別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
×
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・・・19,000文字でエラーなので、本編もひょっとしてケータイで見るとエラーになってます?(滝汗)
自分で本編を見るとき(思い出すとき)は、こっちじゃなくて、あっちのサイトで読んでいるので気にしてなかったのです・・・。
が。
明らかにトビィお兄様の話、3万文字だった気が(激震)。
そっかぁ・・・。
というわけで、これで本当に最後ですー。
お疲れ様でした、トモハル。
・・・書いてないので、長いと④に続くという必殺技。
自分で本編を見るとき(思い出すとき)は、こっちじゃなくて、あっちのサイトで読んでいるので気にしてなかったのです・・・。
が。
明らかにトビィお兄様の話、3万文字だった気が(激震)。
そっかぁ・・・。
というわけで、これで本当に最後ですー。
お疲れ様でした、トモハル。
・・・書いてないので、長いと④に続くという必殺技。
ばつの悪そうな顔をして、トモハルは口と噤んだ、マビルと視線を合わせないよう、自分の腕を見ている。
「ちょっと、言いかけたことはっきり言ってよ」
「いや、なんでもない」
「死ぬって、何。どーしてあたしが死ななきゃいけないの」
「なんでもないんだ」
「あーもーいらいらするーっ!」
マビルの絶叫、けれど身動きが取れないのでトモハルを睨みつけることしか出来ず。
「・・・痛いことも、怖い事も、思い出させたくないだけだから、忘れてよ」
「何のこと、何の話っ」
「思い出さなくていい、そのままでいいんだ」
不意に、マビルは思いついたことがあったので口にしてみる。
それはマビルにとっては気にも止めなかったことで、それでもトモハルにとっては非常に重大なことだった。
「まさかとは思うけど、トモハル、あたしが死んだ時のこと言ってる? それなら憶えてるよ、鮮明に。物凄く痛かったの」
真顔でそう告げたマビルに、思わずトモハルは硬直。
今まで。
思い出せていないと思っていたのだ、トモハルは。
「で、それが何? あたしは」
「ごめん・・・」
急にトモハルはマビルを強く抱き締めた、どうやら声が震えているので泣いているらしいということは分かったのだが、マビルには意味が解らない。
「な、なんで泣いてるの!?」
「泣いてないけど、その、ごめん」
「だから、何が」
「痛かったろ、怖かったろ・・・ごめん、俺が不甲斐無いばっかりに」
「確かに不甲斐無いけど、何なの!?」
顔を上げて、マビルの頬にそっと触れながらようやく、トモハルは口を開いた。
どうしても、自分が許せなかった事、それは。
「あの時。俺が手を離さなければ、マビル・・・死ななかったんだ」
首を傾げるマビル、思い出す。
あの日、トモハルと手を繋いでいたが、アサギが走ってきたので二人で手を振ったのだ。
トモハルは両手を振った、だからマビルと自然と手が離れる形になった。
「マビルは、あの日。魔族の男二人の魔法で・・・殺されてしまって。でも、その魔法は”標的が誰かに触れていれば発動しない”んだ。あの時、俺が手を離さなければ、マビル・・・死なずにすんだんだ」
「でも、それはもう終わった事で」
トモハルが力強くマビルの手を握り締める、そっと自分の頬に手をあて震えながら手に口づけを。
「手を。離さないと誓った、離したら今度こそマビルが消えると思ったんだ。
でも、マビルは俺みたいなの相手にしないだろ、いつかは・・・離れて行くって知ってたんだ。
俺の事を好きじゃなくてもいい、どんな関係でもいいから繋がっていられれば、それでいいかな、って思い始めた。
マビルの笑顔を見るのは好きだし、俺といるより地球に居たほうが危なくないだろうし。
時折、姿を見せてくれれば安心出来たんだ、本当に。
でも・・・頭で納得したつもりだったんだけど、納得出来ないらしくて、俺。
やっぱり、嫌なんだ。全然マビル好みの外見でもないし、弱いけどさ・・・一つだけ、自信がある。
絶対、マビルの彼氏より、俺のほうがマビルのことを愛してる。それだけは、自信があるんだ。
だから。その」
上手くトモハルの言葉が入ってこないマビルは、混乱中である。
「一つ、聞きたかったんだけど」
「な、何?」
鼻同士がぶつかりそうな距離で、トモハルは静かにマビルを見つめて呟いた、思わず声がひっくり返ったがどうにか返事するマビル。
「俺の事、好きか嫌いかって聞かれたら、マビルは嫌いって答える?」
頭を整理させて欲しいマビルは、とにかく近すぎる距離のトモハルをどうにかしようと試みた。
近すぎるせいで、上手く考えがまとまらないのだ。
「とりあえず、好きじゃない」
「それは嫌いって事?」
「き、きき嫌いとは言ってないけど、好きじゃない」
悲鳴に近い声だった、マビルはともかくこの距離感をどうにかしたかった。
胸の鼓動がトモハルに聞かれるのが怖い、先程から心臓が跳ね上がっている。
それに、顔が熱いため、真っ赤であることも自分で理解できていた、それが恥ずかしい。
「二択だよ、マビル。好きか嫌いか。どっちか教えて」
反対に急に冷静になったのか、余裕が出てきたのか。
腕を振り払いたいマビルを知ってか知らずか、トモハルは全く微動だせずにマビルを押さえつけていた。
「そ、その質問、答えるとどうなるわけ!?」
「俺の遠慮がなくなる」
鼻が、触れた。
思わずマビルは身体を小さくし逃げようとしたが、それではトモハルの思う壺で。
更に身体を拘束される、もう確実に抜け出せない。
「マビルが幸せならそれでいいと思ってたんだけど、我慢の限界が来たからどちらか選んで、マビル。
好きか、嫌いか。
嫌いというなら本当に諦めるよ、金輪際近寄らない、城にも戻らなくてもいい。・・・戻ったら多分俺監禁して外に出さないかもしれない」
「な、何なの、そのトランシス的発想は!?」
マビルを無視し、トモハルは唇を近づけた。
「嫌いでないなら、好きってことになるかな? 少しでいい、少しでもいいから、好きなら。今後好きになれそうな可能性が俺にも残されているのなら」
トモハルが言葉を紡ぐたびに、吐息がマビルの唇に触れて背筋がぞくり、と。
全身に鳥肌がたった、気持ちが悪いわけではない、恐怖でもない。
それは。
「答えて、マビル。俺は。・・・マビルの彼氏からマビルを奪ってもいい?」
「なななな、何その自信!」
「自信はないけど、本当に・・・マビルを手放したくないだけだよ。それだけなんだ。何度も言ってる、好きだ」
「っ!」
真剣な眼差しは鋭く、吐息は熱く、声は、妙に艶めいて。
思わず、マビルはようやく。
「き、きら、きらいじゃないって言ってるのに・・・っ」
消え入りそうな声で曖昧な答えを口にした、嫌いではないなら。
すっかり涙目のマビルだった、が、部屋が薄暗いのでトモハルは気づいていないらしい。
「チャンスをもらえたと判断して良いね?」
「し、知らない!」
「好きでなくても、構わない。絶対に何処の誰よりもマビルを愛してる自信だけはあるんだ。これからでいい、これから少し、少し。・・・気になる存在になればいいんだ」
いや、多分好きだ・・・とマビルは口をぱくぱくさせたが言葉が出ない。
とうの昔に気になる存在で、同じ様に好きだった。
けれど、ここまで強引なトモハルを知らないので、対応が出来ないのだ。
「おおおおお、おね、おねーちゃん! トモハル、おねーちゃんが好きでしょ!? ふ、ふた、二股っ」
「うん、大事な友達というか相方というか。愛するマビルの双子の姉だね、アサギは」
「つつ、都合が、良すぎるっ」
「・・・どうしたら、マビルは俺がさ、マビルしか好きじゃないって信じてくれる?」
一向に離れないトモハル、身体に触れるトモハルの体温で血が沸騰しそうなマビルは必死に抵抗した。
抵抗しているのは、素直になれないから、恥ずかしいから、照れるから、そして嘘をついているから。
「め、メイド! メイド達と仲良くしてるっ」
「大事な従業員さんだ、マビルの住み易いようにお城を綺麗にしてくれる。・・・それに」
不意打ち。
いきなり、話していたトモハルの唇がマビルの唇にそっと触れた。
「!?」
それは二秒ほどだったが間違いなく、触れた。
「ごめん、限界だった」
悪びれた様子もなく、目の前でトモハルはそう言うと小さく笑い。
「マビルがさ、女の子の友達がいないみたいで心配で。・・・気の合いそうな子を探してたんだ」
「よーけい、な、おせ、おせわっ」
「・・・他に質問は?」
こんなトモハルは、知らない。
マビルは、それでも知っていた、知っていたけれど、どうにも素直になれなかった。
素直になれなかったが、トモハルなら、なんとなく。
例えばいつかそっぽ向いていたクロロンが、懸命なチャチャのアプローチで仲良くなったように。
なんとなく、トモハルが自分を、上手くトモハルへの想いを表現出来ない自分を丸くしてくれる気がして。
「じゃ、じゃあ!」
「ん?」
言葉を、一度飲み込んでマビルは呟いたのだ。
「あ、朝まで手を繋いで眠って。でも、それ以外は何もしちゃ駄目。・・・ちゃんと、出来たら・・・トモハルがエロ大魔王じゃないって、考えてあげてもいいんだからっ」
「信用してくれるんだ?」
「出来たら、だよ!? このぴちぴちうるとらびゅーてぃマビルちゃんの隣で、ちゃんと、手を繋いでてよ!? でも、何もしないでね!」
「・・・いいよ、それでマビルが信用してくれるのなら。とりあえず・・・お風呂、入っておいで」
「の、覗く気!? それとも、な、何、そのお風呂に先に入らせて、あれね、あれで、あ、ああああああた、あたしと」
「覗かないよ、安心して入っておいで」
覗きたいといわれても困るが、覗かないと断言されても少し哀しいマビル。
だが、トモハルは危険だった。
「覗くくらいなら一緒に入るよ」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「冗談だよ」
静かに笑って、茹でタコのように真っ赤になったマビルを抱き起こす。
「ミノルに電話するからさ、ゆっくり入っておいで」
「う、うん。の、覗いちゃ駄目だからね!」
小さく笑い続けるトモハルに、マビルは腰が抜けかけた。
知らない。
こんなトモハルは、知らない。
「あ、マビル」
「な、何」
産まれたての小鹿のように震える足を、懸命に奮い立たせて歩き出したマビルを呼び止め、トモハルはさらりと。
それでいて、真剣に、熱い眼差しで。
「愛してるよ」
「!!!!!」
一目散にマビルは浴室へ駆け出した。
ドアを閉めてするすると床に倒れ込む、腰が、抜けた。
トモハルの、声が、体温が、瞳が、吐息が。
まだ、抱き締めれているような感覚で、マビルは思わず。
「・・・ともはるー」
小さく、名前を呼ぶと切なそうに、愛しそうにドアの向こう側にいるトモハルを見つめる。
「す、き」
・・・と、言っていたらどうなっていたんだろう。
マビルは、ようやく震える足を腕に力を入れて奮い立たせ、シャワーの蛇口を捻った。
その頃、携帯電話を取り出したものの、一向に電話などかけないトモハル。
それもそのはず、ミノルと呑む等嘘である。
逃げだった、あれ以上傍にいたら必ずまた、マビルを泣かせてしまうだろうから、逃げる気で居た。
無邪気に、寂しそうにくっついてきたマビルを、縛り付けたくなったのだ。
必死に自分を抑えようと、戦い続けたが・・・不意に。
自意識過剰かもしれない、だが、なんとなくマビルが自分を嫌いではない気がして。
トモハルは、一か八かの賭けにでたのだ。
「マビル」
携帯をベッドに放り投げると、自分も仰向けに倒れ込む。
何度も名前を呼んだ、愛しそうに呼んだ。
廻り廻って、得たチャンスを逃すわけにはいかない。
「絶対に、何が何でも。・・・勝たなきゃいけない」
どうしても、譲れない、欲しいものが出来た。
その為に必死に生きてきた。
「マビル、俺に、しなよ」
※ちょっと教育上、あまりよろしくない話が入ったので、中略(えぇ)
※読みたい場合は、個人的に連絡してください
マビルの入浴時間、二時間半。
色々考えすぎて、ボーっとシャワーを浴びていたらしい。
ぺたぺたとバスローブを引き摺って歩いてきたマビルは、トモハルが差し出してくれたジュースを飲み干すと、小さく溜息を吐く。
別に、万が一に備えて身体を綺麗にしていた・・・という・・・ことも実はあったのだが。
ともかく、茹った。
全身真っ赤だ、だがこれならばトモハルに何を言われてもこれ以上赤くはならないだろう。
「何もしないから、先に寝ておいで」
「ちゃんと、手を繋ぎに来る?」
「うん」
「・・・絶対よ」
意識が朦朧としているのか、思いの外すんなりと言葉が出たマビル。
ふらふらとベッドに倒れこむと、もそもそと布団に潜り込む。
「・・・おやすみ」
「おやすみ」
瞳を軽く閉じて、小さく溜息を吐いたマビルの耳元で。
「愛してる」
「!!!!!!!!!」
思わず、硬直。
チュ、と耳に軽いキス。
背筋が一気に波打つ、心臓が跳ね上がる、これ以上赤くならないと思っていた身体が顔が、真っ赤になる。
遠ざかる足音、ドアが閉まった音。
跳ね起きたマビルは、震えながらベッドから転げ落ち、冷蔵庫から缶ジュースを取り出す。
飲み干す。
「ね、眠れない! 無理っ! 死んじゃうっ!」
マビル、気づいた。
・・・手にしていたのはビールだった。
一気にアルコールが廻る、極度の緊張からだった。
慌ててぼやける視界でペットボトルを取り出すと、一気に流し込む。
少し、冷えた気がする。
ふらふらとベッドに潜り込んだマビルは、すまきのごとく布団に包まった。
「・・・マビル、これじゃ手を繋げないよ」
思いの外早かったトモハルの戻りに、マビルは飛び上がるほど仰天した。
慌てて簀巻き状態を解放し、にゅ、っと左手を差し出す。
小さく笑うとトモハルは手を握った。
が、隣に入ってくる気配がないのでマビルはそっと布団から顔を出す。
見ればトモハルは布団の上に転がっている、・・・まさか。
「ね、ねぇ。入らないの?」
「・・・入っていいの?」
「え」
二人同時にすっとんきょうな声を出した。
当然、隣で眠る予定だったマビルと、手は繋ぐが同じ布団に入ることは無理だと思って居たトモハル。
沈黙。
が、するり、とトモハルが布団に侵入。
「・・・一緒に眠るのは、久し振りだね」
「そそそそ、そうだね」
微笑むトモハルを凝視してしまい、顔を赤らめ繋がっている手を、堪らず強く握り返し。
「おや、すみ」
「おやすみ」
マビルは、強引に目を閉じた。
左手が、心地良い。
暖かく、安心する。
もっと、傍に来てもいいよ。
ぎゅ、と、してもいいよ。
「?」
と、思って居たのだが、本当にトモハルが近づいている気がしてマビルは瞳を見開いた。
明らかに、にじり寄ってないだろうか。
もはや数センチで身体がぶつかる。
知らぬ素振りで瞳を慌てて瞑るマビル、耳元でトモハルの声。
「ねぇ」
「!」
寝たふり。
マビルは震える身体を懸命に堪えながら、聴こえない振りをした。
「キスしていい?」
「!」
寝たふり。
不意に、瞳に何かを感じマビルは恐々瞳を開いて小さく叫んだ。
「キスして、いい?」
「!!」
触れてはいないが、先程からトモハルが近すぎて空気の振動によって、触れているような錯覚を起していた。
間近なトモハル、先程と同じ状況だ。
「嫌なら。嫌って言って」
「!!!」
視線が交差する。
手は握られたまま、両手を握られ動けない。
もはや、唇など触れる寸前で。
「言わないなら。・・・するよ」
これは卑怯だ。
とても、嫌だなど言えない。
硬直し、何も言わずに瞳を閉じたマビル、トモハルはそっと。
唇を触れさせた、離れる。
ほっとしたような、残念なような。
瞳を開いてトモハルを見上げたマビルは、失敗した、と思ったのだ。
愛しそうに、優しそうに、自分を見つめていたトモハルと視線が交差した。
「キスは、してもいいんだね?」
「キス、だけなら、いーよ」
導かれるように、かたことで、返事をしてしまった。
虚ろに、上ずった声で、開いた唇をトモハルが見逃すわけがなく。
「マビルの彼氏より、キスは下手だけど、キス、してもいいんだよね?」
「キス、だけなら、い」
最後まで言えなかった。
あまりにも長すぎるキスは、マビルの思考回路を無茶苦茶にした。
チカラなど入らない、なすがままで。
二人の吐息が幾つも幾つも、終わりがないほどに重なり合って。
マビルの額に、頬に、瞼に、鼻に、耳に、首筋に、鎖骨に、肩に、脇に、腕に、手に、指に、背中に、キスを。
バスローブなど、とうにはだけてベッドから落ちていた。
そっと胸にもキスをした時に、ようやくマビルは我に返ったのだ。
「ちょ、キスだけって言ったのに! 何もしないって言ったのに!」
半泣きで、力なく、全く凄みもなく言ったマビルに、トモハルは強引に唇を塞ぐ。
何度も強く吸った、舌を絡めて、指の様に舌を使って。
唇で唇を挟み、舌を挟み、上手く呼吸が出来ないマビルをそれでも極力優しくしようと。
「キスしか、してないよ。一緒だろ」
「キス、しか、してな、い?」
「うん、してない」
マビルの首筋を甘噛みし、確かに、唇と同じ様に首筋を舌で嘗め、吸って。
「ね、キスだろ」
「ん」
・・・厳密に言うとキスではない気がするが。
マビルは。
必死に頷いた、トモハルがキスだというのだから、キスなのだろう。
半泣きだったのは、どう反応してよいかわからず恥ずかしかったから。
トモハルの吐息に混じる声が、脳裏から離れず、聴くだけでおかしくなりそうだったから。
好きだと、言いたいのに、言えないから。
「それ、それは、キスじゃないっ」
「キスだよ」
両手は、ずっとトモハルと繋がれている。
悲鳴のような声を出したのは、胸から下へと徐々にトモハルの顔が移動したからで。
何をしても、キスだと言い張るトモハルに、マビルは。
「マビル」
名前を呼びながら、トモハル曰くの”キス”をし続ける。
例えばそれは、当然キスではないかもしれないが、約束は約束。
トモハルは朝まで、キスを、マビルの全身にした。
キスしか、してない。
名前を呼びながら、抱き締めて、喘ぎ続けるマビルを見つめながら。
トモハルは決意した、携帯電話がアラームを鳴らすのを聴きながら。
「愛してるから」
「ふ・・・」
「殴られてもいいんだ、マビルの彼氏に会って、何が何でも別れさせる」
「ふ・・・ぇ」
「俺に、しなよ」
「んんー・・・っ」
「マビルが決めればいい、暫くは別れなくてもいい。俺を選ばせてみせるから」
「っ、っー!」
「愛してるんだ、その人よりも、絶対に、誰よりも何よりも」
マビル、好きだ、愛してる、俺にしなよ。
何度も何度も耳元で囁かれた、必死にマビルは頷いた。
・・・頷いた。
「とにかく、その人に合わせて」
チェックアウトの時間、五分前。
慌ててシャワーを浴びた二人は、急いで衣服を着替えると空腹のまま部屋を出ようとした。
朝食はついてきたのだが、食べる時間がなかった、というか注文することを知らずに食べられなかった。
「う、うーん・・・と」
「説得するから、会わせて。今日行こう、仕事は何時に終わる人なの?」
「えーっと、じゅ、18時くらい?」
「解った、とりあえずモーニング食べに行こう」
「あ、あのね、トモハル。そ、その、あ、あたしがちゃんとお断りしておくから、だ、大丈夫」
一難去って、また一難。
マビルは自分がついた嘘をどうにかせねばならなかった。
彼氏など、存在しないのだ。
だが、トモハルは一向に諦める様子がなく、彼氏に会わせろの一点張り。
「一人で会いに行って、監禁されたらどうするんだ!」
「し、しないよ、そんなことっ」
マビルは、トモハルの言う通り渋々メールを送った。
と、言っても相手は・・・トビィだ。
マビルの携帯電話には、トモハルと奈留、トビィの三人しか登録されていない。
『助けてトビィ。あたしの彼氏の振りをして』
『全力で断る』
・・・戻ってきたメールを見て、思わず握り潰したくなったマビル。
「何だって?」
「きょ、今日は忙しいって」
「忙しい? 別れたくないだけだよ、会社に乗り込もう」
「ええええええええええええええ」
チェックアウト、30分経過。
延長時間。
「殴られよう、でも、マビルだけは貰い受ける。罵倒されようが、殺されようが、絶対にマビルを手放してもらう」
「こ、殺されたら一緒に居られないよ・・・」
というか、トモハルを殺すことが出来る人物など、限られてくる。
少なくともアサギかトビィか、同じ勇者辺りではないと、無理だろう。
「どうやって、認めさせよう、俺のほうが愛しているって解ってもらわないと」
「あー、えー、んー・・・んんー・・・」
壁に、鏡。
ふと、目を移せば。
『マビル。悪いと思ったら、嘘をついて悪かったと思ったのなら。謝りなさい』
アサギの、声がした。
鏡に映っているのは自分だった、けれど、その言葉は昔聞いたことがあった。
「と、トモハル、あの、えと、その、あの。・・・嘘、なの・・・」
「え? 本当は今日仕事が休みだって?」
「ち、違うの、そうじゃないの! ・・・彼氏なんて、いない、の・・・。あ、あたしの、嘘なの・・・」
「庇わなくてもいいんだ、俺はその人を殺したりとかしないから、多分」
「多分って何っ! ・・・そうじゃないの、違うのっ、本当に、本当にあたしの彼氏なんて、いないのっ。・・・ごめんなさい」
マビルは、大声で叫んでから床に座り込んだ。
言った。
昔ついた、嘘をようやく明らかにした。
「・・・え?」
決壊したダムから流れる水のごとく、マビルは一気にまくしたてる。
嘘をついた、ということで嫌われたくなかったので必死に弁解したのだ。
「この間の旅行は、奈留と行ったの! か、買って貰ったバッグとかは、そこらへんの人にっ。も、もちろん何もしてないよ、可愛いから物買ってくれるっていうからっ! ほ、ホントなの・・・、いないの、彼氏」
「・・・・えええええええええええええ」
脱力し、床に転がったトモハルをそっと見つめ、マビルは涙目。
延長、一時間。
「・・・マビル」
「うん」
「単刀直入に言おう、今誰とも付き合っていないのなら、俺と付き合って」
「・・・、え、と」
「結婚を前提に付き合って欲しいんだ」
「はぁう」
「返事は今しなくてもいいから。とりあえず・・・出よう」
マビルを抱き起こして、トモハルは不慣れな手付きで精算すると車へ。
時折足がふらつくのか壁に激突しているが・・・大丈夫だろうか。
車に乗り込み、近場のコンビニに立ち寄ると、トモハルはマビルを車内に置いて何かを買ってきた。
「何食べたい? ご飯? パン? 他のもの?」
「オレンジジュース、飲みたい・・・」
トモハルは車を走らせ、適当なカフェに駐車し、コンビニで買ったものを手にして車を降りる。
案内された四人がけのテーブル、片方のソファの奥にマビルは座った。
当然正面にトモハルが座ると思えば、隣に座ってきたトモハル。
驚いて赤面したマビルにおかまいなしに、コーヒーとオレンジジュースを注文すると雑誌を広げる。
「ほら、さっき買ってきたんだ。あんまり地球の情報には詳しくないからさ、雑誌見てマビルを行き先を決めようと思って」
微笑し、マビルの手を握り締める。
「・・・本当に、彼氏はいないの?」
「い、いないの・・・。その・・・。あ、あたしは。あの、ときに・・・」
どうしても、言えない。
ジュースとパンやサラダが運ばれてきた、店員がくすくす笑いながら引っ付きすぎている二人を見たが、二人はそれどころではない。
「寂しかった・・・んだね・・・ごめん」
俯いて何も言わないマビルを抱き締めた、弾かれたようにトモハルを見たマビル。
「あの日、ディナーは・・・どうしたの?」
バレンタインのことだ、あの日だ。
二人を明確に離れさせた、あの日。
マビルが彼氏が出来たと数日前に言い出さなければ、その日トモハルは告白していた。
「トビィと、行ったの・・・。疑うなら、トビィに聞いて! ほ、ほんとはトモハルと一緒に行きたかったのに、とも、トモハルはっ、あたしを、置いて、会議にばっかりでっ。かわいくしても、見てくれないっ」
ようやく、トモハルが不可解に思って居たパズルを完成させた。
マビルは、もしかしたら自分の事を気にかけていてくれて。
けれど、意地っ張りで上手く表現できなくて彼氏がいると、嘘をついた。
あの時、止めて欲しかったのかもしれない、と、ようやくそこに行き着いた。
「ごめん・・・寂しい思いばかり・・・」
「ほ、ほんと、ほんとだよっ、最悪っ」
「てっきり・・・俺のことなんて眼中にないと思ってたから、せめて気にしてもらおうと思ってた」
「ち、違う、違うっ。あ、あたしは、ま、前から」
す。
好き、と言おうとしてマビルは赤面し俯いたが、トモハルにもそれはわかったのだ。
唇の形で、何を言おうとしたのか、わかった。
ようやく、わかった。
トモハルが赤面する。
二人して、赤面。
繋いだ手が、熱くて、それでも離す事は出来ずに。
「もっと、早くに俺が・・・マビルに告白してたら」
「だ、だって結婚してるんでしょう!? なの、なのにっ」
「・・・してないんだ、結婚は」
「?」
とりあえず、喉が渇いたので二人は同時に水を飲み干した。
無言で胃の中に食べ物を押し込んだ、コーヒーとオレンジジュースで、一息。
「あの城に、住む為には俺の知り合いじゃ、無理だったから。・・・結婚していると皆を思わせなきゃいけなくて。
それで、婚姻届を書いてもらったけど提出はしてないんだ」
「な、なら説明してよ、ちゃんと!」
「説明したら、断られそうだったから」
「あ、あたしの想いを勝手に都合よく書き換えないでっ。あたし、あたしはトモハルと結婚して、夫婦なんだと思って・・・」
「え」
沈黙。
「あたしっ。好きでもない男とあんなに長いこと一緒にいないんだからっ」
「もしかして・・・お互い、ずっと好き同士だった・・・?」
「あ、あたしは好きじゃないからね、嫌いじゃないけど」
そっぽを向いたマビルの顎を引き寄せて、無理やり口付け。
周囲でざわめきが広がるが、トモハルはお構いなしだ。
「おかーさん、あの人たち、ちゅーしてるー」
「こ、これっ」
子供に指を指されようが、店長に止めに入られようが。
恥ずかしさのあまりマビルがもがこうが、トモハルはキスをやめなかった。
「昨日の続きをしよう、マビル」
赤面したマビル、昨日の続きというのは、夜の・・・。
「同じ場所で、デートをしよう。やり直そう、一から」
爽やかな笑顔で微笑んだトモハルに、拍子抜けしてマビルはソファからずり落ちそうになったが抱きとめられる。
「もう一度、初めから。マビルに寂しい、哀しい思いをさせたから、やり直す。好きだ、俺と付き合って。
二人で、色々決めよう、行きたい場所も、何を買うかも、二人で決めるんだ。・・・さぁ、行こう」
マビルのバッグを手にし、手を握ってトモハルは飛び出した。
それは、久し振りに見るトモハルの笑顔で、昔の子供のときと同じ無邪気な笑顔で。
マビルの好きな、顔だった。
ただ、やはり大人になっていたので可愛いだけでなく、男らしい逞しい表情も見え隠れしているわけで。
ただ、マビルは軽く戸惑いつつもその強引さが心地良く。
「まぁ、可愛らしい方ですからどれもお似合いですね」
「試着した服、全部下さい。全部似合ってるんで」
「!? そんなに要らないよっ」
「これから色んな場所を二人で廻るんだ、服は必要だろ」
洋服を、マビルに選んだトモハル。
一着でよかったのに、何故か四着も購入してもらえたマビルは、唖然とトモハルを見上げる。
マビルの歩幅にあわせてゆっくり歩くトモハル、手を優しく握り締めて街を歩く。
昨日とは、違う世界。
場所は同じでも色彩が艶やかだ、空気が爽やか。
それは、二人の気分のせい。
くすぐったそうに笑いながら歩く二人は、ペットショップで足を止める。
「ぬいぐるみ」
「違うよ、トイプーだよ」
賑わう店内は、赤ちゃんの犬や猫が抱けるとあって子供が多かった。
茶色のトイプードルを見ていたマビルに、店員がショーケースから出して持ってきてくれる。
「あ、あたし、ワンワンなんて、触ったことないもん!」
「大丈夫、クロロンやチャチャと一緒だよ」
おっかなびっくりトイプードルを抱き締めたマビル。
ペロ、とマビルの顔を嘗めて嬉しそうに尻尾を振ったトイプードルを見て、この子犬を飼おうかな、とトモハルは思った。
懐いているようだし、二人で育てるのも良いだろうし。
「ふふ、可愛い子だから喜んでますね。面食いなんだから・・・」
「雄は要りません。雌なら買います」
店員が微笑ましくそう言うが、冷ややかな声でトモハルが不機嫌そうに言い放ったので空気が凍りついた。
マビルにもこれは解った、嫉妬だ。
犬に嫉妬しているらしい。
「べ、別に買わなくてもいいよ、トモハル」
「でも、二人で育てたら楽しそうだし。クロロンとチャチャがいないし」
「トモハルがいなくて寂しくて、二匹と一緒に遊んでたの。・・・トモハルが居てくれれば寂しくないから、大丈夫だよ」
トイプーを撫でながら、マビルは恥ずかしそうに微笑して小声で呟いた。
本音だ、その本音を聞いてしまったトモハル。
「可愛い可愛い可愛い可愛い、キスしたい、キスしたい、キスしたい、キスしたい」
「えぇ!?」
マビルににじり寄るトモハル、目が・・・本気だ。
「ちょ、ええ」
「可愛い可愛い、キスしたい、キスしたい」
壁に追い詰められ、トイプーがトモハルの重みで潰されないか不安になったが、トモハルの暴走を止めるべきだ。
「ワンワン、潰れる!」
「キスしたいキスしたい、キスしたい」
「ちょっとーっ」
唇を、問答無用で塞いだトモハル。
寂しかったから猫を飼っていた、トモハルが要れば寂しくない・・・そんなこと言われたら、理性が。
本日、二回目の人前でのキスは相変わらず濃厚で。
「何やっとんじゃーいっ! ごらぁっ」
後方から攻撃、怒りの形相で振り返ればミノルと恋人のココが引き攣った笑みを浮かべていた。
「ちょっと、言いかけたことはっきり言ってよ」
「いや、なんでもない」
「死ぬって、何。どーしてあたしが死ななきゃいけないの」
「なんでもないんだ」
「あーもーいらいらするーっ!」
マビルの絶叫、けれど身動きが取れないのでトモハルを睨みつけることしか出来ず。
「・・・痛いことも、怖い事も、思い出させたくないだけだから、忘れてよ」
「何のこと、何の話っ」
「思い出さなくていい、そのままでいいんだ」
不意に、マビルは思いついたことがあったので口にしてみる。
それはマビルにとっては気にも止めなかったことで、それでもトモハルにとっては非常に重大なことだった。
「まさかとは思うけど、トモハル、あたしが死んだ時のこと言ってる? それなら憶えてるよ、鮮明に。物凄く痛かったの」
真顔でそう告げたマビルに、思わずトモハルは硬直。
今まで。
思い出せていないと思っていたのだ、トモハルは。
「で、それが何? あたしは」
「ごめん・・・」
急にトモハルはマビルを強く抱き締めた、どうやら声が震えているので泣いているらしいということは分かったのだが、マビルには意味が解らない。
「な、なんで泣いてるの!?」
「泣いてないけど、その、ごめん」
「だから、何が」
「痛かったろ、怖かったろ・・・ごめん、俺が不甲斐無いばっかりに」
「確かに不甲斐無いけど、何なの!?」
顔を上げて、マビルの頬にそっと触れながらようやく、トモハルは口を開いた。
どうしても、自分が許せなかった事、それは。
「あの時。俺が手を離さなければ、マビル・・・死ななかったんだ」
首を傾げるマビル、思い出す。
あの日、トモハルと手を繋いでいたが、アサギが走ってきたので二人で手を振ったのだ。
トモハルは両手を振った、だからマビルと自然と手が離れる形になった。
「マビルは、あの日。魔族の男二人の魔法で・・・殺されてしまって。でも、その魔法は”標的が誰かに触れていれば発動しない”んだ。あの時、俺が手を離さなければ、マビル・・・死なずにすんだんだ」
「でも、それはもう終わった事で」
トモハルが力強くマビルの手を握り締める、そっと自分の頬に手をあて震えながら手に口づけを。
「手を。離さないと誓った、離したら今度こそマビルが消えると思ったんだ。
でも、マビルは俺みたいなの相手にしないだろ、いつかは・・・離れて行くって知ってたんだ。
俺の事を好きじゃなくてもいい、どんな関係でもいいから繋がっていられれば、それでいいかな、って思い始めた。
マビルの笑顔を見るのは好きだし、俺といるより地球に居たほうが危なくないだろうし。
時折、姿を見せてくれれば安心出来たんだ、本当に。
でも・・・頭で納得したつもりだったんだけど、納得出来ないらしくて、俺。
やっぱり、嫌なんだ。全然マビル好みの外見でもないし、弱いけどさ・・・一つだけ、自信がある。
絶対、マビルの彼氏より、俺のほうがマビルのことを愛してる。それだけは、自信があるんだ。
だから。その」
上手くトモハルの言葉が入ってこないマビルは、混乱中である。
「一つ、聞きたかったんだけど」
「な、何?」
鼻同士がぶつかりそうな距離で、トモハルは静かにマビルを見つめて呟いた、思わず声がひっくり返ったがどうにか返事するマビル。
「俺の事、好きか嫌いかって聞かれたら、マビルは嫌いって答える?」
頭を整理させて欲しいマビルは、とにかく近すぎる距離のトモハルをどうにかしようと試みた。
近すぎるせいで、上手く考えがまとまらないのだ。
「とりあえず、好きじゃない」
「それは嫌いって事?」
「き、きき嫌いとは言ってないけど、好きじゃない」
悲鳴に近い声だった、マビルはともかくこの距離感をどうにかしたかった。
胸の鼓動がトモハルに聞かれるのが怖い、先程から心臓が跳ね上がっている。
それに、顔が熱いため、真っ赤であることも自分で理解できていた、それが恥ずかしい。
「二択だよ、マビル。好きか嫌いか。どっちか教えて」
反対に急に冷静になったのか、余裕が出てきたのか。
腕を振り払いたいマビルを知ってか知らずか、トモハルは全く微動だせずにマビルを押さえつけていた。
「そ、その質問、答えるとどうなるわけ!?」
「俺の遠慮がなくなる」
鼻が、触れた。
思わずマビルは身体を小さくし逃げようとしたが、それではトモハルの思う壺で。
更に身体を拘束される、もう確実に抜け出せない。
「マビルが幸せならそれでいいと思ってたんだけど、我慢の限界が来たからどちらか選んで、マビル。
好きか、嫌いか。
嫌いというなら本当に諦めるよ、金輪際近寄らない、城にも戻らなくてもいい。・・・戻ったら多分俺監禁して外に出さないかもしれない」
「な、何なの、そのトランシス的発想は!?」
マビルを無視し、トモハルは唇を近づけた。
「嫌いでないなら、好きってことになるかな? 少しでいい、少しでもいいから、好きなら。今後好きになれそうな可能性が俺にも残されているのなら」
トモハルが言葉を紡ぐたびに、吐息がマビルの唇に触れて背筋がぞくり、と。
全身に鳥肌がたった、気持ちが悪いわけではない、恐怖でもない。
それは。
「答えて、マビル。俺は。・・・マビルの彼氏からマビルを奪ってもいい?」
「なななな、何その自信!」
「自信はないけど、本当に・・・マビルを手放したくないだけだよ。それだけなんだ。何度も言ってる、好きだ」
「っ!」
真剣な眼差しは鋭く、吐息は熱く、声は、妙に艶めいて。
思わず、マビルはようやく。
「き、きら、きらいじゃないって言ってるのに・・・っ」
消え入りそうな声で曖昧な答えを口にした、嫌いではないなら。
すっかり涙目のマビルだった、が、部屋が薄暗いのでトモハルは気づいていないらしい。
「チャンスをもらえたと判断して良いね?」
「し、知らない!」
「好きでなくても、構わない。絶対に何処の誰よりもマビルを愛してる自信だけはあるんだ。これからでいい、これから少し、少し。・・・気になる存在になればいいんだ」
いや、多分好きだ・・・とマビルは口をぱくぱくさせたが言葉が出ない。
とうの昔に気になる存在で、同じ様に好きだった。
けれど、ここまで強引なトモハルを知らないので、対応が出来ないのだ。
「おおおおお、おね、おねーちゃん! トモハル、おねーちゃんが好きでしょ!? ふ、ふた、二股っ」
「うん、大事な友達というか相方というか。愛するマビルの双子の姉だね、アサギは」
「つつ、都合が、良すぎるっ」
「・・・どうしたら、マビルは俺がさ、マビルしか好きじゃないって信じてくれる?」
一向に離れないトモハル、身体に触れるトモハルの体温で血が沸騰しそうなマビルは必死に抵抗した。
抵抗しているのは、素直になれないから、恥ずかしいから、照れるから、そして嘘をついているから。
「め、メイド! メイド達と仲良くしてるっ」
「大事な従業員さんだ、マビルの住み易いようにお城を綺麗にしてくれる。・・・それに」
不意打ち。
いきなり、話していたトモハルの唇がマビルの唇にそっと触れた。
「!?」
それは二秒ほどだったが間違いなく、触れた。
「ごめん、限界だった」
悪びれた様子もなく、目の前でトモハルはそう言うと小さく笑い。
「マビルがさ、女の子の友達がいないみたいで心配で。・・・気の合いそうな子を探してたんだ」
「よーけい、な、おせ、おせわっ」
「・・・他に質問は?」
こんなトモハルは、知らない。
マビルは、それでも知っていた、知っていたけれど、どうにも素直になれなかった。
素直になれなかったが、トモハルなら、なんとなく。
例えばいつかそっぽ向いていたクロロンが、懸命なチャチャのアプローチで仲良くなったように。
なんとなく、トモハルが自分を、上手くトモハルへの想いを表現出来ない自分を丸くしてくれる気がして。
「じゃ、じゃあ!」
「ん?」
言葉を、一度飲み込んでマビルは呟いたのだ。
「あ、朝まで手を繋いで眠って。でも、それ以外は何もしちゃ駄目。・・・ちゃんと、出来たら・・・トモハルがエロ大魔王じゃないって、考えてあげてもいいんだからっ」
「信用してくれるんだ?」
「出来たら、だよ!? このぴちぴちうるとらびゅーてぃマビルちゃんの隣で、ちゃんと、手を繋いでてよ!? でも、何もしないでね!」
「・・・いいよ、それでマビルが信用してくれるのなら。とりあえず・・・お風呂、入っておいで」
「の、覗く気!? それとも、な、何、そのお風呂に先に入らせて、あれね、あれで、あ、ああああああた、あたしと」
「覗かないよ、安心して入っておいで」
覗きたいといわれても困るが、覗かないと断言されても少し哀しいマビル。
だが、トモハルは危険だった。
「覗くくらいなら一緒に入るよ」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「冗談だよ」
静かに笑って、茹でタコのように真っ赤になったマビルを抱き起こす。
「ミノルに電話するからさ、ゆっくり入っておいで」
「う、うん。の、覗いちゃ駄目だからね!」
小さく笑い続けるトモハルに、マビルは腰が抜けかけた。
知らない。
こんなトモハルは、知らない。
「あ、マビル」
「な、何」
産まれたての小鹿のように震える足を、懸命に奮い立たせて歩き出したマビルを呼び止め、トモハルはさらりと。
それでいて、真剣に、熱い眼差しで。
「愛してるよ」
「!!!!!」
一目散にマビルは浴室へ駆け出した。
ドアを閉めてするすると床に倒れ込む、腰が、抜けた。
トモハルの、声が、体温が、瞳が、吐息が。
まだ、抱き締めれているような感覚で、マビルは思わず。
「・・・ともはるー」
小さく、名前を呼ぶと切なそうに、愛しそうにドアの向こう側にいるトモハルを見つめる。
「す、き」
・・・と、言っていたらどうなっていたんだろう。
マビルは、ようやく震える足を腕に力を入れて奮い立たせ、シャワーの蛇口を捻った。
その頃、携帯電話を取り出したものの、一向に電話などかけないトモハル。
それもそのはず、ミノルと呑む等嘘である。
逃げだった、あれ以上傍にいたら必ずまた、マビルを泣かせてしまうだろうから、逃げる気で居た。
無邪気に、寂しそうにくっついてきたマビルを、縛り付けたくなったのだ。
必死に自分を抑えようと、戦い続けたが・・・不意に。
自意識過剰かもしれない、だが、なんとなくマビルが自分を嫌いではない気がして。
トモハルは、一か八かの賭けにでたのだ。
「マビル」
携帯をベッドに放り投げると、自分も仰向けに倒れ込む。
何度も名前を呼んだ、愛しそうに呼んだ。
廻り廻って、得たチャンスを逃すわけにはいかない。
「絶対に、何が何でも。・・・勝たなきゃいけない」
どうしても、譲れない、欲しいものが出来た。
その為に必死に生きてきた。
「マビル、俺に、しなよ」
※ちょっと教育上、あまりよろしくない話が入ったので、中略(えぇ)
※読みたい場合は、個人的に連絡してください
マビルの入浴時間、二時間半。
色々考えすぎて、ボーっとシャワーを浴びていたらしい。
ぺたぺたとバスローブを引き摺って歩いてきたマビルは、トモハルが差し出してくれたジュースを飲み干すと、小さく溜息を吐く。
別に、万が一に備えて身体を綺麗にしていた・・・という・・・ことも実はあったのだが。
ともかく、茹った。
全身真っ赤だ、だがこれならばトモハルに何を言われてもこれ以上赤くはならないだろう。
「何もしないから、先に寝ておいで」
「ちゃんと、手を繋ぎに来る?」
「うん」
「・・・絶対よ」
意識が朦朧としているのか、思いの外すんなりと言葉が出たマビル。
ふらふらとベッドに倒れこむと、もそもそと布団に潜り込む。
「・・・おやすみ」
「おやすみ」
瞳を軽く閉じて、小さく溜息を吐いたマビルの耳元で。
「愛してる」
「!!!!!!!!!」
思わず、硬直。
チュ、と耳に軽いキス。
背筋が一気に波打つ、心臓が跳ね上がる、これ以上赤くならないと思っていた身体が顔が、真っ赤になる。
遠ざかる足音、ドアが閉まった音。
跳ね起きたマビルは、震えながらベッドから転げ落ち、冷蔵庫から缶ジュースを取り出す。
飲み干す。
「ね、眠れない! 無理っ! 死んじゃうっ!」
マビル、気づいた。
・・・手にしていたのはビールだった。
一気にアルコールが廻る、極度の緊張からだった。
慌ててぼやける視界でペットボトルを取り出すと、一気に流し込む。
少し、冷えた気がする。
ふらふらとベッドに潜り込んだマビルは、すまきのごとく布団に包まった。
「・・・マビル、これじゃ手を繋げないよ」
思いの外早かったトモハルの戻りに、マビルは飛び上がるほど仰天した。
慌てて簀巻き状態を解放し、にゅ、っと左手を差し出す。
小さく笑うとトモハルは手を握った。
が、隣に入ってくる気配がないのでマビルはそっと布団から顔を出す。
見ればトモハルは布団の上に転がっている、・・・まさか。
「ね、ねぇ。入らないの?」
「・・・入っていいの?」
「え」
二人同時にすっとんきょうな声を出した。
当然、隣で眠る予定だったマビルと、手は繋ぐが同じ布団に入ることは無理だと思って居たトモハル。
沈黙。
が、するり、とトモハルが布団に侵入。
「・・・一緒に眠るのは、久し振りだね」
「そそそそ、そうだね」
微笑むトモハルを凝視してしまい、顔を赤らめ繋がっている手を、堪らず強く握り返し。
「おや、すみ」
「おやすみ」
マビルは、強引に目を閉じた。
左手が、心地良い。
暖かく、安心する。
もっと、傍に来てもいいよ。
ぎゅ、と、してもいいよ。
「?」
と、思って居たのだが、本当にトモハルが近づいている気がしてマビルは瞳を見開いた。
明らかに、にじり寄ってないだろうか。
もはや数センチで身体がぶつかる。
知らぬ素振りで瞳を慌てて瞑るマビル、耳元でトモハルの声。
「ねぇ」
「!」
寝たふり。
マビルは震える身体を懸命に堪えながら、聴こえない振りをした。
「キスしていい?」
「!」
寝たふり。
不意に、瞳に何かを感じマビルは恐々瞳を開いて小さく叫んだ。
「キスして、いい?」
「!!」
触れてはいないが、先程からトモハルが近すぎて空気の振動によって、触れているような錯覚を起していた。
間近なトモハル、先程と同じ状況だ。
「嫌なら。嫌って言って」
「!!!」
視線が交差する。
手は握られたまま、両手を握られ動けない。
もはや、唇など触れる寸前で。
「言わないなら。・・・するよ」
これは卑怯だ。
とても、嫌だなど言えない。
硬直し、何も言わずに瞳を閉じたマビル、トモハルはそっと。
唇を触れさせた、離れる。
ほっとしたような、残念なような。
瞳を開いてトモハルを見上げたマビルは、失敗した、と思ったのだ。
愛しそうに、優しそうに、自分を見つめていたトモハルと視線が交差した。
「キスは、してもいいんだね?」
「キス、だけなら、いーよ」
導かれるように、かたことで、返事をしてしまった。
虚ろに、上ずった声で、開いた唇をトモハルが見逃すわけがなく。
「マビルの彼氏より、キスは下手だけど、キス、してもいいんだよね?」
「キス、だけなら、い」
最後まで言えなかった。
あまりにも長すぎるキスは、マビルの思考回路を無茶苦茶にした。
チカラなど入らない、なすがままで。
二人の吐息が幾つも幾つも、終わりがないほどに重なり合って。
マビルの額に、頬に、瞼に、鼻に、耳に、首筋に、鎖骨に、肩に、脇に、腕に、手に、指に、背中に、キスを。
バスローブなど、とうにはだけてベッドから落ちていた。
そっと胸にもキスをした時に、ようやくマビルは我に返ったのだ。
「ちょ、キスだけって言ったのに! 何もしないって言ったのに!」
半泣きで、力なく、全く凄みもなく言ったマビルに、トモハルは強引に唇を塞ぐ。
何度も強く吸った、舌を絡めて、指の様に舌を使って。
唇で唇を挟み、舌を挟み、上手く呼吸が出来ないマビルをそれでも極力優しくしようと。
「キスしか、してないよ。一緒だろ」
「キス、しか、してな、い?」
「うん、してない」
マビルの首筋を甘噛みし、確かに、唇と同じ様に首筋を舌で嘗め、吸って。
「ね、キスだろ」
「ん」
・・・厳密に言うとキスではない気がするが。
マビルは。
必死に頷いた、トモハルがキスだというのだから、キスなのだろう。
半泣きだったのは、どう反応してよいかわからず恥ずかしかったから。
トモハルの吐息に混じる声が、脳裏から離れず、聴くだけでおかしくなりそうだったから。
好きだと、言いたいのに、言えないから。
「それ、それは、キスじゃないっ」
「キスだよ」
両手は、ずっとトモハルと繋がれている。
悲鳴のような声を出したのは、胸から下へと徐々にトモハルの顔が移動したからで。
何をしても、キスだと言い張るトモハルに、マビルは。
「マビル」
名前を呼びながら、トモハル曰くの”キス”をし続ける。
例えばそれは、当然キスではないかもしれないが、約束は約束。
トモハルは朝まで、キスを、マビルの全身にした。
キスしか、してない。
名前を呼びながら、抱き締めて、喘ぎ続けるマビルを見つめながら。
トモハルは決意した、携帯電話がアラームを鳴らすのを聴きながら。
「愛してるから」
「ふ・・・」
「殴られてもいいんだ、マビルの彼氏に会って、何が何でも別れさせる」
「ふ・・・ぇ」
「俺に、しなよ」
「んんー・・・っ」
「マビルが決めればいい、暫くは別れなくてもいい。俺を選ばせてみせるから」
「っ、っー!」
「愛してるんだ、その人よりも、絶対に、誰よりも何よりも」
マビル、好きだ、愛してる、俺にしなよ。
何度も何度も耳元で囁かれた、必死にマビルは頷いた。
・・・頷いた。
「とにかく、その人に合わせて」
チェックアウトの時間、五分前。
慌ててシャワーを浴びた二人は、急いで衣服を着替えると空腹のまま部屋を出ようとした。
朝食はついてきたのだが、食べる時間がなかった、というか注文することを知らずに食べられなかった。
「う、うーん・・・と」
「説得するから、会わせて。今日行こう、仕事は何時に終わる人なの?」
「えーっと、じゅ、18時くらい?」
「解った、とりあえずモーニング食べに行こう」
「あ、あのね、トモハル。そ、その、あ、あたしがちゃんとお断りしておくから、だ、大丈夫」
一難去って、また一難。
マビルは自分がついた嘘をどうにかせねばならなかった。
彼氏など、存在しないのだ。
だが、トモハルは一向に諦める様子がなく、彼氏に会わせろの一点張り。
「一人で会いに行って、監禁されたらどうするんだ!」
「し、しないよ、そんなことっ」
マビルは、トモハルの言う通り渋々メールを送った。
と、言っても相手は・・・トビィだ。
マビルの携帯電話には、トモハルと奈留、トビィの三人しか登録されていない。
『助けてトビィ。あたしの彼氏の振りをして』
『全力で断る』
・・・戻ってきたメールを見て、思わず握り潰したくなったマビル。
「何だって?」
「きょ、今日は忙しいって」
「忙しい? 別れたくないだけだよ、会社に乗り込もう」
「ええええええええええええええ」
チェックアウト、30分経過。
延長時間。
「殴られよう、でも、マビルだけは貰い受ける。罵倒されようが、殺されようが、絶対にマビルを手放してもらう」
「こ、殺されたら一緒に居られないよ・・・」
というか、トモハルを殺すことが出来る人物など、限られてくる。
少なくともアサギかトビィか、同じ勇者辺りではないと、無理だろう。
「どうやって、認めさせよう、俺のほうが愛しているって解ってもらわないと」
「あー、えー、んー・・・んんー・・・」
壁に、鏡。
ふと、目を移せば。
『マビル。悪いと思ったら、嘘をついて悪かったと思ったのなら。謝りなさい』
アサギの、声がした。
鏡に映っているのは自分だった、けれど、その言葉は昔聞いたことがあった。
「と、トモハル、あの、えと、その、あの。・・・嘘、なの・・・」
「え? 本当は今日仕事が休みだって?」
「ち、違うの、そうじゃないの! ・・・彼氏なんて、いない、の・・・。あ、あたしの、嘘なの・・・」
「庇わなくてもいいんだ、俺はその人を殺したりとかしないから、多分」
「多分って何っ! ・・・そうじゃないの、違うのっ、本当に、本当にあたしの彼氏なんて、いないのっ。・・・ごめんなさい」
マビルは、大声で叫んでから床に座り込んだ。
言った。
昔ついた、嘘をようやく明らかにした。
「・・・え?」
決壊したダムから流れる水のごとく、マビルは一気にまくしたてる。
嘘をついた、ということで嫌われたくなかったので必死に弁解したのだ。
「この間の旅行は、奈留と行ったの! か、買って貰ったバッグとかは、そこらへんの人にっ。も、もちろん何もしてないよ、可愛いから物買ってくれるっていうからっ! ほ、ホントなの・・・、いないの、彼氏」
「・・・・えええええええええええええ」
脱力し、床に転がったトモハルをそっと見つめ、マビルは涙目。
延長、一時間。
「・・・マビル」
「うん」
「単刀直入に言おう、今誰とも付き合っていないのなら、俺と付き合って」
「・・・、え、と」
「結婚を前提に付き合って欲しいんだ」
「はぁう」
「返事は今しなくてもいいから。とりあえず・・・出よう」
マビルを抱き起こして、トモハルは不慣れな手付きで精算すると車へ。
時折足がふらつくのか壁に激突しているが・・・大丈夫だろうか。
車に乗り込み、近場のコンビニに立ち寄ると、トモハルはマビルを車内に置いて何かを買ってきた。
「何食べたい? ご飯? パン? 他のもの?」
「オレンジジュース、飲みたい・・・」
トモハルは車を走らせ、適当なカフェに駐車し、コンビニで買ったものを手にして車を降りる。
案内された四人がけのテーブル、片方のソファの奥にマビルは座った。
当然正面にトモハルが座ると思えば、隣に座ってきたトモハル。
驚いて赤面したマビルにおかまいなしに、コーヒーとオレンジジュースを注文すると雑誌を広げる。
「ほら、さっき買ってきたんだ。あんまり地球の情報には詳しくないからさ、雑誌見てマビルを行き先を決めようと思って」
微笑し、マビルの手を握り締める。
「・・・本当に、彼氏はいないの?」
「い、いないの・・・。その・・・。あ、あたしは。あの、ときに・・・」
どうしても、言えない。
ジュースとパンやサラダが運ばれてきた、店員がくすくす笑いながら引っ付きすぎている二人を見たが、二人はそれどころではない。
「寂しかった・・・んだね・・・ごめん」
俯いて何も言わないマビルを抱き締めた、弾かれたようにトモハルを見たマビル。
「あの日、ディナーは・・・どうしたの?」
バレンタインのことだ、あの日だ。
二人を明確に離れさせた、あの日。
マビルが彼氏が出来たと数日前に言い出さなければ、その日トモハルは告白していた。
「トビィと、行ったの・・・。疑うなら、トビィに聞いて! ほ、ほんとはトモハルと一緒に行きたかったのに、とも、トモハルはっ、あたしを、置いて、会議にばっかりでっ。かわいくしても、見てくれないっ」
ようやく、トモハルが不可解に思って居たパズルを完成させた。
マビルは、もしかしたら自分の事を気にかけていてくれて。
けれど、意地っ張りで上手く表現できなくて彼氏がいると、嘘をついた。
あの時、止めて欲しかったのかもしれない、と、ようやくそこに行き着いた。
「ごめん・・・寂しい思いばかり・・・」
「ほ、ほんと、ほんとだよっ、最悪っ」
「てっきり・・・俺のことなんて眼中にないと思ってたから、せめて気にしてもらおうと思ってた」
「ち、違う、違うっ。あ、あたしは、ま、前から」
す。
好き、と言おうとしてマビルは赤面し俯いたが、トモハルにもそれはわかったのだ。
唇の形で、何を言おうとしたのか、わかった。
ようやく、わかった。
トモハルが赤面する。
二人して、赤面。
繋いだ手が、熱くて、それでも離す事は出来ずに。
「もっと、早くに俺が・・・マビルに告白してたら」
「だ、だって結婚してるんでしょう!? なの、なのにっ」
「・・・してないんだ、結婚は」
「?」
とりあえず、喉が渇いたので二人は同時に水を飲み干した。
無言で胃の中に食べ物を押し込んだ、コーヒーとオレンジジュースで、一息。
「あの城に、住む為には俺の知り合いじゃ、無理だったから。・・・結婚していると皆を思わせなきゃいけなくて。
それで、婚姻届を書いてもらったけど提出はしてないんだ」
「な、なら説明してよ、ちゃんと!」
「説明したら、断られそうだったから」
「あ、あたしの想いを勝手に都合よく書き換えないでっ。あたし、あたしはトモハルと結婚して、夫婦なんだと思って・・・」
「え」
沈黙。
「あたしっ。好きでもない男とあんなに長いこと一緒にいないんだからっ」
「もしかして・・・お互い、ずっと好き同士だった・・・?」
「あ、あたしは好きじゃないからね、嫌いじゃないけど」
そっぽを向いたマビルの顎を引き寄せて、無理やり口付け。
周囲でざわめきが広がるが、トモハルはお構いなしだ。
「おかーさん、あの人たち、ちゅーしてるー」
「こ、これっ」
子供に指を指されようが、店長に止めに入られようが。
恥ずかしさのあまりマビルがもがこうが、トモハルはキスをやめなかった。
「昨日の続きをしよう、マビル」
赤面したマビル、昨日の続きというのは、夜の・・・。
「同じ場所で、デートをしよう。やり直そう、一から」
爽やかな笑顔で微笑んだトモハルに、拍子抜けしてマビルはソファからずり落ちそうになったが抱きとめられる。
「もう一度、初めから。マビルに寂しい、哀しい思いをさせたから、やり直す。好きだ、俺と付き合って。
二人で、色々決めよう、行きたい場所も、何を買うかも、二人で決めるんだ。・・・さぁ、行こう」
マビルのバッグを手にし、手を握ってトモハルは飛び出した。
それは、久し振りに見るトモハルの笑顔で、昔の子供のときと同じ無邪気な笑顔で。
マビルの好きな、顔だった。
ただ、やはり大人になっていたので可愛いだけでなく、男らしい逞しい表情も見え隠れしているわけで。
ただ、マビルは軽く戸惑いつつもその強引さが心地良く。
「まぁ、可愛らしい方ですからどれもお似合いですね」
「試着した服、全部下さい。全部似合ってるんで」
「!? そんなに要らないよっ」
「これから色んな場所を二人で廻るんだ、服は必要だろ」
洋服を、マビルに選んだトモハル。
一着でよかったのに、何故か四着も購入してもらえたマビルは、唖然とトモハルを見上げる。
マビルの歩幅にあわせてゆっくり歩くトモハル、手を優しく握り締めて街を歩く。
昨日とは、違う世界。
場所は同じでも色彩が艶やかだ、空気が爽やか。
それは、二人の気分のせい。
くすぐったそうに笑いながら歩く二人は、ペットショップで足を止める。
「ぬいぐるみ」
「違うよ、トイプーだよ」
賑わう店内は、赤ちゃんの犬や猫が抱けるとあって子供が多かった。
茶色のトイプードルを見ていたマビルに、店員がショーケースから出して持ってきてくれる。
「あ、あたし、ワンワンなんて、触ったことないもん!」
「大丈夫、クロロンやチャチャと一緒だよ」
おっかなびっくりトイプードルを抱き締めたマビル。
ペロ、とマビルの顔を嘗めて嬉しそうに尻尾を振ったトイプードルを見て、この子犬を飼おうかな、とトモハルは思った。
懐いているようだし、二人で育てるのも良いだろうし。
「ふふ、可愛い子だから喜んでますね。面食いなんだから・・・」
「雄は要りません。雌なら買います」
店員が微笑ましくそう言うが、冷ややかな声でトモハルが不機嫌そうに言い放ったので空気が凍りついた。
マビルにもこれは解った、嫉妬だ。
犬に嫉妬しているらしい。
「べ、別に買わなくてもいいよ、トモハル」
「でも、二人で育てたら楽しそうだし。クロロンとチャチャがいないし」
「トモハルがいなくて寂しくて、二匹と一緒に遊んでたの。・・・トモハルが居てくれれば寂しくないから、大丈夫だよ」
トイプーを撫でながら、マビルは恥ずかしそうに微笑して小声で呟いた。
本音だ、その本音を聞いてしまったトモハル。
「可愛い可愛い可愛い可愛い、キスしたい、キスしたい、キスしたい、キスしたい」
「えぇ!?」
マビルににじり寄るトモハル、目が・・・本気だ。
「ちょ、ええ」
「可愛い可愛い、キスしたい、キスしたい」
壁に追い詰められ、トイプーがトモハルの重みで潰されないか不安になったが、トモハルの暴走を止めるべきだ。
「ワンワン、潰れる!」
「キスしたいキスしたい、キスしたい」
「ちょっとーっ」
唇を、問答無用で塞いだトモハル。
寂しかったから猫を飼っていた、トモハルが要れば寂しくない・・・そんなこと言われたら、理性が。
本日、二回目の人前でのキスは相変わらず濃厚で。
「何やっとんじゃーいっ! ごらぁっ」
後方から攻撃、怒りの形相で振り返ればミノルと恋人のココが引き攣った笑みを浮かべていた。
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はいっ!
思いっきり挙手v
抜けてる箇所 みたい(笑)
トビィさん
そぉなんですか!
では、期待ですねっ(プレッシャー?!(笑)
以前「働く人」みたいな取材を受けた時に「趣味、携帯読書」としてあったのをみた取材の人に「好きな作者さんは?」と聞かれたので 名前を言って 漢字まで書いて教えたのに、カットされてました(泣)
抜けてる箇所 みたい(笑)
トビィさん
そぉなんですか!
では、期待ですねっ(プレッシャー?!(笑)
以前「働く人」みたいな取材を受けた時に「趣味、携帯読書」としてあったのをみた取材の人に「好きな作者さんは?」と聞かれたので 名前を言って 漢字まで書いて教えたのに、カットされてました(泣)
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