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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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忘却の花冠~アサギ~


「人の愉しみを邪魔するほど、性根は腐ってない。まぁ勝手にやってくれ、急ぎの用なんで、じゃ」

暫く部屋を特に興味なさそうに軽く眺めていたのだが、トビィはそれだけ言うと踵を返し、ドアに手をかける。
なら最初から帰ってくれよ! と叫びたかったクーバーであったが、生憎この人間の男に勝てる気が全く無かったので言葉を飲み込む。
人間である筈なのに、魔族である自分よりも遥かに超越した力を秘めている様な気がして、この場をやり過ごしたほうが自分の為である気がして。
確かにクーバーは魔族の中でも魔力が格段に低かった、それは自身でも分かっている。
唯一の能力といえば、他人の記憶からその知り合いの名前と顔を読み取ることが出来、その人物に変化することが出来る・・・というあまり役には立たない能力だった。
他の仲間は夜な夜な堂々と人間を襲っていたが、クーバーにはその度胸もなかった。
故に戦闘には参加せずに、こうしてひっそりと自分好みな『若くて可愛い女の子』を攫っていたのだ。
これくらいならば、造作も無いことだった。
抵抗されるのが面倒だし、嫌がる娘を無理やり・・・というのはクーバーの性に合わず、娘が好意を抱く相手になりすまして、恋人気分を味わったほうが好きだ、というクーバーの考え方から過去に何度も同じ手口で娘達を喰らってきた。
今回は久々の上玉だ、トビィの台詞を聞いて胸を撫で下ろし安堵したクーバーは、再びアサギに向き直る。
腕の中で小さな寝息をたてているアサギを見て、ほくそ笑むと傷が疼く様なもどかしい感覚に襲われた。
早く、この娘をご馳走にならなくては! 身体が欲しているっ。
細くて白い首筋を見つめ、舌舐めずり。
その時、偶然にも踵を返したトビィが何かしらの気配を感じて振り返り、アサギの顔を捕らえた。

キィィ、カトン・・・。

先程も耳に届いた不可解な音、アサギを瞳に入れた瞬間に脳内で鳴り響く。
変態男の腕の中に居る少女を見て、唖然とするトビィ。
アサギ、だ。
小さく漏らした声は、驚愕の瞳と共に。

「アサギ・・・?」

今度は明確に声を発した、が、クーバーには届かない。
凝視するが、間違いなかった、見間違えるはずもなかった、アサギだ、アサギが居る。
約一月捜し続けていた、愛しの娘・アサギが目の前にいるではないか!
ただ、髪の色がトビィの知っているアサギと違っていた。
トビィが知っているアサギは、髪が緑色だった、新緑を思わせる鮮やかな緑色だったのだ。
だが、この目の前のアサギは漆黒の髪、けれども、人違いであるはずがない。
見間違えるはずがなかった、どれだけ遠くに居ても、どんな人混みに紛れていても、探し出せる自信があった。
髪の色が違うのなら、普通ならば人違いだと思うだろう。
けれどもその少女から発せられる空気が『アサギ』のものであった。

「っ・・・!」

髪の色の事を考えている余裕はない、今その瞬間にもアサギは変態男に何やらいかがわしいことをされようとしている。
トビィの視線を感じ、クーバーは振り返ると鬱陶しそうに眉を顰め、手を蝿を追い払うごとく振る。
早く出て行け、そういう意味合いだったのだが、クーバーは血相抱えてアサギを抱きかかえたまま宙に飛び上がった。

「貴様ぁっ、アサギに汚い手で触るなっ」

大声でトビィが叫ぶ、そのまま一直線に駆け出し、背の魔力を放ち続ける長剣を勢いよく引き抜き斬りかかって来た。
その気迫に思わず喉の奥で悲鳴を上げて、クーバーは辛うじて紙一重で攻撃を避けた。
宙に浮かび安堵の溜息を漏らしたのも束の間、直様地面を雄雄しく蹴り上げて素早く斬りかかってくるトビィに再度悲鳴を上げる。

「ちぃっ!」

繰り出される剣のその速さに、振るい上がらずにはいられない。
コイツ、本当に人間なのか? 下手な魔族よりも余程慣れた動きをしている。
訝しげにトビィを見つめ、「ちょっと待った!」とクーバーは休戦を申し出た。

「落ち着け、トビィ・サング・レジョン君」

右手を突き出し、爽やかに笑ってみるクーバー、だが、トビィは顔色変えず何度も斬りかかって来る。
必死にそれをかわしながら、なんとか話し合いの場を作ろうと懸命にクーバーは天井付近を浮遊する。

「こ、この子はつい先程恋人になったばかりの娘なんだ。これからお愉しみの時間なんだ、邪魔しないでくれないか? 人の愉しみは邪魔しないと言ったじゃないか」

確かにトビィは数分前そう言った。
男に二言はあるまい? クーバーは一か八かの賭けに出る。

「相手による。貴様ごときがアサギと愉しむだと・・・? ふざけるなぁっ!」

火に油を注いだらしい、怒りに身体を震わせながらトビィが跳躍し、剣先でクーバーの瞳を狙う。
全速力で天井の端へと移動し、荒い呼吸を繰り返すクーバーだったが、そのトビィの言葉に違和感を感じ、遠のく意識で懸命に『違和感』を考えた。
あぁ、そうだ。
トビィはこの少女・・・アサギを知っているらしい。
けれども、アサギは・・・?
クーバーはアサギの額に掌を置き、きつく瞳を閉じて何かを探る。
そう、アサギの記憶には、この『トビィ』という存在がないのだ。
片隅にも残っていない、アサギはトビィを知らない。
アサギの記憶を見続けるクーバー、呼び戻した記憶から現われる男達の顔、やはり何処を見てもトビィが存在しない。

「トビィ君とやら、何故この子を知っている? 人違いじゃないか? それとも何処かで擦れ違ったのか? この子の記憶にトビィ君は存在しないんだ」
「ふっ、戯言を。アサギはオレの命の恩人で約一月前の一週間、四六時中付き添って看病してくれたんだ。別れ際に再会を約束して、な。オレがアサギを見間違えるはずもなく、貴様がアサギに触れてよいわけもなく」

聞きながらクーバーはそっと涙する、気の毒過ぎるのだ、そんな強烈な出来事があってもアサギにはそんな記憶がないのだから。
幾らなんでもそんな記憶、少しくらい残っていても良い気がするのだが・・・クーバーは再度探るべく掌に神経を手中させた。
が、やはり何度見ても結果は同じだ、アサギの記憶に『トビィ』は存在していない。
こんなに美形なのに、忘れられることもあるんだな・・・クーバーは悲恋だね、と鼻をすする。
アサギの安らかな寝顔を見つめ、勝ち誇った様にトビィに皮肉めいて笑った。
あぁ、そうせ化けるならこんなガキより、トビィ君みたいな美男子に化けたかったよ、と精一杯の皮肉。
化けたくとも化けられなかった、アサギの記憶に居ないのだから。
が、その刹那。
突如クーバーの脳裏に多大な量の記憶の断片が、洪水の如く流れ込んできた。

「な、なんだ!?」

それはアサギから流れてくる映像のようだ、掌に電撃が走り、痺れて来る。
外したくとも何故か掌が動かなくて外せない、小刻みに震えていた掌が、カマイタチに襲われたのごとく軽く斬られた。
膨大な映像、見知らぬ男達が数人そこにいる。
その中に、一人だけ見知った男が居た、そう、トビィだ。
居た!
思わずクーバーは叫んだ、瞳を凝らすとトビィ以外に男が三人居る。
流れ込む映像を振り払う如く、クーバーは自身の頭を激しく振った、けれども意に反して映像は更に鮮明になっていく。
ついに、音声まで聞こえ始めた。

「ば、ばかな!? 俺はこんな能力持ってないぞ!?」

宙で身悶えているクーバーの様子に、トビィは剣の構えを解かず見上げている。
以前戦った魔族に、姿を変貌させると格段に魔力が向上した厄介な敵が居た、ソイツと同類か?
冷静に相手を見定めながらも、何かから逃げようと怯えているようなクーバーに眉を顰める。
クーバーは怖かった。
何故かしらその先の映像を見るのが、怖かった。
知らない人物達だ、たかが他人の記憶のはずなのに・・・戦慄に身体を震わす。
映像が激しい光を放ち、クーバーを襲う。
・・・花畑だ。
色とりどりの花が咲き乱れる、美しい光景である。
その最中にクーバーは突っ立っていた。
唖然と周囲を窺う、やがて手を繋いで仲睦まじそうな二人が歩いてきた。
アサギだ。
アサギとトビィに若干雰囲気が似ている男が、笑みを絶やさずに歩いている。
別に、何も不自然な箇所は無い、有り触れた羨ましい気もする恋人同士だ。

「これを」
「? これは・・・? 綺麗な深紅の宝石!」
「こ、これさ、あげる。に、似合うと思って」
「ホント!? ありがとう! ずっと、つけててもいい?」
「うん。ずっと、持ってなよ」

男がアサギに似た少女に首飾りを手渡したようだ、小さいながらも品良く装飾してあるルビーが、淡く輝いている。
愛おしそうに、隣の少女を見つめている男。
時折触れることに抵抗を覚えながらも、ぎこちなくぶっきらぼうに、震えながら手を握り、髪を撫で、頬に手を触れ。
不可侵の聖域のごとく、敬いつつ恐怖に焦がれつつ、思うように少女に触れられないらしい。
恐怖に怯える映像ではない、けれどもクーバーは背中に嫌な汗をかいていた。
後方を見てはいけない、闇に引きずり込まれ、何かで全身を骨ごと砕かれるようなそんな感覚が消えない。
男は足元の花を一輪、恭しく摘み取るとアサギに似た少女の髪にそっと挿した。
新緑の髪の少女、顔を赤らめて笑う。
純白の花が可愛らしく少女の髪を飾り、二人は笑い合うと再び手を繋いで花畑を歩き回った。
知りたくない、聞きたくない、観たくない、この先は観たくない!!
産まれて初めて味わう感覚は絶望と悲哀、胸を切り裂かれる苦痛、闇に属するクーバーすら恐れる巨大な暗黒の塊が迫ってきていた。
急に映像が一転した、仄暗い小屋の中、二人がひっそりと佇んでいた。
少女が頬を桃色に染めながら、そっと手を胸の前で組み、何か呟いている。

「愛して、います」

愛しています。
少女はうっとりと目の前の男にそう告げていた。
愛の告白、想いを込めて、その言葉に全ての想いを詰め込んで。

「愛しています」

再度、少女は呟いて嬉しそうに小さく笑った。
そんな少女とは裏腹に、男の表情は晴れない、というより冷淡な眼差しで少女を見下している。

「はっ・・・」

長過ぎる沈黙の後、男が搾り出した声に少女は瞳を軽く見開いた。
次の瞬間、後方のベッドまで突き飛ばされ少女は軽く呻いた。
あまり柔らかくはないベッド、衝撃に混乱を憶えながら少女は瞳を開く。
目の前に男が居た、押し倒される格好で覆い被さられている。
赤面するどころか、男の雰囲気に少女は身を竦ませて声を出せなかった。
髪を無理やり握られ、強く引っ張られる。

「ひぁっ!?」
「愛してる、ねぇ? ・・・お前はオレを馬鹿にしてるのか!? あぁ!?」

身体を震わせている男、どうやらそれは怒りで、らしかった。
男の変貌についていけないのか、少女は小さく身体を窄めると、髪が引き抜かれる痛みに耐えながら言葉を繰るし紛れに発する。

「教えてもらったの。ベシュタ様に教えてもらったの。胸がとくん、って脈打って。観ているだけで心が震えて。名前を何度も呼びたくなって。触れていたくて触れてもらいたくて。声が聞きたくて、一緒に居たくて。笑ってる顔が観たくて隣に居ると安心できる。それを、愛してるって」
「あぁそうか、そうか、よかったな! 本当にお前は狡賢く生き延びていける女だよ。まぁ、そうだろうなぁ、ベシュタは貴族だもんな? オレなんかより余程地位が上だし、取り入って損は無い相手だよな? ・・・馬鹿にしやがってっ」

胸倉を掴み、右手で容赦なく少女の頬を殴る男、鈍い音がして少女は大きく叫び声を上げた。

「なんで、なんで怒ってるの」
「うるせぇっ」

左頬を殴られる、口内が切れて血が唇から伝った、咽ながら涙をうっすらと浮かべる。
わけがわからず、震える手で男に触れようと手を伸ばすのだが、痛々しい音がして手は撥ね退けられた。

「触るな、気持ち悪い」

汚らわしいものを見る目だった、その視線には嫌悪感しか感じられない。
その視線を投げかけられているのは自分なのだと理解し、少女は口を震わせながら何か言葉を探す。

「観るな、気持ち悪い」

びくぅ、と身体を更に縮込ませると少女はもう何も、言えなかった。
脳に与えられた衝撃は、少女の思考をほぼ停止させた。
触るな、観るな、気持ち悪い。
どうしたらよいのか分からず、少女は大粒の涙を幾つも流す。
この間まで、四六時中手を繋いで居たのに、飽きることなく二人で見詰め合ったのに。

「あぁ、本当にお前は立派だよ、どうすれば相手に気に入られるか解ってるよ。身体を使って取り入るなんてお前もやるよな」

男が何を言っているのか理解が出来なかった、少女は虚ろな瞳で男を見ている。

「この阿婆擦れが。何が土の精霊最大の女、だ。笑わせるよな? ただの色欲に駆られた愚者だろう!? 何が女神だ、笑わせるっ」

罵声を浴びせられながら、少女はそれでも懸命に男に言われた言葉の意味を考えていた。
愛しています、そう言ってはいけなかったのか?
教えて貰った素敵な言葉を、一番大好きな大切な人に伝えたかっただけなのに、これは一体どういうことだろう?
手を、繋いで。
一緒に、笑って。
ずっと、居て。
触らせて、観させて。

「あ、あの、わたし、わた、し。愛して」
「うるせぇ! 意味も解らずにお前ごときがそんなこと言うなっ」

バキィっ、男はベッドに少女を打ち付け、何度も何度も可愛らしい顔を殴りつけた。
容赦なく強打され、少女は幾度も悲鳴を上げるのだが徐々に声すら発せられなくなっていく。
血が男の拳に滲んだ、鈍い音が小屋に響き渡る。

「可哀想なオレ達、とんだ茶番に付き合わされていい迷惑だ。時間返せよ、オレ達の時間を返せよ! お前に出会ったせいで、無茶苦茶なんだよ! くそったれ」

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