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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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魔王ハイの船旅が始まった。
魔王の一喝にそれまでのんびりと乗船していた魔族達であったが、機敏な動きに早変わり。
魔王が早く船を出せ、と叫んだのだ、従わなければ殺されると思い込んだのだろう。
我先に、と押し合いながら乗船していく。


ハイは最も豪華な船室を当然のように用意され、丁重に持成された。
魔族達の知り得る魔王ハイといえば、現在四人揃った魔王の中で最も残虐性の高い非道な魔王である。
闇の属性魔法に関しては右に出るものもなく、とても人間とは思えない魔力である、と噂されていた。
その為出港して船旅が始まるわけだが、魔族たちはハイを恐れて誰一人として近寄らない。
まぁ、当然だろう。
ハイは船が物珍しかったので、緊張し逃げ惑う魔族達にお構いなく、毎日探索である。
勝手に厨房に侵入し、無断で操縦室へ出向き、甲板で日向ぼっこ。
魔王なので誰も咎められない、機嫌を損ねないように愛想笑いで一目散に通り過ぎる。
ところが。
甲板でぼけーっと海を眺めていたハイの足元に、小さな鞠が転がり込んできた昼下がり。
魔族の小さな少年が遊んでいた鞠らしく、転がった先に立っていたハイの姿を見て小さく叫んだ両親とは反対に、少年は臆する事無く近寄った。
ハイは鞠を拾い上げると、近寄ってきて手を伸ばした少年に屈んで鞠を返すと、徐にその頭を撫でる。

「ありがとう、ハイ様っ」
「それは、面白いか?」
「うん、これはね、誕生日にお父さんが買ってくれた宝物の鞠なんだよ」
「ほう、良い事だ」

瞳を細めて、少年の視線に合わせて語るハイ、その光景を恐る恐る見つめていた魔族達は首を傾げる。
・・・魔王ハイが、穏やかに笑った。
・・・魔王ハイ、笑えたんだ。
・・・あの少年、殺されるかと思ったのに。
唖然と事の成り行きを見守っていた魔族達、少年とハイは、鞠で遊んでいる。
それはそれは、楽しそうだった、少年は勿論、ハイも無邪気に笑っている。

「あ、の。魔王ハイ様っ」
「ん?」
「お父さん、お母さん! ハイ様とっても優しいね!」

恐怖に打ち勝った両親は遅れてハイに語りかけた、遠目で見ていたが、ハイが噂とは違うと気づき始めたからである。
息子を抱きとめて、深く礼をする両親にハイは口元を綻ばせたままだった。

「楽しかった、ありがとう。また遊んでみたいものだ」
「うん、ハイ様! また一緒に遊んでね」
「あぁ、約束しよう」

少年はすっかりハイが気に入ったらしく、足に抱きついて離れようとしない。
そんな光景後、徐々にハイに語りかける魔族達が増加していった。
ハイは同僚の魔王達の話を集まった魔族達に聞かせた。
普段は雲の上の存在である魔王達、その日常を聞いて騒然となる。
特にリュウの話は人気があり、困惑しながら語るハイの表情が愉快で、魔族達は毎日話を聞きにハイの元へ集まった。
勇者を見てから、ハイは変わった。
魔王と呼ばれる前は、実際今と変わらなかった。
このように人の中心で会話し、真面目で笑顔も堪えることない愛される神官だった。
とある事件を切欠に、全てを拒絶し、近寄り難い雰囲気を出していたのだ。
船内では魔王ハイに心酔する魔族達も少なくはなく、いつの間にか人気者である。
以前のハイのイメージは掻き消され、親しみやすい魔王のイメージが固定される。
毎日毎日、朝から晩まで、ハイの元には魔族達が耐える事無く通い詰める。
ハイとて、久しぶりに大勢と会話するので、多少の疲労感はあるものの楽しかったので気にも留めなかった。
ところでこの船、原動力は魔導師達が創った人型の霊体。
甲板下で漕いでいるわけで、疲労も感じない為常に進み続ける。
人間達の操縦する船とは大きさも速度も断然優れているわけなのだが、ハイに解る訳もなく。

「おい、まだ到着しないのか?」

魔界からジェノヴァまでの距離すら知らないハイは、時間の合間を見ては船長に詰め寄っていた。
その度に血相抱えて謝罪をする船長、気の毒である。
遅いから責任とって死ね・・・という台詞は吐かないにしろ、相手は魔王なのだ、どうにかしたいのも山々。
今も甲板では船長である中年の魔族が、懸命に謝罪しつつ宥めていた。

「申し訳有りません、ハイ様。これでも予定よりは進みが速いのです。えー、地図を見て下さい。現在この付近を航海中です。目的地はここです」
「・・・遠いな」
「遠いですね」
「早くしないとあの子が移動してしまうのだ、なんとかしてくれ」
「どうにもなりませんよ」

むっすりと膨れ返るハイ、苦笑いしつつ必死で説得を繰り返す船長。
が、不意に思い立ったように船長は腕を組んで考え込んだ。
暫くして、戸惑いがちにハイに声をかける。

「ハイ様、上手く行くかは保障できませんが、試してみる価値はあるかもしれません」
「何が?」
「風系の呪文は、得意ですか?」
「あぁ、一通りは」
「・・・やってみましょうか」

船長はハイを連れて船尾へと歩いて行く、海原を見つめながら神妙に頷いて、説明を開始する。

「速度を、上げてみましょうか。実際行った験しがありませんので、再度言いますが保障は出来ません。風の呪文の衝撃で、この船体に力を加えて・・・」
「説明は良い、私はどうすれば良いのだ? 結論を言え、結論を」
「えーっとですね。海目掛けて風の呪文をお願いします。次いで、帆が破れない程度に帆に向かっても風を。成功すれば速度が上がります」
「よし、解った。真空大激波」

船長の言葉が言い終わらないうちに、ハイは最大の風の魔法を発動する。
短時間での詠唱であったが、その辺りは魔王ハイである、威力もそこらの術者よりも格段に上であった。
風が吹き荒れる、ハイの突き出した両手から巻き起こった疾風の波動によって、微かに空気の流れが変わる。
次いで帆へ向けて、軽めに唱えてみたハイ。
帆が不自然な風に煽られたと思ったら、突如船体は大きく傾き、次の瞬間海の上を走るかの如く疾走し始めた。

「うわーっ!!!!!」

船内に居た魔族達が壁に叩きつけられる、甲板に居た魔族達が悲鳴を上げて吹き飛ばされた。
幸いにも海へと放り出される事はなかったようだが、大勢何かしらの痛手を負った。
悲惨なのは船長である、是ほどまでとは予測していなかったが為に、ギリギリのところで手すりに捉まって居た。
鯉幟の様にひらひらとはためく船長。
ハイは自身だけ、空気抵抗を和らげる防御の呪文を身に纏っており、何食わぬ顔で海を眺めている。
理不尽な速さで進む船体、甲板下では霊体がオールに巻き込まれていた。
叫び声と共に前進する船、この日、人間の船がこの様子を捉えたのだがとても船には見えなかったらしい。
水しぶきを盛大に上げて海を走る巨大な生物、そのようにしか見えなかったので全員武装の態勢をとった。

「よーし、結構結構。これならば速く到着出来そうだな」

豪快に笑うハイ、船上では未だに悲鳴は消えていない。
ハイはのんびりと強い日差しを浴びながら、水しぶきで作られた虹をうっとりと見ていた。
何度も言うが、BGMは魔族達の盛大な悲鳴である。
海中でも魚達がその衝撃で気絶をし、時折甲板に打ち上げられていた。
この調子で、毎日船は目的地へと向かう。
そう、魔王が勇者に会う為に。

闇の中で、何かが蠢いた。
豪快に笑い出すそれ、蛙の潰れた様な耳障りな、声。
魔王ミラボー、ただ暗黒の中に身を潜めているその魔王。
妖しく光り輝く水晶を見つめながら、この世のものとは思えないほどの不快な笑い声を発している。
発狂しそうな位に、耳を塞いでも脳に直接響いてしまうような、笑い声。
目を凝らせば傍らに女性が1人、立っていた。
黒髪で無気力な瞳の、なかなか整った顔立ちの・・・人間。
彼女は顔色一つ変える事無く、ミラボーの傍らに仕えている。

「ハイが勇者を迎えに行った。愉快愉快」

水晶に映っているのは、紛れもなく勇者アサギである。
次いで、ハイが映し出される。

「この娘、面白いな。あのハイを短期間で心変わりさせた。逢わずともただ、一目見ただけで、あそこまで変えた。『魅力』が常に発動しているのだろうな、あの娘」

重低音で笑うミラボー、身に纏っている宝石が、煌びやかに光る。
あの洞窟内にて、ハイこそ知り得なかったのだがミラボーは内密に音声を拾い上げていた。
ハイよりも先に勇者達に手下を接触させ、映像は見る事が出来なかったが音声を聴き取っていたのだ。

『この娘、人間じゃな』

そう、吸血鬼クーバーが最期に漏らした言葉である。
人間ではない娘。
魔王すら一瞬で虜にした娘。

「確信はない、あくまで憶測だ」

傍らの女に、含み笑いで語る。

「魔王を一目で虜に出来る『魅力』の持ち主で、勇者。そして音声からこの娘の血液が何やら特殊であるという事・・・。以上を踏まえてエルフに近い存在とみてとった」

『・・・エルフ? あぁ、エルフの血に似てる気がするー。人間の血にしては妙に甘いんだよな、この子』

クーバーの言葉を自身で口にして、笑うミラボー。
エルフ。
一般的に姿を見せる事無く、ひっそりと何処かの山奥で結界を張り、外部からの進入を極力拒んで生活している種族である。
その容姿は皆美しく、誰もが瞳を、心を奪われる。
エルフの血肉は、魔力増幅の秘薬であるという事実も今は知り得る者も少ない。
血液を体内に取り込めば、かなり魔力の飛躍になるのだが、それよりも一滴残らず血も肉も喰らい尽くしたほうが当然飛躍率は高い。
故にエルフをその目的で捕らえた邪な者達は、全員エルフを喰らい尽くした。
時代に名を轟かせた魔導師達ほとんどが、実際のところエルフの血肉を取り込んでいた、といっても過言ではない。
エルフ達とて喰われるだけの存在ではない、その為手に入れたくとも容易くは手に入らない。
ミラボーとて例外ではなく、3星にてエルフを喰らい今の魔王の地位を手に入れたのだ。
その数は、10を越える。
ただ己の欲望の為に、自身の魔力を高める為だけに。
魔王として君臨するために、人間達を、そして髪をも支配下に置く為に。
3星を制圧したといっても過言ではないミラボー、4星へと足を踏み入れた。
そこの魔王アレクは至って穏やかな青年だった、虫唾が走った。
全く人間を制圧するという意思が見られず、変革を期待していない無能な魔王。
そのような魔王ならば潰して成り代わってしまおう、ミラボーはその意図でアレクに近づいた。
けれども魔力は本物、ミラボーとは互角であると判断する。
ミラボーは水面下でエルフを捜した、悟られないように単独で。
アレクの能力を超える為には、あと何人かのエルフを喰らわねばならなかった。
絶対的な力でアレクを抹殺する為には、最低でも二人は欲しい。
4星を手中にする・・・ミラボーの次の欲望である。

「二人が、どこまで魔力増幅の糧になるかは解らないが、血統書つきではあるかな」

笑う、笑う、ただ、笑う。
水晶に映るのはアサギともう1人。
金の長い髪、明快な美しい女性が映っていた。
アレクが時折城を留守にしていたことは、以前から気になっていた。
不審に思い幾多の魔族を唆して調べ上げたらば、ミラボーには予期せぬ歓喜の事実が判明する。
魔王アレクの出向く先は、恋人の元。
その恋人がよもやエルフだったとは、ミラボーの嬉しい誤算である。
ただ、エルフと魔族の混血らしく、生粋のエルフではなかった。
けれども、エルフの王族の血を引いている。
何処までが真実かは定かではないが、ミラボーが突き止めた過去はこうだ。
エルフの里を抜け出した1人の王女は、森の中で水浴びをしていたという。
偶然通りかかった魔族の青年は、その王女に心を奪われて欲望のまま王女を犯してしまう。
その結果、王女はその魔族の青年の子供を身篭ったわけだ。
子供に罪はなく、魔族の青年を放り出しエルフ達はひっそりと混血の子を育てる事にした。
が、王女もまた、魔族の青年に心惹かれており、反対されながらもエルフの里で魔族の青年も暮らす事が許されたのだ。
混血の王女、名をロシファという。
多種族と交わった為か、寿命短く両親は他界したのだが、非難を浴びる事無く愛されて育ったロシファ。
魔族の父も繊細な顔立ちをしていた為、当然外見も美しく成長する。
蝶よ花よと甘やかされて育てられた為だろうか、多少元気が良すぎるのが周囲の悩みの種である。
そんな予感は的中し、エルフの里を好奇心で飛び出したロシファ、血相変えて連れ戻しに出たエルフ達であるが、母親と同じく魔族の青年に出会ってしまう。
そう、運命に導かれるがままに。
銀髪の長い髪を風に靡かせ、聡明なその魔族の青年と。
金髪の長い髪を風に靡かせた、可憐なエルフの少女。
一目で互いに恋に落ちた二人は、魔族の王とエルフの王女。
母親と同じように魔族の男に見惚れたエルフの王女に、案の定周りは反対する。
しかし、父親と同じくアレクは純粋で真面目な青年だった。
とても、魔王として一族を率いているとは思えないほど、健気でどちらかというと弱々しくすら思える。
一方ロシファは、天真爛漫で怖いもの知らずの無鉄砲、アレクに対しても遠慮がない。
アレクが魔王だとするならば、上手くいけば魔族とは協定を結びひっそりと暮らさずともよくなるかもしれない、と未来を描き始めたエルフ達は二人の仲を許可した。
仲睦まじく共に過ごす二人を見ているのは心地よく、またアレクの人柄もエルフ達は好いていた。
エルフの里では魔王アレクを受け入れ、時間を見つけては無理をして訪れるアレクを持成す。
混血のエルフの王女を喰らうことが、ミラボーの願望だ。
そして勇者の娘。

「エルフの可能性は無きに等しいだろう、だが、その血に増幅効果があるのならば喰らってやろう」

勇者には特殊な血でも流れているのだろうか? ミラボーとて勇者を見たのは初めてのことである。
増幅にならずとも、喰らった時点で勇者は消滅、葬り去れるのだからどちらに転んでもミラボーに損はない。
魔王アレクの恋人・エルフの王女ロシファ。
魔王ハイの想い人・勇者アサギ。
この二人を喰らってしまいたい、喰らって自身の力を無限にしてみたい。

「さらばだ、エルフの王女と勇者の娘。恨むなら己の血を憎むが良い。そしてアレクとハイよ、娘らと出遭ってしまった己の不幸を嘆くが良い」

愉快である。
笑いが止まらない。
魔王アレクと魔王ハイが愕然として、自分に成す術もなく朽ち落ちる瞬間を見てみたい。
魔王リュウは、そこまで他人に関心をしめさないように見て取れるので、干渉はしてこないだろう。
流石に三人の魔王を相手には出来ない、だが単独ならば簡単に抹殺できそうだった。
あと二人、エルフを喰らえさえすれば。
魔王ハイは、勇者を迎えにいった、そそのかされて、迎えに行った。
近いうちに勇者を連れて戻ってくるだろう、隙を見て喰らってしまえばいいのだ。

「さて、どちらの娘を先に喰らうべきかねぇ」

エーア、とミラボーは呟く。
傍らの女が短く返事をした。

「どちらの娘を喰らうのが得策だ?」
「エルフの王女ではないでしょうか? ハイが連れて来る娘には隙がないように思えます。片時もハイが離れないでしょうから。とするならばやはり王女のほうかと」

透き通った声で、淡々と語るエーア、と呼ばれた女。
表所を変えずに語ると、一礼して下がっていく。

「そうだな、それが良いだろうな。くくく・・・ハイ、早く勇者を連れて来い。アサギという名の勇者を連れて来い。可哀想なハイ、何も知らずに」

闇の中でミラボーが腹を抱えて笑い転げる、延々と、笑い転げる。
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