別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
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ぐったりと動かない少女に、それでも男は手を緩めない。
気が治まらないのか暴行は全く止まらなかった、少女は只管それを受け止める。
抵抗する気力もないらしく、ただなすがまま。
「で? 抱かれた感想は? 快楽に溺れて後はどうでもいいって? そんなに好きならオレも教えてやろうか、お前が言ってる『愛』っての」
男は動かない少女をうつ伏せにすると、シーツを破り裂いて両手をベッドに縛り付ける。
切れて血まみれになった口に、無理やりシーツを詰め込む。
不慣れな感覚に、ようやくうっすらと瞳を開いた少女、気づいて唾を吐きかけ憎悪の瞳を痛いほど浴びせ。
「死ねよ。消えろよ。お前が居なくても誰も困りゃしないんだから」
少女は。
少女が痛かったのは。
何度も殴られた顔でもなく、無理やり開かれた身体でもなく。
ただ。
その男に言われた言葉で胸が痛くて。
ただ、『愛している』と伝えたかった。
自分の抱いていた想いを伝えられる言葉を教えてもらったので、男に言いたかったのだ。
「今後二度とオレの前に姿を見せるな」
小屋に一人きり、傷ついた少女を残して、身体の自由を奪ったまま男は出て行った。
行かないで。
行かないで。
虚ろな瞳でドアが閉まり、消えていく男の背を追いかける。
光が徐々に小さくなり、パタン、という音と共に男の姿は完全に消えた。
「・・・えぐっ」
口から、シーツを吐き出すと、止め処なく溢れる涙と嗚咽に埋もれて、少女は絶叫する。
「うぁ、うわぁぁぁっぁあっ!!」
行かないで、行かないで。
傍にいて、傍にいて。
笑って、笑って。
手を握って、握って。
名前を呼んで、呼んで。
名前を呼ばせて、呼ばせて。
カシャン・・・
首から、何かが零れ落ちた。
ぎこちなく視線を移すと、男が以前くれた首飾りだった。
男の、大好きな男の存在を表すような深紅の宝石の首飾り。
遠い昔の記憶のよう、少しはにかみながら、大好きな柔らかな笑顔でこれを渡してくれた男。
その笑顔が好きだった、傍に居ると心がじんわり暖かくなって、安らぐことが出来て。
『うん。ずっと、持ってなよ』
髪をくしゃっ、とかき上げて不慣れな手つきで首にこれをつけてくれた。
似合うよ、と笑ってくれたその男は。
その男は。
「いか、ないで」
自由の利かない身体で懸命に腕を伸ばそうとする、消えて行ったドアの向こう側、男を求めて手を伸ばした。
「いっちゃ、やだ」
涙で薄れていく風景、追いかけなくては二度と会えないかもしれない。
少女は足を動かした、痺れているが動けないこともない、ずるずると這うようにベッドを移動する。
「一人に、しないで。行かないで、そばに、いて・・・」
ベッドから転げ落ち、床で頭部を打つ、低く呻きながらも少女は自由の利かない腕に力を込めてドアを目指す。
『今後二度とオレの前に姿を見せるな』
不意に先程男に言われた言葉が甦る、少女は身体を凍りつかせて仰け反った。
あの、視線が怖かった。
本当に、憎まれているのだと思った。
追いかけては、いけない気がしてしまった。
「きらわ、ないで・・・」
いい子にするから、嫌いにならいで。
役に立ってみせるから、嫌いにならないで。
「ひ、ひぁっ」
頭の中で男の言葉が甦る、『気持ち悪い』『見るな』『触るな』、少女の心に幾つも幾つも言葉の破片が突き刺さる。
半狂乱で少女は床をのた打ち回った、恐怖で身体を震わせて、胸の痛みから逃れようと悶える。
クーバーは少女を見ながら、足を震わせていた。
その少女が抱え込んでしまった巨大で鋭利な破片、極めて凶悪な暗黒に覆われており、絶望しか生み出さない。
知らずクーバーは胸を押さえた、瞳から一筋の涙が零れる。
少女は、何故あの男をそこまで追い求めるのだろう。
もう、いいじゃないか、酷いことを言われたのならもう、離れればいいじゃないか。
けれども、少女はクーバーの目の前でドアに向かって這って行く。
ただ、少女は。
その、男の傍に居たかったのだと。
ただ、自分の想いを伝えたかっただけなのだと。
願わくば。
「いっしょに、い、て・・・」
少女の渾身の願いに応えたのか、ドアがゆっくりと開く。
クーバーは開きかけたドアを見つめ、安堵の溜息を漏らした。
先程の男が戻ってきたのだろうか? 助けに戻ってきたのだろうか?
現われた男を見て、クーバーは瞬きを数度繰り返す、知っている顔だ。
「トビィ・・・?」
漏らしたクーバー、入ってきたのはトビィだった。
「っ!? どうした、何があったアース! しっかりしろっ」
「トロイ・・・トロイ? たすけ、て、トロイ」
焦燥感に駆られ、トロイと呼ばれたトビィに似た男は床の少女を抱き起こす。
何度も『アース』と少女を呼びながら、抱きかかえたままトロイは小屋を飛び出し、川の水でアースを丁寧に洗っていく。
「たすけ、て。トロイ、たすけ、て」
「しっかりしろっ! どうした、何があったんだっ」
うわ言の様に助けて、としか繰り返さないアース、舌打ちしてトロイは川の水を自身の口に含むと、アースに口付け口内を洗浄する。
血の味がする、トロイは繰り返し口付けをしては、水をアースへと運んだ。
冷えた水が、アースの体内へ送り込まれ、ビクリと身体を引き攣らせる。
感覚が次第に戻ってくる、戻ってきたと同時に再度、あの男の声が言葉が視線が甦った。
驕慢な態度、振るわれた暴力。
「あ、あぁっ! ごめんなさ、ごめんなさっ!!」
「アース、どうした、しっかりしろっ」
絶叫。
アースはトロイにしがみ付きながら、何かから逃れたくて声を張り上げた。
押し潰される、悲哀の想いは極限に達する。
男はもう、笑わない。
男はもう、傍にいない。
それは。
・・・私が何かしてしまったから。機嫌を損ねてしまったから。・・・でも、原因がわからない。
それとも。
最初から、嫌われていたのだろうか。
最初から。
偽りの関係、通じていた想いは誤り。
身勝手な妄想、独り善がりな執着。
あの日の花畑は、忘却の彼方。
髪に挿してくれた一輪の花は、幻惑。
忘却の果てで見たものは、鮮やかな大輪の花。
一輪の花が喜びで咲き乱れ、花冠になった遠いあの日は。
・・・少女の、幻覚だったのか。
一人、漆黒の闇の中で緑の髪の少女は泣いていた。
周囲に何もなく、誰もいなくて、一人で泣いている。
何かを探して傷ついた足で歩き回っていたが、何もない虚無の空間。
それでも、ないとわかっていても少女は捜し求める。
捜し求めているものは、少女が欲しかったものは。
哀しくて。
寂しくて。
辛くて。
焦がれて。
欲して。
求めて。
手に入らないと解っていても。
それでも追い求める。
声を聞かせて。
姿を見させて。
笑顔が見たい。
笑った声が聞きたい。
元気に走り回って。
無邪気に、生きて。
幸せに、なって。
出来れば、私を。
・・・嫌わないで。
少女が不意に顔を上げた。
目を見張るほどの豊潤な新緑の髪、神秘的な光を灯す深緑の瞳。
桃色の頬、濡れた赤いサクランボの唇。
けれど。
外見が眩く美しくても。
心から血を滴らせ、息が詰まるほどの重圧が少女の身体を覆い尽くしている。
纏わりつく深い悲しみの中、小さく光を放つ少女。
見るもの全てを魅了する少女、涙が頬を伝いはらはらと流れ落ちる。
それすらも、綺麗で。
抱え込んだ悲しみが苦痛でも、少女は綺麗で瞳が逸らせない。
「さむいよぅ」
いかないで、ひとりにしないで、そばにいて、さむいよ。
徐々に、少女の身体が崩れていった。
風に舞って宙に浮かび上がる木の葉のように、ざぁっ、と消えていく。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
クーバーは絶叫した。
この世の終わり、生命の死。
森羅万象全てのものが、消え失せる感覚。
花畑は、死の荒野に。
乾いた大地が惑星を覆い、生き物は逃げ場を失い死に絶える。
大地は芽を生む力もなく、罅割れ乾き、物言わない。
遠い未来。
それは、遠い未来の・・・?
クーバーの身体が、砂のように崩れ落ちていった。
泣き喚いて零れる身体を必死で救い上げるが、指の隙間からクーバーの身体はさらさらと落下する。
「グワァァァァッ!」
手が、消えていく。
ボロボロと零れながら、風化していく。
クーバーは錯乱状態に陥った、誰でもいいからここから出してくれ。
これは、夢だ、幻覚だ。
この少女の夢の映像に入ってしまっただけなはずなのにっ!?
「ギャァァァァっ」
絶叫、眼をカッと開き、クーバーは口から唾液を吐いた。
腕が痛い、左腕が痛い。
見ればクーバーの左腕がなかった。
気がつけばそこは、もとの部屋。
クーバーが改造した洞窟の一室に戻ってきたようだ。
現実に戻ってこれたのだ、クーバーは乾いた声で笑う。
状況把握に時間を要した、左腕で支えていたアサギが消えている。
見ればトビィが落下したアサギを華麗に受け止め、優しく抱きとめている。
床に転がる一本の腕、クーバーのものだ。
どうやらトビィに腕を斬られたらしい、その激痛で映像から現実へと引き戻されたようだ。
深紅の血液が、盛大にシーツに、部屋に、降りかかっていた。
トビィと、視線が交差した。
慈愛も何もない、アサギに向けていた時とは一変し、冷淡な視線がクーバーに投げかけられている。
殺される、と直感した。
「答えろ、アサギに何をした。何故目を覚まさない」
「っ、な、何もしていない! その御香は若い娘の思考を停止させ、身体の自由を奪うんだ。べ、別に何もしていない」
狼狽するクーバーの台詞に通り、視線を辿ると煙を上げている香炉に気づいた。
トビィは忌々しそうに舌打ちすると、剣を素早く振り風圧で火を消しさる。
「他に何をした。オレのアサギに何をした」
凛と響く、威圧感のある声、クーバーは歯を震わせて首を横に振る。
「そ、それからっ。それから、ち、血を。その子がケガをしていたから、血を、嘗めた。それだけだっ」
アサギの左腕に、確かに出血した痕がある、トビィは害虫を見るような視線でクーバーを睨み付けた。
「そうか、じゃ、死ね」
次の瞬間、待ってくれ、と言おうと口を開きかけたクーバーの視界に、隼の様な優雅で敏速な剣の舞が映った。
アサギを優しく床に下ろしトビィは地面を蹴り上げ跳躍すると、クーバーの胸を一突きする。
回避出来なかった。
血走った瞳で身体を仰け反らせ、クーバーは絶命する。
停止寸前の思考、吐き出される血と共に、言葉が投げ出される。
「この娘、人間じゃな」
最期に、この言葉を。
逆流する血に紛れて出た言葉を、トビィは聞き取ることが出来なかった。
クーバーが現実に引き戻される瞬間、泣いていた少女を見て痛感したこと。
それは。
・・・この娘、人間ではない、魔族でもない、もっと別の存在だ。
魂が、そう感じてしまった。
艶やかな花畑、楽園と呼ぶに相応しいその場所に、一人の少女が立っている。
色取り取りの花冠を頭上に、寂しそうに微笑んでいる。
忘却の果てで、一人花冠を抱いたまま。
クーバーは安堵した、何故か、安心感に包まれた。
記憶なき、母の腹にいた時の様に、何からも護られているまどろみの中。
アナタ様ハ誰デスカ
クーバーは少女に、話しかけた。
少女は、何も答えなかった。
ただ、哀しそうに寂しそうに、微笑んだままだった。
※みやちゃんへ「読めなかったら教えてください(笑)」
抵抗する気力もないらしく、ただなすがまま。
「で? 抱かれた感想は? 快楽に溺れて後はどうでもいいって? そんなに好きならオレも教えてやろうか、お前が言ってる『愛』っての」
男は動かない少女をうつ伏せにすると、シーツを破り裂いて両手をベッドに縛り付ける。
切れて血まみれになった口に、無理やりシーツを詰め込む。
不慣れな感覚に、ようやくうっすらと瞳を開いた少女、気づいて唾を吐きかけ憎悪の瞳を痛いほど浴びせ。
「死ねよ。消えろよ。お前が居なくても誰も困りゃしないんだから」
少女は。
少女が痛かったのは。
何度も殴られた顔でもなく、無理やり開かれた身体でもなく。
ただ。
その男に言われた言葉で胸が痛くて。
ただ、『愛している』と伝えたかった。
自分の抱いていた想いを伝えられる言葉を教えてもらったので、男に言いたかったのだ。
「今後二度とオレの前に姿を見せるな」
小屋に一人きり、傷ついた少女を残して、身体の自由を奪ったまま男は出て行った。
行かないで。
行かないで。
虚ろな瞳でドアが閉まり、消えていく男の背を追いかける。
光が徐々に小さくなり、パタン、という音と共に男の姿は完全に消えた。
「・・・えぐっ」
口から、シーツを吐き出すと、止め処なく溢れる涙と嗚咽に埋もれて、少女は絶叫する。
「うぁ、うわぁぁぁっぁあっ!!」
行かないで、行かないで。
傍にいて、傍にいて。
笑って、笑って。
手を握って、握って。
名前を呼んで、呼んで。
名前を呼ばせて、呼ばせて。
カシャン・・・
首から、何かが零れ落ちた。
ぎこちなく視線を移すと、男が以前くれた首飾りだった。
男の、大好きな男の存在を表すような深紅の宝石の首飾り。
遠い昔の記憶のよう、少しはにかみながら、大好きな柔らかな笑顔でこれを渡してくれた男。
その笑顔が好きだった、傍に居ると心がじんわり暖かくなって、安らぐことが出来て。
『うん。ずっと、持ってなよ』
髪をくしゃっ、とかき上げて不慣れな手つきで首にこれをつけてくれた。
似合うよ、と笑ってくれたその男は。
その男は。
「いか、ないで」
自由の利かない身体で懸命に腕を伸ばそうとする、消えて行ったドアの向こう側、男を求めて手を伸ばした。
「いっちゃ、やだ」
涙で薄れていく風景、追いかけなくては二度と会えないかもしれない。
少女は足を動かした、痺れているが動けないこともない、ずるずると這うようにベッドを移動する。
「一人に、しないで。行かないで、そばに、いて・・・」
ベッドから転げ落ち、床で頭部を打つ、低く呻きながらも少女は自由の利かない腕に力を込めてドアを目指す。
『今後二度とオレの前に姿を見せるな』
不意に先程男に言われた言葉が甦る、少女は身体を凍りつかせて仰け反った。
あの、視線が怖かった。
本当に、憎まれているのだと思った。
追いかけては、いけない気がしてしまった。
「きらわ、ないで・・・」
いい子にするから、嫌いにならいで。
役に立ってみせるから、嫌いにならないで。
「ひ、ひぁっ」
頭の中で男の言葉が甦る、『気持ち悪い』『見るな』『触るな』、少女の心に幾つも幾つも言葉の破片が突き刺さる。
半狂乱で少女は床をのた打ち回った、恐怖で身体を震わせて、胸の痛みから逃れようと悶える。
クーバーは少女を見ながら、足を震わせていた。
その少女が抱え込んでしまった巨大で鋭利な破片、極めて凶悪な暗黒に覆われており、絶望しか生み出さない。
知らずクーバーは胸を押さえた、瞳から一筋の涙が零れる。
少女は、何故あの男をそこまで追い求めるのだろう。
もう、いいじゃないか、酷いことを言われたのならもう、離れればいいじゃないか。
けれども、少女はクーバーの目の前でドアに向かって這って行く。
ただ、少女は。
その、男の傍に居たかったのだと。
ただ、自分の想いを伝えたかっただけなのだと。
願わくば。
「いっしょに、い、て・・・」
少女の渾身の願いに応えたのか、ドアがゆっくりと開く。
クーバーは開きかけたドアを見つめ、安堵の溜息を漏らした。
先程の男が戻ってきたのだろうか? 助けに戻ってきたのだろうか?
現われた男を見て、クーバーは瞬きを数度繰り返す、知っている顔だ。
「トビィ・・・?」
漏らしたクーバー、入ってきたのはトビィだった。
「っ!? どうした、何があったアース! しっかりしろっ」
「トロイ・・・トロイ? たすけ、て、トロイ」
焦燥感に駆られ、トロイと呼ばれたトビィに似た男は床の少女を抱き起こす。
何度も『アース』と少女を呼びながら、抱きかかえたままトロイは小屋を飛び出し、川の水でアースを丁寧に洗っていく。
「たすけ、て。トロイ、たすけ、て」
「しっかりしろっ! どうした、何があったんだっ」
うわ言の様に助けて、としか繰り返さないアース、舌打ちしてトロイは川の水を自身の口に含むと、アースに口付け口内を洗浄する。
血の味がする、トロイは繰り返し口付けをしては、水をアースへと運んだ。
冷えた水が、アースの体内へ送り込まれ、ビクリと身体を引き攣らせる。
感覚が次第に戻ってくる、戻ってきたと同時に再度、あの男の声が言葉が視線が甦った。
驕慢な態度、振るわれた暴力。
「あ、あぁっ! ごめんなさ、ごめんなさっ!!」
「アース、どうした、しっかりしろっ」
絶叫。
アースはトロイにしがみ付きながら、何かから逃れたくて声を張り上げた。
押し潰される、悲哀の想いは極限に達する。
男はもう、笑わない。
男はもう、傍にいない。
それは。
・・・私が何かしてしまったから。機嫌を損ねてしまったから。・・・でも、原因がわからない。
それとも。
最初から、嫌われていたのだろうか。
最初から。
偽りの関係、通じていた想いは誤り。
身勝手な妄想、独り善がりな執着。
あの日の花畑は、忘却の彼方。
髪に挿してくれた一輪の花は、幻惑。
忘却の果てで見たものは、鮮やかな大輪の花。
一輪の花が喜びで咲き乱れ、花冠になった遠いあの日は。
・・・少女の、幻覚だったのか。
一人、漆黒の闇の中で緑の髪の少女は泣いていた。
周囲に何もなく、誰もいなくて、一人で泣いている。
何かを探して傷ついた足で歩き回っていたが、何もない虚無の空間。
それでも、ないとわかっていても少女は捜し求める。
捜し求めているものは、少女が欲しかったものは。
哀しくて。
寂しくて。
辛くて。
焦がれて。
欲して。
求めて。
手に入らないと解っていても。
それでも追い求める。
声を聞かせて。
姿を見させて。
笑顔が見たい。
笑った声が聞きたい。
元気に走り回って。
無邪気に、生きて。
幸せに、なって。
出来れば、私を。
・・・嫌わないで。
少女が不意に顔を上げた。
目を見張るほどの豊潤な新緑の髪、神秘的な光を灯す深緑の瞳。
桃色の頬、濡れた赤いサクランボの唇。
けれど。
外見が眩く美しくても。
心から血を滴らせ、息が詰まるほどの重圧が少女の身体を覆い尽くしている。
纏わりつく深い悲しみの中、小さく光を放つ少女。
見るもの全てを魅了する少女、涙が頬を伝いはらはらと流れ落ちる。
それすらも、綺麗で。
抱え込んだ悲しみが苦痛でも、少女は綺麗で瞳が逸らせない。
「さむいよぅ」
いかないで、ひとりにしないで、そばにいて、さむいよ。
徐々に、少女の身体が崩れていった。
風に舞って宙に浮かび上がる木の葉のように、ざぁっ、と消えていく。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
クーバーは絶叫した。
この世の終わり、生命の死。
森羅万象全てのものが、消え失せる感覚。
花畑は、死の荒野に。
乾いた大地が惑星を覆い、生き物は逃げ場を失い死に絶える。
大地は芽を生む力もなく、罅割れ乾き、物言わない。
遠い未来。
それは、遠い未来の・・・?
クーバーの身体が、砂のように崩れ落ちていった。
泣き喚いて零れる身体を必死で救い上げるが、指の隙間からクーバーの身体はさらさらと落下する。
「グワァァァァッ!」
手が、消えていく。
ボロボロと零れながら、風化していく。
クーバーは錯乱状態に陥った、誰でもいいからここから出してくれ。
これは、夢だ、幻覚だ。
この少女の夢の映像に入ってしまっただけなはずなのにっ!?
「ギャァァァァっ」
絶叫、眼をカッと開き、クーバーは口から唾液を吐いた。
腕が痛い、左腕が痛い。
見ればクーバーの左腕がなかった。
気がつけばそこは、もとの部屋。
クーバーが改造した洞窟の一室に戻ってきたようだ。
現実に戻ってこれたのだ、クーバーは乾いた声で笑う。
状況把握に時間を要した、左腕で支えていたアサギが消えている。
見ればトビィが落下したアサギを華麗に受け止め、優しく抱きとめている。
床に転がる一本の腕、クーバーのものだ。
どうやらトビィに腕を斬られたらしい、その激痛で映像から現実へと引き戻されたようだ。
深紅の血液が、盛大にシーツに、部屋に、降りかかっていた。
トビィと、視線が交差した。
慈愛も何もない、アサギに向けていた時とは一変し、冷淡な視線がクーバーに投げかけられている。
殺される、と直感した。
「答えろ、アサギに何をした。何故目を覚まさない」
「っ、な、何もしていない! その御香は若い娘の思考を停止させ、身体の自由を奪うんだ。べ、別に何もしていない」
狼狽するクーバーの台詞に通り、視線を辿ると煙を上げている香炉に気づいた。
トビィは忌々しそうに舌打ちすると、剣を素早く振り風圧で火を消しさる。
「他に何をした。オレのアサギに何をした」
凛と響く、威圧感のある声、クーバーは歯を震わせて首を横に振る。
「そ、それからっ。それから、ち、血を。その子がケガをしていたから、血を、嘗めた。それだけだっ」
アサギの左腕に、確かに出血した痕がある、トビィは害虫を見るような視線でクーバーを睨み付けた。
「そうか、じゃ、死ね」
次の瞬間、待ってくれ、と言おうと口を開きかけたクーバーの視界に、隼の様な優雅で敏速な剣の舞が映った。
アサギを優しく床に下ろしトビィは地面を蹴り上げ跳躍すると、クーバーの胸を一突きする。
回避出来なかった。
血走った瞳で身体を仰け反らせ、クーバーは絶命する。
停止寸前の思考、吐き出される血と共に、言葉が投げ出される。
「この娘、人間じゃな」
最期に、この言葉を。
逆流する血に紛れて出た言葉を、トビィは聞き取ることが出来なかった。
クーバーが現実に引き戻される瞬間、泣いていた少女を見て痛感したこと。
それは。
・・・この娘、人間ではない、魔族でもない、もっと別の存在だ。
魂が、そう感じてしまった。
艶やかな花畑、楽園と呼ぶに相応しいその場所に、一人の少女が立っている。
色取り取りの花冠を頭上に、寂しそうに微笑んでいる。
忘却の果てで、一人花冠を抱いたまま。
クーバーは安堵した、何故か、安心感に包まれた。
記憶なき、母の腹にいた時の様に、何からも護られているまどろみの中。
アナタ様ハ誰デスカ
クーバーは少女に、話しかけた。
少女は、何も答えなかった。
ただ、哀しそうに寂しそうに、微笑んだままだった。
※みやちゃんへ「読めなかったら教えてください(笑)」
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