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婚約者と喧嘩して、というわけではないらしい。
真面目な性格だ、と思った。
「それで?」
「えーっと。どうこうするつもりはないのですが。・・・というと、あなたに恥をかかせます?」
「別に? でも御代は頂くわよ」
「それは構いません。婚約者が、大事なので、えーっと」
「彼女の為に、そして自分の為に他の女は抱けないってことでしょう? 類を見ない真面目な人よね」
娘と同じ年頃の私を抱く男も世の中にはたくさん存在するのに、と付け加える。
暫しの沈黙、仕方ないのでガーベラは紅茶を煎れた。
どうぞ、と差し出すと緊張がほぐれたのか男は、突如流暢に語りだす。
そう、惚気を。
訊いてもいないのに婚約者との出会いから、思い出を包み隠さず照れながら語る。
不思議と悪い気分ではなかった、思わず笑みを浮かべるガーベラ。
この男は本当に彼女が好きなのだ、と実感できる。
見ているこちらまで微笑んでしまう程滲み出る『幸福』、素直に羨ましいと思った。
「幸せなお嫁さんね、大事にするのよ」
「勿論ですよ!」
結構話し込んだらしい、男は延長料金を払う羽目になり苦笑いしつつ部屋を出た。
去り際に、不意に男が振り返ったのでガーベラは思わず息を呑む。
唐突過ぎて驚いた。
「何故、あなたは悲しそうなんです?」
「え」
「・・・ずっと、悲しそうだと思っていました」
「そう? 気のせいよ」
「・・・おやすみなさい、ガーベラさん」
唖然と立ち尽くすガーベラ、初対面の男に何を言われるかと思えば。
頭がぼう、っとする、立ちくらみのように壁にもたれ掛ると、溜息。
悲しそう? 私が?
顔を出して部屋から見下ろす、空気が冷たくて思わず身震い去り行く若い男達を、黙って1人見つめていた。
不思議な事に男とは稀に街で会うようになった、視線が合う度に男は微かに会釈をして笑う。
苦笑いしてガーベラは横を通り過ぎた、目立ってはまずいだろう。
別にやましい事などないはずなのに、堂々と挨拶できないのは自分が娼婦だからか。
暫くして男がまた娼館にやってきた、意気揚々と笑顔で入ってくる。
眩暈がする、何をしに来たのかこの男は。
「話をしに来ました」
「・・・変わってるわね、安くないのよ私」
「でも、楽しいので」
何が楽しいのだろう、聞き上手かもしれないが、話は大して上手くない。
今日も男は惚気を始める、訊いてもいないのに鼻の下を伸ばして、婚約者との話をする。
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