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ぴーんち。
いつぞや描いたマビルを線画にしてみました。
色を絵の具で塗ったら大失敗したんですよ。
白黒のほうが、まだ綺麗だよ!
やはり、デジタルのほうがこうしてみると楽ですよね・・・。
やり直しが出来るもの・・・。
スキャナとペンタブ、かむばっく。
昔は私もやる気があったので、ちまちまとマウスで色を塗ったり絵を描いたりしたのですが、今となってはやる気がありません(でろーん)。
サンテと出会ってから三ヶ月が経過していた。
普段は剣の修行と畑の手入れだけの単調なモノだ、サンテの剣術は以前より幾分かマシになっている。
といっても剣の扱いは不器用なままだ、それでも気迫を出せるようにはなったサンテ。
畑も二人で耕している、また、リュウを喜ばせようとしたのかサンテも以前より真面目に力を注いだ為、食物の種類も増え始めていた。収穫が楽しみだった。
一人きりの生活では、だらしなくなる。だが、人が増えることによって、その状況は打破される。
行く先で農業について助言を賜ったのか、肥料を与え、新しい苗を購入しては一つずつ増やしていた。
数ヶ月もすれば、何かが口に入る予定だ。
二人で顔を見合わせ、泥だらけになった顔に吹き出しながら、まだ小さな芽に期待をして静かに見つめる。
野菜の収穫がしたいと、リュウは思った。それが、ここへ来た意味とは全く反する願いであることも、解っていた。
自分に有余などなかったのではなかったのか、だが、どうしてもサンテと過ごしていたい気持ちが大きい。
リュウの中で葛藤が続く、仲間達の救出も、サンテとの共同作業も、どちらも、愛おしい。
王子としてのなすべき使命と、王子ではない自分に出来た初めての友達との生活。
それは、どちらかしか選択出来ないことであると、理解している。
そんな中で相変わらず、サンテには時折”勇者”として要請が来ている。サンテ曰く、以前よりも頻度が多いらしい。ぼそ、っとサンテが呟いた。
「敵側の、磐石の守りと言われていた街が陥落しそうだとか」
リュウはエレンとその間に密会し、互いの得た情報を交換する。といっても、エレンは特に新情報など持っていない。過去に知りえた事実を、有りの侭にリュウに伝えているだけだ。
地面に大凡の地図を書く、サンテが所持していたものと照らし合わせながら、エレンの記憶を頼りに付け加える。
「付近に厳重な都市がありますわ、時折そこの人間が山に狩猟で入ってきますの。私の力があれば、そこから攻め落とすつもりだったのですが、力及ばず」
「いや、慎重に行こう。だが、早手回しは必要だな」
「えぇ。その街の見取り図はこのような感じでございます。
……この大河を制圧すべく作られたものなのかわかりませんが、大河沿いに壁がぐるりと。その壁には弓兵が常時配置されております、上空から確認致しました。壁は二重構造でございます。
街中には、大聖堂とよばれる神々を祀った巨大な建築物があります。ここに鐘があり、何か入用の際に鳴ります。人間の数は、相当かと」
「ふむ、この大河からの侵入を防ぐ為に壁が作られているのか……」
「人間達は、この川に面した場所以外……三箇所に出入り口を設けている様子です。仲間が捕らわれているのでは、と思った事もありました。実際に入っていくところを見たわけではないのですが……」
敵の目を欺くためには、この川から侵入するのが得策だろう。
リュウは一人、様子を見に行くことにした。念のため、犬のトッカを連れて行く。人間達とて、幻獣が犬を連れているとは思うまい。
マントにすっぽり身を隠し、川の上流からその街とやらを見ていた。
大河は思いの外壮大だ、水量も豊富で流れも速そうである。ここを泳いでからあの壁をよじ登ることは、体力的に厳しそうだった。
川に足を浸す、陸地からでも、直様膝辺りまで水に浸かった。
切り立った崖のような位置に作られている壁の真下の水深は、計り知れない。
そうこうしていると、鐘が鳴り響く。
不気味な重低音に、リュウは鳥肌が立った。トッカが吼え、鴉が飛び立つ。
夕焼けは、不気味に染まり、疎らな雲が儚げに浮かんでいた。
リイィン……。
不意に、耳に何か音が届く。小さな鐘を転がしたような、いや、水晶で出来た故郷の楽器の澄んだ音のような。
初めて聴く音だったが、妙に安心できる音である。思わず、リュウは瞳を閉じて聞き惚れていた。
ゴォォン、ゴォォン!
直様、耳を劈くような不愉快な鐘の音が響いた。耳障りな音に、思わず両手で耳を塞ぐと唇を噛締める。
舌打ちしてリュウが何事かと街を見やれば、何やら慌しい空気の動きが見て取れた。人間達が中で動いているのだろう、壁にも弓兵の姿が時折見え隠れしている。
何か、あったのだろう。
先程の鐘の音は啓発か。リュウは、大きく固唾を飲み込みトッカを胸に抱いて上流から下流へと向かった。
筏の様なもので、通過してみてもよいかもしれないがあまりにも目立ちすぎる。弓矢の餌食になりそうな気もする。
そんなことを思案しながら歩いていると、再び耳に”リィィン”、と音が聴こえて来た。
中で異常事態が起きているようにしか思えず、早足でリュウは壁に向かい歩き出す。近づくにつれ、中から人間の怒鳴り声が聴こえ始めてきた。
人間同士の諍いならば、その混乱の隙に中に入り込むことが出来るのではないかとふと、思い立つ。
魔力で身体を浮かせ、地面から若干浮かびながら進む。壁に沿って、侵入できる場所は無いか瞳を走らせた。
入口は三箇所だと教えられている、門から侵入すべきか、それともこの河沿いに立てられている壁から侵入するか。リュウは、唇を噛締めると身体を浮上させる。
身の危険を感じたら直様河へと避難出来るように全神経を纏って、上がる。トッカも大人しく腕の中にいてくれた。
壁から覗く弓矢だが、音も立てずに上昇するリュウには構えている兵とて気付かない。
息を大きく飲み込み、そっとリュウは耳を傾ける。
「……いやぁ、まさかこんな場所に、なぁ?」
「いや、ココが今後の拠点となるのだから当然だろうよ。しっかし、今回の兵器は小柄でよかったよな」
「巨体だと邪魔だしな、にしても、兵器はどんな?」
「切り込みに使える猛禽類系の奴だとよ」
硬直する身体、危うく魔力を失い落下するところだった。小刻みに身体を震わしながら、逸る胸を押さえる。
人間達の会話からして、間違いなく今から”仲間がここに来る”のだろう。
冷静になれ、と言い聞かせた。
人間には、真名を知られてはいけない。
自分の名を知っているのは、幻獣達と、サンテのみ。
サンテはここにはいないので、人間達に名を知られることはないだろう。あるとすれば、拷問に耐えかねた仲間が漏らすことだろうか。
スタイン・エシェゾー。
代々伝わるエシェゾーの家名は、もしかしたら人間達も知り得ているかもしれないので、死守すべきはスタインの名だけである。
それさえ奪われなければ、自分は頂点に立つ竜の長だ、人間になど負けることは無い。
中に運び込まれた仲間を救い出し、人間の呪縛から解き放つためには、その仲間を使役出来る召喚士を抹殺しなければならない。
一人で、この街を陥落させねばならない。救出後も、その仲間の名を知り得る人間がやってくるかもしれない。来た順に、抹殺していくしかない。
早い話、どう足掻いても。「人間達を抹殺するしか方法はないようだ」リュウは、感情のない声で呟いていた。
壁を伝って上昇する、壁の上には当然、弓兵が配置されている。だが、河を見つめている弓兵は僅かだった。皆、街を見下ろして弓を構えている。運ばれてきたらしい幻獣に警戒しているのだろう。
リュウには翼がない、頭部の角さえ見つからなければ人間として紛れ込む事が出来る筈だった。
意を決し、息を潜めてじっと壁際に身を隠す。
再び、あの耳障りな鐘の音が鳴り響いた。途端に湧き上がる大喝采の騒ましさに、リュウは顔を顰めて奥歯を鳴らす。
だが、好機だった。
弓兵の全員がそちらを向いたのだ、今しかないとばかりに身を乗り出し、リュウは壁を乗り越えるとトッカを降ろし、気配に感づいた一人の人間の喉元に短剣を突き刺す。
音も立てずに、絶命する人間。短剣を抜きとり、倒れてきた人間の腰に下がっていた長剣を引き抜いた。
河側の壁に配置されている弓兵は20人程だ、面倒なのでこの場で抹殺することにした。両手の指を、コキ、と鳴らしながら俊足で決められた間隔で配置されていた弓兵達に切りかかる。
まさかの侵入者に慌てて人間は弓を構えるが、遅い。
まして、接近戦ならば弓ではなくその腰の剣を引き抜くべきだった。あっという間に、狼狽している人間などものともせず、弓兵を全滅させる。
それほど際立った兵がいなかった、寄せ集めなのだろう。名のある兵ならば、臨機応変に応対しだのだろうが、異変を知らせる救援信号すら上げることもなかった。
大きく肩で息をしながら、身を低くし街の様子を窺う。
他にも弓兵は街の至る所に配置されているようだ、太陽からの光の反射で弓先が煌いている。
特に高層の建物の屋根などである、リュウは翼を広げなくても浮遊できる種族であることに安堵した。翼の付け根を弓で狙われればひとたまりも無い。
寄せ集めの武器だが、身を屈めて扱えそうなものを物色しながら中で何が行われているのかを探る。
愛用の短剣を懐に隠し、長剣を二本腰に下げ、弓を右手に構えて弓矢を背負う。
単独で配置されている弓兵へ向かって、壁の隙間からリュウは慎重に弓矢を放つことにした。
兵を、今この安全な状況下で出来るだけ減らしておきたい。
人間と違い、嗅覚も視覚も幻獣のほうが優れている。獣の瞳でリュウは注意深く周囲を見渡し、確実に弓兵の喉もとに弓矢を放っていった。
思いも寄らぬ攻撃に人間など無力で、そのまま喉に刺さった弓を驚愕の瞳で見つめると、そのままもがいて息絶える。とさり、とその場に崩れ落ちる。
吹き出る汗を拭いながら、リュウは確実に仕留めていった。
高い位置から落下すれば何事かと騒ぎになる、上手く、その場に倒れこませることに精神を消耗した。
「なんだ、私も弓の名手だったのだな」
震える声で、多少の歓喜と共にリュウが呟く。こうしてみると、バジルからの訓練があって心底よかった。授業を受けていた昔、唇を尖らせて反抗的だった自分に苦笑いする。
その場にあった弓矢がかなり減少した、だが、まだ全員仕留めてはいない。位置を変えながら、容赦なくリュウは人間を殺していく。人間達が下で騒いでいたことも手伝い、未だ誰もこの状況には気付いていない。
と、大歓声が沸き起こった。
訝しげに隙間から覗き込めば、花を撒き散らしている娘達の中央を、赤い絨毯が転がっていく。
上空からは見えないが、派手な装飾の日よけの傘に馬車、位の高い人間が街へ来たのだろうということは安易に見て取れた。
人質にしてみたらどうだろう、ふと、リュウの脳裏にそんな考えが過ぎる。
何者か知らないが、大層なご身分のようだ。目には目を、歯には歯を。こちらも幻獣を何人も人質状態にされているのである、人間と同じ行動を取りたくなどないが、それが最も利巧な手段だと思えた。
リイィィィン……。
再び、何処か懐かしい音色が聴こえる。
それが、同胞が残した命の欠片の共鳴によるものだと、リュウも今、明確に理解出来た。
太陽に反射され、この街へ訪れた人物が大観衆の前で高らかに掲げているもの。
それこそ、命の欠片だ。美しい、澄み切った碧い石と燃えるような紅い石である。
反射的に身を乗り出しかけて、慌てて引っ込める。胸の鼓動が速まる、吹き出る汗は止まらない。
嫌悪感に支配された、あれは、人間が所持してよいものではない。
冷静になれ、と自分が叫ぶ。だが、それ以上に込み上げる憎悪の念は限界などない。
「か、かえせ……」
ぼそ、とリュウが呟いた。不安そうに隣でトッカが小さく吼えた。
「それを、返せーっ!」
リュウは、そのまま高々と跳躍すると一気に壁を垂直に駆け下りていく。
人間のざわめきなど聴こえなかった、最も攻撃に向いている弓兵はほぼ、リュウが先程仕留めている。
残っている弓兵の弓を避ける事など、リュウにとっては容易い事だった。
避ける、といわずとも、”当たらない”。多量の弓矢ならば一本くらい当たったかもしれないが、怒りに我を忘れている今のリュウの速度になど、人間の視覚では追いつけなかった。
地面を蹴り上げてそのまま疾風の如く、突き進む。悲鳴を上げて避ける人間、倒れ込む人間がいるが、誰も攻撃してこない。ただの一般市民ではそうだろう。
やがて、周囲を囲んでいる槍を装備している兵が突進してきた。だが、跳躍して槍先を軽やかに交わすとそのまま進む。勢いなど、止まらない。
高々と宙に浮遊し、所持していた弓矢を上空から何本も一気に雨の様に降らせた。
直様血の香りが立ち込める。
弓を投げ捨て、腰に下げていた剣を引き抜くと地面に降り立ちそのまま雄叫びを上げて斬りかかる。
二本の剣で攻撃と防御を上手く使い分けて、リュウは悪鬼のごとく突き進んだ。
フードなど当然外れており、その頭部からは猛々しい角が人間の目に曝されている。
命の欠片を所持している人物は、どうやら護られて中央の厳重な建物に入ったらしい。舌打ちしてリュウは入り込める場所を探した。
あの、鐘が吊るされている建物だ、上空から入り込むのが適切だろう。
リュウは跳躍するとそのまま一気に浮遊し、鐘を目指す。
「一旦お引きください!」
鋭い叫び声に、我に返ったリュウは辛うじて身を翻した。鋭利な鍵爪が目先をかする。
そこに居たのは、幻獣だった。
猛禽類のリングルス=エースがそこに顔を歪めて立ちはだかっている。
リュウとて知っている人物だ、山岳地帯に住まう勇猛な一族の一人である。
「こ、このような場所で何をやっておいでなのですか!? 早く、早くお逃げください! ここにいては、攻撃するしかっ」
空中での速度であれば、リングルスが上である。そんなことくらい、リュウにとて解っていた。舌打ちして身を翻すが、弓矢が四方から飛んでくる。弓兵隊が態勢を持ち直したのだろう。
「上空に! 上空へ避難して、そこから街を出るのです! さぁ、早く!」
「リングルス! お前をおいてはいけない! 一緒に行こう」
「行けるものならばとうに、行っています! このように攻撃も致しませんっ」
会話しながら、リングルスの猛攻は続いていた。涙しているリングルスとて、人間の呪縛から逃れようと必死なのだ。
だが、どうにもならないことなど知り得ている。出来たのならば、こんな場所には滞在していない。
「大きくなられましたなぁ……。もう、いっそのこと、この場で私を殺してください。本望です」
「たわけかっ! それでは私がここへ来た意味がないだろうがっ!」
リュウの呼吸は上がっている。先程弓矢で人間を何人も射止めた際に消耗した精神、怒りに我を忘れて我武者羅に動いた為に消費した体力。それに加えてこのリングルスの鋭く強烈な空中での蹴りである。限界に近かった。
「一旦は引いてください! お願いします! 狡猾な人間どもです、下で何を企てているかっ。貴方にお会いでき、希望が湧きました。何時までも機会を待ち、好機を窺いますから! 今はっ」
リングルスが名を呼ばないのは、万が一に備えて、だった。聞き取れる人間などいないだろうが、念には念をである。
唇を噛締め、壁で吼えたままのトッカに向かうとリュウはそのまま抱き上げて河へ飛んだ。
「ええぃ、誰かおらんのか! あの新しい兵器はなんなのじゃ!」
建物内部では王が喚き散らしている。この街に訪問していたのはリュウが人質に出来ていたならば、紛れもなく有利に運べた人物だった。カエサル城に身を置き、この地を治めている王その人である。
突如出現した新たな幻獣に、王は無論召喚士の末裔達も躍起になっている。リングルスと互角の速度と俊敏な動き、何よりも見た目が非常に美しい兵器にしてはもってこいの獣だ。
「頭部の角から察するに、竜族の類ではないかと……」
「種族などどうでも良い! 名前を、誰かきゃっつの名前を知る者はおらんのかぁっ!」
黒き髪に黒き瞳、恐ろしく整った凛々しい顔立ちの幻獣である。
竜族に連なる記載を、皆がこぞって調べていた。当てずっぽうに全ての名を呼んでいくが、該当しない。もし、呼んだ中に真名があれば、手ごたえがあるはずだ。
王の苛立ちは、募る。減少していた幻獣なのだ、新たな者は捕らえなければ意味が無い。
「自由に飛びまわっているところを見ると、敵方の兵器でもありません」
「阿呆か貴様は! それくらい誰でも見て取れるだろう!」
全く成果の出ていない召喚士の首を、手持ちの剣で撥ねる王に、青褪めて召喚士達は震えながら何度も帳簿を見つめる。が、記載されている筈が無い。
「捕らえて、何処から来たのか問いただした上で兵器とせねば! 誰か、誰か! きゃっつの名を呼べる奴はおらんのかっ」
自身の剣を構え、傍若無人に剣を振り回し斬首している王は、もう何処かおかしかった。随分と前からだが。
「答えろ、石ども! あれは何という名だ!」
所持している幻獣の欠片に話しかける、答える筈等無いのに。王の手元には、数個の欠片があった。煌くそれは、本当に宝石のようである。最も、加工しても効果が発揮されるのであれば王自身、王冠や指輪に使用したいくらいだ。
その場は、惨劇だった。家臣が止めようものならば首を斬られるので、すがるような瞳で召喚士一同に望みを託すしかない。王の機嫌を損なわずに持ち上げられる人物を、待つしかない。
小声で、召喚士達は会話した。「解るわけが無い」と。記載されている名は、先程全て読み上げたのだ。どうしろというのか。
だが、こうしている間にも王は手当たり次第に誰かの首を撥ねている。血生臭い空気が充満していた。
「お、王よ。自ら名を吐かせる為に、主力を全て奴に注ぎましょう。その間にも召喚士達には、全力で名を調べさせましょう」
「ふん……。他の兵器も出すというのか」
ようやく瞳から狂気の光が消える、王は近寄ってきた臣下を足蹴にしながら片手で団扇を仰ぎ始めた。
直様数人がかりで豪勢な椅子が運ばれ、美しい半裸の娘達が酒と果物を持ち近寄ってきた。娘の一人の乳房を揉みながら、注がれた酒を豪快に飲み干す。
「地下に幽閉している兵器を全て出せ! きゃっつを引き摺り下ろせ! 時間がかかるようであれば、多方面の兵器も全速力で要請しろ」
異常な興奮状態にあるのだろうか、王は下腹部を露にすると娘の一人を膝に乗せてこの状況下で突き入れた。
が、誰も驚かなかった。日常茶飯事だった。
娘とて、この街で選ばれた器量の良い娘達だが事前に話は聴いていたので脅えてはいたが、受け入れた。
これが、今のカエサルの王である。
興奮すると、所構わず性行為に及ぶ。近親相姦を繰り返した為に、産まれた時から何かがおかしかった。
だが、この世界にこの時代で、濃い血が人を狂わせるなどと誰も知らない。
”王とは、こういうものなのだ”それで、誰にも納得できた。
「お父様、あれ、綺麗ですわね」
無論、その娘の姫とておかしかった。自分よりも幼い生娘が涙を流して、父の膝の上で仰け反っている姿を平然と見ながら、斬首された者達の死体の上に汚れないようにと絨毯を敷いて貰って歩み寄ってきた姫。
母は、父の実の姉である。王よりも、もっと血が濃いのがこの姫だ。
「お父様、わたくし、あの黒い獣が気に入りましたの。今まで見たどの獣より美しいですわ。あれが欲しいのですが」
「はっはっは! 流石は我娘だ、兵器を欲しがるのか?」
「はい。いけませんか? あの綺麗な獣の首に、輪を填めたいのです。ほら、拷問で使うような内側に棘のついた……。少しでも動けば、苦痛を伴うあれですわ。あれを填めて引き摺り歩きたいのです、屈辱的で反抗的なあの獣の瞳を見るとうっとりしてしまいそう」
娘は、身体を震わせる。頬を紅潮させて、艶めかしく舌を出した。
控えていた女官は、青褪めた様子でこの父娘を下から見つめる。割り切ってはいるが、並みの精神ではついていけない。王など、新たな娘を手繰り寄せて再び犯していた。
「うむうむ、敗北感を与える趣向としては面白いな。流石愛しの娘だ」
「とっても綺麗……今まで与えられた殿方よりも、とっても綺麗……」
この姫も、自分の目に止まった美しい少年や青年を城に連れてこさせ、鞭で叩くなど拷問して楽しむ霹靂がある。
猛々しい髭以外は、血走った瞳と抜け落ちた毛の貧相な王。その娘の姫とて器量が良いとは言い難い。
だが、2人とも美しいものが大好きだった。そこは父娘である、そっくりだ。
「というわけだ、姫の要望に応えねばな! さぁ、さっさときゃっつを捕らえるのだ!」
「嬉しい、お父様!」
姫はにっこりと優美に微笑むと、踵を返す。途中、自分よりも美しく、今し方父に処女を奪われ床に倒れていた娘の秘所を、グリグリと靴の爪先で踏み潰した。痛みに悲鳴を上げる娘の泣き顔を見て、姫は微笑した。「あら、醜いお顔ですこと」
そんな中で。誰もが注目していなかったみすぼらしいドアがあった。
下々の者が行き来するドアだった、そこから一人の若者が入ってきた。
若者は、その惨劇に身体を硬直させた、話は聞いていたが初めて見たのだ。
なんと、醜悪なのだろう。これが、今の国の現状なのだと嘆き哀しみ、恐れ戦いた。
けれども、自嘲気味に笑った。自分もそんな国に存在する、たった一つのちっぽけな人間だった。この目の前の下卑たどうしようもない人間の同類だと、言い聞かせた。
「王よ、お話を聴いてください」
跪き、若者は震えながら声を出す。
誰もが、その貧相な若者を怪訝に見た。血相を変えて一人の騎士が彼を摘み出す、だが、彼は必死に床にすがりついていた。
地面に広がる夥しい血で彼の顔が、汚れた。
「なんじゃ、お前は」
「勇者、です。勇者サンテです」
騎士に押さえつけられながら、顔を上げたサンテ。皆が爆笑する。あぁ、あの仮初の勇者か、と。
爆笑の渦の中で、それでもサンテは拳を握り締め唇を噛締め堪えていた。笑うだけ、笑えば良いと。
「ぼ、僕は! あの者の名を知っています! 褒美を下さいっ」
サンテの絶叫に、その場は静まり返った。荒い呼吸で、押さえつけていた騎士を押し返し、額に吹き出た汗を拭う。顔も髪も、血液で染まった。その中に佇む瞳は、何処か遠くを見ている。
嘘を申すでない、と罵声が飛んだが王は自分に跨っていた娘を跳ね飛ばすと下腹部を隠すことなく近づく。
体液と血液の混ざり合う異臭に思わずサンテは顔を顰めるが、唇をきつく噛みながら跪いている。
「……このような状況下でそこまでのたわごとを言えるような度胸があるように思えん。褒美に何が欲しいのだ」
「ぼ、僕は普通に生活がしたいんです! 小さくても良いから、人が住まう集落に住みたい! 家が欲しい、畑が欲しい、最初に資金さえいただければ自分でどうにかやりくりします。一人で生活なんて、もう、うんざりなんです!」
叫ぶように言い放ったサンテに剣が四方から向けられた、だが王は豪快に笑い飛ばす。剣を下げるように顎で指示をした。
「謙虚だな、”勇者”よ。階級が欲しいとか、屋敷が欲しいとか、そういった願いでなくて良いのか?」
「僕はどのみち、卑しい身分なき者です。高貴な方々の華やかな生活には憧れても無理ですので。ただ、あんな寂れた場所で一人きりでいたくないのです」
王は、サンテがどのような生活をしているのか知らない、下々の者に興味は無い。だが、珍しい褒美を口にしたサンテに興味が湧いていた。
「ふむ、話が本当ならばその褒美をとらせよう。面白い奴だな、興味が湧いたわ。で、きゃっつの名は?」
「お、おまちください王よ! そのような召喚士でもない者が知り得るはずはありま」
王に駆け寄った一人の召喚士の首が、弾けた。
冷徹な眼差しでゆっくりと倒れていく胴体を見ていたのは王だ、自分に口答えしてきたので斬首したまでである。
王は直様サンテに向き直ると、にっこりと気持ち悪いまでの笑みを浮かべる。冷徹な眼差しはなかったが、奇怪な恐怖を憶える冷めた笑みを浮かべている。
「僕は、あの者と暮らしていました。その時、名を聞きました。勇者として何かお役に立たねばと、あの者の油断を誘えるように、親密な関係を築き上げたのです。報告が遅くなりました、申し訳ありません」
「ほぉ! なかなかやるではないか!」
サンテの言葉に皆が息を飲んだ、異端の目でサンテを見た。
幻獣と暮らしていた男、である。異端だ、王が気にかけていなければ直様迫害すべき人物だ。
「ですが、正式な名は知りません、一部だけです。僕にも召喚士様方が所持する記帳を一冊戴きたいのです、調べてみたいのです」
「ふむ! 役立たずどもより良いではないか! 貴様ら、この小僧に至急記帳を渡せ」
王が叫ぶなり、召喚士の一人が醜悪なものでも見るようにサンテに近づき、そっと手渡す。
ずしりと重く、古めかしいそれにサンテは戦慄した。唇を噛む。
「あの、皆様がお持ちの記帳の中身は皆同じなのですか? 違うのなら全て見てみたいのですが」
召喚士達は、王が睨みを利かせていたので渋々サンテに近づくと、手にしていた記帳を渡し始める。
全部で9冊の記帳が手に入った、何気なく一冊を開いて瞳を細めたサンテ。
「王よ、お耳をお貸しください。貴方様にお伝えいたします」
恭しく跪きながら、サンテは胸に記帳を抱きとめて呟く。
王はいそいそと、サンテに近寄った。
サンテはそっと顔を上げると、唇を動かす。見る見るうちに、王の表情がにんまりと歪む。
「ですが、欠けています。僕はそれを調べます」
「うむうむ! 誰か、小僧に前金を渡せ。褒美じゃ! 暖かな食事と飲み物を振舞うように!」
惨劇があった部屋で食事など、とサンテは密かに眉を顰めたが、杞憂だった。直様、サンテに豪華な衣装と宝石をあしらった装飾品が届けられ、食べきれない量のパンやら肉が出てくる。香ばしい香りにサンテの腹が鳴った、まともに食事をしていなかったので、記帳を丁重にテーブルに置くと用意された食事を口に放り込む。
食べた事がない肉だった、一級品の牛である。ソースなど上等の赤ワインだ、付け合せの野菜も宝石の様に輝いていた。無我夢中で食べ始める、果物盛りも出来た、甘くて瑞々しいそれには、美しい深紅の苺がこんもりと乗っていた。
「小僧よ、早く名を調べるように。他の者は至急地下の兵器を解放しろ! 召喚士達は操ってきゃっつの捕獲に向かえ!」
浮き足立った王は、豪華な毛皮を羽織って煙草を吸いながら部屋を出て行く。召喚士達も兵器を操らねばならないために付き添った。部屋には、少しの使用人が残され、飛び散った血痕の掃除にあたっている。
サンテは、食事を頬張りながら記帳を眺めていた。普段ならばパンのカス一粒すら残さないサンテだが、有り余っている食料に豪快に食べ続ける。
10 | 2024/11 | 12 |
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