別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
×
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数分後。
「で。何の用だ」
回復したハイは、一応客のリュウに機嫌悪そうに紅茶を差し出す。
大好きな鏡鑑賞を邪魔されたのだ、不機嫌にもなるだろう。
おまけにこの部屋には鏡がない、のでアサギの姿が観えないわけで。
形ばかりのもてなしを受けたリュウも、不服そうに唇を尖らせる。
甘党のリュウは、砂糖が入っていないその紅茶を渋々口に含んだ。
不満な待遇にリュウは眉を顰めるのだが、砂糖と茶菓子がない、ということだけではなかった。
ハイが先程から大事そうに抱いている人形、視線が釘付けになる。
重苦しい沈黙の後、ようやくリュウが切り出す。
「その人形・・・ハイが作ったの?」
「当然。可愛いだろう、触らせないからな。こう見えても幼い頃から裁縫は得意で」
いや、得意かどうかは訊いてないのだがっ、と心で叫ぶリュウ。
嫌悪感の瞳でリュウを睨みつけるハイ、その視線で人形を大事にしている度合いが判明した。
魔王ハイに真正面から凄まれる、原因が人形である事に頭痛しつつ。
「や、触らないから安心するのだ」
苦笑いでそう告げると、ハイは安堵して人形をぎゅう、と抱き締める。
呆然、怖いよ、ハイ。
本物に触れないから人の道を誤ったようだ、人形を愛でる事にしたのだろうか。
「今日は、ハイを助けようと思ってきたのだ。イイモノをわざわざ調達してやったんだから、感謝するように」
「イイモノ?」
助けてやる、とリュウに言われても胡散臭い。
アレクに言われれば喜んで聞き入れていたのだろうが、生憎相手はリュウだった。
俄かに信じられない、当然である。
親身になって考えてくれそうもない相手である、不機嫌な声で紅茶を啜りながら返答する。
「惚れ薬を持ってきたのだ」
「不要だ。そんな外道な物は使わない」
予想以上の即答に多少リュウはたじろいだ、明確に呟きのほほんと紅茶を啜っているハイを見つめつつ軽く仰け反って次の手を考える。
「ふーん。じゃあこれは? 媚薬、効果抜群」
ハイの目の前に小瓶を差し出す、中身は紫、毒々しいほどの紫。
軽く振ると、ねっとりとした感じの液体らしく、ゆっくりと動いた。
「びやく? なんだそれは?」
「え、知らないの? 口にすれば誰でも淫乱になってしまうという便利な代物なのだ」
先程の惚れ薬よりも性質が悪い物体である。
別にリュウの所持品で、毎回フル活用しているわけではなく、わざわざハイ用に取り寄せた媚薬。
特に男女の色恋ごとに興味のないリュウにとって、それこそこの薬は不要だ。
低く唸って軽く睨みつけるように自分を見てくるハイに、リュウは苛立ちを覚える。
「いいじゃん、魔王だから。奪っちゃえ。勇者をこれでモノにすればいいのだ」
「モノにするだなんて、そんなこと」
顔は赤らめずに、遺憾を憶えて唇を噛み締めるハイに、不服そうにリュウは頬を膨らませる。
「モノにしちゃえば、ハイが飽きるまで傍にいるよ」
「そんなことして傍に居て貰っても私は嬉しくないっ! あの子の意志で私の傍にいて欲しいと思う」
「でも、魔王と勇者だもん。無理だよ」
「私は、力でどうこうするのではなく、私自身を知ってもらって心を通わせたい。それが、『愛』というものであると思う」
「愛? いつから聖職者になったのだ、ハイ?」
「・・・もういい、帰ってくれ」
力なくリュウを見つめると、ハイは悔しそうに唇を噛み締め項垂れる。
精神的に疲労が激しい、魔王と勇者だなんて、他人に言われなくてもわかっていた。
おまけに、自分の口から『愛』なんて甘ったるい単語が飛び出た事にも激震。
更に聖職者と言われた事にも、動揺。
テーブルに突っ伏してそれ以上何も語ろうとしないハイに、深い溜息一つ零してリュウは部屋を後にする。
「これは・・・重症なのだー。手に負えないかも」
リュウは廊下の壁に持たれて、持参した小瓶たちを忌々しそうに見つめる。
まぁでも、ちょっと、楽しいかもしれない、かな。
ハイのあんな姿を見るのは初めてだった、余裕がなさ過ぎる。
翌日、噂を聞きつけて今度は魔王ミラボーがやってきた。
勇者を攫ってしまえばよい、と。
直接ハイが出向いて、魔界へ連れてこればいいのではないか、と。
「勇者を魔界へ連れて来い、と? 確かに逢いたいが・・・」
魔王自ら勇者をご招待、というのは如何なものか。
苦笑いするハイに、ミラボーは妙に親身になる。
「逢う方法はこれしかないのでは? 多少強引かもしれないが、そこはハイ、説得すれば良い。ハイ次第だ」
「うんうん。本当にハイがあの勇者のことを大事に思うのなら、説得すればいいんだよ」
いつの間にやらリュウも参加し、ミラボーに同意している。
勇者が魔界へ来るとしたら、魔王を倒しに来る時だけだろう。
それ以外にどんな用事があって訪れるものか。
「拒否されたら、耐えられない」
女々しい事を言い出したハイに、頭を抱えるミラボーとリュウ。
「攫ってしまえばいい、拒否されても強引に」
「うんうん、攫ってきてから説得すればいいのだー」
「そんな無茶苦茶な! 自害でもされたらどうすれば!?」
混乱と焦燥感、ハイは部屋をうろつきながら、頭を捻っている。
ええい、優柔不断な魔王め! 先日までの冷酷な威勢はどうしたんだ。
「ここで実行しないと、永遠に逢えない。というか、逢うとしたら決戦の場でになる」
「良く考えるんだ、説得が成功するかしないかはハイ次第なのだー。今が大事、まずは実行実行!」
必死に願ったら、勇者は快く魔界へ来てくれるだろうか?
敵意がないことを誠意を持って話せば、理解してくれるだろうか?
魔界へ連れてこれば、一緒に話が出来るし、散歩だって出来る。
全ては自分次第、自分の行動で運命が決まる。
ハイは徐に顔を上げると、決意の思いを宿した瞳で深く大きく頷いた。
腹をくくったらしい。
「・・・解った、私が出向いてみよう」
「そうかそうか、よく決意した! 早速行くがいい」
「ハイ、頑張れー」
ミラボーが嬉しそうに頷いて不気味な笑顔を浮かべた、これでも本人は心底喜んでいるらしい。
けれども、ハイは首を横に振った、怪訝に眉を潜めるミラボーとリュウ。
未だ何か問題が!?
「何故なのだー?」
釈然としないハイに微かな苛立ちを見せるリュウ、足を踏み鳴らす。
が、ハイは今まで誰にも見せなかった爽やか過ぎる笑顔を浮かべて、頬を赤く染めるとこう言い放った。
「あの子に部屋を一つ用意したい。衣装とか、家具も揃えて。・・・可愛いから、たくさん洋服を買ってあげたくて」
あ、そう。
リュウは項垂れて、勢い余ってやる気満々のハイをそっと見つめた。
物凄い勢いで部屋を飛び出し、アレクの元へと出向くハイを力なく見送る。
アレクに直談判し、ハイの隣の部屋を貰い受け、直様大掃除が始まった。
若い魔族の少女達を調査し、『あなたが憧れる住みたいお部屋』を造り出す。
洋服も流行のものを取り揃えた、あとはハイの趣味で何やら色々と買い足される。
ハイ監修の元、豪華で可愛らしい部屋が徐々に完成していった。
数日経過したが、ハイ的には満足だったようで人形を胸に抱きつつその完成した部屋を感激して見つめた。
「気に入ってくれると良いのだが」
もうすぐ、逢える。
人形を抱き締めて、感動に打ち震え。
嬉しくて堪らない、説得が成功してこの部屋に連れてきて、それで。
『ごらん、ここが君の部屋だよ』
『まぁ、なんて素敵なお部屋! 感激ですっ』
『いやいや、礼には及ばないよ。気に入って貰えたのなら十分だ』
『ハイ様・・・ありがとうございます、大好きっ』
『いやいや、そんな、あーっはっはっはっはっは・・・』
あーっはっはっは・・・
五月蝿いほどのハイの笑い声が部屋中に響き渡る、未だ作業をしていた数人の魔族が青褪めた顔でそっと部屋から出て行った。
鋭意妄想中のハイ、リュウすら声をかける事ができず、薄ら笑いを浮かべていた。
くるくると舞いながら、人形と踊るハイ、魔王の威厳、0。
あぁもう、この人ダメだ・・・。
頭を抱えて流石のリュウも何もかも放り出したくなった、テンションが高すぎてついていけない。
「ハイ、ハイ。いい加減迎えに行かなくていいのー? 主役がいないよ、この部屋に」
絶賛妄想中、大声で叫ぶリュウに、ハイはようやく我に返る。
照れ笑いを浮かべて、ふふふ、と含み笑い。
「よし、では準備も整った事だし出向こうか」
「いってらっしゃーい」
高笑いを残してハイは城を後にした、さぁ、勇者を迎えに行こうか!
けれども。
「・・・」
城から出て数歩、何処へ行けばよいのかわからない事に気がついたハイ。
この城から出るのも初めてだった、この星の地理を全く知らない。
慌てて頼みの綱のアレクの部屋へと出向いたのだが、生憎留守である。
仕方ないので渋々リュウの元へと戻ったのだが、「自分で頑張れー」と笑顔で追い返された。
廻り廻ってミラボーを尋ねるハイ、リュウに対しての文句をぶつぶつと声に出しながら歩いた。
ミラボーの部屋は妙に湿気が多い上に、日光が入っていないので正直苦手な場所である。
が、今は一大事だ、それどころではない。
快く地図と宝石を数個手渡されて、簡単な説明を受けた。
「城の屋上に『港行きドラゴン乗り場』があるから、それに乗ってまずは港へ。そこから人間の街『ジェノヴァ』行きの船が出ている。勇者達もジェノヴァを目指しているようだし、そこで出遭えるはずだ」
「そうか、ありがとう。助かる」
親切にしてもらって、はにかみながら会釈するハイ。
部屋を飛び出し屋上へと向かう、踝までも覆い隠すハイの衣服が初めて邪魔だと思った。
上手く走る事が出来ず、裾を引っ張り上げて真剣な面持ちで駆け抜ける。
屋上に飛び出し、港へ行きたいことを告げると魔王なだけあって直様一体のドラゴンが用意された。
まだ若いドラゴンナイトが緊張した様子で、硬直気味に手を差し伸べる。
貧乏くじを引いたらしい、何が哀しくて魔王を送り届けなければいけないのか。
「このドラゴンで私はジェノヴァという場所まで連れて行ってくれないか?」
「む、無茶言わないでくださいよ! 僕とこのドラゴンでは長距離の飛行が出来ません。精々この魔界の一周が出来るくらいです」
「なんだ、役に立たないではないか」
「うぅ・・・。ぼ、僕はまだ未熟なので。隊長クラスのドラゴンナイトならば可能でしょうけど・・・。そもそも、このドラゴンとて長距離の移動は不可能です。互いが信頼しあった真のドラゴンナイトと相棒のドラゴンでないと、あんな場所へは」
「では、隊長クラスのドラゴンナイトとやらを出せ」
「い、今不在なんですっ。あー・・・」
困り果て嫌な汗をかいている若いドラゴンナイト、隣にいて気の毒そうに自分を見ていた同僚に思わず声をかける。
こっちへ振るな、と後退りする同僚。
「トビィは? 今何処に居るっけ?」
「トビィはこの間から旅に出てて不在だよ。連絡もないらしいし」
聴いていたハイは首を傾げる、トビィという人物ならば可能なのだろうか?
淡い期待を胸に抱きつつ、二人の会話を聞く。
溜息一つ、ハイに結論を語る。
「今は不在ですので。最近まで人間の凄腕のドラゴンナイトがいましてね、彼ならば可能でした。人間であるが故に、隊長にはなることが出来ませんでしたが、腕は確かです。僕も憧れてましたから」
「トビィとやらを呼び戻せ」
「行方不明で、居場所が掴めません。申し訳ありませんが大人しく港から舟で出発してくださいっ」
悲鳴に近い声で強引にハイをドラゴンの背に乗せると、不満そうに喚き散らすハイを無視してドラゴンが浮かび上がる。
暫し文句を言い続けていたハイだったが、初めての空中散歩に唖然と下を見下ろし、大人しくなる。
緑の木々が何処までも茂り、風になびいて大きく揺れる。
壮大で雄大な景色、言葉を忘れてハイは圧倒されていた。
流れる雲に見え隠れしている太陽、その光が眩しくて思わず瞳を閉じ。
木々の合間から突然見えた大きな湖に歓声を上げて、その透き通るような美しさに見惚れ。
次は海を見た、地平線の向こうにも続く広大な風景である。
初めての経験で暫し放心状態だったハイだが、我に返ると到着した港に唖然とする。
何処から湧いて出たのか魔族が溢れていた、何処を見ても、魔族だらけ。
ハイは知らなかったのだが、魔界で最も栄えている場所はここなのだ、故に多くの魔族たちが集まっている。
興味深そうに眺めるハイ、まだ昼間なのに酒の香りと陽気な歌声が聞こえてくる居酒屋。
新鮮な野菜を自慢げに売る店、妖しげな道具を売っている店、洋服を並べて褒めちぎって買わせている店。
そう、ハイは店を初めて見た。
神官だった頃も最近も、訪れる行商人から気に入ったものを買い取っているだけで、自身で店に出向いた事は今までなかった。
「はーい、船に乗るお客様はこちらに並んでくださいー! お名前とご住所の申告と、料金10マリをお支払いくださいね!」
一列に並んで船に行儀良く進んでいく魔族達に紛れ込むハイ、なるほど、こうして乗るのかと妙に納得。
「はいはい、次の方お名前をー」
元気な少年の声、耳に心地良いトーンだった。
ハイはそう問われて首を傾げる、名前はともかく住所なんて知らない。
「私はハイ・ラウ・シュリップ。住所は知らんがアレクの城の一室にいるよ」
笑顔が凍りつく、少年はもちろん周囲の魔族達も硬直した。
怪訝そうに瞳を細めてハイは少年を見下ろすが、微動だしない。
乾ききった唇をなんとか舌で湿らせて、恐る恐る声を張り上げた。
「えーっと。で、ではアナタ様はハイ・ラウ・シュリップ様ですか!? 」
「あぁ、そうだが何か?」
「2星ハンニバルから来た、魔王ハイ・ラウ・シュリップ様ですか!?」
「あぁ、そうだが何か?」
「ひ、ひええええええええええいいいいいいいっ!!」
順に皆がひれ伏していく、徐々にハイを中心にして広がる輪。
最初は少年、それから聞いていた周りの魔族達、噂が噂を呼んで波紋は続くよ何処までも。
唖然とその光景を見つめていたハイだが、我に返る。
「頭なぞ下げなくてもいい! そんな時間はないから、一刻も早く船を出せっ」
「わかりましたぁぁぁぁぁぁ!!!」
回復したハイは、一応客のリュウに機嫌悪そうに紅茶を差し出す。
大好きな鏡鑑賞を邪魔されたのだ、不機嫌にもなるだろう。
おまけにこの部屋には鏡がない、のでアサギの姿が観えないわけで。
形ばかりのもてなしを受けたリュウも、不服そうに唇を尖らせる。
甘党のリュウは、砂糖が入っていないその紅茶を渋々口に含んだ。
不満な待遇にリュウは眉を顰めるのだが、砂糖と茶菓子がない、ということだけではなかった。
ハイが先程から大事そうに抱いている人形、視線が釘付けになる。
重苦しい沈黙の後、ようやくリュウが切り出す。
「その人形・・・ハイが作ったの?」
「当然。可愛いだろう、触らせないからな。こう見えても幼い頃から裁縫は得意で」
いや、得意かどうかは訊いてないのだがっ、と心で叫ぶリュウ。
嫌悪感の瞳でリュウを睨みつけるハイ、その視線で人形を大事にしている度合いが判明した。
魔王ハイに真正面から凄まれる、原因が人形である事に頭痛しつつ。
「や、触らないから安心するのだ」
苦笑いでそう告げると、ハイは安堵して人形をぎゅう、と抱き締める。
呆然、怖いよ、ハイ。
本物に触れないから人の道を誤ったようだ、人形を愛でる事にしたのだろうか。
「今日は、ハイを助けようと思ってきたのだ。イイモノをわざわざ調達してやったんだから、感謝するように」
「イイモノ?」
助けてやる、とリュウに言われても胡散臭い。
アレクに言われれば喜んで聞き入れていたのだろうが、生憎相手はリュウだった。
俄かに信じられない、当然である。
親身になって考えてくれそうもない相手である、不機嫌な声で紅茶を啜りながら返答する。
「惚れ薬を持ってきたのだ」
「不要だ。そんな外道な物は使わない」
予想以上の即答に多少リュウはたじろいだ、明確に呟きのほほんと紅茶を啜っているハイを見つめつつ軽く仰け反って次の手を考える。
「ふーん。じゃあこれは? 媚薬、効果抜群」
ハイの目の前に小瓶を差し出す、中身は紫、毒々しいほどの紫。
軽く振ると、ねっとりとした感じの液体らしく、ゆっくりと動いた。
「びやく? なんだそれは?」
「え、知らないの? 口にすれば誰でも淫乱になってしまうという便利な代物なのだ」
先程の惚れ薬よりも性質が悪い物体である。
別にリュウの所持品で、毎回フル活用しているわけではなく、わざわざハイ用に取り寄せた媚薬。
特に男女の色恋ごとに興味のないリュウにとって、それこそこの薬は不要だ。
低く唸って軽く睨みつけるように自分を見てくるハイに、リュウは苛立ちを覚える。
「いいじゃん、魔王だから。奪っちゃえ。勇者をこれでモノにすればいいのだ」
「モノにするだなんて、そんなこと」
顔は赤らめずに、遺憾を憶えて唇を噛み締めるハイに、不服そうにリュウは頬を膨らませる。
「モノにしちゃえば、ハイが飽きるまで傍にいるよ」
「そんなことして傍に居て貰っても私は嬉しくないっ! あの子の意志で私の傍にいて欲しいと思う」
「でも、魔王と勇者だもん。無理だよ」
「私は、力でどうこうするのではなく、私自身を知ってもらって心を通わせたい。それが、『愛』というものであると思う」
「愛? いつから聖職者になったのだ、ハイ?」
「・・・もういい、帰ってくれ」
力なくリュウを見つめると、ハイは悔しそうに唇を噛み締め項垂れる。
精神的に疲労が激しい、魔王と勇者だなんて、他人に言われなくてもわかっていた。
おまけに、自分の口から『愛』なんて甘ったるい単語が飛び出た事にも激震。
更に聖職者と言われた事にも、動揺。
テーブルに突っ伏してそれ以上何も語ろうとしないハイに、深い溜息一つ零してリュウは部屋を後にする。
「これは・・・重症なのだー。手に負えないかも」
リュウは廊下の壁に持たれて、持参した小瓶たちを忌々しそうに見つめる。
まぁでも、ちょっと、楽しいかもしれない、かな。
ハイのあんな姿を見るのは初めてだった、余裕がなさ過ぎる。
翌日、噂を聞きつけて今度は魔王ミラボーがやってきた。
勇者を攫ってしまえばよい、と。
直接ハイが出向いて、魔界へ連れてこればいいのではないか、と。
「勇者を魔界へ連れて来い、と? 確かに逢いたいが・・・」
魔王自ら勇者をご招待、というのは如何なものか。
苦笑いするハイに、ミラボーは妙に親身になる。
「逢う方法はこれしかないのでは? 多少強引かもしれないが、そこはハイ、説得すれば良い。ハイ次第だ」
「うんうん。本当にハイがあの勇者のことを大事に思うのなら、説得すればいいんだよ」
いつの間にやらリュウも参加し、ミラボーに同意している。
勇者が魔界へ来るとしたら、魔王を倒しに来る時だけだろう。
それ以外にどんな用事があって訪れるものか。
「拒否されたら、耐えられない」
女々しい事を言い出したハイに、頭を抱えるミラボーとリュウ。
「攫ってしまえばいい、拒否されても強引に」
「うんうん、攫ってきてから説得すればいいのだー」
「そんな無茶苦茶な! 自害でもされたらどうすれば!?」
混乱と焦燥感、ハイは部屋をうろつきながら、頭を捻っている。
ええい、優柔不断な魔王め! 先日までの冷酷な威勢はどうしたんだ。
「ここで実行しないと、永遠に逢えない。というか、逢うとしたら決戦の場でになる」
「良く考えるんだ、説得が成功するかしないかはハイ次第なのだー。今が大事、まずは実行実行!」
必死に願ったら、勇者は快く魔界へ来てくれるだろうか?
敵意がないことを誠意を持って話せば、理解してくれるだろうか?
魔界へ連れてこれば、一緒に話が出来るし、散歩だって出来る。
全ては自分次第、自分の行動で運命が決まる。
ハイは徐に顔を上げると、決意の思いを宿した瞳で深く大きく頷いた。
腹をくくったらしい。
「・・・解った、私が出向いてみよう」
「そうかそうか、よく決意した! 早速行くがいい」
「ハイ、頑張れー」
ミラボーが嬉しそうに頷いて不気味な笑顔を浮かべた、これでも本人は心底喜んでいるらしい。
けれども、ハイは首を横に振った、怪訝に眉を潜めるミラボーとリュウ。
未だ何か問題が!?
「何故なのだー?」
釈然としないハイに微かな苛立ちを見せるリュウ、足を踏み鳴らす。
が、ハイは今まで誰にも見せなかった爽やか過ぎる笑顔を浮かべて、頬を赤く染めるとこう言い放った。
「あの子に部屋を一つ用意したい。衣装とか、家具も揃えて。・・・可愛いから、たくさん洋服を買ってあげたくて」
あ、そう。
リュウは項垂れて、勢い余ってやる気満々のハイをそっと見つめた。
物凄い勢いで部屋を飛び出し、アレクの元へと出向くハイを力なく見送る。
アレクに直談判し、ハイの隣の部屋を貰い受け、直様大掃除が始まった。
若い魔族の少女達を調査し、『あなたが憧れる住みたいお部屋』を造り出す。
洋服も流行のものを取り揃えた、あとはハイの趣味で何やら色々と買い足される。
ハイ監修の元、豪華で可愛らしい部屋が徐々に完成していった。
数日経過したが、ハイ的には満足だったようで人形を胸に抱きつつその完成した部屋を感激して見つめた。
「気に入ってくれると良いのだが」
もうすぐ、逢える。
人形を抱き締めて、感動に打ち震え。
嬉しくて堪らない、説得が成功してこの部屋に連れてきて、それで。
『ごらん、ここが君の部屋だよ』
『まぁ、なんて素敵なお部屋! 感激ですっ』
『いやいや、礼には及ばないよ。気に入って貰えたのなら十分だ』
『ハイ様・・・ありがとうございます、大好きっ』
『いやいや、そんな、あーっはっはっはっはっは・・・』
あーっはっはっは・・・
五月蝿いほどのハイの笑い声が部屋中に響き渡る、未だ作業をしていた数人の魔族が青褪めた顔でそっと部屋から出て行った。
鋭意妄想中のハイ、リュウすら声をかける事ができず、薄ら笑いを浮かべていた。
くるくると舞いながら、人形と踊るハイ、魔王の威厳、0。
あぁもう、この人ダメだ・・・。
頭を抱えて流石のリュウも何もかも放り出したくなった、テンションが高すぎてついていけない。
「ハイ、ハイ。いい加減迎えに行かなくていいのー? 主役がいないよ、この部屋に」
絶賛妄想中、大声で叫ぶリュウに、ハイはようやく我に返る。
照れ笑いを浮かべて、ふふふ、と含み笑い。
「よし、では準備も整った事だし出向こうか」
「いってらっしゃーい」
高笑いを残してハイは城を後にした、さぁ、勇者を迎えに行こうか!
けれども。
「・・・」
城から出て数歩、何処へ行けばよいのかわからない事に気がついたハイ。
この城から出るのも初めてだった、この星の地理を全く知らない。
慌てて頼みの綱のアレクの部屋へと出向いたのだが、生憎留守である。
仕方ないので渋々リュウの元へと戻ったのだが、「自分で頑張れー」と笑顔で追い返された。
廻り廻ってミラボーを尋ねるハイ、リュウに対しての文句をぶつぶつと声に出しながら歩いた。
ミラボーの部屋は妙に湿気が多い上に、日光が入っていないので正直苦手な場所である。
が、今は一大事だ、それどころではない。
快く地図と宝石を数個手渡されて、簡単な説明を受けた。
「城の屋上に『港行きドラゴン乗り場』があるから、それに乗ってまずは港へ。そこから人間の街『ジェノヴァ』行きの船が出ている。勇者達もジェノヴァを目指しているようだし、そこで出遭えるはずだ」
「そうか、ありがとう。助かる」
親切にしてもらって、はにかみながら会釈するハイ。
部屋を飛び出し屋上へと向かう、踝までも覆い隠すハイの衣服が初めて邪魔だと思った。
上手く走る事が出来ず、裾を引っ張り上げて真剣な面持ちで駆け抜ける。
屋上に飛び出し、港へ行きたいことを告げると魔王なだけあって直様一体のドラゴンが用意された。
まだ若いドラゴンナイトが緊張した様子で、硬直気味に手を差し伸べる。
貧乏くじを引いたらしい、何が哀しくて魔王を送り届けなければいけないのか。
「このドラゴンで私はジェノヴァという場所まで連れて行ってくれないか?」
「む、無茶言わないでくださいよ! 僕とこのドラゴンでは長距離の飛行が出来ません。精々この魔界の一周が出来るくらいです」
「なんだ、役に立たないではないか」
「うぅ・・・。ぼ、僕はまだ未熟なので。隊長クラスのドラゴンナイトならば可能でしょうけど・・・。そもそも、このドラゴンとて長距離の移動は不可能です。互いが信頼しあった真のドラゴンナイトと相棒のドラゴンでないと、あんな場所へは」
「では、隊長クラスのドラゴンナイトとやらを出せ」
「い、今不在なんですっ。あー・・・」
困り果て嫌な汗をかいている若いドラゴンナイト、隣にいて気の毒そうに自分を見ていた同僚に思わず声をかける。
こっちへ振るな、と後退りする同僚。
「トビィは? 今何処に居るっけ?」
「トビィはこの間から旅に出てて不在だよ。連絡もないらしいし」
聴いていたハイは首を傾げる、トビィという人物ならば可能なのだろうか?
淡い期待を胸に抱きつつ、二人の会話を聞く。
溜息一つ、ハイに結論を語る。
「今は不在ですので。最近まで人間の凄腕のドラゴンナイトがいましてね、彼ならば可能でした。人間であるが故に、隊長にはなることが出来ませんでしたが、腕は確かです。僕も憧れてましたから」
「トビィとやらを呼び戻せ」
「行方不明で、居場所が掴めません。申し訳ありませんが大人しく港から舟で出発してくださいっ」
悲鳴に近い声で強引にハイをドラゴンの背に乗せると、不満そうに喚き散らすハイを無視してドラゴンが浮かび上がる。
暫し文句を言い続けていたハイだったが、初めての空中散歩に唖然と下を見下ろし、大人しくなる。
緑の木々が何処までも茂り、風になびいて大きく揺れる。
壮大で雄大な景色、言葉を忘れてハイは圧倒されていた。
流れる雲に見え隠れしている太陽、その光が眩しくて思わず瞳を閉じ。
木々の合間から突然見えた大きな湖に歓声を上げて、その透き通るような美しさに見惚れ。
次は海を見た、地平線の向こうにも続く広大な風景である。
初めての経験で暫し放心状態だったハイだが、我に返ると到着した港に唖然とする。
何処から湧いて出たのか魔族が溢れていた、何処を見ても、魔族だらけ。
ハイは知らなかったのだが、魔界で最も栄えている場所はここなのだ、故に多くの魔族たちが集まっている。
興味深そうに眺めるハイ、まだ昼間なのに酒の香りと陽気な歌声が聞こえてくる居酒屋。
新鮮な野菜を自慢げに売る店、妖しげな道具を売っている店、洋服を並べて褒めちぎって買わせている店。
そう、ハイは店を初めて見た。
神官だった頃も最近も、訪れる行商人から気に入ったものを買い取っているだけで、自身で店に出向いた事は今までなかった。
「はーい、船に乗るお客様はこちらに並んでくださいー! お名前とご住所の申告と、料金10マリをお支払いくださいね!」
一列に並んで船に行儀良く進んでいく魔族達に紛れ込むハイ、なるほど、こうして乗るのかと妙に納得。
「はいはい、次の方お名前をー」
元気な少年の声、耳に心地良いトーンだった。
ハイはそう問われて首を傾げる、名前はともかく住所なんて知らない。
「私はハイ・ラウ・シュリップ。住所は知らんがアレクの城の一室にいるよ」
笑顔が凍りつく、少年はもちろん周囲の魔族達も硬直した。
怪訝そうに瞳を細めてハイは少年を見下ろすが、微動だしない。
乾ききった唇をなんとか舌で湿らせて、恐る恐る声を張り上げた。
「えーっと。で、ではアナタ様はハイ・ラウ・シュリップ様ですか!? 」
「あぁ、そうだが何か?」
「2星ハンニバルから来た、魔王ハイ・ラウ・シュリップ様ですか!?」
「あぁ、そうだが何か?」
「ひ、ひええええええええええいいいいいいいっ!!」
順に皆がひれ伏していく、徐々にハイを中心にして広がる輪。
最初は少年、それから聞いていた周りの魔族達、噂が噂を呼んで波紋は続くよ何処までも。
唖然とその光景を見つめていたハイだが、我に返る。
「頭なぞ下げなくてもいい! そんな時間はないから、一刻も早く船を出せっ」
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