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「長すぎる」←がーん・・・。
というわけで、三分割します、次で終わりです。
登場人物書いたけど、ココもトビィお兄様もアサギも出てないー。
がーん・・・。
トモハルは一人で庭に居たが、そこでは話しかけられずに、黙って追跡する羽目になったマビル。
擦れ違うメイド達に手を振って、にこやかにしているトモハルに、やはり胸がキリリ、と痛む。
トモハルは自室へと入っていった、入れないマビルは外で待ちぼうけだ。
数分後出てきたので、また追いかけた。
が、どうしても言えずにマビルは気晴らしに奈留を訪れる。
「ちょーどよかった!! ね、ね、三日後暇!?」
「な、何・・・」
目を輝かせて飛びついてきた奈留に、顔を引き攣らせたがお構いしないに奈留はチラシを出してきた。
「友達がさ、行けなくなったから一緒に行かない? 一泊二日のタラソテラピー満喫コース」
「たらそてらぴぃ???」
「うん、海水を利用したエステだよ。最近流行っててさ」
「わぁ・・・」
次はマビルが目を輝かせた、食い入るようにそれを見つめて二つ返事で了解。
「五万かかるけど、大丈夫?」
「な、なんとかするからっ」
マビルはどうしてもそれに行きたかったので、急いでトモハルの元へ戻る。
「トモハル、五万ちょうだい、五万、日本円!」
「? 何か買うの?」
「違う違う、旅行! たらそてらぴぃしてくるのっ。一泊二日で」
「何それ?」
「知らないんだー、もー、だっさいなぁ。今流行りなんだから!」
自分も先程知ったのだが、ふんぞり返ってトモハルを説得。
「彼氏と行って来るのー、あたしの彼氏、こういう情報を得るのも速いんだから!」
「・・・そ、そう・・・凄いね」
「だから、五万ね!」
「うん」
奈留と行くとは言えずに、また嘘をついたマビルは、早速部屋に戻ると旅行の支度を始める。
「水着と、着替えと・・・」
貰ってきたチラシを見ながら、久し振りに楽しいなとマビルは思ったのだ。
一方トモハルは、全く知らない単語が気になったので地球へ出向き、久し振りに本屋へ行きタラソテラピー関連の本を手に取ると購入。
ミノル達が暇だったので四人で居酒屋で飲むことになった。
「タラソテラピーって知ってる?」
トモハルの問いに、首を傾げたミノルとダイキだが、ケンイチが軽く頷いた。
「最近流行りなんだよ、エステなんだけど健康にもいいんだって。海水のプールに入る感じで、恋人同士でも利用できるから、利用者は多いみたいだね。高いらしいけど」
「へぇ・・・」
深夜帰宅し、買った本を読み耽る。
なるほど、マビルが行きたがった理由もわかったが。
「俺とは大違いだな・・・」
昼間のマビルがとても楽しそうだったので自嘲気味に笑うと、再度本に目を通しながら。
「マビルの喜びそうな事を逸早く掴んでる・・・」
五万を封筒に入れて机に置いたが、トモハルは眠りながら考えた。
正直、五万を渡したくはない。
が、約束してしまった。
葛藤に気分が悪くなり、トモハルはマビルに渡さないまま二日を過ごす。
お金がないと奈留と遊びに行けないので、マビルはトモハルを探したが何故か会えず。
思い切って部屋に行ってみた、ドアが開いたので勝手に入った。
机の上に封筒があったので中を覗けば五万だ、安堵してそれを掴み踵を返せば。
壁に写真が貼ってある。
マビルの写真だ。
その隣に、マビルとアサギの二人の写真が。
アサギよりも自分の写真が多かった事に、少なからず動揺したマビルは部屋から出るのをやめて暫しそこに佇む。
不意に机を見れば、写真立てが二つ。
勇者一同の写真と、マビルとトモハルが二人で写っている写真だった。
「・・・」
随分前の、仲良くしている時の写真だった。
机の上にはタラソテラピーの本、所々付箋がついていた。
その本の下から、書類。
・・・計画書だった、トモハルの字だが、どうやら街にタラソテラピー施設を造るらしい。
更にその下からノート。
思わず中身を見てしまう。
『マビルの彼氏は、完璧なようだ。
容姿も申し分ない上に、マビルのことを知り尽くしているらしく、喜ばす術を解ってる。
とても、敵わない。
マビルはとても、嬉しそうだった。
五万が必要らしいが、俺なら全額出してあげるけど、彼氏はマビルに金を出させるそうだ。
・・・そこまでお金はないのかな?
どちらにしろ、五万を渡したらマビルは行ってしまうから、渡したくない本音。
で、気持ち悪い。明日は薬湯を貰おう。』
日記だろうか、一番最後はそうなっている。
反対から読んで行った、どれもこれもマビルについてだ。
『マビルが、俺がデザインしたドレスを気に入ってくれたようだ。
よかった、やった甲斐があった。
着る事はなくても、嬉しい。
だから、今日は良い日だった。』
座り込んで読み更けた、毎日書いているわけではないらしい。
一冊が終わった、それより前が読みたくなったので、探してみるが・・・見当たらない。
物音がしたので思わずマビルはクローゼットの中に潜り込む、いつかもこうして入っていた。
いつも、誰かから逃げてばかりいるマビル、こうして以前クローゼットの中に入ったのはミノルが来たからだった。
あの時、トモハルは確かに自分を必死で護ってくれていたのを思い出して、少しだけ、哀しくなった。
手を繋いで逃げてくれた、抱き締めて、庇ってくれたトモハルを思い出して、少しだけ、切なくなった。
ドアが開く、トモハルが入って来て、お金の封筒を手にして慌しく出て行く、マビルを探しに行ったのだろう。
マビルはそっとそこから出て、もう一度日記を読み、困惑気味に部屋を後にする。
マビルで、埋め尽くされていた部屋。
それでもマビルは簡単な答えを自ら消去した、辿り着かない答えは、捻じ曲げられる。
「ふ、ふん・・・。いつあたしに見られてもいーように、用意周到なんだよねっ」
立ち止まって部屋を睨みつけると、マビルは俯いて歩き出した。
口にしたものの、心は晴れない。
納得いかないのだ、どうしてあそこまで自分に関するものが、部屋に溢れていたのか。
「あ、マビル! ほら、五万だよ」
俯いて歩いていたためか、トモハルに気づかなかった、直前で弾かれたように顔を上げる。
「・・・ありがとう」
「気をつけて行っておいで」
「うん」
トモハルは、笑顔だった。
お金の入った封筒を握り締めながら、マビルは思ったのだ。
あの日記は、嘘だ、と。
遠慮がちにそう告げられてお金を受け取ったマビルは、じっとトモハルを見たが。
不思議そうに笑うとトモハルは、すぐにマビルから離れていく。
苦渋の選択、直前でトモハルは金を渡した。
けれども、そんなこと解らないマビルは、互いに案の定擦れ違ったまま、普段通り。
旅行を奈留と満喫していたマビルだが、恋人達が多く来ていたので羨ましくなった。
エステだけではない、マッサージも充実しているので男性にも心地良い。
水着で恋人達が楽しそうにメニューをこなしているので、マビルは何故かとても羨ましくなり、早く城に帰りたくなった。
夢のような場所で、綺麗な建物に美味しい料理、楽しかった。
楽しいが、ぽっかり心に大きな穴が空いている。
食事も恋人同士の多いこと、皆仲良さそうに語りながら食べていた。
「・・・」
「どした、真昼。ぽんぽ、痛い?」
「・・・別に」
ベッドに横になる、一人きりでシングルベッドに転がって、隣のベッドで寝ている奈留の寝息を聞きながら。
瞳を閉じて眠りについたマビルは、ほんの少し、夢を見た。
いや、夢を”描いた”。
今日見た、タラソテラピー中の恋人達。
手を伸ばして彼氏が待っているので、手を伸ばしてその手に掴まる。
二人して海水に浸かり、順番に仲良くプール内を廻って行くのだ。
「・・・いい、な・・・」
彼氏がタオルを持っていてくれて、水から上がれば優しくタオルで包んで拭いてくれる。
僅かな時間、離れ離れになって着替えをしたら食事だ。
「いい、な・・・」
何故か、涙が溢れてきたマビルは横になって瞳を擦った。
唇に涙が流れた、塩辛い涙の味。
トモハルは、赤色の海水パンツを履いていた。
以前二人でプールにも行ったし、海にも行った。
マビルの浮き輪を引っ張って、沖へ連れて行ってくれたのを思い出した。
トモハルは、その時マビルしか見ていなかったし、マビルだけのものだった。
それが、たまらなくマビルは嬉しかったのだということに、気づいてしまった。
いや、気づいていたので苦しくなった。
過去の自分がとても羨ましいのだ、トモハルと何の隔たりもなく一緒に居られたあの頃の自分がとても羨ましい。
過去の自分に、嫉妬。
旅行から帰った、お土産を買い込んだマビルは早速部屋に広げて物色を開始する。
全部コスメだ、自分用の。
満足そうに笑ってマビルは部屋を出る、部屋を出てトモハルと擦れ違った。
「おかえり、楽しかった?」
「うん、ちょー楽しかったよ! 流石あたしの彼氏っ」
「よかった・・・ね」
「うん」
「・・・」
「・・・」
沈黙。
急に言葉を失った二人はそこでじっと、立ち尽くす。
折角なのでマビルは言おうと思った、あの例の城下町の教会の話を。
けれども、それを告げたらトモハルはどうするのだろうか。
怖くて、言えない。
『トモハルが結婚式をあそこで挙げたら、みんな結婚式挙げてくれるよ!』
なんて、言えない。
言えずにいたら、トモハルのほうが笑みを浮かべて一人で頷き始めた。
「うん・・・。うん」
「な、何がうんなの?」
「あ、いや・・・。なんでもないよ」
笑ってトモハルはそのまま、通り過ぎていった、追いかけても仕方がないのでマビルは歩き出す。
ただ。
ただ、一言だけ言えばいいのだけれど。
それはマビルにだって解っているのだが、どうしても言葉が出てこない。
言いたいことはあるのだ、言わなければいけないことがあるのだけれど。
大きくなった嘘は、簡単に止められない。
マビルは、そっとトモハルの部屋へ向かった。
鍵はやっぱり開いていた、無防備にも程があるが部屋に盗られる物が何もないから、というトモハルの主張である。
この間の日記を探してみる、どうしても読んでみたい衝動に駆られたらしい。
机の上にはこの間の日記に、他に書類。
何処かにしまってあるのだろうけれど、あまり漁っても気づかれる。
右往左往していると、写真が目に留まった。
この間も見ていた写真だ、仲良く写っている、トモハルとマビルの写真。
「・・・あそぼ」
ぼそり、と呟いて日記を開いてみる。
追加されていた。
『気分が悪い。少し休憩しようかと思って申告したら休暇を貰えた。遊びに行って気晴らししてこよう』
日記を閉じ、ベッドに転がっていたら眠くなってきたのでマビルは慌てて重い体を起し、立ち上がろうとした。
早く出ないと、いつトモハルが帰宅するかわからないからだ。
その時、丁度運悪くドアが開きトモハルが入ってきた。
硬直する二人、上手い言い訳を考えるマビルと、唖然としているトモハルの二人の間に重苦しい空気が漂った。
「お、お金、ちょーだい」
「う、うん。また何処かへ行くの?」
「そ、そう! あ、あたし。色んなとこ、行きたいから」
「・・・ちょっと、待ってね」
トモハルは財布からお金を取り出すとマビルに手渡し、困ったように立ち尽くして頭をかく。
「・・・いってらっしゃい」
「う、うん」
「・・・他に用はあるかな?」
「別にないよ」
「そうか、なら・・・。もう、お帰り」
苦笑いしたトモハルに、マビルは心が重たくて泣きたくなって。
つまり、出て行け、ということだろう。
用事はないが、別に会話しても良いじゃないかと思ったのだが。
「・・・気味悪いから! あたしの写真剥がしてよ! 貼らないでよ、あんたなんかに見られたくないんだから!」
「ごめん・・・」
マビルは、がむしゃらに立ち上がって壁の写真に手をかけた、その写真、アサギと一緒に写っている。
ふと、急に何かを思い出し。
手が止まった。
『悪いことをしたと思えたら、それがすぐでも、すぐでなくてもいいから。
謝りなさい。悪いことをしてしまうのは、仕方がないことです、大事なのは気づいて謝れるかどうか。
・・・出来るよね?』
小さな溜息と共に手が伸びて、トモハルが写真を丁寧に剥がし始める。
その様子をじっとマビルは見ていた。
壁の写真も、机の写真立ても、綺麗に無くなってすっかり殺風景になった部屋。
本当は、剥がして欲しくなかったのかもしれないが、剥がされてしまった。
「・・・早く、お帰り。彼氏以外の男の部屋に居るもんじゃないよ」
ドアを開いて、トモハルはマビルの手を躊躇いがちに引くとそのままドアから連れ出して微笑。
「いってらっしゃい」
「・・・」
部屋に戻ったトモハルを見送りながら、マビルは手に貰ったお金を、力強く握り締めた。
簡単に写真を剥がしてしまったことが、腹立たしくも、哀しい。
追い出されたことが、とても・・・辛かった。
翌日、トモハルが地球の服で歩いているのを見つけたので、日記にあった休暇だと思い。
「ねぇ!」
上から声をかけたのだ、唐突に。
見上げたトモハルは不思議そうで、不機嫌そうだった。
「地球に行くの?」
それでもマビルは訊いてみる。
戸惑いがちに、トモハルは頷くと歩き出したので慌ててマビルが引き止めた。
「あ、あたしも行ってもいい!? な、何しに行くの?」
「え? ・・・何って、買い物とか」
「ちょ、ちょっと待ってて! 着替えるから!」
「え? え?」
マビルは有無を言わさず部屋に全力で戻ると、クローゼットを勢いよく開いて中のものを引っ張り出す。
着ていた服を脱ぎ捨て、豪快にそこに放り投げると全身鏡に服を当てて真剣に選び始めた。
服が決まらない、小物も決まらない。
一時間半かかってようやく完成、慌ててマビルは部屋を飛び出す。
トモハルが買ってくれた物で全部揃えた、息を切らせて走れば、トモハルは壁にもたれて待っていてくれた。
「お、お待たせ!」
「・・・行こうか」
「う、うん。あ、あのさ、今度の彼氏との旅行の服が欲しいんだよね! 可愛いの、買ってよ」
「あぁ、そっか」
どんどん声のトーンが低くなるトモハル、二人は無言で歩き出す。
昔、買い物といえば二人は手を繋いでいた。
しかし、前を歩くトモハルの手は片方はジーパンのポケットで、片方はぶらついたまま。
歩幅も以前より大きく、ヒールが高いマビルのパンプスではついていくのがやっとである。
昔は、マビルのバッグもトモハルが持っていてくれたのだが、今日は声すらかけてこない。
「トモハルは、何買うの?」
「いや、特に目的はないんだ」
懸命に追いついて、話しかけたがどうも、元気が無いトモハル。
迷惑なのだろうかと、不安になったがついてきてしまった。
マビルは適当に服を見た、昔はトモハルが選んでくれたが今日は店の端でぼーっと座っているだけだ。
買う気が起こらなくて、マビルは何も購入しなかった。
「昼、何食べる? あのイタリアンにしようか」
黒板を見つけ、イタリアンの店のメニューを見たトモハルはマビルに手招きしたのだが、マビルは別の店を指した。
いつか、子供の頃食べたハンバーガーの店である。
不思議そうにそこを見たトモハルだが、マビルが断固としてそこを押すので諦めてそちらへ出向く。
二人して向かい合って食べながら、マビルは昔に戻れたようで嬉しかったのだが。
トモハルは、不機嫌そうに外を見ていた。
怖くて声がかけられず、何か話を探すが思いつかない。
「・・・大人になったから、遠慮しなくても高い物食べさせてあげられるよ」
ぼそ、っと呟いたトモハル。
そうではない、ただマビルは。
「これが、食べたかったんだよ」
昔、二人で楽しく食べたハンバーガーを、再現したかっただけだが時の流れでそれは戻らないらしい。
二人は昼食後もだらだらと何も目的なく、ふらついただけだった。
夕飯を摂り、周囲はライトで照らさないと見えない暗闇。
結局何も買わずに、二人は静かに車に乗り込む。
「・・・帰ろうか」
「そ、そだね」
車は静かに動き出し、マビルにも解る、一直線でトモハルの地球の自宅に帰っていた。
まだ、遅いわけではない。
映画を観たり、夜景を見たり。
「む、昔はさ、もっと遅くまで二人で遊んだよね」
一緒に居たくてマビルはそう言った、トモハルから返事は無い。
ちらりと盗み見れば、横顔が不機嫌そうだ。
「ねぇ、何怒ってるわけ」
いい加減いらついて、マビルは単刀直入で訊いてみる、釈然としないのだ。
「怒ってないよ」
「怒ってるじゃん、何その態度」
急発進した車、マビルの身体が前後に揺れ顔を顰める。
運転が荒くなり、思わずその速さに恐怖を覚えたマビルは小さく叫んだ。
昔は、そんなことなかったのに。
道を逸れて、コンビニの駐車場に停まった車、トモハルは降りてジュースを買いに行った。
心臓が、どきどきする。
別人のトモハルに、戸惑いを隠すことが出来ない。
「・・・はい」
フルーツジュースだ、昔飲んだ甘いジュース。
手渡され、喉が渇いていたので思わず一気に飲んだマビル、飲み終わるのを見計らってトモハルは呟いた。
「俺はミノルの家に泊まるからさ、呑みに行くんだ。彼氏に迎えに来てもらいなよ、地球に居るんだし」
「え、そうなの? きょ、今日は会う予定じゃないし」
「とりあえず、送るから。城に戻ってもいいし」
「あ、あたしも一緒に呑むよ。まだ早いよ」
「・・・駄目だよ」
動き出す車、拒否されて口を噤んだマビルを乗せて近づくトモハルの自宅。
スカートを握り締め、マビルは何度も口を開きかける。
「ほ、星が綺麗だから、星観に行かない?」
「・・・ミノルが、待ってるんだ」
「少し、少しだけ!」
引き攣った笑顔でトモハルに笑えば、トモハルは溜息を吐いて車の方向を変え始める。
ほっと胸を撫で下ろし、マビルは時間を稼いだことに安堵を憶えた。
ついたのは高台の公園、星が綺麗に見られる有名な場所である。
「でもさ、マビル。空気が淀んでいるから、クレオから見たほうが綺麗だよ」
違う。
そういう問題ではない、マビルはトモハルと居たいだけだった。
「帰ろう」
「う・・・」
トモハルに無理やり車に乗せられて、マビルはまた、スカートを握り締めた。
エンジンがかかる、車が動く、・・・家に、帰る。
「映画! 映画観よう!」
「だから・・・」
思わずトモハルの手に触れたマビルだったが、その手は払い除けられた。
呆然と手を見るマビル、舌打してトモハルはエンジンをふかす。
「帰ろう。早く帰ろう」
「な、なんなのあんた、今日! つまんない男!」
途端、車が停止しシートベルトを外したトモハル、マビルの視界から消えたように思えた、が。
「っ!?」
急にシートを倒されて、そのままトモハルが覆い被さってきた。
顎を持たれて唇を塞がれる、無理やり口が開かれて舌が入ってきた。
上がる体温、思わずマビルは足をばたつかせたのだが、力が強すぎてトモハルを跳ね除けられない。
「ん、んんっ」
呼吸もままならず、ただ、ひたすらに口付けを。
ようやく解放されたのは何分後だろうか。
力なく、ぐったりと寝そべっているマビルに、荒い呼吸でトモハルは舌打し、ハンドルを思い切り殴りつけた。
「男なんだよ! 俺は、マビルの彼氏じゃない男なんだ!
勝手に部屋に入って、俺のベッドで寝るなっ。
彼氏以外の男と気安く出掛けるな! 何度も言っただろ、俺はマビルが好きなんだからこうなって怖い目に遭うんだよ!」
再度舌打、エンジンをかけて車は動き出す。
助手席で震えているマビルを直視できず、トモハルは顔を顰めた。
「気持ち悪いだろ、俺。それでもマビルが好きだからさ、こうなるんだよ。・・・二人で出掛けるのは懲りたろ?」
返事が無いマビル、流石に不安になってトモハルは車をわき道に止めた。
泣いてるらしい、やりすぎた、と唇を噛み締めたトモハル。
「彼氏の家に送るよ、何処?」
「・・・」
「ごめん」
「・・・」
「好きなんだ、上手く、マビルと二人で居られないんだよ」
「・・・」
「ごめん」
「・・・その道、真っ直ぐ」
泣きながら言ったマビル、少し安堵し、そして急に押し寄せてきた恐怖にトモハルは自嘲気味に笑うと車を動かした。
彼氏に殴られるつもりだった、キスしてしまったし、泣かせたのだから。
シートを起し、身体を起こしたマビルは涙を拭くと何かを探すように周囲を見渡している。
「あんたさ、いっつも女にこういうことしてるの?」
窓を開けて夜風に当たりつつ、はっきりと言ったマビル。
憤慨してトモハルは再度ハンドルを殴りつけた、思わず恐怖で縮こまるマビル。
「するか! 俺は好きな子としか二人で出掛けない! 出掛けたこともない!」
「・・・そこ、左」
左に曲がった車、マビルは無言でいたが、的確に道をトモハルに伝えた。
「そこ、真っ直ぐ」
「変わった場所にあるんだね」
灯りが少なくなった、高い山に登っていくように。
この山を越えるのかと思って居た、山の頂上に家などない。
あるのは。
「ここ、入って」
「は?」
車、停止。
唖然と見上げるトモハルの隣で、マビルは無言である。
「待て、ここ・・・」
「ここ、入って。いーから、入って!」
「駄目だよ、ここ、彼氏の家じゃないだろ!?」
「ここなの! いいからっ」
悲鳴に近い声を出すマビル、トモハルはしかめっ面でもう一度、それを見上げた。
うっすらとしたピンクの光が妖しい、可愛らしい外見の建物だ。
どこをどう見ても、ラブホテルである。
「入って。いいから、何も言わずにあたしの言う事を聞いて、ここに入って」
「さっきの話、聴いてなかっただろ!? 俺は」
「ちゃんと聞いたから、入ってよっ」
ぼたり、と涙がトモハルの手に落ちて来た。
マビルが、泣いている。
言葉に詰まったトモハルは、仕方なく、震える手でそこへと入る。
車を止めて二人して車から下り、建物に入った。
どうやら車を止めたら自動的に部屋が決まるシステムらしく、二人は迷うことなく一つの部屋に案内される。
で、入った。
「・・・俺、初めて入った」
「あたしも」
ようやく顔を見合わせると、二人して一目散に散らばる。
部屋の中は薄暗い紫の光だった、ようやくとんでもない事態に気づきトモハルは冷や汗を全身から噴き出す。
「ま、マビル。俺、床で寝るから。不安なら手を縛ってもいいし」
「ここ、憶えてる?」
「え?」
入った記憶など、ないはずだ。
マビルは暗がりでもそもそと動きながら、ぼそぼそと呟いた。
「ほら免許とって、最初のドライブでトモハル、迷子になってここを通ったの。綺麗な建物だったから、あたし気に入ってさ、行きたい、って言ったら赤面してトモハル、教えてくれたの。
ここ、ラブホって言うんでしょ? えっちするとこなんだよね」
腰が抜けて倒れ込むトモハル、マビルはワンピースを脱ぎ捨て下着姿で立っていた。
「マビル、いい加減に人をからかうのもっ」
「トモハル、嘘つきだもん」
ずかずかと歩き出し、マビルはトモハルを殴りつけた。
・・・凄い図だ。
だが、マビルの腕を軽々と掴むと舌打ちしてベッドに押さえつける。
「ほら、怖いだろ!? 何考えてるわけ!?」
「全部嘘でしょ、こういうトコ、来た事あるんでしょ!? あたしのこと好き好き言ってさ、嘘ばっかり!
き、キスだって上手いし、今だって手馴れてる! あたしの裸見ても冷静!
毎晩女はべらして、いかがわしいことしてるんじゃん!」
「はぁ!?」
「嘘つき変態、どエロトモハル! あんたなんかだいっ嫌いだ!」
「嘘つきで変態で、どエロな男とラブホになんか入るなよ!」
マビルを突き飛ばし、トモハルは踵を返す。
「・・・朝、迎えに来るよ。お金はちゃんと払って説明して、俺、車で寝るから」
「嘘つきで変態で、どエロじゃないって、ちゃんと説明しないわけ!? 認めるの!?」
叫んだマビル、再びベッドに押し倒されて小さな悲鳴を上げた。
唇をまた、塞がれそうになったが寸止め。
荒い呼吸でトモハルが睨みつけている。
「・・・ずっと、何度も言ってる。出遭った時からマビルが好きだ、マビルしか見てない。・・・愛してる」
「言葉、言葉が安っぽい!」
赤面したマビルだが、幸いというか生憎というか証明の光のおかげでばれずにすんだ。
「誰にでも言ってさ、ついてくる女を食べちゃうんだ!」
「言ってない! 俺は、マビルが」
言葉を飲み込んだトモハル、何を言おうとしたのか、気になる。
「俺、は、さ。俺は・・・」
「証拠見せなよ! あたしが好きだって証拠、ちゃんと見せてよ!」
弾かれたように抱き締められ、トモハルの重みがマビルにのしかかった。
だが、それだけだ。
震える腕で抱きとめられながら、トモハルは、小さく、ようやく。
「本当は、行かないで欲しいんだ。ずっと、好きだったんだ。必ず、俺が幸せにしてみせるから、他の男と仲良くしないで欲しいんだ。
でも、俺は。・・・マビルに死なれたら生きていけないから、だから」
「・・・し、死ぬ?」
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