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入ってすぐ、右側の『馬車一時預かり所』にて申請を行い、ここで滞在期間によって料金は異なるが馬の飼育に体調管理、馬車の補修などを行ってもらう。
一向は馬車から降りると大きく伸びをした、窮屈だったので身体が小さく悲鳴を上げる。
個々に屈伸を行い、徐々に身体を慣らしていった。
「まずは食事にしようか。そこで今後の予定を手短に話す」
ライアンの発言に大きく同意する一向、マダーニが行きつけの店があるとのことで、そこへ出向く事にした。
歩きながら呆けるアサギとユキ。
そこは見て恋焦がれた外国の場景、よく二人は旅行会社の店に置いてある海外旅行のパンフレットを持ち帰っては二人で眺めていた。
大きくなったら旅行へ行こう、という子供ながらの約束事である。
その憧れた風景が目の前にあるのだ、興奮しないわけがない。
荷馬車で果物を売るおじさん、お洒落な感じだ。
篭に入れた花を売り歩く娘、日本にはいない。
はしゃぎながら進むアサギとユキを、慌ててトビィが捕まえた。
人通りも多い、はぐれでもしたらその時点で終わりだ、この世界に迷子放送などない。
トビィと手を繋ぎながら、マダーニを先頭に一向は歩き続けた。
やがて噴水が見えてきた、石畳の大通りから幾つもの中通りへの道が枝分かれしている。
洋服屋に、武器屋、防具屋、道具屋、宝石店、宿屋、雑貨屋、時折カフェらしき店。
大通りを真っ直ぐ突き進むと、城へと到着出来るのだが、その途中に巨大な公園が広がっていた。
道行く人々は皆忙しそうだが、活気に溢れており笑顔が多い。
人ごみを掻き分けて、一向は進み続ける。
「こらー、マダーニ! 何処まで行くつもりだ」
只管進み続けるマダーニに、ライアンが呆れ気味に声をかける。
「もー、何処でもいいから何か食べさせてくれ」
ケンイチと手を繋ぎながら、ミノルが情けない声を出していた。
今は公園通りを歩いている、立ち並ぶ露店からは美味しそうな香りが漂ってきており、空腹を刺激した。
情けないほど腹の虫が叫んでいるのだ、それはミノルだけではない。
そんな必死の訴えに気づく事もなく、マダーニは足を止めない。
「うにゃー・・・美味しそう」
通り過ぎつつも、気になって見てしまう屋台、アサギはついふらふらとそちらに行ってしまいそうだった。
魚を串で刺し、焼いている店のおじさんは気が良さそうだ。
パンに秘伝のたれ(と、店ののれんに書いてある)で焼いた肉と野菜を挟み込んだものを売っているおばさん。
「この街は海に面しているし、地は肥えているし。様々なものが新鮮なまま手に入るから美味しいと思うよ」
丁寧にトビィがアサギに食べ物の説明をしている、後方で聞きつつ不貞腐れるサマルト。
「くっそー、オレだってクレオ出身なら、アサギに詳しく説明出来たのに」
「といいますか、何故彼はああも容易くアサギの手を握って歩いているのでしょうね。そもそも彼は何者ですか。信頼出来る人物ですか?」
忌々しそうにアーサーが吐き棄てる、鋭い視線で睨みつけるが負け犬の遠吠えである。
今更な疑問だ、馬車内でトビィに様々な質問をぶつければ良かったのだが、生憎口を聞くのにも嫌悪を感じたアーサーはトビィと接していなかった。
トビィとて、訊かれたところで安易に答えなかっただろうが。
公園から外れて、一本中に入っていくとようやくマダーニが前方で立ち止まった。
安堵の溜息を漏らす一行に、怒鳴り声に近い声を出すマダーニ。
「こらー! 早く来なさいよね、お腹空いてるのっ」
連れまわしたマダーニに、同じ言葉を繰り返したかった一行だがもはやそんな気力もなく、渋々店の中に連れ立って入っていく。
が、店構えを見て途端にライアンが表情を変えて、慌ててマダーニの腕を引っ張った。
「待て待て、なんか高そうな店だぞ!? あまり所持金ないからな!?」
妙に立派な造りだ、品が良さそうなのは分かるのだが裕福な旅をしているわけではない。
「大丈夫、顔見知りの店だから負けてもらう。ついでに、思っているより高くないのよ」
ホントかよっ、と突っ込みを入れたくなるライアンだったが背中を押されて店の中に足を踏み入れた。
店内は昼食時を過ぎていた為、比較的空いていた。
店内の一番奥、一行用に何個かのテーブルを繋げて貰う。
ガタガタと音を立てて座り出す、アサギの両隣と正面が取り合いになったわけだが、隣をトビィとユキが確保し、正面にアリナが座り込む。
トビィはアサギの椅子を引くと、笑みを浮かべて座るように促した。
椅子を引いてもらうなんて、家族で食べに行ったフランス料理屋以外なかったので、思わずアサギは赤面する。
「えーっと、ありがとうございます」
「いえ、お構いなく」
気障な奴、とミノルは顔を顰めるのだが、照れながらも嬉しそうなアサギに腹が立った。
・・・女ってのは、どーして甘ったるい奴が好きなんだろうな。
小声で呟くミノル。
多少暗めの店内、壁に飾られている絵画と花が美しい。
観葉植物も並んでおり、居心地の良い場所だった。
厨房から漂ってくる香りが、また空腹に堪える。
暫くするとメニューと共に店員が衝立を運んできて、一行を覆い隠した。
「ね、こんな感じで周囲から孤立してもらえるの。いいでしょ?」
マダーニが耳打ちし、ライアンが成程、と低く唸った。
これならば周囲の目を気にする事無く会話が出来る、それでマダーニはこの店を指摘したのだ。
上機嫌でマダーニはメニューを開くと、慣れているのも手伝って間を擱かずに注文した。
何冊かのメニューを数人で見つめる、勇者達も挙って真剣に見ていた。
何しろ、クレオへ来てからまともな料理は洞窟へ入る前のスープと、この間のキャンプでのパスタのみなのだ。
育ち盛りの子供達、食料に裕福な日本で生まれた小学生にとって、それは苦痛な毎日だった。
メニューを開いて、何を食べようか胸を躍らせていたのだが。
「なんじゃこりゃー! こんな文字読めるかぁっ!」
仲良くメニューを見つめていたミノルとトモハルが、同時に声を張り上げる。
ダイキとケンイチ、ユキもまた然り、項垂れている。
「えぇ!? あなた達、魔導書読んでたでしょ? 同じ字よ」
怪訝に眉を潜めるマダーニ、だがムーンが顔を上げて溜息を吐いた。
「・・・多分あの魔導書は、どの星から勇者が来ても良い様に、手に取った者が読める文字で書かれているような、そんな何かしらの呪文がかけられているのだと思います。私もこのメニューは読む事が出来ません」
「そのようですね、私もムーン殿に同じです」
アーサーも同意する、唖然とマダーニがメニューを見つめた。
「なんていうか、言葉が通じて良かったわよね・・・」
「いや、ホントだな・・・」
引き攣った笑いを浮かべる一行、静まり返る。
読めない他星のメンバーの為、メニューを読み上げていくマダーニだったが、思わぬ人物がそこにいた。
「これは・・・お魚ですか?」
「そう。近海で獲れる白身魚だな。淡白で美味しい」
「では、これは・・・?」
「あぁ、地鶏だ。バターとガーリックで炒めた料理だな、食欲がそそられるね」
「えーっと、どれもこれも美味しそうで迷ってしまうので・・・。トビィさんに決めてもらおうかな、って」
「なら、二人で食べようか? そうだな、オレの見立てになるけど気に入ってもらえるように選択しよう」
トビィとアサギの会話である、隣でユキが苦笑いでそのやり取りを見ていた。
「・・・アサギちゃんには読めるみたいだよ」
完璧ではないが、なんとなく分かるらしいアサギ、勇者達は静まり返るしかない。
何故、どうしてアサギだけ?
と、そんなことを考えても仕方がないので適当に皆注文する。
勇者達はマダーニに読み上げてもらっていたメニューの中から、トモハルとユキに全権を託し届くのを待つ事にした。
トモハルは以前からイカスミを食べたいと思っていたらしく、ユキと相談した結果イカスミパエリアを注文。
「パエリアって何?」
「えと、スペイン料理で、平たく言えばチャーハンみたいな感じかな」
首を傾げていたミノルに、ユキが返答する。
待ちわびる事数十分、勇者達の目の前に真っ黒いご飯が届けられる。
近海・ガボン海で今朝方水揚げされたばかりの烏賊をメインに、ニンニク、唐辛子、塩胡椒で味付けされたシンプルなパエリアだ。
あまりに黒すぎて口に入れるのを躊躇ったミノルだが、一口食べて隣のケンイチと瞳を輝かせる。
「う、うまいっ! イカスミすっげー!」
他にトマトの冷たいスープ、パンも出てきて勇者達は上機嫌である。
がつがつと食い散らす勇者達に、満足そうにマダーニは胸を撫で下ろした。
上機嫌で優雅にスープを口に運ぶユキの傍らで、アサギはトビィと仲良く食べている。
海老のサラダに、牛肉の炭火焼、アーモンドを挽いて粉にし砂糖と練り上げて焼いたパンのようなもの、ジャガイモの冷製スープ、おまけでワイン。
とても数日前が初対面とは思えない仲の良さである、楽しそうに談笑しながらトビィが小皿に手早く取り分けていた。
「このワインが結構いける。何度か呑んだ事があるんだ」
「ワイン、私呑んでも大丈夫なのかな・・・」
「度を越さなければ大丈夫。少量ならば身体に良い薬みたいなものだよ。呑んでごらん」
この男、アサギにワインを呑ませて酔わせて何処かへ連れ去る気じゃないだろうな!?
血の気が引いた一行だが、そんな気はトビィに全くなかった。
「とりあえず、食べながらで良いから今後の計画を聞いてくれないか? 実は所持金がないんだ」
言うライアンの前にずらりと並んでいる食事。
ハーブ入りオムレツ、ジャガイモとニンジンのスープに、玄米パンの蜂蜜添え、おまけに鴨のソテーバルサミコソースにて。
所持金がないと連呼する割りには結構注文していたので、マダーニは盛大に吹き出した。
「私は国王から資金を頂いております。どうぞ」
アーサーが懐から金貨を五枚取り出して、ライアンの前へと置いた。
ただ、通貨が違う為役に立つがどうかが些か不安である。
「一応宝石を持参したんだけど・・・」
サマルトが腰に下げていた皮袋に手を入れる、触ったものを手にとってライアンの前へと置いた。
エメラルドと、ルビーだろうか? 換金すれば結構な額になりそうだった。
当然勇者達は何も持っていない、売り払えるものがあるとすれば、地球産の衣服くらいだ。
「あー、情けなくて申し訳ないんだが、こちらは」
ライアン、ジョリロシャからの長旅でほぼ底をついた。
アリナ、ブジャタ、クラフトにおいては、管理していたブジャタの目を盗んでアリナが使用していたらしく底をつきつつある。
マダーニ、ミシアは、マダーニの酒代へと消えていった・・・らしい。
「かたじけない」
平謝りしてライアンはアーサー達に礼を述べた、まさか資金不足で旅が出来ないでは洒落にならない。
「この店を出てからは、別れて行動する事になる。オレとトビィ君で宿の手配を。マダーニはアサギとユキと共に衣服の買出しだ、流石にその服装は目立つ。クラフトと共にトモハル、ダイキ、ケンイチ、ミノルも衣服の買出しな。ミシアとムーンとアーサーで、ここに書き出してある道具を買い揃えてくれないだろうか? それ以外に必要な物を思いついたらその都度購入を。アリナとサマルトで船を調べてきて欲しい、ジョアン行きかコスルプ行きが近日出航予定かどうかを。ブジャタさんは、クリストバル行きのあの洞窟について役所に報告を。結界を直して貰うべきだと思うからな」
一人一人の顔を確認しながらゆっくりと説明していくライアンに、視線が合った者は順に神妙に頷いていった。
「了解、時間が余ったら資金調達にでも出掛けようかな。ところで集合場所と時間は?」
アリナがサマルトと頷き合い、ライアンに向き直るとそう問う。
皆も耳を澄ます、それが一番重要だろう。
「ジェノヴァでは18時に鐘が鳴り響く、その時間に先程の門を入ってすぐの噴水で落ち合おう。街の至る箇所に日時計が設置されているから、それも目安にしてくれ。四時間くらいはあると思う」
この振り分けはソツがなかった、必ずクレオ出身の者が一人はついているので迷子になることもないだろう。
席を立つ一行、暫しの別れになるのでトビィはそっとアサギの髪に口付けた。
その時間すら惜しむように、出来れば引率したいくらいなのだから。
会計ではマダーニが店長を呼び出し、無理やり値切っていた。
「お待たせ、アサギちゃん、ユキちゃん。行きましょうか」
泣き喚く店長に、余裕の笑みを見せて立ち去るマダーニ、手を繋いで貰って三人は歩き出す。
洋服屋の立ち並ぶ路地へと到着し、一通り店先に飾ってある衣服を眺めながら気に入ったものを捜す。
現在は勇者達、クリストバルで頂いたマントを羽織って地球の衣服を隠しているのだが、ずっとこれを着ているわけにもいかない。
一応簡単な服はクリストバルでも貰えたのだが、やはり上等な布でもないので耐久性がないのだ。
「気に入ったのがあったら手に取るのよ?」
「はいっ。わー、どれもこれも可愛いね」
「うん、コスプレみたいだね!」
はしゃぎながら歩く二人を見て、マダーニは微笑むのだが、不意に表情が翳った。
何故、このような幼い少女が勇者に?
確かに魔法を数日で使いこなす事が出来るのだから、勇者の素質があるのだろう。
けれども、腑に落ちない点は幾つか残った。
ぼんやりと歩きながら、不意にマダーニは妙な視線を感じて唇を噛む。
二人の勇者に悟られないように、注意深くさり気無く、辺りを見回した。
先程から幾多の視線は感じていたのだ、それは知っているし当然だ。
何しろ人目を引く美女と美少女が二人いるのだから、女達からは軽い嫉妬と羨望の眼差し、男達からは邪な視線と興味の眼差しを受ける。
他人の視線は刺激的でマダーニは好きだった、何故ならば自分がどう見られているのか感じて今後に役立てるからである。
下心のある男からの絡みつくような視線は鬱陶しいのだが、それすらも自分が魅力的だからであり。
度を過ぎると、得意の魔法と小剣捌きでその男を懲らしめた。
マダーニは自分が大好きだった、他人に媚びない自分が、やりたい様に行動する自分が、楽しい事を見つける自分が。
自由気ままに過ごしたかったが、母親殺しの件だけは許す事が出来ない。
例え生活が豹変する事になろうとも、マダーニは敵を討つと心に決めたのだ。
相手が誰なのか、今はまだ全く分からないが徐々に判明していくだろう。
怯む事はない、突き進むだけだ。
思い出して唇を噛み締めたマダーニ、けれども我に返る。
そう、奇妙な視線が先程から着いて来ているのだ。
誰? 何処のどいつだ?
顔を動かさずに瞳を動かして捜すが、後方までは当然の事だが瞳は動かない。
アサギとユキは一つの店先に留まって、二人して楽しそうに洋服選びをしている。
安堵し、微かに笑みを浮かべたマダーニ、力を抜いたその瞬間に、突如フードを深く被った者が現れた。
突然すぎて声が出なければ、小剣へと手を伸ばす事も出来ず、まして攻撃態勢などとれやしない。
「あなたの連れのあの少女、何者ですか」
「あんたね、さっきから妙な視線投げかけていたのは。あんたこそ、何者?」
人が行きかう通り、強がって額に汗を浮かべながらマダーニは言葉を吐き棄てる。
「そうですね、彼女を見ていました。気になったので。・・・私達の捜しているお方かと思ったのです」
声から相手が男だという事が判明した、気配が上手く読み取れない事から凡人ではない。
敵なのか、味方なのか、それすらも分からないが『勇者』を捜していたのだろうか、と軽く気を緩めた。
けれども、まず表情を隠している時点で信用ならなかったマダーニは、背の後ろで魔法の詠唱をする為に手で印を結ぶ。
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