の果ては ”マリーゴールド” なんとなく、思い出したの
あぁ、そっか、叫んだのは 泣いても仕方ないでしょう
夢になんて、堕ちていかない 光も、闇もない場所で
そこから出てはいけないのに、それでも出たいと渇望を 知っていたはずなのに、私は考えなかった
もし悲しみの色を例えるなら”灰色” 周囲は何も見えなくて、迷子 足元が崩れて何もなくなって一人きり
目が覚めたの 思い出したの 全部判ったの、判っていたの
そこに待っていたもの? 生でも死でもなく。
目の前に、好きな人がいました。
心配そうに覗き込んでくれているような気がしたので、私は。
いつもみたいに、前にみたいに嬉しくて微笑んで、そっと腕を伸ばして首にまわして。
ぎゅ、って。
ぎゅ、って。
ぎゅって、して。
なまえ、なまえ、なま、え・・・を・・・。
「あ・・・」
急に、体温が低下して、口内が一気に乾燥して。
思い出しました。
あれは、夢でした。
私が思い描いていた、とても幸せな夢でした。
可愛い小さなおうちで、二人で暮らす夢を見ていました。
見ては、いけないのに。
「ごめ、な、さ・・・」
目の前に、その人は居ました。
物凄く、怒っています。
怒ってる。
急に、手が伸びてきたから、私は叫び声を上げて、逃げようとしました。
後ろは泉だったから、バランスを崩して水の中に沈んで。
冷たいのだろうけど、別に感覚なんてないから、冬でも大丈夫。
だって、私、人間じゃないし。
深くないけど、浅くもない。
私は、一気に泉に落ちて、とりあえず逃げようとしてた。
けど。
「ゴボっ」
頭を、手で押さえつけられたから、上に上がれない。
息が、出来ない。
うっすらと瞳を空ければ水面上で愉快そうに笑っている、あの人が見えた。
・・・怒ってる。
私が、約束を破ったから、とても、あの人は怒ってます。
『もう。二度とあなたの前に私が現れなかったら、あなたは。
・・・これ以上、私を嫌わないでいてくれますか?
好きになってくださいなんて、言いません。これ以上、嫌いにならないで下さるのならば、とても、嬉しいです』
必死で、水中でもがいて。
もう、一ヶ月以上前になるのかな、その人に言った私の言葉。
思い出して、涙が込み上げて。
首を、絞められながら、夢中で手を振り回したら、ふと水中は。
団栗の大木の根がびっしりと浸かっていたから、迷路みたいに入り組んでいたので。
私、そこへ逃げました。
押さえつけていた手を振り払って、逃げました。
懸命に脚をばたつかせて、泳いで木の根に潜りこんで、顔をちょこっと出したら、そこは。
不思議な空間。
団栗の木の根に囲まれて、音が反響する不思議な空間。
なんて、神秘的。
「騒がせて、ごめんなさい。・・・すぐに、ここを発ちますから」
私の声が、反響して、苦笑い。
早く、逃げよう。
また、何処かへ隠れなくちゃ。
眠っていて、目が覚めて、思い出した。
明確に、思い出した。
星の並び、あれが、”あの時と”同じならば私は還る事が出来る。
だから、それまで何処かに身を潜めていなければいけません。
二月下旬の、泉の水温は人間にはとても冷たいもので多分凍死してしまうけれど。
私は人間ではないから体温を維持出来る・・・というか、体温自体存在しないから、生きていられる。
生きていられる、というよりも、・・・死なないし、生きない存在。
覚えてる、分かった、私。
ピチャン。
水滴が、目の前に落下して、綺麗な波紋を描いてた。
水を、両手ですくって口に含んだ。
・・・冷たい?
美味しい?
判らない。
味が、判らない。
判らなくて、当然だから、仕方ない。
思い出したのなら、実行しなければ。
私は、水の中を泳いで、泳いで、空気の振動のないほうへと。
神経を研ぎ澄まして、無音の方角へ。
木の根を潜って、地上に出たらお月様が綺麗に光ってた。
ボロボロの牢人の服を絞って、地面に足を。
さわさわ、風が吹いたから思わず見上げた。
何処へ行こう、イノチが極力少ない場所へ行かなければ。
南極とか、北極とか、その辺りが無難だと思うから。
私は、足を踏み出した。
「見つけた」
声が、したの。
声がしたから、振り向こうとしたら目の前が真っ暗になって、土の匂い。
どうやら地面に叩きつけられて、何かで押さえつけられたみたいで。
必死にもがいた、必死に抵抗した。
けれど。
「みんなが、待ってる。・・・今度こそ、逃がしはしないさ。
早く、死んでくれ」
声が、したのです。
土が口内に入って、じゃり、って。
頭を押さえつけられて、凄い力で、けれども、諦めるわけにはいかないから。
私は。
首を絞められても。
必死で。
逃げることだけ考えた。
落ち着こう、逃げる機会はまだあるはずだから。
みんなの元へと連れて行く中で、その人が、私を見て豪快に吹き出した。
「髪、切ったんだ?」
「・・・」
「ますます醜くなったな、お前」
「・・・」
爆笑しているその人に、何故か、胸が痛くなった。
多分、この人にとって、私の髪型などどうでもいいのだろうけれど、それでも。
私の髪は、変な色。
変な髪なら短いほうがいいでしょう。
いっそのこと、全部切り落としたほうが良いのでしょうか。
そっと、前髪を摘んで見た、・・・やっぱり変な色。
私は、また。
殴られたり、焼かれたり、四肢を斬り落とされたりするのでしょうか。
別に、痛くないから大丈夫。
常に何故かヒーリングがかかっている変な身体だから、死なない。
死ねない。
人間じゃないから。
どうやって、逃げよう。
逃げて、時を待たないと。
今度こそ、失敗しない。
思い出したもの、還る方法。
私は、天を見上げた。
世界中の宝石を夜空に散りばめても、足りないくらいに澄んだ空に浮かぶ、宇宙の星達、そして月。
早く、還らなきゃ。
私が本来居るべき場所は、ここではなくて。
あそこ。
規律が乱れたから、廃除するように自然の摂理が動き出す。
”私”という、不要な存在を弾き出す為に、全ては廻る。
廻れ、運命の歯車。
もう少し、もう少し、きっと、あと、数年後に。
私は、還るから、だから。
そっと。
その人の後姿を見つめてみました。
綺麗な紫銀の髪が、夜風になびいて。
・・・ごめんなさい。
私は、目を瞑りました。
この人を、見てはいけないのでした。
この人に、迷惑をかけて、かけて、かけ続けて。
それも、もうすぐ終われるのです。
自分の人生を、何度も、何度も・・・。
八回も”私に”滅茶苦茶にされた、この人は。
私を転生しても許すことはないでしょう。
だから、せめて、これ以上嫌われないようにしたかったのに。
恋人は元気ですか、と聞こうと思ったけれど。
余計なことだと、殴られそうだったのでやめました。
私が関わると、災いが起こってしまうのです。
愛する恋人を護ることは、この人にとっても、世の男性にとっても同じ事で。
・・・ガーベラは、今とても幸せだから。
・・・話を聴きたくても、止めておきました。
何処に居ても、何をしても、失敗しか引き起こさない私。
それは。
私が、この星の住人でも、あの星の住人でもないからで。
・・・思い出したのに。
戻るに戻られないだなんて。
どうしよう。
「少しは、笑えよ」
連れ戻されて、元の部屋に押し込められました。
毎日、毎日、この人は。
私が逃げ出さないように見張っているので、上手く逃げられません。
逃げたら、追って来て、髪を引っ張って連れ戻されます。
でも、逃げなきゃ。
私を監視しているこの人は。
・・・常人では計り知れないほどの恨みを、私に抱いています。
当然です、知ってます、判ってます。
私、私はね、ホントはね。
この外見が、気に障るのならば人型でなど、ありたくない。
ただただ、あなたの傍に居られるのであれば、例えば。
空を自由に舞う鳥になれたら、よかったのに。
そうしたらあなたの家の近くで私は、鳴く事もなく。
木に止まって時折、恋人と語っているあなたを見るでしょう。
日陰に咲く花になれたら、よかったのに。
そうしたらあなたの家の壁の隅で私は、静かに。
時折聴こえるあなたの声や、足音に耳を傾けるでしょう。
カタチのない空気になれたら、よかったのに。
そうしたらあなたの周囲でくるくる、と。
あなたの頬を撫でたり、・・・。
駄目でした。
この存在自体が疎ましいのに、カタチが変わっても私は私でしかありえないのに。
そんなこと、出来る筈もない。
蹲って、うとうと。
偽者の息を吐いて、吸って。
・・・ここは、何処かな。
真っ暗な、真っ暗な、場所。
何も見えないけど、別に怖くない。
『お前の望みは、何だ?』
誰かの声が聴こえたから、見えないけど首を動かしたら。
隣にフードを被った人が立っていたから、思わずお辞儀。
ふと、足元に。
あの人が、笑って立っていました。
なんだか雲の上から、あの人を見ているみたいな感覚。
『あの男の隣に立ちたいのであれば、それ相応の・・・』
フードの人が、呟きかけたので、私は小さく笑って。
「・・・流れるような、ふわふわの綺麗な金の髪。瞳は艶めく紫色で、宝石みたいに光って。思わず触れたくなるような唇は、大人っぽい深紅。お人形みたいな整った顔立ち、誰もが羨むような女性らしい身体で。みんなを魅了する美しい女の人。とても可愛らしくて、華奢で、歌声は鈴の音を転がしたかのよう。思わず護ってあげたくなるような、あの人に相応しい、花のような女性」
私は、そんな人を知っている。
そして、そんな人があの人の隣に居るべきはずだったことも、知っている。
『それは、お前ではないよ。別の人物だよ』
下を、覗き込んだ。
あの人の隣に、私の大事な綺麗な友達・・・いえ、綺麗な女性が、立っていたから。
二人は幸せそうに、手を繋いで肩を並べて歩いていたから。
だから、私は不思議と笑顔になったのです。
「とても、お似合いだと思いません?」
『お似合いだね』
「私は、とても、嬉しいです」
『お前の望み、それでよいな? 変更は?』
「いいえ、これが私の望みです。あの人が、幸せなら私も幸せで。あの人が幸せだと、彼女も幸せで。全てが、上手くいくのです」
『・・・そうか』
私は、そのフードの人と微かに頷いて、幸せそうな恋人達を見下ろしていました。
「運命の恋人同士、だそうです。本来、邪魔されないはずなのですが、私のせいで随分と長い間邪魔が」
『・・・』
「いいな」
『お前の望みは、もう変更出来ないよ。いいな、と言っても、もう』
「いえいえ、私には、イノチがないので。運命の恋人、というのは存在しませんから」
『・・・』
少しだけ、見ていてもいいでしょうか。
あぁして、手を繋いで歩くのです。
女の子が危なくないように、女のを護るようにして、歩いてくれます。
互いが互いに、優しくて。
もちろん、喧嘩もするけれど。
でも、すぐに元通り。
好きな人に、酷い事なんて出来ません。
酷い事を言ってしまったら、すぐ謝ります。
大丈夫、仲の良い二人はすぐに元通り。
『還ろうか、お前が望むのであれば』
「? あなた、だぁれ?」
『私は』
誰だろう、知っている気がする。
フードが、突風ではずれて、顔が見えた。
私は。
―――・・・もし。記憶が戻った仲間が揃ったのなら、会話しても可能だ―――
―――わかりました、ありがとうございます―――
薄っすらと消え行く意識の中で、みんなの声を聴いていた。
忘れちゃいけない、声がたくさんしているけれど。
・・・忘れなきゃ。
真相。
始まりは宇宙の片隅でした
多くの惑星が各々に浮かぶ広大なる宇宙
生命ある惑星も、ない惑星も
”太陽””月”生命を育むに不可欠な天体も
多種多様の惑星が浮かぶ・・・宇宙。
宇宙には、たった一人だけ。
一人・・・という表現があっているのかどうかも解らりませんが
創造主、と呼ばれる人間の女の子によく似た存在がありました。
何処で産まれたのか、何処から来たのか。
どうやって宇宙を創ったのか、創っていないのか。
本人にすら解りません。
ですが、その創造主は宇宙を駆け巡るのが大好きでした。
宇宙の綻びを直したり、病んでいる惑星があれば寄り添って力を送りました。
広大な宇宙。
何日、何年、何百年。
時間は無限にあれども、創造主は忙しかったのです。
宇宙を、惑星を見守るだけの存在。
決して、惑星の”中”の生命には介入しませんでした。
例え何処かの惑星で戦争が起こって、惑星が死滅する行く末になろうとも。
創造主は祈りながら、自ら力を使いませんでした。
死滅した惑星を嘆き哀しみ、抱きとめて泣く。
さすれば、惑星は時間はかかりますが何れ生まれ変ります。
止める事もできました、惑星には時折”神”という存在がありましたが
創造主は無論その神すらの力をも凌駕します。
想い描けばなんだって出来ました、ですが創造主は見つめているだけ。
自分が介入してはいけないと、創造主は思っていました。
自分が出来る事は、全ての命を見守り続ける事。
どのような末路を辿ろうとも、命あるモノ達に任せること。
やがて。
創造主は惑星の降り立って情景をみることにしました。
それぞれ、惑星によって生命のカタチが違いました。
何百という惑星を見つめて見つめて、不思議に思ったのです。
どの惑星を覗いて見ても。
皆、同じ事がありました。
創造主は、だから訊いたのです。
惑星、ひとつひとつに訊きました。
『ねぇ、どうして?』
創造主の指の先には、百十の王とされる立派な動物の家族がいました。
『ねぇ、なんで?』
創造主の指の先には、純白の毛皮に包まれた可愛らしい動物の家族がいました。
『ねぇ、教えて?』
創造主の指の先には、カタチは違えど幸せそうに寄り添っているイノチたちの存在がありました。
―――あれは、家族というものですよ―――
『家族?』
―――はい。イノチあるモノは子孫繁栄の為に伴侶を選び、家族を作りイノチを紡いでいきます―――
『とっても幸せそうね』
―――イノチあるモノは運命の恋人が存在します。必ずしも出会えるわけではありませんが、出会えればあのように幸せに幸せに暮らしていけます―――
『素敵!』
ウンメイノコイビト。
創造主は。
それ以後惑星の中に入って幸せそうな恋人達の姿を眺めるのが楽しみになりました。
喧嘩して一人部屋で泣いている少女に寄り添って励ましていたら、恋人が駆け込んできたり。
不慮の事故で恋人を亡くした青年に寄り添って励ましていたら、恋人の幻影が現れて叱咤したり。
創造主である自分よりも、恋人の存在が”イノチ”を奮い立たせていました。
『素敵・・・いいな』
いつしか。
創造主の憧れは、恋人へと。
そう、創造主は思ったのです。
【自分にも、運命の恋人が存在するかどうか】
惑星達は、止めました。
諦めさせました。
創造主は創造主、他に対等な生き物など有り得ません。
よって、運命の恋人など存在しないのです。
生き物ですら、ありません。
創造主は、死にません。
それでも、創造主は宇宙を飛び交いながら惑星に降り立ち。
自分を感じてくれる自然と大気と調和しながら。
風の様にふわふわりと、惑星を舞います。
ある日の事でした。
惑星・マクディ。
のちに、”5星・マクディ”と呼ばれる事となる惑星。
三河亮という地球の少年が、神として移動することになる惑星。
ユグドラシグルという名の仕込み杖を所持して、幼馴染の”少女”を救出する為だけに神候補となる惑星。
創造主は、その日もふわふわりと、丘の上を飛んでいました。
丘の上には小さな小屋がありました。
可愛らしい赤い屋根に、煙突。
真っ赤な郵便受けが玄関に、石を並べただけの道の両脇には畑が。
鶏や牛の声が聴こえる、裏で飼ってる自給自足の生活。
澄み切った晴天、そんな小屋の前。
創造主は、人型の青年を見つけました。
その青年の恋人はどんな人だろうと、その可愛らしい家で共に住んでいるのだろうと。
いつものように胸を躍らせて見ていました。
ふと。
その、紫銀の髪の青年が。
・・・手を振りました。
恋人が来たのだろうと、創造主は”振り返りました”。
ですが、誰もいません。
困惑気味に創造主は、青年を見ました。
青年は。
ただただ、優しく微笑んで手を振っていました。
創造主は、驚いておそるおそる手を上げたのです。
青年は、嬉しそうに再び手を振り返して来ました。
初めてでした。
初めて、人型のイノチに気付いてもらえました。
植物や動物などは、創造主の気配を感じ取ってくれましたが、人型のイノチは気付かないようでいつも素通りだったのです。
狼狽した創造主は、慌てて逃げるように宇宙の片隅に駆け込みます。
どきどきどきどき。
身体のどこかが脈打って。
頬らしき部位が熱くなって。
創造主は、人型のイノチが身に纏っているような衣服を創り上げて着てみました。
少しでも、人型の・・・いえ、紫銀の髪の青年に近づく為に。
やがて、惑星達の不安通り。
創造主は。
必死に懇願して。
・・・惑星に降り立ったのです”創造主”としてではなく。
全ての生命は、宇宙の【魂の輪】にて誕生を待ちます。
ここで、魂として浮遊し、時が来れば各々惑星に命を宿して産まれていきます。
創造主は、自分の肉体は宇宙に置いて、精神をその輪の中に入れました。
創造主の肉体は、宇宙を見守るように。
精神は、イノチへと産まれる為に。
彼に、会いたい。
彼に会いたい、見つけてくれた彼に会いたい。
きっと、彼が運命の恋人。
会いたい、会いたい、彼に・・・会いたい・・・。
―――大丈夫かしら―――
―――泣いて、絶望に打ちひしがれて戻られるであろう、それは絶対的な運命―――
始まる音、周る歯車、宇宙の声は、創造主へと。
手を伸ばす。
足を踏み出す。
声を発する。
・・・”誰かを”想う。
惑星達は見守る、幾度も転生し必死で生きる創造主を。
紫銀の髪の青年、彼と結ばれたいと願い続ける創造主を。
・・・上手くなど、行くはずもないことを知っているのに。
何故ならば。
―――マクディ。本当にお前とあの男はよぉく似ているな。嫉ましいだろう?―――
―――・・・―――
―――案ずるな、時間はかかれど何れ創造主は戻られる。よかったよ、マクディとあの男との精神が同調し易くて―――
―――・・・―――
それとも、マクディ。お前が無我に精神を飛ばした姿なのかもな。創造主に恋焦がれるあまりに―――
―――・・・―――
―――後もう少しだ、もう少しで創造主の追い込みが完成する。星の並びもあの日と同じに、戻らざるを得ない。最期の仕上げを、マクディ。死にはしない、徹底的に創造主を絶望の淵に追いやるのだ―――
―――そうだな、面白いくらいに・・・簡単だった―――
―――注意すべき点は、紫銀の髪の双子の弟。あれは厄介だ、妙に勘が働く。だが、マクディ、お前さえ失敗しなければ―――
―――大丈夫、本当に殺したいくらいに魅力的だね創造主様は。・・・殺しちゃ、拙いけど。・・・あぁ、死なないか・・・―――
惑星達が。
息を潜めて、創造主を見ていた。
自己嫌悪に陥り、自分が何者なのか疑問に思い始め、劣等感を抱いて棘に閉じ篭る姿を。
惑星達が、密かに囁いていた。
惑星マクディは、あの紫銀の髪の青年に嫉妬しているだけなんだと。
けれども、誰も止めなかった。
創造主が帰ってこなければ、宇宙の綻びを戻す事ができない。
見守っていなければ死期を早めてしまう惑星達。
惑星達は、生き延びる為に、永らえる為に、安心して生涯を全うする為に。
・・・創造主に早く戻って欲しかった。
ゆえに、邪魔だった、創造主が見つけたその”青年”が。
運命の恋人であることを、悟らせてはいけない。
何故ならば、戻らなくなるから。
宇宙の意志で、妨害を。
これは、聖戦。
創造主を取り戻す為の、聖戦なのだと・・・。
―――でも、大丈夫なのかしら? あそこまで自暴自棄になられたら戻られても放棄しないかしら?―――
―――創造主様は利巧だよ、ここにいれば誰にも迷惑をかけず、全てのイノチに恩を返せると喜んで今まで以上に我らに力を注ぐだろう―――
―――気の毒だ―――
―――? 何か言ったか? クレオ。地球ら若い惑星たちも聞く、言葉は慎むように―――
こうして。
物語は、進みます。
運命の歯車は廻って、廻って、惑星達の思い通りに。
それでも、必死に抗い続ける人々がいました。
創造主など、知らない。
彼女を、取り戻す為に。
彼女と共に生き、過ごした時間の分無意識の内に創造主の力を”想いを具現化させる力を”少しでも取り込み、与えられ、願われた人物達が。
最強のドラゴンナイトは三体の相棒を従えて、今日も。
神候補の幼馴染は、必死に宇宙を調べ続け。
高貴な第二皇子は死力を尽くして、探索を。
対の勇者は彼女の双子の妹共に、国を護りながら奔放し。
その仲間達もまた、然り。
魔王が、神が、彼女と触れ合った魔族がエルフが人間が竜族が、全てが。
「会いたい・・・君に、会いたいんだ・・・」
天空城の一角、発狂し捕らえられた紫銀の髪の男。
腕を伸ばし、宇宙を想う。
あそこに、君は居るんだと。
涙を零し、己の自我の無力さを嘆いて血を滴らせ。
願いは、天に。
祈りは、大気に。
奈落の業火は、宇宙を焦がす。
創造主は。
そんなこととは露知らず、誤解をしたまま今も宇宙の片隅で。
皆が幸せでありますようにと、深く深く祷りの唄を、舞を。
穏やかな表情で、宇宙を見守っておりました。
「ベルーガ様、アサギちゃんの知り合いと名乗る男達が来ておりますが。・・・いかがされますか?」
外を見下ろしていたベルーガは、その声に返答する間もなく無意識に机の引き出しから何かを取り出していた。
それを右手で触りながら、窓から空を見上げている。
空は灰色、分厚い雲が空にひしめき命の成長を妨げて数日。
太陽の光などわずかばかり、至る所で被害が出始めていた。
「ベルーガ様、ご返答を」
「・・・通せ」
ぽつり、と呟いたベルーガは家臣が自室から出て行ったことを確認した後、取り出した物を掌に乗せて見つめる。
ペンダント。
左右が開けられるペンダントだ。
もう、何度も見慣れたものでこうして開けば・・・。
紫銀の髪の男が、そこに居た。
おそらく、ベルーガの意図が外れていなければ今にこの男がそこから顔を出すだろう。
「ベルーガ様、連れて参りました」
窓に映る、家臣とその後ろの男達。
案の定、このペンダントの男が立っている。
名前は知っている、”トランシス”。
以前、アサギがうわ言で呟いていた。
静まり返る室内、家臣もで入口であるドアの前で佇んでいる。
口を開いたのは、トランシス、という男ではなく冷静沈着そうな鋭い眼光の男だ。
「アサギは何処だ。街で貴様が匿った上何処かへ放ったと聞いたが?」
「ほぅ、そのような噂が流れているのか・・・心外だ」
ゆっくりと、ベルーガは振り返る。
敵意を剥き出しにしているトランシスの前に、ひっそりと立っているのが今語り出した男。
「違います、それは誤解なのです」
「下がれ」
堪りかねてか、割って入った家臣を怪訝に睨みつけたベルーガだが、家臣はそのまま続けた。
「いえ、黙っているわけには。
・・・あの日、アサギちゃんはベルーガ様を護る為に自ら処刑台へと昇りました。類稀な能力を公の場で発揮せざるを得なかったアサギちゃんは、直様悪魔の申し子、魔女の降臨と下げずまれたのです。・・・全ては、第二皇子ベルーガ様を陥れんとする、第三皇子側の策略です」
「まだ、確証がない」
「策略により、ベルーガ様はその地を離れておりました、アサギちゃんを救えるものが傍に降りませんでした。抵抗すればベルーガ様の立場を危うくすると判断したアサギちゃんは、自ら火炙りの刑を受け入れたのです。
ですが、彼女は処刑の最中に自分を以前救ってくれた街人を死の淵から救い、そのまま天へと昇るように掻き消えました。その場に居た者は恐怖に恐れおののくか、神々しさに平伏すかのどちらかで。
・・・それ以後、彼女の姿を誰も見ていません。ので、今居場所を知る者は誰一人としておりません」
大人しく聴いていたトビィが、再度口を開く。
「そちら側の主張はそれだけか、貴様らの立場はどうでも良いが、アサギの居場所を知らないのなら・・・無駄足だったな」
「ベルーガ様はあの日以来、アサギちゃんを捜索する手を休めておりません、が、見つかりません」
「・・・おしゃべりが過ぎるぞ、少し黙れ」
ベルーガがようやく前に進み出る、睨みを利かせているトビィに軽く首を傾げた。
「この者が言ったとおりだ、私はアサギの居場所を知らない」
「街の噂では、貴様アサギを手ひどく扱ったらしいな?」
「”噂”であろう? 私があのムスメをどう扱おうと・・・貴殿には関係ないことでは? あれはそもそも、金で引き取られたムスメだ」
「アサギは、オレの義妹だ」
「ほぉ? 兄が居たのか? ・・・しかし、アレは自分は天涯孤独の独り身だと言っていた。どちらが本当のことを言っているのだろうな?」
一発触発、トビィとベルーガの周囲に張り詰めた空気が漂う。
「・・・この三方を客室へ。喉が渇いた、茶でも出してくれ」
「いや、その必要はない。ここを出る」
踵を返しかけたトビィを、家臣が引きとめた。
「あの、アサギちゃんが何者なのかは知りませんが・・・。あの子は何れ、ベルーガ様の妃となるお方です。見つけ出すのは構いませんが連れて行かれませんよう」
「何だと!?」
弾かれたようにトビィが、リョウがベルーガを見つめる、トランシスが、ようやく口を開いた。
「アサギは・・・オレのだっ! 」
つかつかとベルーガの前に進むとトビィを押し退けて、胸倉を掴む。
愉快そうにベルーガは口の端をあげて笑った、憎々しげにトランシスを見つめる。
「オレの? お前は誰だ?」
「トランシス・ライフ・ディアシュ! アサギの恋人だ」
瞳を細めたベルーガは次の瞬間爆笑する、声高らかに。
「ははは、そうか・・・。全く面白い客人だ、アサギは産まれてこの方『自分に恋人など出来た事がない』と言っていたがな? 偽の兄に恋人か、後ろの少年は友達、と言ったところか?」
トランシスの手をはたき、身なりを整えたベルーガはそっと手の内のペンダントを胸に仕舞いこむ。
おそらく、嘘を言っていたのは”誰でもない”。
この三人の男達が言っている事も本当で、アサギが言っていた事も”彼女にとっては本当”の事だったのだろう。
「3人とも、アサギの客だった・・・といった感じか? 卑屈ではいたがなかなかの身体だった、さぞかし有名な売女だったのだろうな? 佼女といえばそうだった、幼かったが・・・」
トビィの声と共にトランシスが剣を引き抜いていた、憤慨した様子でベルーガの首に剣を突きつけている。
わざと、ベルーガは挑発した。
知っていた、このトランシスという男がアサギの恋人だった事も知っていた。
だから、言ってみた。
非常に気に食わない男であると思ったから、思っていたから自分の存在をあえて植えつけた。
「お、おまえぇぇぇぇぇっ!」
「自分の女を抱いて、何が悪い。・・・アレは、私が貰う。妻にするかどうかは今後決めるが」
「アサギはっ。アサギはオレのっ」
「お前か、変な癖をアサギに与えていたのは? 全く苦労した、が、今では私好みに、私に合わせて腰を振るように・・・」
ガギィィィン・・・。
トランシスの剣を、ベルーガの槍が弾く。
思いの外の強い攻撃だった、ベルーガの両手が麻痺する。
「殺す、お前、絶対殺すっ!」
「・・・ふん、浅はかな愚か者めが」
リョウが、トビィが止めに入るがトランシスは喰いつく様にベルーガに執拗に剣を振り回している。
冷ややかな視線をトランシスに投げかけ、ベルーガは怒気を含んだ口調で叫ぶように放つ。
「自我を崩壊するほど執着していた女を、手放したお前が悪いんだろう!? 手放されていたあの酷く惨めなムスメを私が拾い上げた、それだけだ。他人を殺すほどの激情に駆られるのであれば、 最初から籠にでも閉じ込めておくんだったな」
吼えるトランシスだが、トビィは唇を噛締める。
反論できない、ベルーガの言う通りだった。
「お前に・・・何がわかるっ」
「知らん。私が今見たばかりの貴様の事を知るはずもないだろう」
槍の構えを解く。
静かにベルーガは髪をかき上げると、再び窓へと視線を移した。
「・・・アサギは。お前の事などとうに忘れているようだったがな? 探されても迷惑だろう、それでも行くと言うのならご自由に。アサギが私を選ぶか、お前を選ぶか。それだけだ」
ドアを突き破る勢いで、トランシスが飛び出した。
「・・・青いな・・・あれでは、アサギを任せられん」
部屋には、トビィとリョウが残っている。
いつしか運ばれてきた紅茶、外は吹雪いていた。
「お前達は行かないのか?」
紅茶を啜りながら視線を合わせず、ベルーガは問う。
「・・・アサギを救えるのは、悔しいがトランシスだけだ」
「ほぅ? あの男より、よほどお前達のほうが人間的に良く見えるが」
「・・・それでもアサギが最も欲するのがあの男なんだから、仕方がない」
「・・・」
紅茶を啜り始めたトビィと、リョウ。
「部屋を。滞在すると良い、アサギの”兄”と”友人”なのであろう? 無下には出来ん」
通り過ぎ部屋から出ようとしたベルーガ、トビィがぼそり、と呟いた。
「何故、ワザとトランシスを激怒させた?」
「気付いていたのか? だが、嘘は告げていない、あれは真実だ」
カップをテーブルに叩き付けたトビィ、怒りで身体が震えているが必死で堪えている。
「・・・アサギが何者でも構わない、伴侶にしたいのは真。数奇な運命を背負っている事も判っている」
「ふん・・・」
「一つ尋ねよう。どうしてあそこまでアサギは劣等感を抱いている? 先程の青二歳の仕業か?」
「・・・」
リョウが口を噤んだ、トビィを見上げている。
トビィは僅かに肩を震わせ、落胆したように肩の荷を下ろすと小さく、本当に小さく溜息を吐く。
「・・・アサギは」
必死に凍て付く寒さの中、トランシスは駆け巡った。
この、惑星のどこかにアサギはいる。
傷ついて、泣きつかれて、遠くへは行っていないだろう。
「誰か! 誰か教えてくれ! アサギを知らないか!? アサギに会いたいんだ!」
誰も、応じない。
けれども、不意に。
トランシスは宙に浮きながら、ある一つの山岳が目に留まる。
何故か、雪に埋もれながらも一箇所だけ緑の木が点在している山があった。
迷わずトランシスはそこを目指していた、アサギが居る場所ならば草木の命が溢れ出ていても不思議ではない。
その山に下りようとした途端、突風が吹き荒れる。
思わずバランスを崩し、落下した。
枯れ果てた木々の枝を破壊し、行き降り積もる地面に。
「お、教えてくれ! アサギは!? アサギは何処に!?」
叫んでいた。
この山全ての生き物に叫んでいた。
見れば、前方から雪崩が。
まるで行く手を阻むかのような自然の猛威、確信したのだここにアサギがいると。
「アサギ! オレだ! 迎えに来たよ!」
―――大変です! 人間が来ました!―――
―――殺しましょう! アサギ様が連れて行かれちゃう!―――
―――死を! 死を! 制裁を! ―――
木々がざわめく、冬眠していた動物達が地中で吼えた。
上へ、上へと歩くトランシスの足元をすくおうと、木の根が足首を掴むように絡まり。
氷点下の雪の中へ顔を埋めさせ窒息させようと。
けれども、トランシスは諦めなかった。
ゆっくりとだが前へと、進んでいたのだ。
―――通しておあげ。制裁を決めるのは我らではないよ・・・―――
一際高い、老人の声だった。
途端、雪が止み、視界が晴れる。
大木の麓、泉に右手を浸してアサギは眠っていた。
微かに眉を潜めているが、息をしている。
思わずトランシスの瞳から涙が零れ落ちる、震える身体、口元に笑み。
「アサギ!」
駆け寄り、思わず抱き締めた。
頬ずりしながら、髪に口付けを零し、懸命に抱き締める。
身体は氷の様に冷たく、それでも、生きている。
温めるように必死でトランシスはアサギを覆い隠した、薄布しか纏っていないアサギは生きているだけで奇跡だ。
・・・”人間であるならば”。
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