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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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2295aebe.jpeg文字数オーバーではじかれたので、前編後編という異例の事態に。
魔王リュウの過去編完結です。

トビィお兄様、出番ですよ!!!!!

ようやく第一章完結の兆しが見えてきたので、頑張りたいと思います。
がんばれ私、予定を大幅に過ぎているが諦めるな!
完結させるんだ、今年こそ!!!(遅)


でも、ありがたいです。
外伝2の連載を小説家になろう様で開始したので、小説&漫画投稿様のほうで楽が出来ます。
こちらは、本編に外伝を混ぜ込んで連載しているので、すぐにでも更新出来ます。
いやっほーうぃ!!!
※大はしゃぎだ。

イラストは2012年4月11日に9分で描いた魔王リュウです。
お疲れさまでした、最終決戦までだらだらと生活しておいてください。
苺の魔王様です。

 街の地下に幽閉されていた幻獣が解き放たれた、突如姿を現した美しい兵器を捕獲せよ、との命令だった。
 逆らう事など出来ないが、幻獣達は顔を見合わせ項垂れる事は出来た。あぁ、また仲間が捕まるのかと。
 しかし、一体何者だろうか。まだ使役されていない幻獣がいたことに驚いたが、それも今日で終わるだろう。
 額に一角を所持する、氷のような滑らかな肌の娘はユニコーンの末裔だ。自慢だった長く煌びやかな髪は疲労と抑圧で痛み放題である。名を、キリエ。飛行部隊として重宝されていた。
 背に蝙蝠のような羽を持った細身の男は、瞳が深紅で血を連想させる。短い金髪が漆黒の羽によく映えた。鋭い爪を持つ彼は、ケルトーン。夜間でも敵を見逃さない、飛行部隊の一人である。
 背負う強大な斧を軽々と持ち上げて項垂れている、中年の男は片目がない。筋肉の塊のようで動きこそ鈍足だが、腕力では一撃で地面をえぐる。オーガの彼はコルケットという名だった。
「飛行部隊で叩き落し、地面に落下したところでお前が仕留めろ。死ななければ多少の無茶は構わん」
 キリエ、ケルトーン、コルケットは顔を見合わせて諦めた溜息を吐いた。いつもの、ことだった。この戦法で何度か敵方にいた仲間を、手にかけた。
 キリエとケルトーンが召喚士たちに監視されながら飛び立つ、新しくこの街に配置される予定だったリングルスが先に戦っていることは聞かされていた。
「……まさかっ」
 近づくにつれて、キリエとケルトーンの表情が変わる。上空を仰ぎ見たコルケットも顔面蒼白で思わず斧を手から落としてしまった、当然だ。
 リングルスと格闘していた人物は、他ならない最愛の故郷の王子である。
 名前を挙げそうになって、辛うじてキリエが自身で口を塞いだ。
 だが、口は塞げても攻撃の手は止まらない。リングルスの後方からリュウ目掛けて突進してくる。
「! このような場所に仲間が大勢」
「お、お逃げください! 何をやっているんですかっ」
 一角でリュウを突き刺すように突進してきたキリエを避ける、痛んだ彼女の髪にリュウは涙した。
「そ、そうです! 早く遠くへ!」
 急降下しながら手足の爪で突き刺そうとしてきたケルトーンを、紙一重で避けて地上を見れば、もう一人の仲間がいる。
「この街だけで四人か! 必ず助けるから!」
「我らのことは構わず、お逃げください!」
 悲痛な叫び声は、咆哮となる。リングルスの猛攻に加えてのこの攻撃ではさすがのリュウとて、体力に限界が来ていた。おまけに腕の中にはトッカがいる、上手く避けないとトッカが傷つく。
 焦燥感に駆られて、水面すれすれを飛行するリュウ。一旦は何処かの森に身を潜めねばならない。
 地上では、人間達が眉を潜めていた。コルケットが取り乱したのだ、尋常ではないほど。
「王よ、ひょっとしたらあの新しい兵器……相当な位の者では?」
「位? なんだ、兵器にも位なんぞあるのか?」
 召喚士の一人が、恐る恐る王に近づく。王は再び踏ん反り返り娘らを侍らせている。
 本来、この街に王達が滞在することになったのは、今上空にいるリングルスの移動の為だ。敵方で使役されていたリングルスを確保し、その戦闘能力を見てみたいという王の為にこの街が選ばれた。街には敵方を崩壊に導いた兵器も揃っており、鼻の穴を膨らませて見物に来たのである。
 指示を出すだけで、前線には出ない王だが、剣の腕は確かだった。
「代々、王として君臨する家系があると聞いております。名は……」
 水面を飛んでいたリュウの身体が、電撃に打たれたように痺れて、河に沈む。悲鳴を上げたキリエだが救う事等出来ない、寧ろこれ幸いとばかりに水中に潜り攻撃を加える。死ななければ良いのだと、命令されている。
 身が硬直し、鼻と口から水が入ってきた。だが、一瞬の痺れだ。トッカがいるので渾身の力を振り絞り、対岸の森に身を潜めると水を吐き出す。木々が生い茂り、簡単にはあの2人とて攻撃を加えられない筈だ。
「な、何だ今の……」
 身体が麻痺したようだった、自分の意思では動けなかった。体力の衰退ではない。
 寒気がする、水に濡れたから冷たい、というわけではない。嫌な予感がしてたまらない。
 震えながら様子を窺うと、2人の仲間達は不安そうにこちらを見ている。大丈夫だよ、と微かに頷くと安堵して首を垂れた。いつしか、夜になっている。ケルトーンの分野だ、リュウは夜間にはさほど瞳が慣れていない。
「あぁ、でも今日はそういえば」
 昨晩は満月だった、今日から月が欠けていく。自分の髪が変色していくことに気がついた。リュウの髪は、月の満ち欠けで髪と瞳の色が変化する。最初観た時はトッカも驚いたようで吼えていたが、流石にもう、慣れたようだ。
 神々しい銀髪に、金色に光る瞳は暗闇でも目立つ。黒髪黒瞳のほうが、闇夜に紛れるには丁度よかったのだが仕方がない。リュウは、銀髪になった自身の髪を見て苦笑するしかなかった。
「王子! 王子!」
「エレン!」
 震えているリュウの前に、エレンがやってきた。胸騒ぎと、石の魔力によって吸い寄せられてきたのだという。リュウは手身近に現状を話した。
「まぁ、まさかあそこに四体もの仲間が。……それに、命の欠片を何個か所持している人間がいるのですね。だからこうも身体がざわめくのですね」
「どうする、エレン。一旦引くのが得策かな」
 キリエとケルトーンの姿はなくなっていた、不気味である。人間達がどのような策を思案しているのかわからない以上は、撤退が得策だろう。仲間を目にして逃げるしかないリュウは歯軋りするがエレンが嗜めた。
「身体も濡れていますわ、すぐに乾かさないと。攻防が激しかったのですね」
「いや、何故か身体が硬直したように……麻痺したようになって、河に落ちたんだよ」
 何気なく言ったリュウだが、エレンは悲鳴を上げる。首を傾げて見つめるリュウに、唇を震わせて声にならない声でエレンは告げた。
「真名が! 真名を一部知られたのでは!?」
「まさか!」
 だが、そうなれば納得がいく。突如として身体が制御出来なくなった事態も、それならば理解出来る。
 名前を知っている人物は、人間ならばサンテ。先程の仲間達が拷問されて、名を一部呟いたのだろうか。
 青褪めるリュウとエレンは、身体を寄せ合う。ともかく、一刻も早くこの場を立ち去るべきだと2人は闇夜に紛れて森を移動した。
 もし、ここでリュウが捕らえられてしまえば終わりだ。単独で乗り込んできた意味がない、ただの、阿呆である。
 それだけは避けねばならないと、リュウは震える手でトッカを撫でて落ち着かせようとした。
 だが、恐怖心はそれだけで消える筈が無い。捕らえられた先の末路を考えると足が震えた。
「わ、私は弱いな……」
「お気を確かに!」
 リュウの身体に寄り添い、エレンが励ます。だが、それもリュウには自分の愚かさを強調させるだけだ。
 不意に、トッカが腕で暴れる。驚き、思わず腕を離したリュウは、トッカが一目散に河へと向かう姿を見た。
 エレンは急かしたがトッカは大事な犬、いや、もはや仲間だ。ここにおいてはいけない。追う様に走り出すと、トッカが尻尾を振っている。
「サンテ!」
 対岸の壁、先程リュウが弓兵を殺害したあの壁にサンテが立っていた。
「あれが、スタイン様と共に行動していた人間ですか」
「あ、あぁ! まさかこの街に居ただなんて」
 訝しげに見上げているエレンは、冷ややかに声を荒げる。
「スタイン様? あの人間はスタイン様の名を知っているのでは? あの者が漏らしたのでは?」
「そ、それはない! 大丈夫だ、確かに、名はその、呟いてしまったので知っているがサンテはそんな奴ではない!」
 狼狽するリュウの隣でエレンは瞳を細める、隙あらばその両腕から風を放ちそうな雰囲気だった。
「……あの者が知っているのですね。危険すぎます」
「ま、待てエレン。大丈夫だ、サンテは私の友人なんだ、大丈夫だ!」
 リュウは言いながら、壁に立っているサンテを見る。何処か遠くを見ているようだ、こちらには気がついていないのだろう。それにしても、ここに来ていたとは知らなかった。
「百歩譲っても信用出来ませんが。何をしているのでしょう?」
「帰ったら話を聞こう、さ、トッカ、一旦帰ろう!」
 主人を見つめているトッカを抱き上げようとするが、するりと逃げる。久し振りに会った本当の主人が恋しいのだろうか。困惑気味にリュウはトッカを見つめる。トッカの視線の先には、サンテ。
 不意に、サンテと目があったような気がした。リュウは視えてもおかしくないが、サンテの視力では視える筈が無い。
 だが、こちらを見て何か訴えているような気もする。確かに口を動かして何かを言っていた。
「何か……言ってる。エレン、私はサンテに聞いてくるからここで待機してくれないか」
「危険すぎます! なりません!」
「頼むよ、本当にサンテは人間だけどエレンの思っている様な奴じゃないんだ」
 大きく顔を歪めているエレンは、必死の形相だ。エレンの気持ちも解らないわけではないが、サンテのリュウの仲は二人しか知り得ない。
 頑固なリュウに、エレンが大きく溜息を吐き、こめかみを押さえながら低く呟く。
「援護します、いつ他の仲間が参戦するとも限りませんし罠かもしれません。それならば赦します」
「有難う! 行こうトッカ」
 サンテに向かうと解ったからなのか、トッカは小さく吼えて大人しくリュウに抱かれた。嬉しそうに尻尾を揺らす。
 水面ギリギリを低空飛行し、リュウとエレンは近づいた。弓は降って来ない、まだ弓兵は配置されていないのだろうか。近づくとサンテもこちらに気付いたようだった、背後を気にしながらこちらを見つめている。
 壁を伝って上がっていく、人の気配はない。静まり返っていて不気味だ。
「な、何やってるんだよこんなとこで!」
「それはこちらの台詞だ!」
 小声で話しかけてきたサンテに、リュウが答える。周囲を窺いながら手招きしたサンテに、エレンはい訝しんだがリュウは軽々と壁に降り立った。身を低くし下を覗けば人間達が慌しく動いている。
「手身近に話すよ、名前の一部が知られたみたい」
「貴様が話したのでは!?」
 神妙な顔つきで相槌を打つリュウに、エレンが割って入る。目の前の小さな幻獣にサンテは多少驚いたが、周囲を気にしながら身を屈める。
「静かにしてよ、今それどころじゃな」
 急に耳障りな音がした、あの鐘が再び鳴り響いたのだ。思わず耳を塞ぐリュウとエレン。トッカが吼える。
 サンテの舌打ちと共に、何かが目の前を掠める。一本の太刀だ、月に反射して光り輝いた。
 唖然とそれを見つめる、目の前で剣を振るったのはサンテだ。剣を構えて腰を低く、こちらを見据えている。
 状況が把握できずに右往左往しているリュウの傍らで、エレンが風を放った。鮮血が舞う、だが、辛うじて避けたようでサンテは地面に転がると再び体勢を整える。
 低い叫び声がした、壁に溢れるように人間が集まってきていたのだ、壁はその兵に直撃したのである。エレンが繰り出す風は、刃を伴う。カマイタチのごとく皮膚を切り裂く。
 何処からか、豪快な笑い声が聴こえた。見れば高めの塔から王がこちらを見ていた。
「でかしたぞ、勇者サンテ! 誘き寄せるとは見事なり! 更に褒美をやろう、貧相な家ではなく、屋敷に使用人もつけてやるぞ」
 王の鼓膜に響く下卑た声は、リュウの脳髄に衝撃を与えた。何を言っているのか脳内が混乱する。視界が揺れる、回る。
 虚ろな瞳でサンテを見つめれば、皮肉めいた顔で笑っていた。
「き、貴様! 王子を弄んだのだなっ」
 上品なエレンが奇声を上げた、再び風を繰り出す。壁を破壊するほどの威力の風だが、俊敏にサンテは避けた。無傷ではなかったが、致命傷はあたえられない。
「おのれ、おのれぇっ!」
 腕を振り上げて風を連打するエレンの傍ら、放心状態のリュウは動けずにいた。
 エレンが言う通りだったのだろうか、この状況はなんなのだろうか。みすみすとサンテの罠に嵌まってしまっただけなのだろうか、あの王が言う意味を理解したら全てが崩壊してしまう。
「王子、逃げますよ、王子っ」
 エレンが肩を揺さ振ろうとも、微動だしないリュウは、サンテを見つめている。
 唾を吐き、サンテは低い姿勢から剣を一気に突き出した。その瞳に迷いなどない。
「ぅぐっ」
 剣は、リュウの左腕を掠めていた、心臓を狙ったのだろうが無理な体勢からで上手く命中しなかった。
「さ、サンテ?」
「ちっ、避けたかっ」
 右腕で出血箇所を抑える、後退するリュウに、じりじりと滲み寄るサンテ。
「剣が重くて、上手く扱えないんだよね……。剣、教えてくれてありがと」
「さ、サンテ……?」
 再び風を起こし始めたエレンに先にサンテは剣を振り翳した、だが俊敏な風の妖精には触れられない。
「後方からも追っ手だよ」
 歪んで笑ったサンテにエレンが振り返れば、弓矢が降り注ぎ、槍を構えた兵が迫ってきている。
 舌打ちし、エレンは風をその槍兵へと投げつける。
「王子、下に飛んで逃げましょう! 早く!」
 弓矢を叩き落す風を巻き起こしながら、防御に徹することにしたエレンは、この状況を目の当たりにして振るえているリュウに必死に叫んだ。だが、リュウは小刻みに震えるばかり。
「サンテ? サンテ、これは一体」
「あー、もう、煩いなぁっ」
 地面を蹴り上げ跳躍したサンテ、剣が降って来る。唇を噛締め、リュウは慌てて剣を腰から引き抜いた。だが、震える手では上手く剣を扱えない、防御が出来ない。
「思ったより、幻獣の王子様は精神が脆いんだね。……知らなかった、王子様だったんだね」
 喉の奥で笑いながら血走った瞳で剣を降ろし両手で渾身の一撃を繰り出すサンテ、動きは以前とは違う。当然だ、リュウが教えたのだから。
 名前を呼びたくても、口内は乾ききった。声が出て来なかった、震える身体は止まらない。
「使役されるよりも、死を選ぶ? それとも生にすがって使役されるっ!?」
 剣を横に薙ぎ払う、リュウの剣が転がった。慌ててもう片方の剣を引き抜こうとしたが左腕の痛みが増し、顔を顰める。止む無く、右手で以前から所持していた短剣を引き抜いた。
「人間が醜く汚い生き物だって、知っていたはずだろう、王子様。……僕は”人間”の”勇者”だよっ!?」
 偽物だけど、と薄く笑って付け加えたサンテは何度もリュウに斬りかかる。首を横に振りながら、リュウはそれでも抗った。現状に抗った、名を何度も呼ぼうとした。攻撃など出来なかった、目の前にいるのは、人間の友達だった。
 嘘だと何度も心で叫び続ける、絶対的に信頼していたのだが自分が間違っていたのだろうか。
 エレンは懸命に外部からの攻撃を避けることしか出来ない、リュウを救出になど行けない。
 その顔が青褪める。悲鳴を上げた。
「き、来ました、仲間です! わ、私一人ではっ!」
 狼狽しているエレンの声に、横目でリュウとサンテは見た。想定内だが幻獣達が取り囲んでいたのだ。
 三体とも心痛な表情で涙を浮かべている、傷ついたリュウを見て項垂れた。
「何故逃げなかったのですか……」
 エレンの俊敏さなど足元にも及ばない飛行能力のある三体だった、足元ふらつくリュウに寄り添い懸命に威嚇するエレンだが意味が無い。
 それでも人間の兵は辛うじて撃退できたようである、何かしらの傷を負わせ戦意を喪失させることは出来たようだ。
 後方で、王の笑い声が響いていた。「珍しいな、髪の色が黒から銀になっておる! 美しいではないか! 流石王族か、はーっはっはっはっは!」血が吹き出る程、幻獣達は唇を噛締める。
「僕は名前を知っているんだよ、王子様。真名を知ったんだ、君が王子だと知ったからね」
「……私は、サンテを疑いもしなかった。それが、間違いだったのか?」
 剣を振り被るサンテ、エレンは悲鳴を上げるがリュウは哀しそうに瞳を伏せたまま力なく短剣を構えている。
「だから、僕は”人間”の”勇者”だってば! 僕は最初からこのつもりで居たよ、君を捕らえれば褒美が貰える、もう、一人きりであんな場所で生活しなくてもいいんだ! 人間らしく人間の中で生きていくんだ!
 君の敗因は、勇者の僕を信じたことだよ!」
 サンテの剣が、リュウを捕らえた。本来ならば、サンテの剣技ごときがリュウに通用することなどない。だが、それほどまでにリュウは弱っていた。腕の痛みではない、まさかの裏切りに動揺した。
 それは、あの水竜の女性から人間の残酷さを聞いた時以上のものだった。
「さ、サンテー!」
 悲壮な悲鳴は、掻き消える。渾身の力でエレンがリュウを突き飛ばしたのだ、壁から河へと落下するリュウの身体。銀の髪が、流れるように美しい。
 サンテの剣は壁を切り崩す、エレンと共に落下するリュウを、幻獣達が加速し追いかけた。
 それでもリュウの瞳はサンテを捕らえたまま、サンテは視線を思わず剃らした。見ていることなど、出来なかった。
 哀しく光るリュウの瞳を見ていられるほど、サンテは強くなかった。
「しっかりしてください、王子! あれが人間です! 貴方は騙されていたのです! お気を確かに、本来の貴方様の成すべき事を思い出してください!」
 エレンが耳元で怒鳴る、追っ手の幻獣達も泣きながら頷いている。
「王子、貴方は人間ではありません。共存など無意味なのです、不可能なのです!」
 河に身体が沈んだ、エレンが引き上げようと躍起になるが浮かび上がらない。
 このまま、死んでしまっても良いと思った。誰も助けられないから。信じていた者に裏切られたという真実が、何もかも全てを手放したくなった。
 自分が、甘かったのか。最初は警戒していたのに、何時の間にか心許していた。そしてそれは自分だけだったのか。相手は狡猾にこちらの隙を窺っていたのか、この日の為に、自分の目的の為に。 
 王から、褒美を貰う為に自分を売ったのだ。
「そん、な」
 親しみを感じ、友だと思い、共に生きていきたいと願った自分が愚かで浅はかで滑稽だった。なんと馬鹿なのだろう。全てを投げ捨てても良い。こんなひ弱な自分では誰も救えない、寧ろ足手纏いだから。
 薄れゆく視界で、エレンが叫んでいる。リュウは、瞳を閉じた。痙攣する手足。
「スタイン王子、私達を置いていかないでください! どうか、どうかっ! 私達を、導いてくださいっ」
 声が、聴こえた。エレンの最後の叫びだった。
『王子……血気にはやりましたな、このような事態を起こして』
 声が、聴こえた。バジルの声だった。 
『サンテに気圧され、このような失態を招いた。だが落ち着こう自分。このまま死んで良いのか。バジルが呆れてしかめっ面で見ているよ、ほらみろ、まだ子供じゃないかと。何も出来ないじゃないかと。……子供でもいいけどさ、やるべきことは成し遂げようよ、責任を放り投げては駄目だよ。自分は何をしに来たの、サンテの友達になる為に来たわけじゃないだろう? 今目の前にいる仲間を救いに来たんだろう? それならまだ出来るはずだ、諦めなくてもいいはずだ』
 自分の声がした、残っていた冷静な自分が語りかけてきた。
―――…………! ―――
 最後に、初めて聴く声がしたが、何を言ったのか全く聴こえなかった。  
 
 水を吐き出す、対岸に打ち上げられたリュウを、エレンが心配そうに見つめていた。
「助かった、のか?」
「はい、はいっ! もう駄目かとっ!」
「リングルス達……は?」
「そ、それが突然行方を晦ましたのです、下種な人間に呼び戻されまた何か策を練っているかもしれません。ともかく身を潜めましょう!」
 力なく立ち上がったリュウは、壁を見た。歯軋りしてから思いなおすように首を振る。
 サンテの姿は当然なかった、決然と歩き出したリュウの背中を見てエレンは安堵し胸を撫で下ろす。
「すまなかった、な。エレンの言う通りだった。どうやらサンテ……いや、あの人間の勇者は王と結託していたのだな」
 毅然とした面持ちで、リュウは拳を握り締めた。これが現実だ、嘆いている場合ではなかった。
「失態を見せた、すまない。私がここへ来た意味を忘れていた。……思い出したら、あまりの侮辱を受け激情に身を焼かれそうだ」
 落ち着き払い、考え直せば怒りの矛先は自然とサンテに向けられる。
 自分だけではない、エレンにも攻撃を加えたサンテ。不甲斐無い自分も責めなければいけないが、サンテへの憎悪が昂る。
「私を貶しても良いよエレン。間抜けだな、王子としては完璧に欠落しているな」
「いいえいいえ、スタイン様。死の淵で貴方様は血路を開かれました、目的を遂行する為にこうして私と語っています。貴方様は欠落などしておられませんよ、立派な私達の王子です」
 立派ではないけど、と自嘲気味に笑うリュウにエレンは胸を痛める。エレンとて、どんなに二人の仲が良かったかなど知らない。リュウの抱えた胸の痛みの度合いは、解らない。
「下劣な人間、赦さない」
 リュウの瞳に光が灯った、それは薄暗い闇の色に似ていた。金の瞳に、黒い影。

 エレンの隠れ家に身を隠しながら、周囲の状況を窺った。厳戒態勢で2人は遭遇できた仲間達の解放を思案したが結局のところ、どうやって”人間を抹殺するか”しか方法はないのだ。
 名前を知られているエレンと、名を知られているらしいリュウ。
 だがリュウは捕らわれていない、エシェゾーの名を誤って人間が覚えていたのではないか、という憶測で終わった。幻獣に敬意を払っていた人間などとうに消えている、家名が誤っていても不思議ではない。
「上手く出来たら、バジルも私を認めるかな。そうしたら自慢してやるんだ……」
「バジル様はかたくなで人と和合しない様な雰囲気ですけど、あの方誰よりも優しいですよね」
「いや、それは間違ってるけど」
 他愛もない話しで2人は時を過ごした、サンテと違い本当に心から安堵出来る仲間だった。裏切られることなどは、ない。
 数日後、街の外れに鴉が集まっていた。
 木の上から遠目に見たリュウは絶句する、骸が放置されていたのだが、その骸。
 間違いなく、サンテのものだった。
 顔はひしゃげて見るも無残なその姿、鴉についばまれて肉もそげているが、身体中から血が抜かれたように穴が開いている。
 嘔吐した、流石に知人のあのような姿を見れば平常心ではいられない。
「王子を捕らえられなかった為に、あのように死骸を弔うことなく曝されているのでしょう。厳罰に体罰も与えられたのかもしれませんね」
 淡々と語るエレンに、若干リュウは頷いた。 
 後日、近寄れば立て札が立っていた。『サンテ=ナチス。この者大罪を犯した為捨て置くものとする』
 哀れに思い、火でも放とうかと思ったが、人目につくのでリュウは踵を返した。
 日照りで死体は乾燥した、最も鴉や獣に食われて肉など残っておらず真っ白な骨が浮かび上がっている。
 騒動から一週間後、王が岐路に着くらしく再び耳障りなあの鐘が鳴り響く。厳重な門が開かれた。
 意気軒昂として、リュウとエレンは顔を見合わせる。供として幻獣を連れてはいるだろうが、この機に王とやらを殺害するのが良いだろう。
 まさか先日の様に全幻獣が出るとは考え難い、街から離れて移動する隊を、2人はひっそりと追った。
「人間同士が闘ってくれれば良いのですが。敵対する国の人間を、ここに連れて来たいですわね。そうすればどの仲間を連れているのか掌握出来ます」
 エレンの無感情な声にリュウは小さく頷く。
 願った通りなのか、谷に差し掛かった時に王の一行は襲われた。地に長けた者達は崖の上から岩や油を落とし、火を放っている。
 その幻獣が出るかと思えば、誰も出てこない。
 唖然と成り行きを見守れば、被害はあったものの王達は無事に切り抜けていた。
 近くの集落が反発を起こし、僅かな抵抗を見せただけで大事には至らなかったのである。だが、リュウにしてみれば天からの授かりものだ。
 部隊を整えている一行にリュウとエレンは突進する、悲鳴を上げる人間など、リュウの敵ではない。
「下劣な人間共よ! 私の怒りを思い知れ! 剣が峰に立たされた気分はどうだっ」
 リュウの憤りが爆発した、間近で王を見て怒りが頂点に達したのだ。
 地響きが轟く、阿鼻叫喚の中で人間達は見たのだ。
 輝く銀の強大な竜を。
 吐く息は、絶対零度の凍る息吹。空気を冷やし、凍て付かせる。
 振り下ろす尾から人間は逃げることなど出来ない、潰されて一撃で死する。
 瞳が合えば、目が焼かれて視力を失った。
 羽ばたき巻き起こる風は、狂気な刃と化す。
 逃げ惑う貧弱な人間を、リュウは踏み潰した。失禁し動けない王とその姫を噛み千切ろうと思ったが、生憎美食家なのだとリュウは手で叩き潰す。
 阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
 エレンが止めていなければ、リュウは自我を失っていたかもしれない。殺戮と破壊に心と身体を委ねて楽しみ始めていた。
 あまりにも、簡単に、虫けらが死んでいくから。
 初めて、竜の姿に変化したわけではない。幼い頃面白がって変化したらば父親に激怒された。あの時は自分の恐ろしさを知らなかったが、ここまでの破壊力があるとは思いもよらなかった。
 ものの数分だ、数分で王の軍隊は死滅した。
 意気揚々とリュウは直様引き返す、あの街を叩き潰すために、だ。
 エレンが不安そうに寄り添っていたので自我は消えていない、だが皆の苦労を思えば先程の呆気ない戦闘が馬鹿らしくなってしまった。
 これほどまでに、力の差は歴然としているのに。名前の魔力だけで、縛られてしまうとは。こんなにも、非力な人間なのに。
 腹立たしくなった、名前の全てが腹立たしくて仕方がない。
 街の壁を尾で叩き壊した、ここに仲間は四体いる筈だ。人間を皆殺しにすれば呪縛からは逃れられるだろう。
 突如出現した竜に人々は恐れ戦いた、神に祷りを捧げる者もいたが無意味だった。
 破壊の限りを尽くす、美しき銀色の竜。
「リュウ=エシェゾー! 我に降れ汝の名の下に!」
 身体が一瞬痙攣する、だが一瞬だ。叫んだ人間を踏み潰した。
 破壊し尽くし、エレンの喚き声に我に返ればあの耳障りな鐘すらも放り投げていたようでもはや廃墟と化していた街が目に入る。
 荒い呼吸で人型に戻ったリュウは、呻き声すらしない街の中を散策した。仲間は何処にいるのだろう?
 やがて王子、王子と声が微かに聴こえる場所に来る。瓦礫を退かせば地下への道だ。
 そこでようやく幽閉されていた仲間を救出した、怪我はしているが皆十分動く事が出来る。
 リュウに風の妖精エレン、猛禽類のリングルスに、一角獣のキリエ、夜の蝙蝠ケルトーンに、オーガのコルケット。仲間が六人になった。
 この国の王が死んだのだ、王が帰還しないのであれば異変を感じた人間達が王都からやってくるだろう。それまでリュウ達はここに滞在することにした。
 良い思い出などないが、初めて皆が出会った場所だ。河もあるし森もあるので住み易い。
 涙を流して解放を喜ぶ皆だが、どうにも負に落ちない。
 召喚士達は何をしていたのだろう。
 仲間達は身の上を話し始めた、結局生存している他の仲間達の所在は誰一人として知らない。暫しゆっくりと休息をとり、王都であるカエサルに向かうことにした。
 癒えない傷もあるが、手当てできる傷は薬草で治す。治癒能力のある仲間が居ればよかったのだが、ここにはいなかった。
 一週間ほどして、リュウ達はサンテから貰っていた地図を頼りにカエサル城を目指した。王が不在な国など、竜に変化せずとも一網打尽である。
 召喚士が滞在しているであろうことも予測できたので、名を知られている仲間達は暗躍した。先陣を切ったのは勿論リュウである。
 城は極力破壊しないように気をつけた、本拠地として住まう為である。
 人間臭い場所など、と仲間は反論したが厳然たる事実を人間に至らしめるには丁度良いのだとリュウは言う。
 召喚士が幻獣を出してきた、強固な皮膚に包まれた一族だ。
 鰐を彷彿とさせる瞳と鋭い歯、剣と楯を手にしている地上の戦闘員であるが空中でも軽やかに舞うリュウの敵ではない。
 女性だったその幻獣、名をシンディという。シンディを操っていた召喚士の首をはねたリュウは、呪縛から解き放たれたシンディを抱き締める。
 城の召喚士が他にも数人存在し、解放されたシンディを再び使役したがそのたびにリュウが斬首した。シンディが囮を買って出て、召喚士を炙りだしていく。
 やがて、人間達が逃亡を計り始めれば仲間達は集結し、逃げる人間をも殺していった。生き延びれば仇名すだろう、新たな召喚士を生み出してはならない。
 城を乗っ取り、片っ端から書物を焼いた。幻獣に関して記載されていると思われる書物だけでよかったが、生憎文字が読めないのだ。
 厳重な宝物庫からは、荘厳な雰囲気の剣が一振り出てきたのでリュウが所持する。人間の手にしては、美しすぎる代物だった。
 こうして、人の気配がなくなったカエサル城にはリュウ達が住み始める。
 人気の途絶えた王都の異様な雰囲気は旅人が脅え、商人も引き返し、直様世界中に噂が広まる。『難攻不落のカエサル城・魔王の手に堕ちた。国王及び軍隊、勇者も殉職』
 リュウはその後もエレンとリングルスを連れて、何度も世界を旅した。仲間を救うためだった。ようやく見つけたのは、リュウよりも幼く見える青年だ。
 両親は捕らえられたが彼は辛うじて逃げ、山奥の小川に身を隠していたという。本来は水中に住まうニンフだが、母親がニンフではなくシルフィであった為、足がある。水辺から離れても生活出来た。
 人間達は、恐れ戦いた。
 時折やってくる美しい異形の青年と、その配下達には術がなかった。
「私の名はリュウ! お前達が魔王と呼ぶ者だ!」
 名を曝してはいけない、と仲間達も名を変える。もう、本来の名で呼ぶことは出来ない。呪縛は耐えられなかった。
 リュウの下には、七人が集まった。
 七人だけだった。他には見つからなかった、すでに死んでいたのだ。
 足りない、全く足らない。
 リュウは世界を旅し、手がかりを模索した。無論、故郷の惑星へ皆だけでも返す方法がないかも考慮した。見つからなかったが。
 文字は読めなかったが、十数年かけて簡単な書物ならば読むことが出来るようになった。そこで知り得た情報として、他にも惑星が存在し、何かしらの手段で行き来が出来るということだった。
 仲間達が新たな惑星で使役させられていることを視野に入れて、リュウは旅を続ける。
 
 百年ほど経過した、懐かしい雰囲気に何処か胸がざわめく。
 鬱蒼とした山の中で、何の気配もないその場所に、小さな朽ちた小屋があった。草が巻きつき、何か解らないほどだった。
 小屋には、畑があった。雑草が生い茂っていたが、畑だった。
 思わず、リュウは硬直したのだ。それはサンテと過ごしたあの小屋だった。
 畑は荒れ放題だったが、何故か美しい赤い実がそこに幾つもなっている。
「まぁ、可愛い形。何かしらこれ」
「……苺、というんだよエレン。甘くて……美味しいんだ……」
 一粒、もぎ取って齧る。甘くて、酸っぱい。甘さよりも、酸っぱさが口に残って何故か泣けた。
 古めかしい小屋は扉が壊れている、よくも苺が育ったものだと感心しリュウは唇を噛締め中に入ってみた。遠い昔のままだった。
 だが、見慣れないものが。黄ばんでいるが紙らしい、床に落ちていた。拾い上げる。
 薄れていて文字が読めないが、外にでて光に当ててみた。辛うじて読めた。
 わなわなと手が震え出す、エレンとリングルスは夢中で苺を食べていたので気がつかない。
 リュウは密かにそれを懐に仕舞うと、2人を急かして飛び立った。
「苺、育てましょうよ。リュウ様お好きなのでしょう?」
「あぁ、好きだよ。ここへ来て、感動した食べ物だ」
「たくさん、苺を育てましょうね。楽しみですね」
「あぁ、楽しみだね……」
「あんなところにたくさんなる物なのですね、自生ではないですよね? あの小屋の持ち主が育てていたのかしら、余程、好きだったのね苺が」
「そう、だろうね……」
 リュウの瞳から、涙が零れ落ちたが誰も気がつかなかった。
「そういえばリュウ様。何故お名前、”リュウ”なのですか?」
 エレンはエレと名乗った、リングルスはリグと名乗った、皆本名から文字って名付けた。”スイ”と名乗ればと薦めたのだがリュウと名乗っている。
「……どこぞの人間が、私をリュウと呼んでいたから」
 ぽつり、と呟く。

 カエサル城の中庭には、苺がたわわに実っている。エレンが懸命に世話をした。
 難しく、数年を要したが立派な甘い実がなっている。
「苺って育成が難しいのですね。野苺は簡単みたいですけど、これはきちんとした愛情と手塩をかけないと。……あんな山奥で苺がなっていたことが本当に不思議」
 エレンがそう言ってリュウに苺を差し出した、微笑してリュウは玉座に座ったままそれを食べる。甘くて美味しい苺だった。
 だが、最初に食べたサンテが持ってきてくれたあの、ひしゃげた苺の甘さには敵わない。
「後で試作しますから、食してくださいね。苺を潰して牛乳と混ぜてみようかと。あと、紅茶にも混ぜてみますわ。ジャムも作りますから」
「楽しみだよ」
 リュウは、穏やかな笑みを浮かべる。が、どことなく憂いを帯びていることを、誰もが気づき、そして口にはしなかった。
 それから数十年後、そこへ魔王ハイが訪問してくる。
 この世界に倦怠していたリュウは、未練がないとばかりに1星ネロを捨て去った。2星ハンニバルへと移住したのだ、大量の苺と宝物庫の剣を携えて。
「ハイはまだ勇者見ていないんだっけー」
「あぁ、早く出会ってみたいものだ」
「……良いものじゃないよ、勇者なんて」
「お前に倒せた勇者ならば、私ならば数秒で殺せるだろうな。どんな死に方を用意してやろう、くくくっ」
 苺を頬張りながら、愉快そうに残忍な笑みを浮かべたハイをリュウは横目で見つめている。苺は甘い、けれども、求める甘さが足りない。
「もっと、あの苺は美味しかったよ……」

 1星ネロの無人のカエサル城の中庭には、苺の庭園がある。今も白い花を咲かせて赤く美しい実がなっている。
 誰も訪れない、貧困な土地に一軒の朽ちた小屋がある。そこにも白い花を咲かせて熟れた苺が実っている。その、隣に。簡素な墓があった。
 一本の剣の周囲に花と苺が植えられている、剣には刀身に名が彫られていた。幻獣星の文字で”勇者サンテ=ナチスここに眠る”。

 リュウは静まり返った部屋で、目を醒ました。眠っていたらしい、このところサンテの夢をよく見る。原因は二つ、勇者であるアサギがきたことと、サンテの命日が近いということだ。
「まぁ、アサギは本物の勇者みたいだけどね。……さぁ、どうしようかサンテ。あの可愛らしい勇者を、私はどうしたらいいのかな」
 魔王リュウは、涙声で誰に言うでもなく呟いた。傍らに置いてあった苺を、一粒口に含んだ。
「さようなら勇者。……こんにちは魔王。
 そうだとも、私は魔王リュウだぐ。スタイン=エシェゾーではないよ、あの日サンテと出逢った時の私とは違うのだぐ」

 

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